「うぇ〜・・・なに書いたらいいのかぜんぜんわかんないよぉ〜・・・」

私が自分の部屋から下の階に向かおうとしてる時、うっすらとドアが開いている雛子ちゃんの部屋からそんな声が出てきた。
ドアの隙間から見える雛子ちゃんの部屋の中には雛子ちゃんだけでなく可憐ちゃんの姿も見えた。

「何してるの?」
「あ、咲耶ちゃん」

雛子ちゃんの困った声と可憐ちゃんが雛子ちゃんの部屋に居る事が多少は気になったので
私は部屋の中に顔を出し聞いてみる事にした。
するとまずは可憐ちゃんがこう答えた。

「雛子ちゃん、昨日作文の宿題が出たんだって」
「作文?」
「うん・・・『将来の夢』だって・・・」

雛子ちゃんが元気の無い声で答える。
普段が元気良いだけによっぽど苦労してるんだという事が伝わってくる。

「『将来の夢』、ねぇ・・・」











咲耶ちゃんが作文を見つけました














「・・・そう言えば私も、雛子ちゃんぐらいの歳の時その題材で書かされたっけ」

少し昔を思い出し、しみじみしながらそう言った。

「そうなの?」
「そう言えば可憐もそうだったな」
「ふぅ〜ん・・・みんな苦労してんだねぇ・・・」

そう言う雛子ちゃんはちょっと老いて見えた・・・。
雛子ちゃん、アナタはいくつですか?

「あ、そうだ!」

雛子ちゃんがなにか閃いたのか握り拳にした右手で横に広げた左手をポンと叩く仕草をした。

「ねぇねぇ、可憐ちゃんと咲耶ちゃんの作文みせて!」
「「え!?」」
「ふたりとも作文書いたんでしょ?」
「え、ええ・・・」
「まあ・・・」
「だからふたりの作文をサンコウにするの!」
「え? ああ、そう言う事」
「それにね、ヒナ、二人がどんな事書いたのかしりたいなぁ」

雛子ちゃんが付け足すようにそう言った。

「まあ、それはいいかも―――」
「だ、ダメッ!!」

いいかもしれない、そう言おうとした私の言葉を可憐ちゃんが遮り否定した。

「え、なんで?」
「な、なんでって・・・その・・・・・・と、とにかくダメなものはダメなの!」

可憐ちゃんは何故か真っ赤になって必死に嫌がる。
自分の作文を見られるのがよっぽど恥ずかしいのかしら?

「まあいいわ。 じゃあ参考にするのは私のだけって事で。
 それなら良いわよね? 可憐ちゃん」
「はい、それなら・・・」
「雛子ちゃんも、それでいいでしょ?」
「えぇ〜!? ヒナ、可憐ちゃんのも見てみたかったなぁ〜」
「ワガママ言わないの! 可憐ちゃんは嫌がってるんだから!」

私がそう言うと雛子ちゃんは両方の頬っぺたを膨らませて不機嫌そうに
「う〜」とも「ぶ〜」とも取れない中途半端な唸り声を上げてた。

「返事は?」
「・・・はぁ〜い」

多少納得はいってないものの、雛子ちゃんはそれで了解してくれた。

「よろしい。 じゃ、後で探しとくからね」
「えぇ〜っ! 今すぐにじゃないの〜!?」
「あら? じゃあ雛子ちゃんは晩御飯いらないのかしら?」

そう言って私は時計を親指で軽く指差した。
私が指差した時計の時刻は既に夕食の時間を示していた。

「あ、もう晩御飯の時間だったんだ」
「そうよ、だからいいわよね?」

今私が下の階に向かってたのは、お腹が空いてちょうど時刻もその位を指していたからだ。

「でもぉ〜・・・」

どうやら雛子ちゃんは今すぐ見たい様で、渋る様にそう言う。
悪いけど私は今お腹が空いてるのよ!
仕方ない・・・

「・・・可憐ちゃん、白雪ちゃんは今日の晩御飯なんだって言ってた?」
「え? 確かハンバーグだって・・・」

ハンバーグか・・・。
なんかいかにも子供が好きそうな物ね。
けど・・・

「ハンバーグ!!?」

相手は子供なので効果は抜群!

「じゃ、下行きましょうか?」
「うん!」

そう言って雛子ちゃんはいつも通りのニコニコした顔に戻った。
こんな可愛い雛子ちゃんを見てるとつくづく思う・・・

(・・・子供ってほんと単純ねぇ・・・)






でも、可憐ちゃん、どうしてそんなに嫌がったのかしら・・・?
























「はい、鈴凛ちゃん。 あーん、して下さい」
「・・・あーん・・・ムグムグ・・・」



「・・・・・・これは一体どう言う事?」

今私の目には二人の妹が映っている。
病弱でメガネを掛けてる優しい女の子といつもいつも怪しい機械を発明する金食い虫の二人だ。
名はそれぞれ鞠絵、鈴凛と言う。
この二人は最近なんだか仲が良い。
ほんと・・・仲が良い・・・

だからってこれは良すぎでないのかい?

片方がもう片方にご飯を食べさせてる・・・
なんだこの『新婚さんいらっしゃい』は!?
えっ? つまりこれはアレか?
“アレ”なのか?

「鈴凛ちゃん・・・手、どうかしたんですか?」
「ハイデス、機械に挟んでしまったんデス」

二人は既に禁断の―――・・・って、『手』?

可憐ちゃんが質問する声が耳に入った私は、自分の視線を鈴凛ちゃんの手に向けた。

「・・・・・・家に“某ネコ型ロボット”が居る・・・」

思わずそう呟いた。
彼女の両手は白い球体状のものに進化・・・いや、退化して・・・でもなくて包帯がグルグル巻きにされてたのだ。

「機械に挟んだって・・・大丈夫なんですか?」
「ハイデス、鞠絵ちゃんがしばらくは使えないけど大丈夫と言ってマシタよ」

ああ、つまり鈴凛ちゃんが怪我してしばらく両手が使えなくなったから鞠絵ちゃんが食べさせてあげてる訳だ。
だから決して“そう言う事”じゃない訳ね。

まったく・・・
あたしゃ最近この二人が抱き合ったり二人きりで映画に行きたがったりを見てる所為でヘンな妄想をしちまいましたよ。(←誰だアンタ)






ま・・・、その妄想の原因の大半は私に、そして可憐ちゃんに在ったりするんだけど・・・。

私は自分の思考の最後にそうつけ加えて、可憐ちゃんに視線を移した・・・。






だって・・・私達が“そう”なんだもの・・・。









私と可憐は姉と妹という関係でありながら愛し合っている。
 家族愛、姉妹愛をはるかに超えた感情で・・・。
 私は可憐を、可憐は私を、お互いがお互いを求め合う・・・

例えこの想いがこの世界が生まれた時からの禁忌であり、
 神が禁じた行為であっても、
 私の想いには敵わないわ・・・!

それに神が如何したっていうの?
 禁忌が如何したっていうの?

女同士、 血の繋がり、 そんなもの・・・私達の愛の前にはなんの意味もないわ・・・!

「・・・・・・」

私は可憐を愛する・・・ただ・・・それだけよ・・・

「・・・ねえ」

フフフ・・・愛しているわ・・・・・・可憐・・・

「・・・ちょっと・・・!」

二人で何処までも・・・堕ちていきま―――






    ドガぁッ


「・・・・・・痛いじゃないか・・・」

私は私の後ろで「私と可憐は姉と妹という・・・」辺りから勝手にナレーションをやっていた千影をドツいた。
しかも器用に“「」”を反転させて。(やってみましょう)

「アンタは何勝手にやってるのよ?」
「何って・・・・・・君の心の声を代わりに・・・」


    バコッ


「・・・・・・痛いじゃないか・・・」
「みんなが聞いたらどうなると思ってるのよ!?」
「ただの・・・・・・冗談だろう・・・?」

千影はそう言うが・・・実は冗談じゃないから困る。

前に千影は私を騙し、可憐ちゃんにキスする寸前にまでに追いやった事があった。
それ以来千影は私が可憐ちゃんに気があるとからかう。

しかし、実はそれ、可憐ちゃんが真の主謀者で私達は本当にキスまでいってしまい、
しかもその時に私は・・・まあ・・・その手の道に目覚めちゃった訳で・・・
それで私と可憐ちゃんが付き合ってるのは事実だったりする。
そして千影はその事を知らないし、あの時可憐ちゃんに手駒にされた事すら気づいていない。
まあ、気づかれたら私達は大変な事になるんだけど・・・。

「それに・・・・・・みんなあっちに目が行ってるから・・・・・・大丈夫さ・・・」

なんて考えてたら千影がそう言ってきた。
千影を見てみると視線だけでらぶらぶ新婚カップル・・・じゃなくて鈴凛ちゃんとそれを手厚く介護する鞠絵ちゃんを指していた。
・・・まあ確かに・・・。

「でも誰かに聞かれてそれでからかう人間が増えるのは勘弁して欲しいのよね・・・」

事実なだけにそこからバレるかもしれないから。
と言うよりいちいちツッコムのが疲れたから。

「そうか・・・・・・でも・・・」
「でも?」
「最近は・・・・・・そうなった方が君が面白い反応をするかな、と・・・・・・思ってるんだ。 別に困るのは・・・・・・私じゃないし・・・」
「潰すわよッ!」
「一体・・・・・・何を・・・?  ・・・と言うか・・・・・・なんで君は手をチョキに・・・―――」


    シュッ シュッ シュッ


「危ない! 危ない! 危ないって!!」(←千影)












「次はどれがいいですか?」
「じゃあニンジン・・・」
「分かりました。 はい」
「あーん・・・」

依然鈴凛ちゃんを懸命に看護する鞠絵ちゃん。

「うわぁ〜」

そんな様子を見た花穂ちゃんが真っ赤になってそんな声を上げる。

「アツアツですね・・・」

それに続くように可憐ちゃんがそう言う。
私が更にそれに続けて「女の子同士で?」と口走った。
まさか。
私と可憐ちゃんじゃあるまいし。

・・・・・・。

・・・その割に私達よりらぶらぶに見えるのは何故?

あの二人はただの姉妹のはずなのに・・・、
いくら隠してるとは言え仮にも本当の恋人同士である私達よりも・・・。

・・・なんか悔しくなってきた・・・。

なんで恋人同士でもないこの二人はこんなにもアツアツで・・・、
本当に付き合っている私達は普通に食べて・・・、
・・・なんて羨ましい・・・!

怪我したから?
怪我したからこんなみんなの前でイチャイチャできるの!?

「鈴凛ちゃんと鞠絵ちゃん・・・」

雛子ちゃんがなんか言い始めた。

「なんだか新婚さんみたい・・・」

なッ!!


    ブゥゥゥッッ


・・・・・・。

・・・鈴凛ちゃんによく噛み砕かれたニンジンをぶっ掛けられた・・・。
雛子ちゃんの台詞に驚いたのは分かるけど・・・なんで私がこんな目に・・・。
それに雛子ちゃんも雛子ちゃんよ!
私達を差し置いてこの二人に新婚さんだなんて・・・。

ああ、私も可憐ちゃんと組でそう言われたいッ!!
でもそうなったらバレて大変な事になるってのッ!!
ああ、でも・・・
・・・・・・
・・・私達は必死で隠しながらも付き合ってるって言うのに・・・。
なのに・・・なのに・・・恋人同士でもないアンタ等はこんなに堂々とらぶらぶで・・・!

「り〜んり〜んちゃ〜ん」

赦せんッ!!

「なんて事してくれたのよーっ!!」
「ご、ゴメーン!!」

私はニンジンをぶっ掛けられた事に見せかけてそれ以外の怒りを込め、鈴凛ちゃんに裁きの鉄槌(←過剰評価)を下した。
























鈴凛ちゃんに裁きの鉄槌(←過剰評価)を下した私は、納得がいかないながらも夕食を終え居間でテレビを見ていた。

「う〜ん・・・」
「どうしたの? 雛子ちゃん・・・」
「あ、亞里亞ちゃん。 あのね、ヒナ、な〜んか忘れてるような気が・・・」
「ドわすれなの?」

どうやら雛子ちゃんは見事作文の事を忘れたようだ。
ま、今はテレビを見ていたいからこのままでいいわ。
それに後でちゃんと作文は探して持って行ってあげるから。

『はい、ア・ナ・タv あ〜んv』
『あ〜んv』

・・・・・・。

テレビまで私に見せ付けるのかッ!?

向こうではまだあのらぶらぶ新婚カップル(あーっ! なんかそう頭の中で冗談を言うだけでも腹が立つ!)はテーブルでご飯を食べてる。
鈴凛ちゃんは食べさせてもらっているからどうしても遅くなるし、
鞠絵ちゃんはそんな鈴凛ちゃんに構ってばかりだからごはんに手も付けていないはず。
だから遅くなるのは仕方が無い・・・仕方が無いけど・・・気にいらねェッ!!
ああ、もう!
私も可憐ちゃんに食べさせてもらいたいッ!
二人きりで食事して・・・!
どうせなら可憐ちゃんの手作りで・・・
それで・・・

・・・・・・


・・・・・・



・・・・・・






『はい、咲耶ちゃん、次はタコさんウィンナーですよ』
『あ〜ん・・・』
『・・・美味しいですか?』
『美味しいわ可憐(←呼び捨て)、最高よ』
『ほんと! 良かったぁ』
『なに言ってるの? 美味しいのは当然じゃない』
『え?』
『だって可憐(←呼び捨て)の私を想う気持ちがこもってるのよ、美味しくない訳ないじゃない』
『え!? そ、そんな・・・』
『ふふふ・・・ありがと、可憐(←呼び捨て)・・・』
『咲耶ちゃん・・・』
『可憐(←呼び捨て)・・・』






「なーーーーーーーーーーーーッ!!!!?!?」
「ってうわぁぁああぁぁッ」

突然の鈴凛ちゃんの叫び声で急に現実に戻された。
なんて事・・・せっかくもう少しで可憐の唇が私に・・・
大体なに叫んでるのよあの子は・・・!?
もう、早く続きよ! 続き!

・・・・・・


・・・・・・



・・・・・・






『さ―
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!」
「うるさい!! 今、(妄想が)良いところなんだから静かにしてッ!!」

あんにゃろう、私の妄想まで邪魔するのか・・・?
小遣い減らすぞ!(←金銭管理をしているのは長女の私だから&職権乱用)

「咲耶ちゃん・・・」
「ん! なに亞里亞ちゃん!?」
「イライラ・・・よくないの」
「そうね! ええ、その通りよね!!」
「亞里亞ちゃん・・・咲耶ちゃん全然分かってないよぉ・・・」

だったらあの二人をなんとかしなさいッ!!

「あ゛ーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「鈴凛ちゃん! うるさいって言ってるでしょ!!」

ああ、羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい・・・

「咲耶くんはヒステリ〜♪」

・・・・・・。
今の台詞で一気に冷静になった。
家族の中で私の事を「咲耶くん」と言うのは一人しかいない・・・
例えそれがどんなに似合わない台詞だとしても!

「千影・・・」

私はそれの名前を口にした・・・。

「・・・・・・羨ましいのかい?」
「何が・・・?」

当たってるけど・・・。

「『私も可憐ちゃんに食べさせてもらいたいわぁ〜v うふっ、可憐ちゃんラブよv』」
「アンタがやるとこれ以上不気味なモノも無いわね」
「・・・・・・酷いじゃないか・・・」
「そこで雛子ちゃんが怯えてるの見えてる?」
























    がさごそがさごそ・・・


「在った」

物置でのトレジャーハントの末、私は作文を発掘する事に成功した。

物置にはみんなの古くなった物、今は使わない物、昔の物とかを置いてある。
と言うより詰め込んである。
だからさすがに苦労したわ・・・。

「なんか懐かしいわね・・・」

やっと見つけた自分の作文を見てそう呟いた。
・・・ところで私は将来なんになりたかったのかしら?
何せ随分と前の事だからあんまり覚えていない。
そう思って自分の作文に目を通してみた。

「えーっと、なになに・・・・・・『お兄様のお嫁さん』・・・」

無理。
まずお兄様が居ない。

「なんでこんな事書いたのかしら・・・?」

しかもお兄様と、って・・・。
ちょっと記憶の糸を辿ってみる・・・。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

・・・思い出した。
そうよ、確かみんなと暮らす前、お父様かお母様にキョウダイが居るって言われて、それで・・・

『だったらきっと素敵なお兄様が私の前に・・・!』

―――現れなかった・・・。

しかも結局全部妹。

あはははは・・・あん時ゃがっかりしたっけ・・・。
いや姉妹が出来た事は嬉しかったんだけど・・・。
大体ねぇそう言う時はシマイって言って欲しいかったわよ!
そりゃ姉と妹でもキョウダイって言う時あるけど・・・。

あの時は勝手に素敵な人を想像して、その人が私を迎えに来てくれるって・・・
まあ言っちゃえば王子様ね。
キョウダイが居るって言われた時、それを自分の兄に投影しちゃって・・・。
当時は兄妹で結婚できないなんて知らなくて・・・。
でも今は・・・・・・兄妹どころか同性でも結婚はできないって知ってるくせに可憐ちゃんと・・・

・・・・・・。

ってヤベェ!
よりディープになってる!

・・・・・・。

まあ・・・深く考えるのはよそう・・・。

「ところで、私はなんて書いたんだっけ・・・」

そう思って昔自分が書いた作文に軽く目を通してみた。












    わたしはおおきくなったらお兄様のお嫁さんになりたいです。

    お兄様とは、まだあったことないけれど、きっとかっこよくて、せがたかくて

    わたしをまもってくれるような、そんなすてきなひとです。












「・・・どう言う基準の漢字の知識よ・・・」

そこまで読んで自分でツッコンだ。
『お兄様』と『嫁』だけ漢字で書いてる・・・。

「かっこよくて、背が高くて、私を守ってくれる様な・・・ねぇ・・・」

可憐ちゃんは可愛くて、私よりも背は低く、私が守ってあげたい様な・・・

「って、完全に真逆じゃないのッ!」

しかも性別まで・・・。
私って一体・・・



    はらり・・・


「ん?」

何か落ちてきた。
紙状の・・・これは作文用紙ね・・・。
今手に持ってるものと全く同じだからすぐ分かったわ。
って事は私以外の誰かの作文かしら・・・?
一体誰の・・・

・・・!
























「雛子ちゃーん、作文・・・」
「しー・・・」

先程発掘した作文を、雛子ちゃんに渡そうと部屋までやって来た私は、
またもや雛子ちゃんの部屋の中に居た可憐ちゃんにより静かにするよう注意された。

「え? どうして・・・」

静かにしなきゃいけないのもそうだけど、それより可憐ちゃんが居る事が気になった。

「雛子ちゃん、今寝付いたんです」

可憐ちゃんが静かにそう言う。
視線を雛子ちゃんのベッドに移すと、雛子ちゃんは布団の中で横になってた。
その顔は青ざめ、まるで何かの病気の様な印象を受ける。
私は心配になって可憐ちゃんに聞いてみた。

「雛子ちゃん・・・どうかしたの?」
「それが・・・なにか怖いものでも見たみたいにさっきから怯えて・・・それで今、可憐が寝かしつけてたの」

怖いもの?
まあ、確かに私も昔そう言うことあったわね・・・。
怖い話を聞いて、夜眠れなくなって・・・

「う〜ん・・・う〜ん・・・・・・カワイイのは怖いよぉ・・・不気味だよぉ・・・」

・・・・・・。

「・・・・・・まさかッ!」
「咲耶ちゃん、なにか心当たりでも?」
「・・・は、はは・・・」

可憐ちゃんの問いに対し、私はただ苦笑いするしかなかった・・・。






「それよりも可憐ちゃん、ちょうど良かったわ。  私ね、ちょうど可憐ちゃんに用があったの」
「え? 用・・・ですか?」

予定としては雛子ちゃんに作文を渡してから可憐ちゃんの部屋に向かおうとしてた。

「ここじゃちょっと・・・そうね、私の部屋まで来て」
「あ、はい、いいですよ」

私はそう言うと可憐ちゃんと共に自分の部屋に向かった。
この時、私は可憐ちゃんに背を向けてたから可憐ちゃんは気づかなかったけど、私は きっとうっすらと笑いを浮かべてたと思う・・・。












「ちょっと聞きたいことがあってね」
「聞きたい事・・・ですか?」
「ええ・・・」

部屋に着いてベッドに座るなり私は早速そう言った。

実はこの時、私の顔からは笑いがこぼれそうになっていた。
そうなりながらも私は可憐ちゃんにこう質問した。

「可憐ちゃん、可憐ちゃんの小さい頃の夢ってなに?」
「え!? あ、あの・・・それは・・・」

私の質問に可憐ちゃんが戸惑い始めた。

「言えないの?」
「そ、その・・・」
「まあ、こんな事書いてたらさすがにねぇ・・・」
「えっ!?」

私はそこで一枚の紙切れを・・・偶然見つけたもう一つの作文用紙を取り出した。

「ささささささささささささ咲耶ちゃん!!!?!??」
「“さ”が多いわよ」
「そそそそそそそそそそれって・・・!!?」

思った通り、可憐ちゃんは激しく動揺しだした。

「ご察しの通り、可憐ちゃんの作文よ」
「!!!!!!!!!!」

そう、偶然私が見つけたのはなんと偶然にも可憐ちゃんの作文だったのだ。
それを私に見つけられた事を知った可憐ちゃんは声も出せずに驚いてた。

「えーっと、『かれんはしょうらい・・・」
「だだだだめです! だめです! いっちゃだめです!! よんじゃだめですぅ!!」

必死に止めようとする可憐ちゃん。
私はそれをあえて無視して続きを言った。

「・・・さくやちゃんのおよめさんになりたいです』」
「―――――――――――――――!!!!」

可憐ちゃんの口から超音波が出た。
























「ごめんなさい・・・咲耶ちゃん・・・」

可憐ちゃんの超音波で耳をやられた。
























「だから見せたくなかったのね?」

まだ耳がキーンってするけど・・・とにかく私は話を進めてる事にした。

「うぅ・・・咲耶ちゃんひどいです・・・」

可憐ちゃんは今、下を向き顔を真っ赤にながらもじもじして私の隣に座っている。

「ごめんごめん。 でもね、私だってこれ偶然見つけただけなんだから」
「で、でも・・・」

さすがにこんな事書いてたら誰かに見られたくないわよね・・・。
・・・私のも似たような内容だけど。
まあ私の方は相手が異性なだけに正常だったか・・・。(ぇ)

「可憐、この時は女の子同士じゃ結婚できないって分かってなくて・・・。
 それで咲耶ちゃんと出会った頃ね・・・、新しくできたお姉ちゃんが・・・咲耶ちゃんが、すっごく頼りになって、かっこ良くって、素敵にみえて・・・。
 と、とにかく可憐は良く分かってなかったからそんな事書いちゃったんです!」

ちなみに私と可憐ちゃんが一緒に暮らしはじめたのは、可憐ちゃんがこの作文を書く少し前くらいの時期からだ。
あの時は私も新しくできた妹にいいトコ見せようと必死で頑張ってたっけ・・・。

「咲耶ちゃんは突然可憐の目の前にやって来てすごく素敵だったから・・・可憐にとってはまるで絵本の中の王子様だったの。
 その・・・王子様ってそう言うものだって・・・思ってたから・・・」

可憐ちゃんは真っ赤になりながらし絞り出すように言う。

「で、今は・・・?」

私がそう聞いた。

「今は・・・女の子同士じゃ結婚できない分かってますけど・・・そうなりたいなって・・・」

可憐ちゃんはそこで一旦言葉を切り息を整えるとこう続けた。

「だって可憐・・・ほんとに咲耶ちゃんの事・・・好きに・・・なっちゃったから・・・」

私はこの時、とても不思議な気持ちになっていた・・・。
小さい頃の可憐ちゃんはこの事を良く分かっていなく、きっと憧れの気持ちでこれを書いたんだろう。
でも・・・その事を理解した現在では・・・寧ろ本気でそう願ってる・・・。

「ねぇ・・・可憐ちゃん・・・」

そしてそれは・・・

「私に・・・可憐ちゃんの夢を叶えさせて・・・」

私の夢にもなっていたから・・・。



「・・・・・・・・・・・・えっ!!」

私の突然の一言に可憐ちゃんは目を丸くしてこっちを向いてきた。

「あ、あの・・・そそ、それってつまり・・・」
「将来、可憐ちゃんを私のお嫁さんにしたいの・・・」

可憐ちゃんの目と口が思いっきり開かれた。
そのまま驚きのあまり可憐ちゃんは止まってしまった。
でも私は構わずこう言う。

「私の・・・お嫁さんになってくれる・・・?」

私の・・・本気の願い・・・。

しばらくして、止まっていた可憐ちゃんは徐々に状況を把握し始め少しずつ動き出した。
動き出してから少しの間は多少パニック気味ではあった、けれど・・・
可憐ちゃんは今度は落ち着くために再び止まり、そして一言・・・

「はい・・・」

笑顔で答えてくれた。



その後はまるで自然に体が動いていく様だった・・・。
まるでそれが当然であるように・・・。
そのまま私達は、まるで少し気の早い結婚式の誓いのキスをするように・・・―――
























「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!??!」

「うわぁあぁぁぁああっ!」「きゃああぁぁぁああ!」

私達はいきなりそんな叫び声に驚いた所為で私達の誓いのキスは台無しになってしまった・・・。

「あの声は鈴凛ちゃんね・・・」
「ですね・・・」

まったくあの子はさっきからなに叫んでるんだか・・・。
大体さっきから私に当てつけたり(←思い込み)私の邪魔したり(←偶然)・・・。
本気で小遣い減らすぞ!(←職権乱用)

「それにしてもさっきの鞠絵ちゃんと鈴凛ちゃん・・・アツアツでしたね」

可憐ちゃんがそう言った。
鈴凛ちゃんの所為で鈴凛ちゃんの話題になってしまった・・・。

「ほんと・・・私達よりも恋人同士っぽかったわね・・・・・・まったく、羨ましいわ・・・」
「え、羨ましい・・・ですか?」

あっ! つい正直に言っちゃった・・・。
・・・まあ、相手は可憐ちゃんだから別にいいか・・・。

「だったら・・・だったら可憐、咲耶ちゃんが怪我したら思いっきり看護しちゃいます!」
「え!?」

口滑らせて良かったぁッ!!

「鈴凛ちゃんや鞠絵ちゃんに負けなくらい咲耶ちゃんの事一生懸命看護しちゃいます!」
「ほんと? ほんとにそうしてくれるの?」
「はい、もちろんです! だって・・・」
「だって?」

可憐ちゃんは顔を赤らめながらも再び笑顔でこう答えてくれた。

「だって可憐は咲耶ちゃんのお嫁さんになる人だから・・・」

・・・って。



もう・・・そんな事言われたら私、怪我するのが楽しみになっちゃうじゃない・・・。






幼い私の前には王子様は現れなかったけど・・・
でも実際私の前に現れたのは・・・こんなにも可愛く、こんなにも素敵な・・・可憐と言うお姫様・・・。



ねえ、可憐・・・
私・・・絶対貴女の夢を叶えてあげるから・・・
だから・・・
その日を楽しみに待っていてね・・・。
























おまけ

「咲耶くんに四葉くん・・・・・・何を・・・・・・してるんだい?」
「ん? なんか四葉ちゃんがね、チェキに付き合ってくれって」
「そろそろミンナの新しいデータをチェキなのでデス!」
「・・・だって・・・」
「へぇ・・・」
「では、質問68デス」
「はいはい・・・」
「咲耶ちゃんの恋愛対象は男の子デスか? 女の子デスか?」
「それは、おん・・・・・・じゃなくて! あ、アンタなんて質問するのよッ!?」
「チェキ? ちょっとしたジョークじゃないデスか」
「咲耶くんの場合は・・・・・・女の子・・・・・・だろう?」
「チェキッ!!!? そそ、そぉーなんデスかッ!? それは凄い秘密デス! チェキデス!!」
「チョキです!!(怒)」


    ぶすっ


「わぁぁぁぁああああっ!! 目がぁッ!! 目がぁぁぁぁああああ!!」
「ギャーーーッ!! 千影ちゃんが咲耶ちゃんに目潰し喰らったデスーッ!!」
「四葉ちゃんにもチョ・・・」
「ギャァーーーーーーッ!! 忘れマシタッ! 四葉はもう忘れマシタぁーッ!!  だから止めて下サーーーーイッ!!」


あとがき

“〜ました”シリーズの裏側で、らぶらぶな可憐と咲耶を描いた、裏“〜ました”第3弾。
見ての通り 『ケガをしてしまいました』の裏話です。(見てなきゃ分からんか)
いきなり兄くんの皆様ごめんなさい。
このシリーズの千影がどんどんヘンな方向へ・・・
千影に雛子をうなさせて本当に申し訳ありませんでした・・・。
この作品、内容としては・・・かなり爆弾です・・・。
どこが、と言うと「みんなで暮らす前」がです。
こういう話は結構避けたいんですけよね、後々大変になると思うから・・・。
あと、姉と妹でも・・・「キョウダイ」言いますよね?(聞くな)
ちなみに次は『電気でビリビリさせました』の裏話だと思います。
『写真をとられました』の裏話は思いつかないから・・・。


更新履歴

H15・8/27:完成
H15・8/28:言い回し、誤字などの修正
H15・10/26:また修正


前の話へこのシリーズのメニュー次の話へ
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