「咲耶くん・・・・・・君は明日暇だったろう?」

居間でテレビを見ていた私に千影がそう言ってきた。

「ええ、特に予定なし。 それがどうしたの?」

明日は休日、ほとんどのみんなはそれなりに予定があるみたいだけど私には特に無い。

「だったらこれを・・・」
「これは?」

そう言って千影は二枚の紙切れを私に差し出して来た。

「映画のチケットさ・・・」
「映画のチケット?」
「偶然手に入れてね。でも私は興味が無いから・・・・・・君にあげる事にしたんだ」
「そうなの?」
「明日・・・・・・可憐くんとでも見に行くと良い。
確か彼女も予定が無かったはずだろう?」
「そうね・・・じゃあ、そうさせて貰うわ」

そう言って私は千影から映画のチケットを受け取った。

「恋人同士、二人っきりで楽しんでくれ・・・」
「はいッ!!?」
「姉妹でそう言う関係なんて・・・・・・まあ普通の事とは思えないけれど・・・」


    ゴンッ


「・・・・・・痛いじゃないか・・・」

私は千影を殴った。

「ヘンな事言わないの!!」
「・・・ちょっとした冗談だろ?」

千影は冗談のつもりで言ってる。

でも・・・本当は・・・










可憐、映画に行きました












次の日。
まあ、そう言う訳なので今日は可憐ちゃんと映画を見に行く事になった。

「千影ちゃん、映画のチケットどうもありがとうございました」

可憐ちゃんがチケットをくれた千影にお礼を言っていた。
ちなみに今は朝食の最中。

「映画ですか・・・。
鈴凛ちゃん、宜しければ今度わたくしと一緒に見に行きませんか?」

私達の話を聞いていた鞠絵ちゃんが鈴凛ちゃんの方を向いてそう言っていた。

「え、アタシ? うん、別に良いよ」

鈴凛ちゃんは軽い気持ちでそう答えてた。

「だったら四葉も連れてって下サイ!」

横から四葉ちゃんがそう言ってきた。

「!」

鞠絵ちゃんは何故か驚いていた。

「別にアタシは良いよ」
「!!」

鞠絵ちゃんはまた何故か驚いていた。

「そうデスか、それは良かったのデス!」
「!!?」

鞠絵ちゃんはさらに驚いていた。

「じゃあ今度みんなで行こうか」
「そうデス! そうしまショウ!!」
「!!??!?」

鞠絵ちゃんはさらに物凄く驚いていた。

・・・・・・。

・・・なんで?

まさか“鈴凛ちゃんと二人っきりで見たかったから”とか?
そんな訳・・・

・・・・・・。

・・・まさか。
ああ、でも二人はこの間抱き合って・・・。

「鞠絵ちゃん、どうかしたんですか?」
「え、なにがですか? 別になんでもありませんよ」

そう聞いた春歌ちゃんに鞠絵ちゃんは平然と答える。

・・・・・・。

・・・きっと驚いて見えたのは気の所為ね。

「そうですか? でも今日はどこか顔色も悪いですし・・・」

春歌ちゃんが鞠絵ちゃんに心配そうに聞いていた。
そう言われれば今日はなんか顔色が悪いような・・・。

「そう言えばそうだね。 大丈夫?」

鈴凛ちゃんも鞠絵ちゃんの事が心配になったのかそう聞いていた。

「大丈夫ですよ、鈴凛ちゃん。 ただ・・・今日はちょっと調子が悪いみたいで・・・。 まあ、いつもの事ですから」
「そう? なら良いんだけど・・・」

いつもの事、ね・・・。
・・・痛い台詞ね。

ところで聞いたのは春歌ちゃんのはずなのになんで鈴凛ちゃんにだけ答えたのかしら?












「可憐ちゃん、ちょっと早いけどそろそろ行こうかしら?」

時計を見てみると針は10時半を少し過ぎたところだった。
11時に家を出ても映画には十分に間に合うので少し早めに着く事になる。
まあ、なにかトラブルが起きるかもしれないし遅れるよりは早めに着いて待つ方がいいと思う。

「そうですね、遅れるよりは早めに着いて待った方が良いですからね」

どうやら、可憐ちゃんも私の意見に賛成らしい。
しかも同じ考え方で!(ここ重要!!)

「なんだ・・・・・・もう行くのかい?」

私達のやり取りを見ていた千影が横からそう言ってきた。

「ええ」

私はバックを肩に掛けながらそう答えた。

「咲耶くん・・・」
「なに?」
「少しでも長く可憐くんとデートしたいならしたいで・・・・・・ハッキリとそう言えば・・・」


    バコーーーン


「・・・・・・痛いじゃないか・・・」
「そう言う冗談はやめて・・・!」

私は千影の悪い冗談に軽いツッコミを入れた。

「・・・しかも血が・・・」

・・・・・・。

“軽い”ツッコミを入れた。(断言)






「じゃあ行ってくるわね」
「行ってきます」

私達は靴を履いてから玄関で並んでそう言った。

「二人っきりで楽しんでくるといい・・・」

で、何故か千影が見送ってる。

「・・・・・・」
「どうしたんだい? そんな顔して・・・」

よく分からないけど多分私は不機嫌な顔をしていると思う。

「折角のデートな―――」


    ボカッ


だって千影がこう言う事を言うって予想がついていたから。

「・・・・・・痛いじゃ・・・」
「それは聞き飽きた!」

私は千影の台詞を遮ってそう言った。
だって本当に聞き飽きたんだから!

「咲耶ちゃん・・・ちょっとやり過ぎじゃ・・・」

可憐ちゃんが心配そうにそう言う。

「可憐くんは優しいね・・・。 ・・・まったく、その恋人にも見習って・・・」


    ドスッ


「ぐふぅッ!!?」
「さ、咲耶ちゃん!?」
「行くわよ可憐ちゃん!!」


    ガチャ

    バタン



私は千影にボディーブローをかました後、可憐ちゃんの手を引っ張って家を出た。
可憐ちゃんはかなり驚いていたが、千影はこの位やらないと懲りてくれない。






「・・・ぅおおぉえぇぇぇッッ!!
「うわぁ! 千影ちゃんキタナイよ!」




・・・・・・。

後ろからそんな“空耳”が聞こえてきた。(断言)












「あの、咲耶ちゃん・・・」

しばらく歩いて可憐ちゃんが私にそう言ってきた。

「大丈夫よ! 千影にはあの位がちょうどいいの!!」

私はちょっと強めの口調でそう言った。
千影は少し前から私と可憐ちゃんが“イケナイ関係”だとからかって来る様になった。
理由はエイプリルフールの時に・・・・・・まあ、色々あったのよ・・・。
とにかく私はもう既にウンザリしている。
無視したら無視したで他の皆に言い始めようとする。
あんな事、他の皆が聞いて更に私をからかう人間が増えるのは勘弁して欲しい。
だからいちいちドツいてる訳だ。
お陰で最近はかなり強めに突っ込んでると思う。
今の所他の皆の耳には入っていないようだし、千影も私の反応を楽しんでいるみたいだから他の皆の耳に入れるつもりは無いと思う。

「咲耶ちゃん・・・その・・・」

そんな事を考えていたら可憐ちゃんがまだ何かを訴える様に私にそう言ってくる。

「だから大丈夫だって」
「千影ちゃんの事じゃなくて・・・」
「・・・千影の事じゃない? だったら・・・」
「あの・・・・・・手・・・」
「手?」

そう言われて私は自分の手に視線を下ろした。
するとそこには可憐ちゃんの手をしっかりと繋いでいる私の手があった。

「あ!」

つまり私は玄関からここまでずっと可憐ちゃんと手を繋いで来てた訳だ。
可憐ちゃんの顔を見ると照れて赤くなっている。

「ごめんね可憐ちゃん! ああ、もう、私ったら・・・」

そう言って私は可憐ちゃんから手を離そうとした。
すると次の瞬間、

「だ、ダメッ!!」
「えッ!?」

可憐ちゃんは私の手をより強くギュッと握ってきた。

「あ・・・!」

可憐ちゃんはその事を自分でやっておいて自分でビックリしていた。

「あの・・・、その・・・こ、これは・・・」

戸惑う可憐ちゃん。
私はそんな可憐ちゃんを見てこう言った。

「可憐ちゃん・・・手、離してくれる?」
「!!」

とても驚いた様子の可憐ちゃん。
可憐ちゃんの顔はまるで捨てられた仔猫の様な寂しそうな表情を作り俯きながら悲しそうな声でこう呟いた。

「・・・・・・はい・・・」

可憐ちゃんはゆっくりと私から手を離していった。
そして私は・・・

「え!?」

可憐ちゃんの手から開放され自由になったその手を・・・いえ、腕を可憐ちゃんの腕に絡ませた。

「さ、咲耶ちゃん!?」
「ごめんね。 でもね、手、離してくれないとこんな風に腕を組んで歩けないでしょ?」
「え? え! ええッ!?」

可憐ちゃんは最初はよく分かってなかったけど、だんだんと私の言いたい事が分かるにつれてその顔を驚きの表情に変化させていった。

「大丈夫よ、ここら辺は人通りが少ないから・・・」

私は可憐ちゃんに軽くウインクをした。

「それとも、こう言うのは嫌なのかしら?」
「そ、そんな事ない!」
「じゃあ、どうしてすんなり『はい』って言えないの?」
「だ、だって・・・」
「可憐ちゃん・・・、私達の関係ってなんだったかしら?」

私は可憐ちゃんにそう質問した。
ただし、この質問の答えは“姉妹”ではない。

「え・・・あっ・・・その・・・・・・」
「答えれないの?」
「その・・・・・・」

可憐ちゃんは顔を真っ赤にさせ言葉に詰まりながらも小さな声で、

「・・・・・・“恋人同士”・・・です・・・」

そう答えた。

「正解!」

そう、可憐ちゃんの言った通り私達は恋人同士・・・つまり千影の言う通りの“イケナイ関係”なのだ。

「じゃあ構わないわよね?」
「・・・・・・はい・・・」

でも千影は冗談で言っているだけでまさか本当にそう言う関係だとは気づいていない。
そして他の皆もその事知らない。
と言うより知られる訳にはいかない。
だから私達はひっそりと付き合っている。

これは誰にも知られる訳には行かない、私達だけの秘密の関係だから・・・。
























「ここね・・・」
「そうですね・・・」

しばらくして、私達は目的の映画館に着いた。

「ホラーね・・・」
「ホラーですね・・・」

千影がくれただけあってさすがに“それ系”だ。
でも千影は興味無いって言っていたけど、こう言うのは寧ろ千影は好きなんじゃ・・・

「じゃあ入りましょうか、咲耶ちゃん」

・・・ま、お陰で可憐ちゃんと二人きりで出掛けられたんだから良いか・・・。












    『グァァァァァ!!』

「きゃあっ・・・!」

もう最ッ高ォッ!!

「あ・・・、ご、ごめんなさい・・・」
「別に謝らなくて良いわ」

この映画はかなりの迫力があって、普段こう言う事は平気な私でも少し怖いと思ってしまう程のものだった。
そしてそう言うシーンがある度に可憐ちゃんは、

    『キャアアアアアァァァァッッッ!!』

「いやぁぁっ・・!」

こんな風に私(の腕)に抱きついて来る!!

「あ、・・・ごめんなさい咲耶ちゃん・・・、またやっちゃた・・・」
「いいのよ、気にしなくて」

寧ろドンと来いッ!!

「ひやぁぁぁっ・・・!」

千影、私アンタの事見直したわ・・・。
こんないい物くれるなんて・・・。












「ごめんなさい、いっぱい抱きついちゃって・・・」
「いいのよ、気にしてないわ」

って言うかもっといっぱい抱きついて来ても構わなかったわ!

「可憐、本当に怖くて・・・」
「そう」

私は可憐ちゃんの所為で途中から内容なんて分かんなくなってたけど・・・。

「・・・あれ? 咲耶ちゃん、顔が赤いですよ」
「そう? 映画館の中、暑かったからじゃない?」
「冷房効いてましたよ・・・」

私の中の冷房は効いてないのよッ!!

「で、これからどうする?」
「そうですね・・・映画も見終わったから、もう家に・・・」
「もう、何言ってるのよ!」
「え?」

私は可憐ちゃんの“帰る”と言う意見を途中で遮ると、可憐ちゃんの耳元でそっとこう囁いた。

「折角のデートなんだからもっとゆっくりして行きましょう・・・」

すると可憐ちゃんは少し間を置いてから、

「・・・え? えっ! ええッ!? で、でーとぉ!?」

こんな風に段階を経て大声で驚いたのだった。

「ちょっ・・・可憐ちゃん、声大きい!」
「あ、・・・ご、ごめんなさい・・・」
「じゃあ、あそこのお店でお昼にしましょ?」
「さ、咲耶ちゃ・・・」
「何よ、嫌なの?」
「そ、そんな事無い! 絶対無い!!」
「じゃあ・・・決まりね?」

そうして私達は近くのお店でお昼を取る事にしたのだった。












「どうしたの? さっきから俯いて」

私がテーブルの向かいに座っている可憐ちゃんに聞く。
可憐ちゃんはお店に入ってきてから赤い顔になって俯いている。

「だ、だって・・・可憐、咲耶ちゃんとただ映画を見に来ただけだと思ってたのに・・・・・・咲耶ちゃんが・・で、デート・・だなんて言うから・・・」

可憐ちゃんは私と目を合わさずにもじもじしながらそう言ってきた。
だから私はこう答えるのだった。

「何言ってるの? 私達が二人きりで出掛けたら・・・それはもう全部デートになるのよ!」
「えええっ!!?」

思った通り可憐ちゃんはますます顔を赤くして驚く。
ああ、可愛いわ・・・。



・・・でも、これで終わりじゃないのよね・・・。



「決まってるじゃない・・・。 だって・・・」

そこまで言って私は一旦言葉を切り、テーブルに上半身を乗り出して、
向かいに座っている可憐ちゃんに顔を近づけると・・・―――



「!!!!」



―――・・・唇に軽くキスをした・・・。



可憐ちゃんが赤い顔をこれ以上は無いくらいに真っ赤に染めて驚く・・・。
・・・そんな可憐ちゃんに私は小さな声で続きを言った。

「・・・私達はもう恋人同士なんだから・・・」

ってね。

「さ、咲耶ちゃん!? だ、誰かに見られたらどうするんですか!?!?」

可憐ちゃんは慌ながら、絞り出すような声でそんな事を言った。

「大丈夫・・・誰も見てないわよ・・・」

今はお昼の時間にしては遅めだからお店にほとんど人は居ない。
それに行動に出る前にちょっと見回して確認はしたし・・・。

「で、でも・・・」
「ふふふ・・・、赤くなって・・・可愛い・・・」
「さく・・・っ! あ、う・・・あの・・、うぅ・・・」

私の一言で、可憐ちゃんはもう何を言っていいのか分からなくなってしまい、言おうとした言葉は全く言葉になってなかった。

「そう言う所も可愛いわよ、可憐ちゃん・・・」
「・・・もう!」

可憐ちゃんはそれだけ言ってこの話を終わらせた。
ちょっとからかい過ぎたかしら?
でも・・・ほんと可愛かったわよ・・・可憐ちゃん・・・。



その後、私達は少し遅めのお昼を楽しくお喋りをしながら過ごした。
























「次は・・・何処に行こうかしら?」

お昼を済ませ、お店から出た所で可憐ちゃんに尋ねた。

「あ、春歌ちゃん」
「え?」

しかし、質問の答えではない可憐ちゃん言葉に一瞬戸惑い、可憐ちゃんの視線の先を見てみると、そこには着物姿で時代錯誤もいいところな私の妹が歩いていた。

「春歌ちゃ〜ん」
「あら、咲耶ちゃんに可憐ちゃんじゃないですか」

可憐ちゃんが呼び掛けると、春歌ちゃんは私達に気づき、私達の方に向かって歩いて来た。

「春歌ちゃんはこんな所で・・・ああ、そう言えば今日は習い事の日だっけ」
「ええ、そうです。 そう言うお二人は確か映画に・・・。 じゃあ二人とも映画は見終わったのですね」
「はい、そうです」

可憐ちゃんがニコリと笑って答えた。
ああ、可愛いわ・・・。

「映画は楽しかったですか?」
「ええ、もう鼻血モノ」
「「は?」」

あッ! しまった・・・つい反射的に・・・。

ああ、もう!
可憐ちゃんが抱きつくからよ!!(←責任転嫁)

「い、一体どんな・・・ハッ! まさか全裸の殿方が二人―(削除)――(削除)――(削除)――(削除)――(削除)――(削除)――(削除)―・・・・・・ポポポポポポッ!!」

春歌ちゃんは体を激しくくねらせながらかなりヤバイ内容を連発して発言しだした。

「は、春歌ちゃん! ちょッ・・・、こんな所で大声でそんな事・・・!!」
「え? ・・・ハッ!! わ、ワタクシったらなんとはしたない事を・・・・・・ポポッ」

って言うか、春歌ちゃんの鼻血モノって・・・。
大体、何処でそんな情報を・・・?

「・・・・・・」

あ〜、可憐ちゃん真っ赤になって固まっちゃった・・・。

「まあそれはそうと・・・終わったのならすぐに帰ってくれませんか?」
「「え?」」

可憐ちゃんと揃って驚いた。
それはそうだ!
折角の私達のデートがこれからって時に・・・!!

「なんでですか?」
「鞠絵ちゃん、風邪引いてたんです」
「え、そうなんですか!?」

ああ、そう言えば今朝は確かに顔色悪かった気がしたけど・・・
なるほど、風邪だった訳ね・・・。

「それで今は鈴凛ちゃんが一人で面倒見ているんです」
「鈴凛ちゃんが?」
「ええ、彼女が一足早く帰ってきましたからお任せしたんですけど・・・、ちょっと心配で・・・」

春歌ちゃんは頬に手を当てながらため息を吐いた。

「・・・まあ、そう言う事情ならしょうがないか」

私は可憐ちゃんの方を向いてそう言った。

「・・・ですね」

可憐ちゃんも納得はしてるみたいだけどちょっと残念そうだ。
でもしょうがないし・・・。

「じゃあ私達、先帰ってるから」

春歌ちゃんにそう言って私達は家のある方向に足を向けた。



「お願いしますね・・・。 もし万が一の事があればワタクシが鈴凛ちゃんの介錯を仕りますから!」
「は?」
























帰り道、私の隣で可憐ちゃんが相変わらず残念そうに歩いている。
私も同じ気持ちなんだけどね・・・。

「まあ、しょうがないわよ。 元気だして・・・ね」

可憐ちゃんの肩を軽く叩きながら励ました。

「・・・でも可憐、お家じゃそんなに咲耶ちゃんに・・・、今日みたいに・・・恋人扱い・・・してもらえないし・・・」

だけど可憐ちゃんの様子は一向に変わらず、依然肩を落として悲しそうに下を向いてた。

「それもしょうがないわよ・・・だって私達・・・」
「姉妹・・・だもんね・・・」

私の言葉に続けて可憐ちゃんがそう言う。

分かってる・・・私達は“姉妹”なんだ・・・。
だからほんとはこんな事・・・

・・・・・・。

「・・・でも、姉妹としてなら・・・いっぱい構ってあげるわ」
「え?」
「まあ制限されちゃうけど・・・それでも、できる範囲で可憐ちゃんを構ってあげる」
「ええ! そ、そんな事して大丈夫ですか!? だって咲耶ちゃんは一番お姉ちゃんなのに・・・」

確かに・・・可憐ちゃんの言う通りなんだろうけど・・・。
それはもう・・・

「無理なのよ・・・」
「え?」
「だって・・・、もう私には・・・可憐ちゃんが特別になっちゃったんだから・・・」
「・・・!」
「だから・・・」



 可憐ちゃんは11人居る妹の中で一番特別な存在・・・。

 ・・・ううん、この世の中、全ての人間の中で最も特別な存在。

 私は・・・可憐を愛している・・・。



 だからこの想いに・・・妹だなんて事、関係無い・・・!



「・・・愛している・・・」

 小さく可憐にそう囁く・・・。

「咲耶ちゃん・・・」

 可憐も小さくそう囁いた・・・。



 私はおもむろに可憐の頬に両手を添えた・・・

 そして可憐の顔を少し上に向かせ・・・

 私の顔と向かい合わせにした・・・。



 そうした理由・・・そんなの・・・



 もう一度可憐とキスする為に決まってるじゃない・・・。






 そして私は・・・―――
























「お熱いねぇ・・・・・・お二人さん・・・」
「「うわああああああああああああっっッ!!」」

顔を近づけようとした時突然後ろから人の声がした!
ここは人通りが少ないからって油断してた・・・

・・・って、この声は・・・。

「ち、千影!?」

そう言って振り返ってみると、そこにはその名前の人物が立っていた。

「こんな所でキスしようとするなんて・・・・・・咲耶くんったら大胆だなぁ・・・」
「あああのね、ちちちち違うのっ! これは・・・!!」

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・・・・

「・・・・・・? 何を慌ててるんだい・・・・・・君は? さっきみたいに・・・・・・殴りかかって来ないのかい?」

そう言う千影はなんか構えてる・・・。

「え? え・・・あ、ああ!! そ、そうね! そうよ! そうだわ!! ええ、もっともよ!!」

な、なんだ・・・、今のはいつもの冗談か・・・。

「・・・??? 何を・・・・・・納得しているんだい?」
「こ、こっちの事よ! ねえ、可憐ちゃん!」
「え!? え・・ええ、そうです!」
「?・・・・・・??」
「と、ところで目のゴミは取れた!? 可憐ちゃん!」
「え? 目のゴミ・・・・・・・・・と、取れたみたいです! はい!!」

よ、よし、これでなんとか誤魔化せたわ!!

「まったく、・・・・・・本当にキスしようとしてるみたいだったよ・・・」
「あはハハハ!(←裏返った) そ、そんな訳無いじゃない! 私達姉妹なのよ!! 女同士なのよ!! 血が繋がってるのよ!!」

・・・本当はしようとしたけど・・・。

「いや、君なら・・・・・・やりかねないだろう?」
どきぃっ!!

ああ、驚きすぎてつい声に出して言っちゃたわ・・・。

「なんせ・・・・・・眠っている可憐くんに・・・・・・」
「あはハハはハハは・・・!!(←裏返った) そそ、そう言えばそんな事もあったわねぇ!!」
「・・・・・・?」
「ど、どうしたんですか?  千影ちゃん。 物足りなさそうな顔して・・・」
「いや、・・・・・・いつもなら・・・・・・もうそろそろきついツッコミが来てもいいはずなんだが・・・」
「あ、咲耶ちゃん、ツッコミだって! ツッコミ!!」
「え、ああ! つつ、ツッコミね!」


    バコッ


ツッコミと聞いて私は千影にツッコミを入れた。

「・・・・・・痛いじゃ―――」


    ドカッ、バシッ


千影にツッコミを入れた。

「・・・・・・痛いじ―――」


    ガスッ、ゲスッ、ゴスッ


ツッコミを入れた。

「・・・い、痛い痛―――」


    ドガッ、ボグォッ、ドグァッ


入れた。

「ちょっ・・・や―――」


    ガシィッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、・・・・・・


入れ―――

「咲耶ちゃんやり過ぎだよぉ!」
























「「ただいまー」」

家に着いた私と可憐ちゃんは揃って「ただいま」を言った。

「た、・・・ただ、い・・ま・・・」

千影はちょっとヤバイ。

「千影ちゃん大丈夫ですか・・・?」
「そう見えるなら・・・・・・君は大したものだよ・・・・・・可憐くん・・・」

・・・ちょっとやり過ぎたかもしれない・・・。

「散々殴りまくった挙句・・・・・・頭を掴んで壁に連続して叩きつける事は無いだろう・・・」

・・・・・・。

“ちょっと”やりすぎたかもしれない。(断言)

「まったく・・・・・・心配してくれる可憐くんとは違って、その恋び・・・・・・・・・いや、なんでも無い・・・」

千影はさすがにこれ以上くらうと危ないらしく、いつもの冗談を中断させてた。

「あ、三人ともおかえり・・・。」

そんな会話をしてたら二階から鈴凛ちゃんが降りて来た。

「鞠絵ちゃん風邪引いてたって? 春歌ちゃんから聞いたわ」
「うん・・・、・・・って言うか千影ちゃんどうしたの?」
「転んだのよ」

私がそう言ったら千影がなんかこっちを睨んで来た。
何故かしらね〜?(←最低)

「鈴凛くん・・・・・・顔が赤いようだが・・・・・・何かあったのかい?」

そう言われて見ればちょっと赤い様な・・・。

「うん・・・伝染されたかも・・・」
「伝染された? 鞠絵ちゃんの風邪を?」
「アハハハ・・・・・・多分ね・・・」

風邪を伝染された、ねぇ・・・


・・・・・・

・・・・・・


・・・・・・












『咲耶ちゃん・・・可憐、風邪引いちゃった・・・』
『そう大変ね・・・でも大丈夫よ。 風邪は伝染すと治るって言うわ。 だから・・・』
『・・・えっ!? 咲・・・ぅむっ―――』












・・・・・・


・・・・・・

・・・・・・


「うふふふふふふ・・・」
「さ、咲耶くん・・・・・・な、なにをニヤケてるんだい・・・?」
「はっ!」

千影の一言で現実に戻された。
い、いけない・・・ついヘンな事を考えてしまった。
妄想は春歌ちゃんや白雪ちゃんの専売特許なのに・・・。

・・・・・・。

・・・可憐ちゃんが風邪引いたら絶対やろっ!!

「あのさ、アタシこれから台所の片付けして来るから鞠絵ちゃんの事お願いできる?」

・・・なんて事を私が考えていたら鈴凛ちゃんがそう頼んできた。

「台所散らかってるの?」
「うん、ちょっとだけね・・・。 とりあえず滅茶苦茶にはなっていないんだけど、死にたくないから念の為にね・・・」

鈴凛ちゃんは何か訳の分からない事を言っていた。

「別にいいですよ」
「じゃあお願いね」

可憐ちゃんが答えると鈴凛ちゃんはそう言って階段を降りて来た。

「でも伝染されたって、まさか口移しでって事は―――」


    ガンッ


「£∀Э☆¢$▲¥〜〜〜〜っ・・・!!」

私のちょっとした冗談に動揺した鈴凛ちゃんは足の小指を階段の手摺にぶつけてしまった。

うあ・・・痛そう・・・。

「鈴凛ちゃん大丈夫!?」
「さ、咲耶ちゃんがヘンな事言うから・・・〜〜〜〜っ!」
「ごめんごめん」

妄想ついでに言ってみただけだったんだけど、そこまで動揺するなんて思わなかったから・・・。

「咲耶くんじゃあるまいし・・・・・・」


    ドゴォッ


「「千影ちゃん!!」」

ついでに私は千影にトドメを刺した。
























私は死んでしまった千影を彼女の部屋まで運び、遺体を棺桶の中に入れてあげた。

「・・・私は・・・・・・まだ・・・・生き・・てる・・・・・・」

千影がうわ言の様に何かを言ってる。
そんな事はどうでもいいので私は部屋を出た。

「あ、咲耶ちゃん」

私が千影の部屋を出ると、先に鞠絵ちゃんの様子を見に行ってた可憐ちゃんもほとんど同時に鞠絵ちゃんの部屋から出てきた。
私は可憐ちゃんに近づいて鞠絵ちゃんの様子を聞いてみた。

「鞠絵ちゃんどうだった?」
「・・・なんか・・・嬉しそうだった」
「は?」

病気なのに?

「・・・まあとにかく、私も鞠絵ちゃんの部屋に行ってくるわね」
「うん・・・」

可憐ちゃんは何かしょんぼりしていた。
私はそんな可憐ちゃんが少し気になった。

「どうしたの?」
「その・・・可憐、今日の事、咲耶ちゃんとのデートって気づいてなかったから・・・。 知っていたらもっと楽しめたのに、って・・・」

悲しそうな可憐ちゃん・・・。
私はそんな可憐ちゃんにこう言うのだった。

「だったら・・・これからはもう幸せの連続になっちゃうわね」
「え?」
「だってもう分かっちゃったじゃない」



「私達が二人きりで出掛けたら・・・それはもう全てデートになるって事」
「あ・・・!」



 確かに私達は姉妹だけど・・・
 でも、もう恋人同士・・・。


「今度のデート・・・楽しみにしてるわね・・・」


 ほんとはイケナイ事だけど・・・。
 私達は普通じゃなくなっちゃったけど・・・。

 それでも私には・・・。


「はい!」


 こんな笑顔を見れるだけで・・ それくらいの・・・それ以上の価値があるわ・・・。



 だって・・・



 私には・・・もう可憐が特別だから・・・。
























おまけ

「あの、千影ちゃん・・・」
「春歌くんか・・・」
(何で千影ちゃんこんなにぼろぼろなんでしょう?)
「一体・・・・・・何の用だい?」
「あ、はい。 もし宜しければで良いんですけど・・・今度、映画のチケットを手に入れたらワタクシにも譲ってくれないでしょうか?」
「・・・別に・・・・・・構わないが・・・・」
「ほ、本当ですか!? ・・・ああ、今から楽しみですわ・・・、二人の殿方のめくるめく禁じられた愛の・・・」
「何を言っとんだ君は?」


あとがき

鞠絵と鈴凛がらぶらぶな“〜ました”シリーズの裏側で、らぶらぶな可憐と咲耶を描いた、『裏“〜ました”』でした。
この話は『カゼをひいてしまいました』の裏話です。
読んでくれてる人は分かってたかと・・・・・・分かってくれたのかなぁ・・・?(微妙)
“裏”ってなんか嫌でしたけど他に思いつかなかったし、慣れたからもう今後はそう呼びます。
ちなみに、“〜ました”シリーズはタイトルが『〜ました』に対して、裏“〜ました”はタイトルが『人名+〜ました』となります。
『可憐、+〜ました』だと今後絶対困りますので・・・。
次の裏“〜ました”は、『ケガをしてしまいました』の裏話です。
また、『写真をとられました』の裏“〜ました”はやらないと思います、思いつかないから・・・。(汗)
しかし話がほのラブからどんどん変な方向に向かってる気がする・・・。(滝汗)
最後に、お兄様、兄くん、兄君さま、ごめんなさい。


更新履歴

H15・8/3:完成
H15・8/17:修正
H15・10/26:また修正


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