「ふん♪ ふん♪ ふふふふー、ふふふー、ふふふー♪」

 私は部屋で鼻歌を歌いながらファッション誌を見ていた。

「あ、これなんて良いかも」

 今は春休み。
 折角の休みでも特に予定も無い私は暇な生活を続けてた。
 まさか今日、いつも通りの日常が終わるなんて知らなかった私がそこには居た。













 

可憐、眠っちゃいました















    コンコン


「ん?」

 部屋で何気なく過ごしていた私の部屋に誰かが訪ねて来た。

「入っていいわよ」
「失礼します」

 そう言って入って来たのは鞠絵ちゃんだった。

「なに、鞠絵ちゃん、なにか用?」
「用……ではないんですけど……」
「だったらなに?」
「咲耶ちゃん、この後どこかに出かけますか?」

 今、私にはそんな予定は無い。

「別にどこにも出かけないわよ。なに? どこか一緒に行って欲しいの?」
「いえ、違うんです」

 違う?
 だったたらなんでそんな事聞いてきたのかしら……?
 鞠絵ちゃんの顔を見るとは少し困った顔をしてる様だった。

「あの……」
「なに?」
「だったらわたくしが出かけるまで部屋から出ないでほしいんですけど……」
「……?」

 一体何の事だか分からないけど鞠絵ちゃんは真剣な顔をしてお願いしてきた。

「お願いします……」
「別にいいけど……」

 特に断る理由もない、それに鞠絵ちゃんが真剣だったから私はそう答えた。












    ガチャ


 しばらくして、玄関のドアが開く音がした。

「鞠絵ちゃんかな?」

 今、家には私と鞠絵ちゃんの他に何人か居るはずだから違う可能性もある。
 いくら予定がなくてもずっと部屋に閉じこもってるつもりもないので、
 確認しておいた方がいいだろう。
 そう思って私は部屋の窓から玄関を見てみた。

「…って、ええっ!?」

 私は驚いた。
 だって、そこで鞠絵ちゃんと鈴凛ちゃんが抱き合っていたんだから。

「え? え!?」

 私は妹二人が抱き合っているというちょっとアブナイ光景に戸惑いを隠せなかった。
 少しして鈴凛ちゃんが慌てて鞠絵ちゃんを離した。

「あれ?」

 その時、鞠絵ちゃんがメガネを掛けていないことに気がついた。
 二人が抱き合っている時は鞠絵ちゃんの顔が鈴凛ちゃんの陰に隠れて見えなかった。

「……鞠絵ちゃん、メガネは……? って、ええっ!」

 私がもう一度驚いたのは、今度は鞠絵ちゃんが鈴凛ちゃんの手を握ってきたから。

 …………。

「…………ははは…まさかね……」

 私はさっきのアブナイ光景が頭に残っているためちょっとヘンな事を考えてしまった。

「別に女の子同士だし……手を繋いだって問題ないわよね……」

 だから今想像した様な事はないはずよね……。
 私がそんな事を考えていると二人は歩き始めた。

 玄関でちょこんと座っているミカエルを忘れて……






 さすがにもうそろそろ部屋を出たい思ってたので鞠絵ちゃんが出かけたのはちょうどよかった。
 取り敢えず私は部屋を出る事にした。

 今見た光景の事は考えないようにして……。

 ちなみにミカエルはきちんと気づいてもらってた。
 よかったわね、ミカエル。
 あのまま二人きりで出かけられなくて。
 そう、二人きりで……

 …………

 まさかね……
 だから置いて行こうとしたのかしら?
 もし、そうだとしたら……

「咲耶くん……」

 そんな! い、いけないわ!
 二人は女の子同士なのよ!!
 それに(微妙だけど)血だって繋がってるって言うのに!!

「咲耶くん……!」

 ああ、でも意外だったわ……
 鈴凛ちゃんは四葉ちゃんと仲良しだから寧ろ四葉ちゃんとだと思ってたのに……
 いえ、四葉ちゃんならいいって訳でも……!

「咲耶くん!!」
「え!? なに!?」
「全く…………一体何を考えていたんだい?」

 私のちょっとイケナイ妄想を遮ったのは呆れ顔をした千影だった。

「いや、その……あははは……」

 取り敢えず笑って誤魔化した。
 そうよね、そんなはず無いわよ。

「それでなにか用なの?」
「ああ…………実は困った事になってね」

 そう言う千影の顔は困ってるようには見えなかった。

「まあ、とにかくついて来てくれ…………歩きながら話すよ」

 そう言って千影は歩き始めた。

 …………。

 私に拒否権はないって事?






「実はね……」
「ちょっと! 私、受けるだなんて言ってないんだけど!」

 そう言いながら千影の後を追う。

「じゃあ…………、なんでついて来るんだい?」
「困ってるんでしょ?」
「じゃあ…………、協力してくれるんだね?」
「そうとは限らないわよ」
「…………どうして?」
「今日が今日だから!」

 今日は四月一日、エイプリルフール。
 だから千影に騙される可能性がある。

「別に…………君を騙すつもりなんて無いさ」

 でもさっき、困ってると言う千影の顔は困ってるようには見えなかった。
 だから怪しい……

「疑っているのかい?」
「ええ」
「私が君を騙して…………一体何の得があるって言うんだい?」
「知らないわよ、そんなの。とにかく、話くらいなら聞いてあげてるけど内容によっては断るからね!」
「…………」

 私がそう言うと千影は黙ってしまった。
 やっぱり騙すつもりなのかしら……?

「そう思うなら君も嘘を吐けばいいだろう?」
「もう今はそんなの馬鹿らしくてやってられないわよ……」

 まあ、昔は千影やら鈴凛ちゃんやらを騙しては喜んでたけど……。

「とにかく…………君が引き受けてくれないと困るんだ」
「なんで私なのよ……?」
「この家で今それができるのは君だけだからさ……」
「私だけ?」

 私じゃなきゃ駄目だなんて一体どういう事?
 そんな事を疑問に思ってたら唐突に千影の足が止まった。

「全く……」

 少々呆れた顔をして千影は続けた。

「そんな事を話してたから…………着いてしまったじゃないか」

 そこは千影の部屋の前だった。






「じゃあ、そう言う事だから…………頼むよ」
「どういう事か聞いてないわよ!」
「でも、もう着いてしまったし……」
「じゃあ、ここで話しなさい!」
「はぁ…………」

 千影はそうため息を吐くと"困っている事"を話し始めた。

「君は『白雪姫』の話を知っているかい?」
「当たり前でしょ!」

 小さい頃何度も聞いたことがある。
 それに、昔、白雪ちゃんに名前が名前だからって何度も話をさせられた記憶がある。

「美しい姫に嫉妬した女王が…………姫の命を奪おうと毒リンゴを……」
「知ってる! だからそれがどうしたのよ!」

 それが"困っている事"とどう関係があるのかよく分からない私は、
 早く話を進めるように催促する様な口調でそう言った。

「…………眠ってしまったんだ……」
「へ?」
「可憐くんが……」
「なんで……?」

 今まで話の流れからすると……

「毒リンゴで…………さ」






「…………」

 千影の部屋の中に入った私は自分の目に入ってきた状況に声が出なかった。
 そこには棺桶の中で横たわる可憐ちゃんの姿があった。

「まあ、こういう事さ……」
「どういう事よ……?」

 ちなみにこの棺桶は千影のベッド。
 可憐ちゃんが眠ってしまったという事で貸してあげているようだが、
 それが今の状況にとてもマッチしていてなんか嫌だった。

 ちなみに可憐ちゃんは手を胸のところで組まされていた。
 それがなおさらそう言う風に見えて嫌だった。

「どうしてこんな事になったのかちゃんと説明しなさいよ!」
「つまりだ……可憐くんは今、毒リンゴを食べて眠ってしまっていると……」
「だから、なんで毒リンゴがこの家にあって、なんでそれを可憐ちゃんが食べちゃったのよ!?」
「…………知りたいかい?」
「ええ、とっても!」
「フッ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「早く話しなさいよ!」
「とにかくだ……」
「とにかくじゃない!!」

 千影は話す気が無いらしい……。
 私は千影の頭を思いっきり引っ叩いてやりたい衝動を必死で抑え……


    ゴンッ


「…………痛いじゃないか……」

 ……られなかった……。






「で、私にどうしろって言うの?」

 私は千影に話す気が無い以上とにかく話を進めるべきだと判断した。

「引き受けてくれるのかい?」
「だから内容によるって言ってるでしょ!」

 でも、実は大体予想がついている……。
 私はそれが違う事を祈りながら千影の話を聞いた。

「簡単な事さ…………さっきも言っただろう…………『白雪姫』だ、と……」

 …………。

「白雪姫は何で目を覚ましたんだい?」

 どうやら私の予想は当たったようだ……。

「嫌よ……」
「何が?」
「私、絶対しないからね……」
「何を?」
「だって私達姉妹なのよ! それに私、王子様じゃないし!」
「なんでそんな事言うんだい?」

 しらばっくれて……

「だから!」

 私は半ばヤケになって続けた。

「私に可憐ちゃんとキスしろって言いたいんでしょ!!」
「…………よく分かったね……」

 できれば分かりたくなかった……。

「大体なんで私なのよ!!」
「さっきも言ったろう…………この家で今それができるのは君だけだ、と……」
「だからなんで!!」
「今、この家には私と君と彼女しか居ないからさ……」

 つまり、ここに居るのが今この家に居る全員という訳ね……

「一人称、二人称、三人称を順番に使った説明をありがとう」
「どういたしまして……」

 私の皮肉に皮肉で返す千影。






 私は取り敢えず状況を整理する為にできるだけ落ち着いて話しを始める事にした。

「じゃあいくつか質問に答えてくれるかしら?」
「どうぞ……」
「キスするのは誰でもいいの? それとも私限定?」
「…………」
「…………」
「…………君限定さ……」
「ウソね」
「何を根拠に……?」
「じゃあ今の間は何!?」
「…………」
「…………」
「フッ……」

 はい嘘。

「アンタがキスしなさい!」
「嫌だ……!」
「何言ってるのよ! アンタの責任でこうなったのよ! アンタがどうにかするのが道理ってもんじゃないの!?」
「私に同性に唇を捧げろと?」
「アンタも同じ事私に言ってんのよ……!」
「…………」
「…………」
「……次の質問は?」

 話を逸らしたな。

「他に方法は無いの?」
「…………無い訳じゃない……と思う」
「『思う』って?」
「調べれば見つかるかもしれない…………と言う事さ」
「じゃあ調べて!」
「じゃあ、三日…………待ってくれないか?」
「なんでよ!?」
「そのくらい時間が掛かるんだよ……」

 三日か……
 今は春休みだから、その間可憐ちゃんが眠っててもそんなに問題ないわね。
 可憐ちゃんには気の毒だけど……。

「分かったわよ、三日待つわ。それで他に方法が無かったらアンタがしなさい!」
「嫌だ…………それにそれじゃあ遅すぎる」

 遅すぎる?

「どういう事?」
「時間制限付き…………という事さ……」
「時間制限?」
「つまり…………しばらくこのままの状態が続くと……」
「二度と目が覚めない、とか……?」
「正解……」

 最悪……

「決定、アンタが今しなさい!」
「嫌だ……」
「誰の所為でこうなったの?」
「私の所為じゃないさ……」
「アンタの所為でしょ!」
「彼女が勝手に毒リンゴを食べたんだ!」
「そもそも毒リンゴなんて作ってるアンタが悪いの!」
「…………そんな言い争いしてる時間は無いんだが……」

 また話を逸らして……。

「で、後どれ位なの?」
「2時間位かな?」
「2時間!?」
「正確には…………1時間56分ってとこだろう……」

 千影はポケットから取り出した懐中時計を見ながらそう言った。

「それを超えたら……」
「彼女はもう…………二度と目覚めない……」

 あと約2時間か……

「そう言う訳だから……」
「まだ2時間もあるのよ! とにかく時間まで方法を調べましょう!」
「そんな事しなくても今、君がブチューっと……」

 アンタはオヤジか?

「そんな事言うならアンタが……」
「…………時間が無いんだろう? ……早く調べよう……」

 また話を……

「分かったわよ!」

 とにかく時間が無いんだから……。






「…………」

 私は千影と共に千影の集めた膨大な量の本が置いてある地下室に向かい、
 そこで可憐ちゃんの目を覚ます方法を探し始めた……

「……どうしたんだい……?」
「読めない……」

 ……かったんだけど…………何、この字?
 見た事も無い。

「君には難しすぎたかい?」
「アンタ以外読めないわよ……」
「そんな事は無いさ……」
「って言うかこれ何語?」
「まあ、普通の人間は使わない文字ばかりだからね……」
「うるさい、異常な人間!」
「…………酷いじゃないか……」
「毒リンゴ作る人間の何処が普通の人間よ?」
「…………」
「…………」
「……見つからないな……咲耶くん」

 都合が悪くなるとすぐこれだ……。

 しかし、このままだと私は方法を探す事はできない。
 仮に、本が英語で書かれてたとしても辞書が無ければ多分無理だろうし、あったとしても時間が掛かる……。

「……どうしようか……」

 つまり私は役立たずとなってしまった訳だ。

「何もする事が無くて…………困ってるのかい?」
「……ええ」
「役立たず……」
「うるさい!」

 そんな事分かってるわよ!
 認めたくないけどね……。

「でも…………する事ならあるじゃないか……」
「え?」
「彼女に目覚めのキ―「却下ぁッ!!」

 何を言い出すかと思えば……

「だったら…………彼女の所に行ってくれないか?」
「どうして?」

 別にする事も無いのに。

「実は最近…………私の部屋に…………ネズミが住み込んだみたいでね」
「ネズミ?」
「もし彼女が寝ている間に鼻でもかじられたら…………彼女の人生は滅茶苦茶に……」
「そう言う事は早く言いなさいッ!!」


    バッコーン……


「…………痛いじゃないか……」

 私は千影を引っ叩いてから千影の部屋に向かった。












「よかった……」

 部屋に着いた私は、取り敢えず可憐ちゃんの鼻がネズミにかじり取られてない事を確認し少しだけ安心した。

「全く……千影のせいでこっちは散々よ……!」

 そう独り言を吐いて可憐ちゃん側まで歩いた。






 私はしばらく可憐ちゃんを側で見下ろしていた。

「…………」

 そう言えば、可憐ちゃんは今朝、一番最初に私に「おはよう」と言ってきてくれたんだ。
 そして、いつも通りの朝が始まった。
 そう思ってた……。

「このまま目が覚めないって事……無いわよね……」

 もしそうなったら……どうなるんだろう……?
 一生目が覚めないという事はそれは例え生きていても死んでいるのと変わらない。
 私達の生活から彼女が消えてしまう。
 もう、可憐ちゃんと一緒にどこかに遊びに行く事も、
 可憐ちゃんと一緒に笑う事も、
 可憐ちゃんのピアノを聞く事もできなくなる。

「……可憐ちゃん……」

 そんな事を考えていたらそんな声が私の口からこぼれた……。






 私はただ黙って可憐ちゃんを見下ろし続けていた。
 未だ眠り続けている可憐ちゃんを……。

 私は可憐ちゃんとの思い出を思い出していた。
 いい思い出ばかりって訳じゃないけど……みんな素敵な思い出だ。
 可憐ちゃんがこのまま目を覚まさなかったら、もう、可憐ちゃんとの思い出もここで終わってしまう……。

「…………」

 みんなの生活から……。
 私の生活から……。
 可憐ちゃんが消えてしまう……。

「そんなの……」

 そんなの絶対嫌だ……!

「私が……」

 起こす方法ならある……。

「私がキスすれば……それで済む事じゃない……」

 キスする……。

 たったそれだけだ。
 そうすれば可憐ちゃんは目を覚ます。

「女同士だから……妹だからってなんだって言うの!」

 時計を見てみると時間まであと30分と言ったところだった。
 でも……

「もう……ギリギリまで……待ってられないわよ……」






「可憐ちゃん……私……男の人でも……王子様でもないけれど……」


  そう呟きながら……


「それでも……可憐ちゃんが目を覚ましてくれるなら……」


  私はゆっくりと……


「私の唇くらい……いくらでもあげる……」


  可憐ちゃんの唇に……


「だから……」


  自分のそれを近づけた……。
























「ありがとう……咲耶ちゃん……」
























    ドタドタドタドタ……


「ん?」
「千影ぇぇぇぇーーーーッ!!」
「やあ、さく……」


    バッコーン……


「…………痛いじゃないか……」

 私は思いっきり千影の所まで走るとそのまま勢いを利用して千影の頭を力一杯ぶん殴った!!

「『痛いじゃないか』じゃないわよッ!! よくも騙したわねッ!!」
「騙す? ……ああ…………という事は……」
「大成功です! 千影ちゃん!」

 嬉しそうにそう言いながら私達のところにやって来たのはさっきまで眠っていた……
 いえ、眠ってるフリをしてた可憐ちゃんだった。

「よくも……よくも……」
「まだ30分もあるじゃないか…………意外とせっかちなんだな……咲耶くんは……」
「うるさい!」

 懐中時計を見ながら落ち着いてそんな事を言う千影に物凄く腹が立った。

「あーーー! もう! 覚えておきなさいよ、千影!!」

 私は顔を真っ赤にして怒った。

「なんで私だけに言うかな……?」
「うるさいッ!!」

 でも、顔が赤いのは怒ってる所為じゃないけど……

「別に…………いいだろう? 本当にした訳じゃ…………ないんだから」
「…………そりゃあ…そうだけど……」

 千影の言葉に私は可憐ちゃんを見ながらそう答えた。

「大体、アンタさっき私を騙して何の得があるのかとか言ってなかった!!?」
「ああ、お陰で君が…………妹の為にそんな事ま出来る人間という事が…………分かったよ。
 君は凄いね…………同性にそんな事までして助けてあげれらるんだから……」
「う、うるさーーーいッ!!!」
「姉の鏡だね…………みんなにも教えてあげなきゃな……」
「ちょ…やめてよ!! 恥ずかしい!!」
「咲耶くんが可憐くんにキスしようとしたって……ね……」
「なんでわざとそう誤解されやすい様に言うのよ!!」
「事実だろ?」


    バッコーン……


「…………痛いじゃないか……」






 もう分かってると思うけど、

「可憐くん……羨ましいね…………咲耶くんにそんなに愛されてるんだから……」
「はい、可憐、嬉しいです……」

 つまり私は騙された訳だ。
 この二人に。

 毒リンゴなんて最初から存在してなかったし、
 可憐ちゃんも眠っているフリをしてただけ。
 全てはエイプリルフールのちょっとしたイタズラだった訳だ。

「咲耶くんと可憐くんはラ〜ブラブ……♪」
「黙れ! この(兄くんに怒られそうなので削除)ッ!!」
「じゃあ…………なんでギリギリまで待たなかったんだい?」
「え! そ、それは……」
「そうしたら…………キスしなくても済んだかも…………しれなかったのに……」
「うう……」
「咲耶く〜んはシスコン〜……♪」


    バッコーン……


「…………痛いじゃないか……」

 そんな感じで私はしばらくの間、千影にからかわれ続けた……
 ……って言うか、アンタ性格変わってない?












「おや…………もうこんな時間か……」

 30分くらいが経過して千影がそんな事を言った。

「じゃあ…………私は出掛けてくるよ……」

 そう言って千影は立ち上がった。

 ……頭にたんこぶをいっぱいつけて……。

「出かけるって……ちょっと待って!」
「なんだい?」
「もしかしてさっきのあと2時間って……」
「ああ…………私が出かける前に…………結果を見たかったからね……」

 やっぱり、そう言う事……。

「じゃあ、二人とも…………末永くお幸せに……」


    パコッ


 私は千影のその台詞に反応し、近くにあったティッシュ箱を投げた。

「…………痛いじゃないか……」
「それはもう聞き飽きたわよ……」
「いってらっしゃい、千影ちゃん」

 そんな感じで千影は玄関に向かって行った。












    ガチャ


「……じゃあ可憐ちゃん、聞かせてもらおうかしら……」
「え?」

 私は千影が家を出る音を聞いてすぐに可憐ちゃんにそう言った。

「で、どういう事なの?」
「…な、なにがですか?」
「お陰で私、久しぶりにエイプリルフールでウソ吐いたわ……」

 こんな話、千影が居る時にする訳にはいかなかったからだ。

「千影の話だと可憐ちゃんは私がキスする寸前でネタばらしをするような手はずみたいだったけど……」

 だって……

「だったらどうして私達の唇は触れ合ったのかしら?」
「え!?」

 ……こんな話、誰かに聞かれる訳にはいかないでしょ?






「……答えなさい!」
「え、と、あの……」

 私の言葉に戸惑い始めた可憐ちゃん。

「か、可憐、あの時できるだけ咲耶ちゃんを驚かそうと思って……それで、その……だからなるべく近づいてから、って思ってたら……」
「そのまま手遅れになったて言うの?」
「は、はい……」

 可憐ちゃんはそう言うけど、これは明らかに……

「ウソね!」
「え! そ、そんな事……」
「だって、そうだったら触れた瞬間にどうにかするんじゃないの? でもね可憐ちゃん、私達、軽く20秒はキスしてたのよ」

 まあ、大体だけど……。

「そ、それは……あの…び、ビックリしちゃって……」
「なんにもできなかったって?」
「そ、そうです……」
「へー、その割にはその後、凄ーく落ち着いた感じで、『ありがとう……咲耶ちゃん……』なーんて言ってた気がしたけど?」
「あ!」
「ビックリしてたんじゃないの?」
「そ、その…………うぅ……」

 どうやら、可憐ちゃんのウソはここで打ち止めらしかった。






「可憐ちゃん、千影にもウソ吐いてたんでしょ」
「…………」
「千影を利用して私とキスしようとした……違う?」
「はい……」

 つまり、千影はちょっとしたイタズラに付き合ったつもりだが、その実、可憐ちゃんの秘密の計画の駒に使われたという事になる。

「ご、ごめんなさい……可憐……」
「ふふふ……やるじゃないの可憐ちゃん!」
「え!?」

 あの千影を利用するとはちょっと凄い事かもしれない。
 その事を千影に教えて悔しがらせられないのが残念だ。

「あの……可憐の事……その…嫌いにならないんですか?」
「なんで?」
「だって……可憐、咲耶ちゃんにあんな事……させちゃって……。気持ち……悪かった……ですよね?」

 可憐ちゃんは話しながらだんだん落ち込んでいった。

「イタズラじゃ……済みませんよね……?」
「全くよ! 可憐ちゃんは取り返しのつかない事をしちゃったんだから!」
「ご、ごめんなさい、咲耶ちゃん……」

 可憐ちゃんは、私のその一言でとうとう泣きそうにまでなってしまっていた。
 でも、可憐ちゃんが私にした事はもうイタズラでは済まなくなっていた。
 今回の事で可憐ちゃんは私に取り返しのつかない事をしてしまったんだから!

 だから私は……

「……え!?」

 ……そのまま可憐ちゃんを抱き締めた。

「さ、咲耶ちゃん!? なんで……!?」

 突然の事に困惑する可憐ちゃん。

「どうしてくれるのよ……」
「え?」

 可憐ちゃんがこのまま目を覚まさなかったら。
 そう考えてた時に気がついた……。
 私の中で可憐ちゃんがどれくらい大きかったか……。

「私を……こんな気持ちにしちゃって……」
「え? え!?」

 そして、唇が触れた時に芽生えてしまったこの気持ち……。
 もう……取り返しがつかない。

「咲耶ちゃん!? い、一体どう言う事ですか!?」
「どう言う事って……こう言う事よ……!」

 そう言って私は可憐ちゃんにもう一度目覚めのキスをした……。






  その日、私のいつも通りの日常が終わった……。

  そして、代わりに始まったのは、妹の事を本気で好きになった私のいつもと違う新しい日常……。

  今日は、私のちょっとイケナイ恋の始まりだった……。
























おまけ

夕食時

「そうそう…………ちょっと聞いていいかな?」
「一体なんデスか?」
「もしもこの家に…………姉妹で平気でキスするような人間が居たら……」


    ブゥゥゥゥゥッッ   ブゥゥゥゥゥッッ


「うわぁ! 咲耶ちゃんと鈴凛ちゃんキタナイよ!」
「「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」」
「ねぇ、どうしたの咲耶ちゃん、鈴凛ちゃん……」
「な、なんでもないのよ……雛子ちゃん」
「そ、そうだよ……なんでもない……なんでも……アハハハ……」
「鞠絵ちゃんも可憐ちゃんも、大丈夫デスか?」
「だ、大丈夫です……ちょっと咽ただけですから……」
「可憐もです……」
「…………」
(……なんで鈴凛くんまで?)
「……千影ちゃん…………お顔にお料理……いっぱいなの…」








あとがき

この話は『メガネをなくしてしまいました』の裏話です。
だからジャンルは"ほのらぶ"にしたかったんですが……結局なんだったんでしょう?
作ってみて思いました……失敗した気がすると……。
でもこのシリーズ続けます。
なんせ"〜ました"シリーズの裏話ですから。
期待する人居なさそう……。
もともと自分のSSに期待している人なんて居ないか(自虐的)
どうでもいい事ですけど最初の咲耶の鼻歌は『girlish』のつもりです。
最後に、兄くんの方々、申し訳ありませんでした。


更新履歴

H15・6/14:完成
H15・6/15:修正
H15・8/6:また修正
H15・10/26:またまた修正
H17・1/23:誤字修正&大幅修正


このシリーズのメニュー次の話へ
SSメニュートップページ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送