昼食を終えた私たちが庭に戻ってくると、そこにはとても信じられない光景が広がっていた。


「あなたの境界を操る力……素晴らしいわ……。私が開発した薬を進化させてくれるなんて……」

「いいえ、あなたの薬の知識と、これまでの研究があったからこそよ……。ふふっ、そのウサちゃん姿も素敵


 一体何があったのか、さっきまで戦争さながらの争いをしていた永琳さんと紫さまが、
 今では十年来(人間換算で)の親友であるかのように、互いの手を重ね、親しみの込められた瞳で見つめ合っていた。
 嗜好も価値観も、決して分かり合えないほどに真反対だったのに、今ではお互いを讃え合うほどにまでになっている……。
 ちなみに永琳さんは相変わらずバニーガール姿のままである。……なんか眼鏡が追加されてるけど。

 その様子を室内から覗く、幽々子さま(♂)は、少し驚いたような顔をした後「まあ紫だし……」(CV:子○武人)と納得したように呟いていた。


「良かったですね、鈴仙殿。私たちはもう戦わずに済むようだよ」

「え、えー……」


 昼食を経て仲良くなったそれぞれの従者も、各々の反応を示していた。

 だが私は……おふたりが和解したという信じられないことよりも、また別の、信じたくないことに目が向いていた。
 その異常事態も、それ以上にやばいを状況を前にして、霞んでしまうほど。
 ああもうなんでこうもご都合主義が続くんだか……! 心の中で、愚痴るしかなかった。

 そうして、永琳さんと紫さまは、問題の薬物が入ったひとつのフラスコをふたりで持ち合って、息ぴったりに掲げると、高らかに口にした。


「「我らが念願、女性間妊娠可能薬『ヤクモゴコロ−112NP』の完成よー!!」」








 

みょんミア10

三、運命の出会いは愛の逃避行に?








 これはやばい、やばすぎです。
 この天才と賢者さまは、本当になんてものを作り出すんだろう。
 お昼ごはんなんか取ってないでちゃんと見張っておくべきだったのだろうか。
 いやいやだけど、さっきまでの敵対ムードからなんか指を絡ませ合ってうっとりとお互いを見つめ合う姿とか、
 こんなんどうやったら予想つくのってなもんで。


「それにしても……まさか男の子同士で妊娠できる薬を、あなたの境界を操る力で効果を反転させて、
 女の子同士で子供ができる薬になるなんて、世の中何が役に立つか分かったものじゃないわね……」

「ふふふ、良いのよ。女の子のままなら、私はあのふたりに添い遂げて欲しいと望むもの。そう、互いの利が一致するのだから、ね


 今サラッとトンデモナイ劇薬の存在口走ったよねあの薬師。
 既に作ってたんですか? 既に作ってたんですね? ダメだ、医者が病気だ。

 しかし、そんなツッコミ所にツッコミのひとつも入れるのも抑えて、私は脊髄反射でルーミアさんを脇に抱えて全力ダッシュしていた。
 どこへ? どこだっていい!!

 ふたりの目的は、私だ! 私と、ルーミアさんだ!!
 改めて言うでもなく、あの薬を私たちに使うつもり満々に決まってる!!
 だったら逃げないと! 逃げないとーーーっ!!

 二百由旬を駆け抜ける踏み込みで、とにかくこの場から離れることだけを考えた。
 被験者にされてしまってなるものか、その一心で、行く当ても考えない全力疾走。
 脇では頭巾を必死に抑えるルーミアさんのほっぺたが風圧でぷるぷる揺れていた。


「逃がさないわよっ……!」

「ぎゃー!?」


 しかし、私の瞬間的な判断も、紫さま相手には一手及ばず。
 紫さまの、空間を無視して移動できる能力の前に、あえなく回り込まれ叫んでしまった、ぎゃーって叫んでしまった。


「う……うわあああああああぁぁぁぁああッッッッ!!!!」

「あらん?」


 叫びながら……大地を思いっきり蹴って、上空高くに飛翔する。
 とにかく逃げるので必死だった。
 自慢の瞬発力をフルに発揮し、早く、遠くへ、それだけを考えて、ただただルーミアさんのほっぺたをぷるぷる揺らす。


「ふふふ、どこへ行こうというのかしら?」

「うわああああああああっっ!?」

ふべらっ!?


 だが、どこへ逃げようとも、この境界の妖怪の前には無駄に等しかった。
 スキマを利用し、好きな場所に一瞬で移動できる紫さまには、位置さえ分かれば秒も掛けずに追い付くことなど朝飯前。
 どれだけ速く移動したとて、行く先の真正面にスキマを開き、容易く先回りしてしまうのだから。
 あまりに急に現れるもんだから、つき過ぎた勢いが止められなくて、紫さまの顔面に足を突き出して、蹴り抜いた反動を利用して方向転換するしかなかった。

 今度は地面に向かって、矢のように疾走する。
 例え無駄に等しくとも、だからって捕まる訳にはいかない。私は、ただただ精一杯抗うしかなかった。
 それでも、紫さまは容易く私の行く先へと先回りしてしまう。
 上下左右縦横無尽。都合六度の方向転換と全力疾走をくり返すも、境界を操る能力は容易く先回りしてのけては、都度紫さまの顔面を蹴り抜いた。


「んふっ…… 少女のおみ足で顔を踏まれ続ける……カ・イ・カ・ン


 今この瞬間ほど、下駄を履いておけば良かったと思うこともなかった。
 いやまあ下駄を履いてたら絶対この速度で走れないから履く訳にもいかないんだけど。


「……あッッ!?」

「ふぁっ!?」


 事態は、七度目の方向転換と全力疾走の途中急変した。
 疾走する私の足になにかが引っ掛かり、不覚にもバランスを崩してしまう。
 つき過ぎた勢いがむしろ災いし、体勢を保つことさえできない。
 抱えたルーミアさん共々声を上げてそのまま世界が平衡感覚を失う。

 反射的に、脇に抱えたルーミアさんを胸に抱えなおして、そのまま背中から地面を受け入れた。
 ロクに受身も取れずに背中を強打し、ぐあっ……と声にならない悲鳴が漏れる。
 それでも私の勢いは止まらない。
 何度かバウンドと回転くり返し、十数秒かそこら転がったところで、ようやっと私の体は止まってくれた。


「……っ……ぁ……! ……はぁ……、……ルーミアさ……だいじょ、ぶ…でした、か……?」


 仰向けで天を仰ぐ私の目には、冥界の空だけが広がっていた。
 背中の痛みで、呼吸すらままならない。
 それでも、呼吸を整えるのなんか後回しにして、胸に抱えたルーミアさんに安否の方が重要だった。


「わ、わたしは平気……! そ、それよりよーむちゃんが……!?」

「なら……よかったです……」


 彼女の無事を確認できて、ほっと一息。
 ようやく、まだ整わない呼吸のリズムを整えようと、深く息を吸う。


「あらあら〜、本当に仲睦まじいこ・と


 しかし、整う前に空を遮る何者かの影が私に覆い被さってきて。
 現状は些細な安堵さえも許してくれないほど切迫したものであると、思い知らせてくれる。


「永琳……さ、ん……」

「だめよ妖夢ちゃん。いくら大切な相手のためだからって、こう無茶をくり返されちゃあね……。
 ロマンス溢れるのは素敵なことだけど、主治医の立場としてはストップを掛けなくちゃならないってことも、分かってくれる?
 この間だって無茶して筋肉痛で体中痛めたばかりなんだから、あんまに無茶されると困るわよ」

「……自分から……足、引っ掛け…おい、て……よく、言いますよ……」

「ふふふ、ごめんなさいね」


 いまだまともに呼吸ができず、動くこともままならない。精一杯の悪態を絞り出すがやっと。
 私が動けるまでに回復するまでに、永琳さんの右手に携えている注射を打つ余裕くらい……与えてしまうだろう。
 状況は、絶体絶命……。


「…………………………」


 それでも、ルーミアさんを逃がすことくらいはできる……か。

 あの薬がどういう作用で、どんなふうに私の体に影響を与えるかは分からないけれど、
 そんないかがわしいもの、ルーミアさんに打たせる訳にはいかない……。
 なら……。

 観念して、小さく絞り出せた声で、ルーミアさんに逃げてと伝えた。

 なのに……私の体をぎゅっと……離れまいと……無言で抱きしめる腕に、力が込められる。

 違う、そうじゃない……。
 言おうと目を向けると……まだ幼さの残る赤い瞳と、強い眼差しと、目が合った。
 守ろうって、わたしが守るんだって……その強い意思が、伝わってくる……。
 皮肉にも、私と彼女の思いはひとつだった……。

 ああ……彼女を助けたかったら、私も一緒に逃げなきゃダメってことなんだな……。思い知らされる……。
 それが……嬉しい、だなんて……浸ってる余裕なんて、ないのに……。
 くっそ……動いてよ。動けよ。私の体でしょ……。


「見事捕まえてくれたようね。ふふっ、やっぱり月の頭脳は伊達じゃあないわね」


 私の体がまだ回復に費やしている間に、七度空間を飛び越え、紫さまも私たちの下へ参じた。
 丁度横たえる私を、紫さまと永琳さんがそれぞれの挟み込むような立ち位置になる。
 これで完全に逃げ場を失った……。


「ただ足を引っ掛けただけよ。頭脳はそんなに関係ないんじゃないかしら?」

「んもうっ、あなたがこちらに誘導しろと目配せしてくれたからじゃない……

「あら? 分かってもらえてたのね。光栄だわ」

「分かるわよ……貴女の、考えることですもの……。ああ、永琳……私のスイートバニー……」

「八雲紫……」


 ………………。

 互いの名前を口にし、指を絡ませ合ってうっとり見つめ合うおふたり。
 そのまま、軽く浮かんで陶酔しながらくるくる回りはじめた。イメージ映像とかじゃなくて物理的に。
 それを仰向けに横たわる私の上でやってくれる訳だから、それはとてもとても異様な光景でした。

 あんなに仲悪かったのに……本当、私たちがお昼ごはんに行ってる間になにがあったんだろう……?
 えらいひとのかんがえることはわからん……。


「「さ あ て」」

「「ひっ!?」」


 やってきました死刑執行の時。
 いや、死刑ってかむしろ生命が増えるのだけど。

 幻想郷最強最智最悪コンビは、片手だけ繋いだまま妖しくもおぞましい笑みを浮かべ、
 欲望に満ちた禍々しい眼光を真下の私たちに向けてくる。
 弾む声を合わせ舌舐めずりをする賢者へんたい同盟に、私たちも声を合わせて怯えの声を漏らしてしまう。


「交わらざりし異種間いのちに、」

「今もたらされん刹那の秘薬きせき


 絶体絶命ここに極まれし。
 手を繋ぎながら、空けたもう片方の手で注射器を構え、なんか謎の厨二的呪文を唱えながら空から急降下してくる永琳さん&紫さま。

 ああ、奇跡は訪れないんですね。


「時を経て……」


 夢など……ここには存在しないんですね。


「ここに●●●ゆうごうせし未来への胎動!」














    夢符「夢想封印」












    どかーん!        「「あー!」」






「え!?」


 注射を射ち込まれそうになるその寸前、奇跡は訪れた。僕は過去を断ち切った。
 舞い降りるおふたりを、色鮮やかな霊力の塊がいくつも瞬き、直撃し、吹き飛ばした。
 間一髪、私たちの避妊は成功したのだった。

 でもなんで……? いや、それより今のって……!


「まーったく、なんで今日も紫のやつがいるのよ……」


 ふわり、私の脇に舞い降りる気配を感じる。
 見覚えのある術式に、そしてスペルカードの名……。
 けだるそうな物言いをする声の主に、まさかと思い目を向ける。

 思った通り……巫女は、丸出しの脇を携え、そこに佇んでいた。


「霊夢さん!?」

「よっす、半レズ。……うわ、なに寝転がって抱き合ってんのよ、キモいわねえ」

「いろいろ事情があるんですよ……」


 相変わらずの差別意識から入って、精神的に追い詰めてくる安定の霊夢さんだった。
 まあこの際ワガママは言うまい、今回はマジでこの人のお陰で助かったんだから……。

 胸に抱いたルーミアさんを一旦横に置いて、上体を起こし、今一度深呼吸する。
 …………。
 ………………。
 …………………………ふぅ。
 よし……なんとか普通に話せるまでには回復したみたい。

 ケガの方は、すり傷などはいくつかあるものの、転がってる時に衝撃は分散されているようで、見た目ほどひどいダメージじゃない。
 初めて会った時のルーミアさんみたいな状態だろう、生傷がヒリヒリする以外は全然平気みたいだ。


「よーむちゃん、大丈夫……?」

「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「ふぁ……


 ちょこんと座り込んだルーミアさんが心配そうな瞳で訪ねてきたので、私は、安心させるために笑顔で応えて、そっと頭をなでてあげる。
 突然のことに驚いて声を漏らすと、そのまま顔を赤らめて……気持ち良さそうに、私の手の感触を受け入れてくれた。


「それで……霊夢さんこそ、なんでこちらに……? 昨日来たばかりじゃないですか」


 なでながら訪ねると、霊夢さんはうっわレズきっも、と歪めた顔を素面に戻して答えてくれたが、それはそれとしてコイツ斬りてえ。


「や、昨日来たからよ。私昨日、紫のヤツに強制的に現世に飛ばされたじゃない。それで……ほら」


 といって、自分の足元を指差す。
 導かれるまま足元に目をやると、霊夢さんの足元は足袋だけの状態で体を少し浮かし、靴を履いていなかった。


「……あー」


 そういえば昨日、私と霊夢さんは紫さまのスキマで紅魔館ほとりの湖まで直行で飛ばされたんだっけ……。
 屋内から直に屋外に飛ばされたから靴なんて履いてなかったし、結局"事"が終わったあと霊夢さんそのまま真っすぐ帰ってっちゃったし。
 よく考えてみたら、靴はうちに置きっぱなしということになる。
 まあ、空飛ぶんだったら靴とか確かになくても平気だもんね。

 なるほど、今朝家のことやってる最中、玄関で見かけた見覚えのない靴って、霊夢さんだったのか。


「あれ? でも今もう昼ですよね……? いくら飛べるったって、靴がないと不便だったんじゃあ……?」

「朝は別に家出る用事もなかったし外出るのめんどくさかったから」


 なんでこの人自分のダメ人間っぷりを堂々と主張してんだろう?


「んで、来たらなんか妖怪どもが仲睦まじく瘴気放ってくるくる回ってたから、浄化しといた」

「その節については深く感謝してます」


 まさかこの巫女に深く感謝する日が来るなんて思ってもみなかったけど!

 少し離れたところでは、霊夢さんの力で黒コゲになった紫さまの亡骸が転がっていた。
 大妖怪として生まれ、恐れ敬われた存在が、こうもあっさりとは……。
 霊夢さんの……博麗の血の力の強大さを思い知る。

 まああのお方へんたいがこのまま死ぬとは思えないし、存在自体が反則だからその内復活すると思うけど、あの様子じゃあすぐには復活できないだろう。
 そして、姿は見えないけれど、永琳さんもきっと似たような状態と思う。
 永琳さんだって、今朝来て早々蓬莱人の超絶再生能力を見せつけてくれたわけだし、大ケガを負っても平気と言えば平気な体なのだ。
 ま、心配することはないでしょう。

 それに、例の劇薬……えっと、ヤクモゴコロ……なんとかって薬。あっち方はさすがに違うだろう。
 きっと、今の夢想封印の威力に耐え切れず、消滅してくれたはず。
 つまり、危機は乗り切ったということになる……かな?


「えっと、とりあえず靴ですね。持ってきますか?」


 事態の収束を確信し、とりあえず恩人である脇の人の用件を果たしてあげることにした。
 私が立ち上がると、それを見てルーミアさんも続いて立ち上がり、土のついたスカートをぱんぱん払う。


「ん。殊勝な心掛けね、大変よろしい」

「なんでそんなに上から目線なんです……?」

「なによ、恩人なんでしょ。素直に敬いなさいよ。
 ……あ、やっぱ一緒に行くわ。冥界のお菓子も食べたいから。んでもてなしなさい」

「あーはいはい」


 毎度ながら横暴な霊夢さん節全開である。
 半ば呆れながらも……まあいつものことだし、助けられたことも事実なのだから、今日は素直に聞いてあげることにした。

 と、屋敷に向かおうと歩みを進めて、ようやく自分が今、思った以上に屋敷から離れた位置まで来ていたことに気づく。
 庭は庭なんだけど、一言にそう言っても白玉楼の庭は広い。相当広い。なんせ二百由旬を謳っているほどだ。
 同じ庭でも、私がいた場所は大分屋敷から離れた場所まで来ていて、客間で佇む鈴仙さんが親指よりも小さく見えるほど。
 そして幽々子さまのサイズはそれよりも大きく、手のひらよりも大きく……あれ? 遠近感の比率おかしくね?

 ……と錯覚したけれど、なんてことはない、幽々子さまがちょうどこちらに向かって走ってきていただけの話だった。
 すべてが解決して、ルーミアさんの無事を祝おうと駆け寄ってくれているのだろう。
 相変わらずの末の妹びいきのお姉ちゃんである。……あ、今はお兄ちゃんか。
 幽々兄さんのお姿は男らしいのに、走り方はいつも通りなよなよしてて、とてもシュールに見えた。
 これがギャップ萌えというものだろうか? 私にはよくわからない。


「ルーミアちゃん危ない!!」(CV:子○武人)

「―――え、」


 焦燥感を帯びながら発せられた魅惑のハスキーボイス。
 「ルーミア」という単語に反応して、後ろにちょこんとついて来ているはずのルーミアさんの方を慌てて振り向く。
 ……油断大敵とは、まさにこのことだった……。


「すまないね……紫様からの御命令だ。妖夢殿もしくはルーミア殿確保しろと、ね」


 ルーミアさんの背後には、屋敷にいたはずの藍さんが迫っていた。
 霊夢さんに吹き飛ばされた紫さまが、なんらかの形で藍さんへと指示を送っていたのだろう。
 脳内に直接語りかけることのできる紫さまだ、動けなくたって、方法はなんだってある。
 そう……まだ、終わってない……!

 そして、藍さんは命令があれば忠実であり非情だ。そこに私情は挟まない。
 命令が出た以上、その使命に全力で取り組んでくる。
 色々思うことはあった、だけどそんなの考えるのは後回し。
 今は藍さんをなんとかすることに全力を注がなくては……雑念を抱えたまま凌ぎきれる相手じゃないっ……!


「ふ、ぇ……?」


 一方、ルーミアさん自身は、まだ状況を理解していなかった。
 彼女が振り向いて、状況を把握してからでは、間に合わない……!?

 一瞬で、世界が灰色に反転する。
 全ての動きが、凍ったように動きを止めた。
 凝縮された集中力の中、刹那が永遠のように長く、永く。
 時が止まったと錯覚するくらい、ゆっくりと固まった世界の中で。
 踏み締めた足に力を込めて、


「ルーーーミアさぁぁぁんんんんんんんッッッ!!!!」


 大地が、爆ぜた。










 それは、一瞬の出来事。


「………………よかっ、た……」

「ふぇ……? はぇ? よ、よーむちゃん? なに? なに?」


 再び、私の胸に収まった彼女の姿に、安堵の息がこぼれた。

 乾坤一擲の踏み込み。
 ルーミアさんを中心に、ふたつの影が交差して。
 そして……差し伸ばされたどの腕よりも速く、私が彼女を抱き留めた。
 彼女を、守れた……。

 一瞬で色んなことが起こったせいで、彼女自身はなにが起こったか判断できてないようだった。
 でも……そんな彼女の姿も、なんだか安らぎを覚える……。

 おおっと、ほっこり安らいでる場合じゃない、まだまだ油断は禁物なんだ。
 藍さんは与えられた使命を果たさんと、全力で掛かってくるだろう。むしろここからが本番ともいえる。
 ひとまず私は、彼女に大事はないかを確認する。


「大丈夫でしたか? ルーミアさん」

「大丈夫だった!? ルーミアちゃん!」(CV:子○武人)


 …………あれ?

 先ほど、彼女の危機を伝えてくれたセクシィハスキーボイスが、私と同じ言葉を口にしていた。
 そういえば……ルーミアさんを抱き留める直前、同時に伸びる腕をいくつも見たような……?
 藍さんのそれとは違う腕。きっとそれは、幽々子さまの腕だったのだろう。

 しかし、だとしても、ルーミアさんは私がしっかりがっちりぎゅーっと保護している訳でして。
 じゃああそこのイケメンは一体誰を保護したというのだろうか?


「…………な、なによ、あんた……!?」

「…………………………………………Why?」(CV:子○武人)


 れ……



 霊夢さんだったーーーーっっ!!?    ガビーンッ!!






 あー、はい、状況を説明します。
 現在幽々子さまは、霊夢さんを押し倒したかのような体勢で上に乗っかってまして……あ、今石化しました。

 おそらく、共に客間で待機してた藍さんが動くのを見て、察しの良い幽々子さまはルーミアさんの危機を把握。
 きっとすぐに助けに駆けつけてくださったのでしょう。
 そのままルーミアさん争奪戦に参加し、んで間違って霊夢さんを押し倒しちゃったのでしょう。



 どうしてこうなった?
 私も思わずガビーンっつっちゃったよ。衝撃のあまりガビーンって。
 私は正直ルーミアさんしか見てなかったから、どう取り違えちゃったとか見てなかったし。
 藍さんも、「おやおや、これは……」なんて呟きながら、思わずその情景を見入っていた。
 ほんとどうしてこうなった?


「あー……」(CV:子○武人)


 まちがえたーーーっ! と、そんな風に考えているだろう幽々子♂さまの心理風景が、ハッキリと伝わってくる。
 察しが悪いと言われる私でも、これ以上ないくらい確信をもって、幽々子さまの御心がものっそい読み取れた。
 どうでもいいけど、幽々子さまは今男性なので、男が女を押し倒すというシチュエーションはなかなかに犯罪的なものを思わせる。


「あ、あのですね、これは……」(CV:子○武人)

「……………………」


 動揺のあまり敬語になってしまう幽々子さま。
 そして見知らぬ男性に押し倒されて、目をパチクリさせ、その姿をまじまじと眺める霊夢さん。
 うっわー、珍しい、幽々子さまの慌てるお姿なんてめっずらしー。


「ええっとですね、巫女のお嬢さん。これはですね……」(CV:子○武人)

「…………ウホッ! いい男……」

「…………………………え゛?」(CV:子○武人)


 …………………………………………霊夢さんの様子がおかしくなった。


「な、なによ……! べ、別に助けてだなんて頼んだ覚え……な、ないんだからねっ!(////)プリプリッ」


 え? なにこの霊夢さん、気持ち悪い。


「い、いいから離れなさよ! ……男と女がこんな格好で……だ、誰かに見られたら誤解されちゃうじゃない……。(////)ドキドキ…」

「御安心くださいませ御嬢さん、当方はそんなつもり一切御座いません」(CV:子○武人)

「ハッ……! そう思ってると、突然その男は私の見ている目の前で着物のホックをはずしはじめたのだ……!」

「いやいやいややってないから! まったく一切全然そんな仕草してませんから!! ってか着物にホックなんてないから!!」(CV:子○武人)


 あ、あの幽々子さまが翻弄されてる……!

 それほどまでの気持ち悪い、もとい暴走気味の霊夢さん。
 その瞳はうっとりと潤んで、上気を帯びた表情をしていて………………え? ちょっと待って霊夢さん、冗談はやめてくださいよ。
 まさかそんな展開は……まさかそんな……ねえ?


「ゆゆれいむ……キターーァ……ァーーーー……ゴフッ……!」


 ヤメロォ! そこの黒コゲ大賢者へんたいは妙な妄想をヤメローォ!!


「油断大敵よ」


 なんて幽々子さまと霊夢さんを中心に巻き起こったトラブルに注目してると、先ほど私が心に留めた言葉を復唱する何者かの声が耳に届く。
 藍さんの凛々しい声でも、幽々子さまの男声でも、瀕死の紫さまの死にかけたそれでもない。

 誰かと思い辺りを見回すと……そこでハッと息を飲んだ。


「しまっ、た……」


 気がつけば、たくさんの光の玉が……私たちの周りを包囲しているではないか。
 そう……永琳さんの使い魔だ。


「ダメじゃない、妖夢ちゃん。折角のチャンスだったのに。逃げられる時に逃げなくちゃ。お陰で助かっちゃったけど」

「永琳……さん」


 使い魔の主は、こちらにゆっくりと歩み寄り、その姿を見せる。
 凛々しい顔立ちに、体の線を強調した衣服に身を纏い、頭にはうさ耳をつけ、威風堂々と佇む、バニーガールの姿が……!

 ……結構カッコいいはずのシーンなのに、格好でちょっと台無しだなあと思った。


「もう、復活リザレクションしたんですか……?」


 霊夢さんの強力な霊力を浴び、しばらくは再起不能だと思われていた永琳さん。
 いくら死のない永琳さんと言えど、幻想郷を守護する博麗の力を浴びて、そう易々と戦線復帰はないと思っていた。
 しかしどうだ、永琳さんは今、ケガのひとつもなくピンピンしている。
 蓬莱人の強さとは……月人の強さとは、そこまでのものだったというのか……?


「残念だけど、それは見誤ってるわ。霊夢ちゃんの術式で、私は一切傷ついてないんですもの」


 言われてみれば、永琳さんのバニーの服装には、焦げ跡どころか汚れひとつない。
 今朝のように、砕けた肉体は再生できたとしても、衣服への損傷はそうはいかないのだろう……。
 当たっていたのなら、衣服の方には傷や焦げ跡くらいは残るはず。
 だというのに、それがひとつもない。

 つまり、おっしゃるとおり、霊撃そのものをくらっていないということになる……?
 体は衝撃で吹き飛ばされはしたものの、直前に防壁か何かでも張って、強大な博麗の霊力の直撃を回避できたとでも言うのだろうか……?


「それほどまでに……月人は強大な力を持つ……ということですか?」

「それも残念、見誤ってるわ……。私の力じゃないのよ」


 永琳さんは、自慢する風でもなく、私の考え違いを再び指摘する。
 それを見てか細く笑うのは……親指を立てた瀕死の紫さまだった。


「ふ……ふふ……。良かった……あなたの麗しの、バニーちゃん姿……守ること、できて……」

「ええ、あなたの四重結界、無駄にはしない……」


 おふたりのやりとりで、おおよその謎は解けた。
 察するに……霊夢さんの夢想封印がぶちかまされた時、紫さまは我が身も顧みず永琳さんに結界を張り、永琳さんを守ったのだ。
 死なず、容易く再生する彼女を、だ。
 そう…………全ては、魅惑のバニーガールを美しいまま守るために……! うん、不純だ。


「そして……あなたのお陰で守られたこの『ヤクモゴコロ−112NP』も、必ず妖夢ちゃんたちに服用させるわ……!」


 永琳さんが、決意を新たに、白い手袋をまとったその手で、ひとつのフラスコを取り出す。
 中にあるのは、間違いなく例の劇薬だろう……。
 やっぱり……。藍さんが動いた時に考えなかった訳じゃないけど、そう都合よく消えてくれはしなかったらしい……。


「もしくはこっちの『UHO‐110105』を」

「おとこのこにしちゃダメ! ゼッタイ!」


 息も絶え絶えだった紫さまが滑舌もストレートに即行否定してた。


「さて、妖夢ちゃん、ルーミアちゃん……おとなしく捕まって、このどちらかの薬を服用して、ふたりの赤ちゃんを育んで貰えるかしら?」

「お、お断りです!」


 しれっと、とんでもないことを要求する八意女医に、きっぱりと断りの言葉を告げる。
 永琳さんは、私の答えを分かっていたかとでも言うように、でしょうねと口ずさんでは、中指でそっと眼鏡の位置直しをしていた。


「できれば、同意を得た末に、円満に家族計画を見届けたかったのだけど、仕方ないわ……
 捕まえて、先生がみっちり教育してあげるからっっ!!」


 教育ってなんですかーッ!?


「藍……あなたも…バニーちゃんの使い魔と共に……攻撃に、加わりなさい……。命令は…………依然継続よッッ!」

「はっ、御意にございます」


 文字通りに身を焦がし、血を吐きながら、力強く命を下す紫さま。
 藍さんも主の執念に応える返事を返していた。

 藍さんだけでも大き過ぎる障害だというのに、その上永琳さんまで戦線復帰とは……事態は悪化の一途を辿る。
 やはり、永琳さんの言うとおり、さっきこそが最大の好機だったのだろう……。
 くっ……悔やんでも今さらどうにもならない。


「……そういう訳だ、すまないね妖夢殿。観念して頂くよ」

「行きなさい、使い魔たち!」


 それは一瞬だった。
 永琳さんの号令と共に、私たち4人を囲んだ使い魔たちの包囲網と、そして藍さんを加えた布陣での総攻撃が始まったかと思った、その瞬間。
 ただの一瞬で……全てが全滅させられていた。


「なっ……!」


 その圧倒的な様に、私はただただ驚きの声を上げるしかなかった……。

 お札、退魔の針、ホーミングアミュレット、陰陽玉……博麗が扱う数多の退魔道具が、
 永琳さんの使い魔を一匹逃すこともなく的確に撃ち落としていた。
 更に藍さんには特別強力な霊撃―――得意の夢想封印を放って、最強の妖獣と謳われる彼女でさえ瞬時に迎撃されていた。
 ほんの一瞬で、絶体絶命包囲網を全て撃退してしまったのだ。あのやる気のない霊夢さんが。


「……申し訳ありません、紫様……やられてしまった模様です……」

「はいはい、あんたは厄介だから、ちょっと黙っててね」

「はは……相変わらず手厳しいな、霊夢殿は……」


 霊夢さんの行動には、抜かりすらない。
 すかさず小型の簡易結界を作って、藍さんの動きを封じるところまで既に終えてしまった。
 後のことも見越して、格違いに強力な妖獣である藍さんが動けぬ隙に、油断のない的確な対処。
 これが……異変解決のプロフェッショナル博麗の巫女。
 もう、見事と言う他言葉が見つからなかった。あのやる気のない霊夢さんが。(大切なことなので2回言いました)


「藍と共に……使い魔たちを一蹴とは……さすが、マイスィートハニー霊夢ね……」


 コゲ紫さまは相変わらずの妄言が炸裂してた。


「誰があんたのハニーよ! ……わ、私のダーリンはね……。(////)ヾ チラッ チラッ」

「……なに見てんのよ? こっちみんな。おい、こっちみんな」(CV:子○武人)


 れいむさんやめて、わたしそんなてんかいみたくない。


「あらあら、遊んでる場合はなくってよ」


 一方永琳さんは、例え霊夢さんが気持ち悪くなろうとも沈着冷静なまま、再び使い魔で布陣を組む……!
 それもさっきの比じゃないくらい大量に……!
 八意の冷静さの前には、霊夢さんの気持ち悪さで心を乱すことなど、単なる油断に過ぎないというのだろうか?

 真面目さを保ったまま戦局を運ぶ永琳さんの敷いた使い魔の布陣は、
 霊夢さんを中心に地上から空中までを完全に覆い尽くし、まさに完全包囲という言葉相応の布陣だった。

 が……!


ぬるいッッッ!!!!」


 博麗の巫女も、伊達ではなかった。

 霊夢さんは素早く親指の腹を噛み切ると、その血をお札に塗り込み、そのままお札を地面に叩きつける。
 瞬間、激しい閃光がカッ! と辺り一帯を包み込んだ。


「ぴゃーーーー!? まぶしーーーー!!」

「わー!? 大丈夫ですかルーミアさん!?」

「うぅ〜……だめえ〜……」


 ただでさえ光に弱いルーミアさんも、これには悲鳴を上げて参っていた。
 普通に日光が平気な私でも、目を開けていられないほどの眩しさだ。
 いくら日焼け止めクリームに特製目薬を付けているとはいえ、その効能を上回る光量だろう。
 少しでもルーミアさんを守ってあげようと、辛そうにもがくルーミアさんを庇うように胸に抱いて、私の体で光を遮ってあげる。

 程なくして、光が収まる。
 瞼をそっと開けて、なにが起こったかを確認すると……そこには、霊夢さんを中心に、光の柱が神々しくそそり立っていた。

 それは「結界」。
 何者にも不可侵な、博麗の巫女が得意とする術式のひとつ。
 上空を覆う使い魔たちを弾き飛ばし、強く、雄々しく、天へと昇る光の柱が、霊夢さんを……


『え? なにこれ、なんで私まで中に居るの? ねえ!?』(CV:子○武人)


 そしてなんか位置的に幽々子さまも一緒に中に閉じ込められてた……。


『どうヤブ医者? この結界は特別製よ!
 普段弾幕ごっこで使ってるようなのとは訳が違うんだから! そんじょそこらの攻撃じゃあ突破できないわよ!』

『え? いや、向こう私なんか狙ってないんですけどね! 別に要らないんですけどね、こんな結界!』(CV:子○武人)

『大丈夫よ……私が絶対、あなたを守ってみせるから……。(////)ドキドキ…』

『ヤメロォ! その潤んだ瞳を向けるのはヤメロォ!!』(CV:子○武人)


 両手で印を組みながら、中心でなにか話している霊夢さん。
 結界を通しての声は、軽くもやが掛かっているように低く響いて、すごく聞き取り難い……。
 しかし結界越しに見えるその顔は、頬を紅潮させてもじもじとして、いつもの霊夢さんとくらべてとてもきもちわるいひょうじょうをしていました。

 それにはさすがにきもちわるさMAXだったのか、幽々子さまは必死に結界をドンドンと叩いている。
 まるで囚人のように出してくれー、出してくれーと必死に訴えかけているようだった。


『参ったわねぇ……。全然、びくともしそうにないわ……。妖夢! ようむー!』(CV:子○武人)


 と、結界の中の幽々子さまが、なにかこちらに目配せをしてくる。なにやら、私に伝えようとしてる模様……。
 眩しさに目がくらんであーうーもがいているルーミアさんを抱き寄せてよしよししてあげながら、私は結界越しに幽々子さまと向き合った。


「なんでしょうか幽々子さまー?」

『妖夢ー、ちょっと脱出するの手伝ってー。結界を斬るでも博麗の巫女説得するでもなんでもいいからー』(CV:子○武人)


 ………………うん。
 ぜんっぜん聞こえない。


「すみません幽々子さまー、結界のせいか、全然聞こえませんー」

『え? そうなの? こっちからは特に問題なく聞こえてるわよ』(CV:子○武人)


 だめだな……もごもごって感じで、全然聞き取れない。
 声が出てるのは確認できるけれど、なにを言ってるか聞き取るには、あまりにこもり過ぎてる。
 こっちの言葉が届いているのかも怪しい。
 うーん、一体どういう仕組みでできてる結界なんだろ?

 私が頭を捻っている間も、永琳さんの使い魔が、結界に向けて総攻撃を続けていた。
 それでも、結界は微塵もビクともしていない。
 さすがの博麗ぱぅあーぜよ。結界に関しては本当にすごい腕前だ。
 まあ結界に関してはこの人、あの世とこの世の境目だった幽明結界ぶっ壊すほど長けてるしね。


「……あれ?」


 永琳さんの使い魔……今、霊夢さんの結界を破壊することに総動員してる……?
 あれ……これって、チャンスなんじゃ……?


「……幽々子さまの安全も確保できてるしな……うん!」

『ん? 妖夢さん? なに迷案でも閃いたような顔してるの?』(CV:子○武人)

「ルーミアさん、ここはこの場を離れましょう!」

『ちょ!? おまっ!?』(CV:子○武人)


 ふと考えが浮かんで、私はルーミアさんにそう提案してみた。


「え!? でもでもよーむちゃん! ゆゆちゃんが……!?」

『そーよそーよ! あなたのご主人さまがここにいるのよーっ!?』(CV:子○武人)

「幽々子さまならあの結界に守られて安全です。大丈夫です」

『大丈夫じゃない、問題だ』(CV:子○武人)


 永琳さんと紫さまの最終的な狙いは私かルーミアさん。
 けれど、今藍さんは戦闘不能で、永琳さんも使い魔で霊夢さんを必死に攻撃している。
 ここは、霊夢さんという強大な戦力に意識が向いてるのを利用し、ルーミアさんを連れて逃げるのが得策ではないか。
 そう閃いたのだった。やったね。凄いね。


「それに幽々子さまなら……きっと自分のことは構わず逃げろと、私たちの身の方を案じて下さります……。
 だからここは幽々子さまの御心に沿うためにも……!」

『なに勝手な解釈してるの!? 違うからね! 出して!? ねえ出して!!』(CV:子○武人)

「そー、なのかー……!」

『そーじゃないのかー!!』(CV:子○武人)

「わかった! ゆゆちゃん、わたしたち頑張って逃げるね!」

『るぅぅぅうううぅみあちゃぁぁぁぁぁあああああああんんんんんん!!!』(CV:子○武人)


 私の提案に、ルーミアさんも分かってくれたよう。元気良く頷いてくれた。
 いや、これは私の提案というだけじゃない。
 幽々子さまの、意思なのだから……。


『いやいや妖夢、違うのよ! むしろ逆よ! 助けて!! 助けなさい!!』(CV:子○武人)


 幽々子さまが結界越しに、身振り手振りでなにかを伝えようとしている。
 きっと……頑張れとか、負けるなとか、そういった激励の言葉に違いない……。


「存じております幽々子さま! 言われなくてもスタコラサッサですね!」

「ありがとー、ゆゆちゃん! わたしたちがんばるからねーっ!」


 私は再びルーミアさんを脇に抱えると、一度幽々子さまに深く頭を下げて……全力で駆け出した!
 幽々子さまの意に全力で沿うためにも……。


『いやああああ!? 見捨てないでええええ!? 助けてええええええ!?!?』(CV:子○武人)


 ありがとうございます、幽々子さま……。
 私たち、必ず逃げ切って見せますから……!


「妖夢と……ルーミアちゃんが……愛の逃避行……!? ……がふっ!
 火傷なんかで…………場合じゃ、ない……! 追っかけ……なくちゃ……。
 あ、ああ……だけど……! だけどっ……! こっちでは……念願のマイフェイバリットカプ、ゆゆれいむが今発足しつつあるのよ……!?
 ど、どっちも……どっちも見逃せないいいいいいい!! げぶばっ!?


 ……紫さまは、相変わらずの妄言を吐いては、血を吐いていた。
 ええい、そのままくたばってしてしまえ。
 ……あ、やっぱやめて。死なないで。死んで冥界に居着かれたらハッキリ言って迷惑だから。絶対死なないで!



















更新履歴

H23・7/16:完成


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