シンクロ・ホワイトデー







 今日はホワイトデー。
 丁度1ヵ月前に行なわれるバレンタインデーにて伝えられる女の子の想いに、男の子がお返しをするという日である。
 女の子にとって一大イベント、バレンタインデーには当然私、咲耶も気合十分に参加したわ。
 それも義理チョコなんて横道なしに、本命一本!
 しかも手作りの、100%の想いを込めたチョコを意中の人に。
 女の子の一大決心のもと、込められた「ラブ」の気持ちを……想いの人に向けて……。


「ふふっ ハッピーホワイトデー、可憐ちゃん


 もっとも私の場合、想いを伝えた相手って言うのは妹なんだけど……。


「は、ハッピーホワイトデー……です。咲耶ちゃん……」


 い、良いじゃないのっ!
 そりゃあ……女の子同士ってだけじゃなくて……姉妹でもあって……それで、まあ、やや禁断な関係だけど……
 でも私たち、一応両想い……ってことなのです……

 いつも私に憧れの眼差しを送ってくれて、いつもなついてくれて、私を好きでいてくれて……。
 いつの間にか私も、私を好きでいてくれる彼女のこと、好きになっていて……。
 そしてバレンタインの日、お互いチョコを渡し合い、互いの気持ちを確かめ合ったの。


「あ、あのね……それで可憐……お返し、用意して来たんですけど……」


 恥じらいながら、後ろに両手を隠して同じように言葉を返す、愛しのマイシスター可憐ちゃん。
 隠してるその手には、きっと私のために用意したお返しが用意されているはず。
 バレンタインの日は、手作り失敗でチョコの用意できなかった可憐ちゃんだけれども、
 どうやら今回はきちんと用意できてるみたい。
 前回で手作りは懲りたと言っていたので、きっと市販のものなのだろうけど、
 それでもくれるという気持ちが、私にとって最高の、「想い」という名のプレゼントに変わる……。
 そのお返しに胸躍らせる気持ちと、その様子が可愛いと思う気持ちで、思わず笑みがこぼれてしまいそう。


「ふふっ 私の方も、ちゃあんと用意しているわよっ


 ウインクを送りながら言うと、可憐ちゃんは「ほんと!?」なんて、心底嬉しそうに目を輝かせてくれた。
 お返しは私も用意していた。
 というのも、チョコの用意できなかった可憐ちゃんに私のチョコを渡した後、
 一緒にお店に寄って、その場で買ったチョコをしっかり貰ったりするからである。
 というか、「本当に好きなら、くれるわよね?」って私がねだったからだったり……。

 だって、この日、私がお返しをする立場にあるというのは、実はとても重要なことだったから。
 彼女を"彼女"(=お嫁さん)として扱うのは……まあもちろん重要といえばそうなんだけど……
 それ以上に、私には是が非でも返す立場に立ちたい事情があったの!
 それは、私が用意する「ホワイトデーのお返し」を、可憐ちゃんに捧げるためっ!!

 私が今日用意したお返しは、形式的にあげるキャンディと、もうひとつ……。
 私のお返しもできて、可憐ちゃんからのお返しももらえる、一挙両得で、しかも究極的に自分の想いの込められるお返し。
 必殺の「マシュマロみたいなもの」!
 何がどう必殺かと言うと、炸裂した途端私は幸せの絶頂にて天国行き間違いなしだからこその必殺である。
 そのマシュマロみたいなものとは、女の子の柔らかな唇のことの例えで、つまりは、そのお返しで私は可憐と……


「うふっ……うふふっ…… ウふふふふっ……♥♥

「……あの……咲耶ちゃん……?」


 これは、私たちと同じく姉妹同士でバレンタイン、ホワイトデーを過ごした、
 あの金喰いメカっ娘から聞き出した想像以上のタレコミ情報である。
 バレンタインの前に、参考までにとバレンタインとホワイトデーを尋ねてみたところ、
 最初なぜか恥ずかしがって教えようとしなくて、
 その態度で余計気になった私は、今までの借き……もとい、資金援助の恩を引き合いに出し、
 尚且つその一部の返済免除(1000円分。当然負債者本人に金額は伝えていない)と引き換えに無理矢理聞き出しのである。
 その結果、羨ましいくらいラブラブなことが発覚し、思わず小突いてしまったけれど……。
 だけど、その羨まし過ぎるアイディアは、さすが清楚なメガネちゃんというか、是非是非参考にさせていただくことに。
 そのためにわざわざ可憐ちゃんにねだって、"お返しできる立場"を確立したんだからっ。


「…………」

「……咲耶ちゃーん……?」


 というか、あの子は影でなにイチャラブしてくれちゃってるのよ。
 どうして私が、あのガサツでズボラでメカ以外にはいい加減で男勝りな鈴公に、
 恋愛で劣らなければならないのかしら?
 その辺の、明らかに間違った恋愛事情を構成した恋愛の神様に小一時間問いただしたいというかなんというか……。
 まあ、お陰でこの究極ラブラブホワイトデー計画を組み立てられたから、この際置いておいてあげるけど。


「咲耶ちゃん、咲耶ちゃん!」

「うん?」

「咲耶ちゃん……一体なに笑ったり怒ったり百面相しているんですか……?」

「えっ!? あ、あははっ……! なんでも……」


 取り繕った笑顔と、なにかを振り払うように手を振って、今頭に過ぎらせていた様々な思考を誤魔化す。
 頭がおかしくなったと思われたのだろうか、心配されてしまったわ……。
 まあ、「あなたへの想いで、もうおかしくなってるわ」とは思ったけれど、
 それはそれでどうかと思い直したので口に出すのは控えることにした。


「ごほんっ……それで、」


 そんなことで話を長引かせるよりは、事を早く本題に進めたかった訳で、私は咳払いをひとつこぼした。


「お返しなんだけど」

「お返しなんですけど」


 その時、偶然にふたりの声が重なり合う。
 同じタイミングで同じ話を切り出そうとするなんて……うふふっ、なんだかその偶然にも運命を感じちゃうわ


「可憐ちゃんから、どうぞ」


 ここは一旦私の方が遠慮して、可憐ちゃんに譲ることにした。
 というのも、お返しを差し出してもらったところで、「それよりもこっちが欲しいんだけど」なんて台詞キメて、
 可憐ちゃんのその柔らかなマシュマロを頂いてしまおうという、
 なんともロマンチックな演出を、私のラブが瞬間的に閃いてくれたからである。
 うふふっ 驚いて真っ赤にうろたえる彼女の顔が目に浮かぶようで……
 ……またさっきのいやらしい笑い声こぼれそうなったけれど、
 それはそれでムードをぶち壊しかねないので、無理矢理押さえ込んだ。


「いえ、咲耶ちゃんから、どうぞ」

「ううん、可憐ちゃんからでいいわ」

「でも……」

「いいからいいから」


 こういうことにはなにかと起こるお決まりの譲り合い。
 でも姉妹という間柄、遠慮深い妹は姉に言い包められちゃって、「うん」って頷いて承諾しちゃうのであった。


「じゃあ、可憐から……。え、えと……」


 いざ渡すとなった時、可憐ちゃんはさっきからずっと後ろに隠してる両手をもじもじさせてはじめる。
 でも、まだ心の準備が整っていないのか、なかなか次の行動に移ることができない。
 私も、これから自分が行おうとする展開に胸が高鳴って……緊張が隠せなかった。
 そうこうしている内に、可憐ちゃんは意を決したように向き直って、


「か、可憐からのお返しは…………えいっ!」


 可愛らしい掛け声が聞こえて……その声が耳に届いたと思った瞬間、
 視界から彼女が消え、頬に……奇跡にも等しい柔らかさと、暖かさ…が……


「……へ?」

「お返しの……マシュマロみたいなもの……です」

「……はっ?! えっ? えっ!? ええーーーっっ!?!??!?」


 マシュマロのように柔らかなものの触れた頬に、手をあてて、一瞬呆然としてしまう。
 すぐに頭が動き出し、事態を飲み込んだ私は……私のほうが驚かされ、声をあげていることに気がついた。
 驚く私を余所に……というよりは、
 可憐ちゃん的にはサプライズ大成功なので恐らく予定通りの反応なんだろうけど……
 後ろに隠していた袋を取り出して、「あと、クッキーです……」なんて弱々しく付け加えていた。


「ちょ、ちょっと待って! なんで、可憐ちゃんまで……い、今のっ!?」


 一方、驚かされた私は、顔を紅潮させながら内心焦ってもいた。
 何にかって、違いはあれど、私がプレゼントしようとしたそれを、可憐ちゃんが先にくれたことに対してである。
 しかも、品名も寸分違わず同じものを。
 偶然? 運命? ……にしては、ちょっと出来過ぎてるんじゃ……。


「え、えっと……可憐、鞠絵ちゃんからね……可憐たちと同じような関係だからって……
 どんなホワイトデーだったのかなって、聞いたの……。
 そしたら……その……今のお返しを教えてもらって……。
 でも可憐は、恥ずかしいから……ほ、ほっぺたが精一杯ですっ……!」


 途切れそうに言葉を紡ぐ可憐ちゃんは、最後の言葉は本当に恥ずかしかったのか、
 赤い顔で目を逸らし口にしていた。


「ひょっとして、咲耶ちゃん……知ってました?」

「……え、ええ。私も……その、ね……鈴凛ちゃんから聞き出して……」


 そこで一旦言葉が止まってしまう。そして、こっちも顔を背けて、恥じらいながら付け足した。


「……真似しようと思ってた……」

「ええっ!?」

「あーあ……先にやられちゃったな……」


 寂しそうに口にしながら、私が狙ってた可憐ちゃんの唇に、人差し指でちょんと触れてみせる。
 可憐ちゃんったら私の心が読めたのか、両手で口を覆って、目をまんまるに見開いて真っ赤になっちゃった。


 私が欲しかったお返しは、私が思っていたのとは別の形でも、しっかりと彼女からもらえた。
 偶然でも、彼女が私の希望通りのものを用意してくれたなんて、これも心が通じ合ってるってことなのかしら?
 あーあ、でもどっちかといえば、私もあのふたりがしたような方が良かったな。
 まあ、可憐ちゃんからのキスも大満足といえば大満足を2ランクくらいゆうに超えているのだけど。
 可憐ちゃん自ら進んで、というのがポイント高くて、それをつき返すなんてとてもできなくて、でもっ、ああでもっ……!


「じゃあ……来年……です……」


 心の葛藤をくり広げる私に、もじもじとした声が届いた。
 目を向けると、可憐ちゃんは鮮やかなルージュのように赤く染まっていた。


「咲耶ちゃんがくれるマシュマロみたいなものは……来年、貰います……から……」


 …………………………………………………………。


「はいっ!?」

「それまで……心の準備、して……おくから……」

「そ、そそそそ、それって……!? それってっ……!!」

「………………………………はい……」


 興奮で、言葉が紡げない私の問い掛けに、長い合間の後、静かに頷く。
 俯いたまま、赤く、恥じらいながら……とても可憐で、可愛らしく……。


「げふっ!?」

「さ、咲耶ちゃん!?」


 その様子にハートを刺し貫かれ、彼女の様子とは正反対に、なんともはしたなくリアクションしてしまった。
 なんだか先月も同じようなことをしていたような気がする……。
 もうなんていうか、この子の殺戮的な可愛さと純真さは、私を殺すために生まれてきたと思えないというか、というか。


「あの……だ、大丈夫……ですか?」

「か・れ・んーーーっ♥♥

「きゃあっ!?」


 嬉しさの過剰摂取により抑えきれない衝動に、彼女を、バレンタインの時同様思わず抱き締めてしまった。
 突然のことに小さな悲鳴が上がるけれど、そんな彼女に抵抗する様子はなく、ただただ私の抱擁を受け入れていた。


「あ、そういえば私からの今年の分、まだだったわね」

「え……? ―――っっ!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!??!」


 彼女がその言葉に首を傾げる前に、至近距離にあるその柔らかな頬に、そっと、同じお返しを返してあげた。
 恥ずかしさの頂点に達した可憐ちゃんは、これ以上ないくらい真っ赤に染まってしまって、
 その真っ赤な姿に、本当に、私なんかを好きで居てくれるんだって実感できる。
 抱き締めた腕、抱き寄せた体から、伝わる温もり、聞こえる彼女の鼓動が……本当に幸せだと思った。


「でもね可憐ちゃん……来年には、ちゃんと覚悟、決めておいて……ね











あとがき

バレンタイン作ったんならお返しも作らなければ!
ということで意気揚々と製作したホワイトデーSS、かれさく版。
実はバレンタインより先にお返しの方が構想あったりします(笑

何気に、裏でほのらぶな清楚なメガネちゃんと金喰いメカっ娘のふたりも、出番ないのに大活躍ですね(爆
でも実はそんなふたりよりもラブラブなクセに、
どうもストレートには上手く行かないところがまた、なりゅーの持つかれさく「良さ」かと思っちょります。
そういう意味で、寸止めなのはまりりんとの差分のためでもあったりするのです。
もっとも、最初の構想では一挙両得(意訳)で行こうとしていましたけど。

ああ、それにしても、何故なりゅーの書く咲耶はこうもおっさんくさい一面が出てしまうのでしょうか(苦笑


更新履歴

H18・3/14:完成&一言雑記にて掲載
H18・3/22:SSのページに掲載


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