リバース・バレンタイン







 今日はバレンタインデー。
 言わずと知れた、女の子が自分の好きな相手へ気持ちをチョコレートに添えて伝えられる、絶好の機会である。
 この私、咲耶もその例に漏れず、そんな女の子のための行事に意気揚々と参加。
 義理チョコなんて横道は無しに、本命一本に絞っての狙い撃ちである。
 もちろん、より私のラブが込められるよう、手作りでチョコを用意したの。
 準備は万端、気合も十分、溢れんばかりのこの胸のときめきを、私の大好きな……


「ハッピーバレンタイン 可憐ちゃん♥♥


 大好きな妹の可憐ちゃんへ♥♥


「あ、ありがとうございます……咲耶ちゃん」


 い、良いじゃないっ!
 この日は女の子が想いの人に想いを伝える行事であって、想いの人が男の人とは限らないだけなのよ!!
 だ、大体、女の子同士で交換する「友チョコ」って言うのもあるでしょ!! だから良いの!!
 それに、うちの姉妹には他にもバレンタインで捧げあった妹カップルがいるくらいなんだから。
 あの清楚なメガネちゃんと金喰いゴーグルとか。

 それに、それに……それに可憐ちゃんだって……きっと私のこと……。
 いつも私に憧れの眼差しを送ってくれて、私に懐いてくれて、素敵な姉と慕ってくれる。
 いつも私のことを好きでいてくれる……。
 だから……そんな彼女が、どうしようもなく、好きなの……。


「あら? どうかしたの可憐ちゃん? なんだか、元気がないみたいだけど……」


 ちょっぴりセンチになりそうな気持ちはひとまず置いておいて、今は目の前にいる想いの相手の様子に目を向けた。
 可憐ちゃんは、女の子にとって胸を躍らせるこの日に似合わず、寂しそうな表情を浮かべていた。


「はい……実は可憐、その……バレンタインに手作りチョコ作ろうとしたんです……。
 でも、失敗しちゃって……用意、できないままで……」


 申し訳なさそうに悲しい顔の理由を口にする可憐ちゃんに、内心なるほどと納得。
 確かに、この日にチョコレートを用意できないっていうのは、少々堪えることだしね……。
 でも、結果は伴えなかったけど、できないながらも手作りを贈ろうとしたその苦労の分だけ想いが伝わってくる……。
 私も同じ手作りで四苦八苦した身としては、その意味を多少は実感してるつもり。
 そ・れ・に、私と同じ手作りでプレゼントしようって以心伝心しているあたり、私たちに運命を感じるわ


「そんな可憐ちゃんに、ブルーな気分も吹き飛んじゃう幸せをプレゼントよっ


 そう前口上をつけてから、満を持してチョコを差し出す。
 良いのよ可憐ちゃん! あなたの気持ちは分かっているからっ!
 私の気持ちを受け止めてくれれば、それだけで十分よっ


「あ……」


 ところが、絶対に喜んでくれると思い込んでいた私の予想とは裏腹に、彼女の表情は戸惑うような困ったような、そんな複雑な顔に……。


「あ、あのね……咲耶ちゃんのチョコは嬉しいよ……。嬉しいけど、でも……」


 そのままの顔で、なんともばつの悪そうに口にする可憐ちゃん。
 でも……なに?
 まさか私のチョコ、受け取れないって……そういうこと?

 ……そうよね……だって私たち、姉妹なんだから……。
 こんなの、やっぱりおかしいことなのよね……。

 自分の気持ちだけが先行して、自分勝手な妄想をくり広げて……。
 私ひとり、勝手に愛されてると思い込んで……ばかみたい。
 彼女のチョコの相手だって……きっと、ちゃんとした男の人……。
 彼女が憧れる、かっこよくって優しくって頼れて、お兄ちゃんみたいな……そんな人。
 私のことも所詮、姉として、尊敬しているだけ……所詮、「憧れのお兄ちゃん」の代わり……。

 でも良いから……。
 あなたを想えるだけで良いから……。
 応えてくれなくて良い……受け取ってもらえるだけで、良いから……。


「でも……このままじゃ……可憐の方が、"彼氏"になっちゃうから……」


 …………………………………………………………。


「へ……?」


 と、思わず間の抜けた声が、聞こえるか聞こえないかくらい小さな音で、私の口から零れた。


「さ、咲耶ちゃんの気持ちはうれしいの! というか欲しいですっ! 是非くださいっ! 引っ込めないでっ!」


 呆気にとられる私を知ってか知らずか、子供のように必死にしがみつくよう私のチョコを熱望する。
 けれど、なにかが引っ掛かって受け取れない、そんなジレンマ。


「で、でも、受け取っちゃうと……。ご、ごめんなさい……可憐ったら、ワガママばかり言っちゃって……」

「えーっと、それってつまり……?」


 恥ずかしいのと申し訳ないのが入り混じった口調と表情で、
 弱々しく萎縮する彼女に、その意図を把握するべく問い返す。
 すると、彼女の口から告げられた答えとは、


「可憐……咲耶ちゃんの、お嫁さんになりたい……ってことです……」

「ぐはぁっ?!」


 ダイレクトな口説き文句が私のハートを打ち貫いた。
 お陰さまで、なんともはしたなくリアクションしてしまう。ここに春歌ちゃんがいたらきっとお叱りを受けていただろう。
 けれど、そんなこと気にできないくらい私の心は喜びで溢れ、喜び過多で逆に心臓に悪かった。

 だってだって……お嫁さんになりたいってことは、「女の子側でいたい」という以前に、
 「私のお嫁さんになっても良い」っていう意味であって、それって、それって……。


「咲耶ちゃんは、かっこよくって、優しくって、頼りになって……その……可憐の憧れで……。だ、大好きだからっ……」


 ただでさえ興奮する私に、真っ赤に恥らいながら途切れ途切れ紡ぐ可憐の口からトドメの言葉が炸裂。
 多分彼女は狙ってなんかいない天然なんだろうけど、落としてから持ち上げるという無意識の演出に、私のハートは壊れそう。
 というか、それは私を殺すために用意したとしか思えない台詞というか、というか。


「可憐ーっ!!」

「きゃっ!?」


 とうとう抑えきれなくなった胸の衝動に、思わず抱き締めてしまった。
 小さく可愛い悲鳴が聞こえた後、「さ、咲耶ちゃん……」なんて恥ずかしそうに私の名前を口にする彼女に、
 私の心は更にくすぐられる。

 私は、私なんかに溢れるくらいの想いを向けてくれる彼女が、どうしようもなく好き……。

 ああ、それにしても、私としても可憐ちゃんをお嫁さんに迎えたいところだけど、
 このままじゃ可憐ちゃんが"彼氏"になっちゃうのは、ちょっと考えものよね……。
 ま、細かいことは後で考えるとして……


「なんにせよ、私たちが将来結ばれるってことは、決定事項ってことよね……


 今はこの幸せを、ただただ噛み締めていようと思った。











あとがき

バレンタインみたいなイベントは、百合(=恋愛?)を扱う以上やっぱ触れておきたいなと1日で作ってみたバレンタインミニSS。
1日で、と言いつつ構想自体はそれなりに出来ていたので、そんなにやっつけでもないです。

去年はまりりんでやったので、今年はかれさくで。
なんだかんだ言って、このふたりはまりりんに次ぐなりゅーの看板カプなんだなぁと実感。
ヘタすりゃまりりんより人気ありますから(笑

想いはひとつなのに、自分勝手な自信喪失に振り回される咲耶の一人相撲。
なりゅーの描くかれさくイメージとしてはスタンダートな出来に仕上がりました。
自信満々に"見せかけて"実は不安だらけの咲耶と、
そんな不安も知らぬ存ぜぬ、裏もなにもなくただ純粋に好き好き光線全開の可憐。
見守る年上と見上げる年下な関係のクセに、何気に可憐の方が力関係強いですからねぇ。
だからイイんじゃないかとっ!(爆

それにしてもこの咲耶は、オフィシャルのガーリッシュなのと違って、何かしら武骨だなぁ……(苦笑


更新履歴

H18・2/14:完成&一言雑記にて掲載
H18・3/22:SSのページに掲載


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