白雪の家での光景
「白雪ちゃーん、遊びに来たよ!」
鈴凛は白雪の家を訪れ、元気な声をかけた。
「鈴凛ちゃん、いらっしゃいですの♥」
トントンとエプロン姿の白雪がキッチンから出てきて迎え入れる。
「あ、いい匂い……」
まさに白雪の料理の最中であったようだ、流れてくる香りに、鈴凛は鼻をくんくんと鳴らしてみせる。白雪がくすくすと笑う。
「鈴凛ちゃん、上がってくださいですの♥」
「お邪魔しまーす」
白雪は鈴凛を居間に通した。
今日は日曜日、仲良しこよしの白雪と鈴凛は毎週この日、どちらかがもう一方の家に遊びに行くのである。
今週は鈴凛が白雪の家を訪ねる番、鈴凛がやって来るとあって、白雪は張り切って料理に取り掛かっていたようだ。もちろん他の誰にも作らない豪華版、白雪の特製料理。
もともと料理は好きだし、手間のかかる料理も鈴凛のためとあらば白雪は苦にならないらしい。ただ、少ないお小遣いの白雪には、ちょっと出費がこたえているのは一応の秘密。
「少し待っていて欲しいんですの♥」
白雪は鈴凛を居間に座らせるととりあえずのジュースを出す。
「うん、楽しみにしているよ」
鈴凛を手をあげてこたえる。笑って白雪がキッチンに消えた。
白雪の家でのふたりのいつもの光景。
――ふふ、白雪ちゃん、今日は何を食べさせてくれるのかなー?
エプロン姿の可愛らしい白雪の姿を、思い出して鈴凛は頬を緩める。
白雪の料理は実に素晴らしい。いつもいつも鈴凛が来るたびに手の込んだおいしい料理を並べて見せてくれる。
メカいじりにかけては他の者にそう簡単には譲らない自信のある鈴凛も、料理の事となるとトンと不器用で、自分にない技能を持った白雪にちょっとした敬意さえ覚えている。
――そう言えば……、前に手伝うって言って……。
少し前の事になるが、いつも白雪に料理を作ってもらってばかりで何か気が引けた鈴凛が、無理を言って白雪の料理を手伝わせてもらった事があった。
結果は惨憺、肉を焦がしたり、調味料の分量を間違えたりと、とんでもない事になった。
『キッチンは姫のお城ですの♥』
それからというもの、いつもお茶目にウインクして見せて白雪は鈴凛をキッチンに入れてくれなくなった。思い出して鈴凛の顔に苦い笑いが浮かぶ。
――ま、料理では白雪ちゃんには絶対かなわないし。
鈴凛はジュースを啜りながらひとり頷く。
――私は私の出来る事で、白雪ちゃんを喜ばせてあげればいいよね?
キッチンでの失敗以来、鈴凛はそう考える事にしていた。
「鈴凛ちゃん、お待たせしたんですの♥」
キッチンから白雪の歌うような声が聞こえてきた。
「うん、今行く」
今日は何を作ってくれたのだろう?
居間の鈴凛は立ち上がると、踊るようにダイニングへと向かった。
「ごちそうさま!」
料理を平らげると、鈴凛は満足げに言った。テーブルの向かいで白雪がにっこり笑う。
「白雪ちゃんの料理はいつ食べても美味しいよー」
本当に白雪の料理はすばらしい、この言葉はお世辞でもなんでもない。声に感動が籠もる。
「イヤーン♥ 鈴凛ちゃん……♥」
褒められて白雪が照れくさそうに顔を赤らめる。
「お世辞が上手いんですの♥」
白雪は立ち上がると照れ隠しのように食器を下げ始めた。
「ふふ……」
そんな白雪を見て鈴凛は笑みをこぼしてしまう。こんな可愛い白雪と一緒に食事をして、料理が美味しくないはずがあろうか?
――そうだ……。
「やっぱり食事の時の環境って大事だよね……」
つい、呟いてしまった。言ってしまって鈴凛は少し気まずくなる。
「そうなんですの!」
白雪が鈴凛の言葉の上辺だけ拾って、ピンとリボンを跳ねさせた。
「美味しく味わうには、お料理だけでなく食事の環境も大事ですの♥」
食器を下げ終えた白雪が笑った。
鈴凛は知っている。白雪がいつも料理にあわせて使う食器を選び、料理に華を添えている事を。料理そのもの以外のところでもいろいろと工夫を凝らしている事を。
「白雪ちゃんって、本当に細かいところまで気がつくよね……」
白雪の笑顔が眩しくなった。つい手元に目を落として鈴凛は呟く。視線の先には青い花柄のテーブルクロスがあった。そう言えば、テーブルクロスも訪れるたびに毎回変わって飽きさせない。流石に買い換えているわけでなくある物を使いまわしているだけだが、それでも綺麗に洗われたテーブルクロスで迎えてくれるのは悪い気分ではない。
「イヤーン♥」
視線を落とした鈴凛の様子に、テーブルクロスの事を褒められたのだと思った白雪がまた照れた顔になる。
「鈴凛ちゃんのためですの!」
褒められ続けて少し得意になったのか白雪は胸を張る。
「鈴凛ちゃんのためなら……姫は……♥」
何やら妄想が始まったらしく、白雪が頬に手を当て体を振り始めた。
――あーあ、また始まった。
こんな白雪の姿も嫌いではない。
「白雪ちゃん、白雪ちゃん」
鈴凛の声に白雪が我に帰って、そして二人の笑い声が広がった。
――ホント、白雪ちゃんはすごいよ……。
自分には到底持ちえない個性を持った白雪に鈴凛は心の底からのため息をついた。
それからデザートで紅茶を飲むことになった。白雪特製のお菓子を食べ、お茶を飲みながら二人で仲良くお喋りを続ける。
白雪の家でのふたりのいつもの光景。
「あ、鈴凛ちゃん……」
白雪が腰を浮かせた。いつの間にか鈴凛のカップが空になっていた。お代わりは、と白雪が手を伸ばす。
「うん、お願い」
鈴凛は自分のカップを差し出した。
「はいですの♥」
笑って受け取って白雪はお茶を注いだ。
「はい、鈴凛ちゃん♥」
お代わりを鈴凛の前にそっと置く。
「うん、ありがとう、白雪ちゃん」
飲もうと、鈴凛はカップに手をかけて持ち上げた。とその時。
「あっ!」
うっかり手を滑らせた。
コトン、と音を立ててカップがテーブルに落ち、横になったカップから零れた紅茶がテーブルクロスに茶色の染みを広げてゆく。
「鈴凛ちゃん!」
白雪が慌てて立ち上がる。
「白雪ちゃん、ゴメン!」
怒られる、と鈴凛は身を竦ませるが。
「鈴凛ちゃん、大丈夫ですの?」
ハンカチを持って鈴凛の傍に立ち、鈴凛の服を上から下まで白雪が見回す。
「え……?」
思わぬ反応に、鈴凛の目が丸くなる。
「どこか汚していないんですの?」
白雪がおろおろとして言う。
「う、うん、大丈夫……」
かえって戸惑い、鈴凛はただ頷く。
「そ、それよりテーブルクロス……」
言いかけた鈴凛を制して白雪は言った。
「テーブルクロスはまた洗えばいいんですの、それより姫は鈴凛ちゃんの服の方が心配ですの」
鈴凛の服を見て、別に紅茶がかかってはいない事を確認した白雪は安心した顔になった。
「白雪ちゃん……」
鈴凛がテーブルクロスを汚した事よりその服の事を気遣う白雪、鈴凛は心が熱くなった。
それからテーブルクロスだけ片付け、居間に場所を変えて、新しく入れなおしたお茶で二人でお喋り。学校の事、家族の事、友達の事、最近観たテレビの事、それぞれの趣味の事……、他愛もない事で楽しく話を続ける。
「ところでさ、白雪ちゃん?」
ちょっと出来た会話の切れ目に、鈴凛は切り出した。
「何ですの? 鈴凛ちゃん♥」
白雪が笑って尋ねる。
「来週の事なんだけどさ……」
次の日曜日は白雪が鈴凛の家を訪れる事になっていた。
「姫が鈴凛ちゃんの家にお出かけするんですの♥」
わかっている、とばかりに白雪が頷く。
「また鈴凛ちゃんのメカを見せてもらうんですの♥」
そう言う白雪はワクワク顔。普通の女の子だったら、まず敬遠してしまうような事でも白雪には楽しみなのだ。
「そのつもりだったんだけどさ……」
頬を掻きながら鈴凛ははにかんだ顔になる。
「一緒に買い物に行きたいな、って思ってさ……」
上目遣いになって白雪の顔を窺う。
「買い物……ですの?」
白雪が意外そうに首を傾げる。が、すぐに合点がいったとばかりに手を打つ。
「パーツの買い物でも何でも姫は付き合うんですの♥」
前に一度、鈴凛の買い物に二人で出かけた事があった。白雪はそれを思い出したらしい。
「そうじゃなくって」
鈴凛は笑って手を振り否定する。
「今日……、テーブルクロスを汚しちゃったしさ……」
気にしていないんですの、と言いかけた白雪を遮って鈴凛は続けた。
「来週はさ、キッチン用品の買い物なんてどうかな、って思ってさ……」
鈴凛の言葉に白雪は目をパチクリとさせる。
「り、鈴凛ちゃんに悪いですの!」
大きく両手を振って白雪は遠慮しようする。しかし鈴凛はそんな事を許さない。
鈴凛は静かに立ち上がる。
「だって白雪ちゃんとはさ……」
すっと鈴凛は白雪の隣に座る。
「これからも一緒に食事をしていくんだから……、楽しい食事の環境作りは大事でしょ?」
鈴凛は白雪の手を取り、そっと白雪の細い肩を抱いた。
「鈴凛ちゃん……」
白雪は耳まで真っ赤になる。そして赤いままで笑った。
「来週はデパートにお出かけですの!」
あとがき
なりゅー様のホームページに影響を受けて書いてみた鈴凛と白雪の百合ものです。
この手の物は初めて書くので、皆様にどう読まれるか本当に興味があります。
ほのぼのテイストで、鈴凛と白雪のやり取りを書いてみたのですがいかがでしょう?
ところで、今度は白雪が鈴凛の家に遊びに行く話でもう一話作れそうだなぁ、とか思ったり。
ではでは。
なりゅーの感想
高原涼風さんからの初投稿SS、白雪×鈴凛。
このふたりは「男の子みたいな女の子」と「いかにも女の子」な組み合わせで、
更にアニメ(第一期)の方でも、結構ふたりで共同作業とかしていたので、
結構合うと期待していたりします。
なので、実は鈴凛カプでまりりんの次に応援しているカプだったりします(笑
初投稿というだけでもありがたいというのに、
そのカップリングがそんなしらりんで来られると、
もうなりゅーの良いトコ取りです(嬉
内容も、そんなべたべたした感じでもなく、ほのぼのしたテイストなのがまた良いです。
こっそりと、白雪のことをちゃんと見ている描写とかもナイス!(笑
最後で一気にらぶらぶ指数が急上昇するところも、
「ほのぼの」として、上手いシチュエーションだったかと思います!
白雪がテーブルクロスより鈴凛を気遣う様子は、なりゅーも心が熱くなりました(笑
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