今日は二月十四日、バレンタインデー。

ボクはよく男の子みたいって言われてて、この日は毎年何人かの友達からチョコをもらってたんだ。
確かに、僕も自分のことを男の子みたいだって思うことはあるけど、男の子扱いされてチョコをもらうのは、嫌なことじゃないけど、…やっぱり恥ずかしいよ。
それに、ボクにチョコをくれるのは、一人二人なんかじゃなくて、もっとたくさん、中には知らない子からもらったこともあるんだ。
だから今日は、ちょっと憂鬱な日…


でも、今年はボクもチョコを送りたい人がいるんだ!
その相手は、ボクのあねぇの春歌ちゃん!!


……女の子にチョコを送るのって、変かも知れないけど…

ボクだって毎年もらってるんだから大丈夫………だよね?











 

貴女と私の始まりの日













ボクと春歌ちゃんはたくさんいる姉妹のなかでも結構仲がよくて、咲耶ちゃんとか四葉ちゃんはなんだか誤解して“恋人同士”なんて言って、いつもからかってくるけど……
ホントは全然そんなんじゃないんだ。
モチロン、春歌ちゃんとそんな関係になれたら嬉しいけど、春歌ちゃんはいつもお稽古で忙しいから、
ボクと一緒の時間はあんまりないし、春歌ちゃんは優しいから無理を言えばがんばって時間を作ってくれると思うけど、
春歌ちゃんが一生懸命お稽古をがんばってるのを知ってるから、そんなこと……言えないよ。


でも…でもね。
春歌ちゃんが忙しくて、なかなか時間が取れないのはわかってるけど、
だからって待ってるだけじゃなにも変わらないって思ったんだ。

それで思い切って春歌ちゃんにチョコを送って……す、好きだっていうことを伝えようって決めて
それから白雪ちゃんに頼んでチョコの作り方を教えてもらったり、なんて言って渡そうとか考えたり
その日の春歌ちゃんの予定を確かめたりしてたら、あっというまに今日になっちゃった!



春歌ちゃんは今日、弓のお稽古があるから、その帰りに待ち伏せして渡すことにしたよ。
それならあんまり人に見られたりしないし、…だ、だってみんなに見られたりしたら、恥ずかしいんだモン!

それでね、学校が終わってから春歌ちゃんに会いに行くんだ、って考えたら、なんだかそわそわしちゃって、何度も先生に注意されちゃった。
いつも家で会ってるのに、顔を合わせる前からこんなにドキドキしちゃうのは…
やっぱり今日が特別な日だから…かな?
















放課後は、しばらく真理子ちゃんたちとお話してくんだけど、今日は授業が終わってすぐに教室を抜け出したんだ。
だって、真理子ちゃんたちにつかまったら帰してもらえなくなりそうだから…
なにより、少しでも早く春歌ちゃんに会いたいって思ったから。
それで、思いっきり急いで走ってたら、先生につかまって、「落ち着きが足りません!!」ってお説教されて、結局いつもより遅くなっちゃった……トホホ。


それでも、春歌ちゃんのお稽古が終わるまでにはまだ時間があったから、むしろちょうどよかったかな?


そんなことを考えながら、ボクは春歌ちゃんにあげるチョコを取りに、いったん家まで帰ったんだ。
春歌ちゃんに上げるチョコは、白雪ちゃんに教えてもらいながら作ったんだよ!
白雪ちゃんはよく出来てるってほめてくれたけど、ボク、お菓子作りなんてやったことないから、あんまり自信がないんだ。
でも、白雪ちゃんはしっかり味見してから大丈夫って言ってくれたんだから、大丈夫なのかな?
春歌ちゃんなら、ちょっとくらい失敗してても食べてくれそうだけど………
なんて、そんなこと考えちゃダメだよね。
やっぱり、渡すんだったら責任持たなきゃ!

…うう、でも、もし失敗しちゃってたらどうしよう…


そんなことを考えながら歩いてたら、いつのまにか家に着いてて、そこで花穂ちゃんに会ったから、
念のために春歌ちゃんが帰ってきてないか訊いてみたんだ。
そしたら………

「春歌ちゃん?ううん、まだ帰ってきてないよ。…それより衛ちゃん、四葉ちゃんに会わなかった?」
「?会ってないけど…あ!花穂ちゃん、ひょっとしてこの間作ってたチョコって、四葉ちゃんに渡すための…?」

別に花穂ちゃんがそう言ったわけじゃないけど、なんとなく訊いてみたんだ。
ボクは冗談半分で訊いたのに花穂ちゃんったら、顔を真っ赤にして

「ええっ!?衛ちゃん、何で分かったの!?」
なんて言ってきたんだ。

「だって花穂ちゃん、なんとなくそんな雰囲気だったから」
多分ボクじゃなくても分かったと思うけど。
それから暫く話したんだけど、気が付いたら話し込んじゃってて、急がないと春歌ちゃんが帰ってきちゃうような時間になってたんだ。

「いっけない!もう行かないと!ごめん花穂ちゃん、ボク急ぐから!!」
「あ〜!!そうだった!花穂も四葉ちゃんのこと探してたんだった!」

…で、そんなふうに慌しく花穂ちゃんと分かれて、ボクは春歌ちゃんの通ってる道場に向かって走り出したんだ。
























はあっはあっ………まだ、間に合うかな……?

急いでここまで来たけど、春歌ちゃんと行き違いになったりしてないよね………?


……………あ!!




春歌ちゃんの道場が見えるところまで来ると、春歌ちゃんが誰かと
――――多分、柿ノ本さんっていう人――――
一緒に路地裏に入っていくのが見えたんだ。


どうしたんだろう…
道場のお友達と帰りにどこかに寄るっていうこともあるかもしれないけど、
あんなところに何かあるのかな?
女の子が寄るような場所はなさそうだけど…

なんだか気になったから、ボクはそっとその路地裏を覗いてみたんだ。
春歌ちゃんに声をかけようと思えばかけらたかもしれないけど、真剣な話だったら邪魔しちゃ悪いし…

だからって覗き見するのも悪いと思ったんだけど、なんだか無性に気になっちゃったから……


でも………ひょっとしたら、見ないほうが良かったのかも知れない。


だって……………



「春歌さん……」


そこでは、春歌ちゃんと柿ノ本さんが向かい合ってて、柿ノ本さんが春歌ちゃんに、
何か大切なことを言うときみたいに話し掛けてた。


「私、ずっと前から、貴女のことが――――――」


…………え?

今、なんて言ったの?
まさか、柿ノ本さんもボクと同じことを………


「迷惑かも知れないけど、受け取ってくださるかしら?」


そう言って、柿ノ本さんは春歌ちゃんにチョコを渡して、そのままボクがいる道まで走って戻ってきて、
ボクには気づかないでそのまま行っちゃった。

「柿ノ本さん!」

少しの間驚いたまま立っていた春歌ちゃんは慌てて後を追おうとしたみたいだったけど、
曲がり角まで来たところで、そこに立ってるボクに気づいて立ち止まってくれた。

「衛ちゃん…どうしてここに?」

少し…焦ってたみたいだったかな。

「春歌ちゃんに、渡したいものがあって」
「ワタクシに…?」



ボクがそういうと春歌ちゃんは、驚いたみたいだった。
今日が何の日かを考えたら、“渡したいもの”がどんなものか想像がついたんだと思う。
でも、ボクが春歌ちゃんのところに来るのは予想してなかったみたい。
それとも、柿ノ本さんに告白された後だから、かな?

ボクはボクで、顔が真っ赤になってたと思う。
誰かに、こんなに真剣に気持ちを伝えたことなんて、今まで一度もなかったから…
こんなときに渡すのは無神経かな、とも思ったんだけど、この気持ちを伝えるのは今しかない。
―――――そう思ったから、思い切って打ち明けることにしたんだ。


「なんだか、タイミングが悪かったかも知れないけど、でも…この気持ちは誰にも負けたくないんだ。
春歌ちゃんには、迷惑かも知れないけど、このままじゃ絶対に後悔する。だから、素直に言うよ。
春歌ちゃん…ボク、ずっと春歌ちゃんのことが好きだった。―――ボクの気持ち、受け取ってくれないかな?」


言ってる間に、ますます顔が赤くなっていくのが分かって…
どうしよう、うまく伝えられたかな……?

なんだか、言ってるうちに、自分でも何を言ってるのかわからなくなっちゃって、
頭の中がぐちゃぐちゃで――――

そうしてボクが差し出したチョコを見て、春歌ちゃんは今までで一番驚いた顔をしたんだ。

「衛ちゃん…衛ちゃんも、ワタクシと同じことを…?」

……え?

「衛ちゃんも、っていうことは、春歌ちゃんも…?」
「は、はい。何というか、衛ちゃんが言ったことを、ほとんどそのまま言おうとしていました」

そうだったんだ…。
ボクたち、二人で同じことを考えてたんだ――――そう思ったら、なんだかおかしくて、二人して思わず笑っちゃった。

「なんだかワタクシと衛ちゃんって、意外と似ているのかも知れませんね」
「そうだね。ずっと、春歌ちゃんはボクなんかとは全然違うって思ってたんだけど、そんなことないみたい」

「あ!そうですわ。ワタクシからも…」

そう言って春歌ちゃんは、自分の荷物の中から、綺麗にラッピングされたチョコを取り出すと、
ボクに差し出して言ったんだ。

「言いたいことは、ほとんど先に言われちゃいましたけど、改めて言いますね。衛ちゃん、ワタクシも、衛ちゃんのことが、ずっと好きでした。
ワタクシの……………恋人に、なっていただけますか?」

………!!
春歌ちゃんからそう言われたら、ボク、嬉しくなっちゃって、考えるより先に言っちゃった。

「もちろん!!大歓迎だよ!!」
「ありがとうございます。これで晴れて恋人同士ですね、ワタクシたち」

春歌ちゃんも笑ってそう言ってくれたよ。
でも、そしたらさっきまで気になってたことを思い出しちゃった。

「でも春歌ちゃん、柿ノ本さんのことはどうするの?」

あっさりボクのことを「好きだ」って言ってくれたけど、先に告白した柿ノ本さんのことはどうするんだろう。
考えてみると、ボクより柿ノ本さんのほうが、春歌ちゃんとお似合いだし…

春歌ちゃんも、少し困ってるみたいだった。
「そうですわね…決して柿ノ本さんのことが嫌いというわけではないのですが、恋人として考えたとき、
ワタクシの一番は衛ちゃんなんです。柿ノ本さんとはいい友達でいたい、というのがワタクシの気持ちなんです。
我侭かもしれませんけど、今は、分かってください。いずれ必ずはっきりさせますから」
「春歌ちゃん…」

ボクも、まだすっきりしないところはあるけど、春歌ちゃんにそう言われたら、なにも言えないよ。
それに、春歌ちゃんならきっと納得できる結論を出してくれるって信じてるから…


「うん、分かった。春歌ちゃんがそういうんだったら、ボクはそれでいいよ。
それから、受け取ってくれてありがとう。…これからもよろしくね」

「はいっ!ずっと一緒にいましょうね、衛ちゃんv」

春歌ちゃんの笑顔。
いつも見てきた笑顔とは違う、特別な笑顔。
この眩しい笑顔から、ボクたちの新しい日々が始まったんだ。








                                        fin




 


作者のあとがき

毎度毎度ここに書きたいことがあるはずなんですが、書き始めると忘れます(ぇー
今日ははじめまして瑯です。ろうと読みます。
前から書こうと思っていたはるまもバレンタインSSです。如何でしたか?
推奨カプbPということで気合入れました。まも口調が難しかったです。
春歌は春歌で口調が微妙だし出番少ないし、なにより一番報われてないのは柿ノ本さんですね(柿ノ本さんファンの皆さんごめんなさい
この展開は今後も引っ張っていくので、どうにかそれなり、いや相当な話を書かないと本気で報われません。
でもあれでも待遇良くなったh(抹殺
今回良く出来たところはいつもよりしっかりした伏線を入れることが出来たとこですね。
次に来る予定のカプは…読めば想像つくと思います。
さて、珍しく書きたいことが書けましたがあと一つ二つ。
一番上の自己紹介、そろそろ飛ばしていいですかね。毎回やるのがいい加減めんどいです(殺
はい、言いたいこと全部言いました。
最後に、この作品を読んでくれた皆さん最後までありがとうございました!!


なりゅーの感想

瑯さんの推奨カプbPといわれるはるまもバレンタインでした!
この展開が引っ張られる……ということで、
今後、このカップリングがどのように広められていくか、今からもう楽しみです!
ひょっとして、衛と柿ノ本さんの春歌を巡っての対決が見られるのでしょうか?(笑

口調でかなり苦労されたようですが、その苦労の甲斐あってか、
なりゅーにはどのキャラの口調も上手に描けている印象を受けました。
口調だけでなく、細かいところからも"衛らしさ"が見え隠れしてると思います。

また、最初の衛の「自分だって貰ってるんだから 〜」という解釈は、
個人的にとても気に入りました(笑

瑯さん、今後も推奨カプbPとうたわれるはるまも、期待しています!!


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