桜散る
 


今年も桜が咲いた。
桜は嫌いだ。
あの人を思い出すから。
あの人を忘れたくない。
忘れられるわけない。
だけど、思い出したくない。
胸が痛いから。
まだ心の中がぐちゃぐちゃで。
あのお別れの日から一度も、私はあの人の名前を呼べていない。
あの人のお墓には何度も行ったのに。
それでもあの人がもういないなんて信じられない。

あの人と初めて出会ったのは4月。
あの人の4歳の誕生会。
ジジが人づきあいは苦手だったせいで「姉妹」がいることをそれまで知らなかったんだ。
あの人は私が初めて会った「姉妹」。
だから11人いる中でも特別な「姉妹」だったのに。
私が誕生会についた時、子犬をもらってあの人ははしゃいでいた。
ずっとお願いしていたんだって。
子犬の名前はミカエル。
読みだしたばかりの聖書から名前を付けたんだって言ってた。
あの頃のあの人はまだ元気いっぱいだったはずなのに。
どうして聖書なんて読んでいたの?
もう答えなんか返ってこないとわかっているのに。
アタシはまだ聞きたいことがいっぱい残ってる。

あの人と初めて離れたのも4月。
遠くの療養所暮らしが始まった時も桜が咲いていたよね。
療養所で一緒にお花見したっけ。
点滴と車椅子が痛々しかったな。
それでもあの頃は割と外出とかできたんだよね。
たまにだけど外泊だってしてたし。
外泊もできなくなってきたのはいつからだっけ?
外泊ができないならアタシがもっと療養所に行けばよかったのに。
研究資金で万年金欠だった上、留学もしてたアタシがお見舞いに行った回数はきっとほかの子たちよりも少ない。

あの人と最後に会ったのも.....4月。
20歳の誕生会、楽しみにしてたんだよね。
だからって、その次の日に逝くことないのに。
誕生日、そんなに楽しみだったの?
だからその日までは生きたいって願ってたの?
医者にそう説明されたけど、アタシ、納得できないよ。
生きたいって願えば生きられるなら、ずっと生きててよ......
もういいや、なんて思ってなかったってアタシ、信じてるよ。

ねえ、桜の短歌を教えてくれたのはいつだっけ。
あの人が一番本を読んでいた頃だから、アタシが中学生の頃かな。
「願わくば 花の下にて 春死なん その望月の如月の頃」
昔の偉いお坊さんの歌なんだよね。
古文は苦手だったアタシにも意味がわかる、わかりやすい歌。
笑ってこの歌をアタシに教えておきながら、自分も桜が散る頃に逝っちゃうなんてズルいよ。
冗談じゃなくなっちゃうじゃん。

最後に話した時、さくらんぼの話したよね。
フルーツポンチにひとつだけ入ってるさくらんぼ。
それが欲しかったのにアタシがいつもそれをとっちゃうから欲しいって言えなかった、って。
だからいつかさくらんぼ狩りに行こう、って話したよね。
まだ、行ってないよ、さくらんぼ狩り。
それなのにどうして逝っちゃったの......
空約束ばっかり残してさ。
そんなの、全然らしくないよ。
約束、守ってよ.......
アタシ、一人でなんか行きたくないよ。


今日はあの人の命日。
アタシはこの響きをまだ受け入れられていない。
アタシには今でも今日はあの人の誕生日の次の日。

でも、もう前を向かなきゃ。
だから、もうやめなきゃ。
今日を「誕生日の日」だと思う事も。
「あの人」なんて呼ぶことも。


鞠絵ちゃん。
鞠絵ちゃん、今やっと呼べたよ。
ねえ、これが鞠絵ちゃんのお墓だなんて信じられないよ。
信じたくないよ。

あれからもう何年たったのかな。
姉妹はみんな大人になっちゃったよ。
でもね、アタシだけ時が止まってる気がするんだ。
鞠絵ちゃんがいないからだよ。

ねえ、出てきてよ。
出てきて冗談だよって笑ってよ。
もう鞠絵ちゃんがいないなんて信じられないよ。


気づいたらアタシの顔はぐちゃぐちゃで、周りは夕方になっていた。
アタシは何時間泣いていたんだろう?
せっかく覚えた化粧も台無しだろうな。
ねえ、鞠絵ちゃん。
アタシ、化粧を覚えたんだよ。
あの頃のアタシとはちょっとずつ変わってきてるんだよ。
鞠絵ちゃんだけもう変わらないなんてズルいよ......
アタシがおばさんになっても20歳のままなんて。

鞠絵ちゃん、忘れないよ。
絶対忘れられないよ。
でも、もう前を向いて歩いて行くよ。
だから、これからはお墓の前で泣かないから。
今日だけ、今日だけ、もうちょっとだけ......
泣かせてください。



The end


 


あとがき

思いっきりアンハッピーな話が書いてみたくて、こうなりました。
思いつく限りのエピソードを詰め込むために回想形式です。


なりゅーの感想

折角のということで朽葉さんから投稿に預かったありがたSS。
鞠絵題材に扱う上で、ほとんどの作家が考えるであろう「死別系」。
またも、“ある意味”まりりん派のなりゅーでは滅多にお目にかかれない一作です。
……やっぱりどうしてもね、幸せになって欲しいと思うのが人情というか……(苦笑
しかし、だからこそ価値もあるというものです!

普段なりゅーの描く明るさマックスな鈴凛とは対比的な、過去に押し潰されそうな暗く重いものですが、
それも鈴凛の隠れたセンチメンタリズムをしっかり表現して、良くキャラを出していたと思いました!

過去の思い出を独白しての羅列は、決して浅い訳でなく、むしろ凝縮された印象を受けます。
それも、一人称ゆえに感情がたっぷりこもっています!
さんくらんぼなんて些細な出来事も、些細なだけにより悲しさを沸き立たせます……。

金欠、留学で一緒に過ごせた時間が少なかった悲しさ、後悔や、
化粧を覚えたことに、時の流れを強く感じさせるなど、
鈴凛の「鈴凛」たる要素をしっかり捕らえられ、描かれている。
これこそ、他のどのカプにも変えられない「まりりん」として描かれた作品と言えるでしょう!

個人的に誕生日の件は、「翌日に」という悲劇性よりも、「迎えた」という達成感の方が強く印象に残りました。
出番のがないにも関わらず、鞠絵のキャラクターを立てるとは……さすがです!

全体的に暗い作風ではありますが、しかし、単なる鬱作品では終わらず、
それでも最後は「名前を呼べた」という区切りを入れての前を向きなラストに仕立てられている、そこもまた良いです!

これはこれでアリな良きまりりんを、朽葉さん、ありがとうございました!!


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