Frozen KISS







 今日は1月1日。
 一年の始まりの日、元旦。
 年が明け、新しい気持ちで一年を迎えることを家族と祝うめでたい日。
 でも……体調が優れなかったわたくしは、
 その日を療養所でただひとりきりで過ごすことになってしまいました……。
 みんなが楽しく過ごす中、自分はひとり寂しく病室で……。
 仕方ないとは分かっていながら、切ない気持ちは胸の中であふれてしまう……。

 そんなわたくしの心を知ってか、鈴凛ちゃんはその日にお見舞いに来てくれると仰っていました。
 その鈴凛ちゃんの心は、まるでわたくしの心の曇り空を風がかき消し、
 その合間から覗いた太陽から、春の日差しの恩恵を受けたように暖かくなりました……。

 けれど、肝心の元旦の今日……


「……雪。結局、やまなかったわね……」


 わたくしの語り掛けに、ミカエルがワンと答えてくれる。

 今日の天候は大雪。一日中、吹雪に近いほどの悪天候。
 そんな天気の日に、街から遠く外れたこの療養所に来るなんて、
 とてもじゃないけれど、無茶な話です……。
 だからわたくしは、鈴凛ちゃんの身を案じ、無理に来なくでも良いとのメールを送りました。

 わたくしは、その気持ちだけで十分ですから。
 わたくしは、十分あなたから、あなたのあたたかさを分けて頂きましたから。


「鈴凛ちゃん……やっぱり……」


 それでも、心の中の期待は捨て切れなくて……
 開くドアから、あなたの声が聞こえてくるのを待っています……。
 けれど、そんな期待ももうすぐ諦められます。
 だって、今日の面会時間は、もうすぐ終わりを迎えてしまうから。


「それでいいのよね……。わたくしなんかのために苦労させてしまうよりも、鈴凛ちゃんには、暖かい中で新しい年を迎えて……」

「やっほー……鞠絵ちゃん……」


 迎えて欲しいから、と、口にしようとした直後、
 今日一日、何度も何度も期待した声が、現実のものとなってわたくしの耳へと届きました。


「り、鈴凛ちゃん!?」

「あはは……遅れてごめん……」


 その挨拶は、いつものような元気のない、疲れきった搾り出すような声。
 それが、ここまでの道のりの苦境をわたくしに鮮明に伝えてくれました。
 慌てて、鈴凛ちゃんを迎え入れるため駆け寄るわたくし。
 この大雪の寒さを凌ぐために着込んでいた鈴凛ちゃんの上着や毛糸の帽子には、
 払った雪の残りやそれが溶けた水滴がたくさんついていて、
 その顔は、外の寒さで赤く染まっていました。


「無理して来てくださらなくても良かっ―――きゃっ!?」


 突然の冷たい感触が唇に触れ、驚いて後ろにさがってしまうわたくし。
 目の前には、間近に存在する鈴凛ちゃんの、真剣な顔がわたくしに向けられています。
 鈴凛ちゃんの「挨拶」がなにかを既に理解しているわたくしは、
 唐突な不意打ちに、触れられた口を手で覆ってただただ顔を赤く染め上げるのでした。
 その様子を確認すると、鈴凛ちゃんはその顔でにっこりとわたくしに笑いかけて、


「だって『一年の計は元旦にあり』って言うんでしょ?
 だったらキス魔な鞠絵ちゃんは、一年の験を担ぐために、今日にアタシとキスしたかったんじゃないか、ってね


 言葉を聞いて、胸がきゅんと、締め付けられるように高鳴った。
 だから鈴凛ちゃんは、大雪にも関わらず、今日という日に……。
 笑顔を向けるその顔が赤いのは、冷たい風のせいなのか、それとも……ううん、それは絶対に、
 いつもは恥ずかしがって、自分からしてくることなんてない彼女の照れ隠し。


「でも……そうなると鈴凛ちゃん……」


 験が担がれたら、鈴凛ちゃんにはちょっと大変な一年になってしまいます……。


「あはは……。…………覚悟しとく……」


 なんせ鞠絵ちゃんを好きになった時点で、アタシの負けなんだから……。
 そう口にしながら、ぽりぽりと人差し指で頬を軽くかく。


「……勝ち負けなんかじゃ、ないです……。それに……勝ち負けで言うのなら……」


 寧ろ、勝ちはあなたの方……。
 だってこんなにも……わたくしの欲しいぬくもりを当ててしまうんですから……。
 胸に込み上がる嬉しさ、あたたかさ、言葉に言い表せない感情。
 口で伝える代わりに、少し湿った防寒具の上からぎゅっとあなたを抱き締めた。


「あ……アタシの体、今冷えてるから……。そんなことしたら鞠絵ちゃん冷えちゃう……」


 鈴凛ちゃんの忠告も、聞き入れることなく、返事の代わりにもっとぎゅっと抱き締めた。
 雪の中の寒さを一身に受けた彼女の体は、外の寒さをわたくしに伝える。
 体を冷やすことは、お医者様からかたく注意されているけれど、それでももっと、ぎゅっと抱き締めた。


「……あけましておめでとう。鞠絵ちゃん……」


 だって、その冷たさの分だけ、あなたの暖かさが伝わってくるから……。











あとがき

2006年元旦に、何かしらしたいなと思いつつ、思いついたので1日で仕上げて一言雑記の方に掲載しておいたまりりんSS。
そのまま流れて人目に触れなくなるのはもったいないと、持ち前の貧乏性が発揮したので、
機会を見計らってSSページに掲載してみました。
ある意味で、まりりんバカななりゅーの験を担いだ、このサイトを象徴する作品です(笑

結局なりゅーが書くこのふたりは"ちゅっちゅちゅっちゅ"なんだなぁと頭を抱えつつ、
それはそれで良しと開き直って突っ走るつもりであります(爆
ある意味でそれがなりゅーの「味」ですよ、うん。……いいよね?

実はまりりんは、あまり鞠絵視点では書いていないので、
今まで書いてきたような鞠絵の「してやったり」とは反対のパターンになっています。
でもそれはそれで描きたかったことでもあるので、個人的にはそこを描けたことが満足です。
このふたりはどっちかが上とか下とか、亭主関白とかかかあ天下じゃなくて、やっぱ対等なんですよ。書く機会が少ないだけで。
しかしどうしていつも「してやられる側」の視点になってしまうのでしょうか……?(苦笑


更新履歴

H18・1/1:完成&一言雑記にて掲載
H18・1/2:やや修正
H18・3/22:SSのページに掲載


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