とある日曜日。
 空には雲ひとつなく、太陽はさんさんとボクらを照らしていて、天気は絶好のスポーツ日和だ。
 運動大好きなボクにとってそれはもう最高のシチュエーション。
 今にも動き出したい気持ちに駆られて、体がうずうずしちゃう。
 そんな日に、ボクはボクらしくなく、待ち合わせの場所でひとりジッと人を待つ。
 腕時計に目を向けると、ここで黙って待ちぼうけてから、もうかれこれ30分過ぎ……あ、40分になってた。
 さんさんと輝く空を見上げ、その一面の青に向けて「ふぅー」とため息を吐く。
 別に待ち疲れたわけじゃないんだけど、ただこんな日に動けないことが辛かった。


「ごっめーん、待ったー?」


 太陽の誘惑に、スクワットでも始めようかと思い始めた矢先、
 遅れて待ち合わせ場所にやってきた相手の、その調子の良さそうな声が辺りに響く。
 声に反応して、空に向けた視線をそっちに向けると、そこにはボクの方へと向かってくる待ち合わせた相手の……鈴凛ちゃんの姿が。


「遅いなぁ……もう待ち合わせから30分も過ぎちゃってるよ」


 待たされた不満を、軽くぶつけてみるボク。
 それでもちょっと遠慮して、時間はおまけしちゃったけど。


「ごめんごめん。どうもこういう日の前の日に限って、新作メカの作業が捗って夜更かししちゃうのよ」


 全然反省の色も見られない、ボクの不満よりも軽い態度で、遅刻の理由を説明する鈴凛ちゃん。
 待たされたことより反省していない点に、不満をちょっと煽られたけど、
 そんな鈴凛ちゃんの様子を、今までの付き合いから半分諦めた気持ちで眺めては、
 行き場のないやるせなさを大きなため息に変えて外に出しておいた。


「もう良いよ。早く行こう、時間なくなっちゃうし」

「そだね。じゃ、行こっか、衛ちゃん」

「うん……って、うぇぇえっ!?」


 まるで自然な動作で、ボクの腕を取って歩き出そうとする鈴凛ちゃん。
 ボクは突然のことにうろたえ、赤くなってしまう。
 そんなボクを見た鈴凛ちゃんは、なんだかにやけるように顔を緩めはじめた。


「あらぁ? どうしたのまもちゃん?」

「う、うるさいなぁ!」


 からかうようにまもちゃんなんて呼んで、ボクの腕をより強く抱き寄せてくる。
 多分、間違いなく分かっててやってる……。っていうか、拍子に……鈴凛ちゃんの、胸が……。
 今日はズボンをはいて男の子みたいに決めちゃってるクセに、こういうところでしっかりと隠れている女の子をアピールだなんて……。
 依然からかうように笑う顔にプラスして、腕に当たる感触になんだか悔しく感じてしまう。
 赤くなる顔でちょっぴり反抗的になって、プイッと顔を背けてみせたけれど、
 そんなボクの様子も鈴凛ちゃんにはお見通しのようで、ふふっと笑っては更にボクの腕を抱き締めてみせる。


「さ、今日はたっぷり遊園地デートを堪能しましょうか


 ウインクして楽しそうに言う鈴凛ちゃんに、悔しさを覚えながらも、仕方ないななんて考えるボクの顔は柔らかくほころんでいた。
 そうして、ボクたちは今日の「デート」に向けて、遊園地へと足を進めはじめた。










 

いってみよう、やってみよう、デートしよう













 話は数日前に遡る……。


「…………」


 その日のボクは愕然としていた……。
 いや、違った。
 その日のボク"も"愕然としていたんだ。


「はぁ……」


 普段、絶対に来る事のない図書室の中、誰にも見られないすみっこの席に座り、
 その机の上、山積みされているものを目の前にため息をこぼした。
 別に、大量の宿題を出されたから気持ちが落ち込んでいるわけじゃない。確かに勉強は苦手だけど……。
 でも、今目の前に積み上げられてるものは、そんな頭が痛くなるものなんかじゃなくて、人によってはむしろ貰って嬉しいもの。
 今、ボクの目の前には……大量の、ラブレターの山が……。


「あー、こんなもの誰かに見られでもしたら……」


 それ自体はまあいい……量が量だけにあんまり良くないかもしれないけど、そっちは別に、抱えている問題に比べるとまだまだ軽い。
 なにがダメかって……これ全部、くれた相手が、同じ女の子からだから……。


「ひゅー♪ モッテモテ、さすがは衛ちゃんね」

「はぇぇっ!?」


 突然の呼びかけに驚き、思わずヘンな声が上がる。
 誰にも見られたくない、なんて考えていたまさにその時に、なんてタイミングの悪さ。
 どう言い訳しようかなんて考えながら、とりあえず慌てて声の方向へと振り向いてみると、


「……って、なんだ、鈴凛ちゃんか……」


 声の主を確認するなり、安心して胸を撫で下ろした。
 それは、ボクのたくさん居る姉妹のひとり、鈴凛ちゃんの姿だったから。
 鈴凛ちゃんは、「ちーっす」なんて陽気に挨拶を返してくれていた。

 ボクには離れて暮らしている姉妹がたくさん居て(事情はよく分からないけど)、鈴凛ちゃんもそのひとり。
 メカいじりが大好きで、運動好きなボクとは対照的な趣味の持ち主だけど、
 反面、ボクとおんなじ男の子みたいって言われるタイプで、同じ若草学園に通っていて、だから親近感が湧く相手でもあるかな?
 だから、こんな場面で出くわした相手が、鈴凛ちゃんという近しい相手で安心したんだ。
 こんな場面、クラスの女の子や、その友達なんかに見つかったら、また冷やかされちゃうだろうし……。


「相変わらず大収穫じゃない。嬉しい? 王子様」

「あははー……あんまり嬉しくない」


 まあ、鈴凛ちゃんもからかってくるといえばからかうけど……規模小さいし……。
 それに、安心したのは別の理由からなんだ。
 とりあえず、鈴凛ちゃん「王子様」って台詞に「やめてよね」なんて付け加えておく。
 今、まさにそのことで頭を抱えているんだから、余計に気落ちしそうになっちゃうよ……。


「や、だって衛ちゃん男の子に憧れてるでしょ? 変身願望?」

「別にそこまで行かないけど……」


 確かに、ボクはいつも男の子だったらって思う時が良くある。
 特に大好きな運動をしている時、体力的な男女の差を見せ付けられたりとか。
 でもボクは、その差ってものを言い訳にしたくないっていうか、むしろハンデがあるから「負けないぞ」って燃え上がるっていうか。
 だけど……その都合に向こう合わせてくれないことが問題なんだ。
 そういう時、大抵男の子は手加減したり、勝負の後で「女相手に本気出せねえよ」なんて言われちゃったりして……。
 そんな風に言われるくらいなら、ボクは男の子の方が良いなって思ってた。


「でもやっぱりボクは女の子なんだと思った……」

「つまり嬉しくないと」

「イエス、サー」

「それ男の上官に言う台詞だったよね?」

「うん」

「分かってて使ったなコノヤロウ」

「"ヤロウ"ってのも男に対してだよね?」

「…………」

「…………」


 しばらく言い合ってから、そしてお互い不服そうな顔で黙って睨み合う。
 沈黙、沈黙、沈黙、そして……


「「はぁ……」」


 空しくなった。


「で、鈴凛ちゃんは何? 図書室で将来のための勉強?」

「あー、いつもはたまにそうしてるんだけどねー……。今日は……その……」


 唐突に、言葉を詰まらせながら、気まずそうにほっぺをぽりぽりかき出し始める。
 ボクはその様子に首を傾げ、じっと眺めながら鈴凛ちゃんの言葉を待っていると、
 鈴凛ちゃんは何かを観念したように、ひとつ大きく息を吐いてから、


「衛ちゃんと同件……」


 げんなりとした表情で、数枚の手紙をトランプのように扇状に広げて、ボクの前に出した。


「うあ……」


 思わず声が漏れる。
 差し出された手紙の、そのどれもがハートのシールで封をされていて……
 今、ボクの目の前に山積みにされているものと同種の装飾と込められた想いのオーラがかもし出されていた。
 ふと目に入った1枚には「小森」と名前が書いてあった。

 そうなのだ、ボクと鈴凛ちゃんみたいな男の子みたいな女の子は、何故か……同じ女の子にモテてしまうのだった。



 ・

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「ジェットコースター、良かったわねー」

「うん! 最高だったね!」


 遊園地に入場するなり、遊園地デートの一発目を飾るアトラクションはなにしようか、って話になった。
 その時、「遊園地の目玉といえばこれしかない!」と意気投合したボクたちは、まずジェットコースターに向かったんだ。
 結果は……予想通りの面白さに、ふたり口を揃えて絶賛!
 風を切って走るスリルとスピード感はもう最高の一言!
 見事このデートの幸先のいいスタートを切ってくれたんだ。


「…………」

「どうしたの? 突然黙っちゃって」


 なのに鈴凛ちゃんったらそんな満足そうな顔を、急に思い悩むような表情へと変えちゃって。
 あんなに満足したって言い合っておいて、一体なにが不満なのか……?
 そう思って、どうしたんだか聞いてみたんだけど……


「いやー、デートでこういう場合、片方がふらふらになって、そこから甘い雰囲気になだれ込むのが定石かなって思って……」


 なんて答えをボクに返してくる。
 それから、ボクの姿を足元から順番に一通り眺めてくる。


「アタシたち、どっちも平気ね」


 とても、ふらふらになって甘い雰囲気になりそうな兆しは欠片も見当たらない……。


「で、でもそれって、ドラマかなんかの場合でしょ? 実際の話だったら別に……」

「まあそうだけど……でも、それじゃあ……カッコイイクラスメート、もしくは憧れのお姉さまに甘えられない……」

「……えっと……スリルを味わうボクってかっこいい?」


 戸惑いながらも、ちょっぴり気取って聞いてみる。


「いや、アタシも平気だから、憧れない」


 顔の前で手を横に振って、分かりきった残念なお返事が返ってきた。
 「それどころか寧ろ楽しんでたし」なんて付け加えられた後で、お互い向かい合ったまま少しの間硬直。
 そして、声を揃えて。


「「だめだー」」



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「ボクのことを思ってくれる気持ちは嬉しいけど……やっぱり、彼女たちの気持ちには応えられないよ」


 ラブレターの山を前にして、自分の気持ちを素直に鈴凛ちゃんに告白した。


「うっわー、プレイボーイな台詞」


 その台詞に少しカチンとくる、ボクは真面目に言ってるってのに。
 じとーっと黙って睨みつけてみて、分かりやすく不満な気持ちを表現してみせる。
 鈴凛ちゃんは「おー、怖っ」なんておどけた態度で、両手を広げて首を振った。例の外人さんおなじみジェスチャーだ。
 まあ確かにね、それっぽい台詞だったけどさ、ボク男の子じゃないし。男の子が言うのとじゃ意味合い変わってくるでしょ?


「別に、気持ちに応える必要ないんじゃないの?」


 メリハリがあるというか、気持ち切り替えがうまいというか、
 鈴凛ちゃんはさっきまでの冗談交じりな態度を改めて、今度は真面目な回答を返してくれた。


「でも、だって……折角、勇気を振り絞ってくれたのに……」

「じゃあアタシにも応えろって言うの……?」


 トーンの下がった声で気重そうに、もう一度手紙をトランプのように扇状に広げてボクの前に出す。
 かもし出るときめくハートの威圧感が、ボクに身に覚えのある苦悩を思い起こさせる。


「えっと……」

「同類ですがなにか?」

「か、数ならボクより少ないから……」

「その分濃度が多い」


 中身結構マジなのよ……と付け加える鈴凛ちゃんの表情は、
 まるで自信満々で挑んだ競技に予選落ちしてしまった選手みたいに、とても重苦しい表情だった。


「「はぁ……」」


 そして揃って肩を落した。


「なんで、同じ女の子相手にこんなことしようなんて思うのかな……?」


 軽く肩を落としたままで、ボクは思わず素朴な、そして当然な疑問を口に出してしまう。
 誰に投げかけたわけでもないのだけれど、それを聞き届けた鈴凛ちゃんは、


「んー……憧れとかそういうのじゃないの?」

「憧れ?」

「そうそう。大抵こういうのくれる子って、いかにもな女の子か引っ込み思案な大人しい子か、アタシたちと真逆のタイプばっかでしょ?
 だってアタシ、男の子とガンガン話せて羨ましいって言われたことあるもん。
 まあ、明るく陽気な感じの子が、冗談交じりでやるのも多少はあるけど……」

「でも、だからって……」

「あとは、近付きやすいからじゃないかな? 同じ女の子で、抵抗も薄いから。
 つまり男の子の魅力と、女の子の親しみやすさを兼ね備えているからこその"モテ"なのではと」


 鈴凛博士が語ってくれた、その一部には深刻な問題に対する自らの分析結果は、
 軽く納得する分では、なるほどと思わせられる説得力のある意見だった。


「鈴凛ちゃんの言いたいことも……まあ、分かるような気はする……。けど……」


 でもやっぱり、ボクには同じ女の子にこういうことする気持ちが、ちょっと理解できないままだった。


「んー」


 そんなボクの態度を見つめながら、鈴凛ちゃんは顎に手を当てて、なにかを考えているご様子。
 一体なにを考えはじめたのか、気になったので何気なく聞き返してみた。


「どうしたの?」

「だったらさ、デートしよっか?」



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「ほうほう……」


 興味深々に、フランケンシュタインと見つめ合うのは、ボクの今日のデートの相手。
 おばけ屋敷の中、ビックリさせるために現れたはずの彼は、
 鈴凛ちゃんの恰好の研究材料として、じっくりと観察、分析、研究されている最中である。


「鈴凛ちゃん、それおばけ屋敷の楽しみ方として間違ってる」


 ひとり怖い顔のまま、ガーとか言ってるフランケンさんには、なにか言いようのない哀愁が漂っていて。
 その様子に同情を誘われてしまい、思わず余計な助け舟をあげちゃうボクであった。


「別にいーじゃない。こういうところで興味を惹かれるのは科学者としてのサガと言いますか……」

「でもフランケンさんがちょっと……報われないって言うか」

「あ、確かに間違ってるわね……」


 良かった、さすがに鈴凛ちゃんも空気を読んでくれたみたい。


「フランケンシュタインってのは、この子を開発した博士の名前であって、この子の名称とは違うのよ。
 この子は人造人間、もしくはクリーチャーって呼ぶのが正確ね」

「ってそっち!?」


 論点のずれた回答に思わずガクッとコケそうになってしまう。
 とはいえ、なるほど、フランケンさんって実はフランケンさんじゃなかったんだ……。
 へぇ〜。それはボク的にはトリビアだ、へぇ〜。へぇ〜。


「なによ。キャーって言って衛ちゃんに抱きつけば良かった?」

「今日の主旨を考えるに、その方が良かったね……」

「でもアタシ、おばけとか信じてないしぃ〜」


 軽い感じに両手を肩の高さで広げながら、ひとり先に歩き出しながら言う。
 なんて夢も希望もない……なんて思いながら、その様子を眺めていると……。


    ガタンッ


「っっ!?!? きゃーーーっっ!?」


 夢も希望もなかったその子は、突然出てきたドラキュラさんに驚いて、少し後ろにスタンバってたボクの腕に抱きついてきたんだ。


「「…………」」


 一瞬、その場に静寂が訪れた……。
 ドラキュラさんとフランケンさん作の人造人間が、静かにガーと叫び声のハーモニーを聞かせる。


「……ぷっ! 鈴凛ちゃんが、『きゃー』だって。くくくっ……」


 そして、ボクの思わず吹き出した笑い声がきっかけで、鈴凛ちゃんのかけた静寂の魔法は解け、鈴凛ちゃんも赤くなりはじめる。


「う、うっさい! 笑わないでよ!!」

「くくくっ……いや、だって、鈴凛ちゃんが……くくくっ、はははっ! あっはははっ!
 おばけは信じていないんじゃなかったの? あはははははっ!!」


 どちらかといえばいつも強気で、ボクをおちょくる鈴凛ちゃんが、今はこんなに可憐にキャーなんて……
 普段とのギャップに笑いが止まらなくなって、吹き出す笑いはいつの間にか大笑いに。


「い、今のは突然のコトで驚いただけであって……怖かったとかじゃなくて驚いただけで……。
 と、とにかく、お化けを信じてる信じてないとは別よ!」


 言い訳する鈴凛ちゃんの言葉も、いつものお返しとばかりに「はいはい」なんて笑いながら受け流してやった。
 鈴凛ちゃんは真っ赤な顔で悔しそうに睨みつけるも、それもすぐに観念したのか、
 視線を緩め、今回は負けを認めてやる的な態度で腕から離れては、取り繕うようにこう言う。


「とりあえず、1個は成功ね」


 その台詞に対して、ボクはこう返した。


「ボク的には失敗だよ」



 ・

 ・

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 ・

 ・









「だったらさ、デートしよっか?」


 …………………………………………。


「はい?」

「だからデートよ、デート。しよ?」


 鈴凛ちゃんの言葉が、何のことだか理解ができなかった……というより、理解を超えていたので完全に思考回路が停止した。
 ただでさえ静かな図書室が余計に静かに感じる。

 ええっと、鈴凛さんは今なんと仰ったのでしょうか?
 もう一度、頭の中でその言葉を再生してみた。
 デート。
 男の人と女の人が、特定の場所で待ち合わせ、外に出かけるコトを指す。大抵、お付き合いするふたりが行なう行為。
 ボクが知ってる意味だと、大体そんな感じ。
 で、それ以外の意味があるとは思えない……ということは、ボクは鈴凛ちゃんからそのお誘いを受けているわけで。
 つまりはボクと鈴凛ちゃんがデート…………でぇと……? ボクと……鈴凛ちゃんとで……?


「えぇっ……ええええええっっっ!??!?! でででででーとぉぉーーー!??!」

「はいはい図書室では静かに」


 言葉の意味を理解し、遅れて大声を上げちゃうボクを、鈴凛ちゃんは冷静にたしなめる。
 って、その鈴凛ちゃんが原因でそんな声をあげてるんだからちょっと割に合わない……。


「なななな、ナニを急に……!?」


 うろたえながら、全く読めない鈴凛ちゃんの思惑を探ろうと、質問を返した。
 この時、図書室の中に居たメガネをかけてる大人しそうな女生徒が、遠くから激しく睨んでる気がするのは……気のせいかな……?


「アタシ、体験主義者なの。OK?」

「お、おーけー……」


 なんとか煮え切らない返事を、親指を立てるジェスチャー付きで返すと、鈴凛ちゃんは得意気に続きを口にした。


「で、現在ここには女の子のハートを射止めちゃうような、男気溢れる罪なふたりが居まして、」

「うぉいっ!」

「まーまーまー、良いから聞いて聞いて」


 ここは聞くに徹して居たかったんだけど、鈴凛ちゃんのふざけた言い方についついツッコミを入れてしまった。
 でもそれも、調子の良い感じに切り返されては、あっさり流されてしまう。
 ボクは納得の行かない顔で鈴凛ちゃんを睨みながら、言いたい文句を引っ込めて話の続きを聞くことにした。


「ま、そんなワケで……お互い男の子みたいな女の子とデートしてみたら、気持ち分かるかもしれない、ってね


 つまり、分かんないなら実際に体験してみてしまおう、ということらしい。
 ウインクを送って、得意そうな顔で、またトンでもない提案をしてみせる。
 まあ、鈴凛ちゃんらしいといえばらしいけれど……。


「でも、そんな上手く行くかな?」

「まあ、成功確率は疑わしい程度だけど……やんないよりはいんじゃない?」


 科学とは机上の空論のみでは成り立たないもの。未知を恐れていては新しい可能性を掴めないのだ。
 握り拳を向けて得意気に豪語する鈴凛ちゃん。
 鈴凛ちゃんは、まずは体験してみてから物事を始めるタイプだ。
 その気持ちは、面白そうなことがあったらまずは体を動かしたくなっちゃうボクとおんなじもの。
 運動と研究。
 お互いのやってることは真逆だけど、まずやってみてからっていう気持ちは、ボクたちはおんなじなんだ。


「ま、下心じゃなくて、フツーに遊びにいってフツーに楽しんで来よってコトで、ね

「はぁ……。もー、鈴凛ちゃんには敵わないなぁ……」


 ウインクを送る鈴凛ちゃんに、ため息混じりに渋々首を立てに振る。
 多分ボクは、鈴凛ちゃんの誘いを断わりきれないだろうという経験に基づく予感が、ボクから抵抗する意志を失わせていたから。
 それに、ボク自身もちょっとだけ……本当にちょっとだけ、面白そうかなって思う気持ちもあったからね……。


「なので、そういう気持ちは一切ないので、そんな蛇のような目で凝視しないこと」

「?」

「あ、こっちのこと」


 周りにも聞こえるような言い方で、妙な言葉を付け足した鈴凛ちゃん。
 気のせいか、視線の気配は和らいだ気がした。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・









「で、どうでした鈴凛博士? 今日の成果の程は」


 一通り遊園地を回り終えて、ふたりベンチで休憩中。
 ふざけた言い草で、博士提案の恋人ごっこ実験の成果を訪ねてみた。


「よくよく考えてみたら……これって」

「うんうん」

「男同士でデートしてるってコトじゃない?」

「…………」


 黙ってしまった。


「どっちにしろそういうイケナイ方面になっちゃうわけなの?」


 本当は女の子と女の子。でも中身は男の子と男の子。
 決して普通の関係にならないボクたち。


「や、だって、なんか回る場所にオトメ分がなかったというか……」


 確かに、今日回ったアトラクションを思い起こしてみると、ジェットコースターを筆頭に、続けてフリーフォールに乗り、
 遊園地で良く見かけるバイキング船のヤツに、スペースシャトルを模したジェットコースターみたいなの、
 などなど、スリル満点な絶叫系のフルコース。
 メリーゴーランドや観覧車なんて大人しい乗り物は……まあ、鈴凛ちゃんは機械の仕組み研究に興味を示してはいたけれど、
 お互い乗りたいとは言い出さなかった。
 ああ、夢や希望の詰まったオトメ空間は一体どこへ……。


「そういう衛ちゃんは?」

「ボク? んー……やっぱり、ボクには手紙をくれた子たちの気持ち、分かんないや」

「大方の予想を裏切らない結末でしたか……」


 背もたれに思い切り寄っかかって、空を見上げながら答えると、鈴凛ちゃんは、呆れたように肩をすくめてみせた。

 今日一日、ボクは一度でも鈴凛ちゃんを憧れの対象として見ることができなかった。
 だって、憧れっていうのは、自分が持っていないからこその憧れ、って誰かが言っていた気がする。
 多分、手紙の子たちの鈴凛ちゃんに対する憧れって、もうボクは持っているんだから、だから憧れようもなかったんだ。
 同じ視線で見ることができない以上、デートをしても結局、その気持ちは分からずじまい。


「でも、ま、楽しかったからね。デート」

「そだね」


 楽しかった。
 デート……っていうか、そんな枠組みなんてもうどうでもよくて、ふたりで遊んだ時間が楽しかった。
 男の人の代わりだとか、男の子と付き合ってるつもりとか、そんなの関係ない。
 結局、目的は摩り替わっちゃってたけど、楽しかったってだけで無駄じゃなかったなって思える。


「じゃ、最後くらいらしく締めましょうか?」

「へ?」


 なんて、ボクが浸っていると突然の一言が。
 その言葉に気を取られた一瞬、気がつくと、フッと鈴凛ちゃんの姿が目の前から消えていて、
 鈴凛ちゃんの……意外と柔らかかったくちびるが……ボクの、ほっぺたに……当たって、いた。


「ふふっ きょーのお礼


 ぽかーん。
 突然のことに驚いた。
 驚いたは驚いたけど、あまりに突然すぎて、呆気に取られすぎて、
 何かが当たったほっぺたを手で押さえたまま、身動きがまったく取れなかった。

 ええっと、鈴凛さんは今なにをしたのでしょうか? ボクの横でなにを?
 当たったのはほっぺたで……あたったやわらかいものは一体……?


「!? 〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!?!?」


 なんて、のんびりと思考を巡らせてからやっと、だんだんと顔が熱くなって来た。
 そんなボクを見て、いたずらっぽい笑いを向ける鈴凛ちゃん。
 その姿は、いつもと違う女の子らしさが、前に出てきていて……


「…………しまった」


 いつも通りのちゃっかり屋さんだった。


「これじゃボクひとり男の子じゃないか……」


 最後の最後、とても「女の子」な演出をしてくれたお陰で、「男の子同士」というミリタリーバランスは巧みに崩された。
 そう、この中性的デートの唯一の女の子枠は、鈴凛ちゃんにまんまともぎ取られしまったのだ。


「バレたか」


 そう言って、舌をぺろっと出してみせる鈴凛ちゃん。
 こういうちゃっかりした部分は、とても鈴凛ちゃんらしいなって思った。
 らしくて、可愛いって思って……ドキンと、胸が高鳴るのが分かる……。
 ああ、男の子みたいな女の子に告白する気持ちを体験するはずだったのにな……。


「でもごめんね。アタシ、やっぱ衛ちゃんにはマジになれないから


 笑いながら、それでも明確なお断りの返事を伝えてくる。
 念のための予防線を張っておくのは、何度も女の子に告白され続けた経験からの当然の処置なんだろう。


「なられても困るからね」

「だよねー」


 ボクの言葉に、いつもの陽気な調子で同意する鈴凛ちゃん。
 でも、その「困る」ってのは、鈴凛ちゃんとは逆の意図で口にした言葉……。

 男の子の中に、しっかりと隠れている女の子が見え隠れした時の鈴凛ちゃんは、可愛いって知ってしまった。
 ボクは、そんな鈴凛ちゃんの魅力に……ちょっぴり……本当に、ちょっとだけ…………ね……。

 これは、鈴凛ちゃんには言えない今日の成果……。
 身近な女の子を、男の子の代わりに置くんじゃなく、
 逆に、男の子としての女の子の魅力を好きになる気持ちを、理解しそうになってるなんて……。
 言ったらどうせまたからかわれちゃうし。

 それに……ボクじゃ鈴凛ちゃんの相手は務まらない。そんな漠然とした予感があったんだ。
 上手く言い表わせないんだけどね。
 だからそう、「男友達」って位置が丁度いいんだと思うし、ボクもそうでありたいなって思う。


「……ぷっ」

「なに? どうかしたの衛ちゃん」

「ううん、なんでもない」


 女の子同士なのに、男友達か……。
 ヘンなの。
 でも、それがボクらの距離なんだと思う。
 このまま、女の子の鈴凛ちゃんを好きになる気持ちをこれ以上理解したら、それはそれで……マズイからね。
 ボク的にも、鈴凛ちゃんにも、手紙をくれた女の子たちにも。


「鈴凛ちゃん。今日はありがとうね」

「どういたしまして」


 大方の予想を裏切っちゃう結末で終わりを迎えたボクらのデート。
 本来目的にしていたものは見えなかったけど、代わりに、色んなものが見えた。

 だから、魅かれそうなった瞬間にフラれちゃうっていう結末も……まあ、アリかな?










あとがき

東牙さんが百合祭り第二弾を開催すると聞き受けたので、これは参加せねばと仕上げてみた衛×鈴凛SSでした!
お祭り主催者ご本人に、希望カプを伺ってみたところ、特に愛されている衛と鈴凛のふたりを挙げられまして、それで。

いや、この組み合わせ、納得のいく反面、色んな意味で衝撃ものでした……。
実はなりゅー的に組み合わせが難しいふたりでして、
言われなかったら書かなかったかもしれない可能性もかなり高かったりします(苦笑。
というか、鞠絵以外の鈴凛カプものって最早難しいので(ぇー
だから、まあ、こういう機会が与えられたのは、良かったかなって、思う気持ちも。

書いてるうちに、特殊な書き方に挑戦してみようって気持ちになりまして、
過去と現在を入り混じらせた特殊な形に仕上げてみました。
お陰で、最初混乱させてしまったかもしれません……そのまま最後まで内容が通じなければ、
それはなりゅーの力量不足ということでごめんなさい(苦笑

今回、普段は書けない「ちゃっかりんりん」を思う以上に存分に描けました。
鈴凛の魅力のはずなのに、鞠絵(脳内鈴凛公式お婿さん)相手だと全然描けないもので。
逆に、衛相手だと思う存分発揮し過ぎて、違うキャラ書いてる錯覚に陥ったほどです(爆
相手が違うとこうも対応も変わるものなのかと、書いてる本人が「色んなものが見えた」作品でした。


更新履歴

H18・2/24:完成
H18・3/4:掲載


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