偽星の輝きよ
ここしばらく、鈴凛くんに会っていない。
まあそれだけなら特に気にするようなことでもない。
別に一緒に住んでいる訳でもないのだし、向こうにも予定というものがあるのだろう。
しかし、何故か気になる……。
何か怒らせるようなことをしたか?
そう考えて思いつくことは、先日言い争った時の記憶。
それがあるからだろう、妙に気に掛かっているのは……。
もっとも、言い争うといってもそんな険悪になるようなことじゃない。
ちょっとした意見の食い違いと、お互い自分の主張を譲らなかっただけの話で、
喧嘩と呼べるほどぶつかり合ったわけでもないし、彼女もへらへら笑って「そんなことないよ〜」と気楽に返していた。
もしかしたら、その笑顔の裏では凄く気にしていたり、傷ついていたのかもしれない……。
「鈴凛くんも…………妙なところでしおらしいからな……」
そういえば、言い争いの内容は何だったか……?
考えながら、ふと空を見上げた。
空はすっかり闇に覆われ、両手の指で数えられるほどの星たちが薄っすらと光瞬いていた。
「…確か……そう、作り物の星について…………だったな……」
作り物の星……というのは、要はプラネタリウムの事を指す。
確かその話になった時、私はそんなものに興味はないと言って、彼女は対抗するように作り物の星を支持した。
機械や科学に強い思い入れのある彼女だからこそ、人工のものでも本物を越える事だってできる。
そのことを主張したかったのだろう。
反対に、所詮人の力では自然の力には敵わないと考える私は、頑なにその意見を拒否。
そして、うやむやなままに会話は終了し、その日はそのまま別れた。
だから気になっているのだろう……。
「ふう……」
ため息のように一息ついて夜空を見上げる。
見上げた空に映る星たちの輝きは、地上の人工 の光にかき消されてた……。
星を見るのは、未来を占ったり、単純に鑑賞して楽しむことが好きだったのだが……これでは両方とも、楽しめそうもない……。
「……やはり………作り物は好きになれそうもないな…………」
そうこう思考を張り巡らせている内に家に着く。
鍵を開け、家の中に足を踏み入れると、そこは明かりのない漆黒の闇の世界。
当然か……部屋の明かりは点けていない。「電気代は節約よ」とは彼女の謳い文句だ。
家に入り、記憶と習慣を頼りに手探りで電気のスイッチを探す。
すると突然、私の手がスイッチに届く前に、部屋の中心から光が照らし出された。
「……!?」
突然のことに多少なりとも驚く。
最初は、私を良く思わない下級悪魔どもが、無謀にも私に手を出そうとしているのかとも思った。
こう見えても私は、"あちら側"では多少有名人でね、そういう低脳な輩も決して少なくはない……。
またそんな類の来客かと思ったのだが……だが、それは違った。
光は、部屋全体を照らしはせずに、部屋中の壁や天井に点在する光の群れを映し出していた。
それはそう……まるで星々の海のような輝き。
敵意を持つ相手が、こんな酔狂な真似をするとは思えない。
「じゃーん! ビックリした?」
声につられ、映し出されていた星に向けていた視線を声の聞こえた場所へと向ける。
そこには、つい先程から私が心の中に思い浮かべていた人物の姿が。
「……鈴凛、くん………!?」
予感なのか第六感だったのか、その偶然に驚きが更に深まった。
彼女を視線に捕らえると、その同時にその足元にある奇妙な物体も目の端に捕らえる。
丁度、小さなミラーボールのようなものが逆さまに生えて発光している。
それは、彼女の手作りの機械……恐らくは、プラネタリウムと同じ、星を投影する機械なのだろう。
それが、この星の海を作り出していた。
「ふふっ♥ 綺麗でしょ?」
「……勝手に人の部屋に入り込んで…………」
「まあまあ、気にしない気にしない……。それより見て! アタシの自信作なんだから♥」
自分の違法行為を棚に上げて、最新のメカを自慢げに披露。
まったく、ちゃっかりしている……というか、一体どうやって侵入したのやら……。
しかも、しっかり鍵までかけて、中に居ることを悟らせない配慮つきときたもんだ。
「千影ちゃんの部屋、全体的に暗いから丁度良かったわ」
「……地味にバカにしてるだろ……キミは…………?」
「科学をバカにしたんだから、そのくらい許してよね……」
拗ねるように、ほんの少ししおらしくなって返す。
やはり、笑顔の裏側で少しは傷ついていたんだな……。
「どう? 作り物の星も、捨てたものじゃないでしょ?」
しかし、そんな彼女の様子もすぐに元の調子に早変わり。
ふふん、と自信あり気に胸を張って問い掛ける。
「いや………やはり…本物の星には敵わないさ……………」
「なによー。人が一生懸命やったってのに、無意味だったっていうの?」
だが、私はそんな彼女の期待する答えとは正反対の答えを口にした。
彼女は、またも少し拗ねたように口を尖らせた。
「…………無意味なんかじゃ…ないさ……。とても綺麗さ………」
「なら―――」
「だが……やはり輝きが霞んでしまっている…………」
私の手厳しい意見に、不服そうな顔を向ける彼女。
そんな彼女を見据えて、言葉の続きを紡いだ。
「…キミという…………本物の星の輝きにね……………」
この手作りの星空。
意地や張り合いからの彼女らしい動機。
だがそれは、確かに私の心を捕らえていた……。
作り物の星も、満更捨てたものじゃないな……。
だから……ありがとう。
それをくれた君へ……その感謝の気持ちを贈ろう……。
言葉なんて使わず……この唇に乗せて……。
スパコーーンッッ
「ななななななにすんよー!?!?」
奥義、鈴凛拳が発動した……。
「……痛いじゃないか…………」
「おおおおお女同士でっ! いいいい一体ナニ考えてるよーっ!? 」
唇に手を当てながら真っ赤になって動揺するように――というより事実しているのだろう――私に叱咤の声を浴びせる鈴凛くん。
「なに……感謝の気持ちに、ね………。…これ以上ないほど…………気持ちはこもっていたと思うのだが……」
「否定しないけど妹に対してその行為に及ぶのが問題あるのよっ! バカっ!! ヘンタイっ!!」
よっぽど気に入らなかったのか、批難の言葉を浴びせ続けながら、手当たり次第にそこら中のものを手にとっては私に向けて投げつける。
おいおい、ここは私の家だということを忘れていないかい?
「…前に……そんなにこだわってないと……こぼしていただろう……?」
「そ、そりゃあ……で、でも、それだって常識で物を見なさいよ! 妹相手に…キ、キキキキ…………だなんて」
「キス……かい?」
「だーーーっ!! サラッと言うなーーーっっ!!」
「がふっ!?」
奥義、鈴凛拳弐式までも発動。
衝撃が私の腹を貫いた。
「ぐ、うぐぐ……」
「もー、千影ちゃんってサイッテー! 出てってよ!!」
「いや………ここは私の家―――」
「いいから、出てって!!」
屈みながら腹を抑える私の言葉も聞かず、背中を押して外まで追いやると、「べー」と舌を出して、そのまま―――
バタンッ
―――力一杯勢い良くドアを閉められてしまった……。
「まったく……これが鞠絵くんとか可憐くんだったら…………手なんて出さなかっただろう……?」
「そうよ、そうですよ! 千影ちゃんだから手出しました!!」
「…………差別……」
「文句あるんだったらもうちょっと一般に溶け込みなさいよ! 妹相手にキ…キキキキ…………だなんて……」
「キス……かい?」
「だぁーーーっっ!! だからサラッと言うなーーーっっ!!」
やれやれとため息をこぼしつつ、ドアに背をもたせ掛け、そして、星空を見上げた。
都会の光にかき消された星は、先程彼女がくれた輝きに比べると、それはとても弱々しい輝きだった。
「まあ……気持ちだけ、貰っておくわ……」
ドア越しに、呟くように語り掛ける声が耳に届いた。
「き、気持ちだけだからね! 行為自体は全ッ然いらないんだからね!!」
「ああ……」
意地を張るように言い放つ彼女。
ドアの向こうできっと紅潮しているであろう彼女を想像して、思わず顔が綻んだ。
「……前言撤回だな…………」
家に入る前、口にしていた言葉に向けて、ひとりそう呟いた。
私はまた、彼女に自分を変えられた。
同じ女性に対して、こんな気持ち抱くなんて、ないと思っていた……この気持ちと同じく。
私は、彼女を通してなら、人工 の輝きも好きになれそうだ……。
あとがき
どこまでも千×鈴まっしぐらな電寿さんのお誕生日ということで、
気が向いたので千×鈴モノのミニSSを一筆させて頂きました!
電寿さんの書くSSでは「星」という表現をよく使われるというのを見まして、
それに触発されたのか「星といえば」で構成を練った結果、
千影にも深く関わるリピュアの話をヒントにちかりんに仕上げてみました。
元々は違う話を予定していたのですが、どうもパッとしないので2、3転させてこの話に。
まあ、ちかりんの"らしさ"という点では、今の形が一番だと思っております。
なりゅーが普段書いている鞠絵×鈴凛では書けない「いじっぱりんりん」も書けて、
ある意味ちかりんらしさをそれなりに引っ張り出せた作品だと思います。
短いですが、なりゅーなりのほのぼの千×鈴を味わっていただければ嬉しいです。
最後に、電寿さん、お誕生日おめでとうございます!
大好きだよっ、電ちゃん♥(ヤメナサイ
更新履歴
H17・7/16:完成
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