−4月2日 PM13:24 自宅のラボ 鈴凛−



 その日も、アタシはいつも通り設計図と向かい合って、発明を続けていた。
 でも、これはいつもみたいな趣味のための機械いじりじゃない。

 アタシにとって大切な日まであと2日。
 正確にはアタシにとって大切な人の大切な日だけど……。
 これはそのための設計図。

 今日は4月2日。
 あと2日で4月4日…………鞠絵ちゃんの誕生日。


「鞠絵ちゃん……絶対喜んでくれるよね……」


    ドンドンドン……


「もうっ! なによ、良いトコなのにっ!!」


 ラボのドアを何度も叩く音にビックリしてアタシの手の動きも止まる。
 こんなにドンドン鳴らされたんじゃ、とてもじゃないけど集中してできない。
 それに、こればかりは集中していいものを作りたいって思ってるんだから。


「…………なによ春歌ちゃん。今いいところなのに……」


 開けたドタの向こう側には、普段滅多にラボまでやってこない春歌ちゃんの姿があった。
 調子に乗ってきた所を中断されたため、ちょっと不機嫌をアピールしながらそう言う。

 また何かと文句言われるのかなぁ、なんて春歌ちゃんが来た理由をあれこれ考えていた。


「これを聞いても……まだそんなことが言えますか?」
「……春歌、ちゃん?」


 春歌ちゃんの切羽詰った表情が、なんとなくただ事でない状況だというのをアタシに勘付かせた。


「鞠絵ちゃんが……」
「……え?」



「鞠絵ちゃんが……倒れました……」












 

ふたりの1番からハッピーバースデーを貴女に














  −4月2日 PM13:53 バス 鈴凛−


 春歌ちゃんの話だと、鞠絵ちゃんは咲耶ちゃんが付き添いのもと救急車で病院に運ばれたらしい。
 アタシは制作中のプレゼントを放っぽり出して、春歌ちゃんと一緒に、鞠絵ちゃんの運ばれた病院まで向かっていた。


「鞠絵ちゃん……最近は元気だったのに……」


 アタシたちは12人姉妹で、とある事情で12人バラバラに暮らしていた。
 でも今は、12人一緒に暮らせるようになって、みんなそれぞれ楽しく仲良く暮らしている。

 鞠絵ちゃんは、姉妹の中では体が弱く、みんなで暮らせるようになるまで療養所で暮らしていた子。


 そして……アタシが1番大好きな子……。


「鞠絵ちゃんは……療養所から退院し、ワタクシたちと暮らすようにはなれました。
 でも、彼女自身の病気は……」
「分かってる……治っていないってことくらい……」


 それでも、彼女の体調は日が経つに良くなっていた。
 ……そう見せていただけかもしれない。
 みんなに心配を掛けたくないって言う、彼女らしい理由で……。


「鞠絵ちゃん……優しいから……」
「…………ですね」


 アタシの呟きに同調するように春歌ちゃんも呟き返してくる。
 アタシたちの胸には、ただただ、不安だけが押し寄せてきていた……。


「にしても、遅いわよこのバス! 散々駅で待たせたくせに!!」
「だからタクシー使いましょうって言ったでしょう、この守銭奴!」
「大和撫子がそんな言葉使って良いの?」
「うグッ……!」


 …………そうでもないかも……。


















  −4月2日 PM14:20 病院・302号室  鈴凛−



「鞠絵ちゃん!」
「あ、鈴凛ちゃ……きゃっ!?」


 病院につくなり、アタシは鞠絵ちゃんの病室まで駆け込んでいった。
 そして、病室で目を覚ましている彼女の姿を確認するなり、アタシは衝動的に彼女を抱きしめてしまった。
 今この瞬間の、元気そうな彼女を見るまで、心配で心配で、胸が潰れそうだったから……。


「り、鈴凛ちゃん…………あの…………は、恥ずかしいです……」
「鞠絵ちゃん…………鞠絵ちゃん……良かった……」
「大丈夫ですから……わたくしは大丈夫ですから……だから心配しないでください」


 良かった、本当に……。
 大丈夫そうで……その姿を見てやっと安心できた……。
 万が一なんて、考えたくなかったけど、考えずにはいられなかった……。


「おーおー、熱いわねぇ……おふたりさん……」
「うわぁッ!?」


 突然、ベッドの横から聞こえてきた言葉にビックリして、すぐさま抱きしめていた手を解きあとずさった。
 声のした方を見てみると、鞠絵ちゃんのベッドの横に咲耶ちゃんが腕を組んで立っていた。

 そうだった……咲耶ちゃん、付き添いとして救急車で一緒に来ていたんだっけ……。


「あ、あの! その! これは……」


 今自分がやったことを考えると、そしてそれを咲耶ちゃんに見られてしまったと思うと、
 一気に顔が真っ赤なったのが分るくらい顔が熱くなった。


「らぶらぶねぇ……」
「さ、咲耶ちゃん!!」
「それとも、今のはもうひとりに対するあてつけかしら?」
「……え?」


 からかう咲耶ちゃんが指さした先を見てみると、
 開いたドアの向こう側で、春歌ちゃんがひとりボー然と立っていた。
 そして、気のせいか殺気の籠った目でアタシの方を睨んでいた。

 ……いや、絶対気のせいじゃないと思うけど……。


「鈴凛ちゃん……鞠絵ちゃんは患者なんですから、もっとやさしく扱わなくてはダメですよ」


 咳払いをひとつしてから、アタシの行動に至って冷静を装って、注意を―――というか忠告か?―――してくる春歌ちゃん
 顔は笑っていたけど、眼のあたりがピクピクいって怖い。


「う、うん……ゴメンね、鞠絵ちゃん……」
「あ、謝らないでください…………嬉し、かったですから……」
「え!?」


 その言葉に、アタシは顔が更に熱く―――


  ―――ギロッ


 ―――なる前に、恐怖で背筋が凍る思いをしました……。


「それで鞠絵ちゃんの状態は?」


 春歌ちゃんがまるで何事もなかったように至って平然として聞く。
 春歌ちゃん、アンタ演劇も習ってるの?


「ひがむくらいなら、自分だって抱きつけば良いのにねぇ、鞠絵ちゃん」
「さ、咲耶ちゃん!?」
「そそ、そんなはしたない真似、や、大和撫子としてできるわけないでしょう!!」
「意地っ張りー」
「いい加減にしてくださいッ!!」


 あ、春歌ちゃんのガラスの仮面が剥がれた。
 さすがは咲耶ちゃんといったところか……。


「大丈夫よ。鞠絵ちゃん、そんな大したことじゃないらしいから」
「そうなの? 良かった……」
「全く、最初からそう言って下さればいいものを……」
「ほんっと、鞠絵ちゃんのことになるとアンタ達ふたりは冷静じゃないわねぇ」


 皮肉じみた言い方でアタシたちふたりに向かって言う。
 春歌ちゃんも冷静に見えていたけど、内心不安で押し潰れそうだったはずなんだ。


「もてもてね」
「えぇっ!?」


 付け足すように今度は鞠絵ちゃんに向かって言った。
 鞠絵ちゃんはその言葉に対して真っ赤になって顔を伏せてしまった。

 そんな仕草がとても可愛いと思った……。

 そして……

 隣で鼻息を荒くしてハァハァしているヤツと同じようなこと考えてると思うと、


「あ、アタシのはそんな不純じゃないもん!」
「なにがよ?」


 つい、思っていることをそのまま口にしてしまった……。

 お陰で咲耶ちゃんにはツッコマれ、鞠絵ちゃんには不思議そうな顔をされ、
 春歌ちゃんには「ほぅ、ワタクシのが不純だとでも?」と…………って、何か言っていないのになんで!?


「でもね、念のために1週間は入院するって……」
「「え?」」


 春歌ちゃんに後ろから頭を鷲掴みされ、握りつぶされる寸前、
 咲耶ちゃんの口から告げられたことに、アタシも春歌ちゃんも声を重ねて驚きの声を漏らしてしまった。


「い、1週間も……ですか!?」


 春歌ちゃんは、アタシから手を離し咲耶ちゃんに改めて聞きなおしたお陰で、アタシは九死に一生を得れた。
 咲耶ちゃんはお医者様がそう言っていたと、改めてアタシたち説明した。


「1週間って……そんなに入院してしまっては……」
「鞠絵ちゃん……誕生日、病院で過ごすことになっちゃうね……」
「仕方ないです……」


 折角の誕生日を病院で過ごすことになるなんて、決して嬉しいことじゃない。
 しかも、鞠絵ちゃんはずっと療養所でそうだったんだ……。
 それでやっとそうじゃなくなるはずだったのに……


「でも、今までだってそうだったんですから……平気ですよ」


 みんなに心配かけないように、笑顔を作ってそういう。
 だけどみんな気づいている、本当に作った笑顔だって。
 なんとなく重たい空気がこの部屋を埋め尽くしているような感じがした。


「ま、当日は無理になっちゃったけど、退院したらみんなで祝ってあげましょう。ね」


 咲耶ちゃんがウィンクしながら人差し指を立てて得意気にそう提案。
 重くなった空気を一掃するつもりでもあったんだろう。


「そうですわね……無理をして、万が一のことでもあれば大変ですから」
「そうだよね……。うん、退院したらいっぱいお祝いしてあげるよ!」
「ほら、鞠絵ちゃんにゾッコンのふたりがこんなに乗り気なんだから大丈夫よ!」
「「ゾッコンとか言わない!!」」


 アタシたちの息の合ったツッコミに鞠絵ちゃんはクスクス笑っていた。
 気づいたら、さっきまで重かった空気はもう完全どっかに飛んでいって、
 いつも通り、家での雰囲気と変わらない空間になっていた。


「うん、やっぱりね」


 鞠絵ちゃんの笑っている顔を見て、アタシがそう呟いた。


「え? なにがですか?」
「いっつも言ってるでしょ、鞠絵ちゃんは笑顔の方が良いよって。
 だから、やっぱりこっちの顔の方が可愛いって思ったの」
「え!? えぇっ!?」


 鞠絵ちゃんはまた真っ赤になって顔を伏せてしまった。
 でも、顔は笑ったままで、そんな仕草が本当に可愛いって思えた……。


「ほぅ……いつも言っていらしたのですか?
 ワタクシはそんなこと言っていたなんてちーっとも気ぃつきませんでしたけどねぇっ!!


 ううう……後ろの大和撫子が怖い……。






















  −4月2日 PM16:50 鈴凛の部屋 鈴凛−


 アタシは家に帰ってくるなり、ラボへは向かわずに、自分の部屋のベッドでひとり仰向けになって寝ていた。


「時間できちゃったなぁ……」


 アタシの計算では丁度鞠絵ちゃんの誕生日に間に合うような予定だった。
 ギリギリでも、余裕でもなく、丁度いいくらいに。
 でも、パーティー自体が延期しちゃったんじゃ、明後日までに作る理由なくなっちゃった……。


「鞠絵ちゃん……折角の誕生日なのに…………病院で、ひとりっきり……か」


 今まで療養所でひとりっきりで過ごしてきた時間。
 その時、鞠絵ちゃんは何を思って過ごしてきたんだろう……?

 ふと、そう思った。


 折角みんなが……アタシたちが祝ってあげれるようになったのに……
 偶然とは言え、また誕生日に……ひとりきりになってしまった。

 彼女の「仕方ないです」が、アタシの胸にずっと引っ掛かっていた。
「仕方ない」の一言で、鞠絵ちゃんは今まで我慢してきたの?
 たったひとりの誕生日を、ずっとずっと過ごしてきたの?

 他の誰でもない、鞠絵ちゃんだけに与えられた特別な日を……。



「……誕生日パーティーをすることが重要なの?」


 自分以外誰も居ない部屋で、誰に問うでもなく、ぽつりと呟いた。

 確かに、鞠絵ちゃんはパーティーをして貰うことも嬉しいと思う。
 でも……鞠絵ちゃんの生まれた日に祝ってあげるからこそ、意味があるんじゃないの?

 …………。

 そうだよ……


「生まれたその日に祝うからこそ…………意味があるんだよ……!」


 パーティーだって、祝ってあげることだって重要かもしれないけど、
 でもパーティーだけじゃ、半分だけなんだよ!
 ……って、そんな気がした。

 アタシはベッドから飛び起きて、そして部屋を出て、ラボに向かっていた。


「待っていて……」


 明後日に、誕生日の当日に間に合うように、作りかけのプレゼントの制作を再開すると決めたから。












  −4月2日 PM17:00 自宅のラボ前の廊下 鈴凛−



「「…………」」


 ラボのドアの前に来ると、何故かそこには春歌ちゃんが立っていた。
 で、お互いなにを話すでもなく硬直状態。


「……なによ春歌ちゃん、アタシ忙しいんだけど」


 やると決めた以上、今は時間が惜しい。
 無駄な時間はかけたくなかったから先に春歌ちゃんに話しかけた。


「そもそもなんで春歌ちゃんが?」


 1番最初にそう思った。

 春歌ちゃんはいつも、早く寝なさいとか、無駄遣いはするなとか、アタシに何かとお説教を言ってくるのだ。
 つまり、アタシのメカ作りにはあんまり肯定的じゃない。
 もっとも、春歌ちゃんの言い分の方が正しい時の方が多いけど……分かっちゃいるけど止められないのよ。

 それに……春歌ちゃんとアタシは、鞠絵ちゃんのことがあるからあんまり友好的じゃない。
 ……まぁ、嫌いって訳じゃないけど。


「……なにを考えているのですか?」


 春歌ちゃんはアタシの質問に答えずに、質問を質問で返してくる。
 ちょっと、大和撫子としてそれは礼儀がなってないんじゃないの?


「な、なにがよ……」
「アナタが、鞠絵ちゃんのことで、何もしないはずがないでしょう?」


 ズバリ言われた。


「なにって…………プレゼントを作るのよ、鞠絵ちゃんのために。当日に祝ってあげるためにね」
「当日に?」


 別に隠す理由もないし、必要もない。
 だからこっちもズバリ言い返す。


「だから、それは退院してからと……」
「パーティーだけじゃダメなの! 誕生日に祝わなきゃ……半分足りない!」


 春歌ちゃんを手で押しのけて、ラボのドアにカギを差し込む。
 そして、ラボのカギを開けながら続けた。


「鞠絵ちゃんは……いつもひとりで誕生日をすごして居たんだよ……。
 そりゃ看護婦さんやお医者さんは祝ってくれたかもしれないけど……
 でもアタシ、鞠絵ちゃんは家族に、そしてその日に祝って欲しかったって、そう思うの……」
「…………なるほど」
「あ、ちょっと……!?」


 ドアが開くなり、今度は春歌ちゃんがアタシを差し置いてラボの中に入っていった。
 そして、アタシの方を振り向いて、


「何かして欲しいことはありませんか?」
「………………珍しいじゃない。春歌ちゃんが、アタシの手伝いしようだなんて……」


 何かとアタシに噛み付いてくる春歌ちゃんが、素直にアタシの手伝いをしようとしている……。
 絶対何か裏があると思った。


「別に。アナタのためじゃありません」


 そんなハッキリ言わなくても……。


「彼女の…………鞠絵ちゃんのためです……」
「…………」


 真剣な顔だった。
 その理由をアタシは知っている。
 アタシと、同じ理由だ。


「でも、春歌ちゃんは春歌ちゃんでプレゼント用意してるんじゃないの?」
「……入院患者が、どうやって着物に着替えろというのですか?」


 そ、そっかぁ……春歌ちゃんは、手作りの着物プレゼントするのかぁ……。


「当日に祝うからこそ意味があるのでしょう?
 ならば、着物の方は退院するまでに仕上げれば済むことですし……。
 その当日に祝う方法、それで彼女を喜ばせたいだけです」
「……春歌ちゃんって、意外とせこいのね……」
「せこいとはなんですか!? ワタクシは日々立派な大和撫子を目指し、精進を……」
「じゃあ人のフンドシで相撲取るような真似しない!!」
フンドシは立派な素敵下着ですわッ!!!
「何言ってんのよッ?!」


 またいつものような言い争いが始まろうとしてた。
 アタシと春歌ちゃんはいつの頃からか、鞠絵ちゃんのことになるといつもこうなっちゃう。


「ああッ、もういい!」


 今は時間が惜しい状況だった。
 だからそう言って無理矢理話を切る。


「ちょっと、まだ話は終わってませんよッ!?」
「……手伝ってくれるんじゃないの?」
「…………」
「……気持ち、分かるからね……」


 春歌ちゃんの、鞠絵ちゃんのために頑張りたい気持ちは痛いほど分かる。

 アタシも、春歌ちゃんも……鞠絵ちゃんのことが好きだから……。


「……さっき、鞠絵ちゃんのお見舞い行ったりして時間ちょっと押してきてるから、助手がいるのは助かるのよ」
「……最初からそう言えばいいのですよ」










    ウィーン


「あら? 何か変なものを押して……」


    がしゃーん、がしゃーん


「あらあら、そこら辺のものを倒していって……珍しい機能ですこと」



   『障害物のないところで運転させてね。障害物のないところで運転させてね。』


    がっしゃーん、がっしゃーん




「これ以上散らかされるのはさすがに…………
 えっと、確かこれを押して動いたのですから、きっとこれを押せば止まるはずですわ」



   『スピードを上げるよ。スピードを上げるよ。』


    がしゃーん、がしゃーん、がしゃーん




「止まりませんね……。まぁこういうものはコンセントを抜けば止まると相場が決まっていますわ。えいっ!」


    ピーーーッッ、がしゃーん


   『突然コンセントは抜かないでね。突然コンセントは抜かないでね。』


「まぁ、倒れて止まるなんで珍しい機械ですわね」



   『補助電力に切り替えるよ 補助電力に切り替えるよ


    ウィーン


    がしゃーん、がしゃーん、がしゃーん




「…………」
「…………」
「鈴凛ちゃん、これ故障しているのではありませんか?」
春歌ちゃん出てって






















  −4月3日 PM15:00 病院・302号室 鞠絵−



 わたくしが検査のため入院した次の日の昼頃、
 ドアの向こうから、小さなノック音と共に声が聞こえてきました


「ハロー、鞠絵ちゃん」
「その声、四葉ちゃんですね?」


 ドアが開くと共に四葉ちゃんは正解デスと、ニコニコ笑いながら病室に入っていきました。
 四葉ちゃんの姿を確認すると、わたくしはふとある事を思い、
 四葉ちゃんと仲のいいもうひとり姉妹の姿がないか、四葉ちゃんの後ろを探し始めていました。


「残念ながら、鈴凛ちゃんは今日は来ていませんよ」
「え?」


 わたくしの様子を察してか、四葉ちゃんはわたくしの探していた人物がいないことを教えてくれました。


「鈴凛ちゃんは、鞠絵ちゃんのお誕生日プレゼントのためにがんばってマス。
 だから、お見舞いには来れないそうデス」
「そう……ですか……」


 それを聞いて、わたくしは嬉しい反面、寂しい気持ちになりました。
 わたくしのために頑張ってくれるのは嬉しい。
 でも、そのせいで会えないのは…………ちょっとだけ悲しい……。


「あ、でもこれ、鈴凛ちゃんからのお見舞いデス」
「鈴凛ちゃんから?」


 それは、手作りの小さな機械人形でした。
 いかにも鈴凛ちゃんらしいお見舞いのプレゼント。


「あ、鈴凛ちゃんのために断っておきマスけど、これはバースディプレゼントじゃないデスからネ」
「分かっています」


 鈴凛ちゃんのことだから、きっとわたくしをアッと驚かせてくれるようなことをプレゼントしてくれるはず。
 そういう期待がわたくしの中に存在していたから、これが誕生日プレゼントじゃないってことはすぐに分かりました。


「パーティー、楽しみにしていますね」


 だから、鈴凛ちゃんがパーティーの時、一体なにをプレゼントしてくれるのか?
 今から楽しみで楽しみでしかたがありませんでした。


「……ン〜、アハハ、楽しみにしてるといいデス」
「……?」


 四葉ちゃんのちょっといつもとは違う態度に何かあるのかと思いましたが、
 特に大したことではありませんでしたので、別段気にすることもないと思いました。
 それに、もしかしたらパーティーが本当にあっと驚くものだから、
 その時のわたくしの反応を想像してかもしれませんね。


「それと……春歌ちゃんは?」
「チェキ?」
「春歌ちゃん、鈴凛ちゃんとケンカしていないかなって思って……」


 普段なにかと衝突が多い二人。
 だからちょっと心配で、四葉ちゃんに様子を尋ねてみました。


「あー、あのふたりの鞠絵ちゃん鞠絵ちゃん病はいつものことデス」
「あ、あの……その言い方はちょっと……」


 鈴凛ちゃんも、春歌ちゃんも、確かにわたくしのことを大切にしてくれます。
 でも、そんな言われ方は…………ちょっと、恥ずかしいです……。


「まぁ、ジャパンでは『ケンカする程仲がイイ』って言いますカラ、大丈夫デスよ」


 確かに、本当にいがみ合っているというよりは、
 ひょっとしたら、毎日の衝突も、本当は仲がいいからかもしれませんね……。

 そうなると、


「四葉ちゃんの立場、危ういかもしれませんね」
「チェキ?」


 鈴凛ちゃんの仲良しさん1番の座、春歌ちゃんに取られちゃうかもしれませんからね

 ……でも、鈴凛ちゃんが1番好きな人の座は………………


「…………チェキ? 鞠絵ちゃん、鞠絵ちゃ〜ん」
「……えッ!? あ、はい!? な、なんでしょうか!?」
「どうしたんデスか……? 急に赤くなって……」
「い、いえ、その、これは……な、なんでもないです!」


 あ、あんなこと考えてたなんて…………恥ずかし過ぎて、とてもじゃないけど……言えません……(照)


「じゃあ四葉、そろそろ行きマスね。重要任務がありマスので」
「……鈴凛ちゃんにお買い物頼まれたんですか?」
「チェ、チェキッ!? どどどどうしてそれをーー!?」
「鈴凛ちゃんのことだから、きっと缶詰状態でがんばっていて、
 だから外に出た四葉ちゃんを買い物係として使ってしまうんじゃないか、って思っただけですよ」


 わたくしは、ただなんとなく思ったからそう言っただけなんですか、四葉ちゃんったら、
 「ムムム……鞠絵ちゃんも名推理を……。四葉も負けてられません!」なんて張り切ってしまいました。


「……でも、今のは鈴凛ちゃんのことだから、デスね」
「えっ!?」
「鞠絵ちゃん、鈴凛ちゃんのことよぉ〜く見てますからネ」
「あ、あの……別に……そんな、ことは……ない……と…………その……」


 四葉ちゃんに言われたことに反応して、わたくしは、
 べべ、別にわたくしは、そんなこと…………あるかもしれませんけど…………(照)


「顔、また真っ赤デスよ」


 神様……どうして人間に自分で感情をコントロールできる力をお与えくださらなかったのですか……?


「鈴凛ちゃんには、今日も鞠絵ちゃんが可愛かったって伝えておきマスね」
「四葉ちゃんッ!!」
「クフフッ……じゃあ鞠絵ちゃん、シーユー」
「あ、はい、シーユーです」


 四葉ちゃんにお別れの挨拶を交わすと、四葉ちゃんは病室のドアまで向かっていきました。
 ところが、ドアのところまで行き、手を掛けたところで四葉ちゃんは何故か一度その動きを止めてしまったのです。


「ン〜……」
「どうかしたんですか?」


 四葉ちゃんはちょっと悩んだ後、また振り向いて、


「鈴凛ちゃんには言うなって言われてたんデスけど……。
 春歌ちゃんも、メカのことが分からないなりにがんばってお手伝いしているそうデス」
「え? 春歌ちゃんも?」


 春歌ちゃんは、何でもできるけど、でもあんまり機械には詳しくない。
 にもかかわらず鈴凛ちゃんのお手伝いだなんて……


「春歌ちゃんも……わたくしのために……」


 頑張ってくれている……。

 わたくしなんかのために、自分が分らないことでも頑張ってくれている……。
 そう思うと、嬉しさが更に溢れてきて、
 ますますどんなものをプレゼントしてくれるのかが、楽しみで、胸が躍るように楽しみが増してきました。


「……でも、なんで鈴凛ちゃん、黙っててってなんて……?」


 わたくしがそう口から漏らすと、四葉ちゃんは「何を言ってるんデスか?」なんて、
 ため息と一緒にそんな言葉をはいた後、呆れたようにこう続けるのでした。


「そんなの、鈴凛ちゃんが春歌ちゃんのポイント上げたくないからじゃないデスか」


 それを聞いた時、わたくしは思わず笑いがこぼれてしまいました。
 そしてついついこんな言葉が口をついて出てしまいました。


「鈴凛ちゃん……可愛い
























  −4月4日 PM19:55 公園 春歌−



「よし、準備完了」


 とある場所で、鞠絵ちゃんの誕生日を祝うための準備を終えました。
 一通り準備を終えたのか、鈴凛ちゃんは手についた埃を払うようパンパンと叩いていました。


「これで、準備完了ですか?」


 ワタクシは、機械のことはサッパリだったため、終わったのかどうか鈴凛ちゃんに直接聞きました。


「うん、後は時間になったらスイッチを入れればいいだけ。ありがと、春歌ちゃん」
「いえ、このようなこと、別にお礼を言われるほどのことでもありませんわ」


 鈴凛ちゃんはワタクシに細かいところは手伝わせずに、主に力仕事を手伝わせたのでした。
 まぁ、普段から大和撫子として日々精進しているワタクシにとって、
 鈴凛ちゃんが指示してきた力仕事など、そつなく立派にこなせましたが……。


「ねぇ、なんでアタシのこと手伝ってくれたの?」


 ひと段落着いて落ち着いたからなのか、鈴凛ちゃんはワタクシにそう質問してきました。


「……助手が欲しかったのでしょう?」


 そっけなくそう答える。


「それは確かにそうだったけど…………でも春歌ちゃん、アタシのこと嫌いでしょ?」
「ええ、嫌いです」


 キッパリとそう言ってやる。
 鈴凛ちゃんは露骨に嫌な表情に変えて、黙ってワタクシの方を見続けてきました。


「まぁ、それは冗談としまして」
「ホントにぃ〜?」


 依然に露骨に嫌そうな顔をしたまま、疑ったような口調で聞き返す。


「別に嫌って欲しいなら喜んで嫌いますが?」
「喜んで嫌うってところでもうアタシのこと嫌いでしょ?」


 このまま続けると、またいつものように言い争いに発展してしまう。
 だから、その意見は無視して話を続けることに決めました。


「言ったでしょう? 彼女のためだと」
「うん、言ったね」
「アナタが動くと思った、彼女のために……」
「なんでそう思ったのさ?」


 疑問に思う鈴凛ちゃんの質問に、ワタクシは静かにこう答えた。


「いつもアナタを見ていましたからね……」
「…………えっ!? は、春歌ちゃんって……もしかしてアタシのことをッ!?」
「なに赤くなってるんですか? それは太陽が西から昇ろうとありえませんからご安心してくださいませ」


 それだけは断固キッパリと否定させてもらった。


「別にアナタのことなんざどうでもいい思っていますがねぇ」
「春歌ちゃん言葉崩れてる」


 あら、ワタクシとしたことが……ポッ


「で、じゃあなんでなのよ?」


 そう言ってもう一度聞き直してくる鈴凛ちゃん。

 正直、言いたくない……口に出したくない……こんな事。
 口に出した瞬間、認めるようで嫌だった。


  でも、認めようと認めまいと、それは事実なのだから……


 そう自分の中の何かに言い聞かせて、今まで目を逸らしていた言葉を口に出す。


「彼女を……鞠絵ちゃんを見ていたら…………いつもアナタが視界に入ってきていたんです」
「え?」


 彼女はいつもアナタを見ていた……。
 その事実を嫌というほどに知ってしまった。


「……嫉妬してます……彼女の笑顔を独り占めできるアナタに……」


 ワタクシは、持てる力を全て差し上げても、彼女を守りたいと、
 本気で……例え異質な感情でも、本気でそう思っているのに……


 なのに……


 彼女はアナタを選んだ……


「こんなズボラで、金銭感覚麻痺して、周りに迷惑かけることしか知らないような、守銭奴を……」
「本人目の前にしてそこまで言える春歌ちゃんって素敵だと思うよ」
「ありがとうございます。お礼に"慎みの欠片もない"もつけておきますわ」
「いらない」
「遠慮なさらずに」
「いらない」
「似合いますよ」
「いらない」












「……アタシだってね、春歌ちゃんに負けないようにって、必死なんだから……」


 イタチゴッコにひと段落つき、場に沈黙が訪れてから少しした後、
 今度は彼女の方から聞きもしないことを口にし始めました。


「失敗の欠片も見せない、春歌ちゃんが羨ましかった。
 何でもできて、おしとやかで、アタシみたいにがさつじゃなくて……」


 ……それは違う。
 ワタクシは失敗をしないのではない、失敗ができないのだ。

 失敗することを恐れ、だから何度も何度も練習を繰り返して……失敗しないようにしているだけ。
 もちろん、失敗する時もあった。
 その度に、次は失敗しないようにと自分を磨いてきた。

 無様な自分を見られたくなかったから……。


「自惚れかもしれないけど……鞠絵ちゃんはアタシを選んでくれていると思う……」


 「自惚れですね」と言っやろうと思ったけど、「話の腰折らないで」と言い返され、
 そのままいつもの言い争いが始まりそうでしたから、ここは控えておくことにしました。


「でも、なんで失敗だらけのアタシなんだろう? いつも思っていて、不安で、たまらなく怖かった……」


 ……違う。
 彼女が失敗するのは……成功するか分らないことだから……。
 ワタクシのように過去に誰かがこなしたことではなく、誰もこなしたことのない未知のモノばかり。

 だから、それができるアナタは強いと知っている。


「まだ……好きだとはハッキリとは聞いていないし……。
 だから、いつアタシから離れるのか、
 アタシなんかよりも何倍もしっかりしている春歌ちゃんに取られちゃうんじゃないかって……いつも不安だった……!」


 ……話を聞いて分った。

 いつも楽観的で、後先考えない適当な性格だと思っていた彼女。
 でも、その裏にはちゃんと"不安"の2文字が存在していて、


「負けたくない……!
 彼女の想いが、アタシにほんの少し向けられていることに、甘んじたくない……!」


 そのことが、彼女が行なっていた未知への挑戦は、
 無謀ではなく勇気だったということを、ワタクシは知りました……。


「アナタもアナタで……メカ以外のことで悩んでいたのですね……」
「春歌ちゃんそれって失礼」
「でも、たまにはアナタとふたりで話すのも良いかもしれませんね……」


 彼女のことがなければ、ワタクシはもっとアナタと仲良くやっていけたのでしょうか?
 ふと、そんな事を考えてしまう………………迂闊にも。


「ワタクシは諦めませんから……」


 ハッキリと、彼女がアナタを選ぶまでは。
 ほんの一握りの可能性でも、存在するのなら、その時までは諦めたくない。


「アタシも、負けないから……。これだけは譲れないから……」


 でも、もし選んだのなら……その時は、その想いを応援しよう……。
 いつまでも、その想いをひきずり続け、ドス黒いエゴで彼女を汚したくないから……



 彼女の本当の笑顔が、見れなくなるから……



「だから……協力するのは今回限りですからね」
「分かってるって」
「お金も返してください」
「イヤ」
「なんで返さないんですかーッ!? 借りたものは返すのが常識でしょう!?」
「そんなこと言ったってないモノはないんだもんッ!!」


 ……いえ、無理矢理にでも引き剥がした方が彼女のためでしょうか……?
























  −4月4日 PM19:58 病院・302号室 鞠絵−



 たったひとりの音のない病室で、何をするでもなく、じっとしているわたくし。
 ふと時計に目をやると、時刻はもうすぐ8時を指そうとしていた。
 あと1時間程で消灯時間が来て、そうなると、今日という日はもう終わりを告げたも当然となってしまう。

 今日という日……わたくしの誕生日……。


「……今までだって、そうだったじゃないですか……」


 ぽつりと自分にそう言い聞かせた。

 今までだってそうだった。
 療養所でただひとり、家族のいない中で始まった誕生日。
 そして、何事もなく終わっていく……。

 療養所での友達は、おめでとうと一言言ってくれたけど、
 看護婦さんやお医者様も、おめでとうと言ってくれたけど、

 いつもいつも、何かが足りなかった……。


 わたくしは……家族に、自分に縁のあるものに、そう言って欲しかった……。


 足りない何かが今度こそは埋まると思っていた……。

 でも、神様は意地悪で……折角みんなに祝われるはずの初めての誕生日は、また病室の中で過ごすこととなってしまいました。
 今日は検査があるとかで、面会はさせて貰えず……いつもと同じの、家族からおめでとうの一言も聞けない誕生日。

 もうすぐわたくしの誕生日は終わる。
 またいつも通り、何事もなく過ぎ去っていく誕生日……。



 子供みたいかもしれないけど、本当は凄く楽しみにしていた……。
 みんながわたくしの誕生日を祝ってくれることを。

 小さくてもいい、家族に囲まれて、みんなの暖かい温もりの中で祝われる自分に、憧れていた……。


「ワガママよ、鞠絵……。みんな、ちゃんと祝ってくれるんだから……」


 咲耶ちゃんは言ってくれた、退院したらパーティーをしようと。


 でもその日は今日じゃない。

 わたくしの誕生日じゃない。


「来年だって……あるんだから……」






    ぴ〜ぴろり〜り〜♪


「え?」


 突然聞こえてきた奇妙な音楽。
 音の出所は鈴凛ちゃんのくれた小さな機械人形。


「あら?」


 鈴凛ちゃんのくれた小さな機械人形の形が変わっていた。
 "開いた"と言った方が正確でしょう。
 機械人形は、中に在った4本の支柱が上半分を持ち上げ、上下に別れた状態で中が見える形となっていました。
 そこには紙切れが一枚。
 なんだろうと思い手にとって見てみると、その紙には鈴凛ちゃんの字で、

 『今から窓の外を見続けて。』

 そう書かれていました。


 窓の外?


 一体どういうことなのか、疑問に思いながらも、取り合えずわたくしはメモの通り外を眺めることにしました。
 これは鈴凛ちゃんのメッセージだから、信じたかった。

 窓の側まで寄ると、街の夜景がわたくしの目に飛び込んできました。
 一言に外といってもその範囲は広く、この広大な夜景の中、
 一体何処を見ればいいのか、わたくしは困ってしまいいました。


 しかし……



    ドーーーンッ



「……!」


 次の瞬間、大きな音が鳴り響き、そしてその時、空には大きな光の花が咲いていたのです。


「花……火?」


 こんな時期に……?
 どう考えても季節外れ。


「綺麗……」


 でも、わたくしは疑問に思う前に、その美しさに目を奪われていました。
 そして第2、第3と、次々に空に輝く光の花々。
 それは、本当に綺麗で……気がつけば、わたくしはひとり窓の前に佇み、その大輪に見入っていました。
 何度も何度も咲き乱れた、季節外れの花火……。



「でも、どうし……」


  ――どうして?


 そう言葉にしようと思って動かしていた口は、その動きを止めました。
 なぜなら、言い切る前にその理由が分かったから。

 そして、全てを理解したから。


 嬉しさのあまり何も言えなくなるわたくしを余所に、季節外れの花火は幕を閉じました。



  ……HAPPY BIRTHDAY……



 最後に、こう空に言葉を刻んで……。








  こんなにも……こんなにも素敵な夜空が……


  他の誰でもなく、わたくしのためだけに……



「こんな贅沢……してもいいんでしょうか?」



  わたくしのために、大好きな人が頑張ってくれた。


  いつもわたくしを笑わせてくれる……大好きなあの人が……



「ありがとう……でも……」




   『鞠絵ちゃんは笑顔の方が良いよ』




「ごめんなさい……鈴凛、ちゃん……」



  笑わせてくれるはずの、貴女のプレゼントは……


  今回ばかりは、逆効果です……。



「笑わなきゃ……いけないのに……」



  だって、嬉しくて……


  嬉し過ぎて……



「今日は……もう…………笑えそうも…………ありません……」



  こぼれる大粒の涙を抑えることはできず、


  わたくしは……ずっと、歪んだ笑顔で泣いてしまいました……。






   ありがとう、大好きな人……。
















  −4月4日 PM20:06 病院・302号室 鞠絵−


 涙を拭いてそっと窓の外の風景を見下ろす。
 静まった空の下、そこは近くにある公園。
 そしてそこにふたつの人影。
 鈴凛ちゃんの姿、そして……


「あ……」


 ……春歌ちゃんの姿。

 そうでした、春歌ちゃんも、自分には分らないことでも、
 それでもわたくしのために頑張ってくれたんでしたね……。


「鈴凛ちゃんだけじゃ……なかったんですよね……」


 もうひとりの功労者にも、お礼の言葉を言わなくてはなりませんね……。


「春歌ちゃんも、ありがとう……」


 あなたもわたくしを支えてくれている大切な人。
 縁の下の力持ちが似合う、1番大好きな姉です。
 鈴凛ちゃんとは違う意味での、わたくしの、もうひとりの1番。

 あなたが欲しい"好き"ではないかもしれないけど……でも、あなたはわたくしの1番の人です。


「鈴凛ちゃん……しっかり捕まえておいてくださいね……」


 でないと、もしかしたら浮気しちゃうかもしれませんから…………なんてね





















  −4月4日 PM20:06 公園 春歌−



「鞠絵ちゃん……見てくれたのでしょうか……?」


 近くの公園から、ワタクシは彼女の病室を見上げ、不安そうなその気持ちを言葉にしました。
 もしかしたら、気づかずにいたのでは?

 そう思わずにいられなかった。


「……見てくれたよ……絶対……」
「また根拠もなく……どうしてアナタはそう物事を楽観的に……ッ!?」


 彼女はいつもそうだった。
 どんなことがあっても、決して振り返らず、
 いつも前だけを見て、歩みを止めることなく常に進み続けていた。

 "今の彼女"を守ろうとしたワタクシと違い、変わることを望む"未来の彼女"を連れて、共に歩んでいく。
 そして、彼女の手を引っ張り続け、彼女が望むように、彼女を変えてゆける。


 ワタクシは、彼女の笑顔を守る自信はある。
 でも、彼女の笑顔の作り方は知らないから……だから……―――


「ん? なに、春歌ちゃん?」


   ―――だからアナタを選んだんでしょう……。


「いえ、何も……」


 胸に鋭い痛みを感じつつも、その事が分っていたから、目の前のアナタが羨ましかった……。


「……?」


 本人はそのことを自覚していない。
 だからワタクシは、死んでも教えてやるもんかと、硬く口を閉ざすことにしました。












「それに、根拠ならあるよ。ちゃんと四葉ちゃんに伝える用に言っておいたから。お見舞いの品も渡してね」


 …………。

 ……はい?

「……だ」
「……"だ"?」
だからなんでアナタはそういう大事な事を言っておかないのですかーーーッ!!?


 ワタクシたちはほとんど缶詰状態で作業していました。
 だから、ここ2日間のことは、自分の家のことでもサッパリ分らなくなっているのです。


「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いていません!! 四葉ちゃんがお見舞いに言ったなんてことも!!」
「ん〜……ゴメン、忘れてた」


 こんないい加減な性格だから、尚更許せませんわ……!

























  −4月4日 PM20:10 病院・302号室 鞠絵−


「さて、じゃあ、そろそろ……」


    ピーポーピーポー……


「ずらかろうか!」
「全く! アナタはどうしてこう、ひとつのことに夢中で他のことは考えないのですか!?」
「大丈夫、これも予定内のことだから!!」
「なら尚更何を考えているんですか!? 人様に迷惑かけるなと!!」
「無駄口叩いてないで走る! 捕まったら面倒でしょ!? それに春歌ちゃんだって荷担してるんだし」
「ああ、お祖母さま……ワタクシ、立派な大和撫子にあらざるべき行為を行なってしまいました……。
 しかし! ああ、しかしッ! 自らのことも省みず、大切な人のために! 大切な人のために〜〜!!
 ああ、これこそ真の大和撫子の姿……ポポッ♥♥
「あー、妄想はいいから早く走ってくれない?」






 …………



 …………



 …………






「り、鈴凛ちゃん……春歌ちゃん……」


 近くの公園から颯爽と走り去っていくふたりの姿。
 いえ、「逃げ帰って行く」の方が正しいのでしょうか?

 あんな場所で、勝手に花火なんか打ち上げたのだから……警察の方が公園までやってきていました。


「くれぐれも、捕まらないでくださいね……ふたりとも……」


 本当は笑っちゃいけないのに、わたくしは逃げるふたりの様子を見て、くすくすと笑いをこぼしていました。
 ごめんなさい、鈴凛ちゃん、春歌ちゃん。
 人に迷惑を掛けるのはよくないことですけど……でも、きっと神様もふたりを許して、逃げ切らせてくれるはずですよ。


 1番大好きな人と1番大好きな姉……そんなふたりの素敵なプレゼント。
 初めて、誕生日に言われた、夜空越しのおめでとう。


「そして、ありがとう…………大切な、わたくしの1番の人たち……」


 ふたりの大切な人から貰った夜空に描かれたプレゼントは、
 いつまでも、いつまでも……わたくしの胸の中に輝き残っているのでした……。








あとがき

作中、「当日に祝うから意味があるんだよ!」とか言っておきながら1日遅れでアップさせた鞠絵のBDSS(汗
えー、果たしてなりゅーはこの話を通じてなにを伝えたかったんでしょうか?(苦笑
しかも、途中混乱しまくったので何処かヘンかもしれません(汗

春歌の扱いが酷くて、兄君さま申し訳ありません。
春歌の書き方間違ってますね……春歌って他の誰かと対立するようなキャラじゃないですよ……(汗
しかも勝手に機械オンチにしてしまって……果たして良かったんでしょうか?

更に、まりりんを見せ付けて……なんだか自己満足以外何物でもない話ですね。
視点がコロコロ変わる話でしたので、時間と共に名前で教えるという方法を取ってみました。
が、順番が偏っていますね……(汗
前半は全部鈴凛で、後半で鞠絵と春歌を中途半端に入れ替えて……素直に3人称で作れば良かったかもしれません(苦笑

本当は時間を前後させて、当日に祝わせることを隠そうとも思っていたんですけど、
作っているうちにそこまで調整する余裕がなくなりました。

マイシスのBDSSになんでこんな悪いトコしか見えないようなもの書いているんでしょうか……(滝汗


更新履歴

H16・4/5:完成
H16・12/6:脱字他大幅修正


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