目の上のタンコブ。
第一印象を述べるならそれが一番適当な言葉だと思いました。
合気道、和裁、お茶や花。
何をやらせても、わたくしよりも上手にこなしてしまうあなたに、正直嫉妬していた。
そんなあなたが、ある雨の日に、迷惑しか掛けてこなかったわたくしに、そっと差し出してくれた傘。
自分を良く見せるためだけに習い事をしていた自分とは違う。
ハッキリと自分との格の違いを見せ付けられた気がした。
でも、悔しいとは思わなかった。
心の底から、あなたを認め、受け入れたいと思った。
あの雨の日は、わたくしにとっての、暖かな記憶・・・。
悪戯な風に誘われて
「遅い!!」
今、このオープンカフェでわたくしを待たせている彼女に対して、届くはずもない文句を言い放つわたくし。
本人が目の前にいないので言った所でムダだと言うことは分かっておりますが、
口に出して言わずにいられませんでしたの。
「まったく・・・一体何をしておられるのかしら・・・!?」
ここで待ち合わせをしている彼女とは、最初お互いに敵対していましたけれど、
今はもう友達同士。
そう、あえて言うなら、ここからひとつ向こう側のテーブルにいる、
まるで従来に親友同士のように仲の良いふたりの女の子。
彼女たちのように、差し出がましいかもしれませんけど、親友と呼べる仲にまでなりましたのよ。
でも、彼女に対し悪態を吐くのは初めて会った時から変わりませんわ。
ちなみに、向こう側のテーブルにいる女の子たちは、
片方はメガネを掛け、髪を三つ編みまとめ、肩には白いストールを羽織っている、その雰囲気から大人しい印象を受ける子。
もう片方は、ショートボブにした髪の上にゴーグルをつけて、明るく積極的な感じで、最初にあげた片方の子とは反対のタイプの印象を受ける。
パッと見、対照的なふたりの女の子。
ふたりとも笑って、本当に楽しそう。
きっと、このふたりにもあそこまで仲良くなるまでには、それなりの経緯があったのでしょう・・・。
わたくしと彼女のように・・・。
食事を終えて、わたくしに見られていたなんて気づきもしないまま、
去っていくふたりの少女たちの背中を見送りながらそんな事を考えてしまった・・・。
それと言うのも、待ち合わせの相手が未だに来なくて退屈しているからですわ。
「それにしても・・・何をやっているのかしら、春歌さんは・・・!」
「すみません、遅くなりました」
噂をすればなんとやら、そう口にした矢先に春歌さんが待ち合わせ場所に到着。
「遅いですわよ!」
「すみません・・・ちょっと私用が長引いてしまって・・・」
申し訳なさそうに謝罪する彼女の服装に、上から順にチェックを入れ、
「あなた、なんて格好をしていらっしゃるの?」
そして呆れた口調で、目の前の春歌さんに言い放つ。
「あの・・・何処かおかしかったでしょうか・・・?」
「あなた、今日家を出る前に鏡見てきました?」
「ええ、もう、恥ずかしくないようにビシッと決めて―――」
「どうしてお出かけしに行くだけなのに和服なんて着ているのかって聞いているのよ!?」
確かにビシッと決まっている。
しかし、どこをどう見ても和服。
今日わたくしとお出かけするだけだと言うのに、何故かこの人は着物でビシッと決めている。
成人式や結婚式と勘違いでもしているのでしょうか?
「普通、こういう時は私服でしょう? なのにそんな格好をして・・・」
「あら、日本人ならではの着物でしょう?」
「まったく、隣を歩くこちらの身にもなってくれませんこと?」
その言葉に思わず反論の代わりにため息をひとつ。
この人のこういう感覚が悪いのか、そういう差別視する世間の方が悪いのか、
その“世間”の中で暮らしているわたくしは、この人のこの感覚を批難することにしました。
「大丈夫ですよ。 ここは日本ですから」
「そういう問題ではありませんわ!」
「それに、この着物はワタクシの私服ですから、問題ありませんわ」
「マジ?」
・・・あら、わたくしとしたことがはしたない・・・・・・おほほほほ・・・。
「あのねぇ、春歌さん。 友達と出掛けるだけだって言うのに、そんな格好をするバカがどこに居るんですか?」
ここに居ますわ、と頭の中の自分が語りかけました・・・。
「えっと・・・宜しくなかったのでしょうか?」
「宜しくありませんわよ!」
「でも、和服は素敵ですから」
「素敵云々はこの際どうでも良いんですのよ!」
「柿ノ本さんも着物を着るとお似合いになると思いますよ」
「まぁ、似合うのは当然のこととして・・・普段から着ているなんて恥ずかしいでしょう!?」
「そんなことありませんわ」
「そんなことありますわ!!」
いつものようにもめているわたくしたち。
初めて会った時から変わらないやりとり。
この、まるで仲の悪い猫とネズミのようなやりとりをすることが、わたくしたちのいつもの姿。
初めて会った時と違うのは、わたくしは彼女に敵意を込めずに言い放っていると言うこと。
でも、春歌さんの方は初めて会った時と変わらず、
ニッコリと笑いながらわたくしのトゲのついた言葉を受け流していく。
最初は悔しかったこのやりとりに、今は奇妙な楽しみを感じている自分が居る。
「もういいですわ・・・。 さ、行きますわよ」
「ええ、了解いたしましたわ」
「で、今日はどこに?」
「そうですわね・・・実は、良い反物を売っているお店がありまして、それで着物を仕立ててみると言うのは・・・」
「ここに来てまだ和服の話!?」
先程、あれだけ和服についての不必要性を追求したと言うのに、この人は・・・。
大体着物なんてちゃんと持っていますし必要ならわたくしも自分で新調しますわ。
なのに何でわざわざ、そんな滅多に着ない上に今現在必要のないものをショッピングしに・・・・・・ああ、この人にとっては私服でしたっけ・・・。
「ワタクシたちふたり、着物姿で街を歩けば、町中はその姿を見過ごすこともできず・・・」
「時代錯誤の少女ふたり、何て格好しているのかと注目浴びますわね」
「もう、町中の視線はワタクシたちに釘付けですわ・・・・・・ポポv」
「ええ、白い目でね」
「それで、柿ノ本さんはどのような反物が宜しいのですか?」
「あなた、人の話聞いていらした?」
感覚が時代錯誤の彼女の言葉をことごとく否定しているにもかかわらず、
あくまで自分のペースで話を進める春歌さん。
この人は、たまに周りが見えなくなるような傾向があるようで、今もそれが発動しているのでしょう。
まったく・・・困ったものですわ・・・。
あまつさえ、家から持参したであろう、どこぞの反物屋のチラシをわたくしの目の前に広げ、
楽しそうに「あの反物はああだ」「この反物はこうだ」と、物凄く楽しそうにわたくしに話掛けて来る。
わたくしは、そんな春歌さんの押しの強さに抵抗できず、顔を多少歪めながらも相槌を打っていました。
と、その時、
「あ・・・!」
一陣の救いの風・・・いえ、悪戯な風が、春歌さんの手からチラシを奪い去って行きました。
チラシはそのまま風にさらわれ、脇道へと姿を消していきました。
「ああ、もう・・・折角柿ノ本さんと楽しく見ていらしたのに・・・」
あんた人のこと見てなかったんかい!?
と、心の中ではしたなくツッコミを入れながらも、ひっそりと喜びを噛み締めていました。
「柿ノ本さん、悪いんですけど、少し待っていてくれませんか? ワタクシ、チラシを―――」
「いえ、わたくしが取ってきて差し上げますわ」
チラシを取りに脇道に向かおうとする春歌さんを抑止して、わたくしは彼女の一歩前へ足を出しました。
「え、でも・・・」
「いいから、春歌さんはここで待っていてくだされば良いんですのよ」
親切心と言うものもありますが、あわよくばあのチラシはそのままわたくしの手の元に置いておき、
反物の話題を二度とさせないようにとの策略から、わたくしはこの役目を買って出ましたのよ・・・おーっほほほほ。
「そうですか・・・? では、お言葉に甘えて・・・」
わたくしの策略など露知らず、春歌さんはわたくしにチラシを取りに行く役目を譲って下さりました。
ああ、これで春歌さんの着物話からやっと解放されますわ・・・。
「では、ここで待っていてくださいね」
「はい、宜しくお願いします」
チラシの飛んで行った脇道の先は、わたくしの記憶が確かならば、確か袋小路になっていたはず。
春歌さんとのやりとりで多少遅れを取ったものの、最悪壁に張り付いているでしょうから、すぐに追いつけるはずですわ。
わたくしは、チラシを追い駆けるため脇道へと足を運びましたの。
でもまさか、あの風の悪戯が“運命の悪戯”で、この選択が“運命の選択”だったとは、
この時のわたくしは知る由もありませんでした・・・。
「まったく・・・悪戯な風ですわね・・・」
脇道を多少進んだ所でそう口から漏らす。
まぁ、お陰であの和風マニアから和服話を止めさせるきっかけになって助かりましたけど・・・。
「捕まえ・・・た!」
弱まった風に未だ流され続けるチラシに近づいた所で手を伸ばし、チラシはクシャっと音を出して、わたくしの手に収まりました。
このままグシャグシャにしてしまい、遠くに飛んで行ったことにしてしまおうなどと、
野蛮なことを考えてしまいましたけど、
それはさすがに、先程楽しそうに反物の話をしていた春歌さんに悪いと思い、控えることにしましたわ。
まぁ、これは帰る時にでも春歌さんに・・・
「・・・・んなとこ・・で・・・・・っ!?」
・・・?
奥から、人の声・・・?
この先は袋小路。
少し先に見える曲がり角の向こう側は行き止まりで、
だから、わたくしのように悪戯な風に誘われでもしたような人以外は行く理由なんてない。
にもかかわらず、人の気配がある。
少々気になって、わたくしは好奇心からもう少し足を進めてみるのでした。
曲がり角まで来ると、
「や・・・ま、待ってよ・・・こんなところでキスしてだなんて・・・!」
あらまぁ、なかなか過激な発言ですこと。
なるほど、きっとどこかのアベックが発情する気持ちを抑え切れなくて、
こんな所で隠れてコソコソとイチャつこうって腹でしょうね・・・まったく不埒ですこと・・・。
これ以上進むとわたくしの姿が向こうにいるアベックに見つかりかねませんので、
わたくしは曲がり角にて身を隠し、その様子を音だけで判断することと致しました。
・・・デバガメなんて下品な言い方しないで下さる?
こんな所でイチャついてる方が悪いに決まっているんですから!
「・・・も、もし誰かに見られでもしたら、どうするのさ・・・」
先程から聞こえてくるのは女の子の声ですわね。
押しの強い発情した彼氏にでも迫られているのでしょうね。
「大丈夫ですよ。 こんな所、滅多に人は来ません」
・・・ん?
別の女の子の声?
「うふふ・・・鈴凛ちゃん、可愛いv」
ちょっと待って、この状況おかしいわ。
内容は色恋沙汰、しかし女の子の声がふたつ。
推測するに男ひとり、女ふたりが向こう側に居るはず。
しかし、修羅場などではなくなんとも和気藹々とした口調。
3人でこんな会話するなんて話聞いたこと無い。
一体どういう・・・
「・・・・・・んっ・・・・ぅ・・・・・・」
「・・・・・・」
身を乗り出し、袋小路の奥の情景を見て絶句、直後に納得。
簡単な話、色恋沙汰は女性ふたりで行なわれていただけの話・・・・・・ってぇッ!?!?
「おっ・・・―――」
『女の子同士でキスしているーーーーーっっッ!?!?!!???!』
思いっきりそう叫びそうになった口を、両手で押さえ、急いで再び身を壁に隠す。
「も、もう・・・鞠絵ちゃんったらぁ・・・vv」
しかも、それを行なっていたのは、ストールやらゴーグルといった特徴から、
さっきのオープンカフェで見かけた親友同士のふたりということが分かりましたの。
(メガネは後ろ向きだったため見えませんでしたけど・・・)
・・・いえ、真実は“恋人同士”のふたり。
ま、まさかこんな裏があったとは・・・
これは・・・見てはいけないものを見てしまいましたわ・・・。
好奇心で深入りしてしまった事をいささか後悔しながら、わたくしは、
女性同士のアベックをあとにして、そそくさとその場を離れました・・・。
「あら、柿ノ本さん、遅かったですね。 なにかあ―――」
「何でもないわ何にも見てないわ何にも触ってないわ!!!!!」
「はい?」
脇道から出てきてすぐ、何も知らない春歌さんに対し言い訳するようにそう言い放った。
どうして春歌さん言い訳する必要があるのかよく分からないですけど・・・
あんなものを見たばかりのわたくしの頭の中はそこまで冷静に考えられる状況ではありませんでしたの。
いえ、あんなものを見て冷静で居ろと言う方がどうかしてますわ!
それに、触ってないのは本当ですし・・・。
「さ、行きましょう! 何事もなかったかのように行きましょう!!」
「あ、あの・・・?」
話の飲み込めない春歌さんの背中を押して、有無を言わさずその場を離れるよう促しました。
今見たことは忘れましょう。
きっと、それが最善の行為ですわ・・・。
「柿ノ本さん、このかんざしなんて似合うと思いません?」
「・・・あなた、よっぽど和風なものが好きなのね・・・」
とあるデパートにてアクセサリーをふたりで見ながら、
この人の重度の和風マニアっぷりにため息と共に悪態を吐く。
衝撃的な情景を目にしたものの、わたくしはいつものように振舞いながら、春歌さんとのショッピングを楽しんでいました。
・・・でも、それは上っ面だけ・・・。
わたくしの脳裏には、先ほどの衝撃的な情景が焼きついて離れようとしませんでしたの。
女性同士での恋仲・・・。
あるということは知識だけで知っていました。
ですが、まさかこの目で実際に見ることになるなんて・・・。
あんな光景見るまで・・・わたくしとは全く関係のない世界の話だと思っていましたのに・・・。
「あの・・・柿ノ本さん・・・」
かんざしを元の位置に置いた春歌さんは、そんなわたくしの考えに横槍を入れるように、
心配そうな声でわたくしの名前を呼びました。
「なにかしら、春歌さん?」
「・・・何か・・・あったのでしょうか?」
「え!?」
「先程から・・・何か様子がおかしいようですし・・・」
・・・あっさりバレてました。
「なななナンデモありませんわ!! おほほほほ・・・」
春歌さんにズバリ見抜かれたことに、多少動揺を見せてしまいながらも、なるべく冷静にそう返答する。
突然のことで結局全然冷静になれなかった返答ですけれども、春歌さんは多少納得のいかない様な顔で「そうですか」と一言。
春歌さんの様子からはまだ疑問の表情が消えていないことは察することができました。
で、でも・・・女性同士の恋愛について考えていたなんて・・・そんな・・・とても言える話じゃありませんわ・・・。
だから、春歌さんには悪いですけど・・・ここは話をはぐらかせて頂くことにしました。
「柿ノ本さん、ここなど寄ってみませんか?」
「また和風なお店ですね・・・。 少しは洋風な所に寄ってみませんこと?」
デパートを出てから、そういうお店ばかりに足を運ぼうとする春歌さん。
デパートでもそういうところに向かってばかりでしたから、実質そういうお店にしか向かっていないことになりますわね・・・。
「あ・・・」
また別の女の子ふたりが、楽しそうに話をしているのがふと目の端に入りましたの。
この子達は友達、先程のふたりのように恋人関係なんかじゃない・・・はず・・・。
さっきの情景が、わたくしの今までの人生で得た常識を一気に覆してしまっている。
女の子同士で仲良さそうな姿、ここから見えるだけで3、4組あります。
でも・・・そう、例えばあそこのカチューシャをつけた女の子と、
ボーイッシュな女の子の組み合わせなど、もしかしたら・・・
そう考えてしまう。
もしかしたら・・・・・・わたくしも、春歌さんと恋人同士に見えているのでしょうか・・・?
・・・・・・はっ!?
「わわわわわわたくしったら、一体何を考えているのっ!?」
「柿ノ本さん!?」
はっ!
お、思わず大声をあげてしまいましたわ・・・。
「あ、あの・・・なんでもありませんことよ・・・おほほ」
なんで!?
なんでこんな事!?
まさか・・・わたくし・・・
いいえ、そんなはず・・・だって、春歌さんは女性・・・・・・そう思うなんて、あり得ない!!
「さ、次のお店に向かいましょう!」
「柿ノ本さん・・・やはりおかしいですわね・・・」
「だ、大丈夫! なんともありませんわよ!」
まぁ、わたくしのこの様子を見ればおかしいと思うのは当たり前・・・。
でも、そんな事を考えていたなんて知られる訳には行かない・・・!
ここは、なんとしてでも誤魔化すしかないですわ・・・。
「とにかく、大じょ―――」
―――っっッッッ!!!!!!???!!?!?!?!?!?!!??
「ひょっとして、熱でもおありに・・・」
は、春歌さんが、わ、わたくしのオデコに、自分のオデコをーーー!!??!
「あ! ぅっ! お・・・! ・・・え! ぁ・・・っ!」
しどろもどろになり、言葉にならない声を情けなくあげるわたくし。
春歌さんには他意はない。
そして、わたくしが考えていることなど知る由もない。
こんな至近距離に春歌さんの顔がある。
今まで、春歌さんをこんなに近くで感じたことはなかった。
ああ・・・春歌さんの吐息が、わたくしの頬や唇に、優しく降りかかって・・・。
わたくしの・・・こんなに近くに・・・春歌さんの艶やかな唇が・・・
もしも、その唇が・・・わたくしの唇と・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「やめんかわたくしーーーーーっっっ!!!」
「きゃああああああぁぁぁっ!!?!?」
間近で大声をあげられ、ビックリして後ろに飛びのいた春歌さん。
ああ、わたくしったらなんとはしたない・・・。
「な、何事ですか!?」
「い、いえ、ナンデモありませんのよ! ほんと、全く全然ナンデモありませんのよ!!
おほ・・・おほほほ・・・」
ぎこちないカラ笑い。
自分自身、無理があることも分かっている。
でも誤魔化さずにいられませんでした。
今自分の考えていた事、しようとしていた事を知られたくなかった。
数秒前の自分を消してしまいたい。
心底そう思いました。
「本当に・・・大丈夫なのですね・・・?」
「ええ、もう全然完璧完全無欠ッ!」
もう全然完璧完全無欠にダメダメでした・・・。
・・・なのに、春歌さんは一言、
「分かりました・・・」
そう言って、この会話にピリオドを打ってくれました。
春歌さんと次のお店へと足を運んでいる時、
春歌さんはあちらこちらと辺りを見回し、次に訪れるお店を探しているのに対し、
その後ろで、わたくしはお店を探すこととは無関係なことを考えていました。
内容はもちろん、先程からわたくしの様子がおかしいことについて・・・。
理由は、間違いなくあんなものを目撃したから・・・。
慣れない事を考えるから、おかしな方向へ話が進んでしまう。
そのせいで、今まで自分とはまったく関係のないはずのことを、
今の自分に当てはめて考えるようになってしまった。
そして、とうとう・・・・・・
・・・・・・。
ぶんぶんと頭を振って思考を中断し、たった今思い出した先程の行為を頭から振り払おうとする。
あれは気の迷い、あれは気の迷い、あれは気の迷い・・・
さっき春歌さんへしてしまおうとした事に対して、何度も何度も自分に言い聞かすように、頭の中で復唱する。
先程、わたくしが春歌さんにしようとした行為・・・
あの時、春歌さんが後ろに飛びのいてくれて、本当に良かった・・・。
だって、わたくしはあの時・・・
―――こんな事認めたくないけど―――
ゆっくりと、春歌さんの唇に・・・自分の唇を・・・・・・
ああああ!!
考えるだけで顔から火が出る勢いですわ!!
視線をわたくしの目の前を歩く春歌さんに移す。
先程も、春歌さんは・・・わたくしの様子がおかしいことなど、先程からの様子で分かりきっているはずなのに・・・
それでも、わたくしの気持ちを察し、あえて聞かずにいてくださる。
やはり、春歌さんは優しい人・・・。
わたくしのように突っぱねるようなひねくれた性格とは大違い。
初めてあなたを知った時、認めたくなかった。
だから自分の方が優れていると見せ付けたかった。
でも、自分を良く見せようとするだけのわたくしとは違い、
あなたは本当に素晴らしい人だと、あの雨の日、わたくしは思い知った。
そんなあなたが素敵だと思って、だからもっと近づきたくなった。
そんな春歌さんのような素敵な人を、
汚してしまおうとした自分が、凄く腹立たしく思えた。
異常な行為に出ようとした自分が、
あり得ないはずなのに、実現させてしまいそうになった自分が恐ろしく感じた。
でもそれは・・・もしかして・・・
わたくしが・・・本当は、春歌さんのことを・・・
・・・・・・
わたくしの、心の寂しさを埋めてくれた春歌さん・・・。
もしかして・・・あの時にもう・・・
ダメ・・・ッ!
少しでも受け入れようとすれば、きっとそのまま転げ落ちてしまう・・・。
今、おかしくなっている自分の精神状況では、ありえない事ではないと言える。
寧ろ高い確率で起ころうとしていることが分かる・・・。
そして、その先に待っているもの、
折角手に入れた友達を傷つけて、失って、
そして後悔という深い傷を抱えた自分自身の心だけが残る、最悪の結末。
ただの気の迷い、
一時の気持ちの高ぶり、
それがこの様なバカな考えの後押しをしているだけなのは明白。
同性間でそんな感情が目覚めるはずない!!
別の事を考えましょう・・・。
そう、例えばあのアクセサリーショップのウィンドウを眺めているふたり組み。
まるでさっきの・・・
「えー、絶対似合わないって」
「そんなことないですよ」
メガネに三つ編みでストール・・・
ショートボブの上にゴーグル・・・
「絶対鈴凛ちゃんに似合います」
「ないない・・・アタシなんかに似合うわけ・・・」
・・・・・・。
「鈴凛ちゃんは自分の魅力に気づいていないだけです」
「そ、そんなのないよ・・・アタシなんかに・・・」
さっきの変態カップルーーーッ!!?
「鈴凛ちゃん、普段おしゃれしないから、した時はぐっと可愛くなるんですよ」
「そ、そんなこと・・・鞠絵ちゃん方が絶対似合うって」
きゃーーーッ!!
パッと見普通の会話なのに、このふたりの関係を知っていますと内容の意図が変わってくるーーーッッ!!
チラッと隣に居る春歌さんを見てみると、どうやらあのカップルに気づいていない様子。
まぁ、気づいてところでただの友達同士として処理してしまうんでしょうけど・・・
真実を知ってしまったわたくしは違う!
「は、春歌さん、向こうに行きましょう!」
「え?」
とにかく、一刻も早くこの場から離れたかった。
自分の中でのおかしな感情が、何かをきっかけに暴走しそうで怖い。
そこまで分かっていても、抑えられない自分が怖い。
一時の気持ちの昂りがとんでもない過ちを犯させ、
そして自分も相手も傷つけ、全てを壊してしまう。
「春歌さん、向こうに行きましょう! っつーか行きます!! っていうかお願い行って!!」
「え? え? え?」
こんな話、話せる訳ありませんから、無理矢理にでも・・・。
一刻も早く離れなければ・・・一刻もはや―――
「って、のわーーー!!?」
春歌さんが、春歌さんの手が、わたくしの手をそっと握ってるーーー!!
・・・ち、違う・・・これは春歌さんを引っ張るため、わたくしが握ったんですわ・・・。
違う、わたくしは、決してそんな、不純で卑猥で猥褻な考えなんて、決して・・・
「あの、柿ノ本さん、一体何が・・・? それに、お顔が赤いようですけど・・・」
一刻も早くこの場を立ち去らなければ、
だからまだこの手を離すわけにも行かない、
でも急いで離さなくては、
・・・危険だ。
「あ、あの・・・ちょっと、柿ノ本さん!」
やっとヘンな妄想が落ち着いてきたのに、また思い起こされて・・・
わたくし、またおかしくなってしまう・・・
「そんなに手を引っ張ら・・・」
急いで離れよう、そして急いで手を離そう。
そう焦っていたのが不味かった。
「「きゃあっ!!」」
こけた・・・・・・いえ、転んでしまいましたわ・・・。
理由は、わたくしが春歌さんの手を無理に引っ張ったものですからわたくし自身バランスを崩し、
また、引っ張っていたわたくしが倒れそうになったものだから、突然のことで春歌さんもバランスを崩してしまったから。
お互い声を揃えて、情けない悲鳴を上げ地面へと倒れてしまった。
「・・・いたた・・・」
「だ、大丈夫ですか、柿ノ本さん・・・?」
「ええ、大じょ―――」
目を見開いて、わたくしの心臓は今にも飛び出んばかりに激しい鼓動を波打ち始めました・・・。
先程、わたくしの体温を測ろうとした時と同じくらい至近距離に、春歌さんが居た。
わたくしは仰向けに、春歌さんはわたくしに覆い被さるようにうつ伏せに倒れ、
丁度向かい合わせになる体勢で倒れてしまった。
この体勢・・・パッと見春歌さんがわたくしを押し倒して居るような体勢・・・。
しかも、入り込んでしまったのは脇道、滅多に誰かに見られることはないような状況。
最悪の状況・・・。
「す、すみません、柿ノ本さん・・・」
どうしてあなたが謝るの?
悪いのはわたくしなのに・・・あなたは優しすぎるわ・・・。
だから・・・そんなあなたの心に・・・わたくしは・・・・・・
「あの・・・柿ノ本さん?」
さっきと同じように、至近距離に春歌さんが居る。
春歌さんが・・・
自分の中で何かが壊れた。
―――良いじゃない・・・別に・・・
必死で抑えて、
―――あのふたりだって、女同士なのに愛し合っているんだから・・・
必死で否定していたのに・・・
―――この程度、些細なことよ・・・
もう止められない・・・。
―――もしも、さっき春歌さんが飛び退かなかったら・・・
後のことなんか、考えられない・・・。
―――きっと、こんな風に・・・―――
「・・・え―――」
嬉しかった。
この瞬間が何よりも幸せだと感じた・・・。
でも、悲しかった。
情けなかった。
分かっているから、
一度春歌さんと離れたら、
もう二度と、あなたはわたくしに近づかなくなることを・・・
同性との、初めての口付けは・・・甘い貴女の味と、苦い罪の味がした・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・やってしまった。
さっきから止まらなかった妄想。
とうとう、現実のものとして、実現してしまった・・・。
「かき・・・の・・・もとさん・・・?」
そして全てが終わった。
「・・・・・・ッ」
言い訳なんてできない。
こんな、決定的なことをしてしまって・・・。
信じられなかった・・・。
心の底で、自分がそんなことを考えていたなんて・・・。
ただの友達で十分だと思っていた。
それで満足できない自分が、こんなバカなことをしてしまった!
一時の感情の昂りで、全てをダメにしてしまった!
こんな素敵な人と、友達以上になりたかった。
それは自分でも認める。
でも、こんな関係望んでいたなんて、思ってもみなかった。
今でも、自分がそう思っているなんて信じられない・・・。
本当はそんな関係は望んでいない、ただ一時の感情の高ぶりで、こんな事をしてしまっただけ。
そんな気がしてならない。
でも、そんなの関係ない。
終わった・・・全てが終わってしまった。
素敵なあなたとお友達になれたことも、
言い争うばかりでも、楽しかったあなたとの日々も、
たった一度の過ちで、全てをダメにしてしまった・・・。
抑えられないわたくしが悪いの?
抑えさせないあなたが悪いの?
そもそも、あの変態カップルがあんなことをしているところなんて見なければ、
わたくしがこんな不純で卑猥で猥褻な想像、考えることすらするはずもなかったのに・・・。
「あれ、春歌ちゃんじゃない?」
「あら、本当」
そうそう、この変態カップルのせいで・・・―――
「――――――ッッ!!?!?」
「鞠絵ちゃん、鈴凛ちゃん!?」
計ったかのようなタイミングで現れた変態カップルに、驚きのあまり声に鳴らない声を出すわたく・・・・・・
・・・・・・。
「あの、春歌さん・・・・・・お知り合い・・・?」
春歌さんは何故このふたりの名前を知っていたのか、ものっすごく気になった。
「と言いますか・・・ふたりともワタクシの妹」
・・・・・・。
「この変態カップルが春歌さんの妹ぉーーーー!??!」
「「「え!? 変態!?」」」
衝撃の連続のあまり、ついつい思っていることをそのまま口に出して叫んでしまった。
「あ、いや・・・」
「・・・つまり、その時見てしまわれた、と言う訳ですか・・・」
ふたりについて知っていることを正直に話すと、春歌さんが妹さんふたりを、ため息混じりに見ながらそう言った。
「やはり、あの時のチラシ、ワタクシが取りに行くべきでしたわね・・・」
もう一度、今度はわたくしの方を見てため息をもうひとつ。
「ほ、ほらぁ・・・見られちゃってたじゃないの・・・」
「すみません・・・」
ゴーグルの子が叱り、メガネの子が調子に乗り過ぎたと反省している。
うーん、どちらかと言うとイメージ的に反対な気がしますわ・・・。
「あの、ふたりとも妹ということは・・・もしやおふたりは同性というだけでなくご姉妹なのに・・・」
「うん、まぁ・・・アハハ・・・」
ゴーグルの子が恥ずかしそうに照れながら答える。
こ、ここまでディープな関係だったとは・・・。
初めてこのふたりを目撃した時の予想とは大きく外れた、誰もが驚く関係でしたとは・・・。
ああ、今まで築き上げてきたわたくしの中での常識が崩れていく・・・。
「やはり春歌さんはこのことを・・・?」
「あー、知っています」
「やっぱり・・・」
わたくしが口を滑らせた時の春歌さんの反応から、もしやと思った。
妹さんふたりについてすんなりと話すことにしたのは、
意味もなく批難するような人間なんて思われたくなかったことと、春歌さんもご存知だろう察したからである。
「外ではそんなに大層なことができませんから、家の中でもうイチャイチャと・・・」
「ちょっ・・・そ、そんなにイチャイチャしてないよ・・・!」
ゴーグルの子が、顔を真っ赤にして春歌さんに反論する。
その一方で、メガネでストールを羽織った方の子が、不安そうな顔でわたくしに語りかけてきました。
「あの、春歌ちゃんのお友達さん・・・申し訳ないんですけど・・・」
「分かっています・・・このことは誰にも言いません。 わたくしの心の中にそっとしまっておきますわ」
内容は察することができる。
だから妹さんの言葉を聞く前に返答した。
「ありがとうございます」
その一言にホッとしたのか、メガネの子は不安そうだった顔を、微笑み顔に変えてお礼を申しましたの。
「大丈夫かな・・・?」
「大丈夫ですよ、鈴凛ちゃん。 “わたくし繋がり”の人に悪い人は居ません」
「いや、その理屈よく分からないんだけど・・・」
そんなやりとりをする妹さんふたりを尻目に、わたくしは誰にも聞こえないような小さな声で、最後にこう付け足すのでした。
「わたくしだって・・・ヒトの事、言えないんですから・・・」
と・・・。
その時、よくは見えなかったけれど、春歌さんの表情が変化した気がした。
そのことが、春歌さんにその言葉が聞こえていたであろう事を実感させられた・・・。
わたくしたちは、ただふたり、黙って当てもなく歩いていました。
変態カッ・・・ではなく春歌さんの妹さんふたりと別れた後からずっと・・・。
沈黙。
無音な空間が、重苦しくのしかかって来るような、そんな重圧の中で・・・。
春歌さんの妹さんたちの登場によって、一時的に話がそれてしまいましたが、
どんなに消したいと思っていても、わたくしがしてしまった行為が消える訳でもない。
春歌さんと目を合わせるなんてできなかった。
あんな、取り返しのつかないことをしておいて・・・。
今も、この唇に・・・春歌さんの唇の感触が、鮮明に残っている・・・
とても苦い、罪の味・・・。
あの時、どうして“嬉しい”と感じたのかさえ分からないくらい、胸が張り裂けそうで・・・とてつもなく辛い・・・。
早くこの重苦しい沈黙から抜け出したかった。
でも、抜け出すことが、先に進むことが、
終わりへと向かうことだと分かっているから、
先に進むのが怖かった。
このままでいるのも辛い・・・。
でも、先に進むのはもっと辛い・・・。
そんな葛藤の中、わたくしは春歌さんの隣を歩いていました・・・。
「あの・・・・・・柿ノ本・・さん・・・」
先に足を止め、沈黙を破ったのは春歌さんの方だった。
「先程のこと・・・ですけど・・・」
そしてその内容は、わたくしが最も触れられたくはないこと。
けれども、最も話さなくてはならないものだった。
「ワタクシは・・・その・・・別に同性愛については、批難する気はありませんから・・・。
なんせ、妹ふたりがアレですからね・・・」
苦笑気味にそう言う。
それも、カラ元気という言葉が似合うような感じで。
「普段からそういうの見ていらっしゃるようですから・・・・・・免疫があるんでしょうね・・・」
いつものように、彼女を突っぱねるような口調で返す。
でも自分でも分かった。
覇気がなく弱々しい口調になっていることに。
春歌さんは、別に同性愛を批難はしない。
それをするということは妹ふたりを批難すること。
優しい春歌さんならそんなことできるはずない。
わたくしの知っている春歌さんには・・・。
でも・・・
「・・・春歌さん自身はどうなのよ!?」
「え?」
「妹ふたりがどうだろうと、あなたはあなたでしょう!?」
「・・・・・・」
春歌さんがそうだと言うこととは全くの別の話。
自分がそう言うことをされるなんて、予想だにしていなかったはず。
してしまった当人であるわたくし自身、まさかあんなことをするなんて思っても見なかった。
「柿ノ本さんは、どうなのですか?」
春歌さんは沈黙の後、わたくしのぶしつけな質問をそんな質問で返してきた。
その質問は当然のこと。
あんなことをしたのですから、わたくしにはそれに答える義務がある。
だって、わたくしが春歌さんにしてしまったことは、本来その気持ちが前提に在って行なわれる行為。
「知らないわよ!」
・・・でも、わたくしは春歌さんの質問には答えなかった。
答えられなかった。
「わたくしだって、今日まで・・・・・・いいえ、さっき、あなたの妹ふたりを見るまで、
自分がそんな気持ちで春歌さんを見ていたなんて・・・思っても・・・見なかったんですから・・・」
自分の中で、その答えが見つかっていない。
自分で自分の気持ちが分からない。
だから答えられなかった。
春歌さんのことは好きだ。
それは間違いない、けど・・・“その好き”とはハッキリ言い切れない自分がそこに居る。
「今も分からないんです・・・。 春歌さんのことをどう好きなのかが・・・」
衝撃的な情景に後押しされるように、一時の感情の昂りが、あんな行動を起こさせた。
でも、冷静になった今、自分が同性に対し、そんな感情を抱くとは信じられなかった・・・。
じゃあ、わたくしは春歌さんのことをどう思っているのか?
答えはわたくしの中にしかないはずなのに、わたくしの中からは見つからない・・・。
「あんなことしておいて・・・こんな答え、信じてもらえないかもしれないけど・・・」
「信じます」
春歌さんの返事は即答で返ってきた。
・・・あなたは優し過ぎるのよ・・・っ! だから、わたくしは・・・
春歌さんの言葉に、口に出さず心の中でそう言い返した。
「だから・・・ワタクシも正直にお答えします・・・」
そう言って、春歌さんはわたくしの方に顔を向ける、そこでやっとわたくしたちは目を合わせた。
次の言葉が出るまで、数秒の間があった。
彼女自身、言葉にするタイミングを計っているかのように。
その数秒が、わたくしにはとてつもなく長く感じました。
そして、ようやく彼女の口が開いた時、
「先程のこと、別に嫌な気持ちはありませんでした・・・」
「!!」
「同性に口付けをされたと言うのに・・・嫌悪感は全くありませんでした」
そこからは意外な言葉が飛び出したのでした。
「わ、わたくしに同情して慰め―――」
「―――るつもりなんてありません! ワタクシの・・・正直な気持ちです」
心を読んでいたかのように、言葉を横取りする形でわたくしの言葉を否定する。
「でも、アナタをそういう意味で好きかどうかと考えると・・・ハッキリと答えられる自信はありません・・・。
もちろん、友達としては大好きです。 今も、今までも、そして、これからも・・・」
「・・・!? まだ友達としてお付き合いしてくださるの!?」
春歌さんはおふたりの妹さんの存在で、同性間にも恋愛感情が存在するということを誰よりも知っているはず。
だからこそ、仮にその気がないとしても、あのような行為に出たわたくしと一緒にいることは、
今後も同性に迫られると言う、普通の考え方では嫌悪的な危険性をはらんでいる。
そのことをより強く認識しているはず。
なのに・・・
「当然です」
どうしてそう答えられるの?
「また、するかもしれないんですのよ!!」
「嫌ではなかった、と申しましたでしょう?」
「嫌じゃなかったら、しても宜しいって言うんですか?」
「アナタが今日、ワタクシと出かけたのは嫌ではなかったから、でしょう?」
「あなたにとって口付けとは、友達と出かけることと変わらないことなんですか?
あなた、思っていたより軽い人なんですね! しかも、同姓に対して!!」
「柿ノ本さんだから・・・・・・特別な人だから・・・」
「特・・っ!?!?
あ、あなたさっきわたくしのことそういう意味で好きかどうか分からないって言ったじゃないの!?」
「あ・・・別にそういう意味を含んだわけではなくて・・・。 でも、柿ノ本さんは特別な人です・・・」
「ど、どう考えてもそういう意図に聞こえますわよ!!」
「では・・・特別な友人、と言う表現でひとまず・・・」
「いつも思っていましたけど、どうしてあなたはそういうことを恥ずかし気もなく言えるんですか!?」
「本心を申しているだけです。 そこには恥ずべき気持ちなど一切含んでいませんから」
「・・・ッ!!!」
真っ直ぐな瞳、真っ直ぐな意思、
それに気圧されるように、わたくしは言葉を詰まらせてしまいました。
言葉を詰まらせたわたくしに、春歌さんは追い討ちを掛けるように次の言葉をその口から出した。
「でも、もしもですよ・・・。
もしも、ワタクシも、アナタも、お互いそういう気持ちならば・・・」
そこで一旦言葉を切り、そしてニッコリと微笑みながら、
「その時は・・・お付き合い、してみませんか?」
「ッ!!」
・・・どうしてこの人は、こんな恥ずかしいことを平気でやってのけるのかしら・・・。
台詞を真っ正面から言えるのかしら・・・。
今も、あの時も・・・
「ま、まぁ・・・・・・アナタみたいな人が恋人なら・・・・・・悪い気は、しないわね・・・」
顔を背け、強がってそう言う。
自分の顔が紅潮しているのが分かったから、
この人にそんなわたくしを彼女に見られるのがしゃくだから。
・・・ああ、これはいつものわたくしとあなただ・・・。
・・・もう、二度とないと思っていたのに・・・。
目じりが熱くなっていくのが分かった。
けど、必死でそれを抑えた。
理由はもちろん・・・・・・この人にそれを見られうのがしゃくだから・・・。
「あら、やっぱり柿ノ本さんはそういう趣味なんですか?」
「も、物の例えよ!! 第一、分からないって言ったでしょう!」
やっぱり春歌さんは、素敵な人・・・。
わたくしは、やっぱりこの人には勝てないのかもしれない。
習い事も、心も・・・。
そんな貴女に・・・わたくしの心は奪われていたのかもしれない・・・。
「でも、ワタクシがそういう趣味に目覚めたのにアナタが目覚めなかったら、
ワタクシはアナタを無理矢理引き込むかもしれませんよ」
今はまだハッキリしないこの気持ち。
「そっちこそ、同性に攻められてヒーヒー言わないでくださる?」
まだ、友達のままで。
「覚悟しておきますわ」
「お互いにね」
今は、まだ・・・。
あとがき
直月さんが『はるかき親衛隊同盟』結成記念にと、思い立ってから比較的すぐに作り上げました(笑)
見ても分かるとおり、内容的に春歌の姉妹のカップリングが必要でしたが、
ぶっちゃけ春歌以外の“妹×妹”カプなら何でも良いわけです。
まぁ、なりゅーがどういう人物か分かっている人に“妹×妹”と分かり易いように、あえて“まりりん”でやりました。
知らない人にも“まりりん”なるカプがある事を知らせれますので(笑)
何気にシリアスっぽくなってしまいましたが、当初の予定では柿ノ本さんが百合に目覚め、
最終的に春歌が迫られて迷惑するような内容にしようと思っていたんですけど・・・何でこうなったのか?(ぇ)
まぁ、この形の方が終わり的にもスッキリしてますし、作りやすかったからでしょう(笑)
・・・見方によっては、シリアスにもギャグにもなりきらない中途半端な出来ということですね(滝汗)
「あの雨の日」はシスプリ2の例の雨イベントです。
知らない人にはちょっと不親切な内容かもしれませんね(苦笑)
しかし、そうなると兄が居るため春歌の想い的な問題が生じますが・・・そこら辺は個人の方でカバーしてください(マテ)
いっそ、その時春歌はひとりだったと言うことに捏z(削除)
更新履歴
H16・2/26:完成
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