ワタクシは今、幸福の絶頂にいる・・・。

「・・・・・・っ・・・!」

自分が最も愛した人と口付けを交わしているのだから・・・。

「・・・ぅ・・ん・・・・む・・・!!」

でも、アナタはワタクシを拒絶する。
必死で抵抗を続ける。
分かっている・・・ワタクシは普通じゃあない・・・。

「・・・むぅっ・・・! ・・・ぅん・・・っ!!」

きっかけは何だったんだろうか?
何がワタクシを動かしたんだろうか?
よく分からない・・・。
ただ・・・溜まってた“それ”は些細な事で溢れ出した・・・。

「・・・・・・っぷはぁ・・・! ・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・」

ワタクシから解放されたアナタ・・・。
アナタはワタクシをどのように見るのだろう?
軽蔑? 非難? 嫌悪?
とにかくそう言った類のものに違いない・・・。

ワタクシの犯したそれは・・・禁じられた行為だから・・・。

「・・・春歌・・・ちゃん・・・・・・どう・・して・・・?」

今、ワタクシが口付けを交わした相手は・・・

「・・・・・・すみません・・・・・・鞠絵ちゃん・・・」

ワタクシにとって・・・“妹”に当たる人間なのだから・・・。












守る為の楯、奪う為の剣














「・・・一体、何をしているのでしょうか?」

誰かに尋ねた訳じゃない。
他の誰かを気にした訳でもない。
自分自身、何をしているのか分からなかった。
だから自分自身に問い掛けた。

ワタクシは彼女の居る療養所の近くまで来ていた。
彼女にあんな事をしたのに・・・。

よくもぬけぬけと・・・図々しいにも程がある・・・。
本気で自分にそう思った。



如何してあんな事をしたのだろうか?

・・・いや、その答えは既に出ている・・・。
彼女を愛したからだ・・・。
ただし、妹への愛をはるかに超えた感情で・・・。

貴女を守ってあげたい・・・
ワタクシの得た力で身体の弱い貴女を守り続けたい。
ワタクシは・・・貴女を守る為の楯になりたかった・・・。

何時からか思い続けていた感情はワタクシに禁じられた愛を抱かせた・・・。

些細な事から溢れ出た感情は抑えが効かず、
自らの欲望のままに、
感情の赴くままに、
ワタクシは彼女に無理矢理口付けた・・・。

彼女は同性に、しかも姉にあんな事をされたんだ・・・。
ワタクシは拒絶されているに決まっている・・・。
だからあの日から彼女には逢ってはいない・・・。

でも彼女に逢いたかった・・・
彼女を一目見たかった・・・。

愛してしまったから・・・。



「あ・・・、鞠絵ちゃん・・・!?」

彼女が療養所から出てきた。
ああ、そうだ・・・、確か今日は外出許可を貰っていたと言っていた。
何処に行くのだろう?
誰かに逢うんだろうか?

貴女の好きになった人に逢いに行くのでしょうか?
























「・・・春歌・・・ちゃん・・・・・・どう・・して・・・?」
「・・・・・・すみません・・・・・・鞠絵ちゃん・・・」

無理矢理唇を奪った直後の事だ。

「ワタクシは・・・貴女を・・・」

もう、これ以上隠す必要も無い。
ワタクシの気持ちを全て貴女に伝えよう・・・
そう思った矢先・・・、

「・・・春歌ちゃん・・・ごめんなさい・・・」



「わたくしには・・・好きな人が居るんです・・・」



気持ちを伝えきる前に・・・ワタクシの想いは潰えた・・・。






貴女に好きな人が居た・・・その一言でワタクシの想いは潰えた。
いや、貴女に好きな人が居ようが居まいが関係は無かった・・・。
ワタクシと貴女の関係は姉妹なのだから・・・。
『同性愛』と『近親愛』
この二つの壁が在る。
だからワタクシの想いは叶うなんて在り得ないのだから・・・。
























今、彼女は公園の噴水の見える位置に置いてあるベンチに腰掛け、誰かを待っている。

ワタクシは療養所から出た彼女の後をつけて来てしまった。
彼女に逢うのは怖かったから気づかれない様に・・・。
知りたかった、貴女がどんな殿方に魅かれたのかを・・・。

彼女はまだワタクシには気づいてはいない。
一体誰が来るのだろうか?
どんな人間が来るのだろうか?
知りたい・・・
ワタクシが欲しかった貴女の想いを、一身に受けれる人間を・・・。






「ゴメン、待った?」

彼女に話し掛けて来た人が現れた。
その人が貴女と待ち合わせていた人物。

「いえ、そんな事ありませんよ」
「そう? なら良いんだけど・・・」

ワタクシは一気に拍子抜けした。
待ち合わせの人物はワタクシの待っていた相手ではなかったから。

「じゃあ行きましょうか、鈴凛ちゃん」

その人物はワタクシも知っている人で、
彼女にとってもワタクシにとっても姉妹に当たる人物だったから。
























何故だろう?
彼女達の後をつけてしまった。
彼女はただ姉妹で遊びに行っているだけなのに・・・。

でも彼女はとても嬉しそうだ・・・。
できればワタクシが貴女をそうさせたかった。
ワタクシの手で貴女を喜ばせたかった。

でももうそんな事はできない・・・。

ワタクシは自分を抑えられなかった。
だから貴女を失った・・・。
姉としてでも側には居れなくなったんだ・・・。

ああ・・・、だから喜ぶ彼女を見て居たいんだ・・・。
ワタクシにはもう彼女から作り出す事はできないから。
だから・・・

だったら、もう少しだけ見ていよう・・・。
遠くからこっそりと・・・。












「・・・え?」

一体何が起こっているのでしょうか?
ワタクシは何を見ているのでしょうか?
これは夢なのでしょうか?

「そんな・・・」

思わず声に漏れる・・・。
信じられない・・・

待ち合わせの人物はワタクシの待っていた相手だったんだ・・・。






彼女達はワタクシが見ている事も知らずに・・・












口付けを交わしていた・・・。
























何故?
貴女達は姉妹なのに・・・!
どうして!?
ワタクシと同じ彼女の姉妹であるのに!?

同じ姉妹でありながら貴女はワタクシが手に入れれなかったモノを手に入れている!

同性で、近親であるにもかかわらず、貴女は彼女に愛されている!!


・・・・・・


彼女は・・・鞠絵は姉妹を愛している?



彼女は同性であり、近親である相手を・・・愛せる?



ならば・・・
























「・・・うああぁッ!!」

    ザザァァァァァァ・・・

波の音が五月蝿い・・・。

「なんで・・・? なんでこんな・・・」
「・・・・・・」
「一体どうしたって言うの!? ねえ、春歌ちゃん!!」
「貴女が居なくなれば・・・」



―――貴女が居なくなれば鞠絵はワタクシを愛せる・・・。



「うあぁッ! 痛い・・・ッ! 痛いよぉ・・・!!」

彼女にとって、姉妹であると言う事は関係の無い事なんだ・・・。
だって彼女は姉妹を・・・貴女を愛しているのだから・・・。

「ぐ・・ぁ・・・! や、め・・・」

だったら彼女に愛されている貴女が居なければ・・・

「やめ・・・・て・・・」

貴女さえ居なくなれば・・・

「はる・・・・ちゃ・・・。 ・・・どう、し・・・・・・」



―――ワタクシは彼女に愛される事ができる・・・。



「・・・・・・・・・・まり・・・え・・ちゃ・・・・」

彼女に愛されたそれは、壊れる直前にワタクシが愛した人の名を呼んだ・・・

「さようなら・・・・・・鈴凛ちゃん・・・」

動かなくなった“それ”の名前を呼んだ。
そしてこう続けた。

「これからは、ワタクシが代わりに鞠絵に愛されますから・・・」
























「どうして・・・」

貴女はとても哀しんでいる・・・。

「鈴凛・・ちゃん・・・・・鈴凛ちゃん・・・」

貴女が愛したモノが居なくなったから・・・。
大丈夫・・・、
ワタクシが支えてあげます・・・。
ワタクシが守ってあげます・・・。

「誤って崖から海に転落したらしいって・・・」
「死体は・・・上がってきてないみたい・・・」
「じゃあ棺桶の中は・・・空なの・・・?」

“あれ”の葬儀に来た人達が“あれ”について囁く。

ワタクシが殺した“あれ”は海に投げ棄てた・・・
鞠絵が好きだった海に・・・
ワタクシが“あれ”を壊して・・・



鞠絵・・・哀しまないで・・・。
これからは・・・



ワタクシが“あれ”の代わりに貴女に愛されます・・・。
























あれから随分と経った・・・。

「春歌ちゃん・・・すみません・・・」
「いえ、お買い物くらいなんともありませんわ」

鞠絵は元気を取り戻し始めている。

「まあ、ワタクシもお薬の事はよく分からないんですけど・・・メモがありましたから。 ・・・間違いはありませんか?」
「ええ、大丈夫です」

あの日からワタクシは鞠絵を支え続けた。
一時的にとは言えワタクシが鞠絵を哀しませたのだから・・・。
それにこうする事はワタクシの望みでもある。

「あ、このボールペンちょっと試し書きしてみてくれますか?」
「ええ、構いませんよ」

彼女とは、もうこんな何気ない会話をする事は無いと思っていた。
でも貴女はあんな事をしたワタクシを許してくれた。
ワタクシが彼女をこれからも支え続ける事で、守り続ける事で・・・
ワタクシは貴女に愛される様になる・・・。
ワタクシの存在はかつて貴女の愛した者よりも大きくなる・・・。

「じゃあこの紙に・・・そうですねここらへんに春歌ちゃんのフルネームでも書いてください」
「お安い御用です」

ワタクシとの関係も、今やこんなに親しく話せるまでに・・・
いえ、これからそれ以上の関係を築いていきますわ・・・。
























「いらっしゃい、鞠絵ちゃん」

鞠絵がワタクシの家に来てくれた。

「おじゃまします」

療養所から外出許可が下りた
何処にでも行きたい所に連れて行くと言いうと、
彼女はワタクシの家に来たいと言ってきたのだ。

彼女にとってのワタクシの存在はもうこんなにも大きくなったんだ。

「鞠絵ちゃん・・・」

彼女の名前を呼んでそっと後ろから包み込んだ。
もう一度、ワタクシの気持ちを全て貴女に伝えよう・・・

「鞠絵ちゃん、ワタクシは・・・」
「春歌ちゃ・・・うッ! ・・・ゴホッ・・・・ゴホッ・・・・」
「鞠絵ちゃん、大丈夫ですか?」
「・・・平気です・・・、ちょっと咳き込んだだけですから・・・」

病弱な貴女を見るといつも思う・・・。
身体の弱い貴女をワタクシの得た力で守ってあげたい。

ワタクシは貴女を守る楯になります。
それがワタクシの望みなのだから・・・。

「ワタクシは・・・今でも貴女を・・・」

ワタクシは一度途切れた言葉をもう一度紡ぐ。

貴女にはワタクシが同性でも、近親でも関係ないでしょう?
だって貴女は一度、姉妹で愛し合っているんですから。
そしてその相手がワタクシになるだけ・・・。

「春歌・・・ちゃん・・・」

ただ・・・それだけですわ・・・。












ワタクシはもう一度貴女と口付けを交わした・・・
今度は前とは違う・・・
貴女もワタクシを受け入れてくれた。






愛しています・・・鞠絵ちゃん・・・。
























「・・ゴホッ! ・・ゴホッ! ・・ゴホッ!」

激しく咳き込んだ・・・。

    バタンッ

何?
何が起こったの?

「・・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・」

床が紅く染まる・・・。
血を吐いた・・・

「・・・鞠絵・・・ちゃん・・・?」

折角貴女と愛し合えるのに・・・!
ワタクシ達はこれからなのに・・・!
なのになんで・・・こんな・・・



―――『死』と言う言葉が頭の中を過ぎる・・・



嫌だ・・・!
ワタクシ達はこれからなのだから・・・
だからこんな所で・・・






こんな所で死ねないのに・・・






どうして・・・












ワタクシは血を吐いて倒れているのですか?












「大丈夫ですか? 春歌ちゃん・・・」

貴女がワタクシにそう語りかける。

「鞠絵・・ちゃん・・・」
「苦しいですか?」

・・・苦しい・・・・・・身体が痺れる・・・

「・・なん・・で・・・?」
「なんで? それはわたくしが貴女に薬を飲ませたからです・・・」

―――・・・薬?

「さっきのキスの時・・・貴女に飲ませたんです・・・。
咳き込むフリをして口の中に薬を仕込んで・・・」
「一体・・・・何の・・・・? ・・・・・グフッ!? ・・ゴホッ! ・・ゴホッ!!」
「貴女を鈴凛ちゃんと同じ所へ連れて行く薬です」


―――・・・鈴・・凛・・・?


それはかつて貴女の愛した者の名。

でも“アレ”はもう居ない!
“アレ”は死んだんだ・・・!

じゃあワタクシは・・・



―――・・・ワタクシは・・・・・・死ぬの・・・?



―――・・・ワタクシは・・・貴女に殺されるの・・・!?



「何・・故・・・?」
「わたくしが知らないとでも思っていたのでしょう?」



「貴女が鈴凛ちゃんを殺した事を」

!!

「見ていたんですよ・・・わたくしは・・・」

「あの日もわたくしの外出許可が下りて・・・鈴凛ちゃんは貴女に呼び出された後わたくしと逢うつもりだったんですよ」

「でもわたくしは待ちきれなくて、こっそり行ってみたら・・・」

「鈴凛ちゃんは血塗れで・・・貴女に・・・殺されていた!!」

「それを見たわたくしは、ショックで病状が悪化し・・・身体を動かせなくなってしまったんですよ・・・」

「でも、わたくしは気を失ったりはしなかった!
わたくしは貴女が血塗れの鈴凛ちゃんを海に投げ捨てる所までしっかりと見ていたんですよ!」



見られていた・・・!?

そんな・・・




「そんなにわたくしが欲しかったのですか?」

「でも貴女は何か勘違いしている・・・」

「あの人が居なくなった所でわたくしが貴女を愛するとは限らないでしょう?」

「わたくしには・・・あの人しか居なかったのだから・・・」






「鞠絵・・ちゃ・・・ん・・・こんな・・事を、すれ・・ば・・・」
「心配してくれるんですか?
大丈夫ですよ・・・貴女はここで自殺するんです。
鈴凛ちゃんを死に追いやった罪の意識に耐え切れずに・・・」

自殺・・・?

「そしてこれはわたくしが作っておいた貴女の遺書です・・・」

ワタクシの・・・遺書・・・?
鞠絵ちゃん、何を・・・何を言って・・・?

「貴女はわたくしの為に色々としてくれましたね?」

貴女の為を思って・・・貴女の為に尽くした・・・。
それが・・・

「ボールペンの試し書きでも・・・遺書の署名としては十分ですから」

!!

「署名さえあればワープロでうっていても遺書として有効な筈ですし・・・、薬も・・・貴女が買って来たものですから・・・」
























『春歌ちゃん・・・すみません・・・』
『いえ、お買い物くらいなんともありませんわ。
まあ、ワタクシもお薬の事はよく分からないんですけど・・・メモがありましたから。 ・・・間違いはありませんか?』
『ええ、大丈夫です』






『あ、このボールペンちょっと試し書きしてみてくれますか?』
『ええ、構いませんよ』
『じゃあこの紙に・・・そうですねここらへんに春歌ちゃんのフルネームでも書いてください』
『お安い御用です』












―――あれは・・・この為に・・・!?



「大丈夫ですよ・・・。 貴女だって鈴凛ちゃんの事を上手く誤魔化せたんですから・・・」

ワタクシの愛した・・・、

「天国で・・・鈴凛ちゃんに謝ってきてください・・・」

ワタクシの守りたかった貴女は・・・、

「いえ・・・、それは無理でしたね・・・」

冷たい復讐者としてワタクシを冷たい瞳で見下ろしている・・・。

「だって貴女は地獄に堕ちるんだから・・・」

ワタクシは・・・、
ワタクシはただ・・・、

「ワタクシは・・・ただ・・・、・・貴女、の・・・楯、に・・・・」

それがワタクシの望みだった・・・。
それがワタクシの全てだった・・・。

「それなら・・・これから生きていても貴女の望みは叶うはずありません・・・」

「だって・・・貴女は手に入れた力でわたくしから愛する人を奪った・・・」

「貴女の力は守る為の楯なんかじゃない・・・」

「奪う為の剣でしかなかったんですから・・・」



「わたくしは一人で生きていきます・・・。
それが・・・鈴凛ちゃんの願いだったから・・・」

「そして、貴女に守られる必要はありません・・・」

「もっとも・・・、人を傷付ける事しかできない『剣』の貴女に・・・、
守るなんて事・・・できる訳無かったんですよ・・・」






「・・ゴホッ! ・・ゴホッ! ゴホッ!! ゴホッ!!」

薄れる意識の中で・・・

「もうそろそろですか・・・」

ワタクシは愛した人に見下されながら・・・

「さようなら・・・・・・春歌ちゃん・・・」

貴女に言われた言葉を考えていた・・・

ワタクシの得た力は・・・
『守る為の楯』では無く・・・
『奪う為の剣』だと言った事を・・・



ならば何時からなのだろう・・・?

ワタクシの得た力が・・・

『守る為の楯』から・・・

『奪う為の剣』になったのは・・・。



分からない・・・



ワタクシは・・・



何処で・・・間違えたの・・・?



教・・・えて・・・






・・・誰か・・・






・・・教・・え・・・て・・・・・・


あとがき

春歌のダークってあまり見たこと無い気がしたので作ってみました。
まあ内容は、力の使い方を間違えるととんでもない事になると言う結構ありきたりなテーマでした。
春歌×鞠絵好きの人にとってかなり後味の悪いモノになったと思います。
また、鞠絵がやった隠蔽工作については、あんまり深く考えていないのであんまり深く考えないで下さい(笑)
この作品、「春歌がなんか違う」って思う兄君さまがいるかもしれません。
春歌の一途さのみを考えて作ってしまった所為だと思います。
今思うと、もう少し考えてから作ればよかった気がします(汗)
最後に、兄君さま、兄上様、アニキの皆様、ごめんなさい。



更新履歴

H15・7/30:完成
H15・8/1:修正
H15・8/9:また修正


 

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