放課後になると、アタシはすぐに教室を飛び出した。
まだ人の少ない廊下を走り抜けて、昇降口に急ぐ。
靴に履き替えて、外に飛び出す
1分でも早く、1秒でも早く・・・。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
鈴凛「なんだ・・・今日はアタシの方が早いと思ったのに」
鞠絵「はぁ・・・・はぁ・・・・残ね・・・・・はぁ・・・・でした・・・」
校門に背中をもたれるように立っていた少女が、息を切らしている。
鈴凛「あんまり意地張らない方が・・・まぁいいけど・・・」
鞠絵「では、今日はどこに行きましょうか?」
鈴凛「って、もう呼吸整ってるの!?」
本当に病人なのかな・・・?
鈴凛「よし、今日は思う存分商店街でデート」
鞠絵「嬉しいです。 ・・・でも、昨日も商店街でしたよね」
鈴凛「あんなに広いんだから、まだ行ってない場所がたくさんあるはず」
鞠絵「ソウデスネ」(←棒読み)
今日こそは、鞠絵ちゃんにプレゼントするものを買わないと・・・。
そんなことを考えながら、商店街に向かって歩き出した。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
鞠絵「真っ赤です」
木製の家が炎上するのを眺めながら、鞠絵ちゃんが呟く。
鈴凛「火災だね・・・」
鞠絵「この辺りはまだあまり来たことがないですね」
この一角は、いかにも江戸、と言った感じの町並みだった。
って言うか今ちょんまげが歩いてた!!
・・・ひとりだと、なんとなく近寄りたくない・・・。
しかも、女の子へのプレゼントを探すのであれば、これほど最悪な場所はないかもしれない。
まぁ、何をプレゼントするかがまだ決まってないけど・・・。
女の子にプレゼントなんて買ったことないから、何をあげたらいいのか全然分かんない。
一応アタシも女の子だけど・・・そっち方面にはかなり疎いし・・・。
かといって、まさか本人に聞くわけにも行かないし・・・。
鞠絵「鈴凛ちゃん、あのお店に入ってみましょう」
鞠絵ちゃんが指さした店は、髑髏やわら人形が所狭しと並んでいた。
鈴凛「・・・この店に入るの?」
鞠絵「ダメでしょうか?」
鈴凛「・・・さすが、ちかぴーの妹・・・」
鞠絵「何か言いましたか?」
鈴凛「いや、別に・・・」
鞠絵「大丈夫です。 鈴凛ちゃんならここでお買い物しても全然違和感ないですよ」
髑髏やわら人形と違和感ないと言われても、全然嬉しくない。
と言うか、他意が知りたい
鈴凛「だったら、アタシはここで待っているから、ひとりで行ってきたら?」
鞠絵「そうですね・・・。 分かりました。 ちょっくら行ってきますから、持っててください」
鈴凛「“待ってて”を間違えてるよ」
聞いてるのか聞いてないのか微妙なまま店に入って行く。
鞠絵「ちゃんと侍っててくださいね」
鈴凛「だから漢字間違えてる」
ひょこっと顔を出して、そして店の中に消える。
さて・・・。
鈴凛「今のうちに、何か買っておこ・・・」
降って沸いた、プレゼント購入のチャンス。
しかし、一体どんなものを買えば喜んでもらえるんだろうか・・・。
こんな場所で・・・。
咲耶「鈴凛ちゃんっ」
いや、鞠絵ちゃんなら・・・と思案していたアタシの背中を、誰かがカー○ブランディングしてくる。
鈴凛「・・・なんら、はくらひゃんか(なんだ、咲耶ちゃんか)」
咲耶「なんだとはひどいわね、鼻血ったらし」
鼻血を拭いながら、とりあえず無視しておく。
鈴凛「うーん・・・」
目の前には、刀やらトゲついた鉄球やらノコ刃の剣やら飾り付けられた店の入り口がひしめき合って・・・・・・銃刀法違反で捕まるぞー。
まさに、武器の調達には打ってつけの場所のようだけど、現代社会には必要のないものだった。
しかし、何を買うのか決まっていないアタシは、どの店に入ったらいいのかさえ分からない。
まぁ、ここら辺の店で入っていい店があるとは思えないけど・・・。
咲耶「無視〜無視〜(怒)」
構って欲しいのか、タ○ーブリッジを仕掛けてくる。
鈴凛「痛いけど、今は咲耶ちゃんに構ってる暇はないの」
咲耶「いいわよいいわよ! 今度鈴凛ちゃんに道で会ったら、こっそりパ○・スペシャル仕掛けるもん!」
鈴凛「肩壊れるからやめてね」
咲耶「で、どうしたの? 複雑な顔で考え込んで」
鈴凛「・・・ん、ちょっとね」
こう言う場合、まず相手の好きなものを考えてそれに合ったプレゼントを用意するものだと思う。
鞠絵ちゃんの好きなもの・・・。
カエルの丸焼きはいつでも買えるから別として・・・。
自作小説に自分がモデルの主人公に投影するくらいゼ○ガー少佐が好きで、目指しているものは武士(もののふ)。
鈴凛「ねぇ、咲耶ちゃん・・・」
咲耶「何?」
鈴凛「プレゼントに、ドリル○ーストナックルと参式斬○刀を貰って喜ぶ女の子がいると思う?」
咲耶「いないと思う」
鈴凛「やっぱり、そうだよね・・・」
咲耶「どうしたの?」
鈴凛「そうだなぁ・・・ダメ元で咲耶ちゃんの意見を聞いてもいいかも」
咲耶「ダメ元・・・って言うのが気に入らないけど・・・まぁいいわ、私でよければ相談に乗ってあげる」
鈴凛「あ〜、痛い痛い。 早くキャ○ル・クラッチを解いてよ」
このままではアタシはラーメンになる。(←謎)
鈴凛「女の子って、何プレゼントしてもらったら喜ぶと思う?」
咲耶「マッスル○パークの残り50%のかけ方」
鈴凛「それは、咲耶ちゃんだけでしょ・・・」
なんか、ドリル○ーストナックルと次元が一緒のような気がする・・・。
咲耶「でも、3大奥義なのよっ」
鈴凛「3大奥義でも却下。 アタシは女の子全般の意見を聞きたいの」
咲耶「アンタだって女の子でしょ」
鈴凛「アタシは参考にならない女の子なの」
咲耶「そうね」
そう言うことはすぐに肯定するのね。
鈴凛「もうちょっとマシなもの・・・と言うか一般的なもの、思いつかない?」
咲耶「それは難しいわ・・・」
アタシはプレゼントと聞かれて、マッスル○パークの残り50%のかけ方と答える方が難しいと思う・・・。
咲耶「えっと・・・それで相手はどんな女の子なの?」
鈴凛「自作小説に自分がモデルの主人公に投影するくらいゼ○ガー少佐が好きで、目指しているものは武士(もののふ)」
咲耶「・・・武士(もののふ)?(汗)」
鈴凛「そんな女の子は、何を貰って喜ぶと思う?」
咲耶「・・・ドリル○ーストナックルと参式斬○刀」
鈴凛「でしょ?」
咲耶「う〜ん・・・」
鈴凛「う〜ん・・・」
商店街のど真ん中で、ふたり揃って考え込む。
道行く人にとっては、かなり滑稽な・・・いや、この通りの人のほうがよっぽど滑稽だ。
今『め組』の人が横ぎったもん。
咲耶「プレゼントする相手って、鞠絵ちゃん?」
鈴凛「うん」
咲耶「そう・・・」
鈴凛「・・・・・・?」
咲耶「・・・他に、好きなものとかないの?」
鈴凛「他に好きなもの・・・」
・・・・・・。
・・・・・・あ。
鈴凛「思い出した・・・。 海、確か海が好きって言ってた」
咲耶「それよ」
鈴凛「・・・じゃあ海鮮料理・・・?」
海と言っても、あんまりたいした案には・・・
咲耶「別に物にこだわる必要はないんじゃないかしら?」
鈴凛「へ?」
咲耶「この季節でも、よっぽど好きなら連れて行って貰うだけでも嬉しいんじゃない?」
鈴凛「そうなの?」
咲耶「そう言うもんよ・・・特に、好きな人とならね・・・」
鈴凛「・・・・・・」
まともな意見が帰ってきた。
き、奇跡だ・・・!
鈴凛「ありがと、咲耶ちゃん」
咲耶「これくらい朝飯前よ・・・」
じゃあプレゼント代は電車賃にあてるとして、鞠絵ちゃんには海の景色をプレゼントしよう。
さすがに海の水のかけっこはできないけど。
咲耶ちゃんの奇跡的な名案に喜ぶアタシ。
咲耶「・・・・・・」
その姿を、咲耶ちゃんが複雑な表情で見つめていた。
脳ミソ筋肉の、どこか悲しそうな姿。
咲耶「・・・・・・」
鈴凛「・・・どうかしたの?」
その様子が気になって、変なモンでも喰ったのかと思う。
ああ、頭の中で言いたい放題・・・!
心が読まれないって素晴らしいっ!!
咲耶「何でもないわ」
なんて事を考えてる時、咲耶ちゃんは笑っていた。
いつもの笑顔で、穏やかに笑っていた。
・・・いや、“いつもの”だと“高らかに”か・・・。
咲耶「じゃあ、私帰るわね」
そう言い残して、その場から走り出す。
夕暮れの長くて赤い影が、咲耶ちゃんの被害者のぶちまけられた血肉のように見えた。
赤く染まったツインテールが、返り血のようで印象的だった。
鈴凛「・・・・・・」
鞠絵「お待たせしました」
ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、息を整える。
鈴凛「ナイスタイミング」
鞠絵「・・・はい?」
鈴凛「いや、何でもないよ。 じゃあ、行こうか」
鞠絵「あ・・・はいっ」
夕焼けの町で、今日も1日が過ぎていく・・・。
記憶の中の、返り血に染まる咲耶ちゃんのツインテールが、今でも印象的に焼きついていた。
更新履歴
H15・11/12:完成
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