「ファっ ンっ タっ ズっ ムぅ〜〜っ♥♥♥♥


 大妖怪・八雲紫は、ひとりの少女の出で立ちを前に、歓喜に身をよじらせていた。


「くっはーーー! たたたた、堪らんっ!!! ファンタズムっ ふぁ、ファンタズムぅ〜ッッ♥♥


 眼前に立つ少女の姿に、女好き妖怪八雲紫は息を荒げて大興奮。
 ぱしゃりぱしゃりと、鴉天狗が愛用していたものとは違うカメラから軽快な音を必死に響かせ続けた。

 賢者の要求を聞き入れた少女のその姿は、ひどく軽装で扇情的。
 纏う黒衣は、胸元から上を完全に丸出しにして、しかも太ももの付け根までという狭い範囲しか包まれていなかった。
 布面積が少ないのみならず、その衣服は更に少女の体の線をハッキリと表現していた。

 下着と変わらぬ程かそれ以上に強調された股間部の切れ込みは、なのにスカートなどで隠すことも許されず、まざまざと晒し出されている。
 脚部露出そのものは、腰部からつま先に掛けて完全に覆い尽くす薄手の長靴下にて一応は控えさせてはもらえていた……。
 だが、透き通るほど薄手の布地は、脚部のハリと線をより強調し、魅惑的な脚線美を演出。
 それはむしろ一層の卑猥なイメージを見る者に与えていた。

 そして頭部には、うさぎの耳を摸した飾りのついたカチューシャを付け…………、

 ……………………。

 ………………あー……。

 ……もう率直に言います。

 俗に言うバニーガールです。はい。


「ふぁ、ふぁ、ふぁ、ファンタズムっ♥♥ ば、バニー……バニーファンタジアっっ♥♥ はぁはぁ……

「……………………」


 八雲妖怪は、少女の姿をレンズに映し、必死にシャッターを切り続けていた。
 本来ならば見ることさえ叶わなかっただろう希少なその姿を、手にした利器によって未来永劫に保管せんとして。

 レンズに映し込まれた少女は、ただ黙するしかできずにいた。
 理解が追いついていないから。
 なんで……こんなことになったのだろう。
 疑問は解消されないまま、流れに思考を置いて行かれたまま、
 その姿をただただ灼熱に滾る情念ごとフィルムに焼き付け続けられていく……。

 …………その……、


「なかなか似合ってるわよ、半レズ」

「ぐ、ぐぅ……」


 わ……私の……は、はしたない姿……が……。






 

みょんミア

三、賢者の契約は幻想の果てに……







 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



「コスプレして!」


 霊夢さんの相談に乗る対価として八雲妖怪が要求したものはそれだった。
 こけた。
 そりゃあもう盛大に盛大にずっこけました、ええ。
 今まで散々はっちゃけていた空気が、張り詰めたそれに変わったと思ったら、またゆるゆるゲル状になってふにゃった。

 呆れてものも言えなくなったこっちの心境などお構いなしに、
 紫さまは揚々と指を鳴らし、開いたスキマから黒く薄いなにかを吐き出させた。
 それが畳の上に降りて、やっとどんなものかを把握し、ぎょっとする。


「今日は気分的に、バニーちゃんでいきたいのよね〜」


 水着と見間違えんほどに面積の小さい衣服と、ズボンとさえ見違えんほどに長く、濃いめ茶色をした薄手の長靴下。
 それからヘアバンドからリボンやらその他細かい部品も次いでぼとぼとぼと……。
 物体は把握した……が……それがどういう用途で使われようとしてるのかは理解できなかっ―――いいや、理解したくなかった!

 …………ああ、頭痛い。


「あら妖夢? なにその頭痛いって表情は?」

「まさに現在進行形ジャストナウでそう思っております」

「なによ〜、妖怪との契約なんて所詮ギブアンドテイクよ?
 結局は『私を満足させたお代に知恵ちからをあげる』ってなもんじゃない。
 満足それは食欲しかり、力を得るためしかり……性欲しかり
 極論、晩ごはんのお醤油切らしてるから、それくれたお礼に〜、ってなもんでも良いと思うわ」

「いやまあ理屈としてはそうですけど……」


 感情としては拍子抜けも良いところである。


「そしてこの大妖怪・八雲紫が、今更、更なる力を求めると思う?
 食欲と性欲だったら、私がどっちを取ると思ってるの?
 博麗の血れいむを喰らって妖力を得るくらいなら、霊夢を(性的な意味で)食べた方が"おいしい"に決まってるじゃないっ……!」


 凛々しいお顔で超理論を展開する紫さまのムカつくくらい凛々しいお顔向けて、霊夢さんの蹴り上げ足刀が再び顎を貫いた。


「痛たたた……。相変わらず霊夢は手厳しいわ〜」 


 メキャアッってすごい音が鳴らして首が90°以上横に風車のように可動したってのに、紫さまはやっぱり平気なままだった。
 むしろご満悦な表情に、こっちの精神が平気なままじゃいられない。


「と・り・あ・え・ず……私は対価を示したわ
 ―――あとはあなたが受けるかどうかの問題よ……博麗の巫女よ」


 ……と、唐突に、八雲が大妖怪の面持ちが、ふざけたものからキッと改め真剣な色変わる。
 瞬間、空気がピリピリと引き締まって行くのを感じて……言いようもない圧力に部屋全体が包み込まれた。

 紫さまが持つ、本来の、大妖怪としての威厳、圧倒的な威圧感、カリスマ……。
 諸々の目に見えぬ力が、その言霊に込められていた………………内容はふざけたまんまなのに……。
 ……絶対力出すところを間違ってるってッ!


「ぁ……っ、ぅ……」


 間違ってるけど……威圧、される……。


 ………………なにこれ、どんな状況?
 畏怖と呆れを同時に思い浮かべるという、こんな感情誰が理解できるんだよってなもんで。
 その訳分からんけどシリアスな空気に包まれ、霊夢さんも同様に複雑な心境に浸ってるはず……。


「いいわ……着るわ!」

「!?」


 意外だった。
 こんな訳のわからない状況において、霊夢さんは屈服も困惑もせず、至って平静と返答を返してしまった。
 更にそれは、提案に首を縦に振るという意を示して……。
 意外過ぎることの連続に、私はただただ驚くしか―――


「この半レズが!」

「ちょッ?! 手前ぇぇぇぇぇええええええっっっ!!!!」


 いつもどおりぼうじゃくぶじんだった。


「なんで霊夢さんなんかのために私がこんなはしたない格好せにゃならんのですか……!?
 霊夢さんの相談でしょう……! 手前ぇで着やがってくださいよ、普段から腋丸出しなんだから……!!」


 さっきまで金縛りに遭っていたことなんてどっかにぶっ飛んで、調子良いことを抜かす霊夢さんの胸倉掴んで当然の抗議を吐き捨てた。
 当たり前の抗議である。
 大体、こちとらあなたのせいでルーミアさんと妖しい関係だって大衆に暴露されたんですよ?
 恨みこそあれど恩などあんまりない!


「あら? あなたさっき私にスペルカード戦で負けたわよね?」

「……へ?」

「スペルカードルール。負けたものは、勝った方の言う事を聞く」

「あ、え……いや……」

「あらあら、魂魄さん。まさかこの幻想郷の崇高な理念に反しようだなんて、まさかまさか考えてないわよね〜〜?」


 獄界剣「二百由旬の一閃」。
 まさかこの期に及んで、先程の出来事を掘り返されるとは思いもしなかった。
 私が霊夢さんにぶっ放し、そして完全に打ち負けたことを証明するカード。
 胸倉を掴まれながら、悠々とした態度でその手札をぴらぴら見せびらかす巫女は、とても余裕に満ち……同時にあくどかった。


「それとも、そのまさか? スペルカードルールを破ろうっていうのかしら? 監査する張本人を前にして……」

「う……ぐぐ……」


 目の前の呑気な態度と緩んだジト目は、なんてしたたか。
 見せびらかされた手札を前に、つくづく短絡的な行動は取るものじゃないと思い知らされる……!
 な、なんとかしないと……私、本当にあんなはしたない格好を……ぐ、ぐぐっ!?!?


「そ、そうだ! 紫さまは、愛おしい霊夢さんに着て欲しいとお思いになってるじゃないですか……!!」


 逃れようと、必死に思いついたまま理由をでっちあげた。
 慌てて絞り出した案にしては、これがなかなか。
 紫さまもル○ンダイブで飛び乗ってきそうだと内心で自画自賛してしまうほどに妙案。
 ついでに「愛おしいとかいうな!」と霊夢さんにキツくぶん殴られた。ウボァー!
 巫女ぱんちはとっても痛かったけれど、これで逃れられるのなら安いものか……。

 ……と思ったのだけれど……。


「あら? 私としてはバニーちゃんが拝めるならどっちが着てもらっても構わないわよ?
 私を満たして頂けるのなら。なんならルーミアちゃんが着・て・も・ね

「え……」


 結果的には、これが大墓穴だった……。


「あらそうなの? ねえルーミア〜、ちょっと私とスペルカード戦やりましょ〜。負けたらバニーね〜」

「え!? えっ!?? ちょっ……!? ま、待って下さい!!」


 目線を私から、部屋の壁―――隣の部屋に向けて、ゆったり余裕満々な様子で声を掛ける霊夢さんを、私は慌てて引き留める。


「あらなに半レズよーむちゃん?
 あなたが着ないって言うから、私、仕方なくルーミアにスペルカード戦挑んで、コスプレさせなくちゃいけないんだけど……」


 ………………ああ、分かってる。分かってますよ……!
 その表情が、なにを考えてるのか。なにを誘ってるか。
 そんなこと痛いほど、痛感してますよ……!
 そしてこの後、事がどう運ぶのかなんて……全て、計算ずくで口にしてるんだろうって!


「……ます…………」


 でも……それでも……!


「き……着ますっ! 私が着ますからっっ!!」





 ・

 ・

 ・

 ・

 ・












「まーったく、スペルカード戦の報酬を後付けするなんてのは無効だってのに、ありがとねー」


 ひどいネタばらしを受けた。


「ほんっと斬りたい。今すぐ斬りたい。めったくそに斬り刻みたい」

「いやいや妖夢、博麗の巫女斬ったら幻想郷滅びるわよ?」

「そもそもやってダメだったから今着てるんでしょ、半レズ」


 もうやだ。なんでこんな人たちが幻想郷の管理者やってるの?
 幻想郷やばいよ、こわいところだよ。


(…………でも、まあ……)


 未練はすっごくあるけれど、このはしたない衣服を着ると承諾したことを、後悔はしてない。
 あのまま私が誘いに乗らなかったとしたら……きっと、いや間違いなく、ルーミアさんがこのはしたない姿にされていただろう。
 ルーミアさんにこんな格好をさせるくらいなら、私はいくらでも身代りになれる……。
 守るって、決めたから。

 そう思えばこそ、こんなはしたない姿も耐え抜けるというもの。
 ……っていうかそう思わないとやっていけないけどさ。


「なんだかんだ言って、愛しのルーミアにそのえろい晴れ姿見せたかったんじゃないの?」

「なにをばかなことを……腋でも出し過ぎて頭おかしくなったんですか?
 こんな格好見せられる訳ないでしょう。恥ずかしい……」


 ルーミアさんがこの場にいないことは、せめてもの救いだったと本気で思ってる。
 いくら好きな相手ったって、どんな姿だって見せられるというものではない。
 むしろ好きだからこそこんな恥ずかしい格好見せたくない……。
 これは私にもわずかに備わったオトメゴコロというか。や、女の子相手にアレだけどさ。

 はあ、今頃隣の部屋では、壁一枚向こうの低俗な情事なんて知らず、橙ちゃんとふたりで仲良く平和に遊んでいるんだろうなぁ。
 このおぞましき空間と化した白玉楼において、お隣の保育空間は唯一の安らぎ空間なんだと本気の本気で思った。
 なんにせよ、私のこんな恥ずかしく情けない姿を見せずに済んで、助かっ……へ……ふぇっ……―――!


「……へっくしっ……!」

「あらくしゃみ? 大丈夫、マイスイートバニー?」

「なにをいっとるかこの色魔妖怪」

「そうね、間違えちゃった。ルーミアちゃんズスイートバニーさん」

「すみません大賢者さま、誠に僭越ながら、今すぐ斬らせてください」


 季節は、まだ春になったばかり。冬の寒さがいまだ残る今日この頃。
 私の服装は薄着で、肩から上はほぼ完全に露出している。腕だって完全に素肌のままだ。
 あるものと言えば、カフスという手首に撒かれた布製のアクセサリと、首元のリボンのついた付け襟程度。
 当然、こんなものでは防寒の役目を果たすことはない。
 まあ脚の方は、薄手とはいえ密着性の高い長靴下で覆われているお陰で、案外あったかかったけれど、
 丸出しの肩が寒風に触れて、それ以上に体温を奪われていく。


「この格好、肩が丸出しでちょっと寒いです」

「まあ風邪引かれちゃかなわないからね。これを羽織りなさい」


 私が訴えるとすぐさま、紫さまは空間にスキマを開いた。
 そして先程と同じように衣服を取り出す。最早スキマは紫さまのタンス状態だった。

 取り出したのは、一着の上着。
 黒い、洋式の礼服だった。背面の裾が長くなっており、先が燕の尾のようにふたつに割れている。
 俗に言う燕尾服というヤツであろう。
 その上着のみが取り出され、はい、と手渡された。


「よろしいんですか? 確かに助かりますが……これだと露出は減りますよ?
 それに折角強調した体の線もほとんど隠れてしまいますし……」


 確かに、これなら上半身を全て厚い布地が覆ってくれて、十二分に寒さを凌げる。
 これを許可されるのは大変ありがたかったけれど、
 こういう衣装を着せた以上、やっぱり見たいのは露出される肌と、そして強調される引き締まった身体の線のはず。
 ……と思う、よく分からないけど。
 その主要となる点が、この上着を羽織ることで完全に隠れてしまうのだ。
 それではあまりよろしくないのではないかなと……まあ素人ながらに思った訳で……。


「あら? バニーコートって言って、そういう組み合わせもあるのよ?」

「それは知ってますけど」


 知っておきたくなかったけど。
 このヘンタイ賢者が遊びに来る度、コスプレについて熱く語るものだから、そんな無駄知識が頭の隅にこびりつかされてしまったのよ。


「フフフ……確かに萌えに精通していない妖夢がそう思うのも無理はないわね。
 けれどね、あえて言うわ、コスプレとは"着せること"こそ真髄よ!」


 私の問い掛けに、賢者は語り始める。
 熱く、己に滾る情熱をぶつけんと。
 ……あれ? 私なにか触れちゃいけないモノに触れちゃった?


「いい!? 脱がせることなんて簡単なのよ!
 こうして相手の服に手を掛けてほーらビリビリっ はい、裸霊夢のできあがげぶちゃ!?


 霊夢さんの巫女服をひん剥いた紫さまが、霊夢さん(上半身サラシ一枚)に垂直に顎を蹴り抜かれていた。


「げほっ、げふっ……! ふぅ……霊夢ったら照れちゃって♥♥

「誰が照れるか、くたばれ」

「まあ、このように、脱がせることなんて力さえあれば簡単なのよ? その気になれば無理矢理だってできるわ」


 蹴り抜かれながらも語る姿勢を崩さない紫さまは、さすが幻想郷の大変態けんじゃだと思った。
 そして私は直後に後悔した。


「けれどね―――」


 さっきの何気ない一言が、賢者の腐った脳味噌に、スイッチを入れてしまったことに。


「けれどね、"着せる"は、違う。着せるためには力づくではそうそう上手くいかないわ。
 ヘタに乱暴すれば衣装そのものをダメにしてしまう!
 コスプレとは、その名の通りコスチューム・プレイ! 着衣を楽しむプレイなんだから、その衣服の質を落とすだなんて言語道断!

 そう、着るという行為には、少なからずの"受け入れた"という、同意の心がなくては成立しないのよ!
 それは例え自ら望んだものではなくとも、ね。
 お金や報酬など、交換条件した場合、また、先程妖夢が受けた脅迫であれ、少なからず、"着る"という結末を受け入れている事実。
 分かる? つまり妖夢、あなたは自身が望んだ訳ではなくとも、自らその素敵なうさちゃんになることを認め、受け入れた!
 その点がまずひとつのポイントよ!
 その同意の心を思えば、力さえあれば十分可能な裸体のなんと易いことか!

 だからこそ脚も、素足ではなく、わざわざストッキングを"履かせた"んじゃない。
 布越しとはいえ、足を見せるという行為に、あなた自身の同意してくれた! 私に、見せることを"受け入れた"のよ!!
 まあ、そのムッチリとして独特のハリの生み出すレッグラインと光沢に感じるフェチズムも熱く語りたいんだけど、これはあとで語りましょか?

 あ、先に言っておくけど、裸体を否定する訳ではないわ。裸の女の子だって最高。
 さっきの霊夢の覗く柔肌最高だったわ。ゲヘっゲヘっゲヘっ……!
 "着せる"が同意ならば、"脱がす"は屈服。
 自らの支配欲を誇示し満たすには、無理矢理さ、強制力……力さえあれば可能な裸こそベターよ。
 まあ、裸には裸の、コスプレにはコスプレの良いところがあるということね。

 もちろん、同意の上での裸、という同じ裸としても真逆の情景も存在するわ。
 その場合"脱がす"ではなく"脱ぐ"というまた別のファクターになるのだけど……
 ま、私は今コスプレについて語りたいから、その辺の細かい概念についても割愛させて頂くわ。
 私は、着せた方がその同意の心理をより感じ易いという意味で、着せる方が好きってだけの話。
 決して裸を否定する意味でないことだけは理解してね。裸も裸でだぁ〜い好きよ

 で、話が逸れちゃったわね。それで次にポイントになるのは……そうね、人物背景における衣装とのギャップについて話そうかしら。
 妖夢、あなたが着ているその服装は正直動きにくいわよね?
 腰や身体のラインを美しく見せるためのワイヤーやボーンなどが体の動きを阻害しているでしょう?
 美を追求した反面機動性を犠牲にしている。機能的には下の下で、見せることだけに特化した、言わば非戦闘特化服。
 戦いを常に意識するあなたには縁もない服……そう、あなたとは縁もゆかりもないのよ! ゆかりプロデュースなだけにね!(ドヤッ

 なのにっ! な・の・に、よっ! 護衛役として戦闘に特化する衣服を求めるあなたが、非戦闘に特化したそれを着こなす!
 それは普段垣間見せることのない魂魄妖夢を!
 考え方によっては、この世に存在し得なかったはずの魂魄妖夢を!
 ここに顕現させるという意味に通ずる!!
 その特別性は! 希少性は! まさにッ! ダイヤモンドッッ!!

 また、あなた自身の内面もそれにプラスして更に更に関わってくるわっ!
 貞操観念を強く持つあなたが、こんなはしたない格好を着こなすなんて……尚更存在し得ないじゃない!!
 だけど今、ここに存在することが、どれほどの奇跡か……!
 そのダイヤモンドは、同族らの中でも更に価値を持つカラーダイヤモンドに匹敵するわッッ!!!

 これは幽々子にも同じことが言えるわ。こってこてのゆったり厚着な和装を重んじる幽々子がよ?
 突然レオタードなんて薄着な服装来て御覧なさいな!!
 むっはー♥♥♥♥♥ 最ッ高ッ! なにそれ、幽々子さま、一体なんで素敵なファッションして居られるので!!
 ああお洋服も良いわね。ドレス? カジュアル? それとも甘ロリ? どれも好しッッ!!!
 水色エプロンドレスなロリータ着て、不思議の国のユユコ、な〜んて―――げふっ?! おっと、失礼、また砂糖吐いちゃった。

 そう、つまりコスプレとは日常ふだんとのギャップ! 言わば"非日常"! "常"からの乖離っ!!
 着る対象の有り得なさこそが、至高の萌えを作り上げるの!!
 私のコスプレ魂におっ立つ三本柱は容姿・関連性・再現度じゃない。ギャップ・ギャップ・ギャップよ!
 ギャップ萌え! いつだってそれが私のコスプレの美学! 賢者わたし乙女たちあなたに新たな魅力を生み出すために生まれてきた!

 もっと語りましょうか? 例えば病弱お淑やか系メガネっ娘が、レオタード系の衣装をまとうなんて、有り得るかしら?
 そう、普段はあり得ないわ! 妖夢が今寒いと言ったように、病弱な子がそんな薄着で肩出しな服を着るなんて基本タブーじゃない!?
 バニーちゃんのような舞台用でなく、稽古着用のレオタードを着るにしろ、前提となるその娘は病弱設定。
 露出の多めな舞台用だって、体を動かす前提の稽古着用だって、普段ならあり得ないこと……。
 だが、着る!! …………ぇエぇぇクセレぇぇぇンツッッッ!!!!!

 しかもその娘お淑やかなのよね!? お淑やかなのに、そんなセクシャルにアピールしてるのよって……!
 今の妖夢と同じよ……あり得ないじゃない! 存在そのものがあり得ない……!!
 だからこそ! 具現された時の貴重さはっ! 希少性はっ! ダイヤモンドなのよッッ!! You see!?

 また、ここでポイントになるのはメガネね。
 ……ふふ、大したことないと侮ってはいけないわ、重要なのよメガネは。伊達にメガネっ娘設定にした訳ではないわ。
 あっ、と……語る前に断わっておくわ、その病弱少女のつけているメガネはあくまで普通。
 クイズの司会者や仮面舞踏会顔負けなオシャレメガネではなく、ごくごく一般的に使われるメガネであるということをね。

 さて……先も話したようにそもレオタードとは"特別"という意識付けが強いわ。
 舞台用バニーちゃんにしろ、稽古着用しんたいそうにしろ、一度日常から離れる必要のある。
 言わば非日常……"非現実"の象徴と置き換えられる!
 レオタードを着ている時だけ、現実の世界からも乖離し幻想の世界へ旅立っていると仮定しても良いわ!!

 そこに、メガネという"日常"のパーツが加わる!
 本来なら見栄えを重んじ、より幻想に浸るために外すか、特別着飾ったオシャレなものに付け替えるはずのそのパーツを、
 あえて"日常"のまま身につける!
 それにより、一見幻想に存在する御身に自己を変革しながら、現実に回帰することができる……!
 幻想を求めるのではない! ただ現実と切り離すのではない!
 夢の中でしか現存できないはず彼女の姿が、メガネという"現実"を得ることで、その空想に現実感を与えることができる!
 まさに幻想の死……ネクロファンタジア!! ででで でーでで↑♪ でーでででー↓ ででで↓♪

 妖夢、あなたに渡したバニーコートも、とても軽いけれど、精神的な面において同じ性質を持っているのよ。
 さっきも言ったように、あなたは強い貞操観念を持つ生真面目っ子。ゆえにあなたは肌の露出を良しとはしてない……。
 だからこそ、せめて肌の隠れるものを……。そう妥協を示すことで、妖夢としての内面的整合性が取れる!
 魂魄妖夢とかけ離れた服装で、魂魄妖夢を表現するというパラドックスの両立!
 ただあり得なさを求めるだけじゃダメ。それを共存させるだけのパワー! 説得力こそが、真の満足を生むわ!
 セクシーパワー、貞淑な娘が持つと、光と闇が備わり最強に見える!
 これもまた、ギャップの力、よ……。

 何度でも言うわ、ギャップは生命いのちなり!!
 普段薄着の子には逆に厚着の服を与えることこそフロンティア! ダッフルコートやフリフリドレスとか良いんじゃない?
 和服の子には洋服を! いかにも女の子女の子した娘にはタキシードによる男装を!
 おおお……なんという桃源郷……。否、ここは幻想郷。人々の幻想が存在する夢のようなファンタズム……。

 ね、だから今更どこぞの月の住人がバニー着たって有り得そうじゃない? だから、"有り得ない"妖夢が着るから良いのよ!
 ……え? 胸? ちっちゃいからだめ? Bカップ最高じゃないのぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおっっっ!!
 控えめでいて! それでいてあることをしっかり主張する絶妙なそのサイズ! ムッハー! たたた堪らんっっっ……!!

 そもそも私、コスプレの時は過度のエロスは求めていないもの。ま、裸を楽しむ時は裸を楽しむ用に別の楽しみ方をするけど。
 レオタードは体のラインを強調して欲しいけど、どっちかといえばへそが浮き出ない程度に抑えてくれる方が個人的にツボなの。
 私がレオタードに求めるもの、それは単色支配による圧倒的広大感……!
 いい? 人体にはどうしても細かいシワや毛穴など、微細な凹凸が厭が応にも存在するわ。
 それは如何に若く潤ったボディを持とうとも、生命というオリジナリティが持つ不規則性。
 けれどその不規則を、規則正しく織り込まれた糸らが織り成す一枚のファンタジアには打ち消す力を持っている!

 凹凸も模様も、なにものの存在を許さないそのボディの滑らかなラインに浮かぶロマン……まさに大ッ・平ッ・原ッッ!
 明らかに造形さられた無機質に整い過ぎた規則性は、有機的なままで存在では生み出せない統一感!
 その圧倒的広大さは、虚無的感動を生み出す!!
 ただ草野しか広がらないはずの、延々と同じ風景の続くその限りない連続性へロマンを覚える、大平原そのもの!!
 "有る"ことに対する萌えではない、"無い"からこその萌え! そこに光沢が栄えれば、より一層なにもないことを主張するわ!
 『有機と無機』、すなわち『生と死』。生があるから死が生きる! ふふ、"死"が"生きる"とは言い得て妙ね……。

 もちろん衣服である以上、シワという宿命は避けられないわね……。
 けれど人肌のミクロな凹凸とは違い、一ヵ所に集まったシワのラインは細かいノイズを間引きし、より虚無を演出する。
 土地を開拓するには、まず石や木の根など余計なものを排除する。それと同じこと!

 そして収束した一筋のシワは、それ自体がアクセントとなり、衣服を栄えさせるアクセサリーとなるわ!
 ネックレスや腕輪と同じよ。虚無の広がる空間には、わずかなアクセントであっという間に繁栄を見せるわ!
 均した土地の、ベストの位置に木を植え花を飾り、そうして美しき庭園を生み出すかのように……。
 それは舞台を整えて、それからひとつひとつアクセサリーを飾りつけるということ。分かるかしら?
 やかましくごちゃごちゃと散りばめるより、ピンポイントへのアクセントを与えることで、今度は逆に虚無に生を与える!
 生と死……織り成す二律背反こそが広大な大平原に究極の絶景を生み出すの!!

 おっと……私としたことが、ひとつを語るのに夢中になって、別のことを失念していたわ。
 純然たる有機と無機の境界があったじゃない……そう! 胸まで覆う衣服と、露出する肩、その境界線!
 ノイズと蔑んだ有機の不規則性は、それこそ生命の具象。それ自体に魅力がない訳ではなく、むしろノイズだからこその魅力を持つわ。
 ごめんなさいね、さっきと話してることが逆って思うかもしれないけれど、それぞれの要素自体が違うのだもの。
 ひとつひとつ個別に説明しなきゃ、説明しきれないわ。これはこれ、それはそれって受け取ってね。

 要は魅せ方、メリハリ、適材適所。より強調し、より相互を妨げないのが共存というもの。
 ここまで語った無機なる一布に包まれた肉体は、胸元の一線を境に生命を、命の息吹を解放する! そのカタルシス!!
 異なる二物が、明確なる別の"個"の象徴が織り成す、ファンタズム。それこそが『境界』!
 『境界』さえもまたアクセント!
 だからそれを曖昧にする肩ひもなんて言語道断よ! ……おっと、これは私個人としての意見ね。
 胸から上だけじゃない、太ももの切れ込みラインだって立派な『境界』!!
 ふふ……ねぇ妖夢、私がなぜグローブを履いているか分かる? 萌えるからよ!!
 二の腕までの無機質感と、その『境界』を超えて現れる二の腕の有機的解放。
 これこそまさに『境界』の織り成すハーモニー!! 故に人は呼ぶ、この私を『境界の妖怪』と!!!
 よぉし! じゃあ今度は『境界』についてのレッスンを開始しちゃ―――おブふぁ!?

「五月蝿い……!」


 ド熱く語っていた紫さまの暴走に終焉を迎えさせたのは、語ってる間に着替え直した霊夢さんの後頭部への踏み付けアタックだった。
 今、初めて霊夢さんが頼もしく見えた……。
 ……ときになんで元の腋巫女服に戻ってるんですか? それどこに予備が用意されてたの?


「きゃーん♥♥ れいむ〜、いたーい きもちいい〜♥♥


 そして相変わらずご満悦の表情。
 どうしたらコイツを止められますか、誰か教えてください、切実に。


「まあ誰も聞いちゃいねぇあんたの下らない情熱は文面全部読まんでも分かったから。
 結局この半レズのひんそーなバニーちゃん拝めて満足したの? してないの?」

「失礼ですね。そりゃ別にスタイルに自信持ってる訳じゃないけど」

「したならとっとと私の相談乗ってくれる? ねえ、賢者様ぁ?」

「ですね……私も早く着替えたいですし」


 正直、紫さまにスイッチが入っててヤバいくらいに妄想全開してたので、ちょっとした危機感を覚えていた。
 一刻も早く着替えて紫さまの腐った脳味噌への供給を絶たないと、これ以上なにされるか分かったもんじゃない。
 早く着替えて、少なくともこの兎妄想くらいは差し止めたかった。


「ご満足なされたなら、もう着替えてもよろし」

「えー、もうちょっと〜」


 差し止められた。


「ん〜、それにつけてもやっぱバニーは良いわねぇ。
 というより、妖夢のスレンダーに引き締まった体にはレオタ系が良く似合うって感じね」

「はあそうですかありがとうございますあははは」

「だけど……うーん、なにかしら? バニーちゃんだと……ちょっと違う、って感じよねー……」

「違うんだったら、早く着替えても良いじゃないですか……」

「…………黒……がいけないのかしら? ちょっと色気を推し過ぎて、ギャップっていうよりミスマッチになっている感じ……?
 いつも着てる服が緑と白だから……ふむ、バニーにするにしても黒よりは緑のレオタが合うか……。
 あ、いやいや、レオタを白にしてその上に緑のジャケット……上着はボタン閉めないで……いやいや―――」


 ……紫さまが、私のはしたない姿を見てぶつくさと分析に没頭してた。
 私の言葉なんか右から左に聞き流して、のめり込むように……。
 そこはかとなくというか、ダイナミックに積極的ないやな予感しかしない……。


「よぉし! 今度妖夢のイメージに合わせて、特注でレオタ見繕ってあげる


 ぎゃあ。


「ふふっ、任せて このゆかりんの名において、汝、魂魄妖夢をレオタードキャラとして定着させてあげるわ♥♥


 ひぎぃ。


「うーしくしく。早く私服に戻りたい」

「いーじゃないの 別に動く訳でもあるまいし」

「そういう問題じゃなくてですね」


 いやな予感がものの見事に的中。
 また次の機会に着せる計画を着々と練られているところがですね、問題といいますかなんというか……。
 私としてはもう二度とこういう格好はしたくなくてですね……。
 そんな今後に対する不安な思いばかりが頭を巡っていると、突然壁を一枚挟んだ向こう側から、


「ひゃあっ!?」

「ルーミアさんの悲鳴ッ!? 隣の部屋からッッ!!」

「あああ?! そんな高速で踏み込まないで!!! ストッキングって伝線し易いんだからぁ破けるぅぅぅぅ!!?!」


 反射的に刀を手に取り、紫さまの悲鳴を無視して、ルーミアさんの悲鳴が聞こえた隣の部屋まで一気に駆け出した。
 ちなみに、最初の踏み込みの時点ふくらはぎ辺りからビリッって鳴ってたし、
 ついでに足の裏にひんやりと床の冷たさが直に肌に伝わる感触があるから、
 まあ絶対破いてしまったのだけど、私には全然関係のないことなのでそのまま無視しました。

 そして、隣の部屋の襖の前に着き、開けようと手を掛けたところで……
 ふと、ルーミアさんにこのはしたない姿を見られるということを一瞬躊躇ったが、その躊躇いはすぐに切り捨てた。
 この恥は掻き捨てる。
 彼女の一大事に間に合わなくなるよりは、私が恥ずかしい思いする方が断然いい。
 そのつもりで、その姿のまま駆け込んだ。

 一世一代に匹敵する覚悟を決めて、襖をバンッと乱暴に音を立てて一気に開けた。


「ルーミアさん!! 大丈夫です、か……。…………………………は?」


 ……ら、目に飛び込んできた映像に、まず呆気に取られた。


「ご、ごめんなさいですルーミアさん、私バランス崩しちゃって……」

「んー、大丈夫―。……あ! よーむちゃん!」

「おや妖夢殿。素敵な格好ですね」


 三者三様に声を掛けてくれる中も、私はただただフリーズしていた。パーフェクトフリーズしてた。
 ……いやなにがって。

 えーっと、とりあえず見たままの光景を述べますと……ルーミアさんの上に橙ちゃんが倒れ込んでいる。
 察するに、橙ちゃんがなにかしらでバランスを崩して、ルーミアさんを巻き込んで押し倒してしまったようだった。
 まあそこは良いや。別にいいんですよ。幼いおにゃのこ同士わきあいあいとしたほほえましい光景なんだから、それだけなら。


「わぁー! 妖夢さんすてきですね。どうしたんですかその格好?」

「よーむちゃんもどうぶつさんー! おそろいだねっ、おそろいっ!」


 ……問題は、ふたりとも私とさほど変わらない扇情的アニマルに変化させられていたことである。

 幼い(実年齢はさておき)おふたりは……まあ、私と比べてデザインが若干異なっていて、
 とりあずセクシー路線から可愛い路線に変化球つけられている印象は受けた。 
 具体的には……あー……知識のない私には逐一言語化できないので詳しい説明はできないです(あとで紫さまにでも聞きやがれ)。

 ただ、特に目立った違いだけを述べるなら、ルーミアさんは全身タイツのような形状で、比較的露出度は控えめ。
 首や手首にもこもことかあって、頭にはちょこんと小さな犬耳カチューシャが乗っている。
 橙ちゃんは、通常のそれの通りに肩は丸出しだったけど、スカートや小物とかついていて、"可愛い"の方向に転換されてる。
 頭にカチューシャは着けてないけど、自前の猫耳がそのままのアクセサリの役目を果たしていた。

 要するに私がバニーちゃんなら、ルーミアさんはわんこガールで、橙ちゃんキャットガールになっている。


「What is this?(なんじゃこりゃあああああああっっ!?)」

「It is costume play.It is the same as you.How about it? Will you think it is lovely?
 (コスプレさ。君と同じね。どうだい? 可愛いだろう?)」


 混乱の余り思わず外来語なんか使ってしまった私に、さすが藍さんは丁寧に多分同じ言語で返してくれた。
 だけど私外来語なんて全然学んでないから、単語単語なら分かるけどこんな風に文章でガーッとまくし立てられるとさっぱりなのです。
 折角私に合わせてくれたのになんて言ってくれたのでしょう、分かりませんでしたサーセン。


「ららららららららら藍サン……?!」

「どうしたんだい、妖夢殿。お、君の格好は紫様のご意向だろう? 似合ってるよ、そのうさ耳」

「ここここここここここれは一体どういうことでせうか?」


 ねえ、なんでこんなことになってるの?
 私、ルーミアさんに恥ずかしい格好させないためにがんばったんだよ?
 がんばってうさぎさんになったんだよ?
 なのになんでこんな……


「ねーねー、よーむちゃん。わたしわんわん、わんわーん

「橙はにゃんにゃんです! にゃんにゃんっ!!」


 私はうさぎです、うさうさ。


 ……なにこれ。白玉楼っていつから風俗店になったの?

 この場で唯一私服のまま無事な姿の藍さんは、私のエキセントリックな姿を前に、いたって平然と対応してくれていた。
 常に沈着冷静、状況把握能力もばっちり、その聡明な
 私が望んでこの格好したわけじゃないって、誤解せず正確な情報を推理してくれたのは嬉しかったけど、
 ふたりに向けてカメラ構えている九尾のお狐さまに疑問をぶつけずには……おいテメェなにカメラなんか向けてんだッ!?


「おいおい妖夢殿、落ち着きたまえ。人に刃物を向けるのは危ないよ」

「困ったらとりあえず斬れっておじいちゃんがいっていた!」


 額に青筋立てて、楼観剣と一緒にこの爛れた世界を成形しただろう藍さんに疑問を突きつけた。
 本当は、信じられない……。紫さまならともかく、あの真面目な藍さんが……。
 従者としての大先輩と尊敬してたの藍さんが……こんなことするなんて、信じられない。
 だけどこんなことできるのも紛れもなく藍さんしかいない訳で……そこにカメラなんて証拠があれば、もう疑わざるを得なくて……。


「あら、藍。撮影会は私の指示通り行われてるようね」

「キサマが諸悪の根源かァーーーッッ!!」


 私の疑問は、遅れてやってきた大賢者へんたいによって瞬時に解決された。


「えー、だって私たちの方で撮影会やってる間に、こっちでも行っておけば効率良いじゃな〜い」

「私は巻き込みたくないって言ったんですよっ……! ってかいつの間に指示したんですか」

「んー、アイコンタクト?」

「妖夢殿が西行寺の姫に仕える前からの命令さ」

「その崇高な演算能力を、なんでもっと上手に使えなかったんですか!!!」

「んもー、折角ルーミアちゃんという逸材に出会えたんだし、色々着せ替えさせたかったんだもの〜。
 あ、はい妖夢。うさ耳バンド落としてたわよ」


 おっと……どうやら走った弾みで落としてしまったようだ。
 ンなこたァどーでもイーんだよと紫さまに差し出されたうさ耳バンドを無言でバシンッと弾いた。
 ルーミアさんにはしたない格好をさせたくないと思ってこんな格好したのに、これじゃあ私のうさぎ損じゃない……。


「それに……橙ちゃんまで巻き込むなんて……こんなのって、あんまりじゃあ……」

「大丈夫です! いつものことですから!」


 橙ちゃぁぁぁぁぁぁああああんんんんんっっっ!!


「なによー、不機嫌ねぇ。ルーミアちゃんのあの格好、好きじゃないっていうの?」

「え? そ、そんなの……」


 突然の切り返しに、わずかに言葉を濁らせてしまった。
 その怯んだ隙を逃さず、藍さんは先程私の弾いたうさ耳バンドを手際良く着け直した。……なにしてんスか藍さん?


「ねえどうなの? ね?」

「そ、それは……」


 いやまあ……そこはほら、惚れた弱みってのがあるから、よっぽどトリッキーな姿でもない限り可愛いと思ってしまう訳で……。
 しかし、この手の衣装が好きかどうかっていうのはまた別な訳で……


「えへー、みてみてー」


 ……改めて、ルーミアさんの姿を見てみる。
 露出を控えて可愛い路線に走っているとはいえ、体のラインを強調した、なんとも扇情的なファッションである。
 異性ならばそこそこに……というかルーミアさん可愛いから、絶対に込み上げてくる"なにか"はあるだろうとは思う……。
 しかし私は女な訳で、同じ女性のそういった服装を見て興奮する性癖があるかと言えば、さすがにそういう趣味は……


「…………よーむちゃん?」


 確かにルーミアさんに並々ならぬ好意は抱いていることは認めよう。
 けれども、それと情欲がくすぐられるかは別な話。
 もう取り返しがつかない程レズビアン認定された身とは言え、別に女好きって訳じゃない。
 好きなのはあくまでルーミアさんというひとりの存在。
 これで女の体にまで興奮し出したら、私はそれこそ


「よーむちゃん……わたし、かわいくない?」

「好きです」


 ごめんなさい、大好きです。


「あああああああああああ私なんてこと口走ってええええええ……」


 今まで否定してた気持ちが、ルーミアわんこさんの首傾げでリミットブレイクして、私の口からつるっとこぼれ落ちた。


「えへー よーむちゃんにほめてもらっちゃったー♥♥

「ふふふ……恋人直々に満足して頂けたようで、私も嬉しいわ」


 こんな気持ちあったんだ、自分でも驚くくらいに、それはスムーズに流れ出て。
 彼女を不安にさせた分を取り戻すよう、それすら塗りつぶすくらい……


「……いやいや、そんなことはさておいてですねぇ。なに勝手にしてくれやがったのかと……」


 これ以上このことに考え続けると、なんだか自分自身を汚していくみたいなので、思考と話題を強制方向転換させることに。
 あと恋人云々については後で説明しよ。ヘンに言い訳して中途半端に受け取られたらそれこそややこしい事態になりかねん。
 とりあえず今は風俗店・白玉楼を早々に閉店さることに力を傾ける。


「そうよ、藍。私はここまでしろと指示を下した覚えはないわ」

「え?」


 私の思惑とは逸れ、紫さまは少々ご立腹な様子。
 あれ? この白玉楼風俗化計画は紫さまの指示じゃないんですか……?


「獣耳属性は最近飽きが来てると言ったはずよね?
 だというのにこのわんにゃんスペクタクル……一体どういうことかしら?」

「そっちかよ! ってか、そんなん大差ないですし!
 あと紫さまの指示で私にうさ耳属性付加されてるの忘れてませんか!?」

「なにを言うの妖夢!? 萌え要素のサジ加減とタイミングは重要なのよ!
 まあ分からない妖夢には同じに見えるかもしれないけどね……。
 あ、ちなみにバニーはレオタ部分を満喫したいだけだから、正直耳外したままちゃっていいわよ。
 バニーガールというひとつの形骸を成してるだけだから、申し訳程度に付属させてるにすぎないわ」


 紫さまのこだわりはむずかしいのです。


「なにをおっしゃるのですか紫様!!」


 それに反論を加える、忠実な従者であった藍さん。

 ……え? 藍サン?


「紫様ともあろうお方が、なぜそんな愚考を……!
 妖夢殿、それは外してはなりませぬ!!
 大体、獣耳こそ最高の萌えファクターだと教えてくださったのは紫様でしょう!」


 あの穏やかだった藍さんが、珍しく声に力を入れてヘンなところに食いついて……え? え?


「はぁ……あなたに獣耳属性を植え付けたのは確かに私よ。ええ、獣耳が萌えファクターなのは認めるわ」


 ……紫さまがサラッと爆弾発言した気がする。


「だけどあなたにコーディネーションを任すと獣コスばっかりになるから、正直ちょっと飽きが来てるのよ。
 だから、撮影は3割までに控えろと指示を出しておいたはずなのに……」

「紫様、お言葉ですが、10枚中3枚も、1000枚中300枚も、同じ3割でございます」

「そんなに長々撮影してたらレイヤーさんの方がダレれるわ!
 生きた写真が撮れなくなるなんて目に見えてるでしょうに!
 ……はっ! あなた、まさか分かってて獣コス先に撮影してるでしょう?!」

「はて、なんのことでしょう? 私は紫様の式神です。紫様の指示通りに行動したまでです」


 ……ら、藍さん……まさかあなた……。
 もう……手遅れ、だったんです……ね……。


「くっ……策士の九尾めっ!
 だけど体のラインのが強調されるファッションを選んだことだけは褒めてあげる!
 それすらあなたの策と理解していようとも、この八雲紫、許そうではないか!!」

「ははっ、ありがたき幸せ!」


 姉のように尊敬していた藍さんは、既に救いようのない手遅れの状態だった……。
 ああ、あれはもう藍さん(注:式神。萌えを語らないものだけを指す)じゃないんだ。



「ルーミアちゃんの、ボディタイツの上にホルターネックのレオタードを着たようなデザインになっているのがGOOD!
 露出を控えて首にはもこもこ、そして光沢を抑えて可愛い方向への転換は見事だと評価するわ。
 橙も、ベーシックなバニースーツにフリフリスカートと、ふわふわした小物。
 橙自身の猫パーツを服装に上手く生かして、べネ!」

「お褒めに預かり光栄です!」


 そう思うと……これまで抱いていた敬意の念が、そのままかなしみといかりにかわるようで、


「まあ良いわ。あなたの選んだ衣装のセンスに免じて、今回の獣耳は不問とするわ。このまま撮影を続けない」

「ははっ!」

「今すぐやめろと言っているこのヘンタイ主従コンビ……!!」


 ゆかりさまたちがなにをはなしてるかさっぱりわからなかったけど。
 とりあえず魂魄うさぎは、しきがみともどもへんたいを斬り殺すことに決めました。みょんみょん。























「ただいま〜。お待たせマイラブ霊夢〜

「やっと戻ってきたか。あと誰がキサマのラブだムラサキ色魔」


 さぞ満足気な顔で部屋に戻ってきた紫さまを、霊夢さんのきっつい一言が出迎える。
 私も、紫さまの後に続いて客間へと戻ってきた。


「……どうしたのあんた? ぼろぼろじゃない」

「いえ……」


 妖怪の大賢者とその式神の最強の妖獣に挑んで、あえなくボッコボコに返り打ちにあっただけです……。

 幻想郷に定着したスペルカードルールになったのが幸いして、私はぼろぼろになるだけで済んだ。
 そうじゃなかったら死んでた。残り半分も死んでた。完全に死んでた。強過ぎるよおふたりともぉ。びぇーしくしく。

 そして……負けた私に撮影会を差し止める権利はなく、隣の部屋ではルーミアさんは今も撮影会の真っ最中……。
 ごめんなさいルーミアさん、私はあなたを守り切れなかった……。
 大体なんでこんなスキマのヘンタイだったり最低巫女だったりがこんなに力に溢れてるんだよぉ……。理不尽だよぉ……。


「さっ、て……一通り満足したことだし、そろそろ相談に乗ってあ・げ・る

「きもい。ま、やっと相談乗ってくれる気になったみたいだし、いいわ」


 撮影会が順調に進んでることにご機嫌な紫さまは、
 霊夢さんの無礼千万な物言いもモノともせずに「はいは〜い♪」と弾んだ返事で頷く。(いやむしろなじられて喜んでるかもしれないけど)
 満面の笑みを振りまきながら、ちゃぶ台を挟んで霊夢さんの対面に座った。


「まったく、ここまでどれだけ無駄な時間を割いたものか」


 ほんとだよ。


「無駄じゃないわ。境界の向こうの読者様方に、この私、八雲紫の魅力をふんだんにお伝えできたもの


 紫さまがなにをおっしゃってるか分からないけど、多分伝わってはいけない魅力がふんだんに伝わったんじゃないかなあと思った。


 そんなこんなで、やーっと本題が始まる。
 ぶっちゃけ今回の話、中編の中盤からの後編のここまでの部分要らなかったんじゃないのってくらい遠回りだった。ホント好き勝手やってたよ。

 さてと……おふたりが相談を始める間に、私はさっきまで着ていた私服を手に取った。
 先程の弾幕ごっこでグレイズしまくったので、今着てるバニー服はさすがにところどころ破けて肌が覗けている。
 バニーコート用の上着は変わり身の術っぽいことやったので完全にダメになったし。
 こんな肌が所々覗いている状態を放っておくのはよろしくないし、それ以前にこの恥ずかしい格好を一刻も早く隠したい……。

 そう思って、このまま上に服もスカートも履こうとしたところで、
 紫さまに「なんで着替えようとしてるの!?」と怒られて、服がぼろぼろの旨を話したら、
 破損部分と破損部分の境界を操り、裂けた個所を元通りくっつけて、あっという間に新品同様のバニーちゃんに!
 なんて能力の無駄づかい……! いいから着替えさせてっ……!


「まったく……だからあなたは半人前なのよ」

「こんなことで一人前半人前判別しないでください〜……しくしく……」

「まあ、うさ耳を外すことだけは許可してあげるわ。今は藍もいないからね」


 隣の部屋から「駄目ですよ、妖夢殿!」って声が聞こえたけど、
 紫さまがちっちゃいスキマを開いてそこに扇子を持った手を突っ込んだら、ぱしぃんッて軽快な音がお隣から聞こえてきた。
 橙ちゃんの「藍さまぁーっ!?」って慌てふためく声がおまけつきである。


「っと、ごめんね霊夢ぅ〜 ま〜た話逸れちゃうところだったわね。
 さ、話して……あなたの言葉も愛もなにもかも、全て受け止めるか ら


 また横道に逸れそうになったところで、紫さま自ら自重し軌道修正。
 ここまでさんざふざけてきたけれど、どうやら今度こそは本当にしっかり相談に乗ってくださるよう。
 やると決めたのなら、しっかりと芯を通す……それはきっと妖怪として、「契約やくそく」における、矜持なのかもしれない……。


「……………………」

「……? 霊夢?」


 ところが、霊夢さんは、紫さまのふざけた物言い(?)にも無反応なまま、ただ思い悩むかのように黙っていた。

 私も紫さまも、すぐに霊夢さんが口を開くだろうと黙って待ってみるけれど……しばらく待っても、霊夢さんの口から言葉は出て来なかった。
 霊夢さんはただ気まずそうに口元を歪めて、とても言いにくそうにもじもじしていて、紫さまはそれを首を傾げて眺めていた。

 ……あー……そりゃそうか。
 考えてみれば、相談の内容というのは、チルノとの関係について。
 縁切りとはいえ、おんなのこ同士の情事に通ずる事柄を、この八雲妖怪ゆりマニアに知られようものならどんな目に遭うのか……。
 霊夢さんも、自分がそのテの話を振ったらどう冷やかされるか危惧しているに違いない。
 現に私とルーミアさんの関係を知って凄まじい暴走を見せて下さったのだから……。
 ああ、今視界の端に捕えた畳が唾液で軽く溶けた砂糖でべッタベタになってる。


「もうっ! どうしたっていうの霊夢!? 別にないならおっぱいもむわギャー針痛い!!」


 紫さまの意味不明な理論に、巫女の針が神速の早射ちで撃ち込まれた。


「あー、実はね……」


 霊夢さんは、ついに意を決して口を開いた。


「最近、ちょっと私に……絡んでくる、ヤツが……居てね……。
 なーんかそいつ、妙にアプローチを仕掛けてくるから、迷惑してるのよ」


 お、上手い。
 事実は間違っていないが、言い回しが絶妙だ。
 絡んでくる相手が男か女かは完全にぼかし、更にこの手の話題は得てして男女間だという先入観も後押しするだろう。
 どうやら、チルノが女の子ということを隠して、相談を進めるつもりみたいだ。


「……女の子ね?」

「ぎくぅ!」


 が、妖怪の賢者・八雲紫に対して、その程度の小細工は通用しなかった……。
 図星を突かれ、霊夢さんが分かりやすく動揺を見せた。
 あのアンニュイで動じることの少なかった霊夢さんが、声に出して「ぎくぅ」だって。


「な、なんでそんなこと……!」

「ただの推理よ。
 まず第一に……今日私が来たのは、あなたの相談に乗るためだった。
 私が適任ということ話で持ち上がっているのに、男相手の相談な訳がないというね」


 もーこの人自分がおんなのこ同士専門って自負ってるよ。ほんと性質悪いなぁ。


「べ、別に……霖之助さんのことかもしれないでしょ!」


 霊夢さんの口から飛び出した「霖之助」という名。
 魔法の森の入口で古道具屋の店主をやっている半妖の男性・森近霖之助さんことである。
 私も以前、その店主さまに酷い目に……いやいや、お世話になって、面識ぐらいはあったから、すぐに彼のことだと理解した。
 幻想郷では珍しいメガネキャラな店主さまは、霊夢さん、紫さま、共に親しい間柄らしい。
 なるほど確かに、霊夢さんが色恋に悩んでる姿なんてキモいけど、フツーに色恋沙汰と考えれば、まだそっちの方が分かりが良いと思う。
 紫さまも面識があるのなら、そういう意味で適任とも言える訳だし。


「彼は特別。その内"彼女"にするつもりなんだから、同じでしょっ


 店主さまニゲテー!!!


「それに、根拠はそれだけじゃないわ」


 ただ単に願望から真実を歪め、女同士こそが前提という先入観に囚われていた訳ではない。
 紫さまは、白いグローブをまとった細長い指で自らの頬を差して、言う。


「あなた……その娘にほっぺたにちゅーされたんでしょ? "見えているわよ"」

「……っ!」


 霊夢さんは反射的に手で頬を隠したけれど、それも今更だった。
 紫さまは、800年間の無駄な努力を積み重ね培った例の特技にて、霊夢さんが既に"されている"ことを見抜いておられたらしい……。
 霊夢さんは唸るしかできずにいた。
 この女好き妖怪に、女性経験―――例え頬へのキスまでだとしても、バレるのは避けたかったのだろう。
 その気持ちよ〜く分かりますよ。私なんか唇同士で7回もしてたのバレてるんですから。この後がマジで怖い。


「ああもうっ……! ええそうよっ! あのHバカ妖精のヤツが、お礼とか勘違いしていきなりしてきたのっ!
 無理矢理されただけよ! 勘違いしないでよねっ!!」


 バレたならいっそ……と、霊夢さんは開き直ったかのように、今までの戸惑いが嘘のように一気にまくし立てた。
 隠さず全てを話すことに方向転換したよう。


「惜しいわね。なぜ唇を狙わなかったのかしら」

「殺すぞ手前ぇ」


 れいむさんがすごくこわいです。


「で、なに? 受け入れたいけど女の子同士はヘンだから受け入れられないの、って話? 萌えるわね」

「逆っ! 迷惑だからとっとと追っ払いたいのっ……!」

「とっととおっぱいさわりたいの?」


 ひどい聞き間違えを聞いた。(多分わざとだ)


「えー、いーじゃない。女の子同士のロマンス、素敵じゃな〜い。ねぇ、妖夢?」

「なんで私に振るんですか」

「「今更なにをおっしゃる」」


 はい、そうでしたね……。
 あははー、私もう完全にレズビアン認定、しくしくしく。


「まーそこの半レズのことなんてどうでもいいのよ。
 それで……最初は氷漬けのカエルをプレゼントされたのよね……」


 氷漬けのカエル……?
 ああ、そういえば、ルーミアさんがチルノがよくそうやって遊んでる、ってこの間話してたっけ。
 そんなもの貰ってどうするのだろうと思ったけど、まさに霊夢さんもその心境だったのだろう。


「あいつにとってはなにか価値のあるものかもしれないけど、貰っても正直困るだけよ」

「食べちゃえばいいじゃない。げぶちゃっ?!


 さすが紫さま! 私たちに考えつかないことを平然と言って殴られるッ! そこに疲れる! 呆れ果てるゥ!


「次に、なんでか知らないけどふんどしプレゼントされた」

「なんでふんどし!?」

「はきなさい。がぶちゃっ!?


 私の驚きから間髪入れずにさらりヘンタイ要求してきた紫さまへ間髪入れず霊夢さんの火事場のメガトンパンチが鼻骨を砕いていた。
 この博麗霊夢、容赦せん!


「で、その後は手紙を貰って……ラブレターだった」

「まあ素敵ロマンス! おバカな子が、慣れないなりに頑張って描いた手紙なんて、萌えるわ〜

「えらく達筆だったから、どうせ代筆よ」

「そんなことよりおっぱいさわらせて。ごぶちゃっ?!


 意外、それは無関係。
 霊夢さん……さすがにこれは殴ってもいいです。


「その翌日にはついに…………で…………ぐぅ」


 よっぽど紫さまに言いたくなかったのか、真っ赤な顔を伏せながら、抵抗を覚えつつも……小さく「デートに誘われて」と呟く。
 その聞こえないほど小さな声は、既に知っていたこともあるのだろう、私の耳はしっかりと拾い上げた。
 そして紫さまは……聞き返したりはせずに、「へぇ」なんてすごくご機嫌そうにその口元を歪めたのを見ると……恐らく聞き取ったのだろう。
 霊夢さんはそれを察して、顔を更に真っ赤にする。……恥じらうというより、苛立つの感情の割合の方が多いという印象で。
 紫さまのご機嫌な笑みがすごくしゃくなのだろうな……。


「そっからもうここ数日毎日のように付きまとわれて……!
 あー! この調子で続いてくとしたらいい加減ノイローゼになるわよ……!」


 話を聞いて、初めて霊夢さんの身に起こっていた事の全貌を把握した。

 推察するに……チルノの行動は、きっと、全てレティさんの指示によるものだろうと思った。
 指示と言うより、チルノ自身は真面目に相談に行き、そこにアドバイスの体を取ってレティさんが思惑通り操ったんじゃないか、と。
 もしそうなら……

 レティさん、あなた指示、ちょっと間違ってますよ!?

 ……とツッコミたいと思った。
 だってふんどしって……ねえ……?


「ふーん……なるほどねぇ」

「さあ、言うこと言ったわよ! とっととどうしたらいいか答えなさい!!」


 全て聞き終えて、紫さまは軽く相槌を打つ。
 霊夢さんは相談する立場だというのに、とても偉そうな命令口調で返答を急かした。
 それは、自らの羞恥の心を覆い隠すための行動にも見えた。いや、まあ結構いつも通りなノリだけどさ。


「受け入れちゃえばいいじゃない」


 霊夢さんのヤクザキックが発動して、紫さまの顔面が霊夢さんの足の餌食になった。


「私は真面目に答えてるわ」


 ……だが紫さまは、今度は足を突きたてられながらも毅然としたまま言いきった。

 さっきまで散々オーバーリアクションで痛がってたというのに、今はまるで効いちゃいない……。
 なんら、相手にさえなってないという風に。
 まるで今までは単なるお遊びだから、冗談に付き合っていただけで、今は真面目に向き合う場面だからこそ、そんな遊び要素を排除したと。
 そう暗喩するかのように、強く、怯まず、八雲妖怪は真剣な眼差しで言葉を語る。


「そもそも、あなたはどうしたいのよ?」

「え? 私、は……」


 紫さまの切り返しに霊夢さんは言い淀んでしまう。
 顔面にめり込ませた足も、力なく顔から離れた。
 足が離れた後の紫さまのお顔は……なんの影響もうけてない、綺麗なままの姿だった……。
 これが、遊びなどではなく本気で向き合った八雲紫の姿なのか?
 たかが人間の蹴りとはいえ、力の差を、存在そのものの差を見せつけられたみたいで……軽い寒気を覚えた。

 私の畏怖を感じ取ってか、言い淀んだ霊夢さんを気づかってか、張りつめた空気を緩めるように、
 軽くおどけるように表情を口調を崩して、紫さまは話の続きを口にした。


「ま、あなたにも意中の乙女あいてがいるってことなら、幻想郷のフェミニストゆかりんりんは快く力を貸してあげるわよ。
 あっ! さっきも大事そうに守ってた幽々子のことがだ〜い好きっていうなら……」

「そ、そんな訳ないでしょ!!」

「あらそう? 私は、霊夢だったら幽々子を任せても良いと思ってるけどね」


 涼しい顔でおぞましいことを言ってくれる……!

 霊夢さんと……幽々子さま、が……?
 ありえないが、もしそうなったら、幽々子さまの見染めた相手は=私の主。霊夢さんが私の主? そんなんやだ、生理的にやだ。
 有り得ないこととしてもそんな超縁起でもないこと、間違っても言わないで欲しかったので、
 その旨をきっぱりと紫さまに伝えておいた。


「私は……そう、私は元の平穏な生活に戻りたいだけよっ!
 ただでさえ異変とか起きて忙しいんだから、そういう余計なとこで労力使いたくないわ!
 大体人間に迷惑を掛ける妖を相手に、そうでもなくても女相手に恋だのなんだの……ある訳ないのよッ!!」


 言い切る霊夢さんに、紫さまはまたも「ふーん……」と軽い相槌。
 「ま、そういうことにしておきましょ」と意味深に口ずさんで、紫さまはそれ以上の追及を止めるのだった。


「じゃ、答えは簡単ね。受け入れちゃいなさいよ」


 そうして、答えは振り出しに戻った。


「だーかーらー……!!」


 不真面目な紫さまの態度を調伏せんと、霊夢さんが拳を構えんとしたところで、


「もう一度言いましょうか? 私は真面目に答えてるわ」


 紫さまはきっぱりと言い放つ。


「気づいているんでしょう? 彼女のグレード、徐々に上がって来てるって」

「え? そりゃあ、まあ……」


 言われて、私は頭の中で霊夢さんが言ったものを順番に思い浮かべてみた。
 最初はカエルの氷漬け、次にはふんどし、その次はラブレター、そうしてデートの約束、と……。
 最初の方の価値観はよく分からないけど、確かに、段々と贈り物のランクが上がって来てる、ような気がする……。


「その娘はお礼をしたいだけよ」


 賢者は切り込むようにズバリ言う。


「……けれど、あなたはそれを受け入れない。
 だからあなたが気に入ることをしようと試行錯誤している。
 だったらとっととお礼を受け取って、決着つけちゃえばいいのよ。
 貸し借りがなくならないから、いつまでも続いてるだけなんだから」


 なるほど……思わず頷いていた。
 確かにそうかもしれない。
 一番最初のお礼にあたる頬への口づけも、結局はそれがお礼になるからとレティさんに吹きこまれてである。
 それがダメだったからより喜ぶことを、と……そうなるのは当然の流れなのかもしれない。


「けど……」

「でないとその娘、いつまでもあなたにお礼をしに来るわ。
 場合によっては、お礼を返そうって意地張ってる内に、
 気づいたら本格的に口説き落とそうって目的がすり変わっちゃうかもしれないわね」


 その言葉に、霊夢さんが息を飲んだ。
 いや霊夢さんのみならず、私も……。
 手段が目的になる……未熟な子供の身なら、それは良くあることで……。そこまで考えてハッとしたから。

 レティさんの筋違いと思われたアドバイスは、それを見据えて……?
 もしそうなら……前言を撤回する。
 レティさんの黒幕としての腕前は、私が侮っていたものよりも、数段優れていると認めるしかない……。


「ま、私としてはその展開は面白くもあるのだけどね。百合だし。
 けど同時に、霊夢は幽々子と同じくらい私のお気に入り……できれば、私が幸せにしてあげたいという願望もある。
 だから一方では、早くその娘の意中から外れて欲しくも望んでいる……」


 でないと、私が手を出せないんですもの。
 付け足すように、自らの制約は守ろうという決意を、ほんの少し切なげに告げて。
 そうして、おもむろにご自身の顔の高さまで手を掲げ、


「だ・か・ら……」


 パチンと指を鳴らす。

 ―――瞬間、私の体を支えていた床が消えた。


「え―――」


 突然の、前兆もなかったそれに不意を突かれ、私と霊夢さんは共に落ちていった。
 紫さまが、私の足元から霊夢さんのところまで広くスキマを開いたのだと気づいた頃には、この身は既にスキマに飲み込まれていた。


「ま、がんばってね〜 妖夢は、見届けて人として霊夢を応援してあげて〜」

「ちょっ!? 待って下さ―――!」


 一体なにを……言いきる前に、私たちを飲みこんだスキマの入り口は閉じられてしまった……。
























「いたたた……」

「ったく、紫のヤツっ! 言うだけ言ってなによ!!」


 気がつくと、私たちは草の上に尻もちをついて、どこぞの屋外に居た。

 飲み込まれたスキマの、無数の目と手の蠢くおぞましい亜空間を仲介してから吐き出されてた先は、
 見覚えがあるような、どこにでもあるようなそんな湖のほとりだった。


「ここは……?」


 辺りは、うっすら霧が立ち込めてはいるものの、いたって平常とした風景が広がっている。
 目の前に広がる自然あふるる空間は……冥界のそれとは違い、生気に満ちた活気を感じた。

 どうやら、紫さまはただ屋外に移動させただけじゃなく、顕界へ……現世へと運んでくれたよう。
 冥界から、現世まで、いくつもある境界を完全にすっ飛ばし、ここまであっという間に転送とは……さすが紫さまと、感心するほかない……。

 辺りをもっと確認しようとその場に立ち上がる。
 草と土と小石の感触が、薄いストッキングの生地越しに伝わ……………………しまった、私バニーちゃんのまんまだ!?

 みょぉぉぉーんッッッ! と盛大叫びたい衝動を抑え込んで、足元を見回し"あるもの"を探した。
 それは程なくして足元に落ちているのを発見。……よかった。
 ほっと一安心して、地面の上の、さっきまで着ていた自分の服を拾い上げる。

 さっき、部屋に戻ってすぐ着替えようとしていたことが幸いした。
 霊夢さんと私を同時に飲み込むほど大きく開かれたスキマに飲み込まれた時、
 すぐそばに置いた私の服をも飲み込んでいたのが見えていた。
 だからと思って探してみれば案の定。
 上着の方もスカートの方も、両方とも揃っていて、まるで九死に一生を得た気持ちになる。まあ半死半生の身だけだけど。
 ついでに、楼観剣と白楼剣の愛用している二刀も落ちていた。どうやら今の神様はサービス精神が豊富のようです。

 すぐに私服を上から羽織れば、この奇抜なファッションを拝まれるなんて最悪の展開は免れられる。
 こんなはしたない格好、誰かに見られでもしたら、それこそ私の世間体は大暴落。
 ただでさえレズビアン疑惑が広がってるってのに、今度はバニーちゃんになるのが趣味とか広まったら……正直生きるのがいやになりそ。
 この間だってね、美鈴さんに招待されて紅魔館の中にお邪魔した際、
 たまたま会った顔見知りのメイド長が「あら、今日は彼女とご同伴?」なんてニヤけてからかってきたんだから!

 わぁ☆ なんだぁ、思った以上に私の株暴落してるじゃん☆ ド畜生ぉぉぉぉーーーーーーっっっ!!!!


「真っ赤な館……? ……紅魔館!?」

「そうですよ〜、その紅魔館でからかわれて私大変だった、ん……え?」


 霊夢さんの驚きに反応して、その視線の先に私も目を向ける。
 そこには間違いなく見覚えのある風景が広がっていた。
 湖を挟んだ向こう側……湖上に霧が発ち込めてハッキリとは見えないっていうのに、
 対岸には紅々と、堂々たる姿で存在を主張する悪魔の館―――先日私がお世話になった紅魔館の姿があった。

 そう、どうやら私たちは、紅魔館からほとりの湖を挟んだ対岸側に転送されていたらしい。


「なんでこんなところに?」

「……そういう、こと」


 私が疑問符を浮かべる横で、霊夢さんはなにか納得したように、苦々しく零した。
 持ち前の勘の良さからか、どうやら霊夢さんは紫さまの意図を把握したらしい。
 だけど、私はさっぱり分からずじまい……ひとり置いてきぼりも切ないものなので、どういうことなのだろうか聞こうと思った、その時だった。


「れ、霊夢じゃねーか!」


 私が聞くより先に、私ではない誰かのやんちゃな物言いが、明後日の方向より彼女の名を呼んだ。
 霊夢さんは「やっぱりか……」なんて呟いて肩を落とし、溜息を深く吐く。
 霊夢さんの態度も気にはなったけれど、同時に声の主も気になった私は、ひとまず声の方に顔を向けた。


「あ!」

「げげっ!? か、刀女まで……!? お、お前……―――」


 そこには、この問題の渦中の妖精じんぶつ……チルノ本人の姿があったのだった!

 チルノは目を丸くして、ちょっとおどおどとした軽く動揺した態度で私たちを……いや、私の姿を眺めていた。
 ……そういえば、先日会った時も同じような態度をとっていたし……どうやら、私に対して相当苦手意識を持っているよう……。
 まあ、ルーミアさん絡みで散々斬ってきたから仕方ないのかもしれないけど……。


「面白い格好だな、それ」


 ちるのにバニーガール姿を見られてた。


 しにたい。


 あ、もう半分死んでた。


「えぐえぐ……」

「なに泣いてるのよ?」

「うるさい、ぜんぶおまえのせいだ、腋のせいだ……えぐえぐ……」

「はぁ……?」


 さも分からんという顔で傾げるその首を叩っ斬って取り外し可能にしてやりたいと思ったところで、
 そんなグロ展開はこれを読んでくださっているよいこのみなさまにやさしくなくなることを考慮し、精一杯の理性でやめた。
 お陰で事実上泣き寝入り状態である。
 徹底的に蹂躙された私の評判に悲しみを背負うしかできず、涙を流しながら霊夢さんに負けないくらい深く大きい溜息を吐くしかなかった。


「はぁ……じゃあまあ、私はおふたりの邪魔しないようにちょっと離れてますわ……」

「ちょっと!? なに言って……!」

「まーまーまー、とっととお礼受け取って決着つけるんでしょう?
 というか私はとっとと着替えたいんです。これ以上恥の上塗りなんてしたかないんです。
 あそこで着替えてきますから、その間にケリつけてくださいよ」


 言うだけ言って、手早く服と刀を拾い上げ、逃げ込む様に茂みに身を潜めた。
 霊夢さんが特に引き留めてこなかったところを見ると……まあ承諾してくれたってことなんだろうと解釈。
 それでも一度確認のため、茂みに着いてすぐ振り返ってみたけれど、
 霊夢さんも特に戻ってこいというような仕草も要求も来なかったので、私はこのままここでスタンバイして見守ることとした。


 それにしても……紫さま、なんでここにチルノが居るって知ってたんだろう……?
 まあ紫さまの狙いは分かった。霊夢さんとチルノを会わせ、この問題に決着をつけさせるつもりなのだ、と。

 だけど、なぜチルノがここに居ると知っていただろうか……?
 霊夢さんの問題のお相手がチルノって知ったのだってついさっき。探す時間なんてなかっただろうに。

 ……まあ、あの方はいつも胡散臭くて、私たちが必死に探した答えを最初から全て知っているかのように振る舞ってくる。
 どこからどこまで知っていたのだろうか……? むしろ最初から全て知っていたのではないのか?

 そんな掴みどころのない態度を、毎度取るような方だ。今更なのかもしれない。
 既に面識があったのかもしれないし、とてつもなく高い頭脳スペックで幻想郷中の女子を予め全て把握していただけかもしれない。
 「言われればどちらもあり得ると納得してしまう……。なんせ境界を操るというデタラメをこなすくらいだもの。

 だから、もう今更と切り分けて、私は考えを止めてとっとと服を羽織る方が堅実だと思い直すのだった。


「あ、あんなっ!」

「……な、なによ?」


 さて、巫女と妖精の方には、早速動きがあった。
 チルノの方から先に一歩踏み出し、霊夢さんへと声をかけて、お互い黙ったままの硬直状態を早々と回避していた。


「あ、あたい今度はすごいもん用意したんだっ!」

「あー……」


 チルノの様子は……今までのノーテンキで明るい様子とは少し雰囲気が違って、ほんの少し緊張しているように見える……。
 やはり、今まで断わられ続けたことが堪えているのか。
 また今度も断わられるのではないかという恐怖に、その一歩を踏み出すのに怯えているようにも感じた。
 ……それでも、チルノは自らその一歩を踏み出していた。
 強いな、と思った。
 少しだけ、チルノを見直したかもしれない。

 勇敢なる一歩を前に、霊夢さんは困った様に言葉にならない言葉を唸るだけ。
 やることは決まっている、だけれども……。

 霊夢さんが、ちらりと目だけでこちらを見て、着替え中の私と目が合う。
 まあ今回は隠れて覗いてる訳じゃないから見られても問題はないけれど。
 あの霊夢さんには珍しくまごついている気持ちは分からないでもないけど……
 だけど霊夢さんからも歩み寄らないと、この問題は解決しないのだ。

 ほら頑張ってくださいよ、なんて念を込めて目で訴える。
 霊夢さんは持ち前の勘の良さで理解してくれたのか、溜息をまたひとつ吐いていた。
 それから……


「ま、見てやるだけ見てやるわよ……」

「ほ、ほんとか!」


 渋々とした様子の霊夢さんだったが、それでも、チルノは嬉しそうに顔をぱぁっと明るくさせる返事を返した。
 ようやくお礼を返せると、胸のつかえが取れたような喜びにでも浸ってるのだろう。

 ……まあ、基本的に私は、ルーミアさんの件があるため、チルノのこと目の敵にしてるけど……
 今回ばかりは「良かったですね」と心の中で呟く程度には、あの笑顔に肩入れしても良いと思っていた。


「えっとな、えっとな……」


 チルノは嬉々として喜んだ表情を浮かべた後、その面持ちを真面目なものに直して霊夢さんと向き合う。
 巫女のジト目に見守られながら、早速用意した「お礼」の準備にしようと、おぼつかなく動きを見せて。
 おもむろに両方の腕を自分の背中に回して、胸を張って。
 なにか恥じらうように顔と目をそっと横に反らし、赤らんだ顔でもじもじと身をよじらせながら、


「あたいの胸……もめよ……」


 …………………………………………………………………………。


「受け取れるかばかやろーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」



 その時聞こえた音は、メギャグシャヮッッ!! だったか、それともドグシャバゴァッッ!! だったか。
 猛々しい巫女の拳がチルノの顔面にめり込み、肉と骨の軋むとにかくすっごい音が、霊夢さんの叫び声と共に霧の湖に木霊した。

 ぶっ飛ぶ妖精の姿を見送る私の耳には、悲しい悲鳴が届いて……そのまま、小さな彼女の姿は湖の霧の向こうに消えていく……。
 霊夢さんとの間に残った、「お礼」を巡ったわだかまりだけを残して……。

 こうして……悪夢の昼に……ようやく、終止符が打たれた…………。

 …………チルノの血によって………………。
























「ただいまもどりましたー」


 白玉楼へ着くと、私はよっこいしょ、と狩ってきた熊を脇に置いて、靴を脱ぐため玄関の土間と居室の間の段差に腰を掛けた。

 霊夢さんは、紫さまに会いたくないからと言って、あのまま真っ直ぐ神社に帰ってしまった。
 まあ無理もあるまい。私も会いたくない。今も白玉楼の中に居ると思えば気が重いですよ……はあ。

 んで私は、まあ折角だからルーミアさんのごはん用に熊を狩ってから白玉楼まで戻ってきた。
 予定外とはいえ折角来たんだし、もうちょっとうちでゆっくりしても良いんじゃないかと思って、晩ごはんの準備をしてきたのだ。
 私が居ない間に帰っちゃったって可能性もあるけど……それはないと確信してた。
 だって……ルーミアさんが私になにも言わないで帰るなんて……きっと、しないと……思うし……


「……って、ああもうっ……なに考えてんだ私っ!!」


 調子に乗ってのぼせたことを考えてしまい、顔を赤く沸騰させてしまう……。

 うぅ……顔……熱っつ……。


「よーむちゃんおかえりー!」

「きゃああああああっっっ!?!?」


 そんな考えの最中に、ぽすっ、と無邪気に後ろから抱きつかれて、盛大に驚いて、とても女々しい悲鳴を上げてしまう。
 しかも抱きついてきたのがルーミアさんだって分かってたから、ご本人を前に余計に驚いちゃって……。


「ど、どどうしたのよーむちゃん……!? おどろいたぁ……」

「た、ただいまです……。すみません、ちょっと……いきなりで驚いてしまって……あは、はは……」


 目をパチクリさせて驚くルーミアさんに、笑ってごまかす。
 と、私に回されている彼女の腕……正確には服の袖を見てみると、彼女が普段着に戻っていることに気づいた。


「あのね、ゆかりんさまね、満足したからって帰っちゃったの」

「そうなのですか」

「うん」


 ああ、それは良かった。
 あとあと私とルーミアさんのことについて、誤解されてる部分を説明しようとは考えてたけれど、
 正直今日はこれ以上あんな規格外の相手をするのは精神的にキツかったから、帰っていて貰えたのは逆にありがたかった。

 ほんと神様、さっきからサービス良いなぁ。そのサービス精神をなんでもっと上手に使ってくれなかったんですか。
 持てるサービス精神を霊夢さんや紫さまの暴走時に発揮してくれれば、
 私の百合っ子認定からバニーちゃん変化から風俗店白玉楼開店から撮影会まで、いくつか未然に防いでくれたでしょうに。
 それに、幽々子さまだって……


「おかえり妖夢。なーに? 帰ってきてそうそう悲鳴上げて。そんなにルーミアちゃんにお迎えして貰えたことが嬉しかったの?」

「あはは、申し訳ございません。別にそういう意味じゃな……―――」


 ―――……え!?


 家の奥より私を出迎えてくれた声に驚く。
 美しく澄んだそのお声……毎日聞き続けて、もう聞き間違えるはずもないそのお声は……
 紛れもない! 先程スキマに飲み込まれ、安否の危ぶまれた我が主……幽々子さまのもの!


「良かった! 幽々子さま、よく御無―――事……?」


 ………………ではなかった……。


「……? どうしたの妖夢? 突然固まったりなんかして? 私……なにか変かしら?」

「幽々子さまのその衣服の着こなし方、Yesだね」


 だってあんなにこってこてに和装していた幽々子さまが、今はカジュアルなキャミソールを着こなしてすごくおしゃれにキメいたから……。

 ああ、白玉楼は一体どこへ向かって行くんだろうか……。頭痛い。



















あとがき

「みょんミア!」シリーズ第9弾ー!
今宵思い知るは究極の暴走。リミットを越えた狂気の沙汰をあなたは知る……
って勢いで、みょんミア史上最凶の暴走回になるよう好き勝手やらせて貰いました(笑

シスプリ時代からなりゅーの作品を追っかけて頂いてる奇特な方にはご理解頂けると思いますが、
幽々さまでは所詮「咲耶レベル」……このゆかりんこそが、「千影レベル」の最凶暴走キャラです……!!
はい、ファンの方ごめんなさい(笑

さて、今回ぶっちゃけ回り道をし過ぎだと思ってますが、
その「回り道」こそをふんだんに描きたかったというとてもひどいテーマがあったりします(苦笑
なので読み手を飽きさせず、だらけさせないよう精一杯気をつかったつもりですが、
これが吉と出たか凶と出たかは……どうなんでしょう……?
しかし……せめて一気に書き上げるつもりが、途中デジ絵始めたり、引っ越して生活環境の変化になかなか馴染めなかったり、
とにかく前中後編揃うまで数ヶ月も要してしまい、申し訳なさの極みです……。
だけど作中にあった力説「八雲コスプレ美学」が、プロットの段階でこれをやらせようと計画した時絶対苦労すると思ったのに、
全然苦労しなかったよ! どういうことなの!?(爆

それと「紫がなぜチルノの居場所を知っていたか」については、本当は答えを説明させる案も考えました。
なりゅー自身、作中での謎は極力残さず、なんでも説明したがりな作者なんですが、
ただ途中で「紫ならあえて説明しないまま」というのも、紫の胡散臭さの演出に繋がればと思い、
ここは今回ちょっとしたチャレンジをしてみました。
まあまたの機会で説明差し込むかもしれないし、そのまま忘れて説明しないづくで終わるかもしれないし。
その場合は「紫だから」で通じてくれれば成功、という風に考えてます。

にしても、藍さまや橙における「式神」の理論がマジで分からなくて超苦戦しました……。今回の本題そこじゃないのに(苦笑

 


更新履歴

H22・11/28:完成


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