注意:
今回は「東方妖々夢」のゲームプレイを元に話を作りました。
「東方妖々夢」プレイヤーでないとネタが分からないかもしれません。
一応、この話を飛ばして「みょんミア!」シリーズを読むことに影響はないように仕立てましたので、
「東方妖々夢」もしくは「東方Project」の作品を未プレイの方は、この話を飛ばして次の話を見ることをお勧めします。






 

みょんミア

二.五、春の昼曇りは幽雅な戯れに







 昼になった。
 太陽は恐らく私たちに真上に存在しているのだろう。
 けれど天候はあいにくの曇り空。その燦々と輝く姿は雲に覆い隠され、拝むことは叶わない。
 そんな薄暗さを覚える昼の風景であったが、そのことに今はとてもありがたさを感じていた。


「さて、ある程度対策も練ったことですし、次は実践練習の方に行ってみましょうか!」


 私たちは今、4人揃って白玉楼の上空で向かい合って浮いている。
 午前中の話し合いは、まあ色々とゴタゴタもあったものの納得のいく結論を出すことができた。
 そんなインドアな午前とは打って変わり、午後からは実際に弾幕を放っての弾幕避けの練習を行うこととした。
 昼食をみんなで食べ、休憩を取って胃を落ち着かせてから、こうしてみんなで外に出た次第である。
 ちなみにおふたりの昼食は幽々子さまの分で賄うことができ以下略。


「攻守の"攻"についてはなんとかまとまりましたが、それもしっかり"守"が成ってこそです」

「そうよね。いくら秘策があったって、肝心の実力が伴わなきゃ使う前にぴちゅーん、よね」


 私の言葉に霊夢さんが、超珍しく余計な一言二言つけず素直に頷いた。毎日こうだとありがたいんだけどなぁ……。

 チルノの弾幕については、後日研究を重ね、それに応じた避け方、対策などを予習するつもりである。
 けれども知識だけで避けられるほど、弾幕戦は甘いものではない。
 数多くの経験があってこそ、初めて怒濤の弾幕の嵐を避けられるようになるのだ。
 一の情報よりも十の実戦である。
 少なくとも、ここにいる3名はチルノなんかよりも数段上の実力を持っている。
 その中で練習すれば、ルーミアさんの弾幕避けの実力は、チルノと戦うには不足ないものとなってくれるはず。

 とはいえ、道場では弾幕戦を行うには狭すぎるし、ヘタしたら壊してしまう危険もある訳で。
 そしてそれを片づけたり修理したりするのは他でもないこの私なのだ。みすみす自分の仕事を増やすようなマネ、誰が好んでやろうものか。

 なので、この曇り空は本当にツイている。日の光が苦手なルーミアさんにとっては絶好の修行日和。
 出だしからこれとは幸先が良い。曇り空に縁起の良さを感じるなんて、ちょっと不思議な気持ちではあるけれど。

 ルーミアさん的には、これでもまだまだ眩しいみたいだけど、
 永琳さん特製日焼け止めクリームを塗って、サングラスと帽子被れば、このくらいの日の光なら昼間でも活動ができるみたい。

 今回のルーミアさんは、前回みたいなサングラス笠地蔵状態ではない。
 あのエキセントリックな組み合わせはファッション的にもアレだったので、今回は物置から掘り出した麦わら帽子をかぶっている。
 サングラスが可愛い系のルーミアさんにはちょっと不釣り合いな気がしたけど、麦わら帽子のお陰で前よりはカジュアルになってくれている。
 うん、可愛い。


「ルーミアさん、昨日の今日ですが、お身体の方は大丈夫ですか?」

「ん。大丈夫」


 修行を始める前に、彼女の身を案じて問い掛ける。
 ルーミアさんは昨日、チルノの弾幕にこっぴどくやられていた。だから、まだ体が癒えていないというなら無理はさせられないと思ったから。
 けれどそんな心配はないと、彼女は頷いて答えてくれた。
 やっぱり可愛くても妖怪、肉体的には相当頑丈にできているらしい。
 木刀で頭ぶん殴って地面に叩きつけても死ななかったくらいだしね。あん時は本当にごめんなさい。


「それより早くっ! 早く始めよっ!」

「え? ええ……」


 むしろ、ルーミアさんの方が打倒チルノの想いで燃え上っているみたいで、私の方こそその気合いに圧されそうになる。
 あんなに打ちひしがれていたのに、この変わりよう……。
 ……やっぱり、ご褒美が効いているのだろうか……?


「…………」


 ……そ、それってつまり……それだけ私の"ご褒美"を……期待してるって、ことで……


    ボフッ!


 顔が煙吹いた。


「まったく、そこの半人半霊半レズさんはなにを考えてるのやら」


 私の煙吹く様子を眺めて、霊夢さんがいつもながらの言い回しでつついてくる……。
 ううう……完全に考えを読み取られている。
 もう私の心の内なんか完全に把握済み……霊夢さんはもう立派に幽々子さま2号ですよ……。


「なぁに、妖夢またオーバーヒート? 本当にヘタレねぇ」


 そして本物幽々子さまも同じく鋭く私の心をお読みになさる。あとサラッとヘタレとか言いやがった。
 どーせ私はヘタれですよー。いじられキャラですよー。


「……? よーむちゃん、どーしたの?」


 一方、私を戸惑わせた当のご本人さんは、良く分かってない感じで私の様子を眺めては、可愛らしく首を傾げていた。
 ルーミアさん……あなたの純粋さは、ほんと罪作りなほど最強の矛ですよ……。


「あー、もうっ! いいから始めますよっ!!」

「おー!」

「「はいはい」」


 いまだ考えのまとまらない自分の気持ちから逃げるように、真っ赤な顔で強引に話を進める私。
 その心の内にまるで気づかないルーミアさんは無邪気に元気良く、
 まるっとお見通しな幽々子さまーズはしょうがないといった感じで、それぞれ声を揃えて従ってくれるのだった。


















「ではまず、私が弾幕を放ってみますので、それを避けてみましょう」

「うん!」


 幽々子さま、霊夢さんから距離を取った位置で向かい合う私とルーミアさん。
 ルーミアさんは、幽々子さまから貰った木刀を片手に元気良く頷いてくれた。
 まずは私とのスペルカード戦。
 ただ弾幕を避けるだけではなく、まだ不慣れであろう弾幕と剣術の両方を同時に扱う練習も行う。
 また、これはルーミアさんの弾幕避けの実力を計る目的もあった。

 正直、ルーミアさんの弾幕避けの実力が如何ほどのものか、私はまだ理解していない。
 今まで戦う必要なんてなかったから、そんなの見る機会なんてなかったし……むしろ幽々子さまと仲良く囲んでいたくらいだもの。
 だからその実力の程を把握する良い機会でもある。
 実力を把握して、レベルに合った弾幕で慣らすというのも、今後必要になってくると思うし。


「早速ハニーのお相手? 愛しさのあまり手ぇ抜き過ぎるんじゃないわよ〜」

「うっさいだまれ脇」


 霊夢さんの冷やかしを撥ね退けて、私は1枚のスペルカードを手に取った。


「練習とはいえスペルカード戦です。もし乗り切ることができたら、ルーミアさんにはこのカード差し上げますので。頑張ってください」

「おおーっ! わたし、がんばるっ!」

「頼もしい返事です」


 カードを前に目を輝かせ意気込むルーミアさんに、私はつい顔を綻ばせてしまう。
 仮にもこれから手合わせする相手だというのに、こんな風に優しい気持ちで向き合うなんて……ああ、いけないいけない……。
 相手が誰であろうと、立ち会う時は気持ちを引き締め、真剣に。
 それが相手に対する礼儀となる。お師匠様からそう教わったではないか。
 だというのにこの気の抜けよう……お師匠様が見てたら、きっと気合いが足りないと叱咤されただろうな。

 私はキリリと顔を引き締め、ルーミアさんを見据えた。
 習いたてとはいえルーミアさんも剣を手に取っている。
 今だけは、大切に想う気持ちを切り離し、乾坤一擲、全力で向かい合おう。
 それが剣士として相対する者への礼儀だから。


「行きます!」

「いっくぞー」












    六道剣「一念無量劫 -Lunatic-」






    ぴちゅーんっ!












「このおばかー!!」


 幽々子おねえちゃんに怒られた……。


「なにいきなり全力全開で行ってるのよ!? ルナティックレベルでスペルカードぶちかしてるんじゃないわよ!」


 スパーンッ、と幽々子さま愛用の扇子が綺麗に私の脳天に唸る。
 ルーミアさんを即行で地面に墜落させたことを、幽々子さまは執拗に責めてくるのだった。


「わ、私はただ、全力で頑張ろうとしてるルーミアさんに、こちらも全力で応えないと失礼かなー……と思いまして……!」

「やー、1面ボスで弱っちいルーミアに、いきなり最強ルナティックレベルのスペカはキツいでしょう……」

「う……」

「まったく……本当に融通が利かないんだから……」

「うう……」


 申し開きのひとつでもしてみるも、霊夢さん、幽々子さまからそれぞれの指摘にさすがに弱る。
 いきなり撃墜してしまったルーミアさんだったけど、なんとか私たちと同じ高さまで浮かび戻ってきたてくれた。
 けれどその姿はふらふらと頼りない……。
 むぅ……確かに、ちょっと思いっきりやり過ぎてしまったかもしれない。


「だ、大丈夫……ですか……?」

「だいじょうぶ……。だいじょうぶだから……続けよ……」


 多少頼りなさ気ではあったけれど、続行の意思を返してくださるルーミアさん。
 よっぽど"ご褒美"が効いているのかな……?
 ふらふらしながらもやる気を見せるルーミアさんに、嬉しいような恥ずかしいようなそんな気持ちを感じつつ、同時に申し訳ない気持ちに浸る。


「今度は手加減しなさいよー」

「分かってますよ」


 もう一度距離を取って向かい合う私たちに、幽々子さまは先ほど私に一撃くらわした扇子を高く掲げ振り回しながら言った。

 幽々子さまのおっしゃる通りだ……いくら全力で向き合うとはいえ、これは勝負ではなく稽古。
 そうだ、私は本分を忘れていた。
 私は多少の手心を心がけ、今一度スペルカードを手に取った。


「行きますよ」

「う、うん!」












    六道剣「一念無量劫 -Hard-」






    ぴちゅーんっ!












「このおばかー!!」


 幽々子おねえちゃんにまた怒られた……。


「ちょっとって本当にちょっとだけしか手加減してないじゃないっ!?
 ハードレベルのスペルカードなんて、入門者にはまだまだいばら道じゃないのーっ!?」


 スパーンッスパーンッ、と愛用の扇子が綺麗に私の脳天に唸る。しかも2回も。
 う、うーん……手加減ってむつかしい……。


「この調子じゃあこの半レズ、次はノーマルレベルで愛しのルーミア撃ち落とすわね。弾幕的な意味で」

「イージーよ! イージーレベルでお相手し上げなさい! 徐々にステップアップよ! 恋も仕事も、一歩一歩ステップアップ!」

「は、はい……」


 幽々子さまーズに叱られ、自分の融通の利かなさをつくづく実感し反省。
 しかし幽々子さま、徐々にステップアップと主張なさるあなた様は、
 私とルーミアさんの関係を一足飛びどころか月までぶっ飛ぶ勢いで超接近させた張本人ですよね?
 お陰で私たち、女の子同士の一線越えちゃってるんですよ? ちゅーしちゃったんですよ?
 なんとも調子良いこと言ってるなぁと思うのですが……。


「ルーミアさん、もう一度行けますか……?」

「う……うん……」


 もう一度ふらふら飛んでと戻ってきたルーミアさんと向かい合って、申し訳なさが更に加速する私。
 そっか、スペルカードがいけないんだな。
 そう考え、私は今度はスペルカードを取り出さないまま、普通に通常弾幕を放ち始める。


「せーのっ」


 カード宣言しない分、不意打ちになってしまってはいけないと思い、
 合図のように掛け声を掛けてから、両手に持った楼観剣、白楼剣の二刀を振るい弾幕を展開。
 もちろん今度こそは手心を加えに加え、イージーレベ


    ぴちゅーんっ!






「このおばかー!!」


 幽々子おねえちゃんまたおこった……。


「なんですか?! 今度はちゃんとイージーで通常弾幕で対応しましたよ!?」

「あなたの通常弾幕はスペルカードよりも極悪なのよッ!」


 えー、じゃあ私はどうすれとー?


「ううう〜……黄色いのと緑の弾が両側から〜……」


 サングラスの向こうの瞳をぐるぐる回す満身創痍なルーミアさん。
 地面で両手を広げながら仰向けになって、これまた立派な「聖者は十字架に磔にされました」よろしくに倒れているのでした……。












 

コンテニュー?

あと3回

はい

いいえ






















 一度休憩を取ってから、もう一度白玉楼の上空に4人揃って空を飛ぶ。
 私は、今度はルーミアさんと向かい合う形ではなく、傍から眺める形で、彼女の姿を眺めていた。
 先程、私が居た立ち位置には……今は幽々子さまが佇んでいらっしゃる。


「妖夢だとやりすぎるからダメね。今度は私がやるわ!」


 と、幽々子さまが意気揚々、選手交替することとなった。なったのだが……













    桜符「完全なる墨染の桜 -封印-」






    ぴちゅーんっ!












「人には手加減って言っておいて自分はなに本気出してるんですかーーーっ!?」


 目まぐるしい弾幕の前に、悲鳴を上げる間もなく1度目の撃墜を喫するルーミアさんを目の当たりにして私が叫んだ。
 幽々子さま、あなたの言ってることとやってることの違うと様子にゃ、わたしゃは訴えのひとつでもせんと気が済まないのですが。
 主人に対して無礼と知りつつ半ば怒り心頭に発しちゃう私に、幽々子さまはいたってのんびりゆったりと、


「え〜、手加減してるわよ〜。私のはしっかりイージーモードだもの〜。
 しかもハードル下げるため、色々ぶっ飛ばして1本勝負でお相手してるじゃな〜い」


 と、ご主張。
 しながらも、幽々子さまの背面には本気の証のでっかい扇子が見事に広がっておられる。


「あーん、当たっちゃう当たっちゃう〜。助けてたーすーけー……」



   ぴちゅーんっ!



 とりあえず死地に戻ってきたルーミアさんだったが、半分泣きながらショットを撃つことも忘れて逃げに徹するも、そのまま2度目の撃墜……。
 幽々子さま……あなたは仮にもラスボスなんですよ……?
 そんなんイージーモードでも相当極悪な難易度だと私は思うんですけど……。

 主人の鬼畜のような所業に、助けの手を差し伸べたくなる私だったが……ごめんなさいルーミアさん、これはルーミアさんの修行。
 私が中に飛び込んで颯爽と助けに行ってしまっては意味がないのです。
 本当はそうしたかった。もーね、彼女の側にいて、あの笑顔を、その輝きを守り続けてあげたかったのですよ。
 けれどこれは、私の問題じゃあない。
 ルーミアさんが憎きチルノに打ち勝つための修行を、私のワガママでダメにしちゃう訳にもいかない。
 もどかしくとも、蹂躙されてゆく私の大切な人を前にして、私にはその姿をただ耐え忍んで眺めるしかできなかったです。

 けどまあ……アドバイスぐらいは良いだろう。
 そう思って、私はルーミアさんへと声を掛けた。


「ルーミアさん! 落ち着いて! 集中してよく見てください!」

「えっ!? しゅっ、しゅうちゅうっ……!?」

「集中したら弾が遅く見えるはずですから!!」

「集中、集中……あっ、見えた! ……かも……」

「おおっ! その意気ですっ!」

「けどスキマがなーいっ?!」



    ぴちゅーんっ!



「ああっ!?」


 私のアドバイスも虚しく、ルーミアさんは撃墜された。
 3度目の撃墜。練習再開から間もなく、残機が全て打ち止め……早くも次のコンテニューが必要となってしまったか……。


「あーらら」


 脇でその様子を眺めていた脇の巫女は、なんともまあ他人事のように軽〜い口調で呟いた。
 そりゃあ霊夢さんにとっっちゃーどうでもいい事かもしれないけれど、真剣にやっているルーミアさんにちょっと失礼じゃあないですか?
 私がルーミアさんに好意を寄せているのを差し引いたとしても、ちょっとは文句のつけたくもなるのだけど……

 それよりもルーミアさんのことが気にかかる。
 なにもできないままコンテニュー使用……これは、若干のトラウマになるなぁ……。
 まだ精神的に未成熟なルーミアさんにはちとキビしいのだろう。
 それで心が折れたりなんかしなければ良いのだけど……







 

コンテニュー?

あと2回

はい

いいえ










 ああっ!? やっぱりちょっと心が折れて「いいえ」を選びかけてるっ!?
 ほらっ、幽々子さまだってやり過ぎなんじゃないですか!!


「ルーミアさん頑張ってくださいっ! 最初はみんなそんなもんですからっ!」


 しかし、撃沈したルーミアさんにリザレクションの兆しはない。
 まずい……本格的に屈しかけている……。
 あーもうっ! 幽々子さまの方が私なんかよりよっぽど酷いじゃないかっ……!

 これじゃあ折角の修行が……なんとかして奮起してもらわなくては……。
 けどなんて言ったら良い?
 ええっと……ええっと……、……ええい、もうっ!



「が、頑張るルーミアさんって素敵だと思いますよ!」









 

コンテニュー?

あと2回

 
はい
ピッ

いいえ










 

「が、がんばる……」


 あ、良かった。やる気を取り戻してくれたみたいだ。


「ふーん、やっぱ好きな人の前では良いトコ見せたいものなのかしらね〜」


 霊夢さんが、自前のジト目でニヤニヤ見つめながら冷やかしてきた……。
 う、うっさいなっ! 別にそういうつもりなんかなかったですよっ!
 なかったんだけど……まあ、やる気を取り戻してくれたんだから、なんでも良いか。


「その意気やよし! さあ、ルーミアちゃん! どんどん行くわよ!」

「う、うん……。……って、きゃーッッ!? だめーっっ!?」


 ……とはいえ、状況は全然好転していなくて。
 ルーミアさんの復活後間もなく、幽々子さまの弾幕はあっという間にルーミアさんを取り囲み。



    ぴちゅーんっ!



 再び、即、撃墜された。
 幽々子さまも手加減知らずじゃないですか……っていうか、これで手加減してるんですよね。
 幽々子さまの弾幕は相変わらず狙いもクソもあったもんじゃないけど、物量で責めるから本当に鬼だ。……あ、亡霊でしたね。



「あーん!? また囲まれたー! 当たっちゃうー?!」

「ああ!?」


 そうこうやってる間に、幽々子さまの弾幕はまたもルーミアさんを取り囲んでいた。
 ルーミアさん! ……彼女の身を案じ、私が名前を叫ぼうとする、その時だった。


「ボムよ! 使いなさい!」


 脇から声が上がった。


「え? う、うん……」


 ルーミアさんは声に頷きながらカードを取り出し、そして宣言する。





    闇符「ディマーケイション」





「えーい!」


 カード宣言と共に、ルーミアさんは弾幕を周囲に放つ。
 そして、ルーミアさんを取り囲んでいた幽々子さまの弾幕が、その姿を消した。


「……お、おおー」


 取り囲んでいた弾幕が消えたことに、他の誰でもないルーミアさん自身が感心していた。
 けれど、さすがはラスボスの攻防。
 次々と湧きあがる幽々子さまの弾幕は、ほんのちょっと時間が経てば、またすぐにルーミアさんを取り囲んでしまった。
 ルーミアさんは、またも余裕をなくして慌て始める。


「あわわわ?!?!」

「ほら、ボム! 当たるくらいならまずは無駄になってでも使う!!
 気合いで避けるのはボムがなくなってから考えなさい! 抱えて落ちる方がまずいわよ!」


 霊夢さんは、先ほどと同じようにアドバイスを送っていた。
 声に気づき、ルーミアさんはまたカードを取り出して、今一度スペルカードを使った。


「でぃ、ディマーケイション〜!!」


 慌てて頼りない宣言をしながらも、放ったカードアタックにて、先程と同じく幽々子さまの弾幕を打ち消す。
 すごい……ルーミアさんは辛うじてながらも、なんとか幽々子さまのイージー鬼畜弾幕に食らいついている……。

 いや、それよりも……。


「いい!? いくら弾幕が多くたって、影響があるのは身の回りのごくわずかよ!
 幽々子が背後に放ってる弾幕なんてまったく無意味でしょ?! 濃度に騙されない!」

「う、うん……」

「それとショットは常に撃ち続ける! 敵の立ち位置に軸を合わせるのは相手の弾幕を見極めて安全を確保してからよ!」


 私は、ルーミアさんにのみ向けていた視線を、ルーミアさんと私の脇に居る人物へと交互に向けていた。

 ルーミアさんは、霊夢さんの言葉に従って……あの弾幕の中を食らいついている。
 それはそんなに上手じゃないにしても、おろおろしているだけのさっきまでとは雲泥の差。


「弾は動きを見極めてから! 自分に向かってくる弾とかは、動き出して方向が固まれば基本軌道を変えないわ!
 動き出したのを確認してから、ちょっとだけ横に動いて避けなさい! チョン避けよ、チョン避け!」

「チョン避……きゃーっ!?」


    ぴちゅーんっ!


「ああもうっ! 抱え落ちした!
 遅い弾はぎりぎりまで引きつけて見極めなさい! 0.1秒で弾幕事情はあっという間に変わる!
 完全封鎖の状態も、ちょっと後には新たな突破口ができているなんて良くあるわ!
 最後まで諦めない! さっきは諦めたからスキマがなかったのよ!」

「そ、そんなこといったってぇ〜……」

「ほら! 両サイドから挟み込んでくる弾の場合は、まず片方を避けることに集中して、その後に反対サイドを対処するのがコツよ!
 ……ん? なによ……? なんか言いたいことでもあるの?」


 次々と指示を送る姿に感心して、気がつけばずっとこの人の方を眺めていた。
 その私の視線に気づいた脇の巫女が、居心地悪そうに言い返す。
 別に悪意から見てた訳じゃないのだが……また私が文句でも言うのだろうと身構えて、いやそうな顔を向けてきた。


「いえ……さすが、よく分かっていると思いまして……」

「あん?」


 そうだ……いっつも面倒くさそうにしてはいるものの、
 この人は数多くの弾幕戦を潜り抜け、数々の異変を解決してきた百戦錬磨の博麗の巫女なのだ。
 当たり前の話、頼りにならない訳がない……。


「なぁに? 愛しのお姫様に、王子様自らアドバイスしたかった?」


 ……人のことこうやってバカにしなければもっと良いんだけど……。


「ま、否定はしませんよ。私自らルーミアさんにお教えしたかったのは本当ですし……。でも……」


 私では気づかなかったことを、この人はしっかりとルーミアさんに伝えくれた。
 私では上手く伝えられないことも、この人はいとも容易く言葉にして伝えてくれた。


「私じゃ力不足で……霊夢さんの方が、断然良い指導役ができて……。純粋に、悔しいなぁ、って……」


 自身が劣ることは、素直に認めねばならない。さらに先に成長したいのなら。
 普段負けたくない相手だからこそ、今は自分よりも高みに居るのだと認めなくては……。


「大丈夫よ。あの宵闇っ子には、あんたじゃなきゃ満たせないことがあるからね」


 少しだけ、落ち込んだ表情を浮かべてしまったのだろうか。
 霊夢さんは少し面倒くさそうな面持ちのままではあったものの、そんな私に、珍しく励ますような言葉を掛けてくださった。


「そうでしょうか……?」


 そう言ってくれるのは確かに嬉しい。
 けれど、いまいち実感が持てない。
 今回のことについて私ができたことって……なにもないんじゃあないかって。
 秘策についてだって……そんな大したことじゃあないし……。


「あいつが特訓してるってのが証拠じゃない」

「え?」

「あんたが勝たせてあげるって言ったから、今頑張ってるんでしょ?」

「……っ!」


 ああ……そうか。
 私は、彼女に約束したんだった。
 あなたを、勝利に導くと。
 その言葉に、私は忘れかけていた誓いを思い出す。


「そんで、ご褒美目当てで頑張ってるんでしょ? あー、気持ち悪い」

「…………」


 その言葉に、私は忘れかけていた……もとい、忘れたことにして逃避しようとしていたことを思い出す。
 思い出して、顔を真っ赤にさせた。
 うー……ご褒美ほんとどうしよう……。


「どっちにしたって、あんたが居なくちゃこんな面倒なことは始まらなかったし、あいつがやる気を起こすこともなかったわよ。
 ……ったく、らぶらぶな相手を見つけるのは良いけど、ちゃんと男を選びなさいよ?」

「ははは……すみません」


 痛いところを突かれて、私は空笑いを浮かべるしかない。別に謝る必要はなかったと思うんだけど、なんとなく謝ってしまった。

 けれど……いつも通りの憎まれ口を叩きながらも、それがこの巫女なりの励ましだというのは、痛いほど理解できた。
 まったく……本当に悔しい。この人なんかに、励まされるなんて……。

 丁度それと重なるタイミングで、ルーミアさんと幽々子さまの居る方角から連続して爆発するような音が聞こえてくる。
 私たちは、ルーミアさんと幽々子さまが弾幕を交える空間へと目を向けた。


「ふふっ、よくやったわ……。おめでとうルーミアちゃん……」

「はぁ……、はぁ……、ふぇ……? ゆゆ、ちゃん……?」


 息も絶え絶えなルーミアさんに、幽々子さまは優しいお顔で微笑みながら、体中から光を放って小さな爆発をくり返している。
 それは、幽々子さまを撃墜した時の演出で……いやまあなんで爆発するのって思うところはあるんだけど……。
 とにかくそれは幽々子さま自ら、自身を打ち破ったということを認めているという証でもあった。
 幽々子さまは、ルーミアさんへ讃える言葉を優しく投げ掛けて……






    どんどんどんどん! ぼしゅーん!






 そして……(演出なのか本気なのか分からないけれど)大きく爆発を起こし、そのお姿を消した……。


「え、と……?」

「すごいじゃないですか!? 幽々子さまのスペルカードを突破するなんて!」

「とっぱ……できたの?」

「ええ!」


 いまだに状況を理解できてないルーミアさんに私が伝えると、ようやくそのことを実感したみたいに、疲弊した顔に笑顔を弾けさせた。


「えへへ……もうボムも残機もないけど……わたし、なんとか……」

「おめでとうございます!」

「ま、始めはそんなもんよ」


 私に続いて、霊夢さんもルーミアさんに労いのお言葉を掛ける。
 ……今日は妙に優しいな。なにか悪いものでも食ったのだろうか?
 桜もちには、仕込みたいと思ったけど結局あきらめたから毒物の混入はしなかったはずなのに……。


「よーむちゃん……よーむちゃんのお陰、だよ……。えへー……」


 へろへろになりながらも、本当に嬉しそうに笑顔を浮かべて私たちの方にゆっくりと戻ってくるルーミアさん。

 何度もボムを使用し、コンテニューを使うほど撃墜もされてるから、幽々子さまの今のスペルカードを受け取ることはできない。
 それでも、ラスボスの弾幕を潜り抜けられたという実績は、ルーミアさんにとっては大きな自信に繋がるはず。
 厳密な意味での突破ではないにしろ、その自信を持って、これから訪れる本当の戦いに臨んで欲しい。


「あーあ、ばからし。どんなに私が頑張ったって、全部あんたの手柄になっちゃうんだもの、やってられないわよ」

「あ」


 私が感動に打ち震える脇で……霊夢さんがひとりごちた。

 本当だ……これは霊夢さんのアドバイスの賜物で、私は助言とはとても言えない助言しかしていない。
 なのに評価されるのは私だけなんて……それは嬉しいような、申し訳ないような、複雑な心境。
 感動にばかり目が行って、気づかなかったけど……そんなの、間違ってるに決まってる。


「すみません、あとでお礼を言うように言っておきますので」

「いらないわよ。代わりにノンカロリー冥界菓子寄こしなさい。可愛い彼女にいいカッコした手柄譲ってあげる代金ってことで」

「あははっ……分かりました」


 素っ気なく返すけど……それでも、ほんのちょっぴり口元を緩めてる気がした。
 申し訳なく思うけれど、その行為に甘えさせて貰おう。きっと、霊夢さんもそうしてくれた方が良いと思ったから。
 さすがに、お代の冥界菓子は私のおこづかいから用意しておこう。
 いつもおかしは白玉楼の経費から買ってるのだけれど……今回は、私個人の問題なところでもあるしね……。
















 

身のうさを思ひしらでややみなまし
      そむくならひのなき世なりせば












「……はぇ?」

「……ん?」


















    「反魂蝶 -一分咲-」

















「やー!? なんかきたーっっ!?」

「なんか出たーっっ?!」

「あらら、なんか咲いたわね」


 突然和歌が歌われたと思ったら、スペルカード発動の際のジャーン!という効果音と共に、
 BGMに例の躍動感と焦燥感の溢れる激しいピアノソロのイントロが走り、そんで幽々子さまのシルエットが薄っすら浮かび上がる……!

 ……私はそこで、幽々子さまが「色々ぶっ飛ばして1本勝負ラストの1ゲージ分」と仰った言葉の意味とトリックに、ようやく気づく。

 撃墜したと安心したところに、よく見ると体力ゲージがあとわずか1ドット残ってる状態で発現する、幽々子さまの最終最後の難関「反魂蝶」。
 もう……あんまり使わないでって言ったのに……。

 初見さんが逃げ切れるとは到底思えないそのラストを飾るに相応しい幽雅な弾幕に、
 ボムも残機も尽きた状態で挑むことを余儀なくされたルーミアさんへ、私はただただ念仏を唱えるしかな






    ぴちゅーんっ!













 

コンテニュー?

あと1回

はい

いいえ






















「うぅー……」

「大丈夫ですか……?」


 既に満身創痍なルーミアさんの身を案じ、声を掛けた。
 身なりこそボロボロだけど……それでも、ルーミアさんまだ立ち上がってくれた。
 その不屈な姿は、至極誇らしい姿だと思 っ……


「……あんまりだいじょうぶじゃない…………」

「「…………」」


 やり過ぎちゃったみたいです。


「ほら、幽々子さまが手加減しないから……。ひどいおねえちゃんもいたものですね」

「ちゃんとしたわよ。イージーモードよ。妖夢なんかルナティックで全力全開で屈服させたじゃない」

「どっちもどんぐりの背比べじゃないの」


 責任をなすり付け合う私と幽々子さまに向けて、平等な立場の博麗神社の巫女さんからツッコミが入った。
 確かに……どっちが悪いとかじゃなく、やり過ぎちゃったのは事実か……。
 ルーミアさんの様子を伺ってみる……とりえあず立ち上がってはくれたけど、軽くげっそり青ざめている。
 練習を始める前のやる気に満ちた姿は見る影もない……。
 まずいな……このままじゃあ、今後の特訓にも差し支えるよ……。
 同じくルーミアさんの様子を眺めた幽々子さまも、その様子を見て由々しさを感じておられた。


「仕方ないわね……妖夢、ちょっといい……? ……ごにょごにょごにょ……」


 そう言って、私に軽く耳打ちをしてくる幽々子さま。
 お言葉を聞き届け……私は軽く顔を歪めるのだけど……まあ背に腹は代えられないというか、さっきすでにやっちゃったし……。
 私は顔を赤らめながら、ルーミアさんに向き合った。


「る、ルーミアさん……!」

「なに……?」

「立ち向かうルーミアさんって、かっこいいですよ!」


 ルーミアさんの青ざめていた顔が、一気に真っ赤に変わった。


「つ、次! 早く次いこっ! 次っ!」


 満身創痍の体で「がんばるぞー!」と強く可愛く意気込み、気合を入れ直すルーミアさんなのでした。
 ちょっと卑怯な気がしなくもないけど……とりあえず、これで特訓をドロップアウトするなんてことはないだろう。
 まあ……効果てきめん過ぎて……ちょっと恥ずかしいけど……。


「では……折角ですし霊夢さん、次、お願いできますか?」

「は?」

「折角いらしているのですし。今は色んな弾幕に馴らしておきたいんですよ」


 まあ、やる気を取り戻せたとはいえ、ルーミアさんのお身体はもうボロボロ。
 いくら妖怪の身体で頑丈とはいえ、こうも矢継ぎ早に痛めつけられてはアッという間にガタが来る。
 まあ、できてあと1回ってところだろう。コンテニュー回数もう残ってないしね。
 だったら、違う誰かの弾幕を体験した方が、きっと勉強にはなるはずだ。


「頼みます。お菓子、ちゃんと差し上げますから」

「はぁ……ま、しょうがないわね……」


 霊夢さんは面倒くさそうに溜め息を吐きしながらも、ルーミアさんの手を取り、私たちとの距離を取った。
 なんだかんだ言いながら、しっかり付き合ってくれるみたいだ。

 私は霊夢さんのことを誤解していた……まあ、誤解でもないか、いやな面があるってとこは。
 けど、それを補って認められる面があることも見せて貰った。
 豊富な弾幕の知識に経験値、そして世話焼きなところや……本当は、すごく頼りになるってこと。

 果たして、百戦錬磨の博麗の巫女は一体どんな弾幕で指南してくれるのか……私自身の学習のために拝ませて






    「夢想転生」






    ぴちゅーんっ!







「いきなりラストワードとか使うなーっ!! ラストスペルなんかよりも断然強烈なラストワードなんて使うなァーッッ!!」


 大事なことなので2回ツッコミました。


「えー、だって面倒なんだもの。とっとと落してとっとと終わらせようかなー、って……」


 私たちが放った弾幕なんてメじゃないくらい全力全開のおびただしい量の弾幕を放ちながら、のほほん自分勝手なことを口走りやがる霊夢脇。



    ぴちゅーんっ!



 とか言いながら、幽々子さまもびっくりな速度で2機目を刈り取る。ディゾルブスペルがないから普通に続行。あと1機しか残ってないけど。

 なんという……なんという鬼畜の所業……!
 どんぐりの背比べだった私と幽々子さまと比べても、練習させる気など毛頭ない鬼畜弾幕……。
 このどんぐりはただのどんぐりじゃねぇ……どんぐりの皮を被った脇だ!!(←現在よーむちゃんはあまりの出来事に混乱しております

 前言撤回、この人はいつまで経っても私の天敵みたいだ……。




    ぴちゅーんっ!

















 

あなたの腕前

最終得点 89006802
難易度 EASY
ゲーム進行率 59.78%
コンテニュー回数
ミス回数
ボム使用回数
スペルカードボーナス回数
処理落ち率 0.68%









 

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コンテニューしている為、
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更新履歴

H21・8/12:完成


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