「どうしたの!? 時間には結構厳しい妖夢が、今日はこの時間になってもお茶すすってるなんて……!?」

「え!?」


 ルーミアさんが降ってきた翌日の昼過ぎ。
 幽々子さまが、まるで幽霊でも見たように目を見開いた表情で私に聞いた。
 ……っていうか幽霊いっぱいの冥界でその表現は間違いでした。
 訂正します、「幽霊でも見たかのよう」、改め、「生きてる人間でも見たかのよう」な驚いた表情をなされていた。
 ……しまった、私半人半霊だから半分だけそのままだ!


「なにかあったの?」


 おっと、そんな細かいことはどうでも良かったです。
 ともかく幽々子さまは大変驚いておられた。
 私は、そのことに別になんでもないと返事を返す。


「そんなことありませんみょ」

「"みょ"!?」


 噛んだ。






 

みょんミア

二、どきどきはとつぜんに







「あっはっはっ、幽々子さまはまたみょんなことを仰るでござるな〜」

「あなた言ってることがみょんよ……」


 おかしい、と私を追求し続ける幽々子さま。
 最初こそ何気なく聞いていた幽々子さまだったが、今では私を怪しむかのように、しきりに質問をくり返していた。
 ……うーん。いつも通り平常心をもって会話してるつもりだが、微妙に口が回ってないのかにゃ。


「おかしいおかしいと申しますが、拙者、なにかおかしなことでも?」

「まず喋り方がおかしい」


 なんだってー!?


「自称がおかしい、口調がおかしい、口癖が増えてる、声のトーンが若干上がってる、ビブラートも若干入ってる、目が泳いでる、」


 おかしくないと主張する私を、幽々子さまは手に持った扇子を畳み、私に向けながら、数多くの状況証拠を突きつけた。
 ……え? これなんて「冥探偵ユユコ」?


「それに……いつもだったらもう練習始めてるでしょ? ほら」


 言って、幽々子さまの扇子の先が、今度は壁に掛かっている時計の方を向く。時刻は3時半。
 そしてなぜ冥界や幻想郷に時計があるとか言う野暮なツッコミはなしです。色々適当なのだ、幻想郷は。


「えっと……それはー……」


 幽々子さまの仰る通り。
 特別なことでもない限り、私はいつもこのくらいの時間に夕方の稽古を始めていた。
 確かに……今日はわざと、開始時間を遅らせているのだが……。


「気分です」

「気まぐれって言いたいのね?」

「Yes I am!」


 私の返答に「やっぱりおかしい」などと、しきりに疑う幽々子さま。
 別になんでもないといえばなんでもない、本当に気まぐれなのだ。

 うーむ、しかし……まさか、ちょっと日課の時間帯を変えただけで、それが「異常」に感じられるほど自分が規則正しかったとは……。
 そこに気づいてもらえるのはきっと規則正しさを求めてきた人間にとって、今までの「規則正しい」を認められたことになるのだろう。
 けど、別に認められるためにやってる訳じゃないし、
 ついでに「崩れてから初めて気づかれる」という矛盾も孕んでいる以上、喜んで良いのやら微妙だ。


「なにかあったのね?」


 幽々子さまは、私が至って平然平静平々凡々日常茶飯事に対応返事反応を返しているのに、
 疑惑を確信に変えたように私を再び問い詰めた。


「……ないみょん」

「特別なことって言ったら……あの犬が来たことぐらいよね……」


 ない、と答えているにもかかわらず、幽々子さまは私の言葉も無視して思い当たる「特別」を探し始めてしまう。
 っていうかルーミアさん犬扱いで固定ですか?


「けど、お昼はあの犬寝てるし……夜なら分かるけど、お昼の妖夢に特別影響はないはずだし……」


 顎に手を当て、名探偵でも気取るようにそう呟く冥探偵ユユコ。
 しかし、言われたところで別に特別なことなんて……。


「…………」


 なんでもないといえば……それまでだけど。
 そんな些細な特別なら……きっと、あったんだ。
 あの無邪気な笑顔に、褒められたこと。
 眩しいくらいのあの純粋な姿が、私にとっては……すごく、特別な……。


「本当にないです! はい!」


 けど私は、それを幽々子さまに教えるつもりはなかった。
 なんとなく教えたくなかったし……それにこの方は私をからかうことを日課としているから!!
 ……バレたらきっと、相当にからかわれてしまうに違いない……。
 そもそもルーミアさんを寝泊りさせているのも、私をからかう材料と仰っていたくらいだ。


「ふーん」


 幽々子さまは、手に持った扇子をバッ! と広げ、口元に当てながらほんのちょっぴりニヤけた……気がした。
 まずいな……なにか良質のからかいネタが手に入った時の「ふーん」だ、今の。
 幽々子はやる時は相当できるお方だ。やらないだけで。
 だから、このまま質問攻めにされようものなら、私はきっとその内ボロを出してネタを提供してしまう!
 今はまだ出してないけど!!


(……なぁんて考えて、妖夢ったら自分のボロがボロボロ出てるの気づいてないんだろうなぁ)


 などと考えるお嬢様の思考は、私は全然気づけなかったりするみょん。

 とにかく、このままではマズい。
 いつも通りからかわれてしまうのがオチだ……。
 ならば……と、私は珍しく先手を打つことにした。


「幽々子さまには関係のないことです。……もっとも、私の剣の指南を受けるというのなら別ですが」

「ふーん」


 愛用の扇子の向こうから、またも「ふーん」と返す幽々子さま。
 その口元は、扇子から少しはみ出そうなくらいにニヤけ始めていて、そろそろ攻め時とか思ってたのだろう。
 けれど、一手早く間に合った。
 「でも……」と続けようとしていた幽々子さまの言葉が出る前に、すかさず早口でこう告ぐ。


「分かりました、その気があったら庭に来てください。
 道具の準備は私の方でしておきますので、
 幽々子さまのお姿をお庭で目撃した時点で問答無用に剣のご指南を始めさせていただこうと思います、では!」

「へ? あ……! 妖夢!?」


 反論の隙間も与えず、言うだけ言うと席を立つ。
 こう言っておけば、幽々子さまは稽古がイヤで庭には来ないはず。
 逃げるようではあったけれど、一度会話さえ断ち切れば、これ以上の追及は無理。
 時間さえあればきっと後はどうとでもなる。

 不意に、時計を見た。
 まだ3時半から少し時を進めただけ。目安にしていた4時には結構時間が空いている。
 本当は、ここでもうちょっと時間を稼いでから庭に向かおうと考えていたけど……仕方ない。
 物置で幽々子さまの木刀を探すついでに、片付けでもして時間を潰そう。












 物置から庭に向かう途中、通り過ぎた部屋を軽く眺め、部屋の時計で時刻を確認する。
 針は4時をちょっと過ぎた程度。予定よりも時間を潰してしまった。
 大体あんなトラップ卑怯だ。棒状のもの1本抜いただけでなんであんなあっさり崩れるかな?
 潰されたし、刺さるトコだったし、散々だったよ

 物置でホコリを被ってた幽々子さまの練習用の木刀。
 ホコリにまみれるだけならまだ良かった……ガラクタの下に埋れてて、なかなか見つからず、想像以上のトレジャーハンティング。
 見つけたら見つけたで、抜けばびっくりトラップ発動。
 どんがらがっしゃん、私はガラクタの雪崩に潰された……。
 どんだけ貴重な古代ナントカの秘宝だよと。
 命からがら脱出しては、物置いっぱいに散らばる惨状に眩暈を起こし、ササッと片して、この時間となってしまったのである。

 命懸けで手に入れた秘宝「ウッドソード・オブ・ユユコ」を眺めて、言い様もない気持ちが胸いっぱいに広がる。
 上に積み重ねられたガラクタの量が、その刀身に染み付いたホコリが、そのままこの秘宝の歴史となり刻まれている。
 幽々子さまがいかに剣から離れてたか見せ付けられて、ちょっと悲しい。
 そして、そこまで指南をさせられない自分が不甲斐なくなる。


「……はぁ」


 ため息を吐きながら、秘宝「ウッドソード・オブ・ユユコ」に向けていた視線を、私は太陽に移した。
 日は沈みかけ、昨日、鍛錬を終えた時と同じ程度の陰り方をしていた。
 ……まあ、このくらいなら、きっと彼女も部屋から出てきているだろう。
 そう考えながらいつも鍛錬場所に着くと……思った通り。
 庭と屋敷の境界にある縁の上で、黒い衣服と白い包帯をまとった見慣れぬ先客がぼうっと惚けていた。


「あ、よーむちゃん!」

「すみません、遅くなりました」


 私に気づき、顔いっぱいに笑顔を浮かべる彼女。
 別に待ち合わせをした訳ではないけれど、なんとなく待たせてしまったことを謝ってしまった。
 なんだか私は謝りっぱなしだ。


「今来たから居なくて……今日は練習おやすみかと思ってたよ」

「いえ、家のことを少々行っていたら遅くなってしまって……」


 ……別にうそはない。
 実際、物置の片付けという家のことを行っていた訳だし……。


「けどまあ……お陰で今日の稽古、最初から見せれますね」


 わざとタイミングをずらしたクセに調子の良いことを……なーんて思いながら私は言った。
 彼女は嬉しそうに感激の声とキラキラ輝く眼差しを私に向けてくれて。
 幽々子さまについての直前の落ち込みが、全て吹き飛んでくれる。
 ああ、良いなぁ。頼られるっていいなぁ、尊敬の眼差しって良いなぁ、らんらら〜ん。


「よーむちゃん、なにか良いことでもあったの?」

「えッ!? いや、別にッ……!?」


 ……うーむ、どうやら胸のわくわくが表情に出てしまったらしい。
 幽々子さまには、とてもじゃないけど教えられないな……。またからかわれる。

 まあ大丈夫でしょ。
 ガラクタ雪崩に潰された時、音を聞いて物置まで飛んできた幽々子さまが、
 「私が木刀を用意した」という、より強烈な「剣の練習しますよ」って誇示をしっかり目撃して下さったし。
 最後に庭に来るかもう一度質問した時も、幽々子さまはなにもお答えにならなかったし。
 うん、幽々子さまはもう庭には寄ってこないだろう。
 今回はそれで嬉しいけど、正直悲しいな。練習しましょうよ。

 まあ……不安が残るとすれば、物置を離れる前に見た、幽々子さまのあの表情……。
 あれはまるで「久しぶりに物置を掃除してみたら、懐かしい&珍しいものがあって目を輝かせる時の子どもの顔」さながら……。
 まさかとは思うが、私が離れた後に漁り始めてないだろうかと不安になる。
 今、私が慌てて急いで手抜きで片付けた物置の状況は、相当絶妙なバランスで荷物が積まれていて、少しでも触れようものなら……。


    どんがらがっしゃんっ!


 ……ああ、やっぱり漁ってたか。
 せめて崩れた荷物は片付けておいて欲しいけど、あのお嬢様がそんなことする訳もないので、
 これが終わったら改めて物置の整理という仕事が増えたことに、少し肩が重くなった。


「では、練習を始めますね。……と言っても大したことはしませんが」


 まあ後のことなど気にしても仕方ないと、私は気持ちを切り替え、目の前のルーミアさんに意識を向ける。


「それで構わないから、早く早く!」


 弾む口調と期待いっぱいの瞳が、私に向けられる。
 ぱちぱちぱち、軽快に手を叩く音が夕暮れ空に響いた。
 なんとなく、幽々子さまには見せたくない、ふたりだけのひみつのように感じた。



 そこから先は……静かだった。
 夕暮れ空に私の掛け声だけが響く、静かな、いつもの白玉楼だった……。
 いつもと違うことと言えば……音のない彼女の視線が、私にずっと向けられていたこと。
 くすぐったいようなその視線に……別にいやな気持ちはなく。
 少し照れくさかったが……むしろ心地良かった。

 言葉なんてない、静かな風景。
 ただ黙々と、私は剣を振るい、彼女がそれを眺めている。
 それだけなのに……今日の修行は、ずっと胸が弾みっぱなしだった……。


「はぁっ!」


 昨日と同じ一通りの型をこなし、最後に一際気合の入った掛け声を上げて振りぬく。
 今日の鍛錬はこれで終わり。
 誰かに見られている、という緊張感が神経を引き締めたのか、心なしかいつもより充実した成果を得られた気がした。

 私は、張り詰めていた気を緩め、腰の鞘に剣を収める。
 その様子を見て、終わりだと理解したルーミアさんは、昨日の終わりと今日の始まりと同じく、ぱちぱちぱちという拍手を響かせてくれた。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました〜」


 日課の通りに一礼をする。
 いつもはただ黙って礼をするだけなのだが、今日は見ていてくれた人が居る。
 剣の道とは礼を重んじ、試合などでもきちんと相手に礼を示すもの……
 ならば見ていただいた彼女にも敬意を表するのは当たり前ではないか?
 今日の一礼に限ってはそんな気持ちからだった。

 彼女も反応するように、同じ言葉を返してくれた。
 彼女の場合は、わざわざ鍛錬の様子を見せてくれたことへのお礼の気持ちからだろう。

 約束の通り修行の様子を見せて、大満足する彼女。
 眩しいくらいににこやかな笑顔で、私を褒め称えてくれた。


「よーむちゃん、カッコいいー」

「いえ、そんなことは……」


 昨日と同じ彼女の言葉に照れくさくなって、緩んだ頬を軽く掻いてしまう。
 口では謙虚にそんなことを言うが………………内心ゾクゾクしてた。


「痛っ……!?」


 不意に、痛みが走った。
 頬のなにかが引き剥がされたような、そんな痛み。
 掻いてはいたが、そんな強く引っ掻いたつもりはないのに……。
 不思議に思いながら指を見てみると、爪の間と指先にほんのわずかに、乾いた血の塊がついていた……。


「……傷? 一体どうして……?」


 思い当たる節なんて…………あ、さっき物置で潰された時か。
 あの時、拍子で切ってしまったのだろう。
 時間が経ち、固まった血が止血の役目をしてくれてたみたいだが……それと知らず、引っ掻いてしまったのだ。
 再び指で頬に触れてみる。
 思った通り、今度は液状の血が指についてきた。
 止血の役目を果たしていたそれをはがしてしまったため、塞がっていた傷から再び血がにじみ出てしまったみたいだ。
 ちょっと量が多い……できたて塞ぎたての傷だったからだろう。
 その傷には彼女も気づいたらしく、心配そうに私に訪ねてくれた。


「わ、大丈夫!?」

「大丈夫ですよ。このくらい、大したこと……」


    きゅるるるる……


 ありませんよ。
 そう続けようとする私だったが、その句が最後まで告げなかった。私の目の前から鳴り響いたお腹の音に断ち切られて。
 少しの間、場の空気が固まった。そこから更に少し間があってから、


「…………ぷっ」

「……ひゃぇっ!?」


 私は、つい笑ってしまった。
 音の主ははたと赤くなってしまった。
 別にいじめるつもりはなかったのだが……微笑ましくて、本当につい。
 夕日のせいで赤かった彼女の赤い顔が、より赤くなってる気がしたのは多分気のせいではないだろう。
 妖怪とはいえ、人並みの羞恥心は持っているようで、申し訳ないことをしてしまったかもしれない。


「もうすぐご飯ですからね」


 彼女をフォローするつもりで言った。
 ……不思議なことに、その言葉にはなんの反応も返って来なかった。
 というより、ルーミアさんの動きが完全に止まっていた。
 まるで、彼女の意識が別のことに向いているかのように……。
 不意に、目の前の彼女が、私のことをジッと凝視していたことに気づく。


「……人肉」


 一言、口にして、彼女の顔が私に近づいて……。


「…………え?」


 …………唐突だった。
 本当に唐突過ぎて……最初まるでなにが起こってるかなんて分からなかった。
 だからすぐには気づかなかった……。


「―――ッッ!?!??!!」


 彼女の唇が……私の頬に触れていたなんて。












 練習が終わると丁度夕飯の時間になった。
 あの後、私たちの元に召使いの霊魂がごはんができたと呼びに来てくれた。
 私は、片付けがあるからと、いたって平然に、ルーミアさんに告げて、先に食卓へ向かわせた。
 安静にしてなきゃだめだというのに、ルーミアさんは両手を広げて走っていってしまった。
 本当に仕方のないことだ。
 一方、ひとり物置に向かう私は……


(されたされたされたされてちゃったぁっっ!?!?!?)


 ……頭の中がぐしゃぐしゃになって沸騰していた。

 突然"あんなこと"があって、全然まったくすっぽりがっつり冷静じゃいられない魂魄妖夢、この私。
 沸騰する頭と胸の鼓動を抱えたまま、結局使わなかった木刀をしまいに物置に向かう。向かう。
 力の入らない足を、一歩一歩なんとか踏みしめて。


 いや、事情は分かる! 大体分かる! 多分分かる!
 彼女は好物が人肉と言っていたし、丁度お腹が空いていたし、だから空腹時の小腹を満たすため血を食べたのだよね!? ね!?
 お腹の空いた拍子でつい"あんなこと"をしてしまったんだって!
 頭じゃ分かってる、ああ頭の中では分かっているさっ!! いるのさっ!!
 別にいやらしい意味なんてないよ! 性的な意味じゃないよ!

 なんだぁ、そんなことか。
 だったら仕方ないよねー?
 平気だよねー?

 平気……


「ンな訳あるかぁーーーーーーーっ!?!?!?」


 だって、だってだってだって、女の子同士、おんなのこどうしじゃないのぉっ!?!?
 良いの良いの良いの良いの良いんですかぁぁぁああああぁぁぁっっ!?

 あの直後、ルーミアさんも、ついあんなことしてごめんなさいと謝っていた。
 私も、「気にしてませんよ」なんて涼しい顔で返した。よく言えたなあン時の自分ッ!?
 そんで霊魂さんが来たので、私はいたってまるっと平然とがんばって先にご飯に向かわせるた!(←注:誤字ではない。動揺です)

 精一杯の理性で「先に行っててください」というところまでがやっとだった。
 だけど……それが限界。
 彼女が視界から消えた瞬間……堪えていた体に力が入らなくなり……その場に、崩れ落ち、た……。
 ……なんて、とてもじゃないけど……誰にもいえない……。


「ぐ……」


 ……この後、その彼女と一緒に食事をするのだ……。
 果たして、私は冷静に向き合うことができるのだろうか……?


「ぐっぴゃぁーーーーーーーーーーーーっっ!?」


 人間、思考が行き詰ってにっちもさっちもどうにも行かなくなった時、おかしくなって意味不明な言葉を叫ぶものなのだろうか。
 私は半分人間なので半分だけおかしくなった。
 この程度のことで心を乱すなんて、私もまだまだ未熟……。……全然"この程度"じゃないけどねーーーーーっ!?!?


「妖夢!」

「ひゃえ!?」


 ルーミアさんのことで頭がいっぱいだったので、突然目の前に現れた影に過剰に驚いては、情けない声を上げてしまった。
 まだ頭が他のことを考えられない。誰かが居るのにまるで気がつかなかった。
 影の正体をよくよく見てみると……幽々子さまだった。


「大丈夫、妖夢……?」

「おぜうさま、いったいなんでございやしょう」

「妖夢がまたヘーン」


 さっきからおかしいと疑う幽々子さまだったけど……ああ、違うんです。おかしいとしてもさっきとは違う事情でおかしいんです。
 だめです、むりです、とてもじゃないけど今はまともに対応できる状況にありません。


「なにかあったの……って妖夢、ほっぺ切れてるわよ?」


 ああ、お嬢様がなにかを言ってるよ。言い続けてるよ。けど、その言葉が私に耳に入ってこないです。
 仮にも仕える主なのだから、聞き漏らすなどと無礼千万。
 耳を傾けなくては……。分かっているけど……神経は、先程の……くちびるの触れた頬へ……集中して、結局ぜんぜん聞こえない。


「はい、これ」


 しばらくなにかを話した幽々子さまが、おもむろに手を伸ばすところをおぼろげに目に映し出す。
 ……と、私の全神経が集中したその場所に……幽々子さまの、指が、押し付け、ら……れ……


「―――ッッ?!?!?!?!」


 その場所に刺激を与えられ、過敏に超反応。
 声にならない悲鳴を上げて、どたん。後ろに飛び退きバランス崩し、情けなくしりもちをついてしまった。


「あ、痛かった?」


 しりもちがきっかけだったのだろうか?
 やっと幽々子さまの言葉が耳に届く。
 しりもちのことを心配してくださったのだろうけど、おしりよりも心臓が、頭が、破裂しそうなくらい血液が暴れている方が、私の体に深刻です。
 頭の中がとうとう真っ白になる。だから私は半人前なのだろう……もう他に何も考えられない……!?


「ぁぅぁぅぁぅ!?」

「それ、さっき物置で潰された時にできた傷よね? 血が滲んでたから、絆創膏貼ってあげたんだけど……余計なことだった?」

「はぇ……? ばんそう、こう……?」


 耳の音声認識機能はオンになっていて、聞こえたキーワードを、気の抜けた情けない言い方で反復した。
 なんとなく触れるのも恐れ多いその部分に手を伸ばしてみる。
 自分に皮膚と、丁度傷の部分を覆った、つるりとする皮膚でないなにかの感触が指を伝う。
 この感触は……ああ、言われてみれば紛れもなく絆創膏だ。
 幽々子さまは幽々子さまで頬の傷のことを気づかってくれたのだろう。


「ねぇ、妖夢……さっきからあなたおかしいわね」

「そんなことないみょん!」


 この期に及んでも平然を装おうと返事を返した。
 目の前のお嬢様は心配そうに私を眺めていた。「哀れんで」とも見えるけど、そう受け取りたくないから「心配そうに」にする。


「ねぇ……心配事があるなら、私にも相談して、ね」


 普段は私を困らせる方がメインなお嬢様だが……
 ここまで哀れ……もとい、心を乱す私を本当に心配思ったのか、幽々子さまは優しいお声を掛けてくださった。

 なんだかんだでこの人は白玉楼の主たる器があるお方なのだ。有効活用しないだけで。
 幻想郷に異変が起こった時とか、ドでかいスケールでの物事ならばいつも頼りになる。
 だから、月の異変が出た時に比べれば全然小さい私の悩みも、相談すればきっと名案をくださるに違いない。


「ええっと、実は……」


 ルーミアさんにほっぺにちゅーされました。これからどうしましょう?


「言えるかぁああぁぁぁあああっっっ!!」

「ああっ!? 妖夢どこへっ!?」


 半人前で臆病な私は思わずその場から走り抜けてしまった……。

 その日の晩ご飯はよく覚えてない。
 ただルーミアさんと幽々子さまが異常におかわりしていたことだけ覚えてる。












 ルーミアさんが白玉楼に来て10日が経過した。
 元々冥界でも賑やかだった白玉楼は、ほんのわずかな間だけの新たな住人を加えて、ほんのわずか賑やかさを増していたかもしれない。
 けれど、別に特筆すべき特別なんてなかった。
 私の生活にだけ……ほんの少しの変化が現れた、その程度。


「剣の鍛錬の時間が変わったと思ったら、寝る時間まで変わって……
 今日はとうとう遅い起床、そして、夜に出歩くようにまでなるなんて……不良街道まっしぐら」


 夕食も終え、一日の楽しみが終わった幽々子さまは、夜の外出の準備をする私を見てそう口にする。


「別に良いじゃないですか。普段の幻想郷は急く必要のない、まったりした世界なのですから」


 もっともらしいことを言って、幽々子さまの疑問に答えを示した。
 けど幽々子さまはその答えに納得の行かないご様子。
 だが、次の句は納得の行かない顔ではなく、ニヤけた顔を浮かべて告いでみせる。


「あのわんこの世話するようになって、よーむちゃん変わったねー」


 ルーミアさんの呼び方をマネして私を呼ぶ幽々子さまに……少し、顔がピクリ引きつった……。
 私の気持ちを察したのだろう、幽々子さまはあっけらかんと「ごめんごめん」なんて軽く返す。
 口で言うほど悪いだなんて感じてないことは一目瞭然だった。
 ちなみに、幽々子さまは10日間ずっとルーミアさんを犬扱いした。


「幽々子さま、夜はルーミアさんのお世話がありますから、自然と夜更かしするしかないじゃないですか」

「そうよねー」


 この10日間、基本夜に動いてるルーミアさんに合わせて私も起きていた。
 そうなるとさすがに朝がきついので、私の日常は朝の鍛錬は時間からほぼそのままずらして行う形に変更したのだ。
 まあ、朝の鍛錬はルーミアさんには見せていないので、太陽の出ている時間に移ろうと問題はなかったし。
 朝は基礎体力とウォーミングアップ目的なので自然と地味になってしまい、見せても仕方ないだろうという考えもあったが、
 どちらかと言えば、朝訓練の時に木刀でぶん殴っちゃった申し訳なさからである……。


「それに今夜はルーミアさんに夜の冥界を案内する約束をしましたからね。
 彼女も大分回復しましたし、折角の機会です。今夜出歩くのは見逃してください」

「そして朝帰り? なんて……きゃー 妖夢ちゃん不良街道まっしぐらー」


 無言で腰の楼観剣を鞘からほんのちょっと抜いて、白刃を覗かせてみせる。
 幽々子さまは以前笑いながら「ごっめーん」なんて依然軽〜く返していた。
 正直、そういう方向に話を進められるのはあまり気分が良くなかった。
 先日の……頬へのアレのせいで、私は大変な目にあったのだから。

 ……日も経てば、さすがに心も静まり、お陰で今では大分普通に話せるまでには回復(?)した。
 アレは本能的な事情であって、特別な情事ではないと思えばこそ、私の心は納得できたからだ。……というかさせた。
 まあ、最初の3日間は全然まともに話せやしなかったですが……。


「いーですか幽々子さま、私とルーミアさんがそんないかがわしいことする訳ないじゃないですか」


 あの件のせいか、いつもは受け流せる幽々子さまの冗談も、今回ばかりは問屋が卸せず、
 私は、珍しく幽々子さまのからかいと面と向かって対応していた。
 「なんで?」なんてしれっと聞き返してくる幽々子さまに、私はズバッと言ってみせる。


「根本的なことです」

「ほうほう」

「女の子同士です」

「です」

「…………」

「で?」

「え〜、今の100%答えじゃないですか〜」


 私は当然のことを言ったつもりなのに、なぜか納得の行かない御様子の幽々子さま。
 幽々子さまは「でも妖夢」と前フリして、


「その方が私はからかえるのよ?」


 なんて堂々とトンでもないことを言う人なんだ。


「はいはい、お嬢様がトンでもなく大物なんだと改めてご理解させていただきました!」


 結局、ヤケっぱちに吐き捨てた私の台詞で、この会話は打ち切られることとなる。
 今回、結構強く突っぱねたつもりだが、常々飄々とする幽々子さまのこと。これ以上は暖簾に腕押しと諦めた。
 こんな姿も、きっと幽々子さまの「からかい」という酒の肴にされているのだろう。
 つかみどころがなく、私なんかより一枚も二枚も上手なのだ。
 私は、一刻も早くその場を退場すべく、用意した巾着袋をササッと身につけ、立ち上がった。 


「ねぇ、妖夢。いつまで置いておく気?」


 部屋を出ようとする私に、幽々子さまが別の質問が投げ掛けられる。
 それは、間違いなくルーミアさんのことだろう。
 さっきまでの冗談とは違いまともな内容だ。
 察して私は足を止め、その言葉に耳を傾けた。


「確かに……長くお屋敷に置いておくのは、幽々子さまにご迷惑をお掛けしてますが……」


 しかし……私がぶちのめした手前、そう簡単に追い出すこともできないというかなんというか……。


「気持ち分からないでもないわよ。自分がぶちのめした手前、そう簡単に追い出せないでしょうし」


 あははは、さすが幽々さまだぁ。私の心なんか完全に読み取ってやがらァ。ちくそー!!


「ま、あのわんこの世話はあなたに任せるって言ったからね。だから万が一が起こらない限り、あなたに全部一任するわ。
 気の済むまで好きに居させて構わない……けれどね妖夢、私は、」


 幽々子さまの声色が、ほんの少し高い気がする。
 浮かべる表情からも、切なる印象を覚えた。
 そのままの、とても真剣なお顔で……


「ご飯が気になるの」


 真剣な顔でなに言ってるんだこの人。


「まー、確かに、おふたりともよくお食べになられますからね。食事の蓄えが減って幽々子さまには由々しいですね。
 お嬢様らしくてとても幽々しいですわ」

「まあ上手いことを言ってくれる。ご飯の話題だけに"うまい"。なんちゃって」

「幽々子さまこそ上手いことを仰る」


 などと大喜利を繰り広げる私たち。
 直前の真剣さがばからしくなる。


「よ〜むぅ〜、食欲は人間の3大欲求よ? 満たせなければ、死んじゃうのよ」


 この人は本当に食事にかける情熱がハンパないな。
 今の発言、幽々子さまは自分が死んでるって分かってて言ってるんでしょうか?


「分かりました、食事は私が取って来ますから、それで問題はないですよね? 冥界特産のお肉をたんまりと」


 幻想郷は現世でも冥界でもデパートやスーパーなんてないので、食材は自分で取ってくるしかないのだ。
 そして「ない」デパートやスーパーの存在を知ってる私に対するツッコミはなしだ、人の親切心は素直に受け取るもんですみょん。


「それならなんの問題もないわ! 存分に置いておきなさいっ!!」


 私の提案した妥協案に、お嬢様は親指を立てて舌をぺろりと横に出し「ヤッタネ☆」などと大喜びしてた。
 この人どんだけ食事にウェイト置いてるんだろ……?
 まあ、それで彼女を置いておくことを認めていただけるなら、それに越したことはないか。


「あとついでに……こんなに長時間冥界に留まらせておいて大丈夫かなー……って」

「え?」


 ついで、と言ってサラリと口にする幽々子さま。
 ……え? いま、なんて……?
 わずかに、頭が冷える。そんな気がする。
 幽々子さまは独り言のように、次の句を続けた。


「んー? 冥界は死者の住まうところよ。妖怪とはいえ生者が、こんなに長い間過ごすなんてどうなのかしら?」


 ……ちょっと待ってください。
 なんかものすごく簡単に言ってるけど……ひょっとしてそれ……結構、重要なことなんじゃ……?


「…………」


 わずかの間ができた。私が、黙ってしまったからだ。
 幽々子さまは、別に回答を期待してるでもなく、満腹からかあくびをなさっている。
 大きなあくびのようだった……いや、私が次の言葉を告ぐまでの間を、とても長く感じていただけかもしれない。
 長いのか短いのか、よく分からなかった間。
 そのつもりはなかったが、幽々子さまのあくびが終わるタイミングと合わせるように、私からそれを終わらせた。


「まあ……大丈夫じゃないでしょうか?」


 そんな、楽観的な答えを紡いで。


「そう?」

「それに、せめて彼女が完治するまではここに置いておきたいというのが私の考えですので」


 正直、幽々子さまのお言葉は、ほんのわずかに引っ掛かっていた。
 けれど、幽々子さまも「ついで」だと仰っていた。あくびをする程度の、大したことでもないのだろう。
 それに、彼女の体も大分良くなっている。ここを出て行くのはそう遠くないことだ。
 ……この時の私は、この後のことで頭がいっぱいで、もっともらしいことを自分に言い聞かせて、幽々子さまの一言を深く考えず流してしまった。


「分かった。あなたの好きになさいな」

「ありがとうございます」


 私は、冥界のことを良く知らなかった自分を、そう遠くない未来に心底失望するというのに……。












「お待たせしました」

「あっ、よーむちゃん」


 玄関から出ると、底の見えない夜の闇の中からルーミアさんの声だけが私を迎えてくれた。
 辺りには光ひとつなく、真っ暗でなにも見えない。
 そんな中で待っておらず、玄関の中で待っていれば良いだろう……とも思ったけれど、彼女は宵闇の妖怪。
 彼女は彼女で、闇を堪能していたりするのだろう。

 私は、手に持ったちょうちんを闇の中にかざし、声の聞こえた方向へ向けた。
 明かりはすぐに彼女の爛々とした表情を映し出してくれた。


「お散歩っ、夜のお散歩っ」


 よほど楽しみなのだろうか、弾む声で両手を広げながらその場でくるくる回るルーミアさん。
 ちょうちんのわずかな明かりが映し出すその姿が、とても愛らしい……。
 ……別に幽々子さまの言うようないかがわしい意味でなくて。


 これから私たちは、夜の冥界を散歩しにいく。
 といっても歩く訳ではない。飛ぶのだ。
 いわば「散浮遊」だ。
 それはとてつもなくゴロの悪い言葉。「散歩」のままで良いか。

 ふわふわあてもなく飛ぶのが彼女の趣味。ルーミアさんがここ冥界に迷い込んだ時もそうしてやってきたのだ。
 折角なので冥界の夜空もふわふわ飛んでみたい、という希望を、白玉楼に居る間常々聞かせて頂いた。
 ルーミアさんも大分回復した様子なので、今夜、とうとうそれを実行することになったのだ。

 私がついていくのは、案内役として。
 土地勘のないルーミアさんをひとりでさ迷わせるのは危険。なので、土地勘のある私がお供についていくことにした。
 といっても、私は夜目がすごく利く訳でもないのでちょうちん持参でだが。
 私だって半分幽霊、空を飛ぶ程度はできたりする。なによりここに居る間、彼女の世話は私に任されているのだから。


「大分元気になりましたね」

「えへへー、お陰さまでー」


 ルーミアさんのケガの具合は大分良くなった。
 激しい運動や、昼間の能力使用は今も控えてもらっているが、身につけている包帯の量は初日よりも全然減っている。
 さすが妖怪だからなのか、それとも永琳さん特製回復促進剤のお陰なんだろうか。
 どっちにしろ、彼女の容態は本当に良くなっている。


(今日で10日目、か……)


 永琳さんの見立てでは、全治は1週間から1ヶ月……早ければもう完治している計算だ……。
 さっき考えた通り、彼女はそう遠くない未来にこの冥界を出て、現世へと帰ってしまうのだろう。
 そうすれば…………きっと、それで終わり。

 冥界は、死者の国で……。
 生者の彼女は、死ぬまでここに来ることはない……。
 それが、「生」と「死」のあるべき姿。

 だからといって、死んだら会えるというものでもない……。
 死ねば、私の半身のような霊魂……「気」の塊となって冥界に漂うだけ。
 大体彼女の寿命次第では、私の方が先に死んでしまう。
 だから今の……生きてる間の、明るく無垢な彼女には……もう、会えない……。

 なら……この共に過ごせる時間を、もう少しだけ……―――

 考えて、その未練がましさにいつも言われるような未熟さを覚え、情けなく思う。
 やはりまだまだ修行不足だな、私も……。


「今日は案内役、お願いしますっ」

「あ……はいっ、お任せください!」


 丁寧に頭を下げるルーミアさんに気づいて、私は空いた左手でドンと胸を叩いて応えてみせた。
 今考えたことなんて、まるで見ないフリをするように……。
 そして……そう遠くない未来の、その時には……彼女に「さよなら」を言える私で在れるように……。


「じゃ、行こっ、行こっ」

「はい。……あ、待ってください!」


 両手を広げ、ふわりと浮かぶ少女の体。
 余程待ちきれなかったのだろう、彼女の背中は、すぐさまちょうちんの明かりが届かない闇の中に消えてしまった。

 彼女には夜目が利くかもしれないが、私はそうでもない。ちょうちんの明かりが届かないところはまるで見えないのだ。
 しかも彼女が着ているのは黒い服。余計に見えない……。
 初っ端からはぐれてしまっては護衛役の名折れ。
 はぐれてしまわぬよう、私も慌て飛び立った。


「待ってくださ〜い」

「へ……? あ、ごめんね」


 しばらくふわふわ飛んでから、やっとルーミアさんの背中に追いつく。
 私の声でルーミアさんはその場で一度待機し、私が追いつくのを待ってくれた。
 置いていってしまったことを申し訳なく思ったのか、ルーミアさんはてへへ、と頭を掻いて謝る。


「すみません、私はルーミアさんほど夜目が利く訳ではないので……あまり離れられると、はぐれてしまいます」


 私の言葉に、ルーミアさんは「そ、そーなのかー!?」と、驚いていた。
 言って、それが失言だったような気がした。
 だってそれでは私に気を取られて、ルーミアさんは存分に散歩を堪能できなくなってしまうではないか。
 少し申し訳なく思った……。
 だからと言ってはぐれてしまったらそれこそ大変。
 さて、どうするか……。


「うーん……」

「あ! だったら、」


 私が考える仕草をして頭を捻っていると、ルーミアさんからなにか閃いたように弾む声が聞こえてくる。
 そして一度私にふわりと近寄り、ちょうちんの持ってない方の手の側に回り込む。
 一体なにをするのか……? その様子を、私は首だけ回して眺めた。
 そして……彼女の体がそのまま私の腕に飛びついてきて。


「ぎゅーっ!」


 擬音をそのまま口にするように、彼女が私の腕に絡みついた。


「あ……、っ……?!」

「これでもう、はぐれないね」


 なんでもないようなことのように、無邪気に微笑むルーミアさん。
 けれど私にはなんでもなくなくて……突然のことに、心臓が、爆発しそうだった……。
 ルーミアさんとの距離が、近い……
 顔が、熱くなっているのが分かった。動悸が……早まっている……。
 どうして……なんで……こんなに……?


「さ、今度こそお散歩っ」


 私がなにを思ってるかなどつゆ知らず、ルーミアさんの元気な声が聞こえてきた。
 私は抵抗することなく、腕を引かれるまま冥界の夜空をふわふわ飛んだ。

 動悸がずっと、落ち着いてくれない。
 その理由が……少し、分からなかった。
 彼女の鼓動が、腕に触れる柔らかな感触から伝わってくる。
 なら逆に、私の鼓動も……彼女には聞かれてしまっているのかも……?


「あのっ……!? 飛びにくくないですか!? この体勢!?」


 鼓動を聞かれる不安に耐えかねて、誤魔化すかのように話しかけた。
 私の動悸が激しいことがバレたら、まるで私が、幽々子さまの言うようないかがわしい感情でいるように思われる気がして……。
 そんな勘違い真っ平ごめんだった。


「うーん……いいよ別に。速く飛びたい訳でも、どこかに行きたい訳でもないから」

「そう、ですか……」


 正直、誤魔化せれば答えなんてどうでも良かったと思う。
 そもそもはぐれないため、この体勢を保って飛び続けるしかないのだし。
 気を逸らしたお陰で、動悸は多少落ち着いてくれた……と思う。
 ただ、彼女の答えはそこで終わらず「でもね、」と続けて、


「誰かと一緒に飛ぶなんてこと、なかったから……ちょっと嬉しい」


 その一言を言わせたことは、失敗だったと思った。


「…………っ!」


 動悸が、一層速くなる。
 頬に唇を当てられた時ほどの動揺はなかったが……それでも多分、同じくらい、私の気持ちを昂ぶらせて……。


「よーむちゃん……」


 突然名前を呼ばれ、どきりと、一際大きく心臓が跳ねた。
 まさか、私の心臓がものすごく激しく鼓動していることがバレた……?
 えっと、その……わ、私は別に、お嬢様の言うようないかがわしい気持ちからでなくて、これは……これは〜〜っ……!?!?


「迷った」


 ……って、そっちか。


「なんだ、そんなことでしたか……」


 と、軽くコメントしてから。


「じゃないですね、大変ですね」


 事態を把握して言い直す。
 考えてみたらそれって大変なことで、意外と非常事態でしたね。
 けど……正直、私のいかがわしい疑惑が浮かび上がらなかった方が重要だったらしく、迷ったことにはかなり淡白になっていた。
 それじゃダメじゃないの案内役、しっかり責務果たしなさいな。


「あはは……まあ大丈夫です。そのために案内役として私がついてきてる訳ですし」


 今の「迷った」で、胸の動悸がやや治まってくれたので、私はいたって普通に対応できた。これにはちょっと助かった。
 それに、私としても、ルーミアさんには頼りになるところを見せたいみたいで、ここでまた一株上げようと内心ひっそり意気込んでみる。


「……あれ?」


 ……そういえば私は、ルーミアさんに引っ張られてここまで来たから、自分が今どの辺りを飛んでいるかなんて分からない。
 今自分居る場所が分からなければ案内しようがない訳で……。
 ひとまず、どの辺りを飛んでいるか確認しよう。そう思って、私は手に持ったちょうちんを掲げてみた。


「見えません」


 ちょうちん程度の明かりじゃ、広大に広がる冥界の闇の前にはまったく無意味だった。
 焼け石に水というか、ぞうにミジンコが立ち向かうようなもんだ。


「すみませんルーミアさん。周りの様子って……説明できますか?」

「え?」


 ルーミアさんは、「えーっと……」なんて口にしながら辺りの景色を見回した後、


「……むずかしいです」


 やっぱり……。
 風景説明しろったって、冥界の景色は似たようなものばっかり。
 慣れている私なら、景色の微妙な違いを把握してるのでなんとか位置を把握できるのだが……。
 その微妙な違いを口で説明しろと言われれば……多分、無理。
 それが初めて歩く(飛ぶ)の土地なら尚更だ。


 さて、困ったものだ。
 持ってきた荷物で、なにか役に立つものでもないかと、頭の中の荷物リストを思い出してみる。
 持ってきているのはまず手に持ってるちょうちんと夜食、永琳さん印の応急手当セット、あといつも私が持ってる2本の刀。
 念のための方位磁石もあるのだが……自分がどの方角に進んだか分からない上に景色が見えないから、実質無意味だったりする。
 まあ私の半身の霊魂も居るのだが、仮にも「私」なので、これは荷物にカウントしない。
 「私」がせめて発光してくれたら話は別だったんだけど……。

 少し頭を捻ってみるが、圧倒的に物が不足している。
 捻ったところで、どうにもならないものはどうにもならない。
 ならば逆に……


「ルーミアさん、いきなりですが、闇を操る程度の能力って、もう使っても大丈夫ですか?」

「え?」


 幽々子さま並みに唐突なことを質問した。
 考えがあった。……といっても、全然解決案じゃないけど……。
 そのため、永琳さんから控えるように言われた彼女の能力が必要になった。
 控えろ、だけで、絶対厳禁とは言われてないし……ルーミアさんも大分回復したし。
 ここは背に腹は変えられないし……


「えっと……んーっ!」


 私の呼びかけに応えて、可愛らしく力んでみせるルーミアさん。
 しがみつかれた腕から、彼女が力を込めて体をこわばらせたのが伝わる。

 すると……一瞬で、ちょうちんと月の明かりが消える。
 いや、厳密にはちょうちんの明かりは消えていない。中で揺らめく炎の音が、耳を澄ませばちゃんと聞き取ることができたからだ。
 恐らく、ルーミアさんの能力のせいだろう。
 少しは闇に慣れてきて、薄っすらとなら辺りも見えていた私の目も、一切の視覚情報が完全に遮断されて、まるでなにも見えない。
 辺りを包むのは完全な闇は、なるほど、これはものすごく闇だった。


「体はどうですか? どこか痛いとか……」

「ん……大丈夫……。でもどうするの? 余計見えなくしちゃって。
 それに……あはー、実はこのままだとわたしもなにも見えなくなっちゃうのー……」

「そーなのかー!?」


 ビックリしてつい彼女の口癖を借りてしまった。
 近くからえへへ、とちょっと照れくさそうに苦笑いする声が聞こえてきた。
 多分普通に夜目が利くだろうルーミアさんでも、完全に見えなくなるほどの闇か……。
 それって考えてみたらすごい能力なんじゃ……ああ、だけど自分も見えなくなるんじゃ意味ないのか?


「では効果範囲の調整は? 小さくできます? 例えば、私の顔だけ外に出すとか」

「え? うん……多分……」


 すると、まるで何も見えなかった私の目に、月の明かりが飛び込んできた。
 どうやら私の言った通りに調整ができたみたいだ、夜の景色がしっかり見える。
 ルーミアさんを見ようと下を向いて見てみる。私の体を黒い球体が覆っていた。ビックリした。
 ……多分、黒い球体から顔だけが出てるダルマみたいな状態だ、今の私。


「…………」


 ……見栄えにはあまりよくないけど、まあ問題はないので、そこはガマンすることにしよう……。


「分かりました。ありがとうございます。それでは一度力を解いてください」

「え? え?」


 彼女は、闇を展開してからなにかすると思ってたらしく、なにもしないまま能力を解くことに、肩透かしを食らったように戸惑っていた。
 よく分からないといった感じだったが、とりあえず言われるままに能力を解く。
 能力が消えると、私の手元のちょうちんが本来の明るさを照らし出していた。

 もう一度体の加減を聞いてみると、どこも痛くはないらしい。
 良かった。これなら、上手く行きそうだ。
 安心して……私はやっと、ルーミアさんになにをするつもりなのかを説明し始めた。


「すみませんルーミアさん、白状しますと……どうも朝にならないと案内できないみたいです」

「ええー」

「ですから……このままふらふら飛び回り続けましょう」

「ふぇ?」


 言ってから、我ながらなんとも無茶な提案をしたものだと思った。


「元々あてもなく飛び回るつもりでしたし、あまり変わりはないかな、と。
 朝になれば景色が見えるようになりますし、そうすれば私も案内できるようになります。
 だったらもういっそ、その時まで存分にふらふら飛び回るのを楽しみましょう!」


 ただ、夜の散歩を楽しみにしていた彼女の楽しみを奪いたくなかったから。
 そんな一心で思いついた、逆転の発想だ。
 まあ、あまり褒められた案でもないとは理解してたけど……。


「朝になったら、ルーミアさんは闇を纏って日を遮っててくれて構いません。
 ……ルーミアさん自身が見えなくなるのは、ちょっと計算外でしたが、大丈夫です。
 私が手を引っ張って、必ず白玉楼まで案内しますから」


 朝帰りなんてしたら、また幽々子さまにからかわれてしまうだろう。
 それに、日課の鍛錬も、庭の掃除も、ろくずっぽに行えないな……。
 薄っすら思い浮かべていた。
 けれど、それでもいいや。
 よく分からない気持ちに背中を押されて、気がつけば私は彼女との時間を優先していた。


「大丈夫です。私が……ついてますから」


 ……言葉の最後に、少しだけ、背伸びをしてみた。
 初めて会ったあの日の夕方、羨望の眼差しで私を眺めてくれた彼女。
 その期待の前では、私が頼れる存在でありたくて。
 半人前風情が偉そうに、カッコつけている。
 その気持ちを知ってか知らずか、彼女はただ純粋に、キラキラ輝いた瞳で私を見つめてくれた。


「さっすがよーむちゃん! たよりになるーっ」

「べ、別に、頼りになど、なっていませんよ……」


 この言葉は本当のことで、ええかっこしいな私も今回ばかりはさすがにだめだと実感していた。
 なんせ案内役としてついて来ておいて、役目も果たせず速攻で迷ってるんだから。
 そのキラキラ輝く眼差しを受けるに値しない。責も果たせずに賞賛を受け入れられるほど、私はずるくもなれなかった。


「いーのっ、わたしが頼れるって思うんだからっ」


 なのに、そんな私に……より一層強く私の腕にしがみつくことで、頼りにしてるとアピールしたのだろうか?
 彼女の体の感触が、より濃厚に感じられて……顔がカァッ、と熱くなる。
 ああ……私、絶対顔赤くなってるな……。
 自分がそんな顔してるだなんて、彼女に見られるのは恥ずかしかったから。
 手に持っているちょうちんをさりげなく、なるべく遠くに離すよう動かした。

 ただでさえ暗くて見え難いルーミアさんの無邪気な笑顔が、闇に紛れてもう薄っすらとしか見えなくなったけれど、十分だった。
 だって、目で見るよりも、腕に感じる彼女の感覚で、十分に感じ取れたから……。


    ぐきゅるるる……


 そして、闇夜を、腹の虫の音が切り裂いた……。


「わわっ!? ごめんなさい……さっき夕ごはん食べたばっかりなのに……」

「ぷっ……」

「あーっ! また笑ったー?!」


 それは、今までの雰囲気を一気に塗り替えてしまう
 けど、そのお腹の音はある意味で彼女らしくもあった。
 なんだかんだ、ルーミアさんも、幽々子さまに負けず劣らずお食べになられる方だし。
 もういつものことだと思えば、逆に可愛らしくも感じた。
 それに……ほんの少し陶酔気味だった私の頭を冷やしてくれて、助かったと思った。

 自分の腹の虫の音に恥ずかしさを覚えて、きっところころと表情を変えてるんだろう。
 顔は闇に隠れてうっすらとしか見えないが、声色からなんとなく恥らっているだろうことは分かった。
 そんな彼女の顔を拝みたくて、この瞬間だけちょっとだけちょうちんを手元に引き寄せようとも思った。
 けど……私のまだ赤くなってるだろう顔も同時に確認されるのは、少し恥ずかしかったので、結局しなかった。


「じゃあ早いですけど、どこか適当な場所で休憩してお夜食食べましょうか」


 そこからは、なににも縛られないふたりの空中散歩の時間。

 すぐに適当な場所で夜食を取って、それからすぐに空を漂った。
 あてもなく、目的もなく、ただ自由に。
 ふたりの影は、ずっとひとつに重なったまま冥界の夜空を漂った。


「朝になったら、必ず送り届けます。それで、ふたりで一緒に夜まで寝ましょう!」

「うん……!」


 庭の手入れや稽古のことは、明日になってから考えれば良い。
 幻想郷は、慌てるようなところじゃない。
 だったら私は、今を、堪能したい……。












「あの生真面目妖夢がとうとう朝帰りして、仕事までサボるようになった……」

「ふぁ……おはようございます、おじょうさま……」


 結局、夜の冥界をふらふらふわふわ飛んで飛んで、朝までそのままだった私たち。
 日が昇って辺りが見えるようになった時、自分たちがかなり遠出していた事の気づき、家に着いたのは9時ちょっと前だった。
 ちなみに今は現在正午ちょっと。私はざっと数えて4時間睡眠。ルーミアさんはまだ部屋で眠ってる。


「らいじょーぶれす、にわのていれは、ちゃんとしま……ぐー」

「廊下で寝るなー」


 どうにも、規則正しいと評価していただいた私の体は、その程度では全然足りてないみたい……。
 ほとんど生活リズムを崩したことのない私にとっては、なんともレボリューションらしく、改革後の政策に体がついていかない。眠い……。


「そんなんじゃ仕事にならないわね……」

「い、いえ……しっかりやりまふから……」

「あー、仕事は明日に回して良いから、今日はしっかり休みなさい」


 幻想郷は急く必要のない、まったりした世界なんでしょ?
 なんて、昨夜私が言った台詞をそのままの形で返してくださった。
 私は、結局幽々子さまの優しさに素直に従うことにした。


「ふぁ……すみません……」


 本当は、主の好意に甘えるなどとは好ましくないことで、普段の私なら絶対断固拒否しただろう。
 だけど今はいかんせん体の方が無理をすることを拒否している。
 執拗に、体中を気だるさで満たしていくのだ。
 徹夜明けってこんなに辛いんだ、と絶賛実感中。月の異変を解決した時も辛かったしなぁ……。
 まあ、夜中ふわふわ飛んでたせいで体力使いまくったこともあるんだろう。
 ルーミアさん、多分今夜はいっぱい食べるなぁ……とか、おぼろげに考えながら、そのまま今出てきた部屋にUターンする。


「……で、なんで客室向かうのかしら〜?」

「へ? そりゃ……」


 この時、当たり前のように「普通じゃない」事を行ったにもかかわらず、そのことをすっかり忘れていた寝ぼけた私は、
 幽々子さまのニヤニヤ企みスマイルに気づけず、素直に口にしてしまった……。


「ルーミアさんと一緒の布団で寝るために決まって……」


 白玉楼の主の眼光が光った瞬間、自分のミスと会話の難しさと現状の取り返しのつかない事態を招いた未熟さに……心底後悔する。


「へぇ〜……本当に一緒の布団で寝たのねぇ〜〜〜」

「あ゛……」


 昨日の夜、勢いで「一緒に夜まで寝ましょう」とか言ってしまった私だったが……それは「お互い夜まで寝る」という意味だったのだが、
 ルーミアさんは「一緒の布団で眠る」と受け取ったらしく、帰るなり私を一緒の布団に引き込んだのだった。
 ……というか、ルーミアさんは散歩の時から布団に入るまでずっと腕にしがみついたまんまだった……。
 眠気で朦朧とした私は……ルーミアさんの要望になーんの疑問も抱かず……客室の、同じ布団で眠ってしまったのだったりする。
 べ、別に性的なことは何一つしていないですよっ! ただ一緒に寝ただけですよっ!?

 結局、私がこの後布団に入れたのは、お嬢様がからかい終わる20分後のことだった……。












「ふー……これで庭掃除は完璧、っと」


 翌日、なんとか1日で生活リズムを戻した私は、サボった分の庭の手入れも済まし、いつもの日常を取り戻していた。
 もっとも、この「いつも」は、ルーミアさんが来てからの「いつも」だけど。

 結局、昨日はなんにもできずにほとんど眠って過ごした。
 ……さすがに、幽々子さまに存分にからかわれた後は自分の部屋で寝たのだが。

 一日中気だるさに支配されて、なんにもできない。
 ほとんど何もしてないのにまだまだ寝れるだなんて、逆にちょっとビックリした。
 きっと、夜空をふらふら飛び回りすぎて疲れたからだろう。

 それでも夕方の鍛錬だけは行った。
 目的はもちろん……彼女が楽しみにしてたから。
 その後はなにもできず、食事だけ済ませてすぐに横になってしまったが……。

 ルーミアさんも、同じだった。
 いつもの時間に起床し、私の鍛錬を眺めていたところまではできたが、
 やはり疲れが残っていたのか、ご飯を食べるなりすぐ横になってしまった。
 あとご飯の時、ルーミアさんは思った通り大量に食べてた。
 そして幽々子さまはいつも通り大量に食べてた。別に体動かしてないのに。


「さて、と……そろそろ夕方の鍛錬の準備しなくちゃ」


 2日分の庭掃除を終え、時刻はもうすぐ4時を指す。
 今日は昨日の埋め合わせもあったものの、なんとか溜め込んだ分までも片付けられた。
 庭掃除っていうのは、別に1日休んだから仕事量が2倍にようなものじゃない。
 いつもよりちょっと落ち葉の量が多かったりとか、その程度。
 けれど休憩を省いた甲斐あって、いつもの夕方の鍛錬の時間に間に合わせることができた。

 いつもの日常を終えたここからは、いつもとはちょっと特別な日常が始まる。
 彼女が来た時から始まった時間。

 胸を躍らせながら、いつもの場所に向かっていく。
 鼻歌なんて歌っていて、自分でも驚いた。












 鍛錬も始めずに、庭でジッと待ち人を待つ。
 おかしいな……そろそろルーミアさん、起きてきても良いはずなんだけど……?
 けれど……一向に待っても、彼女は来ない。


「……? 遅いなぁ……」


 一度屋敷の中に入り、近くの部屋に置いてある時計を調べてみる。
 時刻は4時20分……。
 少し遅い。


「…………」


 心配に思いながらも、もうちょっと彼女を待ってみた。
 待ってみるが、やはり彼女は来ない。
 もう一度部屋の時計を眺めてみる。
 4時半……


「部屋で眠っているのだろうか?」


 冷静に言い放つ言葉と裏腹に、体は我慢できず、ルーミアさんの使っている部屋へと早足で向かった。
 結局、彼女は客室で眠ってはいなかった……。
 いや、厳密には、


「ルーミアさんッ?!」


 その部屋に向かう途中の廊下で……彼女は倒れていた……。















更新履歴

H21・4/4:完成


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