それは、何の変哲もない朝のはずだった。

 衛はいつものようにジョギングから帰ってブルマを穿き換えていたし、白雪は朝食の準備で巨大な釜に白米をぶちこんでいるところである。かつて春歌から、“自動炊飯器など堕落の極み”などと云われて以来の朝の風物詩だ。

 そんな春歌のアナクロニズムに対抗意識を燃やした鈴凛の渾身の発明が火種となって、阿鼻叫喚の事態を引き起こすこととなるのだが、まだその時ではない。

 この日の朝は、次の一言から常軌を逸した。

「ええん、花穂、ドジっ子だから鏡の世界に閉じ込められちゃったぁ!」


 

SF超次元伝説千影

御於紗馬




 円卓は静まり返っていた。花穂のドジは今日に始まった事では無い。塩と佐藤を間違えて危うくリアル鬼ごっこが始まりかけたのも可愛い方だ。しかし、彼女自身に厄が降り懸かる事は非常に稀である。前も誤って、出来立ての高層オフィスビルを崩壊させてしまったが、最上階に居たというのに彼女は無事だった。曰く「ふぇ〜ん、花穂、ドジっ子だからセブンスウェル発動しちゃった」そうだ。

 洗面所の姿見の中に、涙目の花穂がこちら側を向いている。放置するのは酷であるので、取り外して持ってきたのだ。円卓の椅子の一つに鎮座している。衛が心配そうに、寄り添うように鏡の端を支えている。

 四葉はいつものようにチェキでその場を埋め尽くさんばかりであったが雛子のいたいけのないストレートな一言ですっかり落ち込んでしまった。余りに鋭いシビアな科白であったため、雛子と四葉の人権を守る上でも、記し残す事はできない。それほどまでに酷い台詞であった。と、ここまで書いているうちに、四葉は自分がどうして落ち込んでいたか忘れてしまったようで、またチェキチェキ言い出したのだけれども。

 当の雛子は亞里亞とヒソヒソと話をしていた。まぁ、彼女達はいつものように白雪がお茶受けを出してくれるのを待っているだけである。白雪だけはいつもと変わらず、「どんな深刻な悩みでも、美味しいお茶とクッキーなら、きぃっと解決してくれますの」という主張の元、飛び切りのお茶の準備を始めていた。

 普段ならばここで、「や、朝ごはん、まだだし」と鈴凛の突込みが入りそうなものであるが、彼女は花穂を閉じ込めた鏡の傍で、口を詰むんだまま怪しげな機器で何やら測定していた。自分の世界に入ってしまっているようで、周りの様子には一切気にしていない。

 春歌は一人、どこから取り出したか日本刀を一本を抱いて、黙して居た。花穂からは見えない角度から、その牙を研いでいる。万一の場合は、鏡だけを切り裂くつもりなのであろう。それは彼女自身の力量を測る最高の舞台。その愉悦に、自然に口元が歪む。

 可憐はただ、おろおろとしているだけである。そして咲耶は苦い顔で座を占めていた。鞠絵はいつものように、微笑を浮かべて落ち着き払っている。

「アラ? そういえば、千影は? こんな大事なときに居ないの!?」

「ここに居るさ……」

 卓の下から影のごとく現れ出でたのは千影。姉妹のうちで超常現象担当。というよりも彼女自身が超自然現象である。その美貌もまた人間の領域を超えたものだ。彼女のしっとりとした視線に絡められ、咲耶でさえ言葉が止まる。

「……で、何でワザワザ、そんな所から出てくるのよ?」

「理由はあるさ……上からの目線では決して知りえることの出来ぬ……ヒナたんの秘められし美しさを堪能するという……何物にも替え難い……重要で偉大で恐れ多い……甘美なる理由がね………」

「いい、千影、ちょっとここに立っていてね」

 刹那、咲耶の拳が千影の顔面にめり込んだ。この程度では人外の彼女に通じない事は判っているのだが、ケジメはつけなければならない。だが、咲耶の拳には今の現状を打破できない苛立ちが篭っていた。

「ふふふ、腕をあげたね……良いパンチだ……」

 びよーんよーんよーん、と暫し伸縮が繰り返され、千影に美貌が戻る前に衛が駆け寄ってきた。

「ねぇ! なんとかならないの!? このまま花穂ちゃん、鏡の中のままなの?
 かわいそうだよ!」

「衛くん……先ほどから君は……さかんに鏡の中だの鏡の中の世界だのと言っているが……鏡にはそんなものはないよ……メルヘンやファンタジーじゃあるまいし……」

「ひっ! 非道い! 非道いよ千影ちゃん! 花穂ちゃんは閉じ込められてるじゃない! バカバカ! 千影ちゃんのバカ! バカ!バカ!バカ!バカ!」

 反射的に衛が非難する。だが、千影は眉をひそめる。

「……衛くん……君にはこの場を和らげようという私のユーモアが通じないのかい?
 ……それに君の非難のボキャブラリーはあまりに少ない……
 ああ、ここは鈴凛くんが良い……一つ見本を見せてやってくれないか?」

「そんな暇ない」

 吐き捨てるように鈴凛はつぶやいた。

「えー、ちょっとでいいのにー 鈴凛ちゃーんのいけずー」

 いつものキャラを変えて、千影は唇を尖らせて非難する。

「そのちょっとで、花穂ちゃんが戻れなくなったら嫌じゃん。時間やお金で何とかなればいいけどさ」

 道具をつかむ合い間に、また一言。

「ジジが教えてくれた。こういうときは「出来るまでやる」。諦めたらそこでオシマイ。花穂ちゃんもオシマイだし、私もエンジニアとしてオシマイ。実際わからないけどさ、タイムリミットあるかもしれない。その可能性を考えると、言葉に脳を使うのも惜しい」

 データ処理の待ち時間で、鈴凛は言葉を組み立てて言いたいことを言う。その間も本当は勿体無いのだろうが、説明しないと邪魔をされる。彼女としては苦しいジレンマだったのかもしれない。だが、亞里亞の声が彼女を変えた。

「お金ならあるのー」

 いけない! 鞠絵が声を発する間もなく、亞里亞が取り出した札束は満面の笑みを浮かべた鈴凛の手に渡っていた。先ほどまでの冷徹な科学者の面影はそこには無かった。

「うわぁ、ありあちゃんありがとー。これだけあれば、かほちゃんをたすけたあと、じゅうびょうでちきゅうをはかいできるよぉ」

 普段舌足らず気味の彼女の喋りが、まるでラリっているかのように回らない。その表情も危険だった。瞳は妖しい光を放っている。咥内が乾くのか、犬のように舌を出して息をしている。一言の言葉を惜しんだ彼女の変貌振りに一堂、驚くばかりであった。

 そんな視線もお構いなく、分厚い札束に顔を埋めると、すう、一息吸い込んだ。

「はぁん、いぃにぉいぃ…」

 蕩けきった鈴凛が、その身を震わせながら、喘ぐ。千影の妖艶さも、咲耶の色気も色あせるそのR18な姿態に眉を顰めた者が一人。

「ちょっと鈴凛さん! ッ!?」

 武芸達者の春歌が伸ばした腕を、鈴凛は見ようともしない。だが、その刹那、青ざめた春歌は彼女に触れる前にそのままの姿勢で後退する。目を見開いた春歌の肌は脂汗がにじんでいた。

「わたし、いまからざいりょうかってくるねぇ♪ うふふ、すてき、すてき」

 彼女の性格上、普段絶対やらないだろう、スキップを踏みながら鈴凛は戸の外に消えた。姉妹達はただ、彼女を見送るだけである。

「あの殺気、狂気、妖気! ……心の臓が潰されると思いました」

 姿が見えなくなってから、ふう、と息をつき、春歌はようやく力を抜いた。

「今の鈴凛ちゃんは邪魔するものには容赦しませんからね。たとえ私達姉妹といえど……今の彼女には倫理や人間性等のリミッターが外れています。必要ならば人体実験すら辞さないでしょう……でも、今の彼女の思考回路は普段の10倍以上の回転を始めているはずですよ」

 彼女のことを知り尽くしている鞠絵は、落ち着いて解説を行う。

「緊急事態ですから、あの方がいいのかも知れませんね」

「あ、ジンタイジッケンってどんなのデスカ?」

 興味深い言葉に四葉が食いついた瞬間、全ての妹達は彼女から視線を逸らした。

「ちょっ、ちょっと待ってクダサイ! ナッ、ナンデスカ今のリアクション!?」

「や……知ら……いや、なんでもないよ……」

 目を逸らしたまま、詰め寄られた千影は言葉を濁す。

「うっ!? ……ご…ごめんなさい……咲耶ちゃん……ちょっとトイレ……」

 今にも嘔吐しそうな真っ青な顔で、よろめきながら可憐は立ち上がった。

「ちょっと! 四葉ちゃんが変なこと言うから可憐が思……うっ」

 咲耶は掌で口を覆うが、もう遅い。

「いま明かされる衝撃の真実!? 四葉、そんな悲惨さダイバクハツなモルモット人生をGO MY WAY!? 狂気の赤き瞳にヤンデレ少女が大切な物を嘘だ嘘だ嘘だウッ!?」

「これでよろしいでしょうか?」

 春歌は当身で四葉を眠らせた。

「ありがとうございます。四葉ちゃんは然るべき時まで休んでいただいた方がいいですね」

「あ、ボク運ぶよ!」

「私も一緒に行こう……今の記憶を消す必要があるからね……」

 四葉を背負った衛と千影が場所を離れた。

「あらあら、折角紅茶を淹れたのに、人が少なくなってますの!」

 入れ替わりに白雪が料理の載った盆を抱えてキッチンから戻ってくる。盆というには語弊があるか。テーブル一つ丸々といえる代物なのだけれど。

「鈴凛さんがいらっしゃらないので、私が突っ込みますけど。朝ごはん、まだじゃないでしょうか?」

「大丈夫ですの! 今朝の朝は四葉ちゃんもゴキゲンな英国風という事で、紅茶とトースト、半熟卵にスパムのフルコースですの!」

「四葉ちゃん、いないよう」

「ですの!? 参りましたの! 四葉ちゃんのために減塩無し、本家本元のスパムを使用しましたの!」

「すいません、お気持ちはありがたいのですが、私、療養中の身ですので遠慮させていただきます」

 鞠絵が丁重に辞退した。他の姉妹たちも微妙な表情を浮かべている。今、鈴凛が居れば「何そのモンティ・パイソン」と的確に突っ込んでくれただろう。愛と狂喜の"スパムインスパム"など、本場のイギリス人ですら完食は難しい代物だ。

「そういえば、ご飯は?」

「散し寿司にしましたの。お昼まで寝かせますの」

「あのおコメの山をこの短期間でよく処理できたわね」

「お寿司はスピードが命ですの。具とお酢が均等になるように手早く混ぜるのがコツですの」

 12人分の寿司を一時に造ることが超人の領域であろうことは想像に難くないのだが、白雪は平然と言ってのける。手際よく、皆の前にトーストとお茶(スパムは全員辞退した)を用意する白雪。その手際は春歌が嘆息するほど、一点の隙も無い。

「ほら、花穂ちゃんもあーん、ですの」

「あーん」

 かつん。 当然のことながら鏡の向こう側にはスプーンは届かない。ただ、あどけなく口を広げている花穂が、何が起こったのか判らない風にきょとんとしている。

 かつん、かつん。

 空しく音だけが響く。

 かつ、かつ、かつ、かつ、かつ、かつ、かつ、かつ…………

 かかかかかかかかかかかかかかかかかかか…………

「ファックオフですの!!! この鏡野郎!!
 姫の料理が食えないかっちゅーのですの!」

「ふええええ〜〜〜」

 白雪は唐突にマジギレした。普段の大人しさは今は無い。

「姫の料理に拒否権起こすなんて良い度胸ですの!
 細かく砕いてバター醤油で食ってやるですの! うぐっ!?」

「これでよろしいでしょうか?」

 今まさにスプーンを突き立て、花穂を粉々にしようとした白雪を春歌は当身で眠らせた。

「ありがとうございます。白雪ちゃんは散らし寿司と一緒に、然るべき時まで休んでいただいた方がいいですね」

「白雪ちゃんが切れたの、私はじめて見たわ」

「前に、四葉ちゃんが納豆にケチをつけた時に切れましたよ。そのときに、納豆が無いと生きていけない体にされちゃったんでしたっけ」

「あれは酷かったですね。可憐、お掃除当番のときに四葉ちゃんのお部屋お掃除しましたけど、もう、ベッドが納豆でべたべたで大変だったんですよ」

 放送事故を起こしそうな程、気まずい沈黙。

「あーごめーん、鈴凛ちゃんが居ないと突込みが居ないよね。ボク、頑張って突っ込むよ!」

 いつの間にか戻ってきた衛が、空気を入れ替えようと元気な声を上げてみる。だが、焼け石に水とはこのことだろう。

「衛ちゃんには誰も突っ込みを期待していませんから……せめて、花穂ちゃんの傍に居てあげていただけませんか?」

「衛ちゃん…」

 鞠絵が微笑みながら指示をする先に、花穂が涙目で衛を見つめていた。衛はいそいそと、彼女の傍へと近づいた。

「花穂ちゃん…」

 切なげに互いの名を呼び合う二人。二度、三度と呟く二人の瞳の中は、互いの姿が映し出されている。皆が居たたまれなくなって、目を逸らした隙に、二人はそっと、鏡越し、唇を寄せた。

 その瞬間である。鏡面が異様な怪物へと姿を変え、衛をぐいと引きずり込んだ。

「「「「「「「「衛ちゃん!?」」」」」」」」

 悲痛な叫び声がこだまする。だが、次は悲鳴ではなく、言葉が彼女から紡がれた。

「なるほど……そうするのかい……」

 鏡の向こう側で、少年のような風貌は、いつしか妖艶な魔物の気色をまとっていた。


「血縁者の姿を借りる事など、私には造作無い事だよ……
 そして……血筋の者を守護することは……我が責務であり、我が悦び……」

 恍惚としながら、魔性の娘は嘯く。すっかり本来の姿に戻った千影は、化け物をじっと見据えている。相手は指一つ動かすことが出来ない。

「虚実の合間の存在ならば………確かに鏡に存在するように見せかけられるね………鏡面は媒体ともいえるか……いや、本当の触媒は花穂ちゃんそのものかな……」

 歌うように、相手の本質を抉り出していく。魔術の世界において、正体を把握することこそ、相手を配下に置くことに他ならない。ちなみに、その頃本物の衛は、四葉とともに少々納豆臭いベッドの上に横たわっていた。

「ああ、ブラなブラがブラにブラはブラのブラをブラとブラって!」

 名状し難きブラジャーの夢を見ながら。

 と、場面を切り戻したときには、千影は怪物を追い払っていた。いや、少々語弊が有るか。地獄の最も深い場所に、突き落としただけであるから。

「さぁ…還えろうか…」

 どぎゅぅぅぅぅぅぅんっ!

「………へっ?」

 鉛のトビラに、銃弾が突き刺さったような音とともに、鏡の世界から吹き飛ばされる千影。恐怖から解き放たれた花穂が、思わず彼女に右ストレートをぶちかましていたのだ。千影の体からは生命エネルギーが迸っている。吸血鬼ならば一撃で縮れ飛んでしまうだろう。

「ふぇん、花穂、ドジっ子だから千影ちゃんに波紋流しちゃった!」

「フフフ、陽光をも退ける我が身……その程度の波紋、肌を通さないさ」

 いろんな意味で化け物な彼女であるが、次の瞬間。

「………うっ!」

 口から、吐いてはならない物が飛び出した。

「ふぇん、花穂、ドジっ子だから千影ちゃんに螺旋も放っちゃった!」

----------ショッキングな光景のため割愛(なりゅ倫)--------------

「今のはちょっと………刺激が強すぎたな………」

「可憐、少しビックリしましたけど、以前の四葉ちゃんほどじゃなくて安心しました」


「キモサではトントンだけどね」

 緑と紫色に汚れた床を、咲耶と可憐に手伝ってもらいながら、掃除する千影。緑色? そりゃだって、ちかちゃんだもん☆

「いや、なんというか……あの通常ではありえない尋常ならざる刺激が……気持ちよかったというか……癖になりそうというか………」

 お前もう、死ねよ。と言わんばかりの視線が集まるが、千影は意に介さない。コンコン、と鏡面を叩いている。

「しかし、弱ったね。今ので波長を忘れてしまった……今の化け物が仲間を呼び集めていたとしたら……少々困ったことになる……思い出すまでに暫く時間が必要だよ……」

 この場の軍師、鞠絵をちらりと見る。それを受けて、鞠絵は咲耶に指示を投げる。

「そろそろ鈴凛ちゃんを探してきてくれませんか? 正気に戻ってる頃だと思うので……多分、戻りづらそうにしている思いますから、上手く説得してください」

「判ったわ」

「可憐も行きます!」

「……掃除は私に押し付けかい?」

「自業自得ですよ」

 駆け出す咲耶と可憐。軽く千影をいなした鞠絵であるが、どたどたと廊下を、こちら側に駆け寄ってくる音に気が付いた。軽快な足取りは、姉妹の仲で一人しかいない。

「はぁはぁ、判ったよ! ボク、やっと判ったよ!」

 馳せ参じたのは衛。ベッドから目覚めてすぐに走ってきたのだろう。寝癖や着乱れが色っぽいが、スポーツで鍛えた彼女の瞳は、寝起きとは思えぬほど綺羅めている。呼吸を整える衛の頬は赤らいで、何事かしらん。非常な興奮状態にある。

「ボクにとってブラジャーは着ける物じゃない。
 嗅いだり被ったり、脱がしたりする物だったんだ!」

 あらゆる疑問が氷解したような、爽やかさ満点の笑顔で宣言する衛。澄んだ声が部屋の姉妹たちにより「ああ、何を今更」という空気を充満させた。だが千影の表情は一気に曇る。

「いけない! 今の衛くんの台詞で宇宙の運行が正常に戻ってしまう!
 早くしないと鏡の世界なんて不条理な物は消滅してしまうぞ!」

 千影の言葉にいっせいに、一堂は鏡を凝視する。するとどうだろう! 花穂の隣には、我らが救世主が高らかに笑声を上げているではないか!

「わっはっはっは、わはのはっ! 霧の都で大人気な美少女怪盗クローバーが本日は鏡の世界に出張大サービス! 今日は花穂ちゃんをチェキっと誘拐しちゃいマス!」

「うわー、空気読めー」

 花穂と同じ世界に唐突に現れた美少女怪盗クローバー! 突っ込んだのはようやく玄関から部屋に入ってきた、貴重な突っ込み役、鈴凛。しかし、そうは言うものの、12も居る姉妹のうちで、空気の読める者など皆無である。

「………ダメだ、その程度の不条理では相殺できない………
 花穂くんだけではなく………四葉くんも消滅してしまう………」

「チェキィ!?」

「んーっと、ヒナ、ムズカシイことは判らないけれど、すっごーい事になればいいんだよね」

「ああ、さすがはヒナたんだ。君の言葉はデルファイのご託宣よりも、なお真実を帯びる」

「まかせるの〜」

「うわ、雛子ちゃん亞里亞ちゃん! そんな所触っちゃダメぇ!」

 雛子と亞里亞は容赦なく、衛の服を脱がし始めた。幼女に襲われる美少年、もとい、美少女の図は非常に背徳的だ。故か亞里亞のスカートから取り出されるアイテムによって、見る見るうちに彼女の姿はありえない存在へと変化する。

「クシシ、『まもぶるばにー』だよ!」

 ………………ごくり………………

 皆の喉が鳴った。自分らが手がけたとはいえ、亞里亞や雛子さえも、その出来を改めて確認し、そして思った。「これはヤバイ」と。

 衛のショートカットにはバニ耳が取り付けられた。ブルマは一度脱がされて、網タイツとガーターが装着された。そして、尾てい骨の辺りには、丸くふわふわしたキュートな尻尾。バニ耳と尻尾は清楚な体操着の白である。ブルマと網タイツはもちろん、紺。

 さらにここに、亞里亞は恐ろしい物を追加した。足には赤いハイヒール。そう、衛にハイヒール。 どうしても、彼女のスポーツで引き締まった脚に目が行ってしまう。いや、眼が離せない。

「もう! こんな格好恥ずかしいよ!」

「衛さんって、いつから体操着姿でしたっけ?」

「今朝からずっと、だと思いますよ?」

 そう、衛は朝からブルマ姿だったのだ。まさか伏線になっていたなどと誰が思っただろう。臨界点を突破したコケティッシュさが姉妹といえども妖しい気持ちを掻き立てる。

「……うさぎさん」

 千影がポツリとつぶやいた。つぶやきながら怯える衛へと、歩を進める。

「うさぎさん! ちかのうさぎさん! ちかのだよお」

 あまりの破壊力に、まず千影が壊れた。いや、千影の壊れっぷりに他の姉妹がドン引きし、正気に戻ったというべきか。千影は衛を抱きしめると、無邪気に弄びはじめる。

「あははは、ぷりちー☆ ちかね、こんなうさぎさんほしかったんだ♪」

 完全に幼児退行した千影は、衛を本当に兎のようにあちらこちら触れ続ける。

「あつ、ああ、そんなところ、そんな風にされたらボク……はぁぁはぁぁはぁぁ」

「衛ちゃん、はぁぁはぁぁはぁぁ」

「あれ? 花穂ちゃん?」

「ほへ?」

 いつの間にか皆の輪に入っていた花穂の姿に、皆は目を見合わせた。

「わーん、花穂、衛ちゃんに見とれちゃって、思わず鏡から出て来れちゃった!」

 指摘された花穂はいそいそと、鏡に戻ろうとする。慌てて鈴凛が叫ぶ。

「戻るなぁ!」

「ああ、花穂ちゃんにこんなところ見られるなんて、ボクはボクはボクはぁ………」

「戻って来てください」

 恥じらいの臨界点を越えてしまった衛に、にっこりと微笑む鞠絵。

「「………あれぇ?」」

 こつん、鏡に頭を当てると花穂は呟いた。いや、向こう側にも花穂はいた。鏡面に映った姿ではない。向こうにもまだ一人、彼女は取り残されていたのだ。

「「わーん、花穂、ドジっ子だから思わず分裂しちゃったぁ!」」

「話が余計こんがらがりましたね」

「花穂くんがこちら側と、向こう側で二人………そして………うさぎさん、か………
 ………なるほど。別の手の方がよさそうだね………」

 衛の姿を見て醒めてしまった千影が、鷹揚なペースで何かしら考えている。

「あの、その、四葉……じゃない、クローバーも居ますよー?」

「鈴凛くん、この状況を一度に打破する方法がある………それには君の力が不可欠だ………」


「あっ、アタシ!?」

「ああ、メカ鈴凛くんを使えば、花穂くんを一人に戻し、かつ、こちら側に引き戻せる」


「何言ってんだよ! このままでいいよ! だって花穂ちゃんが二人だよ。 二倍だよ!
 ああ、もう、考えただけでボクはボクはボクは………うっッ」

 最後の「うっッ」は例によって春歌が当身を食らわせただけである。それ以外のナニモノでもない。信じろ。気を失った衛はなぜかユダレを垂らしながら、満足そうな笑みを浮かべているけれども。

「……やれるかい? 鈴凛くん……」

「ってか、それ、私、凄く恥ずかしくない?」

「私は見たいですね」

「えーい! やってやるぜ! メカ鈴凛転送! マリオネット イン ザ ミラー!!!」


「イエス、マスター」

 鞠絵の言葉がトリガーとなった。鈴凛は物凄い速度で手元のキーボードを入力した後、気合一閃、エンターキーを押した。鏡の上に、いや、もう一人の花穂と同じ世界に、鈴凛の写し身、メカ鈴凛が転送された。しかし、唯一異なるのは、メカ鈴凛はかわいらしい、バニー姿ということである。

「………私のうさぎさんコレクションにね………鏡を媒介に異界の扉を開くという伝説のうさぎさんが居てね………
 その力を応用したのさ………」

「そして、行くよ! 花穂ちゃん!! 一つに戻る!」

「「うん」」

「ライダーシステムオン! メカ鈴凛と合体!」

 続いて、メカ鈴凛の姿は、鈴凛に投射される。そこに現れるはメカ鈴凛と一体化した姿。メカ鈴凛を上書きした者(Rider)。ライダー鈴凛。とはいえど、傍目からするとバニ姿以外の何物でもないのだけれども。

「花穂ちゃんは戻ったようですけど……鈴凛さんは……」

「変身解除すれば元に戻るよん」

 心配そうな春歌に対して、ちゃきーん、と決めポーズを取るだけで何故か効果音が鳴る。その辺が、普通のバニ―とは一味違うところだろう。

「めでたし、めでたしですね」

「………ちょっと待ってクダサイ。四葉置いてけぼりデスカ?」

 〆ようとする鞠絵に対し、鏡の中に取り残されたクローバーは不安そうにつぶやく。大きな瞳は泣きだしそうなほど、潤んでいる。だが、その程度で動じる姉妹ではない。

「え? 四葉ちゃん? クローバーじゃないの?」

「アウチ! えーっと、四葉はクローバーです」

「だったら問題ないじゃない。今って四葉ちゃん、どこかに行ってるみたいだけど。鏡の世界に居るのはクローバーだし、怪盗って言うぐらいだから悪い奴よね? 助ける義理ないでしょ?」

 焦り始めたクローバーに対し、おもいっきり確信のニヤニヤ笑いを浮かべながら咲耶は言う。

「戻りたいデス! 四葉、どんなギセイを払ってでも、そっちに戻りマス!」

「まかせるの〜」

 亞里亞が再び札束を取り出すと、鈴凛の目の色が再び変わる。

「ふふふふふふふ、あのときしこんだあれをつかえば、いっぱつだよぉ」

 彼女が取り出したのは、髑髏マークの付いた妖しげなスイッチ。

「あわわわわ……」

「四葉くん……観念するんだ……我々も辛くは有るが……永遠の別れよりもまだ、幾分マシだろう……なに、嫌な記憶はまた、私が消してあげるよ……」

 恐怖に震える四葉に対し、ニヤニヤ笑いの千影が追い討ちをかける。

「もういいかなぁ? まちきれないよぉ それ! ぽちっとな☆」

 鈴凛がボタンを押すとともに、バン! 千影の頭が爆ぜた。

「うわ、千影ちゃんが爆発した!?」

「この、人でなし!」

 んんー、間違ったかな? とお約束の台詞を吐く鈴凛。この後、ライダーシステムの応用で実は鏡面世界に入れることが判ったため、案外あっさり、四葉は救出されました。

 余談では有るが、白雪特性スパムのフルコースは鈴凛が食材の減塩システムを構築する一週間、兄が一人で食べることになった。その際、彼の涙で流れ出た塩分はろ過され、「兄の塩」として一部に供されることになったのだが、それはまた、別の話。

 どっとはらい。




 


作者のあとがき

 ご無沙汰しております。御於紗馬です。『ちか・夏の扉』で振ったネタを拾って見ました。『仮面ライダー龍騎』のネタなんてアレかなー等と思っていたのですが、まさかアメリカでリメイク版『仮面ライダー ドラゴンナイト』が放映されようとは思っておりませんでした。世の中何が起きるか判りません。

 シスプリも第二ムーブメント起きないかなぁ…… ベビプリやってるから無理かなぁ(涙


なりゅーの感想

御於紗馬さんから、再び頂きました壊れギャグSS!
まさか前回のネタのひとつが、このような形で具現化するとは……そのリサイクル精神、イエスだね!

出だしからの小ネタが逐一ツボをつついてたまりません!
鈴凛の真面目とボケの使い分けと、白雪の天然っぷりが特にお気に入った。
最初からブルマだったとか、そんな小説ならではの見事な「隠し」のトリックとか大好き。
あと衛にブルマバニーでガーター網タイツとか……うん、なりゅーとはまた別な嗜好の良い趣味を拝ませて頂きました(笑

それにこの作品……単純に面白いだけじゃなく、すごいです。
ここまで全員壊しておきながら、過去話としても矛盾のない「制御力」はただただ賞賛に値しますっ!
花穂のドジに筋もなにもないのに、もはや「筋がないのが筋」になってるが素晴らしい(爆
けどそれ以上に、「上書きした者(Rider)」とか、巧いこと言い過ぎで感動した!!

「カオス」と「理」、二律背反の両立。こういう作品大好きです。
御於紗馬さん、見事な逸品をどうもありがとうございました!!

あ、ちなみにえろ方向では厳しく規制掛けてもグロ方向では若干ゆるい、それがなりゅ倫ですがなにか?(超マテ


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