いけないちかちゃん ちかセクシーシンフォニー

御於紗馬



 怪しげな実験室は、不健康な瘴気に包まれ、そしていつに無く重々しい雰囲気に包まれていた。今まさに、この部屋の主、12姉妹のうちでもっとも闇に近きもの、千影の新たなる研究が実を結ぼうとしている。紫色の煙が、苦悶に捩れ歪んだ如き試験管より吐き出され、続いて勢い良く漆黒の火炎が辺りを嘗め回す。

「これで………完成だ!」

 その瞬間、パイプオルガンは陰鬱な調べを奏でる。紡がれる楽曲は『オペラ座の怪人』。千影は「フハハハハハ」と、水木しげるの悪役の如くに高らかに哄笑する。その声は、普段の千影を知るものにはとても信じられないほど、大きく、しっかり、どっしりとした、狂気の笑い声であった。

「………ふう………久しぶりに朗らかに笑わせてもらったよ………
 ………可憐くん……… ありがとう……… おかげで雰囲気が出せたよ」

「どういたしまして、千影ちゃん。 可憐でよければ、いつでもパイプオルガン弾かせて下さいね」

 にっこりと微笑み、ちょこんとお辞儀するのは可憐。もっとも多彩でもっとも多感で、そしてもっとも、妹である妹。実際の所、演奏だけなら亞里亞の方が巧いのだが彼女は怖がって、千影の部屋には入りたがらない。

「いや………可憐くんだからこそ………この背徳の歴史に彩られた………
 忌まわしき鍵盤を従えることが出来るのだろう………」

 千影は遠い目で、何かしらを思い出すかのような表情を浮かべる。可憐は訝しげに首を傾げるが、千影が言葉を続けるので疑問を投げるのを控えた。

「可憐くんは………咲耶くんから………綺麗な音色を………奏でられているのだろうね………」

「いやだ! 千影ちゃんたら………もう、知りません!」

 膨らませた顔もまた可憐。名前の通りの少女は顔を紅色に染めて部屋から飛び出していった。その後姿に目を細めながら千影は言う。

「ふふふ、本当に初心だね………この程度のことで顔を赤らめるとは………しかし………
 私がやりたいことを聞いたら………彼女はどのような表情をするのだろうか………」

 千影は、内より溢れ出す衝動の疼きに堪えきれないような表情を浮かべる。普段はあまり感情を見せない彼女であるが、次第に心の中が表面に映し出される。その様は魔界に置いてきた彼女の本性が現世に召喚されたかのようだった。

「そう、私がやりたいことは………」

 空気の振動すら重々しく響く。魔術師は言葉を紡ぐ事でその一念を現実に反映させる。彼女は息を吸いなおし、己の計画がいかに困難で危うく危険なものであろうとも、乗り越える決意を込めて声にする。

「この『若返り薬』でッ! 愛しのヒナたんとッ! 『ふたりはプリキュア』ごっこをするッ!!」

 くわッ! と小池一夫ばりに目を見開く千影。その瞳は二人の未来予想図が描かれている。

「ひかりのししゃ、ヒナ・ほわいと!!」
「闇と暗黒の支配者………チカ・ブラック………」

 フッ、とクールな笑みを浮かべた後、千影は『DANZEN! ふたりはプリキュア(無印)』を、ノリノリで熱唱、いや、詠唱を始める。あたかも冥府の底より封じられた悪魔を呼び出すかのごとく。仰々しい仕草で体を捩り、太くこもった歌声を響かせた。

 以前、その様をチェキした四葉によると、

「アレは地獄の光景デス。沸騰する混沌の核の周りで盲目の小神達がやる踊りデス。
 人間の見るものではありマセン! 魔神ですら発狂しマス!
 知ってはならない禁断の知識だったのデス! それを………四葉見ちゃいマシタ!
 脳裏に焼き付けちゃいマシタ! 魂が冒されてしまったデス!
 もう生きてはいけマセン! 天国にも地獄にも行けマセン!」

 と、涙ながらに鈴凛に訴えたそうである。
 鈴凛によると、四葉は三分後にはゲームを始めて、すっかり忘れた風だとは言っていたが。

「………しかし………万全を期すには………実験が必要だね………
 例えば………今扉の外にうずくまっている………チェキチェキ娘なんてどうだろう………」

「Oh! NO!! またチェキしてはいけないものをチェキしちゃいマシタ!
 目がッ! 四葉の目が潰れマス! 脳がバカになります!」

 千影の部屋の外では、四葉が廊下を七転八倒しつつ身悶えしていた。

「とんでもない………言い草だね………」

 少々不機嫌に千影は四葉を見下ろす。四葉に秘密を覗かれるのは日常茶飯事であるので、千影も特に表情を作り直したりはしない。もっとも、どんな顔で怒ったところで彼女には微塵も堪えない。実のところ、千影はしっかり魔術的な防御策をとっている。だが、事前にどれほど結界を張り巡らせたところで彼女はやってくる。四葉の無邪気さが本能的に術を回避しているのか、「チェキ」という言葉に秘められた力によるものなのか、千影はまだ、確かめていない。

「あ、千影ちゃん、四葉のキオク消してクダサイ! 時間が巻き戻る様なヤツでもイイデス!」

 にやり。千影の口元が緩んだが、必死な四葉はチェキし損ねる。千影ははやる心を抑え、何食わぬ顔で先ほどの液体を、小さなグラスに注ぎ込んだ。

「………これを………飲むといいだろう………」

 紫の瘴気がふわふわと棚引いている。諸々の薬草・毒草、鉱物、動植物、この世には存在しない、幻獣の干物や生き血。それらが複雑な魔術的手順によって忌まわしくもおぞましい加工が施されているのだ。その製法の一部でも聞き及べば、精神に多大な悪影響を与えかねない代物である。

「よっ、四葉飲みマスッ!」

 しかし、何一つ知らない四葉は何一つ疑わず、差し出されたグラスを引っ手繰るように奪うと、どろりとした液体を嚥下する。

「うぇっ、ハミガキ粉の味デス!」

 うん? と、急にきょとんとした表情になる。そのまま、少しずつ、四葉の体が小さく、いや、幼くなっていく。膨らみかかっていた胸は一段と平たくなり、細かった手足も短く収まる。印象的な大きな瞳は顔が小さくなったためにもっと大きく感じられる。

「よ、よつば、ちっちゃくなっちゃいマシタ! ビショウジョがビヨウジョに!? じかん、もどしすぎデス!」

 切実な叫びを上げる四葉。しかし、見下ろす千影の相貌は、悪魔でも憑いたかのように震えだした。いや次第に震えは大きくなり、全身がガタガタと振動し始める。

「ど、どうしマシタ? やっぱり、失敗デスカ?」

「ああっ! あっア、ヒッ? あッあガアっ、アアッアッ! ッゥヒ!」

「だっ、大丈夫デスカ? ハッ、もしかして千影ちゃんはメカ千影ちゃんで、今まさにオーバーテクノロジーと超魔術が融合? オーラロードが開かれたら我断ちて空に至っちゃいマスカ? もしかしてイデが発動して宇宙ダイバクハツ!? って、四葉ってピンチの現在進行形デスカ!?」

 四葉が心配するまもなく、痙攣の間隔は次第に長くなってきた。しかし、その振動はだんだんと大きくなっていく。そして、千影は白目を剥いたままピタリととまった。口からはだらしなく、唾液が漏れている。四葉も思わず言葉を止めたが、静寂は突然に破られた。

「萌ッゥぇッうぇェぇヘぇぇッぇェエぇっ!!!!!」

「ヒイッ!」

 一言叫んだ千影、そして一言悲鳴を上げた四葉。

「ああ………その、怯えた表情………
 プニプニした手足! 頬擦りしたくなるようなホッペ! ペタンとした胸!
 最高だよ、最高だよ、最高だよ………」

 法悦の表情で歌う様に、幼児に戻った四葉に擦り寄る千影。
 ガタガタと震えるのは四葉のほうとなる。だが、彼女が嫌がれば嫌がるほど、千影の嗜虐心は募る一方だ。

「ふふふ………私が男の性を持っていれば、確実に勃起している所だよ………
 その硬さは鉄を引き裂き………そしてその熱は岩をも溶かすだろうね………」

 千影は何気なく「竜王のテーマ」を口ずさんだが、ドラクエを知らない四葉にとっては状況を悪化させる悪趣味なBGMにしか聞こえない。

「とりあえず、邪魔者はロープで縛られてね………
 ウフフフフフ………犯罪者の気持ちが………今はよく判る………
 心地よい………すばらしい感覚だよ………
 ああ、四葉くん………君の幼さは後でゆっくりと、存分に堪能させてもらうよ」

「あああ、シスターの一人が性犯罪者になっちゃ………ムガググ」

 どこからとも無く取り出した縄で、四葉をぐるぐる巻きにした後、どこからとも無く取り出したハンカチを猿轡の替わりにする。

「………やはり、最大の障壁も………この際だ………排除しておこう………」

 研究の成果に酔い痴れている千影は、他の妹たちも毒牙に掛けることに決定した。


「ちょっと! なんてことしてくれたのよ!」

 詳細は煩雑になるだけなの割愛するが、療養所の鞠絵とお屋敷の亞里亞、メインディッシュの雛子を除いた妹たちを、まとめて小さくしておいた。何、難しいことではない。お茶の時間、白雪の淹れたハーブティーに薬を垂らしておいたのだ。その独特な臭気に鈴凛あたりが難しい顔をしたが「『姫特製ブリティッシュ・タスマギア・ギニア高原ブレンド』らしいよ」と言い添えておいた。実際には、『姫特製ハイパーボリア・インスマス・レン高原ブレンド』だったのだけれども。

「ああああああああ、最高だぁ! その姿で勝気なんて! なんてツンツンなんだ!!
 ツンデレなんてもう古い! この私が断言する! 時代は素直クールッ!!
 私の頭に脳内麻薬がぁッ!! 『ロリプニン』や『プチペドロン』が分泌されるのを感ジル!
 もう、"仏契(ぶっちぎり)"って奴? 私ってグレイト? 私ってエクセレント? 最高にハイって奴だぁ!!!」

 咲耶の一喝さえ意に介さず、高らかに勝利を宣言する千影。さすがに分泌される物質も一味違っている。

「だめです! さくやちゃんにハァハァしていいのは、かれんだけです! かれん、いまから、ろりこんになります!」

「や、可憐ちゃんもちっちゃく成ってるし。ってか、思いっきり千影ちゃんの守備範囲内だし」

「ええん、かほ、ドジだからみんなをこどもにしちゃったぁ」

「無理だし。ドジ関係ないし」

「ボッ、ボクもろりになるよ!」

「訳判らないし」

 律儀な鈴凛は姉妹の突っ込みに余念ない。内心、「変わったのは外見だけで、中身は同じだな」なんて失礼なことが思い浮かんでないわけではないが、さすがに姉妹であるので口にはしなかった。

「いやーん、おさとうのたなに、手がとどかないですの〜」

「椅子を足場にしたら?」

「そうですの」

 白雪だけはまったく動じず、いつものように創作料理の開発に余念がない。もともと子供っぽい上に料理以外に能力を使わない彼女であるので、変わるべきものがないといえばないのかもしれない。

「やはりこのモノノケは、はやめにせいばいしておくべきでしたわ」

 小さくなった春歌がため息混じりにつぶやく。小さくなっても純和風。人形のような愛らしさはため息が出るほどであるが、千影は鼻息しか荒くならない。

「ふははははは、ハーレムじゃハーレムじゃ! 近親相姦の晴れ舞台じゃ!」

 脳みそが零れ落ちそうなほどネジの緩んだ千影があらぬことを口走る。料理に勤しんでいる白雪を除けば、ほかの姉妹たちは苦虫を潰したような顔をしている。本気で臨めば、勝てないわけではないだろうが、何せ子供の姿である。下手なことをすると元の姿に戻れなるのでは、という不安から様子を見に徹している。
 
「はぁはぁ、ようじょのさくやちゃん、はぁはぁ」

「はぁはぁ、ようじょのかほちゃん、はぁはぁ」

 二人ばかり、例外は居たけれども。

「あんた! まさか ひな子ちゃんをもっと小さくして………ああ、口に出すのもけがらわしいけれど、
 オムツプレイをするつもりね! そこまで人でなしのへんたいだなんて、思ってなかったわ!!」

「オムツ………プレイ……… ぐっ、ふっ、ウフッ ウフフフ♪」

 咲耶の鋭い突っ込みに、普段のクールな姿からは絶対に考えられない、野原しんのすけ張りのお下劣な笑みを浮かべる千影。後から花穂に、このときの表情を尋ねたところ、
 
「えっとね、花穂、竜崎先輩のおっぱいが羨ましくて洗濯バサミでつまみまくってみたいだなんて思ってないよ?」

と、いささか錯乱気味に答えたそうである。

「クフフ! 鼻血ビバビバな千影チャマ、チェキデス!」

「まさか、四葉くん………!! なんだ、その姿は!」

 思わず鼻を隠しながら千影は叫んだ。そこには誰であろう。英国きっての美少女探偵(自称)の四葉が、大人の姿になっているではないか。

「四葉、今度はオッキクなっちゃいマシタ」

 豊満になった胸を突き出す四葉。勢いでぶるんと巨乳が揺れた。さすが舶来だけあってすらりと高い背に素直に伸びた腕と足、そして豊かで健康そうな胸とヒップ。嫌味の無い肢体が、大人の体になったといえど非常に四葉的だった。

 千影は十字架を差し出された吸血鬼のごとく、数歩後ろによろめく。

「クッ、………これが南蛮より渡来したバテレンの妖術か!?」

「や、いろんな意味で千影ちゃんの台詞じゃない」

「じゃ、まさか私たちも?」

 そういった時には、咲耶の体も大きくなっていた。大きく、とは語弊がある。ただでさえモデル体型の彼女が、尋常でない進化を遂げていた。すらりと高い背はただ高いだけでなく、指の先から踵、脹脛から太もも、ヒップから括れたウエスト、そして背中からうなじに至るまでコレでもかと女性の曲線美が極めつくされていた。
 
 ボリュームのあるバストは真ん丸く、重力の影響など鼻先で笑っているかのごとき存在感を示している。そして特筆すべきはその表情。ただでさえ魅力的なその顔はセクシャルな妖艶さをたたえている。

「まぁ、ワタクシも」

 方や、春歌の方は艶姿というべきか。咲耶をカタカナだとすれば、春歌はひらがな。むっちりとした肉感は清楚な大和撫子というよりも、夜露に濡れる桃色吐息。

「ナニコレ、淫魔作成薬? ってか、何で服は破れないの?」

「なっ、何故だ? 精製は完璧だったはず………」

「スルーしないで下さい」

「で、どうして衛チャマは前かがみになってるデスか!」

「あっ、あれ? ボクどうしたんだろう。」

 妙なリアクションをとる衛。しかし、冗談として取らなかったものが一人。

「見たの? 衛ちゃん。 衛ちゃんは咲耶ちゃん、見たの?」

 瞳孔の開ききった可憐が、衛の視界をさえぎった。
 可憐も大人の姿になっていたが、そこにあるのは女の色気というよりも、嫉妬深き女の業。少女では出しようのない、年季のこもったどす黒い感情が負のオーラとして可視できる。なまじ整った風貌が却ってその恐ろしさを増幅させている。
 
「衛ちゃん? 今咲耶ちゃんの、可憐だけの素敵な咲耶ちゃんの素敵な体を、目に焼き付けましたね。そした可憐、咲耶ちゃんの素敵な姿は可憐だけのものですから、衛ちゃんの目を抉り出して、返してもらわなきゃいけませんね。可憐、ホントはこんなことしたくないのだけど、素敵な咲耶ちゃんは可憐だけのものですから、仕方ないですよね? 大丈夫ですよ、可憐、頑張って衛ちゃんの瞳から咲耶ちゃんの像だけ探しだして、あとは返してあげますからね。一年でも十年でも、頑張って探しますよ。あれ、でも、瞳は光を通すだけだっけ? 網膜ですか? 焼き付けたのは衛ちゃんの網膜ですか? そしたら可憐、咲耶ちゃんの素敵な姿は可憐だけのものですから、衛ちゃんの網膜を抉り出して、返してもらわなきゃいけませんね。可憐、ホントはこんなことしたくないのだけど、素敵な咲耶ちゃんは可憐だけのものですから、仕方ないですよね? 大丈夫ですよ、可憐、頑張って衛ちゃんの網膜から咲耶ちゃんの像だけ探しだして、あとは返してあげますからね。一年でも十年でも、五十年でも頑張って探しますよ。あれ、でも、網膜の情報は脳に保存されるんだっけ? そした可憐、咲耶ちゃんの素敵な姿は可憐だけのものですから、衛ちゃんの脳を抉り出して、返してもらわなきゃいけませんね。可憐、ホントはこんなことしたくないのだけど、素敵な咲耶ちゃんは可憐だけのものですから、仕方ないですよね? 大丈夫ですよ、可憐、頑張って衛ちゃんの脳から咲耶ちゃんの像だけ探しだして、あとは返してあげますからね。一年でも十年でも、五十年でも百年でも、頑張って探しますよ」

 息継ぎもせず一息で淀みなく呪詛の台詞を吐く可憐。衛も彼女の瞳を覗き込んでいたら彼女の狂気に感化され、闇へと飲み込まれていただろうか。運良く、衛の視線が可憐の胸元に行っていたのが不幸中の幸いだったかもしれない。

「あ、大丈夫だよ。衛ちゃんは四葉ちゃんと一緒で、三歩歩くと忘れるから」

「咲耶ちゃんの素敵で美麗で完璧な姿を、そんな短期間で忘れるなんてありえません!!!」

 鈴凛の突っ込みに振り向いた視線の先に四葉がいた。彼女はビシバシと咲耶の写真を撮っている。

「四葉ちゃん? 四葉ちゃんも、瞳に可憐の咲耶ちゃんの素敵な姿を」

「可憐ちゃんには、スペシャルビューティーでクールでホットなグラビア本にしてお渡ししマス!」

「四葉ちゃん、どんどん撮ってください。完璧なのを頼みますね」

「四葉はいつも、パーフェクトデス!」

「ちょっと待ってよ。製本するの私? って、ごめんなさい。可憐ちゃんその目止めて。 マジで怖いから止めて。」

 鈴凛は咲耶もノル方なので、わざと衣服をズラしたり下着を下ろしかけたり、際どいポーズを取り始めた。

「でも、肝心なところは見せてあげないの。妄想がキマった方がヌレるでしょ?」

「可憐、もう、大洪水です。箱舟だって難破しちゃいます」

 言葉と流し目だけで、可憐は轟沈した。というより、己の妄想に飲み込まれたというべきだろうか。彼女は外界の変化をよそに、ぶつぶつと一人事を言うだけになった。

「はーい、姫特製の『ムチムチ・プリン』完成ですの!」

 ぜんぜん動じてない白雪であるが、彼女自身が「ムチムチ・プリン」というに相応しかった。まさにスイートハニー。普段幼い彼女だからこそ洒落になる台詞も、今の姿ではとてもじゃないが洒落にはなるまい。

「そうか! あのハーブティー………迂闊だった。
 白雪くんの料理が混ざることで別の反応を起こしてしまったのか………」

「デモ、それじゃ四葉が説明できないデスヨ?」

「ってか、普段から白雪ちゃんの料理食べてるからじゃない? 耐性が付いてるっつーか。
 もちろん、千影ちゃんのミスって線も捨て切れないけれど」

 プリンに舌鼓を打ちつつ、四葉と鈴凛は話し合っていた。鈴凛もまさに「出来る女」といった感じである。タダ一つ足りないのはメガネぐらいなものだろうか。

「ちなみに姫特製『ショゴスと夜鬼の土星風カラメル』ですの」

「だから、そういう材料はやめて。いくら美味しくてもやめて」

「あああ、花穂ドジっ子だから、みんなを大人にしちゃった!」

「ドジ関係ないし」

「あ、あはっ、ボク、女の人になっちゃった………みんな女の人で………ボクも女の人………ハァハァ………」

「どこからどう突っ込んでいいやらわかりません」

「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」

「人語になってません」

「はぁはぁ、はァハァ、はぁはぁは、はあはぁ?」

「ぽぽぽっぽぽっっぽぽぽぽっぽっぽっぽっぽ?」

「謎言語で会話しないでください」

「えっとね、花穂、春歌ちゃんのおっぱいが羨ましくて洗濯バサミでつまみまくってみたいだなんて思ってないよ?」

「何をおっしゃいますか、花穂ちゃんこそ女の色香が香り立つようではありませんか」

「春歌ちゃんいきなり素に戻らないで下さい。っても、花穂ちゃん、グラマーさではちょっと凄いよね」

「え? ホント? 竜崎先輩も花穂のこと洗濯バサミでつまみまくってみたいだなんて思っちゃうかな?」

「それはどうかと」

「それはそれとして………こうは考えられないでしょうか? 私たちはみな、千影さんと血を分け…」

「うわ、全部言わないで! 説得力あるけど、むっちゃブルー入る!」

 いつのまにか、白雪のプリンを肴に勝手なことを言い合っている姉妹たち。いや、衛は衛で女性化(?)した自分を持て余していたし、可憐は可憐で暴走する思考を止められていなかったのではあるが。

 そんな中、千影は苦悶していた。一人床に蹲り、両手を頭で掻き毟っていた。床に頭をぶつけながら、絶望に苛まれていた。

「………私が………飲めば………成長した私は………胸が小さいままかもしれない?
 いや………それよりも………成長したヒナたんなんて………
 そんなぁ! いやだ! あんまりだ! あんまりだぁ!!!!」

 血の涙を流しながら号泣する千影の姿に、談笑していた彼女たちもようやく気がついた。いや、単に不気味だったので目が離せなくなったのかもしれない。千影はいつに無く取り乱しながら、悲しみの声を上げていた。そして、

「毛の生えたヒナたんなんて、あんまりだぁ!!!」

 そう、一声叫ぶと、彼女は床へと突っ伏した。ごつつっと、いやな音がした気がした。

「あーやっぱり、ただでさえ低血圧なのに鼻血とか血涙とか出すから」

「千影ちゃんも血の色は赤なんだね」

「アンビリーバボーデス、耳からも血がデテマス!」

「うわ、打ち所悪かったんだ! 救急車!!」

「人間の病院で治るの?」

「鞠絵ちゃんの病院なら!」

「いや、今のうちにトドメを! 人界に仇なす魔界のモノに鉄槌を!」

「春歌ちゃん過激すぎ。ってか、殺したぐらいじゃ死なないから」

「なら放って置いても大丈夫じゃない?」

「魔術拘束とか解けて、融合とかし始めたらいやだし。というか、始まってるし!」

「いやーん、千影ちゃん。姫が作ったプリン、美味しすぎるからってお皿や机まで食べちゃだめですの!
 おなか壊しますの!」

「白雪ちゃん、動じなさすぎ」

 散々失礼なことを言いながら、それでも花穂の程よいドジも相まって、千影の侵食も中和されていた。そして救急車が来たころには千影の傷も完治し、皆の体も元に戻っていた。余談では有るが、救急車に妄想から帰ってこない可憐が乗せられていったのはいつもの事である。

 さて、数日後。ほとぼりの冷めたある昼下がり。可憐は事の顛末を雛子と亞里亞に話していた。

「クシシ。またあの腐れゾンビが馬鹿なことしてたんだね。いまどきプリキュアなんて発想がソモソモ可愛そうだけど、でもまぁ、ノータリンだから仕方ないよね」
 
「可憐、いくら可愛くて可愛くてその柔らかなふくらはぎに顔を埋めたくて堪らない雛子ちゃんでも、そんなこと言ったらいけないと思いますよ」

「たーりーなーいーのー」

「うわ、テメーからは絶対言われたくねぇと思ったけど、可憐、自分だけは良い子で居たいから聴かなかったことにします」

 雛子と亞里亞は、まるで見詰め合うかのようにアイコンタクトを取っていたが、訝しげに小首を傾けた可憐のほうを向いてこう言い放つ。

「これね、ないしょのシミツだけど、ヒナ、オケケ生えてんだよ」

「ごーわーごーわーなーのー」

「マジですか!」

「じいやさんに頼んでしてもらったんだよ。じいやさんも、かなりしぶしぶだったけど」

「じいやもね………かわいそうなひとなのー」

「………あんまりだ…………」

 可憐はうつむいていた。いや、肩を震わせながら慟哭していた。

「毛の生えたヒナたんなんて、あんまりだぁ!!!」

 彼女は叫んだ。だがその姿は可憐のものではなく、紛うことか、千影のものだった。感情が高ぶったため、思わず正体を現したのだった。

「うわ、このキモゾンビ。可憐ちゃんに化けてるなんて罰当たりにも程があるよ!」

「死して尚余りあるの………ヤッちまいたいの………」

「了解しました、亞里亞さま」

 亞里亞のふわふわのスカートから、じいやさんが這い出てきた。手にするはP90サブマシンガン。5.7x28mm貫通弾という100m先の防弾チョッキすら貫通する特殊な弾丸を一分間に900発発射可能な個人兵装である。通常の人間では耐えられない。

 しかも、弾丸は聖別された銀製であり、その表面には余すところなくスレイマンの封魔の呪文が書き記されている。こんなこともあろうかと、対千影専用ウェポンとして特別にあつらえたものである。

 だが、亞里亞の冷たい視線に気がつき、じいやの動きは止まった。

「じいや………きもいの………千影ねえやより………きもいの………」

「うわ、じいやショック!」

 そういいながらも、じいやの目は甘く潤んでいた。次の言葉を待つかのように、従順そうな上目遣いでかしこまっている。

「じいやね、かわいそうな人だから、亞里亞が怒るとこうなっちゃうの」

「なんて羨ましい! 雛子くん! その勢いで私を罵ってくれ給え!
 薄汚れた雌豚と罵倒しながら折檻してくれ給え!」

「おまえキモイってば」

「ああん、ちか、蜂のちゅになっ ぶべらっ!」

 じいやから奪い取ったP90の弾丸は千影の体を無残にも引きちぎる。だが、この程度で滅びる彼女ではない。聖人の遺体を混ぜるぐらいしない限り彼女の活動を止めることは出来ないのだ。


「そういうわけで………不老不死の研究は打ち切ることにしたよ………
 もはや、手遅れというわけだね………ふふ、こんな私を笑ってくれ………」

 再び所変わって、千影の実験室。いつものように暗黒の瘴気に濁っている。

「で、それはそれとして、どうして四葉、縛られているデスカ?」

「それはね………持てる魔術の粋を尽くし………
 永久脱毛の研究に取り掛かることにしたからだよ………
 そう、良き研究には、良き被験者が必要なのでね………」

「あ、ソレはお門違いデス。四葉、生えてマセンカラ」

「マジデスカ!?」

「はぁはぁはぁはぁ………マジですか?…………
 まさか………こんなところに………凄いぞ! ラピュタは本当にあったんだ!」


「なーんて、四葉ちゃんが泣きついてきちゃって。
 や、3分もすればゲームしはじめて忘れちゃったみたいだけど」

 再三所変わって鞠絵の療養所。見舞いに行った鈴凛は鞠絵に事の次第を報告していた。

「へー、皆さん、お楽しみだったのですね」

「うわ、鞠絵ちゃん棒読み! ってか目が笑ってないよ」

「ええ、判ってますよ。私が一人寂しく点滴を打ってもらいながら外を眺めている間中、鈴凛ちゃん達は大人の体を持て余していたのですよね。ああ、私も鈴凛ちゃんの成熟した女の魅力を堪能したかったですわ」

「やっ、えっと、ごめんね。あわててて証拠の映像とか録らなかったから」

「でも、四葉ちゃんはちゃんと、鈴凛ちゃんも含めてみんなの写真、贈ってきてくれましたよ」

「うわ! いつの間に! ってか、このアングルってどうよ!?」

「ばっちり写ってますよね。ふふふ、見せたかったのではありませんか? この私に」

「うわ………えーっと………」

「それとも、ほかの誰かに見せたかったのですか? 誰でも良いのですか? 鈴凛ちゃんは、自分のいやらしい姿を他の誰かに見てもらうのがとても好きなのですか?」

「あああ………い………いやぁ………やぁ………」


 これ以上は危なくて書けないが、二人が羞恥プレイに興じていたころ、一連の報告を四葉より受けた兄は「毛の生えたヒナたんなんてあんまりだ!」と、血の涙を流しながら前のめりに倒れたそうです。
 どっとはらい。



 


作者のあとがき

恐らくは初めまして、御於紗馬と申します。

壊れた千影のギャグが読みたい、ギャグが読みたいと心に念じていましたら、
「じゃぁ、書けば良いじゃん」と天の声が聞こえてきたので書いてしまいました。
天の声ではなく、毒電波であったことに気が付いた時には
ほとんど全員壊れておりました。それでも、折角ですので投稿差し上げた次第です。

百合かどうかと言われると非常にグレーなような気がしますが、
私にはコレが限界でした。ギャグなら詰め込めるだけ詰め込みましたので
ギャグと言うことででお楽しみの程を。


なりゅーの感想

御於紗馬さんからの初の投稿SS、千影壊れギャグSSでした。
見ての通り、千影の変態性が恐ろしいほど引き出された、ギャグ以外のなにものでもない作品(笑
なんと言いますか、良い天の声をお持ちのようで(爆

多少、なりゅーの苦手なカゲキな描写(意訳)が見られましたが、そこさえ目を瞑れば、十分ギャグとして楽しめました!
もっとも、今後のためあえて書いておきますが、
「これ以上」はさすがにちょっと考えます、これでも自分的に十分レッドゾーンなので(苦笑
でも、それを差し引いても、くり広げられたストーリーはグッドです!

メインの千影の壊れ方はもちろんのこと、
四葉が良い味出していますし、何気に何事にも動じない白雪もお気に入りです(笑
複数のキャラが入り混じりながらも、きちんとキャラクターが出来上がっていて、
「エキストラ」がひとりも居なかった作風には、その実力を感じずにはいられませんでした!
全員大きくなった後のボケとツッコミのラッシュはもう最高潮に良いです!
可憐に化けていた点は、その描写も上手く、意表も突かれた部位でもあるので、個人的にはここもお気に入り。
最後に満を持して登場した兄の存在には、思わず「居たんかい!」とツッコミそうになりましたが、
それよりも「お前もかいっ!」のツッコミが飛び出てきました(笑

物語全体に渉って、凄まじい壊れっぷりを披露してくれながら、
にも関わらず破綻させずに通せている筆力には賞賛を送りたいです!
あらゆる意味で、なりゅーには描けないストーリーなので、
そういう意味での「良い作品」として、十分過ぎる程の評価に値します!
初投稿&良いギャグモノSS、どうもありがとうございました!

ちなみに、「どっとはらい」は「おしまい」の意味と分からず、こっそり調べてたのはないしょのしみつです。
 


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