それは、大体一週間前のことでした。
五月の大型連休も近くなって、ワタクシの姉妹の皆さんもどこへ行こうか、などと相談していた時、
衛ちゃんがリビングにいきなり飛び込んできて

「ねぇみんな!ゴールデンウィークの予定は決まった?」

…と、大きな声でその場にいたみんなに尋ねたんです。

「ゴールデンウィーク…ですか?わたくしは特に何もありませんけど」
まず、最初に答えたのは鞠絵ちゃん。
「私は…………四葉君と……花穂君と……………亞里亞ちゃんと一緒に………出かけることになっているが?」
続いて千影ちゃんが。
「姫はメカ鈴凛ちゃんと一緒にお出かけですの!」
「私も雛子ちゃんと一緒にどこか行こうと思ってるんだけど」
「可憐はピアノのレッスンがあるから、お出かけはできません…」
そして白雪ちゃん、咲耶ちゃん、可憐ちゃんが順にそれぞれの予定を並べていきました。
それにしても、みんなちゃんと予定があるんですね。
まだ何も決まってないワタクシとしては少しうらやましいですわね。
それにしても、誰か誘ってくれてもよさそうなものだと思うのですが。

そんなつもりは無いんですけど、なんだか除け者にされた気分です。
こんなことなら柿ノ本さんのお誘いにでも乗ろうかしら…
「春歌ちゃんは?」

「え?ワタクシですか?」
考え込みそうになったところで、衛ちゃんがワタクシに訊いてきました。

「うん。やっぱり約束してる?柿ノ本さんとかと…」
「いいえ。まだ何も予定しておりませんわ」
ワタクシは正直に答えておくことにしました。
柿ノ本さんが遠まわしに誘って下さってるようですけど、遠まわしすぎてちゃんとした
お誘いにはなっていませんから、別にほうっておいても大丈夫ですわね。

それに…
「それより衛ちゃん。そういうからには何かプランがあるんじゃない?さっきから何か持ってるみたいだけど?」

咲耶ちゃんが言ってくれたように、ひょっとしたら…衛ちゃんが誘ってくださるかもしれませんもの……ポッ



















 

貴女と一緒に






















衛ちゃんが持ってきたのは、ある田舎町で行われる山開きに関するインターネットの記事でした。
衛ちゃんが言うには、

「そんなに高い山じゃないけど、色々イベントもあって面白うそうだから、みんなで行こうと思って」

…とのこと。
宿についても、その町にホテルがあるらしく、一泊程度なら大丈夫ということでした。
「でも、この地図だとホテルからその山までの距離が結構あるような気がするんですけど…」
「大丈夫だよ!そんなに大きい町じゃないし、その気になれば走ってm「それは衛ちゃんだけですの」…そ、そうかな?「そうよ」」

衛ちゃんッたら…余程お出かけが楽しみなんですね。
はしゃぐそばから突っ込まれて…
ちょっとかわいそうだから助け舟を出してあげることにしました。

「ワタクシも、衛ちゃんほど速くは無いですけどそのくらいならなんとか……」
「だったら二人で行ってきて頂戴。私はそんな疲れそうな旅行はイヤよ」

もう!咲耶ちゃんッたらつれないんですから!
せっかく衛ちゃんが誘ってくれているんですから、一緒に行ってあげようとは思わないんでしょうか?

「えっと、それじゃ、春歌ちゃんは一緒に行くってことでいいのかな?」
「ええ、ご一緒します」
ワタクシがそう言うと衛ちゃんはうれしそうに目を輝かせて…ウフフ
そんな顔をされると、ワタクシまで嬉しくなってしまいますわ……ポポッ

「わたくしは……残念ですけど、行けそうにありません」
「あ…そっか、鞠絵ちゃんは無理できないもんね」
「はい、それに、鈴凛ちゃんも行かないと思います。この連休中は色々作りたいものが
あるって言ってましたから」
「う〜ん。それじゃあ、いけるのは僕と春歌ちゃんだけかなあ」

さっきまでのうれしそうな顔から一転して、浮かない顔になってしまいました。
そんな顔をされるt(略
ワタクシとしては衛ちゃんと二人っきりでも…いえ寧ろその方がいいのですけれど……
衛ちゃんは、みんなで一緒に行きたいと思っているんでしょうね…

「いいんじゃない?二人とも最近特に仲がいいみたいだし」
「ええ!?そ、そんなことないよぉ」
まあ、咲耶ちゃんッたら
衛ちゃんも恥ずかしがらなくていいのに………やっぱりシャイなんですね

こうして、ワタクシは衛ちゃんと一緒に旅行に行くことになりました。





















準備も滞りなく終わり、ワタクシと衛ちゃんはゴールデンウィーク初日に目的の町へと朝一番の電車で到着しました。

きれいな空気と、たくさんの緑がキャッチフレーズ。
ただし、それ以外には何も無い。といった感じの町でした。
もともと自然(と衛ちゃんとの旅行)を楽しむためにやってきたわけですから、不満もありませんけど。

特に興味を惹かれるようなものもなかったのでワタクシたちは早速山に登ることにしました。
流石に山開きということもあって大勢の人でにぎわっていますわね…
なかにはワタクシたちと同じ観光客らしい人もいました。

「うっわ〜!すごいな〜」
「このような木々の多いところに来る機会はありませんものね」

やはり、普段とは違う環境に来ると訳も無くどきどきしてしまうものですね。
「頂上のほうはどんな眺めなのかなあ?そんなに高い山じゃないけど…」
「それは登ってみてのお楽しみですね。きっと空気がおいしいと思いますよ」

そうして、ワタクシと衛ちゃんは一緒に登り始めました。
ワタクシたちはほかのみんなと比べて体力があるので、それほど息切れもせずに、
周りの景色を楽しみながら歩くことができました。

「みんなにお話したら行きたかった、なんて言われるかもしれませんね」
「そうだね。でもみんなそれぞれ予定が入ってるみたいだったし、今頃みんなも
楽しんでるんじゃないかな?咲耶ちゃんとか千影ちゃんとか」

ワタクシは頭の中で雛子ちゃんに犯罪者寸前まで擦り寄っていく姉と、
仏頂面で亞里亞ちゃんの手を引いているであろう姉の顔を思い浮かべました。

「咲耶ちゃんはともかく、千影ちゃんは無理やりあの三人の世話をするように
押し付けられた、という感じでしたけど」
「そうかな?だったら鈴凛ちゃんか鞠絵ちゃんでもいいと思うけど…あ、鞠絵ちゃんは
最近調子が良くないみたいだからだめかな。鈴凛ちゃんは…」
「不平たらたらでしょうね」
「だよねぇ」

そんな他愛ない会話も、ワタクシにとってはとても楽しいものでした。
普段はお稽古が忙しくて、衛ちゃんとお話しする時間も少ないので、このような時間は本当に大切なものなんです。

「そういえば、春歌ちゃん、お稽古は無かったの?いつもならお休みの日なんて関係なしにやってるのに」
「ええ、道場は開いているんですけど、出席は自由だったので、お休みすることにしたんです。
せっかく衛ちゃんからお誘いがあったんですもの、こんなときくらいお休みしても罰は当たりませんわ」

そういいながら、ワタクシはこの間のバレンタインのことを思い出していました。

ワタクシと衛ちゃんが、初めてお互いの気持ちを打ち明けあって、晴れて恋人同士の間柄となりました。
勿論、同性であることに嫌悪感を覚えたりもしましたし、大和撫子を志すものとしてこれでいいのかとも思いました。

でも、どんなに悩んでも衛ちゃんが好きだという気持ちは偽れなくて、そしてワタクシは
この気持ちを伝えることを決めたんです。

そして、いざ決心を決めてこれからという時に―――なんと、衛ちゃんのほうからワタクシに想いを打ち明けてくれたのです。
それから、ワタクシと衛ちゃんのお付き合いが始まったんです。


考えてみれば、二人っきりでこんなに遠くまで出かけたのは初めてですね。
まして今夜はお泊り…それも衛ちゃんと同じ部屋で………衛ちゃんと……ポポッ


…と、いけませんわ、ワタクシったらはしたないことを…
こういう楽しみは夜まで取っておくべきですわね



ふと、気づくと衛ちゃんが怪訝そうにこちらを見ていました。
「?どうしたんですか?衛ちゃん」
「春歌ちゃん、今、変なこと考えてたでしょ」
まあ!何かと思えば…
「変なことではありませんわ。ただ、今夜は衛ちゃんとどうすごs「十分変だよ」」

…つれない返事をされてしまいました。

























そんな会話をしているうちに頂上について、休憩もそこそこに私たちは周辺を散策することにしました。

「わあ…春歌ちゃん!見て見て!」
木々に囲まれた道を進んでいくと、前を歩いていた衛ちゃんが急に大きな声を上げました。
「どうしたんですか?…まあ」


そこには、ちょっとした空間があって、周りの景色を一望できるようになっていました。
それも、恐らく人の手は加わっていない形で。


「すごいね…ね!少しここで休んでいかない?人もあんまり来ないだろうし」

確かに、この場所はあまり人が来るような場所には見えませんわね。

「そうしましょう。ついでですから、ここでお弁当も食べちゃいましょうか?」
「うん、そうしよ!」

そしてワタクシは白雪ちゃんが作ってくれたお弁当を広げて、二人で一緒に食べ始めました。





暫くは、お互いに学校の話などしながら箸を進めていたのですけど、ワタクシが道場の話を
始めると、何故か衛ちゃんは考え込むようにして押し黙ってしまいました。
いえ、相槌は打ってくれるのですが、どこか上の空といった感じなのです。

「衛ちゃん、どうかしたんですか?」
「え?…ううん。なんでもないよ」

口ではそういってますけど、気分が落ち込んでいるのは一目瞭然でした。

「隠さなくてもいいんですよ。いえ、ワタクシの前では隠し事などしないでください」

そういってワタクシは衛ちゃんをまっすぐに見つめました。
衛ちゃんは言いづらそうに話し始めました。

「なんだか…ボクなんかが春歌ちゃんのことを好きでいていいのかな、って思ったんだ」

ワタクシはその一言で頭の中が真っ白になってしまいました。

「な………どうして、そんなことを」
少し間をおいてから、ようやくそういえましたが、まるで詰問するような調子になっていたかもしれません。

「春歌ちゃんはいつもきりっとしてて、かっこよくて、いろんなお稽古事こなしてて、
………優しくて、おしとやかで…ボクとは正反対で……そう考えたら、ボクは本当に
春歌ちゃんにつりあうのかなって思ったんだ……ひょっとしたら、ボクなんかより、
柿ノ本さんとかの方が似合うんじゃないかなって………そう思ったんだ」

ワタクシは、何も言わずに次の言葉を待ちました。

「それに、柿ノ本さんとなら、一緒にいる時間も増えるから…」
「衛ちゃん」

…やはり、不自然ですね。衛ちゃんの話は。
「なぜ柿ノ本さんに限定されてるんですか?こういうときは寧ろ男性を薦めるものだと思いますけど」
「え、えっと…それは……」
「ひょっとして…柿ノ本さんと何かあったんじゃありませんか?」

図星だったのか、衛ちゃんはその一言で黙り込んでしまいました。
友人の名が二度も同じような形で出くれば気づかないほうが難しいでしょう。
まして、その友人がワタクシだけでなく衛ちゃんともそれなりに関係のある人ならなおのこと。

柿ノ本さんが告白してきたのは、奇しくも衛ちゃんが私のところに来る直前でした。
あの時は私が何かを言うより速く立ち去ってしまったので後日、話をしておいたのですが…
いまいち伝わって無かったのかもしれません。

もう一度、きちんと話をして分かっていただかなければなりませんね。
それより今は………

「衛ちゃん」
呼びかけると、衛ちゃんは不安の色を湛えた瞳でワタクシを見つめてきました。

「衛ちゃんは、ワタクシのことが嫌いですか?」「そんなこと無いよ!ボクは、春歌ちゃんのこと…好きだよ」

即答で質問に答える衛ちゃん。
ワタクシはさらに続けました。

「ワタクシも、衛ちゃんのことが大好きです。だったら、それでいいのではないですか?
お互いに愛し合っているのなら、そこに釣り合う釣り合わないなどという話が介入する
余地はありません」
「でも…」
まだ何か言いたそうなそうな衛ちゃん。
変なところで頑固にならなくてもいいんですけど…

「いいんです。それより、せっかくこんなに遠いところまできたんですから、思い切り楽しんで帰りましょう」
「春歌ちゃん…」
「悩んでるなんて、衛ちゃんらしくないですよ。今日は憂鬱なことなど全部忘れて、笑顔でいてください。」
ワタクシも、笑っているときの衛ちゃんのほうが好きですから」

「…うん」
「ほら、笑って。悩むことなんて、帰ってからいくらでもできるんですから。
――二人で一緒に楽しんで、二人で一緒に悩みましょう」

時間なら、たっぷりあるんですから――そういうと、衛ちゃんもやっと納得してくれたようです。

「…そうだね。よーし、それじゃあもっとこのあたり歩いてみよう!」

そして、ワタクシたちはお弁当を食べ終えて散策を再開しました。
そのときに、衛ちゃんが言った一言。
帰った後に待っている問題を意識して、ワタクシ自身が沈みそうになっていたときに、
衛ちゃんがくれた一言が、ワタクシの中に、いつまでも響いていました。



「ありがとう、春歌ちゃん」
















                                             fin



 


作者のあとがき

今回の舞台のモデルは瑯の故郷です。
最後の春歌の心境は私の実体験が元になってます。
「貴女と私の始まりの日」の続きです。二ヶ月の間になにがあったのかはいづれ明かされます。
今回は前作と違って春歌視点です。のろけ要素がふえたきがします。
もっと細かい描写があっても良かったかも。
最後まで読んでくださった皆様。本当にありがとうございました。
それではまたいつか。何処かで。


なりゅーの感想

さすが作者ご本人が推奨してるだけあってのろけたっぷりでしたね(笑
前作の、バレンタインの話に当たる「貴女と私の始まりの日」と合わせると、
衛の春歌への想いだけでなく、春歌の衛への想いも垣間見れますね。
もっとお細かい描写はあっても良かったですよ、というか寧ろ大歓迎の方向で!(爆

春歌と衛は両方とも運動系なので、こういう運動に関係する話が合いますね。
その点で似たようなタイプと考えていたのですが、
正反対といわれれば、それもなるほどと感心してしまいました。

色々とお悩む「お堅い春歌ちゃん」は、なりゅー的には"らしく"感じました。
春歌の「こういうときは寧ろ男性を薦める」という諭し方は、
「百合のみの世界」ではないことを意識させてくれる点で好印象でした、こんな何気ない一台詞なのに(笑

衛が柿ノ本さんを意識していることや、自分で良いのかと思い悩むところから、
柿ノ本さんも絡んだ今後の展開に期待できそうです!
2ヶ月間の間に何があったのか、明かされる日を楽しみに待たせていただきます!
 


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