そのことがいやなのかと問われれば、決してそうじゃない。
夢が叶うことが、いやなわけない。

なのに、アタシは素直に、手ばなしでそれを喜ぶことが出来なかった。


何年間も、思い続けた夢なのに、ずっと努力し続けて、やっと手の届くところまできたっていうのに、今、アタシの心は、喜びよりも、悲しみに沈もうとしている。



だって、それは………アタシの願いが叶うっていう事は…………



貴女と、お別れしなきゃいけないということだから………

 





 

私は唯、 





貴女にさよならを言う練習をする










一週間くらい前のことだったかな……アタシが最初にその話を聞いたのは………

アメリカ留学。

以前、機械関係のコンクールで知り合った人が、アタシの作ったメカを向こうの大学の人に紹介したらしくて………そしたら、それが…作った本人のアタシが驚くほど評価されて、そのまま留学の話になったんだって。


本当は、今通ってる中学を卒業したらすぐにでもっ、ていう話だったらしいんだけど、アタシにはまだ日本で学ぶべきこともあるし、ある程度の英語はマスターしなければならないって言う理由から、準備期間の意味もこめて、高校を卒業してから、ということになった。


普通じゃ、絶対考えられないことなんだよね…
中学校に入ったばっかりのアタシに留学の話が持ち上がるなんて……

向こうに行ったら、少なくとも数年、場合によっては、そのままアメリカに住む事になるかもしれない。


それはつまり、長い時間、鞠絵ちゃんと会えなくなる、そういうことだった。
恋人で、最愛の人である鞠絵ちゃんに。


恋人………そう、私は鞠絵ちゃんとつきあっている。
女の子同士で、しかも実の妹である鞠絵ちゃんと。

普通の恋愛じゃないなんてことは分かってる。


でも…鞠絵ちゃんはアタシに自分の気持ちを伝えてくれたし、アタシも自分の気持ちにうそはつけなかった。
両思いだって分かって、お互いの気持ちがホンモノだって分かるから、禁忌ということが分かっていてもつきあっている。


後から聞いた話だけど、鞠絵ちゃんは、もう何年も前、鞠絵ちゃんが重い病気を患って療養所にいたころから、アタシのことが好きだったらしい。
鞠絵ちゃんのいた療養所は、遠いところにあって、すぐに会いにいけるような距離じゃなかった。
だから、自然に鞠絵ちゃんに会える機会も限られていた。

ずっと離れ離れで、ようやく一緒に暮らせるようになったっていうのに、今度はアタシのほうから離れてしまうって分かったら、彼女はどんな顔をするだろう…?

きっと悲しむだろうな……
好きな人のそばにいられるのが、どれだけ幸福なことか知っている彼女だから。

……アタシは、鞠絵ちゃんのそんな顔は見たくない。

鞠絵ちゃんが悲しむことを予想できるから、一週間たった今でも、彼女に打ち明けられないでいる。



―――――――留学までには、まだ何年もあるんだから、何も今すぐ言わなくても良いじゃない。


そんなことを考えて、そのことを考えないようにしている。

だって、もし、打ち明けたりしたら…………

お互いに、離れ離れになってしまうのが分かったら、きっとアタシたちの関係はギクシャクする。


今の、かけがえのない時間を、そんなことで失いたくはないから、アタシは留学の話を鞠絵ちゃんに黙っていることにした。






「どうしたんですか?鈴凛ちゃん」
「え?」

不意に、鞠絵ちゃんが、アタシに話し掛けてきた。
ボーっとしていたので、とっさには答えられなかった。

「考え事でもしていたんですか?」
鞠絵ちゃんが、もう一度尋ねてくる。

「う、うん。ちょっとね…」
アタシが考えていたのは、当然留学のことだ。
いけないなあ…鞠絵ちゃんとはなるべく自然な態度で話そうと思ったのに……
いきなりそんなこと言われるなんて…

「今作ってるメカのこと考えてたの」
ほんとの事なんて言えないから、それらしい理由を出して付け加えておく。
この理由ならたいてい誰でも納得してくれる。…ちょっと不本意だけど。だって、「アタシ=メカ」みたいじゃない?

ところが、そんなもっともらしく聞こえる理由に鞠絵ちゃんたら、

「うそですね」
なんて…
「な、なんで?本当だよ?」
思わず聞き返したアタシに、鞠絵ちゃんはすぐに答えを返してくれる。
「だって、鈴凛ちゃんがメカのことを考えているときって、もっと楽しそうな顔をしてるじゃないですか。今のは、もっと深刻なことで悩んでるように見えましたよ?」
う……鋭い。って言うか、鞠絵ちゃん、そんなにアタシの事よく見てくれてたんだ…

「鞠絵ちゃん、そんなにアタシの事よく見てくれてたんだ…
……思わず声に出しちゃった。だって、嬉しかったから………

そしたら鞠絵ちゃんったら、恥ずかしそうに、
「そ、それは…り、鈴凛ちゃんのことが好きだから、自然に鈴凛ちゃんのことを見てしまうんです」
って…かわいい〜♥♥

「そ、それより!!」

    がちゃ

鞠絵ちゃんがアタシの方に、思いっきり身を乗り出して、話を元に戻そうとしたとき、部屋のドアが開いて、雛子ちゃんが顔を出してきた。

「鈴凛ちゃん、ごはんできたって白雪ちゃんが…」


沈黙。


ちなみにこの時、アタシは鞠絵ちゃんの勢いに驚いて少しのけぞったところだった。
横から見ると、鞠絵ちゃんがアタシを押し倒そうとしてるように見えるかもしれない。
でも、この時の雛子ちゃんには“かも”じゃなくて、しっかりそう見えたようで、
「わぁ〜。鞠絵ちゃんって大胆〜。ごめんね?ヒナ、お邪魔だったよね?」

…まった。雛子ちゃん、まさか意味わかっていってるわけじゃないわよね?

「ま、待ってください、雛子ちゃん、これは…」

    バタン

鞠絵ちゃんが何かを言うより早く、雛子ちゃんはドアを閉めて出て行ってしまった。
アタシは呆気にとられて固まっている鞠絵ちゃんに声をかけながらドアに手をかけた。
「アタシたちも行こうか、ご飯できたみたいだし」

ま、何か気になるとこもあるけど、うまく話がそれてくれたから良しとしとこっと。



食事の間も鞠絵ちゃんは、アタシのことを気にしてたみたいだったけど、その場にみんながいたからか、特に何も追求しないでいてくれた。

…でも、これからいつまでもごまかし続けるのは難しいかもしれない。
鞠絵ちゃんは思ったより勘が鋭いし、アタシはアタシで、無意識に深刻そうな顔をしちゃうみたいだし…

だから、アタシはメカの製作に集中することで、鞠絵ちゃんと会う時間を減らそうと考えたの。
この方法なら、そんなに無理しなくてすむし、鞠絵ちゃんも、他のみんなも納得してくれるしね。


でも…………


「どうしたんですか?マスター」

メカ鈴凛に声をかけられて、アタシは初めて自分の手が止まっていることに気づいた。

「考え事でもしていたんですか?手元には気をつけてください」
………よりによってこの子にまで心配されるなんて…
一応生みの親なのに…………自分で「一応」って言うのも悲しいな。

「疲れているのでしたら、自室で休まれては如何ですか?」
なんか凄い気を使われてる…これじゃホンとにあたしの立場がないじゃない。
悔しいから少し反撃してやろう。

「メカ鈴凛がアタシの心配するなんてねー。これも白雪ちゃんとお付き合いをはじめた影響かしら?」
「…そうかもしれません。“恋愛”という経験データを得る事によって、私のAIに今まで見られなかった影響が現れることは十分にありえます」

冷やかしてやったつもりなのに、どうやら通じなかったようだ。
大真面目な返答を返されてしまった。
この子の相手をしてる白雪ちゃんって、実は結構凄い人かもしれない。

「はあ…まあいいわ。じゃ、今日はもうこのくらいにしとこうかしら。ところで、今何時?」
何気なく時計を見ると、既にみんなが眠りについている時間だった。


この時間に起きてるのは、千影ちゃんと咲耶ちゃんくらいね。
あ、でも咲耶ちゃんは最近そうでもないのかな?
かわりに、なぜか可憐ちゃんが遅くまで起きてるみたいだけど…

そんなことを考えながらラボの外に出ると、―――鞠絵ちゃんがそこに立っていた。

「鞠絵ちゃん…どうしたの?こんな時間に」
普段の鞠絵ちゃんなら、もうとっくに眠っているはずなのに、どうして?
…いや、なんとなく察しはつくけど。
すると鞠絵ちゃんは、
「さっきのお話の続きをしようと思ったんです。……少し、いいですか?」
案の定、アタシの予想とまったく同じ答えを言ってくれた。
しかし、こんな時間までラボの外で待ってるとは思わなかったわ。

「…うん、分かった。ここじゃ冷えるからアタシの部屋に行こう」

疲れてるから、って言う理由で断ることも出来たけど、鞠絵ちゃんの口調は、とても真剣で、アタシは、断れなかった。





「……………………」
「……………………」
取り敢えずアタシの部屋に来たものの、二人とも何もいえないでいた。
アタシは鞠絵ちゃんに留学の話を知られたくないから何も言えない。
鞠絵ちゃんはアタシが喋りたくなさそうなのが分かるから何も言わない。
さっきから二人でずっと黙り込んでいる。
「寒かったでしょ?体、大丈夫なの?」
先に沈黙を破ったのはアタシの方だった。
耐えられなくなった、の方が正しいかな。

「大丈夫ですよ。厚着してましたし、それに、最初はリビングで待っていましたから、長い間あそこにいたわけじゃありません」

「心配してくれて、ありがとうございます」そう言って鞠絵ちゃんは、やわらかく微笑んだ。


この笑顔を見るたび、いつも、思う。
どうやったら、こんなにやわらかな笑顔を浮かべることが出来るんだろう。
羨ましいとも思うし、こんなにいい顔で笑える人が、アタシの恋人なんだって思うと、誇らしい気持ちにもなる。
ずっと見ていたい―――――そんな笑顔だから。

でも、ずっと見ていたい笑顔も、すぐに真剣な表情に戻ってしまった。
寧ろ、辛そうな表情にも見える。
そんな顔にしたのは、アタシ。


そんな顔しないで。
鞠絵ちゃんのそんな顔は見たくない。

「アタシなら、大丈夫だよ。ここのところ、あんまりよく寝てなかったから、少し疲れてるの。そんなに心配しないで。明日一日、ゆっくりすれば直っちゃうよ」

鞠絵ちゃんには、笑顔でいてもらいたい。
今、本当のことを言ったら、きっと鞠絵ちゃんは悲しむ。
だから、アタシは努めて明るく、うそをついた。

「そうですか?それじゃあ、こんな夜中に迷惑でしたよね…」
「そんなことないよ。鞠絵ちゃんと話してて疲れるなんてことはないから」

これは本当だ。
鞠絵ちゃんと話をして、癒されることはあっても、疲れるなんてことありえない。

「でも、やっぱり疲れてるんでしたら、あんまり夜更かししない方がいいですから」

「おやすみなさい」――――そう言って、鞠絵ちゃんはアタシの部屋から出て行った。



ドアが閉められたあと、アタシは思いっきりベッドに倒れこんだ。

……多分、気づかれてないと思う。
大きく息を吐いて、アタシは自分が疲れていることに気がつく。

今までなら、絶対ありえなかったのに…
アタシは確かに、鞠絵ちゃんと話をすることで、疲れていた。



――――――でも、それは仕方ないことなの。


貴女に笑顔でいて欲しいから。

貴女が傷つくところを見たくないから。

今の、心地よい関係を、壊したくないから。

何も分からないまま離れれば、あなたも私もそれ程傷つかずにすむから。

別れのときに、傷つきたくはないし、傷ついて欲しくもない。静かに別れの時を迎えられるように……
        



だから、アタシは




少しでも、別れの悲しみを減らすために






貴女に、別れを告げる練習を、さよならを言う練習をする。
















                                            fin



 


作者のあとがき

多くの方にははじめまして。そうでない方、おはようございます。これを書いてるのは夜ですが。
捻くれ度は二十重スパイラルで御馴染みでもないSS書き、瑯でございます。読み方はろうです。
「『貴女』シリーズ」第三弾まりりんパート第一話、「私は唯、貴女にさよならを言う練習をする」いかがでしたか?
タイトル長ぇよ!!!って自分でつっこんどきます。
「ただ」を「唯」と表記してる時点でなんかアレだなあ。苦労の跡が見られるでしょう?(訊くな
初めて書くまりりんですが、…なんだこれ?話の展開が異様に早い気がする(汗
なぜか途中で雛子やら、メカ鈴凛やらが出てきたし…何故?
大体鈴凛の語りは難しい(泣
もっとうまくなりたい、久しぶりに切実に思いました。
話がリンクしてるのが分かるようにするのは大変なんですよね…
実を言うとこのまりりんパート、「『貴女』シリーズ」においては相当重要な位置にあります。
ストーリー的には中心といってもいいほどに。
「『貴女』シリーズ」について無駄に解説しときましょうか。(←するなよ…
このシリーズは同じ世界観をもってます。なりゅー様のサイト内にある、瑯の書いた、「貴女」とつく作品群のことです。
そちらの話を見ると、誰と誰が付き合ってるのかほのめかす文がありますよ。
今回も、まだ発表してないカプが微妙に入ってます。そう、あいつらです。
最終的には…全…七カプかな?を予定してます。
現在三つ。三月の終わりまでに全カプ出すぐらいはしたいなあ。
基本はマイナーですが、一組だけ違ったり。
余談ですが…雛子に変な知識を与えてるのは当然のごとく咲耶です。寝るのが早くなったというのも、当然雛子の寝込みをおそ…ゲフンゴフン!雛子にあわせてるからです。
あと、白雪がメカ鈴凛相手に、いちゃついてる話とかもそのうち書こうかなとは思ってます。
まあ、取り敢えずは、次に予定しているはるまもと、あのカプを書いてからでしょうね。
と、いうことで、次は恐らく(!?)バレンタインデーあたりにお会いしましょう?

追記:続編は当然あります。終わりかた半端この上ないし(汗


なりゅーの感想

良い……(ぇ

いや、もうその一言に収束するほどの感動を覚えました!!
これほどまでに完成度高めまりりんが拝めて、
まりりん大好きっ子ななりゅーとしても大満足、大感激ものです!!

まりりんにかかわる問題を見事に捕らえ、その上で鈴凛の心情の揺れ動き方や絶妙。
終わりが半端とはいうものの、それ自体でもきちんとまとまってる印象はそれなりにあるし、
シリアス的な内容でありながらも、ちょっとした小ネタ程度のほのぼの要素が入っていたりなど、
作品に巧みさを感じずにはいられません!

内容を繋げるのは大変でしょうけれども、その苦労を惜しまないが故、
立派に胸を張れるほど完成度を誇っているかと!!
やはり、苦労せずして良作は完成しないということでしょうか……(しみじみ
それをまりりんで行われたことが心底幸福でなりません……(笑

あとがきにあった「展開が早い気がする」は、なりゅー自身も覚えのあることです(苦笑
ですが、読んでる間は作品に引き込まれていたからか、
恋人関係から始まったこと以外は全然そんな感じは一切受けませんでしたね。
寧ろ鈴凛のその思い悩む様子こそがメインなんだから、全然大丈夫だったと太鼓判を押しちゃいます(笑

続編は気長にわくわく絶対無敵に期待します!!(無敵?
もちろん、その間に入るだろう他カプについてもですが。


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