私は玄関である女性を待っていた。
明日のクリスマスパーティーで振舞われる料理の材料の買出しを手伝うように頼まれたためだ。
この家には私以外に十二人の姉妹が住んでいる。その中で私だけが姉妹ではないのだがみんな親切にしてくれる。
それだけの人数がいるとこのような雑用も余りまわってこない。
私がやるのは私を作ったマスターとマスターの恋人である鞠絵様の身の回りのことだけだ。
そう、私は人間ではない。外見こそ人と変わらないが、内部には精密機械の詰め込まれたマスターの技術力の結晶だ。
しかし、そんなことは関係なく、この家の人たちは私を一人の人間として扱ってくれる。雑用を無理に押し付けられることもないし、マスターの手伝いも強制されてはいない。
私にこのような用事が言いつけられるのはそれなりに珍しいことだ。
今日は十二人姉妹のほとんどが恋人(といっても姉妹同士だが)と出かける予定になっていて私以外誰も時間が空いていないのだ。
と、そのような経緯で私に彼女の手伝いをするように頼まれたのだ。
機械の私に人並みの友人関係があるはずも無く、別段用事も無かったので承諾した。

そして今、私は今日一日お供することになった女性が準備を終えて出てくるのを待っている。
    パタパタパタ
そんなことを考えていると彼女のものらしき足音が聞こえ、
「メカ鈴凛ちゃ〜んお待たせですの〜」
その女性、白雪様がなぜか満面に笑みを浮かべながらやってきた。



 

貴女の見つけた私の想い





今、私は白雪様と一緒にショッピングモールを歩いていた。
目的地のデパートに向かう途中なのだ。
しかし、私はどうにも疑問に思うところがあった。それは…
「白雪様」
「何ですの?メカ鈴凛ちゃん」
「…なぜ私と手をつないでおられるのですか?」
思わず口にした私の疑問には答えず、白雪様は逆に質問してきた。
「メカ鈴凛ちゃんは姫と手をつなぐのがいやなんですの?」
「それは…いやではありませんが」
白雪様の質問に私はやや考えてからそう答える。疑問に思いはしたが、いやかと問われればそういうわけでもない。
「でしょう?だったら大丈夫ですの。姫もメカ鈴凛ちゃんとこうやって歩きたいんですから。・・・
ムフン
そういって白雪様は自分の世界にいってしまった。答えになっていないとも思ったが、これ以上追求しても同じ会話が繰り返されるだけに思えたのでやめておいた。
そんなやり取りをしながら私たちは目的地に向かっていた。



目の前で白雪様が無邪気に笑っている。
私と白雪様は適当なレストランに入って昼食をとっていた。もっとも私は食事が出来ない、と言うよりする必要が無いから、もっぱら白雪様が食べるのを見ているだけだが。
あの会話の後、白雪様があちこち寄り道したために予定が遅れてしまっているのだった。
「ところで白雪様、荷物はどのくらいになるのでしょう」
何気なく尋ねた私の一言に、白雪様は少し驚いたような顔をして少しの間考えてから答えた。
「うーん…そんなに多くはならないんですの。二人で分担すれば寧ろ余裕なんじゃないかしら」
そして白雪様は私に意味深な笑みを送った。
「…?」
私は怪訝そうな顔で白雪様を見―――…ようとしたが私には表情を変える機能がついていないのを思い出し、軽く首をかしげることで疑問をあらわした。
「ふふっ♥♥
「どうかなされたんですか?」
私はついに疑問を口にした。
すると白雪様は決まり悪そうに、しかし顔は笑ったままで答える。
「ごめんなさい。でも、今日のメカ鈴凛ちゃんはいつもより口数が多いんですもの」
そしてまた嬉しそうに微笑む。しかし、私には白雪様の言うことが理解できなかった。白雪様が喜ぶことと私の口数に何か関係があるのだろうか?暫く考えて見たが回答は見つからなかった。
白雪様に聞いて見ても、
「そのうち教えてあげますのっ♥♥
などと返され、まともな回答は返って来なかった。
「さあ、そろそろ行きましょうか」
白雪様が話題を打ち切るように言って立ち上がったので私もそれに倣った。
疑問は解決していないが白雪様が言うならそのうち教えて頂けるのだろう。
これ以上追求する必要も無いと判断し、私は黙って白雪さまの後ろについて店を出た。



昼食の後も白雪様は目的地に向かわずあちこちの店を回っていた。
私がまたも疑問を口にしようとすると絶妙なタイミングで「次はあの店に行ってみましょう」とか「あ、これかわいいですの」などと言って私をひっぱていくので話すタイミングがつかめない。
そんな感じで歩いていると白雪様が私に
「メカ鈴凛ちゃんはどこか行きたい所はありますか?」
と訊いてきた。
私はチャンスだと思い、彼女に尋ねてみた。
「白雪様、明日の料理の材料は買わなくてもいいのですか?」
私にすれば、当然の疑問を口にしただけだ。今日はそれを目的にやってきたのだから。
しかし白雪様はなぜかじっと考え込むように俯いてしまった。
「白雪様…」
「メカ鈴凛ちゃん」
如何なされましたか、そう続けようとした私の言葉を遮って白雪様はきっぱりと言った。
「あと一箇所…あと一箇所だけ付き合って欲しいんですの。そこで、さっきの質問にも答えてあげますから」
そういって白雪様は歩き出し、すぐに私も続いた。
これが人間でいうところの「直感」なのだろうか。
なぜか、何も言わずに白雪様と一緒に行かなければ行けない気がした。
手は、つながなかった。



白雪様と私がやってきたのは町外れにある、人のあまりいない小さな公園だった。
先程二人でベンチに座ってから白雪様は何も言わない。
具合が悪い、というわけでもなさそうだった。
「メカ鈴凛ちゃん…メカ鈴凛ちゃんは、誰かのことを好きになったことはありますか?」
私が失礼にならない程度に白雪様の事を観察していると不意に白雪様が話し掛けてきた。
「難しい質問ですね。私には感情がプログラムされていませんから」
白雪様の唐突な問いに、私は事実を答えた。学習機能こそ備わっているが、「感情」と呼べるものは無いはずだ。マスターもそのようなことを言っていた。
しかし白雪様はゆっくりと首を横に振り、私の言葉を否定した。
「メカ鈴凛ちゃんはそう思ってるみたいだし、鈴凛ちゃんも気づいてないみたいですけど…以前、メカ鈴凛ちゃんは姫に言ったんですの『みんなが私を一人の“人”として扱ってくれることを嬉しく思っています』って」
驚いた。確かに私はそのようなことを言った。だが、白雪様がそれをここまではっきり覚えているとは思わなかった。
そう言われてみれば、私は確かに白雪様たちのことが好きなのかもしれない。なぜ、私に「感情」らしきものが現れたのかは分からないが。
そのことを白雪様に言ってみると、彼女は「でしょう?」と微笑んで更に言葉を紡いだ。
「姫にも今、好きな人がいるんですの。メカ鈴凛ちゃんの『好き』とは少し違うけど…」
「それは…『ライク』と『ラブ』の違いですか?」
私がそういうと白雪様は意外そうな顔をした。
「マスターが以前そのようなことを教えてくださいましたから」
私は質問される前に説明しておいた。
あの時、マスターに言われたときはよく分からなかったが、今なら少しは理解できる気がした。
「そう…メカ鈴凛ちゃんの言うとおりですの…姫は、メカ鈴凛ちゃんみたいに『家族』として好きになるんじゃなくて、その人のことを…愛して…しまったんですもの。そう…」
そこで白雪様の言葉が途切れた。『家族として』では無いという事は白雪様の思いの人もやはり御姉妹、つまり同性で、しかもすでに誰かと付き合っているんだろう。白雪様の姉妹の中で恋人がいないのは白雪様だけだ。
「…メカ鈴凛ちゃんのことを」



……白雪様はいったい何を言ったのだろうか。
私は自分の聴覚センサーを疑った。
今、白雪様は私に対して「好き」と言ったのだろうか?
私が混乱していることに気づいていないかのように――――いや、実際気づいていないのだろう。独り言でもつぶやくように白雪さまは話し始めた。
「ずっと前から…いつのころからか、メカ鈴凛ちゃんが機械なんかじゃなくってちゃんとした『女の子』なんだって分かった時からずっと……好きだったんですの。今日だって、メカ鈴凛ちゃんと出かける時間が欲しくて…でも、姫は明日の準備で忙しいから無理だと思ってたんですの……そしたら咲耶ちゃんが、準備なら私たちにも出来るから二人で出かけてきなさい、って。…姫ね、ずっと、この気持ちが誰にも気づかれないようにしてたつもりなんだけど…やっぱり咲耶ちゃんはごまかせなかったんですの」
そういうことだったのか。道理でまったく関係の無いところに行くわけだ。
「白雪様……それは、私のことを、その…恋人としてみて頂ける、ということでしょうか」
私のこの日何度目かの疑問に、白雪様は今日の中で一番驚いた顔をした。
「どうかなさいましたか?」
白雪様があまりにも驚いた表情をしていたから私のほうから更に尋ねてみた。
「だ、だって、その言い方じゃあ、まるでメカ鈴凛ちゃんのほうから姫に告白してるみたいで…」
恥ずかしいんですの…そう言って恥らう白雪様の様子を見て、確かにあの言い方ならそう思われるだろうといまさらに反省する。だが――――――
「白雪様」
「え?」
「…白雪様さえよろしければ、私を白雪様の恋人にしていただけないでしょうか」
私の言葉に白雪様の目が真円を描く。よほど意外なことだったらしい。
「い、良いんですの?」
「はい……私にはまだ感情も恋愛もどんなものか分かりません…ですから教えていただきたいのです。白雪様、貴女に」
そう、それが、私の「気持ち」だ。私のそれが本当のものかは分からない。
「分からないなら、確かめていけばいい。一人で確かめるのは難しいけど、愛する人とならきっと辿り着ける」私がマスターから教わったことだ。実感する日が来るとは思っていなかったが、今の私の「気持ち」を表すのにこれ以上適した言葉はいくら語彙を検索しても見つからなかった。
「メカ鈴凛ちゃん…ありがとう……とっても、嬉しいんですの」
白雪様が微笑む。見慣れたはずのその笑顔が、なぜかとても特別なものに思えた。



「そうですの!!恋人同士になったんだから、ちゃんと行動で示さなきゃ駄目ですの!!」
いきなり白雪様が大声をあげた。
「行動で、ですか?」
「行動で、ですの」
尋ねた私に白雪様は顔を近づけながら答えた。彼女が何をしようとしているのか予想はついたが、拒もうとは思わなかった。私たちはもう、「恋人同士」なのだから。


「恋人になったお祝いと――――――」



「姫からメカ鈴凛ちゃんへの―――――――」





「一日早い、クリスマスプレゼント――――――――」







 

Fin





作者のあとがき

なりゅー様に捧げるクリスマス寸前激マイナーカプSS。
多くの方々にははじめまして、瑯と申します。掲示板で見かけたことのある人もいるかもしれませんね。
さて、今回クリスマスシーズンということで突発的に思いついたネタでシス百合SSを書いてみました。初めてのことなので随所に苦労の跡が感じられるかもしれません。最後まで読んでくださった方はありがとうございました。
このカプは私の脳内のマイナーカプ三本柱の一柱です。で、一番手っ取り早く作品で示せるカプでもあります。
裏話でもしようかと思ったんですが精根尽き果てました。
とりあえずこれで私も勝手にマイナーカプ推奨委員会シス百合事業部会員を名乗らせていただきます。
最後に、拙作という言葉がこの上なく似合う私のSSを最後まで読んでくださった皆さんに、最大級の感謝を送ります。ありがとうございました。


なりゅーの感想

瑯さんからの初投稿SS、メカ鈴凛×白雪のクリスマスイブのイブ話でした!
まさかこの高難易度カップリングを、初のSSで挑むとは、もう脱帽ものです。
存分に「マイナーカプ推奨委員会シス百合事業部会員」を名乗ってくださいませ(笑

意外とさっぱりと回答を導く辺りなんかはメカ鈴凛らしかったですし、
料理はなかったけど、白雪も白雪らしかったと思います!

初めてと仰られた割には、素直に「上手い」と思える丁寧な文章で、とっても読みやすかったです!
時期的にもクリスマス・イブではなく、あえてその前日を選ぶなど、
そういうちょっとひねくれた考え方、好きです(爆

ぶっちゃけ、出だしでちょっとだけ「苦手なパターンかな……」とか思っちゃったりしたんですが、
いざ読んでみると、考えていたものとは違う展開で、更に結構引き込むものもあり、
細かい表現も上手でいてかなり読み易かったですし、内容もしっかりと出来ていて、
素晴らしいの一言に尽きる一品でした!


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