涼風が心地よく吹く晴天なある日。私はある用件の為にある人の下へ一人で来訪した。

その人の家に到着し、ドアの前に立つ。そして、ゆっくりとしかし力強くドアをノックした。

家の主が出てくる短い、本当に短い間、私は自分の身体に微かな強張り、頬に少し赤みが差しているのを感じた。これが人間で言う‘緊張

”なのであろうか。私は自分の胸に手を当てた。人ならばこういうときは心臓の心拍数が上がるというが、機械の私には心臓がないからそ

ういう事はない。だが、そういうのを除けば、私は今‘緊張”しているのだろう。それもそうだ。何せ、独りで他人の家に赴いて、しかも

一応私情を話しに来たのだから。対人経験がそれほど豊富ではない私にとってはそれが顔見知りとはいえ緊張してしまう。生来の内気な性

格がこういうときに恨めしく思うものだ。

やがて、足音が大きくなってきた。ドアの鍵の音、ドアが開けられる音がして、その人は出てきた。

大きなリボン、大きなエプロンが特徴的なフリルなミニスカート、清潔さを感じさせる白いニーソックス。まるで、活発さが売りなお姫様

という風情の可愛らしい少女が笑顔で私を見ていた。私はお辞儀をして彼女に挨拶をした。

「こんにちは、白雪様」

「こんにちはですの、メカ鈴凛ちゃんvv」

白雪様も明るい声で私に挨拶を返してくれた。



                


 

消えることなき甘いメモリー









突然の来訪だというのに白雪様は迷惑そうな顔も見せずに快く私を迎えてくれた。リビングのテーブルを挟んで私達は相対した。

「で、今日はメカ鈴凛ちゃんお一人で姫に何か御用ですの?」

白雪様は私にそう問いかけて、ハーブティーを一口啜った。私の前にもハーブティーが湯気を立てて置いてある。私は機械だから飲めない

。白雪様もそれを知っているが、それは私を一人の客人として、人として遇してくれている表れと私は解っていたので、私は形だけカップ

に口づける。そうして、カップを静に置いた。

「実は、白雪様に料理を教えてもらいたいと思って来たのです」

私はその理由を語り始めた。

マスターは料理が苦手だ。いや、作れることは作れるのだが、作れるのはサンドイッチやハンバーガーなど、所謂‘はさむ”系の料理しか

出来ないのだ。

マスターは料理ぐらい出来なくても人間死にはしないと開き直ってるのだが、食事をしない機械の私でさえもソレはどうかと疑問を口にし

たくなる。しかも、料理なんてと日頃から言ってるワリには、たまに療養所からマスターの家に泊まりにこられる鞠絵様がお作りになられ

る料理の数々を嬉しそうに残さず食されている。言動と行動が矛盾している事にマスターは気がついてるのだろうか?

鞠絵様もマスターの日々の食生活の体たらくぶりを察しているから、お作りになられる料理の数々は栄養のバランスの取れた一級品をお作

りになられる。鞠絵様の滞在中はホコリを被っている台所が人並みに活気づく。しかし、鞠絵様は月の大半は療養所で過される身。月に数

日しかマスターの家に泊まる事が出来ないのだ。鞠絵様がお帰りになられたら、マスターの食生活はたちまちサンド系とインスタント系な

日々に逆戻りする。

このままではいけないと私は思った。せめて、マスターと鞠絵様が一緒に暮らす日が来るまでは、何とか食生活にだらしなさすぎるマスタ

ーに代わって、私が家事(料理)をやらなければいけない。

そう決心した私は、料理本やTVで情報収集を始めた。しかし、知識は集まっても何かが足りないと思った。そう、知識だけでなく実践

データも必要なのだと私は考えたのだ。

「それで姫の所に来たのですね」

「肯定です。白雪様の調理様子を生で見る事によって実践データを採取します。そうすれば、私の料理に関するデータはより完璧なモノと

なるでしょう」

私はそこで言葉を切って白雪様を見据えた。そして、少し躊躇いながら、私のデータ収集に付き合ってもらえるか。と、問うた。

白雪様は一分程、人差し指を顎に当てて考えてたが、やがて、笑顔で私の要求を了承してくれた。私は安堵して、深く頭を下げて感謝した

。だが、白雪様はすぐさま「ただし」と付け加えた。

「一つ条件があるんですの」

「条件・・・・・・ですか?」

私が驚いた顔をすると、白雪様は笑顔で条件を告げた。

「メカ鈴凛ちゃんも姫と一緒に料理をするんですのvv」










「メカ鈴凛ちゃん、そこの牛乳を取ってください」

「わかりました」

「あっ、ソレはもっと優しく掻き混ぜないといけないんですの」

「りょ、了解です」

それから数分後、私と白雪様はキッチンでクッキーを作っていた。

白雪様曰く、「知識だけでなく体験することも大切なんですの。それに、まずは比較的簡単なモノから作って慣らしていくんですの」らし

い。私は白雪様の指示に従って、材料を入れたり掻き混ぜたり捏ねたりした。

そして、型をとり、オーブンに入れた。後は完成を待つだけだ。

「フフフ、今日はいつもより手際よく出来たからきっと成功するんですの。メカ鈴凛ちゃんも沢山手伝ってくれたし」

「いいえ、こちらも滅多にない体験の場を与えてくださって感謝しています」

メカ鈴凛ちゃんは真面目さんですね。と白雪様はお笑いになられた。私は、親の教育が良いのでと答えたら、白雪様は今度はお腹を抱えて

大きな声でお笑いになられた。何がそんなにおかしかったのだろうか?私は首を傾げた。

オーブンの電子音が微かに聞こえる。キッチンはその音を除いてはとても静かな雰囲気であった。時折オーブンを見ては焼き加減を見ると

いう単調な作業しかやらずに、私と白雪様は静かに完成を待っていた。けど、こんな沈黙は私は嫌いではなかった。

どれほど経過したのだろうか、いつのまにか白雪様が私の前に立っていたのだ。

「ねぇ、メカ鈴凛ちゃん」

「なんでしょうか、白雪様」

「料理で一番大事な事ってなんだと思いますか?」

「大事な事?」

突然の白雪様からの質問に、私は顎に手を添えて自分のAIを分析してみた。

そして、出た結論は‘新鮮で良質な材料”‘食欲をそそる見た目”‘効率よく上手に調理できる技術”であったのだが、それを述べると、

白雪様は首を横に振って「違うんですの」と仰った。

では何なのだろうか?私はさらに考えてみたが、どれも一番となるには何か足りないモノばかりであった。私はAIをショートさせんばか

りに悩んだのだが、結局は大事な事というものは解らなかった。

「白雪様、一体料理で一番大切な事とは何なのですか?」

「うふふ、それはですね」

白雪様はニッコリとした笑顔を浮かべた。

「愛・・・なんですのvv」

「愛?」

私は白雪様の返答に困惑してしまった。愛とは、人が誰かに好意を寄せる感情の一つであるが、それが何故料理を作るときに大事な事なの

だろうか。私は何と言っていいか解らずに沈黙するしかなかった。

「なんでなのか解らないってお顔してますね。メカ鈴凛ちゃんは」

私の沈黙に困惑を感じとったのか、白雪様はそう仰られた。しかし、私の理解力のなさを怒ってるワケでもなく、相変わらず優しい声音と

笑顔であった。白雪様は一呼吸置いて再び話始めた。

「どんなんい料理が下手でも‘愛情”があれば味は補えるし、料理が上手だったら、その料理はもっとおいしくなれる。愛というのは誰も

が持っている最高級の調味料なんですの」

「・・・・・・しかし、私は機械の身。愛というものが備わってる筈がありません」

私が自嘲を込めてそう言うと、白雪様は両手で私の頬を包んだ。私は白雪様を見下ろした。白雪様は私を真っ直ぐに見上げていた。

「機械なんかじゃないんですの。メカ鈴凛ちゃんはメカ鈴凛ちゃんなんですの」

その言葉に私は目を見開いた。

「私は・・・私?」

「そうなんですの!だからちゃーんとメカ鈴凛ちゃんにも心はあるんですの。少なくとも、姫はそう信じてるんですから」

白雪様の言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。熱センサーの故障か、動力源の微暴走か解らない。しかし、人

間はこういうの感じを‘感激”や‘嬉しい”と表現するのだろう。そう思うと、私はさらに胸の奥が暖かくなるのを感じた。

私は白雪様に「ありがとう」と呟いた。私にもあるであろう‘想い”を込めて。白雪様は小さく声を上げて笑った。

「どういたしましてですの。・・・・・・あっ、そういえばメカ鈴凛ちゃんにあげたいモノがあったんですの!」

「あげたいモノ?」

それは何ですか。と、問おうとしたとき、私は右頬に柔らかく暖かい感触を感じた。視線を向けると、白雪様の顔が私の頬にくっ付いてい

た。そう、私は白雪様に頬にキスをされてたのだった。

「し、白雪様!?」

「メカ鈴凛ちゃんの料理が成功するおまじないなんですのvvムフンvv」

私から離れて、白雪様は笑いながら言った。

モニターの光調整装置が故障しているのだろうか、光が大量に差し込んでるわけでもないのに、白雪様の笑顔がとても眩しく見えたのだ。


私のメモリーに強く焼きつく程に・・・・・・・・・










「マスター、夕食を作りましたので召し上がってください」

その夜、私は白雪様から習った様々な料理の成果をマスターの前で披露したのだった。

「えっ!?うそぉ!!?これ全部メカ鈴凛が作ったの!?」

マスターはテーブルに並べられた料理の数々に飛び上がる程に驚いていた。私はそんなマスターを尻目にエプロンを脱ぎ折り畳む。

「鞠絵様の手料理には敵いませんが、味は保障しますよ」

「確かに、鞠絵ちゃんの作る料理にはどんな料理も敵わない・・・・・・って、コラコラ、何を言わせるのよ!」

マスターは自分の漏らした惚気に赤面しながら席に着いて、料理を一口食べた。

「うん、おいしい!流石私の最高傑作。いい腕してるわね」

「ありがとうございます。何せ最高級の調味料を大量に使用しましたから」

「最高級の調味料?何それ?」

「それはですね・・・・・・」

私は脳裏にあの人の眩しい笑顔を思い出しながらマスターに答えた。





「それは・・・‘愛”ですよ」



私は誇らしげな微笑を浮かべてそう言ったのであった。









作者のあとがき

こんにちは、直月秋政です。白雪xメカ鈴凛如何だったでしょうか?

色々とツッコミ所満載な短い駄文でしたが、これが私の限界です(汗)もっと上手い人、白雪x鈴凛をお書きください。

マイナーにも程があるカプSSでしたが、楽しんで頂けたら幸いです。それでは。


なりゅーの感想

前に、直月さんに、なりゅーが白雪の唯一の特徴の料理が使えない超難関カップリング白雪×メカ鈴凛を書こうとして諦めた事があると言って、
その後に「もし書けるなら書いても構わない」と言ったらホントに書いてくれました。
さすがは直月さんです。ビックリしました。なりゅーが勝手にライバル視している人なだけあります!(←偉そう)
しかも使えないと思われていた“料理”はきちんと使いこなし、メカ鈴の特徴をも生かし、尚且つなりゅーの大好きなまりりん要素まで含んでくれています!
凄いです・・・ハッキリ言ってなりゅーと比べると数段上の実力者です・・・。(でも負けるもんかっ!)
直月さん、こんな超難関カップリングを作って、尚且つ投稿までしてくださって本当にありがとうございました!!

 

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