穢れなき貴女へ






「ねえ、千影ちゃん。」

愛しい彼女の声が響く
この薄暗い地下室などよりも、太陽の下が似合う彼女の声が

しかし彼女を此処から出すわけにはいかない

「・・なんだい・・・雛子くん・・・・・」

私は努めて平静な声で答える
できれば言葉に優しさが籠もるように
この高ぶる感情を表に出したら、私は自制などできなくなる

「何でヒナはここにいるの?」

・・・確かに朝起きたら自分の部屋でなくこんなところにいたら疑問に思うだろう
私はまた努めて平静な声で答える

彼女を不安にさせてはならない

「・・・君に・・見せたいものがあってね・・・・
 ・・招待したんだよ・・・・」

穢れを知らぬ彼女はこの言葉を疑うまい
実際、見せたいものはある
だがそれは本題ではない

「え!なになに、見せたいものって!」

案の定、彼女は疑うことなく私の言葉に乗ってきた

だがすぐに彼女は納得がいかないという表情になった
表情が素直に出る彼女の顔を眺めるのは実に愉快だ

「でも、なんでヒナだけなの?か―――」
「今から・・・見せようとしているのは・・・
 ・・秘密基地のような・・・ものでね・・・・
 あまり・・・多くの人に・・知られたくないんだよ・・・・・」

彼女の声を遮る、あの女の名前が彼女の口から出る前に

彼女の声を聞くことは、私にとっての至福だ
断言してもいい、この世界に存在する如何なる音も彼女の声の前にはただの雑音だ

高名な音楽家がその生涯をかけて産み出した名曲でさえも
彼女の声の前には虫の羽音ほども私の心に影響を与えない

彼女の声を聞くだけで私は歓喜に打ち震える
その内容は関係ない

聖職者たちの気持ちが良くわかるよ
彼らにとっての神が雛子くんだ
神の言葉は全てが尊い


・・・・あの女の名を除けば


あの女の名が彼女の口から出てくることだけは許せない
それが好意を伴ってなら猶更だ
神が悪魔を讃えるようなものだ
そんなことがあって良い訳がない

「千影ちゃんのしみつきち?」

「・・・あぁ・・そうだよ・・・君が気に入ると・・・思ってね・・・・・」

「じゃあ、ヒナと千影ちゃんのないしょのしみつだね!」

彼女は私の説明に納得してくれたようだ
楽しげな表情を浮かべている

その表情を見て安堵し、目的の場所に向かって歩を進める

・・・秘密基地か、なかなか的を得ているかもしれないね








「・・・ここが・・私の秘密基地だよ・・・・・」

目の前にある鉄製の扉を指しながら言うと彼女は驚いた表情をした

「すっごーい!立派なしみつきちだね。」

興味深げに扉に目をやる
その動作を見ていると、扉の中が気になっているのが手に取るようにわかる

「・・では・・・中に・・招待するよ・・・・・・」

彼女はその言葉を聞き嬉しそうな表情を浮かべる
私は自分が彼女を喜ばせたことに対する歓喜に打ち震える

開かれた扉の中は漆黒に包まれていた
明かりを一つもつけていないのだから当然だ

だが彼女は不思議そうに中をのぞいている
前方に気をとられた彼女の背中に回り、そのまま小さな背を抱きしめる

一瞬、驚き身を硬くしたがすぐにおとなしくなった
用意した薬品は想像以上に速く効いてくれたようだ


彼女を胸に抱き私は頬を歪ませる


抑えきれない歓喜が私の体を打ち貫き、今にも私の体は崩れてしまいそうだ
だがまだ私にはすべきことが残っている
それが終わるまではこの歓喜に溺れてはならない


更なる歓喜を得るために


彼女の小さな体を抱えると私は漆黒の中に歩を進める
部屋の中央にあるに燭台に火を燈す

その幽かな明かりの中に煌く物が見える

それを手に取り、彼女に身に付けさせる
苦心して選んだ甲斐もあり、それは彼女に良く似合っていた

 ――――否

今の言葉は間違っていた、訂正しなければなるまい

それを手に取り、彼女に身に付けさせる
苦心して選んだ甲斐もあり、それは“雛子”に良く似合っていた

ここだけは拘らなければならなかった
それを忘れていた自分の愚かさに呆れ返る



雛子はもう私のものなのだ


その銀の足かせを身に付けたときから


もう“彼女”などと呼ぶ必要はない



雛子の頬に手を添え、桜色の唇に口付ける
雛子が私のものだと証明するために

これからこの純粋無垢な魂を冒していくのかと思うと愉しくてたまらない
ついつい頬が歪んでしまう

だがまだ始めてはならない
祭の準備はしっかりとしなければならない

名残惜しいが眠る雛子に背を向けて来た道を引き返す


あの女の咽を潰す為に


あの女も一応私の妹だ、命だけは助けてやろう
・・・私の邪魔をするならその限りではないが


・・・だがあの声は気に喰わない
雛子を汚すモノを籠めて雛子の名を呼んだあの声は

雛子は魂の一片までもが私のものだ
あの愛らしい瞳も、美しい金色の髪も、身体の全ても私のものだ

雛子の瞳に映ることは許そう
雛子に名を呼ばれることも許そう
雛子の髪をなでることも許そう

多少殺意が湧くが、雛子が望んだことだ

だが、精神は許せない
雛子の精神を冒していいのは私だけだ
あの女ごときが雛子の精神を冒すことなどあってはならない

雛子の心の中にいていいのは私だけだ
雛子に愛をこめて呼ばれていいのは私だけだ
雛子を愛をこめて呼んでいいのは私だけだ
私以外に許される行為ではない

・・・それをあの女は・・・

まったく、あの女のような愚か者がいるからこのようなことをしなければならないのだ
雛子をこんな地下に閉じ込めるなんて・・・

まあ、いつかはしようと思っていたけどね
あの女のような奴がいつかは出てくると思っていたし

ああ・・・まさかそれが自分の妹とは・・・残念だ・・・

・・・フフ、冗談だけどね


さて、前夜祭といくとしよう
あの女の咽を潰して、他の者たちを脅して廻って、反抗したら痛めつけて
それでも懲りなかったら撃ち殺して廻ろう

想像するだけでも嗤いがこみ上げてくる

さて、それまで待っていてくれ雛子くん
全てが終わったら祭を始めるから

君が私から離れられなくする儀式を・・・



  穢れなき貴女へ 終わりなき冒涜を

  純粋無垢な貴女の 天使の羽を千切り捨てよう

  光りに愛された貴女を 地中深くに隠そう

  愛しい貴女は 私の全て

  冒し尽くして 私だけで満たして

  羽を千切る捨てて 私から逃がさずに

  地中に埋めて 私以外から隔離して

  愛しい貴女は 私が全てとなる







 


作者のあとがき

はじめまして、放浪者と申します。
このような未熟な文章を読んでいただき、ありがとうございました。
次の作品を書くまでに勉強しておきたいと思っています。
1日でも早く目標とする方々に追いつくためにもがんばります。
・・・あとがきとかは苦手なのでこんなもので許してください。


なりゅーの感想

いつもなりゅーに感想を寄せてきてくれる放浪者さんが自ら筆を執って書いてくださった投稿SSです(笑

自分が雛子の中にいて当然だという歪んだ過信。
それを拒むものを無慈悲に容赦なく痛めつける冷徹さ。
片想いを認めない狂気含みの盲愛っぷり。
初めてのSSではありますが、千影ならではの手段を選ばない独占欲は上手く書けていると思います!
…なんて書いて、世間の“兄くん”に怒られないだろうか?(苦笑

放浪者さん、素晴らしいSSを投稿してくださって、どうもありがとうございました!

 

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