(まもねぇや……、こんど亞里亞とキャッチボールしよう。)

(でもボク、球技は苦手なんだけど……。)

(亞里亞は、まもねぇやとしたいの〜。)

(………分かった。ボクでよければね。)

(はい♪ 約束のゆびきりです。)

(うん!)

((指きりげんまん。いつか、この公園でキャッチボールし〜ましょう………))

(いつかっていつですか?)

(さあ、わかんないけど……、それまでに亞里亞ちゃんに教えれるぐらいに、球投げの練習しとくから。)

 

“……………約束したからね………”

 

 

 

Sweet or bitter

 

 

 

「ねえ、知ってる? あそこの公園ね、衛ちゃんの妹がいるんだって。」

「妹? 衛ちゃんって妹がいっぱいいるから、どの子かわかんないんだけど……。」

「決まってるじゃない、この間の……」

「あぁ、あの子ね。でもそれって結構ありがちだよね?」

「まあね……。」

 

″ガラッ″

 

クラスの女の子たちが教室で、お決まりのような話をしている……。

そこへ、ボクが入っていった。

 

「あっ……。」

 

その女子たちがバツの悪そうな顔で、ボクを見てる。

ボクは最近、自分のお小遣いで買ったMDのイヤホンを耳に付けていたから、聞こえてないふりをした。

 

「それでね……」

 

女の子たちは、また話し出した。ボクはMDのスイッチを切って、その会話に耳を傾けた。

 

「夜遅くにトイレに入るとね、その子がなにかをトイレの壁に向かって投げてるんだって。

だから、トイレの壁から音が響いて、その後に泣き声がトイレに居る間、ずっと聞こえるんだって。」

「えーっ。なんかホンモノっぽい。」

「ホンモノなんじゃないの?」

 

ボクは、その会話を聞いてて……ほんの少しだけど、頭とノドが熱くなって……目から出てくる涙を、誰にも気付かれないように拭いた。

それからMDの音を、先生から来るまでの間、周りの音がきこえないぐらい強くした。

 

「それからね、たまに歌も聞こえてくるんだって………」

……………

 

 

放課後

ボクは、あの女の子たちが言ってた公園に来てる。

片手に、スーパーやコンビニで買った、袋を持って……。

 

あれからずっと続いてる、ボクの日課。

袋の中には、飴玉なんかが、たくさん入ってる。

 

とりあえず、ベンチに座って空を眺める……。

ほんの少し空を眺めた後で、走って、それからほんの少しのボール投げ……。

 

「衛ちゃん……。」

 

不意に声をかけられた。

そのほうを見ると、座ってるボクを、可憐ちゃんが見下ろしていた……。

 

「あっ、可憐ちゃん。どうしたのさ、学校の帰り?」

「いえ、学校から帰って、今からピアノなんです。」

「そうなんだ……。頑張ってね。」

 

ボクは可憐ちゃんに、薄く笑って答えた。

可憐ちゃんは、なんだかバツの悪そうな顔をして、ボクを見てる。……もちろん原因は分かってるけど……。

 

「あの……、衛ちゃん。もう止めましょうよ……。

それは衛ちゃん、すごく…一番仲良かったのは分かるんですけど……でも……。」

「うん……。でももうちょっとだけ……、ここに居たいんだ。ごめん。」

 

可憐ちゃんの言いたいことも、分かるんだけど……。

心で、そう付けたす。なんで声に出さなかったのかは分からない。

 

「でも、あれから毎日お菓子持ってきてますけど……、一度も……。」

「あら、可憐ちゃんと衛ちゃんじゃないですか。」

 

可憐ちゃんのセリフを被り消すように声をかけてきたのは、春歌ちゃんだった。

 

「春歌ちゃんも、お稽古?」

「ええ、お琴の方ですけどね。それでは可憐ちゃん。」

「えっ、はっ、はい!」

 

急に声をかけられて、びっくりしてる可憐ちゃん。

 

「ピアノ教室に行くんですよね、ワタクシと一緒に行きましょう。」

「えっ、ちょっと……!」

「それでは衛ちゃん、また。」

「うん、夕飯……までには帰るようにするから。」

「わかりましたわ。」

 

そう言って、春歌ちゃんは、可憐ちゃんを引き連れて行っちゃった。

ボクに、気を使ってくれたみたいで……。

……………

 

 

「ちょっと待ってください、春歌ちゃん!」

「なんですか、可憐ちゃん?」

「なんで、衛ちゃんに言わないんですか!」

「……今は、時期じゃないんですよ。」

「でも! ずっと引きずってても………意味なんてないよ。」

「分かってますわ。それでも、大切な人がいなくなったら……、ちょっとでも時間をかけて、自分で立ち直らないと……強くはなれませんわ。」

「それは……そうだけどね……。」

「言いたくはありませんけど……また、誰かが消えてしまう事だってあるんですよ。」

「…………」

「体はいくらでも鍛えられますけど、心は……本当に時間をかけなければ、鍛えることは出来ません。ですから……わかってください。」

「……はい。」

「では、お稽古に参りましょうか。」

「うん。」

……………

 

 

亞里亞ちゃんは、どっちかっていうと運動が好きじゃなかったみたいだった。

ただ、ボクと動くのが好きだったようにも感じる。……ボクの自惚れかもしれないけど。

始めて一緒に走った時は、ボクと一緒に早朝ランニングした時だったと思う。

 

最初は亞里亞ちゃんも、少し嫌がってたみたいだったけど……ほんの少し……

ほんの少しずつ、動くことが好きになっていったみたいだった。

その上で、ボクとの約束。

いつか一緒にキャッチボールをすること。

だから……頑張ったのに……。

 

 

「……あれ?」

 

何時の間にか、辺りがこんなに暗くなってる。

ずいぶん長いこと、考え込んでたみたいだ。

そろそろ夕飯だから、帰らなきゃ……。

そう思った時に、ふとクラスの皆が言ってたことを思い出す。

 

(夜遅くにトイレに入るとね、その子がなにかをトイレの壁に向かって投げて……)

 

あの子たちが言ってた、夜遅くって何時ぐらいなんだろう……。

それに、ずっと壁当てばかりしてるんだったら、すっごくおなかが空くはずだよ。

 

いつでも会えるように、いつでも食べられるように、毎日でも、お菓子を持ってくから。

 

また考え込んだら、少し眠くなって………

……………

 

 

バタンッ、ボタンッ! ガコンッ!

「……んっ?」

 

何の音だろう……。

目の前で、青い髪の女の子が壁に向かって、両手で、野球ぐらいの大きさのボールを当ててる……。

 

「亞里亞ちゃん……?」

 

ボクは、その女の子に声をかけた。

もし…もしかしたら。

 

「あっ、まもねぇやだ〜。」

 

その女の子は、屈託の無い笑顔で答えてくれた。

その青い髪の女の子は間違いなく、亞里亞ちゃんだった……。

ボクは泣きそうになったものを極力押し留めて、笑顔を作っていった。

 

「……ひさしぶりだね。」

「はい ひさしぶりです。」

 

たわいない会話しか思いつかない。

亞里亞ちゃんが、ボクに駆け寄ってきた。

ボクは、ふと今まで亞里亞ちゃん投げていた壁を見る。

亞里亞ちゃんは、ボクに気付いたみたいに、いたずらが見つかったみたいな笑顔で、ボクに言った。

 

「まもねぇや。亞里亞と、やくそくしたこと覚えてくれていますか?」

「うん……。一緒にキャッチボールをすること……だよね?」

「はい 亞里亞、まもねぇやと、いっしょにするために、ずっとずっと、れんしゅうしてました。

ずっとずっと、でんしゃさんが来るまで。」

 

亞里亞ちゃんの笑顔に、ボクの耳は殆んど聞き流し状態だった。

ただ、亞里亞ちゃんの笑顔が、ボクの意識に居ついていた。

 

「あっ、まもねぇやお菓子もってる〜♪」

 

お菓子……?

言われてみると、ボクの手に、お菓子が入ってる袋が握られていた。

 

「……いつの間に?」

 

……さっきベンチにおいてきたはずなんだけど。

ボクは、亞里亞ちゃんの口の中に、チョコを放り込んであげた。

亞里亞ちゃんは笑って、「おいしい」と答えてくれた。

……やっぱりお腹が空いてたんだ……。渡せて良かった。

ほんの小さな幸福感に包まれて、もう一つ飴玉を亞里亞ちゃんに手渡した。

 

″カンカンカン!″

 

急に音が鳴り響いた。

すると、今はもうすたれてきたような、ローカルな電車が目の前で止まった。

こんなところに、バス停も駅もない、ただの公園なのに……。

 

「あっ、でんしゃさんがきました。」

 

亞里亞ちゃんが、電車(?)の方に向かって言った。

 

「この電車に乗るの?」

 

ボクは、亞里亞ちゃんに聞いてみると、亞里亞ちゃんは、笑って「はい」と答えた。

 

「まもねぇやのお菓子、もっていっていいですか?」

 

亞里亞ちゃんは、ボクの方へ振り向いて言った。

ボクは、亞里亞ちゃんにお菓子の入った袋ごと渡した。

両手で、お菓子の入った袋を抱えて、嬉しそうだ。

 

「ありがとうございます♪」

 

亞里亞ちゃんは、袋を受け取ると、そのまま電車に乗ろうとした。

 

「また今度、キャッチボールをしましょう。」

 

亞里亞ちゃんが、ボクに電車に乗る前に声をかけた。

ボクの体……声が無意識に叫んだ。

 

「待って!!」

 

亞里亞ちゃんは、ボクの声に反応して止まった。

 

「ボクも行くから!

一緒に行くから!!

 だから………キャッチボールをしようよ!!!」

 

自分でもそれがどういうことかは、分かってる。

でも、叫ばずにはいられなかった……。

 

だってこれが…亞里亞ちゃんとの……。

 

「まもねぇやの、そんなにあわてた顔、初めて見ました。」

 

亞里亞ちゃんが、くすくすと笑った……。

 

「でも、まもねぇやはだめです。」

 

……うん。

 

「キャッチボールは、また今度じゃないとだめです。」

 

亞里亞ちゃん……。

 

「だから今は、……″さよなら″じゃなくて、″また会いましょう″です。

 亞里亞は、まもねぇやが大好きです だから……また会いましょう。」

 

その言葉に、ボクは涙を隠さずに泣いた。

亞里亞ちゃん……。

 

「そうだね……。」

 

今じゃなくて、また……。

 

「またいつか……、約束したからね。」

「はい

 

亞里亞ちゃんが、乗り込んだ電車がカンカンと音を立てて、走っていった。

横の窓から、亞里亞ちゃんが乗り出して、手を振ってる。

ボクは、その手に答えて手を振った………。

………………

 

 

 

 

「衛ちゃん!衛ちゃん!」

 

誰かが、ボクを揺さぶった。

 

「……可憐ちゃん?」

 

目の前には、可憐ちゃんが立っていて、ベンチで寝ていたらしい、ボクを揺り起こしてくれた

……どうも寝ちゃったみたいだ。

 

「心配したんですよ、みんな。衛ちゃん、夕飯までには帰るって言ってたのに……。」

「ごめんね、寝ちゃったみたいで。」

「それは、見れば分かりますけど。」

 

そう言って、お互いに笑った。

 

「じゃあ、帰ろっか。」

 

ボクは、可憐ちゃんに笑顔で言う。

可憐ちゃんは、少し驚いたみたいだったけど、すぐに笑顔になって。

 

「……はい。」

 

そして、ボクたちは、家に帰ろうとした。

 

「立ち直れて良かったですね……。」

「えっ? ごめん、聞こえなかったんだけど。」

「気にしないでください♪」

 

可憐ちゃんは、そのまま、ボクを置いてく勢いで、先に小走りで行っちゃった。

ボクは、苦笑しつつも、可憐ちゃんを追いかけようとして、

ベンチから立ったそのときに、一つに異変に気付いた。

 

「あれ……?」

 

ボクが、持ってた袋が消えていた……。

だれかに持っていかれたか、…そうじゃなきゃ……。

 

「ちゃっかりしてるなぁ……。」

 

やっぱり血の繋がった姉妹だ。鈴凛ちゃんに似て……、ちゃっかりとお菓子を持ってちゃッた。

 

「衛ちゃん、どうしたんですかー!」

「なんでもないよ。今行くー!」

 

可憐ちゃんに返事して、ボクは可憐ちゃんのもとへ走った。

 

 

″亞里亞は、まもねぇやが大好きです

 

″だから……また会いましょう。″

 

 

 

――うん、そうだね。

 

 

――またいつか、二人でキャッチボールをするんだ。

 

 

――そうしたら、亞里亞ちゃんは、またお腹が空いたって言うと思う……。

 

 

――だから、そうなっても良いように、ボクがお菓子を持ってるから……。

 

 

それからボクの日課に、ボール投げの練習と公園を通ること、お菓子を持つことが増えた。

 

そして……

 

 

亞里亞ちゃんと最後に約束した日から……

 

 

ボクのポケットには、亞里亞ちゃんの好きな飴が溢れて……

 

いつまでも、増え続けた……。








作者のあとがき

はい、ひさしぶり投稿させて頂きました冬太郎です!
かなり時間を空けて投稿させて頂いたので、作品がどういう風に、変わっているか分かりませんが(苦笑
本当は、とあるサイトの文芸部の一環で書いたのですけど、なんだかノリでここの載せていただくことになりました(爆
昔に比べれば、少しは進歩したんでしょうかね…(汗
っていうか、ある意味始めての真面目話です(マテマテ
では、読んでくださって有難うございました!


なりゅーの感想

切ない、ふしぎ系の話でした。亞里亞にふしぎ系とはまさに適材適所。
惹き込み方が上手いのは実力なのか、ちょっと読むつもりが導入から一気に最後まで読破してしまいました!

明確に亞里亞がどうなったのか描いていませんが、それでもきちんと伝えられるだろうところに技量を感じます。

衛と亞里亞、色々と合わないだろうふたりの繋げ方は本当に自然で、
内容の中では軽く過去話として触れている程度ですが、とてもすんなりと受け入れられます。
衛との付き合いで運動に興味を持つ亞里亞。
それが「ほんの少し」を強調しているのは、すごく「らしさ」を生かしていると思いました。

衛の一途さ、亞里亞の純粋さ、どれもが生きていて、
可憐、春歌のエキストラなふたりも良い味出しています。
内容の割に後味の悪さは微塵もなく、物語り全体に一切の違和感を感じさせない作品。
様々な意味で、「良い作品」と言えるでしょう。

最後のおかしの袋が消えちゃうところ、好きですよ、そういうの。
 


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