TENDER GREEN






それは、入道雲が青空を隠し始めて、雨の予感がした夏の午後のコトだったわ。
アタシはいつものように、クーラーをガンガンに効かせたラボに篭って
新しく製作してるメカの設計図を見直してたの。
その電話は、アタシにとって待ち望んでたモノで…、
同時に、ココロのどこかで怖れていたモノでもあったわ。

「…どうしよう…。」

前のアタシなら、きっと迷わずに決められた。
でも、今は………。
窓から見えた街路樹の緑色が、入道雲と対照的に鮮やかで…、
あぁ、アタシあの色好きだなぁ…なんて、どうでもいいコトを思ったわ。


「……また何か………考え事かい……?」

「へっ?」

「………そういう顔…していたから…………。」

千影は不満そうに呟いた。
パッと見は無表情に見えても、その中に何通りものパターンがあるコトを、
アタシは知っている。
…不器用なこのヒトが、実はとんでもなくヤキモチ焼きで、独占欲の塊ってコトも。
外にはアタシの思った通り、スコールが居座って星空を隠してしまったわ。
そのせいで千影の髪は少し濡れていて、長い睫毛と綺麗な鼻筋に髪が被さってる。

「…な、何でもないわ。…ゴメン。」

仕方ないなぁってカンジで溜め息をついて、千影はアタシを抱き締めてくれる。

「…全く……こういう時くらい…私の事だけを見て欲しいものだな………。」

「ゴメンね、千影。…怒った?」

耳元の口調が少し冷たくて、アタシはすぐ不安になってしまう。
すると千影は、…アタシの反応を分かっていたかのように、
少し笑いながら(パッと見はさっきと変わらないんだけど)、
抱き締める腕に力を込めて、こう言ったわ。

「…私は…機械の事は解らないが………、…キミの事なら……解る…。
 ……キミが………私を…必要としてくれている事も………ね…。
 ………だから…心配しないで良い…………。
 ……私は…キミを抱くこの腕を……離しはしない………。
 …………いつでも、傍に居る…………。」

千影は時々、真面目なカオでこんな台詞を言う。
アタシはちっとも慣れなくて、その度に恥ずかしくなる。
…う、嬉しいんだけどね。

「………鈴君…。」

不思議な色をした瞳が、アタシを見つめる。
千影の手がさり気なくアタシの腰に回された。

「ん…。」

キスをしながら…そのままソファに押し倒された。


自慢じゃないけど、アタシは朝に弱い。
だから大抵は千影のほうが先に起きてるのね。
でも千影は千影で物凄く低血圧で、寝転がったままアタシが起きるのを待ってるの。
千影は、眠っている時間が短いらしい。眠りも浅いんだって。
それってすごくイメージ通りで、初めてこの話を聞いたとき、アタシ思わず笑っちゃったわ。

「おはよ、千影。」

「………おはよう…………鈴君………。」

そうしてアタシ達は、寝癖を直すよりも顔を洗うよりも先に、
当たり前になってきた朝の挨拶を交わすの。
眩しくてあったかい光の中で、大好きなヒトと過ごす時間は、
今のアタシにとって、かけがえのないもの。


「…………留学………?」

アタシが話を切り出すと、流石の千影も驚いてカオを上げたわ。

「うん…。昨日、電話があってね。
 前に出たコンクールの結果を主催会社のヒトが凄く評価してくれて、
 とりあえずは1年くらいって話なんだけど…。
 もしかしたら、もっと長期間になるかもしれないの。」

「………そうか……。……おめでとう。」

千影は素直に喜んでくれたわ。
でもアタシは複雑なキモチのまま、黙ってることしか出来なかった。
…次の千影の言葉を聞くまでは。

「それで…いつ頃…出発するんだい………?」

「…え? …反対、しないの?」

千影はアタシを真っ直ぐ見つめる。

「……反対したところで………キミは行くと言うのだろう……?」

「わ…分からないわよ。まだ迷ってるし…。」

「…何故? ……キミの…目標なのに………。」

眉一つ動かさないまま、千影は淡々と言ったわ。

「…千影は、アタシが居なくなっても平気なの?」

解ってる。千影はアタシのことを大事にしてくれてる、って。
でも…でも、それがずっと続くって確証はドコにもない。
アタシが居なくなったら? 千影の傍に居られなくなったら?
千影は美人だし、きっとオトコノコにだってモテるもの。
小さい頃からずっと傍に居たから、千影はアタシを好きでいてくれたけど…、
アタシがアメリカに行ったら…、冷めちゃうかもしれないじゃない!

「……物理的な距離は………大して問題にはならないだろう…………?」

「大問題よッ。」

「…………………?」

「千影は大丈夫でも、アタシは大丈夫じゃない!」

「………鈴君の…機械に懸ける情熱は……その程度のものなのか………?」

「アタシはアメリカに行って、本場でメカの勉強をしたいって思ってる。
 でも…それとこれとは違うのよ…ッ!」

矛盾してる。自分でも解ってる。
でも、どっちも本音なの。
アタシからメカを取ったら何も残らないって思うけど、
千影を…好きで、ずっと傍に居たいって思ってる。

「………大丈夫だよ………鈴君。
 …私を信じて……キミは前進すれば良い…………。」

千影は少し笑うと、アタシを撫でてくれた。

「大丈夫って言ったって…、信じろって言ったって…、
 機械だって、完璧なんてコトは在り得ないのよ?」

「……例えキミが………何処に旅立っても………、
 …私はキミを愛してる………。
 ………行きたいんだろう?…行っておいで……。」

もうすぐ、最初の夢が叶うかもしれない。アメリカで機械の勉強が出来る…。
行きたい。アメリカへ行きたい。けど…。

「……何年間も………キミだけを見ていた………。
 …今更…………離したりしないから……安心したまえ………。」

「ホントに、離さないでいてくれる?」

「……私は………不可能な事は約束しない…………誓うよ……。」

千影がそう言うと、ホントにそう思えるのが、自分でも不思議。
何だか急に恥ずかしくなって、アタシはこう言ったわ。

「浮気したら……許さないから。」

「………フッ…、………それは……不要な約束だな………。」

そう言って笑った千影の瞳は、不思議な色をしてる。
アタシの心を何でも見透かしてしまうの。
うん…、そうよね。信じていいんだよね。

「ありがと、千影。アタシ…頑張る。」


アメリカに留学してきて、もう5日。アタシはガッコー
――って言っても、日本人の先生の研究室だから、
心配してた英語の機械専門用語には、それ程苦労しなくって済んでるけど――
の帰り道に、気分転換をしようと思って公園に寄ってみたの。
空高く輝く太陽が、真っ直ぐな道に木々の影を落としてる。

万国共通の鮮やかな緑色は、アタシにあの日を思い出させる。
弱気になって、自分の夢を見失いかけたあのとき…、
アタシ自身よりも強く、アタシの夢を追いかけてくれたヒトを、思い出させるの。
……千影にすごく会いたい。会いたいけど…頑張るって約束したから…。
まだ5日しか経ってないのに、こんなコト言ってたらダメよね。

噴水の飛沫がキラキラ光った瞬間、突然強い風が吹いた。

「わ…ッ!」

アタシは風の勢いに、思わず目を瞑ったの。

…信じられる? 目を開けたら、そこに会いたかったヒトが居るなんて!
千影ったら、ずっとそこに居たみたいに涼しいカオして、ベンチに座ってるの!

「…わ、わ、わ、わーーーッ!!」

「………やぁ、鈴君……。」

「『やぁ』じゃないわよッ! 何で千影がココに居るのよッ!?」

「…理由など………言う必要は無いと思うのだが……?」

「だだだ、だってココ…アメリカだし…!」

あんまりビックリしちゃって、アタシは完全にパニック状態。
それなのに、千影は相変わらず余裕たっぷりってカオしてるのよ。
もう…! 信じられない!

「…フッ。…………私を…誰だと思っているんだい………?」

そう言って立ち上がった千影に、アタシは飛びついた。

「バカバカバカバカッ!
 こーゆーコト出来るんだったら、ちゃんと事前に言ってよッ!」

千影の白いYシャツに、ほんのちょっぴりだけど…水滴が吸い取られてく。
…気付かれちゃったかしら?だって嬉しかったんだもの。

「…………私は…キミを独占していたいと思う………。
 …だから、キミが……機械の事を考えていると………
 いつも…邪魔ばかりしてしまうけれど…………、
 ……本当は………機械に触れている時の……キミも好きだよ…。」

やっぱり真顔で照れくさい台詞を言う千影は、普段とちっとも変わらなくって…。
アタシも、自分のカオが熱くなってくのを自覚したわ。

「言っただろう……? ………いつでも傍に居る、と………。」

耳元の声は、優しくアタシに染み込んでくる。
…そう、アタシってばすっかり忘れていたわ。
……アタシの恋人はとびっきりミステリアスで、
それにこの世でイチバン優しいヒトだ、ってコト!
それでね、いっつもアタシばかり振り回されてるのが悔しくって、アタシは不意打ちしたの。
千影が目を閉じるより、何か言おうとするよりも早く、頬にキスして言ったのよ。

「愛してるわ、千影ッv」

アタシは千影に比べたら子供っぽいし、知らないコトが沢山あるわ。
まだまだ未熟で、この空の色にも高さにも、不釣合いかもしれない。
でもね…、アナタと同じ景色を見ていたい。
きっといつか、胸を張って並んで歩けるような…存在になりたい。
…フフッ。もう待ってるだけじゃ満足してあげないんだからっv
だってそうでしょ? いつだって傍に居たいんだもの。
離れてたって、アタシはアタシのやり方で追いかけてくから…覚悟しといてよね!


あとがき

後書きです。
初めまして、千×鈴を書き始めてもう250年(嘘)の電寿(デンジュ)と申します。
千×鈴です。少なくてもウェブ上ではマイナーカプです。
非オフィシャル上等です。かかってこい!

…文章のタイトルはSister Princessのアルバム『Kaleidoscope』収録曲から拝借しました。
内容も多少、曲とリンクさせてみました。
私が思いつく限りの千×鈴推奨ポイントを愛(はぁと)と共にブチ込んだつもりです。
楽しんでいただければ幸いです。
っつーか誰でもいいからハマれ!

以上、初見参から喧嘩腰ですいませんでした。


なりゅーの感想

電寿さんの初の投稿SS、千影×鈴凛ものでした。

ちかりんはそれなりに多いイメージはありましたが、確かにウェブ上ではあまり見かけませんね。
故に、マイナーカプ歓迎ななりゅーには大歓迎なカップリングでした(ぇ
非オフィシャル上等万歳!(笑

ですがそれに留まらず、内容もお互いの相手を想う気持ちがあふれている、
とても良くできた逸品だったかと思います!
鈴凛には必ずと言っていいほど当たる留学の問題や、それに伴う鈴凛の内面的な弱さ、
更には千影の最後の逆転をわざと黙っていたお茶目や、それを実行する相手への執念深さなど。
鈴凛、千影共に良くキャラクターを描ききれている素晴らしい出来だと思います。
さすがちかりん暦250年!(爆
"ほぼ"何でもありの千影らしいあのオチは、個人的にお気に入りです。

また、作中では、さくまもの「さくねぇ」、「まも」のような、
カップリング独特の愛称である「鈴君」なる呼び方も出てきて、
まりりんじゃそういうの思いつかないので羨ましいです(笑

電寿さん、素敵なSSどうもありがとうございました!


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