―――夢を見た……。
『リン、大きくなったらジジのお嫁さんになる!』
大好きだったあの人の……アタシのおじいさん―――ジジの夢……。
Sister's Alive
〜妹たちの戦争〜12月18日 火曜日
幕間1 あの日の残照
『はっはっはっ……そうか、リンは大きくなったらワシのところにきてくれるのか』
『うん! そーなの!』
しわくちゃの顔と手。
長く伸ばした白い髭。
遊びに行くたび、いつも着ていた油の染み込んだ作業服。
どこか懐かしい気がする匂いも……どれもみんな、大好きだった……。
『しかし……ワシにはばーさんがいるからなぁ……。それだと重婚になってしまうのう……』
あの人は……街ではちょっとした発明王で、なんでも一流企業にまでお呼びが掛かるくらいだったそうだ。
世間なんて良く分からない、幼い当時のアタシにはさっぱりなことだったけど、
実力でいったら世界のトップクラスだとまで言う人までいたくらいの凄腕らしい。
その業界を変えられる腕の持ち主、この国の機械技術の進歩を10年短縮できる男とか……とにかく「天才」だったそうだ……。
『じゅうこん……? あ、リン知ってる! てっぽうの跡のことでしょ!』
『どーしてそっちは知ってるんじゃ……?』
まあ、その「天才」という人種は、つくづく変わり者が多いらしく、ジジもその例に漏れずに変わり者と言われていた。
お給料や技術の追求だって明らかにそっちの方が良いって言うのに、
一流企業の誘いを蹴って、街でのしがない小さな機械屋に落ち着いていた。
それでも、やっぱりジジ自身の腕もあって、生活はなに不自由なく暮らせていた。
アタシの家にミニチュアのラボを作るくらい太っ腹なことをしてくれたから、もしかしたら思ってた以上に裕福だったんだと思う。
まあ、ジジの腕なら別におかしくもなんとも無いことだと思うけど……。
アタシは……そんなジジを変わってるだなんて感じなかった。
お金や名声よりも、自分が好きになった道を選ぶ生き方。それは誰よりも素直な生き方だって、そう思うから……。
アタシ自身が変わっているっていうのもあるし、
そんなジジを見て育ったから、それが普通のコトって思ってるのもあるかもしれないけど……。
『うーむ……少々ワシの趣味に走らせすぎたかのう……』
『……? どーしたの? ヘンな顔して』
ジジはアタシのメカの才能を見出して、アタシに機械の道を歩ませてくれた人だ。
ジジは、アタシの人生にとっても大切な存在だった……。
『でも、ワシみたいなじーさんよりも、もっと若くて、カッコいい男の子の方が良いだろうに……』
『ううん、リンはジジがいーの♥』
たまに見せる神業的な腕を見るたび、「これ以上ない」って、そう確信できるほど卓越した実力を持っていた。
アタシは「天才」とか「才能」なんかよりも、「努力」の方を信じているけど、
ジジに関してだけは、それを認めなきゃいけないくらい、神業的だったのを覚えている……。
でも、アタシは子供だったから、そんなに凄いジジの腕を、ただの「凄い」の一言で括っていたっけ……。
今なら分かる……ジジの腕が、どのくらい凄いものだったか……。
『はっはっはっ……。これは困ったな』
そんなジジが、アタシの誇りだった……。
そして、そのジジの技術を継いだ……継ぐことができた、アタシ自身の腕も。
もっとも、アタシの腕じゃジジの再現にはまだまだ遠く及ばないけど……
それでもジジはアタシの目標で、いつかは追いつきたい、追い抜きたいって、いつも思っている……。
『まあ、気になる男の子ができたら、こんな老いぼれ放っておいて、その子のところに行っておいで』
『ぶー、ジジがいいっていってるのにー』
顎に携えた真っ白な髭をクセのようにいじって、しわくちゃの顔で笑うジジ。
そんなジジも、もういない……。
天国なんてものがあれば、今はそこからアタシのコトを、同じ顔で見守ってくれていると思う……。
『リンが本当に好きな人なら……幸せになれるのなら……ワシは誰だって構わん……』
顔と同じくらいしわくちゃの手を、アタシの頭に乗っけて、優しくなでながら口癖のようにこう言うの。
『リンは……ワシの夢じゃからな……』
優しいけど……何か、寂しそうな目で……。
更新履歴
H17・3/6:完成
H17・3/7:掲載
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