(はっ、はぁっ――――はっ……は、――――)


 体が動く。
 体が軽い。



 手が、足が、指が、腿が、肩が、肘が、全身が、


 ―――動く……!!


 すごい。
 すごいっ……!

 辛くない、だるくない、疲れない、苦しくない、


    ―――動ける動ける動ける動ける動ける動ける動ける動ける動ける動ける……


 こんなに動いてるのに、まだ動ける……!


(はっ――――はぁっ……は、――はァ……は――ぁ……ッ!!)


 さっきよりも……。
 1秒前よりも……。

 時間と共に、「今」が最高に動ける……!


    ―――楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい……


 どんどんどんどん、力が湧き上がる!
 どこまでもいけそう!

 止まるなんてできやしない!


    ―――嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい……


(はっ、はっ――はっ―――……は、――――はっ―――)


 ギアが上がる。

 そう、アノ人が楽しそうに話してた車の話。
 アノ人の好きなメカの話。


    ―――敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵……


 ちょっとかっこいい響き。
 いつか使ってみたいなって思っテた。


    ―――倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ倒せ……


 ギアが上がる。ギアが上がる。ギアが上がる。ギアが上がるっ! 加速していくっっ!!!


    ―――敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵……


 もっとっ、もっとだわっ!

 もっと速くまだ速くもっと軽くずっと軽くもっと力強くすっごく力強くもっともっともっと!!


    ―――倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ倒セ……


 もっと自由にっっ……!!


(はっ、――――はっ、――――はっ、―――、――――はっ)


 

―――何のために?



 ……え? なにが?



    ―――テキテキテキテキテキテキテキテキテキテキテキテキテキテキ……



(はっ、――――ハッ、―ぁ―――っ、―――、――――はっ―――)


 

―――このチカラはなんのため?



 なんのため、って……



    ―――タオセタオセタオセタオセタオセタオセタオセタオセタオセタオセ……



(はっ――ハッ、――ッ、――はッ…! ―、――ハぁ――……――■■―――)



    ―――テキタオセテキタオセテキタオセテキタオセテキタオセテキタオセテキタオセ……



 敵を……倒すため?



    ―――テキタオセテキタオセテキタオセテキタオセテキタオセテキタオセテキタオセ……



 テキを……タオす……?


■■―――■■■、――■■ッ、――はッ…■■■、――――……――■■―――)


















 ……?



 "テキ"って……………………………………なに?

 "タオス"ってなに?



    ―――テキタ―セテキタオセ―キタオセテキタオセテキ――セテキタオ―テ―タ――……



■■■、――■■■――■■、――■■■■■■■■■――……■■■――■■■■■■■――)


 なんだっタっけ?



    ―――テ―タオセテキ――セテ―タオセテ――オセテ―――セテキタ――――タ―セ……



 ……どうでもいいや……。


















 …………………………"ドうでモイいや"ってナに?














 そのコトバ、どんなイミだったカな……?




    ―――テ―――セテ―タ―セテ――オ―テ―――セテ――――テ―タ――――――……




 あ………れ………?


 "こトバ"って…………ナニ?




    ―――テ――――――タ――――――セ――――――キ――――オ――――――……




 なに?   ナニ?

     ナに?   なニ?
                  なニ?




    ――――――――――――――――――――――――――――――――――……




 ――?


 ?  ?


  ?  ??


 ?  ?    ??     ?


 ?? ?


???       ??







    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――……












          あ?
                え?
                                                    
                                      
        

                                                 は?

                        が?


 あ…レ……?
 

                  
                                                ―――
                            
                                                          ア?
              ――                       

             
アたマ、なか………
 

        
                                                      
                                       


         なガれる……コれ、は、
 


   

                                                        

                ―――



                 ………な ァ に ―――

 

            
                                                     

―?














 ――――――












 ――――――――――――












 ――――――――――――――――――――――――

















 

■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!







 ……そして、鞠絵バーサーカーから「言葉」という概念は消えた。

 意志さえ失くし、獣と化した獰猛な瞳には……ただひとつだけ、てきの姿だけが映っていた……。






 

Sister's Alive
〜妹たちの戦争〜

12月19日 水曜日

第22話 白い狂獣








 

■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!



 言葉にならない爆音。
 鼓膜が破れそうなくらい激しく振動する大気が、痛いほど体に叩き付けられる。
 その、物理的な域にまで至った威圧感に、アタシは恐怖で固まってしまう。
 けれど白雪ちゃんは、震える体を振り絞った勇気で抑え込んで、勇敢に、自分の姉であったソレへと駆け出した。

 吼えるソレは、自分に向かってくる影に気がつく。
 自分に歯向かう意志を感じ取ってか、凶々しい瞳と崩れた表情で睨みつけて、
 濁流のように乱れていた破壊衝動を白雪ちゃんへと収束させた。

 体が、軽くなる。それはアタシの……。
 ならばその分だけ、白雪ちゃんは黒い重圧を一身に向けられていることになる。
 白の外観から放たれる、ドス黒い恐怖。
 周囲にただ垂れ流していたため、何倍にも、何十倍にも薄められていたそれを、今白雪ちゃんは原液のまま浴びせられている。

 それは―――この世に存在する全ての負の感情を、まるで一身に向けられたような錯覚に匹敵するのだろうか?
 それだけ意識を失いかねないほど、体の芯から恐怖に染まる。

 怖い、怖い、怖い、怖い、こわい、こわい、コワい、こわい、―――


「……ッ!!」


 ―――それでも白雪ちゃんの足は止まらない!

 歯を食いしばって、「逃げろ」「逃げろ」と訴えかける生存本能を押さえつけて、ただただ足を動かすっ!
 怪物は……相対するに相応しい「敵」と認識したのか。
 ゆったりと手に持った鉄塊が振り被った。

 ゆったり……?
 いや、実際はそんなスローじゃない。ただ、アタシの目がそう捕らえただけ……。
 極限状態のアタシの脳みそは、世界をまだゆっくりと認識していた。

 振り被られた巨大な鉄の塊は空中で静止する。
 1秒にも満たないかもしれないワンショット。
 そのやたらと長く感じる一瞬を捉えた映像に、わずかに驚く。
 だってそれは……

 ……戦うための全ての技術を身に付けたとは思えない、お粗末ものだったから。

 一言で言って姿勢が最悪。
 やや前のめりの姿勢は、鉄の巨塊の自重を支えるのに適さない、むしろ腰に負担を与える体勢で。
 膝の伸びきった両足は、振り下ろす際に体のバネを利かなくしている。
 ほとんど右腕の力だけであの巨大な鉄塊を振り回そうとしているようなもの。
 ……いや、鉄板を掲げた右腕さえも横に開いていて、振り下ろす方向と肘関節の可動方向とがバラバラだ。

 武道のこととかはサッパリなアタシだけど、趣味の手前「力学」―――力の働き方に関しては理解している。
 特に、等身大人型ロボットの開発を目指す者としては、越えるべきテーマだから。
 だからあの姿勢の意味を理解した。―――あれじゃあ、力の伝達がめちゃくちゃだ。

 それは、相手よりも自分自身にダメージがありそうなほどめちゃくちゃな姿勢。
 構えだって大きくて、予備動作をちょっと意識すれば、非スレイヴァーアタシにも軌道が読めてしまいそう。
 遠目のパッと見でもそのくらい指摘できるんだから、間近で見ればもっと穴だらけなんだろう。。
 それほどまでに「技術」というものが感じられない。

 そんな構えから、どうぞ避けてくださいと言わんばかりに、ぶ厚い鉄板は振り下ろされた。






    ズドォォォォンンンッッッ






 ―――それが、アタシの確認できた精一杯……。


「……は?」


 パラパラと、土煙と砂埃が舞い落ちる中で、アタシの口からとぼけた声が漏れていた。

 超重量と思われるぶ厚い鉄板は、白雪ちゃんの進行方向の地面にめり込んでいた。
 振り被ったその位置から、振り下ろされたその位置まで……描くはずの軌跡を、描かずに。
 いや、多分、描いたのだろう……。
 だっていうのに。
 あんなにドデカイ鉄塊なのに……。
 ずっと、凝視してたのに……!
 世界全てがスローに捉えられるこの状態で、それは確かに消えたッ!?


 分厚い鉄塊は、その一瞬だけ羽よりも軽く、速く、―――雷になった。


 速く、―――避けられない。


 重く、―――受けられない。


 理解せずにはいられない……。
 アレは、ニンゲンの領域レベルでは避けにげられない……。






    ―――ああ、だからなんだろう……






「……は、ぁ……! はぁ……、は……っ……!?」


 それを避けきった白雪ちゃんが、紛れもなく、アレと同じモノなのだと。
 そう認めるしかないということなんだ。


(―――……っ)


 振り下ろされた鉄板に反応して、走る向きを横にずらし、アレの真横へと避けてみせた白雪ちゃん。
 そう、紛れもなく"反応"した。
 無理矢理横に飛んだのか、体勢を崩して、地面に膝を突いていた。
 それは、予想外の出来事に突発的に"反応"したからこそ、体勢が崩れるような行動を起こしたに他ならない……。

 彼女の無事を喜ぶべきなのに……胸が痛くなった。
 そんなの今更だ。さっきからアタシを守るために見せた行動全てが証明になるじゃない。
 なのに……。
 白雪ちゃんもアレと同じだって、認めたくなかったことを、ハッキリ見せつけられて……やるせなかった……。





 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!







 そんな感傷に浸る余裕さえ、アレはくれない。

 それはなんの感情からか、ソレは大きく吼えて、真横に逃げた「敵」を睨みつけた。
 立ち上がり、体勢を立て直す白雪ちゃんに、獣の眼差しが突き刺さる。
 獣が唸るような、低く濁った音を発するソレ。
 白雪ちゃんは無言で向き合って、その場に足を留め構え直した。


    ―――は?


 アタシのとぼけた一言が、口から出ずに、頭の中で反響する。
 背筋が凍った。
 あんな怪物染みた、いいや怪物そのものの一撃を前にして白雪ちゃんは"足を留めた"。


(アレを、迎え撃つって言うのっ……!?)


 受けるなんてことできないっ!
 それは恐ろしさに威圧されて出した臆病な思考なんかじゃない。単純なルールの問題。

 アレは「力」のみに特化したスレイヴァー。
 技術というものをまったく介せず、それでも技を扱う相手と対等に渡り合うほど「力」に偏った鬼神。
 「技」っていうのは要するに掛け算。
 全てがテコの原理で成り立っている人間の関節、その動きの効率を求めたものが技であり武術。
 もともと100の「力」を効率よく伝達し、1000にも10000にもするために生み出されたもの。

 だっていうのに、アレは掛け算を行わずに、単体で10000の力をぶつけてくるっ……。
 なんてデタラメっ……!

 「王」とかやらが、スレイヴァーに等しく力を与えるというなら。
 それぞれのスレイヴァーの能力値を数値化した場合、全員が同じ数値を与えられていることになる。
 つまり、最初に100ポイントを与えられていて、
 そこから「力」や「技」や「スピード」といった戦闘能力にポイントを振り分けると考えればいいかもしれない。

 アレは「技術」を捨て代わりに「力」に全てを注いでいる、―――なら。
 100ポイントの内80も90も「力」だけに振り分けていることになる。
 ……いや、元々あった「理性」さえ捨てているんだ……。
 「理性」をマイナスにする代わりに、その差分さえ「力」に加えているのかもしれない……!?

 白雪ちゃんがなんのスレイヴァーで、どんな能力を持ってるかは分からない。
 けど、与えられた能力をどこまでも「力」のみに注ぎ込んだアレと、打ち合いという単純な「力」比べの勝負になれば、負けは必然!
 受け止めることすら愚行!!
 だから無理なのよっ!!

 アタシは、白雪ちゃんにアレから離れるように願った。
 願うだけじゃ抑えきれない、叫んだ!


    ―――ダメッ! 逃げて!!


 けれど……世界はまだスローで、アタシの口は、アタシの思う速さで動いてくれない。
 動いていない訳じゃない、恐ろしくゆっくりに感じる。

 動いて動いてっ! 早く動いてっ!!

 こんなんじゃ遅いッ、早く動いて伝えてよっ!!

 焦る思考だけが暴走する。
 辛く不安な時間を、こんなにも長く体感させられるなんて……なんて苦痛。

 言葉にできなかった思いは当然白雪ちゃんに届くことはなく。
 彼女は両手に持った短刀をだらりと下げて。
 それでも姿勢は凛々しく、背筋を伸ばして。
 向かい来るソレの姿を、ただただ見据えた。


「ダ―――」


 アタシの声、その1文字目がようやく口から飛び出した時。
 ぶ厚い鉄板は、突き刺さった地面諸共なぎ払い、ソレを中心に旋回を始めた。
 体ごと一回転して、勢いを乗せた重い一撃は、再び白雪ちゃんに向けて放たれるッ!


    ―――キィィィーーーーーーーンッッ


 それら全ては一瞬の出来事……。

 耳を突く金属音が、響いた。












更新履歴

H20・7/20:完成・掲載


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