傷だらけの道を辿って行くと、だんだんとどこに向かってるのか察することができた。
 この先の道にあるのは、例の人気にんき人気ひとけのない公園だ。
 始まりの日……鞠絵ちゃんと四葉ちゃんの戦いが繰り広げられ、千影ちゃんを拾ったあの場所……。
 名前は確か「み」なんとか公園っていったはず……よく覚えてないけど。
 あそこには滅多に人は来ないし、更に人目を遮れる木々の茂った場所がある。
 誰にも迷惑掛けず、人目にも触れずに戦うには絶好の場所。
 状況的に見ても、まずそこで間違いないはず。


「もしそうなら次の角は右……っと、思った通りっ」


 差し掛かったT字路で迷わず右に目を向けると、視線の先には予想通り痕跡が続いていた。
 ここから先で他に思い当たる打ってつけの場所もないし、もう間違いないわ。
 辿るほどに戦いの痕跡は薄くなっていたけど、見当はついたも同然だから何の問題もない。
 それに、その分攻撃の手が緩んだって意味だから、アタシにとってはこれ以上ない朗報。
 もう大丈夫、あとは目的の場所に向けて足を進めるだけ。
 でも……。


(―――アタシひとりしゃしゃり出たところで、どうにかなるの……?)


 走り続けている内に、そんな心の囁きが、アタシの足を鈍らせてしまった。
 それはそうだろう。相手は規格外の超人。対してアタシは、運動に自信のないインドアなメカオタク。行ったところで止める術なんてない。
 知的で奇抜な超画期的名案でもあれば対抗のしようはあるけど、あいにくとそんな妙案はアタシにはない。
 柔よく剛を制すとはよく言ったものだけど、対する「剛」は、しなやかな「柔」さえそのまま引き千切ってしまうほど超強力な代物。
 下手な小細工が通じるほど、アタシヒト超戦力ソレとの差は小さくない。
 話し合いでの説得……それが、今アタシにできる精一杯。
 だけど対抗手段も何もない自分に、超戦力を持つスレイヴァーが従う理由はない。
 それこそ、剛を以って柔を圧倒する力で捻じ伏せれば道理も通るんだから。
 多少頭が冷えてきたからだろう。
 未知には挑んでも勝算のない勝負には出ない聡明な頭脳が、そんな当然の疑問に、今やっと辿り着いた。


「ううん……白雪ちゃんは優しい子だもん……。きっと、話聞いてくれるはず」


 言うならば、「弱いこと」こそが切り札ジョーカーだった。
 アタシには、彼女の理性を頼りにするしか残されていな―――






    ―――君は………狂戦士バーサーカーの存在を覚えているのかな……とね……。






「―――っ!!?」


 ぞくり、体中を悪寒が包んだ。






 

Sister's Alive
〜妹たちの戦争〜

12月19日 水曜日

第20話 そしてけだものは闇より吼え出でた








 「理性」というワードに反応して、反射的にフラッシュバックされた今朝の会話……。
 千影ちゃんが、きっと警告の意味で口にしたんだろう 。
 可能性としては考えなくてはならない、そういう意味での忠告だったんだと思う……。
 けれど、それは科学者見習いのアタシが、お札 はって頭の棚の中に封印という非科学的対応を取りたい思うほど忌まわしいもので……けれども、避けられない現実だった。
 それが、ふとした弾みで、 しまったはずの脳みその引き出しから首をもたげ始めた。
 口にした千影ちゃんのイメージも相まって、余計に恐ろしさを煽られてしまう。


「そんなバカな……。だって……だって白雪ちゃんがバーサーカーだなんて……そんなワケ……」


 そう、理性を失ってしまえば、いつもの優しさも、なんの意味も成さない……。
 アタシが唯一頼りにしている切り札ジョーカーは、そこで意味を成さなくなってしまう。
 つまりは……千影ちゃんの言うとおりに、"最悪の結末"をまねくことに……。
 気がつけば、動かさなくてはならない足はすくみ、動きを止めていた。


「ち……違う! 白雪ちゃんは違うっ! あんな優しい子が、戦いを望むはずない!」


 だからこそ、戦いを望むのは与えられた能力バーサーカーの本能。
 そうだ……それならば、辻褄が……合って、しまう……。
 そもそも、この逃走劇はふたりの判断である必要はないんだ。
 片方の、逃げる側がそこに誘導できれば、それだけで事足りる。
 鞠絵ちゃんにげるほうが誰も巻き込まないところへ場所を移せば、追う側を簡単に誘導できてしまう。

 なら、この公共物破損こんせきにも納得がいくじゃない。
 相手には、理性が……ココロがナイんだから……。
 敵を仕留める、ただそれだけが目的。
 そのためなら、自分の存在がバレてしまおうが、他人を巻き込もうが関係ない。
 他の事なんてどうでもいいんだから。
 理性がないなら、本人がそれを望んでなくても、「望まない思考そのもの」が停止しているんだから。

 ほら、筋は通ってるじゃない?
 なら……


「違うっ! 白雪ちゃんがスレイヴァーなのは認める、認めるわよ! でもだからって……!!」


 口では否定するのに、頭で肯定を促してしまう。
 声にして、必死に否定する。違うと言い聞かせたい。
 思うだけじゃ足りない、口で、耳で、頭で、言い聞かせたかった。五感を刺激させて、より実感したかった。
 なのに頭だけはそれに逆らった。
 考えるのも、「声に出す」という電気信号を送るのも、同じ人間の同じ脳という司令塔なのに、まるで別物みたいにちぐはぐな指令を同時に行 っていた。
 取り戻した冷静さは、文字通りの冷たさと静けさで、唯一の一縷の望みさえも断ち切る無慈悲な結論を導き出してしまう。
 最悪を予見する能力 というのは、アタシ自身の趣味の手前重要なファクターだけど、今はそれが行える頭脳が少し憎たらしい。


「だったら白雪ちゃんには……相応しく、ない……。あんなに優しい子が、あんなに思いやりのある子が、バーサーカーなんて……」


 確定じゃあない。可能性があるだけ。
 クラスには相応しいものが選ばれる、これはそういうルール。
 だったら彼女にバーサーカーは……相応しく、ないっ……!

 ほら、大丈夫よ。
 ちょっと悪い方向に考え過ぎただけ……いつものことじゃない。
 だから今は走らなきゃ。
 走らなきゃ……走らなきゃ、いけないのに……足がすくんで、動か、ない……。


「違うに……決まって、る……」


 否定する、その言葉さえ、なんて弱々しい。
 自信があるなら、もっと強く言えば良い。
 足 も止めずに走れば良い。
 でも、できない……。

 だって……だって……こじつけようと思えば、何にだってこじつけられる。
 雛子ちゃんを見てみなさいよ。
 雛子ちゃんはライダー。
 でも、なんでよ?
 分かる? 分かるのアタシ?
 だったら、これだって同じじゃない……。


 ナラ、シラユキチャンダッテ……










「いつまで…………おンなじこと繰り返してるのよ!! このボンクラぁっっ!!」











    ガァンッ











「……痛……ったぁ」


 グッと握り締めた拳を、思いっきり自分の額目掛けて撃ち放った。
 弱気な思考を、頭の中から叩き出す、なんて消極的じゃない、頭の中でそのまま叩き潰すイメージで。
 もちろん 形のあるものじゃないから、この行為にはその目的を果たせるような効果はない。
 加えて……当然ながらに痛 い。目の前がチカチカする……。断じてあのアホ姉さまの新ニックネームではない。
 自分に向ける攻撃っていうのは大抵無意識にリミッターが掛かるものだけど、どうも今回、そのリミッターが働いてくれなかった模様。
 直接衝撃を受けたおでこだけじゃなく、反動で仰け反った首もヘンな風に捻って、ちょっと痛めた……。


「……加減利かなくて正解……お陰で目ぇ覚めた……」


 ズキズキ痛むおでこをさすりながら痛みを和らげる行為に、自分でやっておいてなんてアメとムチなんだろうと思った。
 ただ、意思は固まった。
 昼休みからずっと、「白雪ちゃんは違う」、「認めよう」、「白雪ちゃんは違う」、「認めよう」、その繰り返し。
 もう考えることに意味なんてもたない。
 だって、例えそうでも……アタシが「行く」という事実に変わりはないんだから。
 案ずるより産むがなんとか。
 国語の授業はまじめに受けてないから、細かいところは忘れた。(柔よく云々はたまたま覚えていただけ)


「良し……いつものアタシに戻ったじゃない……」


 思考の中にシリアスな場面にそぐわない冗談交じりな言い回しが混じっている。
 なんて空気の読めない脳みそちゃんなのか。
 だけど、これで良い……これが良い……。
 さっきから暗い想像ばかり描き立てては、それじゃあ体の前に心が保たない。
 だから、このくらいふざけて向き合うのが丁度良い。
 リラックス。まあ、一種の開き直りね……。


「ははっ……! それこそアタシらしい」


 効果はあったのか、仕舞いにあっけらかんと笑い飛ばして、顔まで緩んでる。
 とにかく考えてないでとっとと動きなさい!
 狂戦士はずれ姉妹こうほ中のひとり、たかだか12分の1。
 出たとこ勝負! 勝負しなきゃ、リターンだって帰ってこない。
 だから説得しょうぶに出なきゃ!


「うおおおぉおおっ!! 待ってなさいよーーっっ!!」


 真昼の街中ということもおサボり学生だという立場も忘れ、ばかみたいに叫びながら駆け出した。

 ……それが強がりだって分かっている。
 この不安を完全に拭い去るなんて事、できるはずもない。
 それでも走るために、無理矢理考えないようにした。
 ズキズキ痛むおでこは、暗い思考を遮ってくれて丁度良かった。






 そうして、続いていた痕跡は……予想通り、例の公園にまで伸びていた。


「着いた……」


 入口にちょこんとそびえ立つ看板。
 そこに「皆井公園」と、そう書かれていた。


「ああ、そういえばそんな名前だったっけ……。大体地味なのよ、こんな名前」


 気を紛らわそうと、陽気な自分を演じ続ける。
 どうせ、もうすぐそんな余裕すらなくなる。だから今の内に、明るさを補充しておかなくちゃ……。

 痕跡は、入口より少し入った位置まで続いている。
 間違いない、ふたりはこの公園に入っていった。
 入口から先には痕跡がなかったから、公園のどこか、という確証はなくなってしまったけれど、
 ここまでは推理通りなら、恐らく、2日前に四葉ちゃんと出会った林の中に―――






 

■■■■■■■■■■■■―――ッ!!










「―――っ!!?」


 突然、悲鳴とも断末魔ともつかない……獣の遠吠えような声が、大気を震わせアタシの身に襲い掛かった。
  すごい爆音で……ビリビリと震える空気が、アタシの体にぶつけられる。
 触覚で、それが知覚できるほどに、強く、大きい。


「な、なに……今の……?」


 声……?
 あんなもの、とても「声」なんて単語で形容できない「音」だ。
  そんなロケットエンジンでも稼動させたような爆音に、驚いたカラスの群れは鳴きながら逃げ、空を覆った。
 曇り空に広がった黒い斑点は、カァカァと不吉を象徴する鳴き声を放って いて、余計不吉な恐ろしさを与えてくる……。
 「音」の聞こえた方向を見てみる。
 そこは……たった今、自分が目を向けようとした木々の茂みが……。


「まさか……本当に……」


 狂戦士バーサーカー……。

 神話の中で、鬼神の如く猛威を揮ったと謳われるの存在。
 幻想的な話題に疎いアタシでも、テレビゲームとかで見かけるから、その獰猛な様は思い浮かべられる。
 そう……今みたいな、人のものとは思えぬ禍々しい咆哮をあげる姿さえも……。


「鞠絵ちゃんっ!!」


 12分の1の最悪のシチュエーション。
 それが、今まさに現実に起こっていると思った瞬間……気づいた時には駆け出していた。
 理性を失った獣、その獰猛な毒牙に駆られようとする鞠絵ちゃんのイメージに、居ても立ってもいられなくなって……。
 相手の理性を頼りにするしかなかったアタシに、今更切り札ジョーカーなんて残されるはずもない……。
 なのに、話し合いなんて通じないとか、自分の命にまで関わるだとか、そんなすぐに考え付きそうなことまで頭が回らなかった。












 茂みの中に足を踏み入れると、ビリビリと、空気自体が振動しているような錯覚が、アタシの身に降り注ぐ。
 さっきとは違い、音も何も鳴り響いていないのに、気配……感覚だけで、さっき以上の圧迫感を肌で感じた。
 瞬間、そこが既に修羅場と化していることを理解する。
 その先に待ち構えるものの恐ろしさを、より克明に伝えてくる。
 加えて、木々に光を遮られた空間は、昼間だというのに薄暗く……その暗さが 、より克明な恐怖をアタシに与えるには十分すぎるほど。
 進めば進むほどに、薄暗さも圧迫感も段々と増してくる。
 それでも、ふたりのことで頭がいっぱいで……、自分のことなんてほんとどうでも良くて……。
 恐怖もプレッシャーも、跳ね除けて突き進んだ。
 そうして……一昨日、アタシが非日常へと飛び込んでしまったその場所へと、辿りつい―――



    ビュォォンッッ……




 ―――た――……え?




    ドォンッッ ……ドサッ……


 突然、白い影が飛んできて……アタシの横を通り過ぎて……後ろの木か何かにぶつかった?
 今の、白い影は……なに?
 結構大きかった……アタシと同じくらいには……?
 後ろから、カサカサカサ……と鳴る葉のこすれる音と、木の揺れる音が耳に響いた。
 それも柳のように軽い音じゃなく、それなりの太さを持った木が揺れてる、って感じの。


「……か、っ……ふ……」


 それらの音に混じって、比べるとはるかに小さいはずの、小さな悲鳴が、耳に刺さった。


「―――ッ!!」




 白い影は……鞠絵ちゃんだ……!!


 白雪ちゃんバーサーカーに、突き飛ばされた鞠絵ちゃん……。
 そう分かった時、歯をさっき以上に食いしばって、自分でも分かるくらい顔の筋肉を歪め て……。
 アタシ今、きっと……今まで生きてきた中で一番醜い表情をしていると思う。
 怒り……もあった。
 でも怒りだけじゃない。
 大切な……大好きな人が、大好きな人を傷つけた。
 そのことが……悲しくて、悔しくて……。
 大好きだったから……余計に、辛くて……。
 きっと、その結末を止められなかった自分に、苛立った。


「白雪ちゃんっっ!!」


 木々の茂みをじっと睨みつけて、奥に潜む人に向けて、アタシは思いっきりその人の名前を叫んだ。
 今まで、胸の内に溜まりに溜まった感情が、ここに来てとうとう爆発した。
 恐怖なんて、カケラもなかった。
 圧迫感、威圧感は依然、震える大気から伝わってきていたけれど、今、後ろで苦しんでいる鞠絵ちゃんのことを思えば、全て跳ね返せた。


「……は、い……です、の……」


 アタシの感情を丸出しの呼びかけに返事が返ってくる。
 話し合いなんて期待できないと考えていた相手からの返事。
 名前を呼ばれたその人からの、弱々しい返事が、かすかに聞こえた。
 アタシの、"後ろから"……。


「……え?」






 ・   ・   ・   ・   ・   ・   な   ん   で   ?






 だって、おかしい。
 後ろには、白雪ちゃんに突き飛ばされた鞠絵ちゃんが居るはずなのに。
 なのに何で、吹き飛ばした本人が後ろに居る……?

 突然の疑惑に、内に宿っていた熱は一気に、冷えた。
 ヒトは、理解できないことにこそ恐怖するもの。
 それは正に不可解きょうふの状況。
 ならばその恐怖を解消するためには…………そう、後ろを振り向けば良い。
 だけど、それを見ることもまた恐怖。
 なんで?
 別の謎が生まれるから?
 それとも……。

 知らないからこそ怯えるのに、知ることを恐れている矛盾。
 どちらも恐怖。
 だったら……どっちがいい?


「…………」


 唾をひと飲みしてから、アタシは行動を起こした。
 それは先に進むための勇気か、それとも科学者としての本能か。
 「理解」を求めたアタシは、後者の恐怖を押さえ込んで、恐る恐る後ろを振り向いていた。

 そこには、紛れもなく………………白雪ちゃんの姿が……。


「……え? あ……え……? なん……で?」


 なんで……?
 なんで、なんで?
 なんでなんでナンデなんでなんでなんでナンデナンデなんでナンデなんでなんでなんで!?


 解消と同時に、またひとつ新たな不可解きょうふが生まれる。
 思わず出た声は、うろたえてスムーズに出てくれない。
 代わりに頭の中で何度も何度も言った。
 頭の中がぐしゃぐしゃで、今にもショートしそう。
 意味わかんない。なんで? なんでなんでナンデなんで?


    ガサガサ……


 繰り返す思考の袋小路から抜け出してくれるかのように、前方から茂みを掻き分ける音が耳に届 いた。
 反射的にそっちを向くと、茂みの奥から白雪ちゃんではない何者かの影が覗いた。


「…………」


 木々の奥から現れた姿に、絶句した。
 どうして彼女が、奥から現れるのよ? 余計わけわかんない。
 もう、頭がついていけない……。
 混乱した思考は完全に止まり、脳がデバッグを必要としていた。
 ガクガクと、まるでわざと動かしてるんじゃないかってくらい大きく、手と足が震えていた。
 怒りとか、悲しみとか、 そんな感情っていう脳内のワクチンプログラムのお陰で跳ね除けてた恐怖と威圧を、今更ながらに受けていた。


「…………」


 向こうからの反応は……ない。
 アタシは今、学校サボってまでここに来たっていうのに。
 教えても居ないこの場所を、見事探り当てて来たというのに。
 それにすら無反応。
 いやそもそも、彼女なら抱くであろうアタシに対する後ろめたさも。
 彼女が何かしらの感情を抱く要素はいっぱいある……にもかかわらず、なにもかもに無反応。
 その表情は……木々の陰に隠れて、読めない。
 そうだ……向こうからだって、アタシが影に隠れて見えていないのかもしれない。
 名前を、呼びかけて、みよう……。


「ま…鞠絵、ちゃ……」


    ゴォォォンッッ


 言葉を言い切る前に、轟音と暴風がアタシの体を突き抜けた。
 何が起こったのか、把握する間もないアタシの身に、間髪入れず鈍い異様な音が耳に響く。


    メキ……メキ、メキ…………ドォンッドドォーンッ……


 轟音と共に、彼女の右側に並ぶ木が数本、倒れた。


「………………は?」


 場の雰囲気にそぐわない、間の抜けた声がこぼれる。
 そりゃ、出るだろう……。
 だって……あんな……
 あんな……



   ドックン……



 病弱で、体の弱い子が……



   ドックン……



 大きな、剣の形をした"何か"を……



   ドックン……



 その長く太く分厚い鉄板を肩に乗せて、



   ドックン……



 こっちに歩み寄ってくるんだから……。


「………………」

「は……はは……」


 黒くて………大きくて………荒々しくて……、………おぞましい……。
 その、剣の形をしたぶ厚い鉄の板を、片手で肩に担ぐ「鞠絵」のようななにか。
 見た目通りの重量をかもし出しながら、一歩一歩、重厚な足取りで近づいてくる。
 ただの一振りで、数本のイノチを、根元から断ち切ったぶ厚い鉄の板は、
 幅広なその身を妖しくギラつかせ、使い手の背丈よりも長いその身を、物々しく晒していた。
 その威圧感に当てられてか、木々の作り出した薄暗さは、今が昼間であることさえ忘れさせてしまいそうなほど暗く感じる。
 自分が、太陽の恩恵さえ受けられない、深海に溺れてしまった錯覚さえ覚える。

 心配して助けに来たはずなのに、その相手は無傷で、それどころか……アタシにさえ、その凶悪な威圧感を振り撒く。
 でもアタシの呼びかけなんかには全然無関心で……
 きっと、気づいていないんだ。
 だから……茂みの奥から現れた相手に向け、もう一度、名前を呼びかけてみた……。


「ま、鞠絵ちゃ……」

■■■■■■■■■■■■―――ッッ!!



 彼女の形をした白い影は、その可憐な外見に信じられないほど、醜く、声にもならない、潰れた"あの「音」"を吼えた……。


「あ……、…が………」


 声が、出な、い……。

 息、が…でき、ない……。





    ―――病弱で……まるで晩秋の花のように、





 いつも思っていた言葉が、リピートされる。





    ―――可愛くて綺麗だけど、 





 そこに映る映像は……それすらも滑稽で。





    ―――今にも散ってしまいそうな……





 アタシの理想を、悉く打ち砕いて……。





    ―――そんな儚い女の子……。





 ただただ絶望に打ちひしがれながら、腰が砕け、その場にへたり込むしかなかった。











 簡単な消去法じゃない……。
 確率は12分の1……。
 今ここに迷い込んだふたりの内、片方がこの潰れた「音」を発した。
 そして、その内の白雪ちゃんかたほうが違うというのなら……。












■■■■■■■■■■■■―――ッッ!!












 ―――狂戦士バーサーカーは……彼女マリエの方だったんだ……。












更新履歴

H18・12/3:完成・掲載


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