「……え?」


 千影ちゃんの発言に、自分の耳を疑うように鞠絵ちゃんが短く声を漏らす。
 その気持ちはとてもよく分かる。
 だってアタシ自身、千影ちゃんのその発言には耳を疑った。

 何でも望みが叶うという究極的な報酬を賭けて、
 姉妹同士で、本気で、命を掛けて戦うことを余儀なくされた、このふざけたサバイバルゲーム。
 その戦いの優勝者はたったひとり……。
 そんな、昔の魔術師達の用意した酔狂の中、


「…共同戦線を張らないか、と………そう言ったんだ……」


 千影ちゃんは、敵である鞠絵ちゃんに、そんなことを持ちかけてきた。






 

Sister's Alive
〜妹たちの戦争〜

12月17日 月曜日

第5話 始まりの日の終わり







「「…………」」


 アタシも鞠絵ちゃんも声を失った。
 重苦しい緊張の空気が解け始めようとしたこの場に、再び緊張が走り始めた。

 とりあえず、この緊張感の最中も千影ちゃんの左手をはみはみしてるミカエルを引き剥がさんことには、
 折角の緊張感が台無しになるので、ミカエルには一旦離れててもらうことにしよう。


「くぅ〜ん……」


 千影ちゃんから引き剥がそうとすると、ミカエルは何か残念そうに目で訴えてきた。
 案外千影ちゃんの手の噛み心地が良かったのかもしれない。
 まあ、今はミカエルよりも千影ちゃんの方が重要……――


「くぅ〜ん、くぅ〜ん」


 こらこら、出てくんじゃない。今は千影ちゃんの方が重要なんだから。


    ……はみはみ


 って、アーターシーにー噛ーみーつーくーなー!


「優勝者はひとりだけ……分かってるんですか?」


 アタシがこのボケ犬の相手をしている間に、鞠絵ちゃんが気を取り直して千影ちゃんに問い返す。

 この戦い、優勝者に与えられるものは、"何でも願いが叶う"という権利だ。
 ただの薄っぺらな紙の表彰状や、洗剤やサランラップのセットやペットボトルジュース数本とスナック菓子のセットといった、
 そこらの町内ボーリング大会で貰えそうなものなんかとは違う……。


「……さっきも言ったように…………私は…参加自体が目的で………願いなんてどうでもいいんだ……。
 ………どうしても叶えたいものなら……………いつも自分の力で何とかしてきたしね…………」


 驚くべきことに、千影ちゃんはあっさりと、最終目的である「願い」を放棄する発言をしてきた。
 後半部分は妖しい笑いを含んだように口にして……千影ちゃんの場合、そんなことも"らしい"ので、あんまりシャレにならない……。


「ただ…………私だって……こんな傷を負って…この『戦争』を戦い抜けるとは思っていない……。
 ………が……四葉くんを倒すか…………能力を解除させるまで……この状態は続くだろう……………。
 いくら参加が目的とはいえ……こんな不調での参加は私も不本意だ…………」


 確かに、千影ちゃんはアタシたちとはほんのちょっとだけ価値観が違う。
 例えば……そう、道端にお金が落ちて居ようものなら、普通の人ならそれを価値あるものとみて、
 もう血眼になって、持てる力を振り絞ってでも、握ったら離さないくらいの意気込みで飛びつく……
 ……え? それはアタシだけだ? そんなバカな。


「…"まともな参加"を望むのなら……やはり狙うは優勝…なのだが………、…どうも……そうは言っていられないようだしね…………」


 しかし、千影ちゃんの場合、そのお金を……例え一万円札でも、無価値と断じて見向きもしなさそう。
 逆に、普通の人なら価値を見出せないオカルトちっくな人形とか壺とか、そういうものに興味を示す人だ。
 人それぞれに価値観というものがある。
 だから、"願い"という一般には「絶対的な報酬」でも、千影ちゃんにとってはどうでもいいんだろう。
 アタシには、とてもそこに演技が入ってるようには見えなかった……。



「…君だって……病気というハンデを抱えたまま………安易に勝ち残れるなんて考えていないだろう……………?」

「……え?」


 その千影ちゃんの言葉に驚いて、思わずその場に声が漏れた。
 鞠絵ちゃんではなく、アタシの。


「……治っては……いないんだろう…………?」

「…………」


 千影ちゃんの問いに、鞠絵ちゃんは目を伏せながら、悔しそうに口を硬く結んで、ただ黙り込んでしまった。
 つまりそれは……図星、ということだろう……。


「『王』から得た力で……今は満足に動けるのだろうが………力を消費した時………
 ……基本として残されている………その病気という枷を抱えたままで…………
 …ひとりで戦い抜けるほど……………楽な戦いでないと……さっき思い知っただろう……?」


 千影ちゃんは、確信に近い推測を鞠絵ちゃんに聞かせ続けた。
 多分、予測が的中されているだろう鞠絵ちゃん自身よりも……きっと、アタシの方が驚いていたと思う。
 鞠絵ちゃんが元気になったのは、この「ゲーム」が始まったから……その事実に。

 ここ3日は目を見張るほど体調が良かった……そう、鞠絵ちゃんからメールで聞いていた。
 3日……それは、千影ちゃんが石盤を起動させた時期と大体一致する。
 さっきだって、今までの鞠絵ちゃんからしてみれば、とんでもないというような運動量だ。
 普通に動き回るだけで、無理がたたって寝込んでしまった時だってあるっていうのに、今は顔色だって良いまま……。
 つまり、鞠絵ちゃんが今元気なのは、力を与えられたから……。

 力を使い果たせば……鞠絵ちゃんは、また、いつもの病弱な体質に戻ってしまう……。


「お互い……戦うには不完全なんだ………。……だから補い合おう…………そう言っている」


 スレイヴァーとなって得た力は大きい……それは見ていただけのアタシにも分かった。
 けど、それはもちろん相手だって同じってことも、さっきの鞠絵ちゃんと四葉ちゃんの戦いから既に理解している。
 状況による得意不得意はあるだろうけど、単純に実力は均衡と考えていいだろう……。
 だから、個人による差―――知識や経験などが、勝負の明暗を分けることになる。
 それは、もちろん「病気」も含まれるということだ……。

 なら、その「病気」という枷……結果的にはスタミナ不足という形で出たハンデを抱えて、
 鞠絵ちゃんが最後まで勝ち抜くためには、体力の温存や回復など、上手く立ち回らなければならない……。


「今…君が散々責め立ててくれた…………私の知っている前情報だって………たっぷり提供できる…………」

「代わりに、不完全ながらも万全のわたくしが、千影ちゃんを守ってあげる、と……そういうことですか……?」

「そういうことさ……………」


 やや皮肉の混じった鞠絵ちゃんの言葉を、千影ちゃんは悪びれることもなくあっさり認める。
 それはまさに持ちつ持たれつの取り引きだった。
 そういう「戦争」も、昔の魔術師達は計算に入れていたんだろうか?
 なら、アタシはこの戦いを仕組んだ魔術師達のことを、どう逆立ちしたって気に入れそうもない……。


「何も…君の寝首をかこうなんて考えてはいないさ………。……最悪…………願いの権利は君に譲ってもいい……。
 ……………何度も言うが………私の願いは……参加、それ自体だからね…………」


 もう一度さらりと、でも強く印象付けるように、「願い」を放棄する発言を繰り返す。
 しかも今度は「譲る」とまで……かなり太っ腹に出てきた。


「私を信用しきれないなら…………一時的なものでいい……。…少なくとも…………四葉くんの能力を解除できる、その時まで……。
 ……仮に…、私が寝首をかくにしろ………回復してからの方が懸命な判断だというのは……明白だろう……………?」


 利害の一致は共同戦線の基本だろう。
 ふたりの間では見事それがなされている……寧ろ持ち掛けた千影ちゃんが譲歩している形だ。
 これは大きな取り引き材料となったのか、言葉は出なくとも、鞠絵ちゃんは凄く思い悩んでいる様子だった。

 数秒の沈黙、深い思慮。
 たった数秒だっていうのに、とても長く感じる……。

 そうして、鞠絵ちゃんは静かに、


「…………わかりました」


 首を縦に振った……。


「フフ…………交渉成立…………だな……」

「はい、よろしく願いします……」


 千影ちゃんはニヤリと笑みを浮かべて、対する鞠絵ちゃんは複雑そうな表情で、
 そんな感じにお互い一言二言言葉を交わしていた。
 その横で、アタシはほっと一息、安心のため息をついていた。


「じゃあ……握手と行こうか?」


 千影ちゃんがスッと右手を差し出す。
 千影ちゃんは元々が綺麗だから、そんな何気ない動作もとてもキマって見えた。


「……え? あ、握手……ですか……?」


 差し出された右手を見て、鞠絵ちゃんはなにかためらいがちに固まってしまった。
 ま、無理もないと思う……。
 さっきまで敵視ビンビンで……というか、「ルールだから」と、千影ちゃんを脱落させようとしていたんだ。
 そんな相手が今や味方。そう簡単に切り替えが上手く行かないのも、仕方がないことだと思う。


「…………いや、無理にとは言わないさ……。…まだ……そこまで信用貰えた訳じゃ…………なさそうだしね……」


 鞠絵ちゃんの様子を見かねてか、千影ちゃんは折角出した右手を引っ込める。


「あ、いえ……そんなわけじゃあ……」

「いやいいさ………。…無理もないことだし…………これから態度で示していくよ…………」


 千影ちゃんもそこら辺の事情は分かってるらしく、ここは一歩身を引いてくれた。
 まあこんなことで、折角結んだ協定が破綻するのも勘弁して欲しい。


「そ、そっかー……ふたりは協力することになったのかー……」


 またややこしくなりそうだったので、話の視点を別のところに向けようと、アタシがそう口にした。
 ちょっとわざとらしかったかもしれないけど、でも安心したのは本当だし……。


「ああ………めでたく協定成立さ…………」


 これで鞠絵ちゃんと千影ちゃんは戦うことはなくなった。
 つまり、無用な戦いをひとつ減らすことができたことに他ならない。


「…じゃあ……お世話になるよ…………鈴凛くん」


 戦うしか終わらせられないこのゲームで、それは大きいことだと―――


「……………、………はぃ?」


 ……ヒトが頭の中で考え広げてる時に、千影さんったらなーんかトンでもないこと口にしませんでした?


「おいおい………私たちは共同戦線をはったんだよ…………」

「そりゃぁ……まぁ……」


 思いっきり立会人だったし……。


「じゃあ………その協定相手の鞠絵くんがお世話になるのはどこだい……?」


 どこって、それは……――


「……ここ」

「……共に戦うなら…なるべく同じ時を過ごした方がいいだろう………?
 交代での見張りなど………場合によって…あるに越したことはないだろうし……………」

「ま、まあね……」

「だ・か・ら…………お世話になるよ……………フフ……」


 弾むように「だ・か・ら」なんて千影ちゃんに言われて悪寒が走った。


「っていうか、えぇッ!?」


 待って! ちょっと待って! なにそれ!? なにその話の流れ!?
 どーしてそんな結果になるの!?


「ついでに、このケガで私は帰れと?」

「……あ、……いや、それは……」


 左のわき腹を指差して、千影ちゃんには珍しく「……」を入れずにスパッと言ってくる。
 確かに……今でこそ痛み止めと「他」が効いているから落ち着いているけど、さっきの千影ちゃんは本当に苦しそうだった……。
 そんなケガ人に帰れだなんて言うほど、アタシは薄情者じゃない。


「で、でも、でも……」

「でも……なんだって言うんだい…………?」

「でも、もしアタシがスレイヴァーだったらどうす―――」


 自分もスレイヴァーだったら、そう思って口にしようとした途端だった。
 アタシはふと、今朝の夢のことを思い出したのだ。


「そうだ……夢。アタシ、夢見たんだ……」

「……夢?」

「うん。欲しい力がどうとかって……。ってことはアタシも……」


 覚醒を迎えていないだけで、本当はスレイヴァーのひとりなんじゃあ……。


「んや、そんなことはない、はい残念でした」


 ってアタシが真剣に考えてるってのに、千影ちゃんは千影ちゃんらしからぬ口調ですぱっと切り返してきました。


「なんでそう言い切れるのよー」

「そうですよ。鈴凛ちゃんだってスレイヴァーかもしれないじゃないですか」


 そこまであっさり否定されると、さすがにアタシも不服だ。……いや、戦うのは反対だけど。
 鞠絵ちゃん的にもアタシがスレイヴァーの方が良いみたいで、鞠絵ちゃんも一緒になって千影ちゃんに反論していた。

 ……って、鞠絵ちゃん、あなたアタシん家泊まるんでしょ?
 アタシがスレイヴァーで良いの? 寝首かくかもしれないよ。


「鈴凛ちゃん、ライダーとか似合いそうです
 黒い皮製のライダースーツに身を包んで、渚を走りながら風を切って"ぶいぶい"いわせそうで

「鞠絵ちゃん、それなんか違わない?」


 "ライダー"って言っても"騎兵"でしょ?
 つまり、馬に乗って戦う兵士。
 バイク乗りの方じゃないって。


「……それはない…………」

「黒のライダースーツ、似合いませんか?」

「そっちじゃなくて」


 鞠絵ちゃんは、食い下がるようにこうじゃないか、ああじゃないか、と口々に反論する。
 しかし、千影ちゃんの返事は「ノー」の一辺倒のままだった。
 力は欲しくないけど、こうまで否定されるとやっぱりなんか悔しい。


「……そんなに言うなら…………調べようじゃないか………」


 と、これ以上の水掛け論は仕方がないと判断した千影ちゃんがそんな提案をする。


「覚醒はしてなくとも…………刻印は出ている……。………つまり…確認だけはできるんだ……………」


 その際、口の端を吊り上げて、なんかイヤな予感のする妖しい笑顔を浮かべていたのは……気のせいだと思いたかった……。


「ということで……」


 アタシの方を向くと、千影ちゃんの指がわしゃわしゃと妖しく動きはじめた。
 ……気のせいか千影ちゃんの目、光ってません?


「……あのー。なにをお考えで?」

「"ナニ"をお考え中です」


 …………。


い、いいっ! 確認しなくていい! アタシ違うからっ!! 絶っ対スレイヴァーじゃないから!


 何をされるか察したアタシは、すぐさま大声を上げて千影ちゃんから遠ざかる。
 つまり、確認するってことは……つまるところ……スミズミ…まで……うあぁあぁぁああぁっ?!?!?


「そうとは限らないじゃないですか……


 と、突然後ろから声が聞こえてくると同時に、がっしりと体を固定された。


「ま、鞠絵ちゃん?!」


 鞠絵ちゃんが後ろからアタシを羽交い絞めにしたのだ。
 どーでもいいことだけど、その拍子で鞠絵ちゃんの胸が背中に当たって来て……って、アタシはおっさんか!?

 しかし、そんなコトを考えてる場合じゃない!
 春歌ちゃんじゃないけど、このままではオトメの貞操の危機だ!
 乱暴に振りほどくのはちょっと気が引けるけど……状況が状況だけに、そんなこと言ってられない。
 鞠絵ちゃんには悪いけど、ここはそれなりに力を込めさせてもらって……――


「……って……あ、あれ……?」


 しかし、鞠絵ちゃんを振りほどけない。
 鞠絵ちゃんに気を使うとか、そんな遠慮は一切しないで力いっぱい振り解こうとしても、一切無意味。
 鞠絵ちゃんは病気がちだから、正直「非力」ってイメージが付きまとうけど……実は意外に力持ちだった?
 だけどこの力は、病人だから意外とかじゃなくて、まるで機械かなにかに押さえ込まれてるような、そんな人間の力を超えた力で……

 …………人間を超えた力……?


「ちょ、こ、こんなところでスレイヴァーの力を使わないでよ!?」

「こんな時に使わないでいつ使うんですか?」

「そりゃ戦いのときに―――……いや、ごめん、間違えた、戦っちゃダメよ。自己防衛は仕方ないけど」

「………じゃあ……君がスレイヴァーかどうか…確認するのは自己防衛だな…………」

「ですね

「えー!? ふたりしてそういう解釈するー!?」

「うふふっ 共同戦線です

「こんなところでそれを持ってこないでー」

「フフフ…………信頼を得るためさ……我慢することだね……………」

「大体千影ちゃんケガはどうしたの!?」

「痛み止めが効いている、やったね♪」

「やったです

「やってなーーい!!」

「じゃあ……まずはスカートから……」

「いーーーーやーーーーーーー…………」


 その夜、雲ひとつない冬の静かな星空に……アタシの悲鳴が、空しく木霊した……。
 それは……抵抗空しく、ひとりのオトメの生まれたままの姿をさらけ出された……夜のことだった……。












「なかったですね……」

「ああ………」


 ふたりに、身包み剥がされて、生まれたままの姿を拝まれたアタシ。
 瞳を涙に濡らしながら、いそいそと脱がされた服を着る。

 ううう……ジジ……アタシ、汚されちゃったよぉ……。


「あったのは、以外と発育の良かった胸だけですね……」

「ふむ………スタイルも…不規則な生活の割に…………なかなかナイスバデーだったね……」


 いつの間にか、刻印云々よりアタシのスタイルの話に摩り替わってる。
 まさか女の子ふたりにこんな辱めを受けるだなんて…………いや、女の子ふたりだから良かったのかもしれないけど……。


「ううう……アタシ、もうおヨメにいけない……」

「安心してください、わたくしが貰って差し上げますから


 アタシを励ますためか、鞠絵ちゃんが何故かにこにこ笑いながらそんな冗談を口にする。


「……気持ちは嬉しいけど、鞠絵ちゃんはお婿さんってタイプじゃないし、女の子にそう言われても困るから……」

「…そうか……なら…………私が……………」

「そっちも遠慮する……。っていうか千影ちゃんだって女の子でしょ……」


 千影ちゃんも千影ちゃんで、鞠絵ちゃんに対抗してプロポーズ。
 でもそれはそれでなにかと問題が多いので、丁重にお断りさせていただきました。

 今のコト、アタシはそんなデリケートじゃないからそれほど大事じゃないけどさ……
 でもアタシが春歌ちゃんくらい貞淑だったら大変なことになってるよ、ふたりとも。
 まあ、春歌ちゃんは護身術とかも達者だから、そう簡単に引き剥がされるなんてコトは……あるわ、相手はスレイヴァーだし。

 しかしこの場合、どっちのお嫁にいくべきなのだろうか……?
 ……まあ、お嫁にいかんからどっちでもいいことだけど。


「夢については……どうなんですか?」


 なんて、アタシがあほな思考を繰り広げている横で、
 鞠絵ちゃんはそれなりに気に掛かっていたのか、アタシの夢について、千影ちゃんに意見を求めていた。


「恐らく………範疇内の人間だから……………だろうね……。…何か影響を受けたのか…………」

「そうなんですか?」

「…でなきゃ…………ただの偶然か………。……まあ…思ってた通り違ったがね…………」


 そう、結局、アタシの体からは刻印は見つからなかったのだ……。
 思ってた通りアタシは……―――……"思ってた通り"……?


「ちょっ……! "思ってた通り"って何よ!?」

「…………既に私の方で…確認を取ってたんだ………。……だから違うということは―――」

「はぁっ!? じゃあ知ってて身包み剥いだの!?」


 千影ちゃんの胸倉掴んで、怒りに任せてガクガクと千影ちゃんをシェイキングした。
 当然、先程のリベンジも入っている。
 相手がスレイヴァーだろうがなんだろうが関係ない。


「いやぁ……ノリで


 片目瞑ってテヘッってな感じで答える。
 ああ似合わない……千影ちゃんには似合わない……。


「確認って……どうやってですか?」


 疑問に思った鞠絵ちゃんがそのことについて千影ちゃんに質問する。
 アタシも疑問に思ったけど、アタシの場合は辱しめられた怒りの方が勝ってたので、依然千影ちゃんをシェイキングアップしてた。
 なんならこのまま搾ってもいい


「…なに………ちょっとした道具を…ね…………。これさ…………」


 そう言って、激しく揺れながらもフトコロから手のひらサイズのなにかを差し出した。
 さすがにアタシも差し出されたものには興味を惹かれ、後ろ髪を引かれながらも、千影ちゃんをシェイキングする手を止めた。
 そして目に入ってきたものは……ひとつの壊れたコンパス……?


「……なにこれ?」

「言ってしまえば………スレイヴァー探知機ともいえる道具…………"だったもの"だ……」

「…………」

「さっき……たまたま落とした時に…………四葉くんに踏まれた……」

「……つまりもう使えないのね」


 こくんと、――表情の変化は少なかったけど――やたら悔しそうに頷く。
 表彰状といい、コンパスといい、あの子も花穂ちゃんに負けず劣らずおっちょこちょいだ。


「…それに……その四葉くんも……そうだと判別してたからね…………」

「うん?」


 そういえば……四葉ちゃん、アタシと戦わなくて済むとか何とか言っていたような……。


「恐らく彼女は……偵察兵………サーチャーだろう…………」


 再び、流れるようにさらっと自分の推測を口にする千影ちゃん。
 っていうか、それって結構重要なタネ明かしのようにも思えるけど、そんなにあっさりしてていいの、千影ちゃん?


「しかし……まあ、なんて四葉ちゃんらしいんだろうね。さっきクラスを聞いたときからそう予想立ててたけどさ……」
「でも、まあ……なんて四葉ちゃんらしいんでしょうか。クラスを知ったときからそう予想立ててはいましたけれど……」


 …………気が合うのか、それほど四葉という子がそうなのか……。
 たまたま同じことを考えた鞠絵ちゃんと、同じ言葉を投影してしまいました。

 スレイヴァーのクラスのひとつ、サーチャー……つまり偵察兵。
 その名から、偵察―――つまり敵の情報を収集することに特化した戦士ということはなんとなく分かる。
 アタシたち姉妹において、四葉ちゃんほど「情報収集」という言葉に相応しい子も居ないだろう。
 もっとも、四葉ちゃんにとっては全て「チェキ」に置き換わるけど……。


「……スレイヴァーには…相応なものが選ばれるんだ…………それは否めないだろう……?」


 確かに、偵察兵サーチャーは四葉ちゃんにはこれ以上ないほど相応しいクラス。
 なるほど、相応なものが選ばれるとはこういった感じなのね。


「だから武器はシャープペン?」


 単純かつ当然で素朴な疑問を投げ掛けた。

 スレイヴァーには武器が与えられる、と先程聞かされた。
 さっき四葉ちゃんは、ナイフを振るう鞠絵ちゃんに対し、非常識にもシャープペンで戦うというハチャメチャっぷりを発揮していた。
 一般に「ペンは剣よりも強し」というけど、それは実際にぶつけ合って勝つっていう意味じゃないでしょうに。


「でも普通のシャープペンでないのは間違いないようです……。わたくしの使っていたナイフ、ボロボロでしたから……」

「この戦い…………大抵は『人間→クラス→武器』という順番に決まっていくんだ………。
 …まあ……よっぽどの不測の事態がない限り…………そう考えていいだろうな……………」


 つーか今どうやって「→」を発音したの?! ねぇ!?


「昔の魔術師達も………まさかシャープペンなんて武器が出て来るなどと…………予想だにしていないだろうな……。
 ……当時にはそんなものはなかったと言うのに…………時代が変わったということか……………」

「まあ、シャープペンは良いとして……偵察兵だったらどうだっていうのよ?」


 ちょっと話が見えてこないので、何かキメてる感じの千影ちゃんを無視して問い返す。
 千影ちゃんは、自分がカッコよく語ってるっていうのにスルーされてちょっとムッとしてた。
 当然わざとだ、この変質者め。


「…恐らく………彼女には……私たちのクラスが見えている…………」

「……え?」


 さらっと、まるで流れるように……恐らくはまたも重要な推測を、千影ちゃんは口にした。
 アタシには実感はなかったけど、それがまさに死活問題となる鞠絵ちゃんは、思わず口から声を漏らした。


「見えて……るんですか……?」


 つまり、サーチャーの武器は「情報」というとなのだろうか。
 話を聞く限り、クラスがバレるというのはなかなか大変なことらしい。
 さっきも例を聞かされたけど、海兵マリーン相手なら水辺に近づかなきゃ良いとか、結構重要らしいし。


「…不意打ちを失敗した時………何食わぬ顔で誤魔化そうと考えていたのだが…………
 『ムムム……千影ちゃんもスレイヴァーさんでしたか!』なんて言って………
 ……私がスレイヴァーと…一見しただけで見破ったからね……。……他には考えにくいさ……」


 誰がスレイヴァーで、誰がそうでないか、四葉ちゃんには見えているだろうし、
 最悪、クラスまで見透かされていると考えた方がいいと、千影ちゃんはそう付け足した。

 スレイヴァーじゃないアタシには、どれも実感のないことばかりだったけど……
 ただひとつ実感できたことと言えば…………千影ちゃんにモノマネの才能がないということだけだった。


「じゃあ、鞠絵ちゃんはナイフに関係するクラスってこと……?」


 まあ、結構重要なコトだったとは思ったけど、
 アタシの中では実感の持てないものよりもちょっとした好奇心が勝ったワケで、
 だからついつい、そんなことを訪ねた。


「あ、それはないと思いますよ」

「え? だって今、関係ある武器が与えられるって……」

「でもあれ、千影ちゃんの使っていたナイフでしたから……」

「え!? そうなの!?」

「はい……。わたくしの、生成するだけでも時間かかっちゃうんです……だから、落ちてた千影ちゃんのナイフで……―――」

「"せいせい"?」


 これまたおかしな単語が飛び出してきた。
 普通こういう場合は「取り出す」とか「用意する」とか、そういう言い方をするものなのに、
 鞠絵ちゃんの口からは生成―――つまり生み出すと来たもんだ。


「おいおい…………ひょっとしてスレイヴァーに選ばれた途端……側にボンッって…武器が置かれてるとでも思ってたのかい……?
 …過去には…剣士セイバー弓兵アーチャーなんてクラスが居たんだ…………。
 ……剣や弓なんかを持ってそこら辺歩いていたら……それこそアブナイ人だし………何よりスレイヴァー同士ならバレるだろう?」


 千影ちゃんの「チミはバカか?」といわんばかりの見下した発言。
 それはアレですか? 先程のアタシのリベンジに対する更にリベンジですか?
 こうやって、憎しみは憎しみを呼び合い、終わりのない憎悪の輪廻が形成されてゆく……ああ、人間はなんて愚かなイキモノなんだろ。


「千影ちゃん……あの、そういえばその辺の説明、抜けていましたよ……」

「………ん? ……そうだったっけかな…………?」


 そう、アタシには「武器が与えられる」という説明しか受けていない。
 だからアタシは悪くない……と思う。
 というか、なんだかさっきから千影ちゃんの性格が微妙に変わってきたような……。


「武器は、スレイヴァーの魔力で生成するんです。つまり、出て来いって念じれば、その魔力で武器を作り出せるんです」

「…まあ………相応に…魔力を消費するがね……………」

「へぇー」


 普通に感心してそんな声をあげた。
 確かに、さっき千影ちゃんの言っていたことももっともだ。
 普通、弓持って歩くのなんて弓道部やアーチェリー部所属の人くらいだ。
 だけどさっき見たナイフは、ファンタジーモノの漫画やゲームに出て来そうな装飾だったのは覚えている。
 そんな感じの弓が出てくれば、弓道部の弓やアーチェリーの弓とは全然違うから、
 布かなんかで包まなきゃいけなくなるのは当然の結果だし、そもそも、そんなかさばる物いちいち持って歩くわけにもいかない。
 そんな状況だからこそ、武器を好きな時に"生成"できるっていうのは、かなり便利なことだと思う。


「丁度……こんな感じです……」

「ん?」


 鞠絵ちゃんの言葉に反応して、目を向けると……鞠絵ちゃんが前に出した片方の手に、徐々に光の粒が集まりはじめたの。
 それは、とても幻想的な光景で……アタシは思わず、その光が集まっていく様子に目を奪われちゃったんだ……。
 その様子は、丁度昔見たロボットアニメとかでビームのエネルギーをチャージするアレに似てる。
 ……「幻想的」とか言ってそんな例えもどうかと思うけど……。

 光の粒は、何か長いものの形を作っていこうと、鞠絵ちゃんの手にどんどん集まっていく。
 気がつくと、鞠絵ちゃんはその光の粒で出来た長いものを、丁度剣の柄を両手で持つような形で携えていた。


「はい、おしまい」

「あ」


 途端、集まっていた光の粒は空中に霧散してしまった。
 折角学校にある1m定規みたいな、長い何かくらいまで形が出来上がっていたのに、なんだかもったいない気がした。
 光の粒の集まりとして形作っていただけで、ちゃんとした形にはなっていなかったので、
 鞠絵ちゃんの武器が槍なのか剣なのか、はたまた1m定規なのか、判別できなかった。
 ただ、少なくともさっき使っていたナイフよりは長かった。


「……わたくし、生成するのにちょっと時間掛かっちゃうんです……」

「………鞠絵くん……。………一応……武器は即席で作れるはずだろう…………?
 …なのに…何故時間が掛かると言って…………それをやらないんだい……………?」


 と、情報を知っている千影ちゃんから、鋭いツッコミが入れられた。


「え? えっと、それは……その……べ、別に良いじゃないですか!」

「そう……か……。まあ……別に構わないが…………フフフフ……」


 ……つまり、このふたりでの情報戦はまだ生きているということ……。
 お互い、まだ信用しきってはいない……あくまで、四葉ちゃんの能力を解除するまでの一時的な協定。
 その場に、気まずい空気が漂う……。

 あ〜、折角ふたりが戦わなくて済むって安心したところだったのに〜。

 またなんか「即席で作れる」とか新しい意味合いの言葉が出てきたし……。
 もういいや、これは今度聞くことにしよう……


「フフフフ……」

「うふふふ……」


 なんちゅーか、定番の愛想笑いだなぁ……。
 気まずい空気が余計気まずくなった。

 本当は「じゃあ千影ちゃんがナイフを使うクラスってこと?」って聞こうとしたけど、
 この調子じゃどうも教えてくれそうもないな……。
 仕方ないので、ちょっとだけ気になっていた別のコトを聞くことにした。


「じゃあ、刻印ってどんなのなの? ちょっと見てみたい」

「……残念だが………刻印の位置を……君に教えるわけには行かないな…………」

「え?」


 どっちでもいいから、相手に隠して見せてもらおうと思ってそう口にしたのだけど、またもちょっとおかしな返事が帰ってきた。
 千影ちゃんは"鞠絵ちゃんには"ではなく"アタシには"見せられないと言う。
 アタシだけすっぽんぽんの状態を見られて、自分は見せないってそりゃあんまりじゃないですか?
 (見られただけで特にそれ以上のことは無いので、妙な想像をしない!!)


「……別に黙っていても良いのだが……………やはりそれはフェアじゃあないし……何かのきっかけで知られ……
 …油断した状態で…君に一杯食わされる可能性もないわけじゃない………。
 ……だからあえて話すが……君にも…願いを叶える権利は十分持っているんだ…………」

「へ? だってアタシ、選ばれなかったんでしょ?」

「初めに設定したカテゴリーの者なら…………刻印……すなわち能力と権利を…………奪うことが可能なんだ」

「…………え?」


 一瞬、思考が停止した。

 特になんのためらいもなく、千影ちゃんは、またもさらりと衝撃発言を口にした。
 多分、さっきの鞠絵ちゃんはこんな気分だったんだろう……。
 千影ちゃんはさっきから重要なことをあっさり口にし過ぎだと思った……。


「あ、アタシも参加できるってこと!?」

「ああ…………方法は簡単……刻印に触れて…、『移れ』だの『こっちに来い』だの………念じるだけ…………。
 …まるでバッジでも取るような簡単な感覚で……刻印は元々の場所と同じ場所に簡単に移る………………。
 反対に………『移って欲しい』と念じた場合も同様さ………、…まあ普通はやらないだろうがね……」


 千影ちゃんは、更に信じられないことに、「力を奪う方法」までもあっさりと白状したのだった。


「ちょ、ちょっと、アタシん家泊まるんでしょ!? そんなこと言っちゃっていいの?」


 報酬は「なんでも願いの叶う権利」。
 そんな餌をつられて、我慢できる人間なんてこの世にいるんだろうか?
 それこそまさに聖女や聖人だ。
 だから、そのことを平然と教えることが正気の沙汰とはとても思えなかった。


「…だから言ったんだ……。……そうすれば………下手に油断することもないし……君だって不用意に近づけないだろう…………?」

「……え? あ!」


 それはつまり、逆にその事実を教えることで、
 千影ちゃんと鞠絵ちゃんはアタシが能力ちからを奪うかもしれないという不安から、
 アタシはあの強大な力がアタシに対し警戒を向けるという恐怖から、それぞれに対する警告の役割を果たすこととなるワケだ。
 その発想は、さすが千影ちゃんというかなんというか……。


「それに…………ただの人間が……スレイヴァー相手に歯向かえるとでも………思うのかい…………?」

「う……」


 そんなことできるわけない。
 最悪、その強大すぎる力で押さえ込まれて、またすっぽんぽんだ。


「それにね…………警戒している時に触れても……意味はないんだ…………。
 『移るな』……『渡さない』…など………そう念じるだけで……それを防ぐことも可能なのだから……………」

「はぁ……?」

「あと、他のスレイヴァーと同じ場所には刻印は出ないってルールもありますよね?」

「…………そう、だな……。
 …要するに……私の刻印が左足にあれば……他の者には…………左足以外にある…ということになる…………」

「その割にはふたりとも、アタシの体を舐め回すように全部見たじゃないの……」


 恨めしそうに、ふたりをじーっと睨む。


「それは……」

「ねぇ……」


 すると、お互いがお互いに目を配りはじめた。
 ……つまり、あのオトメの貞操の危機の最中にも、お互いの情報戦は生きていたと、そういうことなんだろう……。
 したがって、千影ちゃんの刻印は左足ではないんだろう……。
 いや、もしかしたら裏をかいて本当に左足なのかも……。


「じゃあ、そんな反則染みた圧倒的戦力を、2個も3個も持っておけば、この戦争は勝ったようなものね……」

「……と、思うだろうが…………実はそう簡単なモノでもないのさ…………」


 まるでアタシの反応が予想通りと言わんばかりに、ふふんと優越を含んだように、千影ちゃんはかすかに笑った。
 なんか悔しい。


「所詮魔力の増幅器…………選ばれたとしても体はひとつ…………。
 魔力を分散して使うから……魔力が能力に行き渡らなくなってしまい…………結局力は半減し……力負けしてしまう。
 ひとつだけならともかく…ふたつ以上ともなると……維持するだけでも……魔力を消費してしまうだろうからね……。
 結局は……ひとつの能力を使った方が得…というわけさ………………」

「ええと……要するに、パソコンとかで複数のアプリケーションを起動させてると、
 マシンスペックが足りなくなって動きが鈍くなるっていう、アレ?」

「あぷりけーしょん? ましんすぺっく?」

「いや、ゴメン、なんでもない……」


 どうも千影ちゃんは機械関係はさっぱりのようだ。
 まあ、俗世離れして最新機器とは無縁そうだから、イメージ通りったらそうだけど……。
 でもひらがなで聞き返す千影ちゃんはちょっと可愛かった。


「要は、ひとつの能力を有効に使う方が、効率の関係上有効ってことね?」

「ああ……。………まあ……私のように…優れた魔力を兼ね備えていれば…………話は別だが……………」


 ふふん、と自慢げな態度を取る千影ちゃん。
 まあ、そんな態度が千影ちゃんらしいといえば千影ちゃんらしいけど……。


「……と誇りたいところだが………やはり持ってみてその強大さを実感してね………。
 ふたつ以上は同時に使うなんて無理だろうし…………使えたとしてもひとつずつだろう…………」


 魔術のコトなんてアタシにはさっぱり分かんないけど、さすがの千影ちゃんも扱いに困るほどのじゃじゃ馬らしい。
 まあ、なんでも願いを叶えられるっていうトンデモパワーだ。
 数値的には実感できないけど、とにかく凄いってことだけはアタシにも分かった。


「…だが、まあ……維持くらいなら軽いさ…………フフ……」


 でも結局自信過剰なあたり、千影ちゃんらしいと思った。












「あー、なんか一気に詰め込みすぎて訳わかんないー」


 一通りの説明を受けて、アタシはそんな音をあげて、まるで空気が抜けるように、上半身全体でコタツの上になだれ込んだ。
 最後の方なんか、駆け足気味に聞いていた気もする。
 というか、いちいち細かく聞き返してる余裕もなくなっていた。


「無理もないですよね……。まあ、分からなくなったら、その都度説明して差し上げますから……」

「うん、お願い……」

「千影ちゃんも、お願いしますね」

「えー」


 親切な心遣いをしてくれる鞠絵ちゃんに、めんどくさそうに露骨にイヤな顔をする千影ちゃん。
 うん、なんだか今日一日で千影ちゃんの認識を改めちゃいそうな気分だ。


「ミカエル」


    はみはみはみ……


「いたいいたいー」


 ミカエルに、さっきと同じ左手をはみはみされる千影ちゃんの様子を眺めながら、ため息をひとつつく。

 説明聞いて、最初にルールを全て理解できてるのは便利なプログラムだってことを改めて実感した……。
 だって、今長々と説明されたこと全部頭に入ってるんだから……。


「ところで、鞠絵ちゃんのお願いって……?」


 なが〜い説明がやっと終わったところで、フツーに気になった疑問を投げかけてみた。
 少しは説明的なものじゃなくて、人間的な話を聞きたくもなったからだ。


「やはり……"健康な体"…………だろうね…………」


 鞠絵ちゃんの代わりに、千影ちゃんがアタシの質問に答えた。
 まあ、そうだろう。
 今は平然と動けるかもしれないけど、鞠絵ちゃんの病気は完全に治ってはいないんだ。
 一応、それなりに回復に向かっていて、そのうち完全に病気は治るとお医者さんは言ってた。
 もちろん3日以上前に聞いた話で。
 それでも、いち早く病気を治したい……そう思ってるからこそ、この戦いの参加の意思表明を表したんだろう。
 そう考えると、鞠絵ちゃんの参加を反対するわけにもいかないな、って思えてきたかな……。


「いえ、違いますよ」

「「……え?」」


 しかし、意外にも鞠絵ちゃんの返事は「イエス」ではなく「ノー」だった。
 当然、「病気を治すこと」と思い込んでいたアタシと千影ちゃんは意表を突かれた返事だったため、
 声を揃えてそんな短い言葉を漏らしていた。
 そして、鞠絵ちゃんはにっこり笑って、


歴史を変えること、です

「やっぱり反対」


 鞠絵ちゃんの、なにを考えているか理解に苦しむ野望を聞いて、思わず即答。


「はぁ……」


 そうして、今度は別の意味でため息をひとつ吐いて
 心の中でひっそりと愚痴った……。


  ―――まったく……、とんだお泊り会の始まりだ……。











あとがき

なりゅー初の「長編連載」という形ではじまった「Sister's Alive 〜妹たちの戦争〜」!
まず、こんな長々と続きそうな作品に目を向けてくださった方々に感謝したいと思います……どうもりがとうございました!

今までずっと短編を中心に書き続けてきたので、
良い所も悪いところも含め、今までと色々勝手が違うところが多々ありました。
今ここに書いている「あとがき」もそのひとつです。

実際、完成を迎えていないわけですので、「あとがき」を書く必要もないかなー、とか思ったんですよね(笑
(寧ろ「なかがき」になりますし)
正直な話、あとがきを飛ばせるのは結構な手間の削減となるのですが、
代わりに、裏話や補足したいことができないということにもなるんですよ……(苦笑
なので、物語の1日分を区切りとし、その最後の話ごとにあとがきを書いていこうと思います。
手間はかかっても書きたいことはありますので(爆

とりあえず、「長編連載」という形ではじまったこのシリーズですが、
早速「連載だからこそ起こる事態」に当たりました(笑

実は、2話目執筆中に、ミカエルのような大型犬を電車で運ぶことにかなりの難点が存在することが判明したんですよね。
あとで「亞里亞家に車出していただければ、色々と都合の良い(伏線とか)」ということに気がついたのですが、
その時は既に1話目で「駅での待ち合わせ」と書いていて、そうなると駅で待つ理由と色々と矛盾が生じてしまうということに……(苦笑
(車出してもらうなら直接来てもらえば良い、街は歩き回らない方が良いのだし)
仕方ないので、「自分の足で来たかった」、「そのことを楽しみたかった」風に受け取ってもらえるように祈ります(ぇ

一応、最初に全ての大まかな概要は考えてあるのですが、やはり大まかでしたね(苦笑
連載における「後でこうすればよかった現象」……まさか初っ端からやってしまうとは……。
「絶対安全なんて存在しない」、改めて認識しました。

それと……ああ、いくら最初の方で世界観の説明は必要だからって、
説明的文章が大量に出てくるのは、仕方ないこととはいえ書いていて心苦しかったです(苦笑
でも、次からはストーリー重視に書けると思いますので、
今後は物語として楽しめるような書き方をしていきたいです!

では、よろしければ今後も「Sister's Alive 〜妹たちの戦争〜」を楽しんで貰えれば嬉しいです!
こっちはこっちで、その期待を裏切らないようにがんばりたいです!
……まあ、もうストーリー展開は決まってますけど(笑


更新履歴

H17・2/24:完成・掲載
H17・2/25:一部微修正


前の話へこのシリーズのメニュー次の話へ
SSメニュートップページ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送