―――望むものは何か?


  誰かにそう問われた気がした。


―――望む力はどんな力か?


  欲しい…力……?


―――求めるのなら……強く求めるのなら……―――


  正直、何のことだか分からなかった……。


  だけど答えるのなら……アタシが求めるのは………―――



  ………

   ………

    ………


    チュン……チュンチュン……



「……ヘンな夢を見た」






Sister's Alive
〜妹たちの戦争〜

12月17日 月曜日

第1話 最後の日常







「って、あーーーーーッッ!?! やばいってッ! 遅刻する!!」


 アタシの名前は鈴凛。
 いたって普通の、どこにでもいるような普通の女の子。

 ただちょっと人と違うってことは、趣味が機械いじりで、
 小さなラボまで備え付けられている無駄に広くて多少立派な家にひとりで住んでいて、
 人より家庭環境が複雑なせいで一緒に暮らしていな姉妹きょうだいがわんさかいるってことくらいかな?

 ええ、どこにでもいるような普通の女の子です!


「いってきます!」


 急いで制服に着替え、片方の手にカバンを持ち、もう片方の手に適当に作ったサンド系の軽食を持って外に飛び出る。
 そして、振り向いて玄関で元気に声を張り上げてそう言ってから、我が母校、若草学院ヘと足を向けた。
 ……まあ、っていっても成り行き上ひとり暮らしの我が家にはそれを受け止めてくれる人はいないのだけど……。
 それなりに立派な家に住んでいてひとり暮らしって言ったらお家に不幸があったと思われそうだけど、
 別に親と死別したって訳じゃなく、ただ単にうちの親が放浪グセ所持者なだけ。

 何の仕事してるかは詳しくは知らないけど、こんな無駄に広い家の維持費は払ってくれて、
 その上で生活費まで支給してくれているので、アタシは別に関与はしない……まあ、寂しくない言ったらウソになるけど。
 とはいえ、いっつも生活費を「研究費用」に肩代わりさせちゃってる身としては、
 このひとり暮らしも毎日がサバイバルだったりするのは余談である。
 家庭環境が複雑なせいで、その親も肉親かどうか微妙だけど……とにかく、そんな重い話は一切ないので安心したまえ。

 将来は留学を考えてる身としては、そんな放浪グセの親についていってもいいかなって思ったけど、
 あいにくと親が向かっているのはアタシが夢見るマシンナリィーな国をこれでもかってくらい避けて避けて避けまくっているため、
 「方向性の違い」という、まるで音楽バンドみたいな理由でアタシはこっちに残ることにしたのだ。
 まあ、将来留学を考えてるからこそ、今のうちにひとり暮らしってトコね。

 それでも、そんなに寂しくなくここに居られるは、この街にアタシの家族が……姉妹たちが住んでいるからだ。


「あ、鈴凛ちゃん。おはようございます」

「んっ!? あ!! か、可憐ちゃん! おはよ!!」


 噂をすれば、11分の1の登場。

 さっきも軽く触れたように、アタシには別々の家に暮らして、それぞれ別々の親がいる姉妹がいる。
 ま、どうせ親父の方が…………いや、あんまりダークサイドな大人の愛憎劇を朝から考えるのは止そう……。

 可憐ちゃんとは、ジジ――……あ、アタシの祖父のことね――と可憐ちゃんのおばあちゃんとが、
 学生時代のクラスメートということもあって、それなりに親近感のわく間柄だ。

 ちなみに、この可憐ちゃんの他にも10人……アタシを含めば12人の姉妹だ。
 全員が女の子で、その確率は実に2分の1の12乗の「4096分の1」、約0.02%。
 そんな計算式はどうでもいっか。

 とにかく、全員女の子でアニキは居ない。

 ……何故だかアニキはいない……。

 ……いや、たまたまなんだろうけど……そのことが妙に引っかかる気がするのよねぇ、アタシ……。
 ま、いっか。

 みんな、アタシ同様親との血縁も危うく、それだけじゃなくて姉妹としての横つながりの血縁も危ういという、
 もンのすごく複雑且つハードな家庭環境に暮らしながらも、その中身は重そうに見えて結構軽いし、
 だからこんなヘンな家族関係も、みんなして友達が増えたって気楽に考える感じで、楽しく仲良く和気藹々と付き合っている。


「どうしたんですか? そんなに慌てて?」

「どうしたもこうしたも、急がなきゃ学校に遅刻するから慌ててるんでしょーがッ!!」

「え?」


 可憐ちゃんは白並木学園っていうアタシとは別々の学校に通ってはいるものの、その距離はほとんどお隣さんの位置関係。
 つまり、アタシが遅刻する位置なら可憐ちゃんだって遅刻する位置なのだ。
 ……にもかかわらず、この娘ったらこの緊急時になにきょとんとした顔を……。


「えっと……まだ全然大丈夫ですけど……」


 腕につけていた時計を確認するなり、そんなすっとぼけた言葉を口にして、その時計をアタシに向けてくる。
 しかし誰がどう見ようと、時計の針はデンジャーゾーンを越えて…………ってあれ?


「…………」


 そこには、アタシの考えていたものよりも遥かに前のグリーンゾーンを指した時計の針が……。


「…………そういえば昨日の朝、時計止まってるの気づかないで、今日みたく慌てて学校に行ったような……」

「……つまり、昨日のまま時計を直していないんですね?」


 ……そうなのです。
 アタシは、趣味の機械いじりに没頭すると周りが見えなく性格の持ち主で、
 昨日も昨日で、製作中のメカをどうしてもその日の内に仕上げたくなっちゃって、
 ついうっかり修理(といっても電池の交換)を忘れてしまっていたのでした……。


「あー、慌て損だぁー……」


 さっきまでの熱はどこへやら、朝から無駄に慌てたことが判明するなり、ガックリと肩を落とす。
 一日はまだまだこれからだって言うのに、もう肩にどっと疲れを抱え込んでしまった。


「うふふっ そういうことなら、一緒にのんびり歩きましょうよ」

「……ん? あ、うん、そだね。これも何かの縁ってね! あははっ」

「うふふっ」


 なんて、余裕ができたからお互い笑った顔を合わせて、途中まで一緒に登校することとなったのだ。












「そういえば鞠絵ちゃん、今日ですよね?」

「うん、そうだよ!」


 まあ、姉妹も12人ともなれば色んな子があふれてくるわけで……中には病気の子もでてきてしまう。
 そしてその鞠絵ちゃん、というのが、その「病気の子」。
 普段はこの街から離れた場所にある療養所で、数年間ずっとひとりで暮らしている。
 厳密には同じような境遇の子たちと一緒に暮らしているのだけれども、やっぱり鞠絵ちゃんも家族と暮らしたいだろうなって思うから……。


 でもその鞠絵ちゃんも、最近は病状が良くなって来ていて、この間医者から長期の外泊許可を得られたと言ってたほど。
 ここ3日間に至っては、その調子の良さがは目を見張るものがある、との本人からのメールも届いる。
 そして、その長期の外泊許可を使って、この度鞠絵ちゃんはアタシたちの街へとやってくる……ううん、"帰って"くるんだ。

 でも悲しいことに、鞠絵ちゃんにはこっちに家がないのだ……。
 だから、無駄に広い家にひとり寂しく暮らしているアタシの家に泊めてあげることになっている。
 もちろん、それはアタシも諸手を挙げて大歓迎。
 鞠絵ちゃんとは普段会えないから、今回みたいな長期の外泊の時に我が家に泊まってくれることは、
 寧ろアタシにはすっごく嬉しいことなんだ……。


「明日、遊びにいっちゃダメです? 可憐も鞠絵ちゃんに会いたいな……」

「なにいってんのよ。大歓迎に決まってるじゃない」


 もうすぐ始まる冬休み……その間、アタシは他の子たちより鞠絵ちゃんをずっと独占できる。
 だけど、もちろん独占なんかしないでちゃんとみんなに鞠絵ちゃんを分け与えてあげるの。
 それに……その方が鞠絵ちゃんだって喜ぶって、アタシは知ってるから……。


「まあ、まだ学校はしばらくあるけど……ほとんど一緒に冬休みを過ごせるんだから……
 少しは分け与えてあげなきゃ罰が当たるってもんでしょ」

「そんなことないですよ。鈴凛ちゃんは、鞠絵ちゃんとは仲良しさんですから

「……ん、そうかな?」

「そうですよ!」


 と、何故か可憐ちゃんは自信ありげに豪語する。
 んー……アタシはアタシで普通に暮らして、普通に付き合ってるつもりだったんだけど……。
 仲良しというのなら、寧ろよく一緒に遊んでいる四葉ちゃんの方が挙げられそうだし……。


「鈴凛ちゃん気づいていないんですか? 実は、鈴凛ちゃんが一番鞠絵ちゃんのお見舞いに行っているんですよ」

「え? ウソ!?」

「うそじゃないですよ。だって、鞠絵ちゃん自身がカウントして、鞠絵ちゃん自身が表彰していましたから。
 この間、表彰状作っていましたし」

「作ってるんだ!?」


 アタシは……ただ、気になるだけで……寂しいだろうから、だから時間を作って会いに行ってるだけで……。
 でもまさか、みんなの中で一番になるくらいお見舞いに行っていたとは……。
 それに、寂しさを紛らわせてあげるために作って持っていってあげている比較的小型なメカも、
 いつの間にか、完成させて見せてあげることがアタシ自身の楽しみになっているし……。


「そっかー……アタシが一番だったんだ……」

「お金ないのにね♥♥

「笑顔でそういうこと言わない!」


 可憐ちゃんは、たまにズバット本質を抉っていくことがある。
 狙ってるのか本当に知らないのか、どっちにしろ迷惑なことには変わらない。


「うふふっ じゃあ鈴凛ちゃんの冬休みは鞠絵ちゃんとデート三昧に決まりですね

「でーと……って、可憐ちゃん……」


 冷めた感じの態度で、呆れたようにいうアタシ。
 まあ、普通に遊びに行くことを冗談交じりに「デート」って言ってるんだろう……。
 ……そりゃアタシって、衛ちゃんほどじゃなくても、よく男の子みたいだっていわれるけどさ……


「それ咲耶ちゃんの影響……?」

「……かも」


 アタシが聞き返すと、可憐ちゃんはからかったことに対していたずらっぽく笑った顔と共に、舌をぺろっと出しながら短く答えた。
 答えを聞くなりアタシはやっぱり、なんて言葉をもらした。
 なんせアタシたちの関係者で一番そういう語彙を使用しそうなのは、我らが長女、咲耶ちゃんくらいだからだ。
 それに、


「そういう可憐ちゃんは咲耶ちゃんといっぱいデートしているからねぇ〜」

「ええっ!?」


 もちろん本気の「デート」って意味じゃなくて、さっき可憐ちゃんが使ったようなニュアンスで。
 ま、ちょっとした仕返しよ。

 可憐ちゃんは、咲耶ちゃんと家が近いこともあって、よく咲耶ちゃんの方から可憐ちゃんを「デート」に誘って遊びに行くらしい。
 それに咲耶ちゃんは可憐ちゃんにラブラブ(語弊あり)でよく可愛がってあげているし、
 可憐ちゃんは可憐ちゃんで、咲耶ちゃんを「憧れの女性」として尊敬している。


「つまりふたりは相思相愛なのだ」

「鈴凛ちゃん。大体予想はつきますけど、いきなり意味不明な失礼なこと言わないでください」


 おっと、ついうっかり口に出しちゃった……しっぱい、しっぱい。


「もうっ! 鈴凛ちゃんったら! すぐそうやって可憐のことからかうんですからっ!」

「あははっ……ゴメンゴメン」


 でもこれは可憐ちゃんに限ったことではなく、単にそういう性格なだけ。
 だから咎められたからって早々治るものでもない。
 そういうわけで諦めてね、可憐ちゃん。


「でも、やっぱり時々思うんですよね……もし咲耶ちゃんが男の人だったら、きっと素敵のお兄ちゃんになっただろうなぁ……って……。
 今も十分素敵なお姉ちゃんですけどね

「んー、アタシには、口うるさいアネキって印象の方が強いけど……」


 まあ、原因の大半は咲耶ちゃんから借金資金援助を重ねまくっているアタシにあるんだろうけど……。
 それもアタシのために叱っていると思えば、やはり良いアネキなのかもしれない。
 でもあいにくと、アタシはそれに気づけるほど大人じゃないのだ。
 だから咲耶ちゃんは「口うるさいアネキ」なのです。決定なのです。


「それに、もし男の人だったら血が繋がってなかった時結婚できるじゃないですか」


 うわ、可憐ちゃん今ものすごく問題な発言した。


「…………鈴凛ちゃん、ヘンな顔してないで何か言ってください……。可憐、ちょっと悲しいです」

「え? あ! 冗談だったの?」

「もうっ! そうに決まってるじゃないですか!
 鈴凛ちゃんがそういう感じの冗談いうから、可憐だってお付き合いしてあげただけなのに……」

「アハハ……ゴメンゴメン。っていうか、先にそう言い始めたのは可憐ちゃんの方じゃないの」

「もー、咲耶ちゃんは女の人ですよ! 本気なわけないじゃないですか」


 下手に血縁が危ういから、こういう冗談もたまに笑い飛ばせないことも多々。
 そんな感じで、可憐ちゃんと咲耶ちゃんに限ったことじゃないけれど、アタシたち姉妹はそのくらい仲が良いってことだ。


「お兄ちゃんじゃないんですから」

「うん、ちょっと待ちなさいチミ」











 その後、可憐ちゃんとは他にも楽しく話をしながら分かれ道ギリギリまで一緒に歩いた。
 それじゃあ、なんて軽い挨拶を交わしてから、アタシは若草学院に、可憐ちゃんは白並木学園の方へとそれぞれの学校へと足を進める。
 そこから妊婦さんが苦しんでるだとか、おじいさんが倒れてるだとかのトラブルもなく、アタシは時間に余裕をもって教室につくことができた。
 朝、激しく慌てていた身としては、これはもう珠玉の安らぎにも等しかった。


「おはようございます、お姉さま」


 机にカバンを置くと、席に着く前に聞き慣れたクラスメートの声がアタシに挨拶をしてくる。


「あ、おはよ、小森さん」


 小森さんはアタシの妹……ということはなく、ただのクラスメート。
 なんだかアタシのことに憧れていて、単純にその感情から、
 アタシのことを「お姉さま」なんて呼んで慕ってくれている、ただの可愛いクラスメートの女の子。

 ……うん、"ただの"。

 別に"そういう目"で見てたりしないで、それ以上でもそれ以下でもない……はず。
 うん、多分、絶対、決して、断じて、恐らく、きっと……お願い神様……。

 残念ながら製作者の構想不足により今回はサブキャラの活躍がないため、小森さんの活躍はまたの機会にしていただきたい。

 ……と、不思議な文章が頭の中に浮かんできた……。
 い、一体これは……?


「お姉さま、どうかしたんですか? 複雑な顔をして……」

「いや、大丈夫。ただ幻聴が聞こえてきただけだから」

「それは全然大丈夫なこととは思えないのですが」


 そうして、いつも通りの日常が今日もまた始まった。
 別に不思議な文章が浮かぶのが日常じゃないけど。












    キーンコーンカーンコーン……


「あー、やっと昼休みだー」


 授業終了のベルと共に、そんなことを口にしながら、腕を振り上げて思いっきり伸びをする。
 午前中の授業の疲れが蓄積され、ピークに達するこの時間の疲れを解消すべく、
 ずっと動かさずに居たせいで固まった体を、そうやって簡単なストレッチをしてほぐした。
 しかも月曜日の4時間目はアタシの苦手な国語だ。
 前3時間分の疲れの溜まった状態で――2時間目の数学では臨時休憩を取らせて頂いたけど――お堅い話をだらだらと聞かされて、
 だから余計に体が凝っていたし、余計にこの昼休みという名のオアシスが待ち遠しかった。


「あー、肩こったぁ……」

「鈴凛ちゃん、お疲れ様ですの♥♥


 振り上げた腕を倒して、今度は前で組みながら伸ばしていると、聞き覚えのある口調で声をかけられる。
 振り向いてみると、そこには……


「あ、白雪ちゃん!」


 ……の、姿が。


「さあ、今日も美味しい姫のお弁当、作ってきましたの


 持ってきた、ピンクのおしゃれな風呂敷で包んだ、おせちを小さくしたような重箱っぽいお弁当箱を、
 まるで自慢して楽しむかのようにアタシの目の前に突き出す。


「一緒に食べますの♥♥

「うんうん、食べる食べる!」


 人間というものはゲンキンなもので、目の前に餌を吊るされた途端、水を得た魚のように元気になり活動的に動けるらしい。
 アタシの中の今までの疲れはどこかに飛んで、机を動かしたりお弁当を配置したりと、
 白雪シェフのお弁当パーティーの準備を颯爽と行なっていた。


 白雪ちゃんは小森さんと違ってれっきとしたアタシの姉妹。……いや、血縁危ういけどさ。
 白雪ちゃんは料理が大好きなこともあり、よく作った料理をアタシたち姉妹や友達なんかに食べさせてくれる。
 そして、アタシは白雪ちゃんとおんなじ若草学院に通っていることもあり、同じく若草学院に通っている衛ちゃんも誘っては、
 3人で他の子を差し置き、お昼の「若草学院組姉妹のお弁当パーティー」を主催してくれる。

 いつもは屋上で開かれるこのミニパーティーだけど、冬のこの時期に屋外は大変過酷な環境。
 そのため、冬の間は学食やそれぞれの教室で開くことになっていて、で、今日はアタシの教室の日なのだ。


「あれ? そういえば、衛ちゃんは…………やっぱり……」

「はいですの……。やっぱり都合が悪いって」


 と、本来3人で開かれるはずのこのミニパーティーに、もうひとりの参加者であるはずの衛ちゃんの姿はどこにもなかった。
 とはいうものの、衛ちゃんからは前もって「しばらくはこっちに参加できない」って聞いているから大して驚きはしなかったけど。


「……花穂ちゃんかな?」

「……花穂ちゃんですの」


 ふたりで顔を見合わせて頷き合ったあとでふと窓から外を覗くと、そこにはタッタタッタと校外へと走る衛ちゃんの姿が見えた。


「やっぱり」

「ですの」


 衛ちゃんは、アタシたち姉妹の中で、ドジだけど頑張り屋さんの花穂ちゃんととても仲が良い。
 年も近いせいもあるだろうけど……まあ、片や走るの大好き体育会系、片や応援大好きチア部員。相応に相性も抜群なんだろう。
 しかし花穂ちゃんは可憐ちゃんと同じ白並木学園生で、衛ちゃんもちょっとだけ残念がっていた。
 ちなみに、アタシの姉妹で若草学院に通っているのはアタシ、白雪ちゃん、衛ちゃんの3人。
 他は可憐ちゃんみたく白並木学園に通っていたり、また別のところに通っていたりと様々だ。

 で、どうも今、その仲良しの花穂ちゃんが一大事らしい。
 部活のレギュラー選抜だったか大会演舞だったかに自信を喪失しているとかなんとか……。
 だから、衛ちゃんは昼休みを費やしては相談兼励ましに花穂ちゃんのところに行ってるのだろう、あの様子だと。
 両方の学校近くにあり、更に足も速い衛ちゃんだからこそできる荒業なんだろうな……。


「……ま、アタシは頭脳労働派だから、行って帰ってくるなんて芸当したくないわねぇ……」


 まあ、どうこう言ったところで衛ちゃんが帰ってくるわけではない。
 などと多少縁起の悪い気のする言葉を浮かべつつ、こっちはこっちでふたりきりでのミニパーティーを始めるのだった。












「ん〜♥♥ この海老クリームコロッケ最高♥♥

「鈴凛ちゃん……カニですの……」


 相変わらずの絶品に舌鼓を打ちながら、白雪ちゃんのお料理を次から次へと口に運ぶ。
 アタシがこの学校に通っている最大の幸運は、白雪ちゃんと同じ学校に通っているということだろう。
 まあ、衛ちゃんにとってはこのお弁当よりも花穂ちゃんの方が重要なんだろうけど、
 アタシにとっては花穂ちゃんよりもこのお弁当の方が重要だ。すまん我が妹よ。

 しかも更に幸運なことは、アタシがひとり暮らししていることで、
 白雪ちゃんにはアタシの食生活を心配に思わせているらしく――事実食生活にいたっては不安定の塊なのだけど――、
 よく家に晩御飯や朝ごはんまで作りに来てくれているのだ。

 ああ、こんな、多分もうプロ級の腕を持っている白雪ちゃんの料理を、
 お弁当でも毎日学校で食べられるだけじゃなく、家でも頻繁に作って貰えるアタシって、なんて幸せ者なんだろう……。
 こういうのを「お嫁さんにしたいタイプ」っていうんだろうなぁ……。


「……あの、鈴凛ちゃん……ちょっとお話しなくちゃならないことがありますの……」


 と、アタシの御食津神みけつかみであらせられる白雪御前様について信仰を深めていると、
 その当の白雪ちゃんは、なんだかちょっと切り出しにくそうに話を切り出してきた。


「なに? アタシは全然構わないから、遠慮しないで言っちゃって」


 白雪ちゃんはアタシにとっての神様当然。
 だから、そんな白雪ちゃんのためにできることがあるなら、アタシは喜んでこの身を捧げます! ……なぁんてね
 白雪ちゃん、美味しいお料理の援助待ってるよ♥♥
 ……と胸躍らせていると。


「しばらく……お料理つくりにいけなくなっちゃいましたの……」


 ……まさに胸躍らせてた最中にバッサリ希望を断たれた……。


「ほんっとーに申し訳ないんですの……」

「あ、あはは……き、気にしない、気にしない……」


 ホントは滅茶苦茶凹んだけど……。


「でも、代わりに冬休みまでの間お弁当は欠かさず持ってきて上げますの!」


 脇をぎゅっと閉めて、「これだけは!」とムフンと意気込みを見せてくれる白雪ちゃん。
 ああ、それが食に恵まれないアタシにとって唯一の、そして至高の救いだろう……。


「ところでなんでなの? ……まあ、アタシが関与することじゃないんだろうけど」

「そーですのねぇ……。よりおいしいお料理を作るため、ですの


 人差し指をピンと立てて、ニコッと笑顔で弾むように口にする。
 きっと白雪ちゃんの料理の先生、マダム=ピッコリからの集中レッスンでもやるんだろうな……。
 あの超美味しい料理をしばらく食べられなくなるのは残念だけど、
 それももっともっと美味しいお料理を食べられるようになるためなら……ま、我慢するしかないよね……。


「白雪ちゃん、頑張ってもっともっと美味しい料理、食べさせてね!」

「はい! ですの












    キーンコーンカーンコーン……


「ああー、今日も1日頑張ったぁーっ!!」


 放課後。
 それは、全国の学生のほぼ全員が、その日一日待ちに待った解放の瞬間!!


「ではお姉さま、また明日」

「ん? ……あ、うん! じゃあね、小森さん」


 帰路につく小森さんに手を振って、小森さんの限られた活躍の場をそれなりに心に留めながら見送ってあげた。

 今日も一日、特になにもないような、でも何かあったような、そんな学校生活。
 一日一日に違いはあるけど、それでもいつも通りで、そして楽しい日常だった。


「じゃ、アタシも帰るとしますか」


 でも今日は特別な日だ。
 ……ううん、今日"から"特別な日が始まるんだ。
 いつも離れて暮らしている鞠絵ちゃんと、今日からしばらくの間一緒に暮らせるんだから。


「ああ〜、考えだけでなんだか早く会いたくなって来ちゃったなぁ〜」


 一旦家に帰って、その後駅まで迎えに行って……迎えに行くまでちょっと時間があるから、その間にメカの調整とかして、
 すぐに鞠絵ちゃんに見せられるよう準備は終えて……それから、それから……。


「駅まで鞠絵ちゃんを迎えに行ったあと、お店に寄ろうか……それとも今日はすぐに家に向かうべきか……。うーん……」


 そんな風に、アタシは一足早めの楽しい冬休みの計画を頭の中に張り巡らせ、
 久しぶりに合う姉妹との再会を心から楽しみに心躍らせていた。












 そんな……






 今のアタシの、最後の"日常"を満喫していた……。












更新履歴

H17・1/12:完成・掲載
H17・1/15:一部演出し忘れ部を修正
H17・4/23:言い回し等をやや修正


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