無邪気にPretty Daughter







「らんらら〜ん♪」


 可憐の横で、とっても嬉しそうに、静かで澄んだ可愛らしい声が弾んでいました。


「うふふっ 亞里亞ちゃん、もうすぐだからね」

「は〜い。くすくす……」


 可憐たちは今、公園の中の像の前で咲耶ちゃんを待っています。
 今日は、亞里亞ちゃんと咲耶ちゃんと、そして可憐の3人でお出かけすることになりました。
 可憐が亞里亞ちゃんをお家まで迎えに行って、公園で咲耶ちゃんと待ち合わせ。
 一足早く待ち合わせの場所についた可憐たち。待っている間、亞里亞ちゃんはご機嫌にお歌を歌っていました。


「今日は〜、咲耶ちゃんとお出かけ〜……♪ 咲耶パパとお出かけ〜♪ くすくす……」

「亞里亞ちゃん、また咲耶ちゃんのこと"パパ"って言ってるの?」

「だって咲耶ちゃんは……亞里亞の……パパだから……」


 亞里亞ちゃんは咲耶ちゃんのことを"パパ"って呼んでいます。
 なんでそうなっちゃってるのかは、可憐、よく知らないんだけど……でもその気持ち、なんとなく分かっちゃうんだ。
 咲耶ちゃんは綺麗でカッコ良くて、優しくて、なんでもできる、理想のお姉ちゃん……。
 間違ってることは、嫌われたって正してくれる厳しさも、みんなを思う気持ちの裏返し。
 そんな素敵な人だから、「優しいママ」っていうよりは「頼れるパパ」って感じちゃうのも、無理ないかも、ね……。
 あ、でもでも、だからって優しくない訳じゃないですから! 咲耶ちゃんはとーーっても優しいんですからね!
 ほら、カッコ良いの次に、ちゃんと「優しい」って言ってますから!
 そんな風に、とってもお父さんな咲耶ちゃん……うふふっ、咲耶ちゃんからしたらママって呼んで欲しいに決まってるのにね


「えーっとぉ……うんとぉ……」


 気がつくと、亞里亞ちゃんはお歌を止めて、可憐の方をチラチラ見ながらなにかお考えの様子……。
 どうしたのかな?
 可憐、ちょっとだけ気になって、亞里亞ちゃんに尋ねてみたの。


「亞里亞ちゃん、どうかしたの?」

「あのね、あのね……」


 亞里亞ちゃんは内気な子だから、なかなか自分からは話し出しにくかったのか、
 可憐が問い掛けると、すぐになにを考えてたのか教えてくれました。


「咲耶ちゃんがパパで……だったら可憐ちゃんは……ママなの……!」

「え!?」


 突然亞里亞ちゃんの爆弾発言に、可憐は驚きを隠せず、声まで出しちゃったの。
 そして、同時に戸惑いも感じて、「え? え? え?」なんて言葉を口にするしかなくなっちゃった……。
 戸惑う可憐に向けて、亞里亞ちゃんはお話を続けてくれました。


「だって亞里亞……今日は、パパと一緒に遊びにいって……だったら一緒にいる可憐ちゃんはママなの……!」


 つまり……パパと亞里亞ちゃん、要するに子供が居るなら、だったら一緒にいる残りのひとりはママ。……ってことなのかな?
 うーん、亞里亞ちゃんらしい単純な発想といえばそうだけど……可憐ってまだそんなお年じゃないんだけどなぁ……。


「ママ〜」

「も、もうっ! 亞里亞ちゃんったら……」


 でも……あんなにカッコ良くて、優しくて、なんでもできちゃう咲耶ちゃんの、パートナー……か。
 そんなに悪くない、かな……?


「ママ、ま〜ま〜」

「えっと……あのね……。え、えへへ……

「亞里亞おトイレいってきますっ……!」


 えー、このタイミングで言うー? 言っちゃうのー?
 亞里亞ちゃんってマイペースな子だとは思ってたけど、ここまでマイペースだなんてー。


「亞里亞おトイレいってきます……! 立派なレディはひとりでおトイレにいけちゃうのっ……!」

「あ、うん……そうだね……」


 急激に冷める可憐を余所に、亞里亞ちゃんはとっても力強く、そしてとってもマイペースに言います。
 うん、そうだよね。おトイレって急にもよおしちゃうもんね。そうだよね。ごめんなさい、可憐これ以上前向き解釈はできないや。


「咲耶パパもひとりでおトイレいけちゃうの……。亞里亞もひとりでおトイレいけるようになりました……」


 力強くって言っても、亞里亞ちゃんみたいなまだ小さくてか弱い子。
 カッコ良いっていうよりは、その強がりが可愛らしくて……うふふっ、とっても微笑ましいの。
 それは、急に話を切り替えられて生じた温度差も埋まっちゃうくらい、ほのぼの温かな、小さな頑張り物語。
 亞里亞ちゃんのそんな姿を見てると、可憐も応援したいなって思って……そう思うのは、ちょっと空気に流され過ぎかな?


「だからひとりで公園のおトイレでおトイレしてきますっ……!」

「うん、そうだね。頑張って行ってきてね」

「はい……


 最後にもう1回「おトイレいってくるの〜」と言いながら、亞里亞ちゃんはトタトタ可愛らしい足取りでおトイレに向かっていきました。
 だけど立派なレディは公共の場でおトイレおトイレ連呼しないからねー。今度から気をつけようねー。


「まあ……亞里亞ちゃんなりの頑張りだもんね」


 おトイレに向かう亞里亞ちゃんを眺めながら、思ったの。
 考えてみたら、甘えんぼさんの亞里亞ちゃんにとって、これはひょっとしたら成長の証なのかもしれない。
 咲耶ちゃんがどうとか言ってたし……パパって呼ばれてることと関係あるのかな?


「ハぁ〜イ、カーノジョっ!」


 だったら可憐は、亞里亞ちゃんが無事に戻ってくることを待ってあげなくちゃね
 頑張れ、亞里亞ちゃん……なんちゃって……


「おいお〜い、無視すること無いじゃないか〜。キミだよキミ、可愛いお嬢さん」

「……え? か、可憐ですか!?」


 と、ひとりぽつんと待っている可憐に、突然知らない男の人が声を掛けています!
 え? え? え? なんで? だって可憐、話掛けられるような理由なんてないし……。


「彼女、ひとり? 良かったらボキと一緒に楽しいひと時を過ごそうじゃないか〜」

「え? え? え?」

「あ、ごめんよ〜。自己紹介がまだだったね。ボキは山・……」


 あ……こ、これは……!?
 まさか可憐、「なんぱ」とかいうものにひっかかっちゃったりしちゃったの?!
 う、嘘だよ……。咲耶ちゃんならともかく、可憐全然魅力的なんかじゃないのに……。


「以後お見知りおきを、キャワイイお嬢さん……。で、可憐なキミの、な・ま・え・は?」

「えと……あの……その……」


 可憐、突然のことにビックリして、すっごく戸惑っちゃって……なにも言えなくなっちゃってたの。
 えっと……可憐は名前は可憐だけど全然可憐なんかじゃなくて……ああ、そんなことどうでもいいのか。
 そうじゃなくて、可憐はこれから咲耶ちゃんと亞里亞ちゃんとお出かけで……う、うん、そうだよね! そう説明してお断りしなくちゃ!


「あの……」

「オオッ、そーだ! 良かったら街の方に行かないかい? ボキ、イイ店知ってんだ〜!」

「実は……」

「そうだな〜、一通り街を巡った後は……ふたりきりでお食事なんてのも……ムフフ……。……って、お金足りたか?」

「か、可憐は……」

「まー、何とかなるか! こんなカワイ娘ちゃんとふたりきりになれるチャンス、無駄にしてなるものかってんだ!! ナーハッハッハッ!!」

「あぅぅ……」


 頭の中では「お断りしなくちゃ」って思ってるのに、上手く言葉がまとまりません……。
 それどころか、相手の男の人は可憐の話なんか全然聞いてくれなくて、自分の話ばかり口にしています。
 頭の整理が終わらないうちに、次から次へと話しかけられて……可憐、頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃって……
 もうなにをどう言ったら良いのか、どうすればいいのか、全然わかんなくなっちゃったの……。
 誰か……神様……助けてください……。
 ……可憐が心の中で助けを求めたその時。


「ママ〜」


 可愛らしい声と共に、「ぽすっ」なんて柔らかい衝撃が可憐の体に伝わってきました。
 そしてそのまま、腰にしがみつく小さな手が伸びてきます。


「ママ〜……亞里亞、おトイレできました……!」


 そう、亞里亞ちゃんです。
 見知らぬ男の人の登場ですっかり頭の中から抜け落ちていました。
 でも……亞里亞ちゃんが来てくれて、「これからご用が在ります」ってことは説明はし易くなってくれたけど、
 亞里亞ちゃんも可憐と一緒で、男の人の強引なペースに流されちゃうんじゃないかな……?
 だったら、亞里亞ちゃんが帰ってくる前に、可憐がなんとかしておかなくちゃいけなかったのに……。


「はイ? ま……ま?」


 ……あれ? 止まっ、てくれた……?
 亞里亞ちゃんの登場をきっかけに、男の人はさっきまでの勢いを唐突に失くして、辺りは静かな公園の姿を取り戻しました。
 可憐は、ようやく落ち着いて頭を整理することが出来て、ほっと一息です。


「ママって……?」


 ……でも、止まってくれたのはいいけど、なんだかちょっと様子がおかしいような……?
 顔色も、ほんの少し青ざめているみたい……おなかでも痛くなっちゃったのかな?


「あ、アハハハっ……! す、既にお子さんの居られる奥様でしたか! い、いや、失敬失敬……!」


 …………………………………………………………………はい?


「いやいや、あまりにもお若く、可愛い……いえ、お美しかったものですから、ついつい学生さんかなー、と思って……」

「え!? え!? え゛!?」

「やー、世の中広いなー。中学生か高校、ボキより年下にしか見えないのに子持ちとは……しかも、お子さんも結構ご成長なされて……」

「え!? いや、ちょっ……ちょっ、おまっ……!?」


 いやいやいやいやいやいや!? ちょい待ちぃや、そこのボーイズエンガールズ!!
 いや、ガールズはいないし、なんか可憐のキャラじゃない台詞が飛び交う人間交差点は運命の黙示録に引き裂かれた恋人達の……
 ああ、もうっ! 可憐はなにを言ってるんですか!?
 混乱のあまり訳の分からない言葉を……ってなにを言ってるんですかはこの男の人の方です!?
 可憐を子持ちの主婦と勘違いって、なんでそんなこと納得しちゃうんですかーーっっ!?


「いやー、ほっっんとに失礼しました! それじゃーー!!」

「ああ待って! 違っ、亞里亞ちゃんはいもっ……」


 慌てて、訂正の言葉を口に……するも虚しく、可憐の言葉が耳に届く前に、男の人はそのままどこかに行っちゃったの……。
 多分……可憐を子持ちの主婦と勘違いしたまま……。


「……妹……ですから……」


 誰も聞いていないのは分かっていたけど、それでも言わずにはいられなかった、言葉の続き。
 引きとめようと差し出した手は、空中で虚しく、静止したまま。
 可憐は心も体も、まるで時間が止まっちゃったみたいに、何もかもが動きを停止させてます……。


「ママー」

「…………」


 そんな時の止まった頭の中を、亞里亞ちゃんのにこにこ笑顔で口にする、無邪気で残酷な一言がこだまします……。


「どうしたの……? ママ……?」

「こ……」

「ママ?」

「こういうのは咲耶ちゃんか千影ちゃんの役割なのにーーーーっっ!!」




 その後、可憐は遅れてやって来た咲耶ちゃんに、今の発言について謝りました……。












あとがき

「亞里亞分が足りない」、という声を耳にしたので、気が向いたので短く書く練習、早く書く練習、リハビリついでに仕上げた短編です。
普段は「時間を掛けてもクオリティ」と考えるのですが、今回は速度優先で、閃いた短編をそのままサクッと作ってみることを目標にしてみました。
……その、つもりだったのですが……色々と、自分の弱点難点(「短くサクッと書けない」含めて)が掘り出された気分です(苦笑
まあ、新たな一歩に失敗は付き物と思い、現状で短期間に挑戦したその結果を、ここにそのまま載せることにしました。

時期的に、一足遅いBDSSと言い張っても良かったんですが、そういうつもりで作った訳ではないので、
あくまで亞里亞BDとは無関係の作品と受け取ってくださいまし。
そもそも、亞里亞分が補充されたか、疑問が残る出来ですし(苦笑

今回、百合でもノーマルでも、どっちでも取れるように仕上げてみました!
まあ、それでも可憐の発言が百合前提で取られるとは寂しく察してますが……。
また、咲耶パパ話の続き、取ってもらっても、また別のパラレルと取っていただいても構いません。
どっちにしろ、「咲耶パパ」はなりゅー設定として貫いていくつもりですので(笑

ところで、100作品目直前にして、スペシャルゲストとしてやっと"彼"を出せました。
「兄」を出してない以上、登場に戸惑いのあった"彼"ですが、「兄」より先に出すことに成功です!(←ヒネクレ者)
それでも多少設定は変えざるを得ないので、微妙にぼかしてみるのは私の弱い心の現われです(苦笑
ちなみに、言うまでもないですが、この可憐を見て若奥様と納得した"彼"の方が悪いのです(笑


更新履歴

H19・11/7:完成
H19・11/10:誤字修正


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