―――同時刻・可憐の部屋。


「はい、雛子ちゃん。おやつのプリン、持ってきましたよ」

「うっわぁ〜〜〜い ありがと、可憐ちゃん♥♥

「うふふっ どういたしまして」


    ―――ッ! ―――ッ!! ドンッ


「ん〜? なんだかお外が騒がしいね」

「……え?」


    ――ッッ!! ドタンッ  バタンッ  ―――ッッ!?


「あ、ほんと。窓の下……玄関から? 一体何かな?」






 ・

 ・

 ・

 ・

 ・






「魔女とはなによ魔女とは!?」

「君こそ柄にもなくぷりんせすぅ〜? ハッ! 鼻で茶釜が沸くね!!」


    ダダッ バタンッ 「はれ? 可憐ちゃん……?」

「ヘソよこのノータリン!! アンタ、雛子ちゃんに合わせようとして、その頭の中まで幼児化したんじゃないの?」

「なんだとッッ!? ……ああ……ヒナたんとの精神の共有……♥♥(うっとり)」


    タッタッタッタッタッタッタッタッタッ


「なに考えてる阿呆!? 鼻で沸かせるものなら沸かしてみなさいよ!!」

「あー、沸かしてやる! 沸かしてやるとも!! 見せて欲しいなら今すぐ茶釜を持って来い!!」



    タッタッタッタッタッタッ


「持ってる訳ないでしょ!! 常識でモノ考えろ下衆!!」

「じゃあ見せれないな!! 残念だったな、ツインテール総帥!!」

「なにそれ!? ヘリクツこいて逃げようって腹ぁ!? ふざけんじゃないわよ!!」



    ドタドタドタドタッ―――


「私は逃げも隠れもしないさ! キミが挑む術を持たないだけだろう? 愚かだな、総帥」

「そっちこそ、いい加減できないならできないって認めなさいよ! 早い方が恥も少しで済むわよ?」



    バタンッッ


「もう、静かにしてくださいッ!!」

「「!?」」











 

千影おねえたまの狂った日常

−そのさん  なかなおりのでゅえっと・ちゅーへん−













 到着早々、家の前で仲間割れする私たちの前に、意外な人物の姿が躍り出た。
 この家の主……私にとっては憎っき怨敵、そして咲耶くんの愛して止まない最愛の相手。
 私たちの冒険の、最終目標……魔女・カレン。
 もうね、
「新手のスタンド使いか!?」って感じにね。いきなりだったのよ。……え? 分からない? 知るかそんなもん。(←横暴ちー様)


「ご近所迷惑……です、から……」


 出てきた時とは対称的な、しおれた声で、魔女・カレンは言った。
 玄関先での騒ぎを収拾しようと慌てて出てきたまでは良いが……事態の収拾を焦ったため、つい出てしまった大声をはしたないと感じているらしい。
 後のことなど考えていなかったとでも言わんばかりに、今更ながらにその頬を赤く染め上げている。
 それとも……喧嘩中の相手が目の前に居るのに、勢いで飛び出してしまったから……かな?


「か……れん……?」


 私の隣の人物、魔女と喧嘩中お相手は、あまりにも唐突過ぎる再会に、動揺を隠せずにいた。
 今まで、会うことも叶わない存在だった。求めても、会うことさえ拒まれた人が、今、目の前に居る……。
 千載一遇の好機。いや……これがラストチャンスなのかもしれない……。
 ここで機を逃してしまうようならば、所詮、それまでの巡り会わせに過ぎないのだろう。
 それを、心のどこかで理解しているからか、咲耶くんは必死で降って湧いた幸運にすがりついた。


「か、可憐ちゃん…………あの……」


 しかし、巡ったチャンスは突然過ぎて、むしろ何をしていいのか分からない御様子……。
 それでもやっと、気力を振り絞って手を差し伸ばす咲耶くん。


「…………なんですか、咲耶ちゃん?」


 だが……残酷にも魔女は、落ち着いた、それでいていつもより低音の不機嫌な声で、
 やっと差し伸ばしたその手を、いとも簡単に叩き払ってしまった。




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃さくや は 11 のダメージ を うけた!! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 ああ、咲耶くんの動揺と精神的ダメージが表情から容易に読み取れる……。
 魔女は既に気を持ち直したらしく、表情に先ほどまでの焦りや緩みを無表情の仮面で覆い隠し、咲耶くんに対して、冷た過ぎるほど冷静に向き合った。
 ただでさえ弱っている咲耶くんに追い討ちを掛けるように、魔女は更に不機嫌そうな眼差しで一瞥。




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃さくや は おびえて うごけなくなってしまった!!
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 ただそれだけで、咲耶くんが奮い立たせた闘志など、一瞬で凍りつくしてしまった。
 どうやら、先日のことを相当根に持っているらしいね……。




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃さくや は たすけを もとめている!! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 そのことは咲耶くんも察することができたらしい。
 普段の傲慢な態度が信じられなくらいか弱くなって、涙目でしきりに私に何かを求めてくる。




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃さくや は たすけを もとめている!! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 最強の戦力を誇りながらも、この小さき少女に思わずたじろいでしまうとは……。
 皮肉な話だが、やはり愛とは偉大だな……。




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃さくや は たすけを もとめている!! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 あー、ハイハイ。分かった分かった。わーったからそんな目で見るな。キモイ。(←「お前が言うな」と思った方は挙手)
 これも共同戦線。仕方なく、咲耶くんへと助け舟を出すことにした。


「あー……可憐くん。ちょっといいかい……?」




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ が せんとうにくわわった! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「なんですか?」


 私が声を掛けても、魔女は変わらず不機嫌なオーラを放ち続ける。
 まー、別に私に対しての不機嫌じゃないし、私は別にヘーキだけどねぇ。
 さてと……とにかく咲耶くんへの助け舟を出してやらねばな……。




    ┏━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ の こうげき! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━┛





「あー…………」


 ……………………………………………………………………しまったな……。
 私は他人のフォローって生まれてこの方やったことがないから、どうしていいのか分からないぞ……。
 というか、これまでの人生(前世含め)初? いやいや、多分前世のどっかでやったことあるはずだ。
 伊達に長年過ごして来てないし、その人生では別の人間として生を過ごしてきたんだから、記憶はあっても性格とか結構違うし。うん、きっとやってるはず。
 よしんばなかったとしても、枝状分岐宇端末点パラレルワールドの私ならやってくれてそうだ。
 きっと、妹のためにクリスマスに雪降らせてあげたり、自分のせいで呪われてしまった相手をこれ以上苦しめないためその元を去ったり、
 そんな優しいお姉さんを演じてそうだ。だって私、美人だし。(←意味不明無関係自己陶酔)




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ の テンションがあがっていく! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 うん、そうだね、自分を信じよう。自業自得自画自賛覚悟完了!
 つまり『自分の行動を、独りよがりの自己満足なだけと誤解されてしまっても、誰にも認められなくても、
 そんな自身の行動の業をとっくに受けきる覚悟ができている、だから自らの意志をそのまま貫き通せ!』
という崇高な造語だ!
 フム、適当に四字熟語(?)を繋げてみただけだが、なかなか良い意味に仕上がったのう……さあ、みんなも明日から使おう!!(ぇー)




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ の テンションがあがっていく!        ┃
    ┃                            ┃
    ┃ しかし ちかげ の テンションは もうあがらないぞ! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





 よぉし、中編からクライマックスだぜ!!(←常に舞い上がってる人)
 ふたつの時空重なる時、誰よりも素敵になれる。語り出そうぜKuchiくちHacchoはっちょう!!
 「前世と」「平行世界パラレル」ひとつにになる瞬間んんん〜〜〜♪(←なぜか歌う)









    ┏ せんたく ━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃  げんせのちから で たちむかう。 ┃
    ┃                   ┃
    ┃  かこのきおく を よびおこす。  ┃
    ┃                   ┃
    ┃  べつのじくう と つうじあう。  ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛































    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ は げんせのちから を ときはなった! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「……
今穿いてる下着の色は何色だ―――ビめちャッッ!?




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ さくや の こうげき!       ┃
    ┃                   ┃
    ┃ ちかげ は たおれてしまった……。 ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「アンタはなんてこと聞いてるのよ!? このダラズがっ!! 
私が聞きたくても聞けなかったことをあっさりと!! 羨ましい!!




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ かれん の いかり の ボルテージ が あがっていく! ┃
    ┃                             ┃
    ┃ かれん の こうげきりょく が あがった!!      ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛







          ┏━━━━━━━━━━━━━━┓
          ┃ たたかいを……      ┃
          ┃              ┃
          ┃  つづける   おわる  ┃
          ┗━━━━━━━━━━━━━━┛





































    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ は かこのきおく を よびもどした! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「……えーっと…………
ウキッ!! ―――ウキゃっっ!?




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ さくや の こうげき!       ┃
    ┃                   ┃
    ┃ ちかげ は たおれてしまった……。 ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「アンタは何がしたいのよ!? 先祖返りでもしたのか!? どうせなら催眠術でも暗示でも使って
可憐ちゃんをお猿さんにしなさい!!




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ かれん は けいかいしている!        ┃
    ┃                        ┃
    ┃ かれん の ぼうぎょりょく が あがった!! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛







          ┏━━━━━━━━━━━━━━┓
          ┃ たたかいを……      ┃
          ┃              ┃
          ┃  つづける   おわる  ┃
          ┗━━━━━━━━━━━━━━┛








































    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ は べつのじくう と つうじあった! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「…キミにこの………
体中が毛むくじゃらになるクスリをあげ―――ょぶぎャッッ!?




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ さくや の こうげき!       ┃
    ┃                   ┃
    ┃ ちかげ は たおれてしまった……。 ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





「アンタはなんてこと口走ってのよ!? このボケナスがっ!! 可憐ちゃんが毛むくじゃらなんて
あ、一度は見てみたいけどっ♥♥




    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ かれん は ようじんしている!     ┃
    ┃                     ┃
    ┃ かれん の すばやさ が あがった!! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛







          ┏━━━━━━━━━━━━━━┓
          ┃ たたかいを……      ┃
          ┃              ┃
          ┃  つづける   おわる  ┃
          ┗━━━━━━━━━━━━━━┛

























 ……ダメじゃん私!! と、心の中でセルフツッコミ。
 まあ……私もね、慣れてない節があるからさ、自分でも責務を果たせなかったとは思うよ。思うけどさ。
 でもなんか、キミがした発言の方が特にキミを立場危うくしてるんじゃないかい?
 だから私悪くないんじゃないの? むしろ普通はここでフォローなんてしないんだし、うん、むしろ頑張った方だよね。
 せいいっぱいやったし、だからやすんじゃおっか。そうしよ。(←そういう人に限って努力してない典型的例)


「用があるなら早くしてください。雛子ちゃんが待っているんですから……」

「ひ、ヒナたんッ!?!?」


    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ が げんき を とりもどした! ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛



    ―――ズヴォッ


ガハァッ!!

「うるさい黙ってろ……」


    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ かいしんのいちげき!!       ┃
    ┃                   ┃
    ┃ ちかげ は たおれてしまった……。 ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛



 フゥ……状況をヒナたんとやったゲーム風に状況をトレースするのもそろそろ飽きたな。そろそろ元のモノローグに戻すとしよう……。
 しかし最近のゲームは優しいね。「死ぬ」じゃなくて「戦闘不能」なんだもん。お陰で何回やられても平気……じゃねーよ!


「なんにも用はないんですね?」

「え!? 違っ……そうじゃなくてっ!」


 さて、状況報告が私のモノローグに戻ってからも状況は変わらず劣勢。
 更に悪いことに、会話もそろそろシメに入ろうとしていた。
 咲耶くんも、普段の勢いを発揮できないまま、まごまごしている。
 チミがまごまごしたって可愛くもなんともねぇんだよ、ヒナたんまごまごさせろや!


「じゃあ早く話してください」

「えっと……だから……」


 明らかに不機嫌さをアピールする声に、いちいち竦んでいる咲耶くん。
 これ以上嫌われるのを恐れ、慎重に言葉を選び過ぎて、思考がまとまらないといったところだろう……。
 このまま何も話せず、追い返されるのも時間の問題か……。


「何もないんですね?」

「ぅぅ……」


 どうにも、今回は準備が足りなかったな……。
 仕方がない……今日のところは諦め、また後日しっかりと策を練ってから、魔女の城を攻略することにするしかないか……。


「じゃあ、帰ってくだ―――」

「ちゃ、茶釜!!」


 ……………………………………………………。


「……………………え?」


 突然の咲耶君の一言に、場が一瞬凍りついた。
 可憐くんも、そんな短い声をあげて反応するので精一杯といった様子だった。
 私でさえ「はい?」なんてとぼけた声を上げてしまうほど。普段クール&ビューティーで通してる、この私でさえ!!(←公式だったらねー)


「茶釜……貸してくれるかしら?」


 えーと……咲耶くんったら切羽詰って茶釜っすか?


「ちゃ、茶釜なんて……何に使うんですか……?」


 さっきまでの鉄壁不機嫌アピールも、さすがにこの一言には呆気を取られてしまう。
 変わることがなかった魔女の険悪な表情を、一瞬で何がなんだか良く分からないといった面持ちに変えてしまった。……そりゃそうだろ。
 魔女の表情に、胸中でもやもやする不可解さが面白いくらい浮かび上がっていた。


「それは……千影のヤツが」

「おいおい…………言うに事欠いて私か……? 私はそんなこと一言も……」


 ……あ。言ってたっけ。持って来いとか。勢いで。
 だからってこんなところで利用するんだ。ほんとなりふり構わずだな。


「し、仕方ないでしょ……!? この場合は……」


 小声で、顔を赤らめながら、言い訳のように言う。さすがに自分でも素っ頓狂なことを口走っているとは自覚しているようだ。
 だかお前は正しいッッ!! そうさ、愛の前では全ては許されるのさ!!
 ロ○コンだって、同性愛だって、きんしんそー○んだって、なんだって許されちゃうのよ!! ヘヘイヘ〜イ♪



「ち、千影ちゃんっ!? なんてことを大声で言ってるんですかっ!? しかも可憐のおうちの前で!?」

そうさ愛は無敵さランラランラ〜ン♪

「ええい、毎度のことながら脳内の妄言がこぼれとるのに気づいとらんのか!?」

ウォウウォウォウウォ〜ウ♪ めっちゃほりでいぃぃ〜〜♪

「このっ……伸るか反るかの瀬戸際で余計なことすんなーーーっ!!


 謳われる程の美声と巨人の雄叫びのような怒声の入り混じる中、歌舞伎役者さながらに首を思いきり振り回す咲耶くんの姿を目の端で捉えた。
 気づいた時には、既に彼女の頭部から垂れ下がる二房の長い髪は最大限の遠心力が既に与えられており、―――


    ビシッ バシッ ビシッ バシッ ビシバシビシバシビシバシビシバシッッ ビシィィィィッッッッ


あぎゃーッッ?!


 ―――まるで鞭のように、私の体へと乱打した。
 ぐふっ……見事な髪捌き……さすがはツインテール総帥の名を名乗るだけある。(←千影の妄想……のはず)
 曰く、「伊達や酔狂でこんな頭をしているわけじゃないわっ……!」とのこと……いや、髪型は伊達や酔狂で終わらせておけよ!?


「うちにあったかな……?」


 咲耶くんの妙技が炸裂する横で、可憐くんの小さな呟きがこぼれる。
 よく聞き取れなかったのか、意図が汲み取れなかったからか、咲耶くんが短く「え?」と短く聞き返した。


「茶釜です。いるんですよね?」

「え!?」


 総帥の猛攻ですっかり忘れるところだったが、そういえばその話の途中だったな……。


「ええ、いるっ!! いるわっ!!」


 咲耶くんはすがりつくように、必死で食いついた。
 ただ話を食いつなぐだけの、本当は欲しいともなんとも思ってない茶釜に。
 咲耶くんの必死の懇願を聞き届け、魔女・カレンは「じゃあ、探してきますね」と、家の中へときびすを返した。
 と、そこで中に戻ろうとするその足を止めて、顔を半分だけこっちに向けると……


「上がってください……」

「……え?」

「探すの、長くなると思うから……。お客様、ずっと外で待たせるわけにも……行かないし……」


 なんと、我々を家へと招き入れたのだ!!


「良いのかい……!? また………性欲に塗れた野獣の餌食にな―――」















    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃ ちかげ は ちからつきてしまった……。 ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛













「構いません。別に追い返す理由もないですし、雛子ちゃんも喜ぶと思うから……」


 魔女は、そう語った。
 咲耶くんの痛恨の一撃で地に伏せてしまったため、愛する人の名に反応できなかったことを心底遺恨に思う……。
 その思考の端で、魔女のある一言が、心のどこかに引っかかった。
 や、同時進行で「ヒナたんヒナたんヒナたん……」と頭の中で繰り返してたのは当然としてね。


(別に追い返す理由もない………ねぇ……)


 未だに先日の喧嘩を引きずって、険悪ムードのままの相手を前に、いけしゃあしゃあと……。
 しかし、それも年相応の意地っ張りなのだと思うと、かわいいものか……もちろん非性的な意味で。
 あ! だからってヒナたん連れ去った悪行が赦されるだなんて思うんじゃねーぞ!!
 ええい、認めるか?! 
認めるもんかっ?! 認めないもんっ!!(←年不相応の意地っ張り)
 ちなみに、横では「このロリ○ンネ○ラ女がどんな奇行に走るか分かったもんじゃないからっていうのは理由にならない?」と、
 ツッコミ入れたくて入れたくて仕方がないけどそんなことすれば折角の好機をみすみす逃すことになるから出来なくて、だけどツッコミたい、ああツッコミたい……!

 と、いかにも思ってそうな咲耶くんがうずうずしながら悔しそうに唇かみ締めつつ微妙な表情を浮かべていた。

 とにかく、だ……咲耶くんの
マヌケ100%の茶釜発言は、思いもよらぬ最高の突破口へと姿を変えたのだった。
 フッ……当然、私はこうなると予測して茶釜のことを言ったんだがね……。(←ウソ100%)


「で、これからどうする気なの?」


 導かれるまま、玄関先から扉をくぐり抜けたところで、不安そうに耳打ちして尋ねてくる咲耶くん。
 確かに……咲耶くんの奇策と私のナイスアシスト(嘘)により、魔女の根城に侵入することには成功した。
 が、肝心なのはこれからなのだ。
 中に入れたからと言って、所詮は咲耶くんと魔女が和解する機会が設けられただけで、まだ和解できた訳ではない。
 それが叶わなくては、囚われのヒナたんを真の意味で解放したとも言えない。つまり私にとっても胆なのだ。
 ではこの正念場をどう乗り切るか?
 彼女の弱気な表情に応えてみせるように、私は自信満々に答えてみせた。


「どう……と言われても………着いてから考えるつもりだったからね…………全く考えてない!!

「アンタねぇ……」


 額に手を当て、うなだれてしまった。
 何故だ!? リーダーの自信は、メンバーに安心感を与えるを得ることができると何かで見たのに!?(←まず確かな実績と信頼を持ちましょう)


「そうね、そうよね。アンタに頼った時点で、私の命運尽きてるわよね」


 それで失礼なことまで愚痴り始める始末。
 ンもうっ、そーいう文句は面と向かって言いなさい! おねーさんそういう陰口ってキライですよ!!(←注:千影の方が妹です)


「おっと…………だが今回の失態……私ひとりの所為じゃないぞ。所為じゃないぞいっ」


 策を弄さなかったのは互いの落ち度。同罪相手に一方的に責められる謂われはない。


「う……。ま、まあ、正論だけど……そのラストの"ぞいっ"がなんかムカつくわね……」

「所為じゃないぞいっ」

「ええい、何度も言うな」

「じゃないぞいっ」

「……次言ったら、ただじゃ―――」

「ないぞいっ」


    ぞりッッ
























 私たちは、家に招き入れられるなり、2階にある可憐くんの部屋へと案内される。
 その中で、我々は茶釜が来るのを待つこととなった訳だ。


「あー……頭いたい………」


 直前に玄関先で受けた、咲耶くんのこめかみを削り取るようなフックで出来た大きなたんこぶと、
 その余波で痛めた他の部位が疼いて疼いて仕方がなかったので、隣の原因に恨めしそうな横目で訴え掛けていた。


か……可憐ちゃんの部屋……ハァハァ……

「聞けや」


 咲耶くんは私の訴えなどまるで意に介していない……。
 
畜生、私がヒナたんの家に行った時と同じリアクションしやがって!! 私こんなヤツと同レベルなのか!?


「えっ!? あっ、ごめん千影!」


 まったく……申し訳ないと思ってるなら、まずはその鼻から流している一筋の赤い水(鼻血)を早く拭ってくれたまえ。


「頭痛いんだ……」

「あー……ごめん、さっきのはちょっと勢いつきすぎた……って、え? 頭なの?」

「ああ、頭が痛い」

「いや、頭より首の方が……ヘンな方向に……」

「頭が痛い」

「いやだから……頭よりも首の方が……」

「頭が、痛い」

「……いえ、もういいわ……」


 なにか呆れ気味に、諦めた様子で、「お大事に」と一言添えて、会話を締め括られる。
 まあ、いつものやり取りだった。その瞬間、その直前までは……


「わーい、千影ちゃんななめななめー おンもしろーいっ♥♥


 !?!??!?!?!!??!?!?!


「そ、その声は……」


 まるで小鳥のさえずりのような可憐な声。
 穢れを知らないフェアリーの如く無垢で、セイレーンの歌声のように私の心を惑わす。
 地獄の亡者どもの呻き声の美しいハーモニーにも勝るとも劣らない、
 マンドラゴラの悲鳴のごとき絶望と破滅をブレンドした甘美な響き……。(←注:千影ですから)

 忘れるはずもない……忘れられるわけもない!?
 私が求めて、求めて求めて止まなかった、狂おしいほど愛おしい人の声。
 幾星霜、輪廻さえ越えて渇望した、私の最愛の人……!


ヒナたーーーーーーーんっっ!!!

「ちょいやぁっ!」


 ぇ? 足払―――




    グルングルングルン―――



 ――あ? ヒナたん消え―――


   ――――電灯が床に……!?


 違っ…天井……――景色が動……―――


       ―世界が……回っ――――……堕ち――――












    ―――ドンガラガッシャーーーンッッ






「雛子ちゃん、お久しぶり」

「はい、お久しぶりです


 一瞬、重力という鎖から解き放たれ、空中で体を一回転後地面に墜落。
 そんな私の体を張ったリアクションに対し、まるで普通のことのように流して、何事もなかったかのように挨拶を交わす天使と達人。


「……うぉ〜い…………チミは私の体を張った芸をなんだと思ってるのかね……?
 じゃなくて……チミは折角の再会の悦びにも浸らせてくれないのかい……?」

「や、顔がヤバかったから。特によだれとか」


 ヒナたんを見たらよだれが出る、これ人の生理現象。
 だからワタシに止められないアルね。(←「ワタシ」の"タ"にアクセント)


「えへへ あのね、ヒナね、ひとりでおトイレ行ってきたんだよ」


 なるほど、それで部屋はもぬけの空だったのか。
 そんなことより、ひ、ヒナたんのおトイレ……!? ハァハァ……。


「はーい、そこで床に寝転がってるネ○ラハゲ。妖しい笑い浮かべない」

―――ぷゅぃぎゃ!?


 ドスン、と、足で横たわる私の頭を踏みつける。 ええい、貴様の折檻なんて気持ち良くもなんともないんだよっ!!
 それと、とりあえずハァハァ言っといたけど、冷静に考えてみたらヒナたんのおトイレって別に萌えなかったよ。そんな自分にちょっと驚きだよ。
 などと、今判明した驚愕の事実に身を震わす私の元に、てこてこてこ……、と小さな影が歩み寄ってくる。


「えへへ……


 小さな影は、ぽん、と私の頭に小さな手を乗せ、優しくなでた……。そして、一言……。


「千影ちゃんも、おひさしぶりです



 …………。



 ……………………。



 ………………………………う、






うオオオオオオォォォォォぉぉおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!!!!!


 叫んだ。
 腹の底から叫んだ。
 これが叫ばずに居られるだろうか!? 否!! 断じて
いね!!
 私の! 私の求めていた人が! 愛して愛して止まない人が今、目の前で……!
 会うことも出来なかった、運命に翻弄されて、また離れ離れになった、けれど今!!
 こんなにも近くで、私に触れて、こんなにも愛らしい笑顔で……!!!
 オオオオォォォォォぉぉお
おおぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!
 
・だぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁああああぁぁッッッッッ!!!!!!
 
じゃねー!!(←感激に打ち震えていたので間違いを修正するのを後回しにした)


「わー、千影ちゃんはあいかわらずおンもしろぉ〜〜〜い

「はっはっはっ、よぉし おねーさんヒナたんのために頑張って、顔を真逆にしちゃうぞぉ〜

「止めなさいさすがに死ぬからーーー!!」


 久方ぶりに、「ヒナたん分」を思う存分その身に浴びて、歓喜に打ち震える我が身。
 今までとは比べ物にならないほど、体に力が漲ってくる!
 
純愛! 寵愛! 大恋愛!!! ふはははー、すごいぞーかぁいいぞー!!

 それは太陽光からビタミンDを精製するように、私の体内でヒナたんから放出される独特の萌のオーラによって「ヒナたん分」が構成されゆく!
 つまり、ヒナたんは太陽っ!!
 ヒナたんを前に、私は今日まで飢えていた「ヒナたん分」を存分に体に満たしていった!
 これまで以上の力が!
 活力が!
 英気が!
 精力が!
 活動力が!
 生命力が!!
 体に漲ってくるぞぉぉぉぉッッッッ! うぉぉぉォォォォぉぉオおおぉぉォォぉおッッッッ!!
 これまで体の中で欠けていたなにかが満たされたようだ!!
 いな!!(←ボラの若魚の呼称。全長は約20センチメートル。) いや、否!!
 これは、人が生きていく上で欠かせない、決して欠くことのできないエネルギー!!
 そう、「ヒナたん分」は、5大栄養素に次ぐ人間の"6大栄養素"なのだッッ!?


『ムフンっ、ねえさま! 残念ながら6大目の栄養素は既に在りますの!』


 あり? そなの?
 っていうか、どこから話しかけてるのだねマイリトルシスター?


『ドコからなんて愚問ですの。あなたの心からハッピー・ホワイトスノゥ お料理のことなら姫にお任せっ』


 え? 私の心はヒナたんで埋め尽くされてるから、そんな余裕微塵もないはずなんだけど?


『んなこたぁどーでも良いんですの。良いから出番寄越せ、あなたの心にハッピー・ホワイトスノゥ』


 ……あ、はい。ハッピー・ホワイトスノー……。


『ノンノンノン……。ホワイト、スノゥ。ス・ノゥ↑』


 ほ、ほわいと、すのぅ↑……?


もっと愛を込めてっ!


 ほ、ホワイトスゥっ!!


『んー、絶頂エクスタシー。では本日のお料理講座に行きますの。本日のお題は「栄養素」、ですの。
 栄養素とは、簡単に言えば人間が生きていくために必要なエネルギーのこと。
 特に、体の細胞を主に作ってくれる「炭水化物」、「たんぱく質」、「脂質」、この3つの栄養素を3大栄養素といいますの』


 ほうほう。


『そして、3大栄養素の働きを補助して「ビタミン」、「ミネラル」のふたつを加えた5つが、今ねえさまが言った「5大栄養素」。
 そこから更に「食物繊維」を加えたものが6大栄養素。つまり6大目の栄養素は「食物繊維」ということで、既に定められてるんですの。
 ちなみに、そこから更に「植物栄養素」を加えたものを、7大栄養素と言いますの』


 へー、そうなんだ。あんがと。さすが料理のことならお任せホワイトスノーさん。


『ムフンッ ありがとうですの〜♥♥


 でもたかが一ネタのためになに長々と時間取ってんだよ。


『ダイ・ジョーブ! こういう自分の心の中の会話っていうのは現実時間じゃ1秒も経ってないのがセオリーなんですの
 だから全然オールオーケェイ大丈夫ですの♥♥


 どーでもいーよンなこと。私がヒナたんを体感できる時間が減るだろ。そっちのが問題だよ。
 というか私の心はヒナたんに埋め尽くされているから以下略ダーヨ。


『うるさい良いから出番寄越すですの』


 知るか、私にはヒナたん意外はどうでもいいんじゃいっ!
 どうしてもというならその内巻きロール、外巻きにして出直して来い!!


『ひっ!? 酷いっ、それは言わない約束ですの!! あねあねのバカー、ですのー!』


 ……フ、悪は去ったか……。いや、お料理なだけに灰汁あくは去ったか、なんてな……。


「それでぇ……千影ちゃんたちは、何しに来てくれたの?」


 私が白昼夢から(……いや、「白雪夢」か?)から戻ってきた丁度そのタイミングで、雛子くんは純粋に胸に描いた問いを投げかけてきた。
 可愛いらしく首をかしげ、両手を胸の前で指先だけ合わせて、何の純粋過ぎるほど純朴な眼差しで見つめてきて……。
 嗚呼、その無垢な瞳で見つめられるだけで私……


コ・ワ・れ・ちゃ・い・そ・う うふっ♥♥

「一言一言区切って言うな、ウインクするな、胸を抱くな、うふ言うな、顔中からキラキラした何か出すな、キモイ」

も・う・、・さ・く・や・く・ん・っ・た・ら・、・ほ・ん・と・う・に・し・ょ・う・が・な・い・な・ぁ・

「聞き取り難いわ! ってかそこまで来るとどうやって発音してるのよ?」


「んー……
根性?」

「根性!? 女の子の可愛さアピールを漢気おとこぎ溢れる精神論でカバーしてたの!?」

「まあ……そんな漫才はどうでも良いさ…………」


 答えを待ってる雛子くんが、待つのに飽きて夢の世界に旅立っちゃうゾ。
 子供の集中力はそんなに長持ちしないんだから。


「なに………喧嘩中の咲耶くんと……可憐くんの仲を…………取り持ってやろうと……思ってね…………」

「ちょっ?! 千影ぇ!?」


 私が率直に理由を告げると、咲耶くんは顔を真っ赤にしてムキになった表情を向けてくる。
 さっきまでの暴力的なご様子に比べて、なんと乙女チックなんだか……。でも全然萌えねー。
 慌てる咲耶くんに比べ、雛子くんは特に驚く様子もなく、それどころか「やっぱり」といった表情を不満そうに浮かべた。


「あー、やっぱり可憐ちゃんと咲耶ちゃんってけんか中だったんだー! ぶー、可憐ちゃんのうそつきぃー! ぶー!」


 ぷんぷん、なんて擬音が今にも飛び出しそうな様子で頬を膨らませていた。
 その透明感のある瑞々しい頬の張り、あたかもヴィーナスの乳房の如く艶やかで、
 それでいてキュクロープスの唯一の眼球のように心地の良い弾力を持っていそうな程……。(←注:千影ですから……)
 ああああ……いぢりたい、つつきたい、口付けたい、貪りついて、しゃぶるように味わいたい、
 ああヒナたんヒナたん
ヒナタン
ヒナタンヒナタンヒナタンヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナ……


     
―――ボンッ


「ぎゃー! 千影が爆発したー!?」

「わぁー、千影ちゃんってホントウにおンもしろ〜い


 快楽の螺旋に飲み込まれた私の頭は、あまりの興奮に熱暴走を引き起こし、耐え切れなくなり、遂には爆発。
 あ、もちろん火薬による爆発と違い、純粋に血液の圧力に血管が耐え切れなくなったために起こった爆発であるため、
 爆風や熱放射で広範囲を物理的に破壊してしまった訳ではない、
私の頭の肉片が飛び散った以外は無事さ。


「フ……フフ……すまない…………あまりにも…魅力的だったもので…ね……」


 鼻に詰め物をしながら、詫びの言葉を述べる。とりえあず、それで出血は収まった。(なんでよ!? by咲耶)
 どーでもいーけど、さっきからこの部屋、赤い液体ですごいことになってるぞ。
 まあ、魔女の部屋には相応しいけど……。


「んーん、大丈夫だよっ。千影ちゃん面白いしっ

「ああ……雛子ちゃんが……こんなに幼い子が……血に、慣れていく……」


 雛子くんは普通に大喜びで、咲耶くんはなぜか罪に苛まれ中。
 ほんの少し、ヒナたんの柔らかな頬についてしまった血の飛沫が、まるで艶やかな残虐性を演出する化粧に変わり、
 ヒナたんの愛らしい風貌とのアンビバレントさが、更に私の嗜好をくすぐり、また更に傷付いた血管内を血が巡る……。
 まあ、またぶっかけても私は構わんが、いい加減会話が進まないのもよろしくない。
 その気持ちが運命の恋人に通じたのか、雛子くんは構わず会話を開始した、舌っ足らずな、たどたどしい口調で……。(←ここ重要!! 萌ー!!byちかげ)


「ええっとぉ……じゃあ千影ちゃんはキューピッドさんなんだね


 子供というのはマイペースなもので、自分のテンポで会話を進めるため、唐突に、言葉足らずのまま話を引き戻すことも珍しくない。
 しかし、ヒナたんの心、行動、更には整理反応まで、ヒナたんに穴が開くくらい観察してきた私にとって、
 咲耶くんたちの仲を取り持つ私を例えて表現したことなど、見抜くのは容易なことだった。
 (↑というかそもそも千影が話逸らしすぎることに問題があると思う。by作者)


「そうだよ」(←注:千影だってばよ!)

「しゃくだけどね……」

「マヨネーズさんなんだね

「え…いや………違うよ……(汗)」

「……えッ!? ち、千影……あんた……!? ツッコミ……するの……?」


 まるでこの世の終末を迎えた姿でも垣間見てしまったような目でこっちをみては、顔を歪めに歪めまくっていた。
 そんなに私がツッコミに回ることが珍しいか?
 さっきから結構ツッコミしてたんだぞ、髪のこととか、フォローしきれなかった時とか、心の中で。


「あのねあのね。可憐ちゃん……さいきんくらいくらいのしょんぼりぼーん、なの」

「……はい?」


 雛子くんは変わらずマイペースに会話を進める。そこが良いところなんだけどね♥♥
 ……要するに落ち込んで暗い表情を浮かべている、とういうことなのだろう。
 独特の表現に、咲耶くんは一瞬目を点にさせていたが……私ほどの愛が在れば、雛子くんの言わんとしている意図を読み取ることなど朝飯前!!
 なんせ雛子くんと精神の共有を果たしてると咲耶くんのお墨付きDA・KA・RA・ネっっ(←注:千影だぜっ!)


「可憐ちゃんね……咲耶ちゃんとおケンカしてから、なんだかゲンキないの……」

「え?」


 ……その報せには、咲耶くんは今一度、信じられないといった表情を浮かべた。
 さっきまでのギャグパートではなく……シリアスパートな雰囲気で。


「元気ない……って、機嫌が悪いの間違いじゃ……?」

「ううん、ホントーにゲンキないんだよ」


 ……子供は、意外と他人の感情に敏感だ。
 赤ん坊が、抱いている親の機嫌を理解し、なかなか寝付けないという話もザラだ。
 つまり若い方が崇高である証明に云々と語りたいところだが、今は関係ないので置いておくことにする。ああ、語りたい。ああ、悔しい。
 つまり、子供の感性は大人よりも鋭く、侮れないものということ。
 そんな鋭い感性の持ち主が、ここしばらく常に見てきて感じたんだ。有力な情報に違いはないだろう。
 私は、柔らかく微笑みながら、咲耶くんの肩に手を載せて言ってやった。


「よかったじゃないか…………脈は……ありそうだよ……」


 祝う意味で軽く微笑んだもりだが、笑うのはどうも苦手でね……
 嘲笑を浮かべた皮肉めいた表情になってしまったかもしれない、だって咲耶くんに恥辱を味わわせたかったんだもん。(マテ)
 だが、誤解(確信犯)して受け取った咲耶くんからの激しいツッコミを予測して、
 首、胴体、その他今にも攻撃が降り注ぎそうな部位に力を込めて構えていた(←防ぐとか避けるとかいう発想はない)のだが、
 語り掛けてもすぐには返事こぶしはなかなか返ってこない。
 しばらくの間、静寂が生まれ、沈黙の後に返ってきた返答は、


「……と、当然よ……」


 自信や見栄、威厳なんてちっちゃなモノを保つための強がり丸見えの、短い言葉。
 ……ま、今までの落胆具合を見たら、強がりなんてサルでも分かるだろう。
 返事の際、浮かべた綻んだ笑顔に、ほんのり染まった頬、そして、私の嫌味に全く気がついてない点から、彼女がどんな心境であるを如実に表現していた。
 っていうか、ツンデレか? それは今流行のツンデレでも気取ってるつもりかぁ?
 にわか仕込みなんて所詮簡単に剥がれ落ちるメッキなんだから、無理して得点稼ぐもんじゃねーぞ。
(←雛子以外には厳しい)


「それでヒナ、可憐ちゃんにゲンキ出してほしいんだけど……どうしたらいいのか、わかんなの……」

「フフフ…………それなら簡単さ…………私が…元気の出るおまじないの言葉を教えてあげるよ……」

「ホント?!」


 とはいえ、人間そのくらいで元気なるようなら全国のうつ病で悩んでらっしゃる父様方は苦労しないだろう。
 傍から見ている咲耶くんも、全国のお父様方の苦労は存じているらしく、気休め程度のものと私の様子を眺めていた。


「いいかい……秘密の呪文は…………」


「うんうん

「秘密の呪文は
ピーリカピリララ パラレルパラレル テクマクマヤコンテクマクマヤコン テクニカテクニカシャランラ リテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール オン・シュラ・ソワカ アラビン・ドビン・ハゲチャビン むーざんむーざん あんきもあんきもあんきも ムーンコズミックパワー バジュラオン・アーク 黄昏よりも昏きもの血の流れより紅きもの 上上下下左右左右AB プリティーミューテーションマジカルリコール I am the bone of my sword 体は剣で出来ている ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォー ポンピンパンペコリンシャンニョロリンコ 主よ、種も仕掛けも無い事をお許し下さい アニヨコ女児向けプリリンチョ・ヤマナミ女児向けポロリンチョ 交わらざりし命に今齎されん刹那の奇跡、時を経て、ここに融合せし未来への胎動 アララ カタブラツルリンコ 震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!!  水のほとりに植えられた樹の時が来ると実を結びその葉の枯れることなくその成すところ皆栄える とこしえの静かな眠りについた傷つきし偉大なる氷の魔王オーディンよ……その双角に宿りしその破滅の力を我が双剣に貸し与え賜え…… テトラクテュス・グラマトンだよっ!」

「そんな
魔女にも満たないお邪魔な魔女が使いそうだったり、リボンつけて別の何かに変身する少女の呪文ぽかったり、鏡の精から鏡を大切にしてくれたお礼に貰った魔法のコンパクトで変身する時の呪文みたいだったり、ふたつの胸のふくらみが何でもできる証拠な魔女っ子っぽかったり、空に浮かんでいる遺跡を指し示すおまじないぽかったり、実は1万年前の大戦で命を落とし人間界に転生した天空界の住人が唱えてそうな呪文だったり、くしゃみに反応してツボの中から出てくる魔神が唱える呪文みたいだったり、残酷無残時代劇に出てきそうな掛川の童歌みたいだったり、究極のメニューを任された食通の新聞記者が警察と戦うことになった際呪文のコマンドを選んだら唱えるの無意味な呪文だったり、愛と正義のセーラー服美少女戦士がスーパーになった時の変身の掛け声だったり、子供の姿に封印された最強の紅い鬼神の呪縛を解き放つための呪文だったり、ドラゴンも跨いで通りそうな魔術師が赤眼の魔王の力を借りて放つ呪文の一小節っぽかったり、どこかの会社のゲームの共通の裏技コマンドのようだったり、魔法の国の女王候補の資質を示す最終試練のため魔法の力を与えられ世界を正しく導く使命を背負った小学校五年生の魔法少女の呪文みたいだったり、自分の人生に意味がなくなりそうな弓兵が無限の剣を作り出しそうだったり、右手と左手それぞれに集めた破壊エネルギー防御エネルギーを集中融合させる時にサイボーグが唱えそうな呪文だったり、スウェーデンのカバみたいな姿の風の妖精歌いながら唱える使用方法がいまいち不明なおまじないの言葉だったり、マジシャンと怪盗の娘がその両方を駆使して鼠小僧の真似事する前の変身の呪文だったり、言葉を話す動物たちと仲良くなった5歳児が魔法少女物をやってみようという話の時に唱えていた魔法の呪文だったり、好きに呼んで良いって言ったら出会ってそうそうのヤツに"裏切り者"の名前を与えられた謎の仮面戦士が過去を断ち切れたり断ち切れなかったりする究極秘奥義っぽかったり、静岡住まいの小学3年生がでたらめなネズミと一緒に歌いながら唱えてそうな勇気が湧いてくる呪文っぽかったり、波紋のエネルギーを放つ時の気合の入った掛け声ぽかったり、海洋都市で暮らす海軍に入り損ねた記憶喪失の少女が大切にしてそうなおまじないの言葉っぽかったり、平民生まれの盲目の侍で血や才能の差を努力のみで埋めた努力の天才くんが絶対零度をも超える灼熱の冷気で相手を攻撃する際唱える言葉だったり、リアル系男主人公の虚空から転生した誰かさんの敵を虚無へと返しそうな呪文だったり、適当に数言や良いってもんじゃないと思うわよ、長いわよ」


 
全部に反応出来たオメェの方がすげーよ。っていうかそっちの方が倍以上長ぇー。


「うぅぅ〜、長くて覚えられないよぅ……」

「常識的に考えてそんな長いの覚えられるわけ無いじゃない……雛子ちゃんもまともに相手してるとチカゲ菌が伝染るわよ」


 全部聞き取って解説まで付け加えたキミが言うな。


「……それはともかく…だ…………可憐くんの不調の原因は……おおよそ見当がついているからね……」


 横目で咲耶くんをチラ見する。
 赤らめた顔で「なによ……」と、ご機嫌斜めなご様子で睨みつけて来る。
 照れ隠し、か……だからって全然萌ないけどね。


「で、どうするつもりよ?」

「簡単だろう……キミの問題を解決すれば…………この問題も解決するはずさ……」

「だーかーらっ! そのためにどうするか、ってのが重要なんでしょ!?
 そもそも、可憐ちゃんの元気がない原因が、私だって……限らない、し……」


 彼女にとってはこれ以上ない朗報だろうに、えらく後ろ向きな思考を繰り広げる。
 言葉の最後はまるっきり自信を失ってしまったらしく、ほとんど聞き取れなかった。
 まったく……こういう場合、あれこれ悩むよりさっさと行動して片付けた方が近道だろう。
 そう思い、やれやれ、と心の中で呟いてから、


「やれやれとか言うな」(↑漏れてた)


 咲耶くんたちの問題を解決する策をひとつ、提示した。


「雛子くんには……心を開いているようだからね………雛子くんに…本音を探って……貰うのさ…………」

「雛子ちゃんに探って貰うって?」

「……所詮は子供の質問…………単純に思ってることを口にしたって……おかしくないということ……。
 例えば……可憐ちゃんは咲耶ちゃんのこと好きなの、とでもね…………」

「ンなぁッ!?!?」


 例えが例えにならないほどダイレクトだったためか、咲耶くんは吃驚仰天、
 顔から火が出る勢いで真っ赤に変色。
 そして、照れ隠しの右ストレートが炸裂。
 いたーい。照れ隠しで手ぇ出すな傍迷惑だーよ。


「ダイ・ジョーブ!! ヒナたんは無垢で愛らしくて可愛くてプリティーでハァハァだからね♥♥

「そういうアンタはバカでアホでマヌケでブッ飛んでいてハァハァだったわね(怒)」


 どうでもいいけど、なんかさっきのお料理っ娘の口調(非公式)が伝染ってしまったな……。
 だが、これこそはまさに完璧な作戦!
 ……しかし、このパーフェクトプランにも、ひとつの欠点があることを、私は気づいていた。


「うー……でもヒナ、どうしたらいいのか、わからないよぅ……」


 実行する当人の、若さである。
 いくら「幼いは正義」の世の中とはいえ、(←単なる思い込み)それを行使するに相応しい能力、知識を持ってなければ宝の持ち腐れ。
 悲しいかな、能力や知識は積み重ねた時間に比例する……すなわち幼さとは反比例の関係を持つのである。
 雛子くん自身、自分に任務をこなせる度量はないと自覚し、言葉も後ろに行くほどしょんぼりと小さくなり、
 呂律が回らなくなる口調でたどだどしく紡ぐ姿が
私の興奮を最高潮にまで高める!
 そうだよ、これが見たかったんだよ!! むっはー♥♥


い〜じゃん♪ いーじゃん♪ いーじゃん♪ 一生懸命な幼児!!

「ええい、話が逸れる。落ち着けロ○ータコンプレックス」


 おおっと。私たしたことが、うっかりうっかりぃ〜。


「確かにね……。私たちが口添えするにしても、まだ幼い雛子ちゃんには限度ってものがあるし……」

「え? なに? 口づけ? ヒナたんにチュッチュチュッチュしていいのは私だけだー!!」

「何をほざいとるかこの阿呆」

「余談だが、鞠絵くんにチュッチュチュッチュしていいのは鈴凛くんだけだ」

「本当に余談ね……って?! えええええっっ!?

「……それで…だ………雛子くん自身……結局なにが重要か……把握しきれないと―――」

「いや、ちょっと待って! 余談の方がすっごく気になるんですけど!?」

「おいおい………目的を…見失うんじゃない……」


 先ほどまで私が不可抗力で話題を逸らしてしまうことへの挽回にと、今度は私が、本来の目的から外れないよう咲耶くんを嗜めてやった。
 咲耶くんはもンのすご〜〜〜〜く名残惜しそうに、まるで「うしろがみひかれ組」な、詳しく聞かせてオーラがムンムン放たれていた。
 おっかしぃ〜なぁ〜。わ〜たしは正しぃ〜コトをしてるだけな〜のにぃ〜♪(←確信犯)


「その通り…………雛子くん自身が……重要性を認識できないという問題もある…………」

「そ、そうね……」


 鋭いといっても、それを本人が重要と思わなければ、人間とは見過ごしてしまうものである。
 探し物が目の前にあっても気づかないという経験は誰にもあると思うのだが、まさにそういった感じだろう。
 こういうときは些細な動作も重要になるときが多い。
 いくら「どんな些細なことでも話して」といっても、雛子くんが見過ごすのは、幼さゆえの仕方のないことだろう。


「じゃあ、結局他の方法考えるしかないのね……」

「……ところが…………そうじゃないんだな……」


 落胆気味にうなだれる咲耶くんとは対照的に、にやりと唇の端を釣り上げながら、言った。
 どうでもいいが、この切り返しってかなり
・ネ


「簡単さ…………ヒナたんの魅力そとがわに……聡明な頭脳うちがわを付け加えればいいだけのこと……」

「一体どういう……?」

「……変身!!」


 咲耶くんの疑問の声を聞き届ける前に、掛け声を叫ぶと共に、私の体を中心に激しい光が放たれた。

 本音言うと、ここで本格的にリリカルな呪文を唱えてから背景を適当にカラフルなものに差し替え、
 同時にノリの良いBGMを流しながら、光のシルエットが私の全身を覆ってくるくる回り、
 まずは足をズームでカメラに収め、光が弾ける感じに飛び散ると、シルエットが部分的に解けると共に変化後の足を写し、
 そして次は腰に同じようにな演出を施し、胸、背中、両腕、最後に頭の順番に行って、
 1分ぐらいかけて全体の変身後の姿を待ってましたとばかりに晒すという演出を行いたかったのだが、
 残念ながらそう余裕もなかったので、普通に「ボウンッ」って間の抜けた音と、黒い煙が巻き上がって、そこから変身後の私の姿が現れるだけに留まった。
 むぅ……残念。せめて「変身!!」の後に「A―GO―GO―BABY」くらい言っておくんだった……。
 ……しかし、どんな演出であろうとも、"この姿"ならば、なんら差し支えもない……。


「……な!? なっ……!? なぁっ……!?」

「ふぇ? ええっ?」


 そう……私の美しい姿に、声すらも出まい……。
 なぜならば、この姿こそ、人類史上、最高にして究極の美の造形……。



「ち、千影が……
雛子ちゃんになったー!?


 私は今……自らの体を未成熟の究極美を象った雛子くんの肉体へと変質させたのだ!!


「どうだい……? こうすれば、雛子くんの無垢で可憐で(略)な魅力を保持したまま……
 可憐くんに…………聞くべき聞くことができるだろう……?」

「アンタ……そんなことまでできたのね……」


 感心と呆れ、その相反する感情を同時に表現するような複雑な表情を浮かべる咲耶くん。
 あれ? そこはこの美しい姿を褒め讃えるか、私の完璧な作戦に感服するとか、そーいう流れなんじゃないの?
 え? え? 軽くね?


「…まあね………。実は以前…真夜中に変身しては…………凝視したり……可愛いポーズ取ったり……コスプレしたり……
 あと自分の服を着て…………『ああ……ヒナ、千影ちゃんに包まれている……』なんて鏡越しに言っては……
 その服を鼻血に染めたりしていたからね…………フフフ」

「とりあえずアンタが人間離れした能力と思考回路の大バカだってことは理解できたわ」

「ああ、今の私……ヒナたん……」

「雛子ちゃんの姿のまま鼻血出すな、鏡も見ずに想像だけで興奮するな、あとその自分で自分を弄ってる手を外せ、本人見てる前で本人冒涜するな」

「ヒナたんの演技は完璧さ………。…伊達に生まれた時から……どころか…前世から穴が開くほど………
 見守っていたわけでは……ないからね…………フフフ……

「はいはい。そんな妄言はいらないから」


 んやー、満更うそじゃないんだけどねー。














「…じゃあ…………行ってくるよ……」


 準備や段取りを一通り終えから、私は部屋のドアの前で振り返り、ふたりに告げる。
 魔女はまだ来ない……どうやら、茶釜の捜索は難航している模様。
 ならばその状況を利用し、子供らしい「お手伝いして褒められたい」という状況を演じて、魔女の元へと乗り込む手はずとなったからだ。


「はぁ……仕方ないわね……。任せたわよっ!!」

「ああ…………まっかせな―――」

「破滅的なまでに不安だわ」


 咲耶くんから素直じゃない天の邪鬼な激励(←十二分に素直すぎる感想よ。by咲耶)を受ける。
 確かに、彼女との相性はよくは無い……が、それは私にとっては大きな力に変わるだろう。
 いや、相性が悪いからこそ、その期待の意味が大きいのだ。(←勘違い)
 不思議だ……今も、力が漲ってくるようだ。雛子くんから受けるそれとは違う、不思議な力が……。(←思いっきり思い込み)
 私は、私の双肩に背負った期待(=不安)に応えるべく、聖戦へと……ひとり魔女の袂へと向かった……。


「ところで雛子ちゃ〜ん さっきの鈴凛ちゃんと鞠絵ちゃんのお話、おねーさんによーく聞かせてもらえないかしらー?」

「うん、いいよー」


 後にする部屋の中、横目でわずかに見えた、無垢な妹に笑顔で語りかける微笑ましい姉妹の情景。
 でも私は見た……姉のその背に、確かに見えた。ドス黒い陰謀を孕んだかの様な、悪魔の……魔王のオーラを……。
 とりあえず、鈴凛くんに冥福祈っといた。ナムー。

 

 

 

 

こーへんにつづくよ。


更新履歴

H19・8/11:中編完成・掲載


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