昔々、あるところに、ひとりの姫君がいました。
 未来に約束された絶世の美貌と、現在に具象されている無垢な愛らしさ。そして純粋で素直な心を持った、小さな小さなプリンセス。
 外面も内面も美しく、その存在そのものが魅惑の塊のひとりの少女……いえ、
幼女
 幼い幼い、そりゃ本当に適齢期ジャストの言われる幼さで、老若男女所構わず
テンプテーションっ!!
 いやいや、ありゃ大きくなっても可愛いまんまよ、いつまで経っても適・齢・期!
 未来に約束された美と、変わらない純朴さは、全ての人々を魅了し、街中にはその魅力に心奪われた人々の
鼻血が溜まってできた血の海が……
 ……っと、それじゃあファンシー路線でなくなってしまうな……。今のは聞かなかったことにしてくれ……。

 その可愛らしくも美しい姫君の名は、プリンセスヒナたん
 プリンセスには前世から愛を誓った運命の恋人がいました。
 名は千影、現在においては、少女の姉へと転生した、素晴らしき正義リリカルの戦士です。
 生まれ変わり、再び巡り会えたふたりは、前世と同じく互いに惹かれ合い、愛し合いました。

 ……しかしある日、姫君はひとりの魔女に浚われ、愛する人と離れ離れに引き裂かれてしまったのです。
 とても陰湿で、狡猾で、嫉妬深く……憎ったらしい……醜い醜い心の、魔女・カレン
 くそっ、コンニャロ! この魔女め! 魔女め! てやんでい、べらぼうめぇ!!


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・






「ちょっとアンタ、なに書いてるのよ?」

「あ、こら………勝手に取るな……」


 問い掛けと共に書きかけの原稿用紙を掻っ攫う手が伸びて、私に答える暇も与えないまま、執筆中の作品何を奪われる。
 弾みで、その者のトレードマークのツインテールが揺れていた。
 現在、故あって私が世話になっている家の娘であり……まあ、不本意ながら現在の私の肉体の姉という関係に当たる人物だ……。
 一応人間だったころの名前は、咲耶という。(←今も昔も人間です)


「なあに…………自作の絵本を……雛子くんのために、ね……」

「そう……」


 と、軽く一言、興味なさげに原稿を眺める咲耶くん。
 ……リアクションが薄い、と思った。
 いつもなら、その絶対的戦闘能力を以ってして、全力で私にツッコミを浴びせると言うのに、それが来ない。
 しかも、今回のこの原稿には、彼女の逆鱗を逆撫でした上にワサビを塗りこむくらい刺激する内容が書かれているというのにだ……。
 まあ見られるって分かってても書いたけどね


「はぁ……」


 しかし、期待……もとい予想とは裏腹に、彼女から飛び出してくるのは無気力なため息ひとつだけ。
 彼女に、今までのような覇気はなくなっていた。やはり……先日のことが相当堪えているようだ。
 既に魂の抜けもぬけの殻となってしまった、私の姉……。


    ―――ドクシャっっ


「魔女・カレン、ねぇ……」


 ……の、裏拳による痛烈な一撃をドタマに受け、衝撃に揺れる脳の裏に「ツインテール総帥、未だ健在か」などと過ぎらせていた……。
 












 

千影おねえたまの狂った日常

−そのさん  なかなおりのでゅえっと・ぜんぺん−













 

 私、千影は、絶対運命の星の下にある最愛のこいびと・雛子くんに愛を語る、ごくごく普通の女の子(嘘)
 先日、不幸にも火災に遭ってしまい、家の修理が終わるまで、別に家庭を持つ姉の咲耶くんの家へと世話になっていた。
 いや〜、まあヒナたんのこと考えて欲じょ……ゲフンっゲフンっ……気持ちが上の空になって、うっかりロウソク倒して家燃やしちゃったとか、そんな事情ではないので、あしからず。ほんとだよ?

 ……もっとも、「世話になっている」といえば聞こえはいいが、私の身柄を預かった真の目的は、
 私と運命の恋人、雛子くんとの仲を引き裂く陰謀が隠されていたのだった!
 なぜならば! 彼女の正体は、私とヒナたんの愛を切り裂くためにこの世界へと転生した、残虐非道の妖怪軍団を束ねる最高指揮官!
 その名もツインテール総帥なのだっ!!(脳内サウンドエフェクト「な、なんだってー!!」)


    (説明しよう! 「妖怪軍団」とは、自分と雛子との仲を引き裂かれるという被害妄想を受けた千影が、
     逆恨みした姉妹たちの事を、どっかの子供向け戦隊モノ特撮番組の悪役風に勝手に当てはめたものを指す!
     その逆恨みを受けた姉妹たちには、千影の脳内でそれぞれ妖怪名と勝手な設定付けが与えられるのだった!! 嗚呼、傍迷惑っ!!)










『続いてのニュースです。』

「はぁ……」


 しかし、今の彼女に、かつて妖怪軍団を統率していたカリスマの面影なくなっていた……。
 老成でもしたかのように、ただただつけっ放しのテレビをボーっと眺めては、気の抜けたため息を吐く。そんな無意味な時間と行為の繰り返し。
 かつて最高指揮官と呼ばれた者は(←千影脳内限定で)、今や「ボーっとテレビを眺めてため息を吐く人形」と化していた……。(←注:例え下手)


「はぁ……」


 そして、無為な溜め息をまたひとつ重ねる。
 彼女がこんなにも堕落してしまったのには、理由がある……。とても大きく、悲しい理由が……。
 私たちの居る空間では、静かに、テレビの音だけが鳴り響いていた……。


    プルルルル……


 と、そこに、静寂を破るように電話が鳴り響いた。
 私はこの家の住人ではないから、電話に出ないことにしている。
 というか、前に気を利かせて電話に出てやったら「アンタは我が家の評判を下げる気か!?」とかなんとか散々罵られた後、
 二度と出るなとお叱りを受け、その上で人体急所の7割を打ち貫かれるという体罰まで加えられた経緯がある。
 なので、咲耶くんが出るまで、私は黙って待つしかない。


    プルルルル……プルルルル……プルルルル……


 しかし、一向に出る気配がなかった。
 いい加減、この電子音を耳障りに感じてきて、痺れを切らして早く電話に出るよう咲耶くんへと催促した。


「…………電話………鳴っているよ……」

「え? ……あら、ほんと」

「……ほんと、じゃない………早く出たまえ……」


 気づいてなかったのか?
 よっぽど上の空だったのだろう、さすがに私も頭を抱えてしまう。
 電話の最中も似たような感じで、「はい」「はい」と頷く声だけが届く。
 だが、それ以上の言葉が発されることがないまま、受話器を置く音が聞こえ、彼女が戻ってきた。


「はぁ……」


 テレビの前に戻るなり、またまたため息をひとつ。
 さっきからことあるごとにため息の繰り返し……。
 普段は長女というだけあり、リーダシップも抜群で、勉学も運動もそれなりに抜群。
 尚且つ一応私と未来の雛子くん(予想)の次くらいには顔立ちも整ってもいる。
 私と雛子くんとの仲を認めない以外は「まー、素敵なおねーちゃんなんじゃねーの」と、
 一応一目を置いていなかった訳ではない訳でもない事はないっちゃーなくはないんだが……それが今やこの有様とは……。

 そんな彼女が、このような魂の抜け殻となってしまったことに心当たりがあった……。
 寧ろ、それ以外に理由ない、といっても過言ではない。
 彼女は……哀れ些細な誤解から最愛の者にブロークンハートしてしまったのだった。
 その相手は……私にとっても、彼女にとっても妹に当たる……可憐、という名の少女。

 普段ヒトの恋路を女同士だからとか、姉妹だからとか言って邪魔するクセに自分だって妹相手に欲情してんじゃねーか。
 しかも無理矢理お口の純潔奪ったみたいじゃねーか。
 チミはもう少し相手の気持ちを考えて動いたらどうかね? え?


 おっと、話が逸れてしまったが……つまり失恋のショックから、このようにヘタレてしまったという訳だ……。


    ぽちっ


『いくぞ! みんな!! 怪人をやっつけるんだ』


「アンタは何さり気にチャンネル変えてんのよ……」


 抜け殻だったそれは、リモコンを操作した私の行動に関し、ぼそりと文句を訴える。
 どうやら、まだ息はあるようだな。


「なに……内容なんて頭に入ってないんだろう………? それに……あまりにもくだらない内容だったものでね…………変えさせてもらったよ……」

「私から見たらこの特撮の方がくだらないわよ」

「何を言う! これはヒナたんもダイダイダーイスキな無敵に素敵な番組だぞ!」


 おっと……つい感情的になってしまった。
 今子供たちに大人気、マイラブヒナたんもダイダイダーイファンの戦隊モノの番組なのだ。
 ヒナたんが好きだと言うことはすなわち、これは全世界の「常識」と言っても過言ではない!!(←過言です)
 私は、それを全く分かっていない愚者へ問い返した。蔑み、見下すように「これを見ずして一体何を見ろというんだ……?」とね。


「ニュース」


 フッ……常識の分からんやつだな……。(←アンタだ)


「なによ、その薄ら笑いは?」

「なに……別に……。…フフ…………」


 それは、所詮君が「一般」という概念に囚われてしまう……悲しい存在ということさ……。(←「雛子」に囚われ過ぎてるある意味悲しい存在の人)


「雛子ちゃんが見るのは特に変じゃないけど、アンタが見るとこれ以上ないくらい異様な光景になるのよ」

「いけェーー!! チャンスだぞレッドーッ!!」

「しかも熱狂してのめり込んで大声で応援するな! 見てる方が恥ずかしい……」

「ニュースなんてくだらねーぜ! レッドの魂の鼓動を聴けぇぇーーーーっっ!!」


 ヘイ! ツインテール総帥! 何故に目を逸らすのKA・NA!?(←注:これは千影です)


『いくぞ、みんな! 出動だ!!』

『『『『おうっ!!』』』』


「…………」

『ギョーッギョッギョ! よく来たな!!』

『俺たちが来たからには、もうお前の好きにはさせないぜ!!』


「…………はぁ」


 画面は変われど、彼女の様子は変わらず、ぼー。時々、はぁ。
 特にチャンネルを戻そうともせず、そのまま画面を眺めていた。ええい、そんな態度じゃレッドたちに失礼じゃないかッ!!

 まあ……私としては、最高戦力を持つ邪魔者がその力を失ったとあれば、私と雛子くんの愛を阻む障害も減り、願ったり叶ったりなのだが……。
 だが、神は事をそこで終わせてくれるほど慈悲深くはなかった……。

 咲耶くんを振った可憐くん……いや、魔女・カレンは、事もあろうに我が最愛の絶対運命の恋人・雛子くんを連れ去ってしまったのだ……!
 それだけならまだしも、魔女・カレンはあの日の以来、雛子くんを頻繁に誘うようになっていたのだ。
 お陰で、私が雛子くんを遊びに誘いに行っても、既に魔女が雛子くんを誘っていて留守、という状況が連日続いている。
 あ〜、会いたい会いたいアイタイLoveアイ LoveアイLoveアイLoveアイのに〜。アエナイLoveアイ LoveアイLoveアイLoveアイ今夜も〜。
 禁断症状出るぅ〜。(←注:これで千影です)

 確かに、魔女・カレンも普段から、私たちの愛を常識という秤に掛けて邪魔することは往々にしてあったが……
 ンなのテメェらだけの問題だろ!! 私とヒナたん関係ないじゃねーか!! 巻き込むなよチクショー!!! うわぁ〜〜〜んっ!!!!
 という訳で、我が愛しの君、プリンセス・ヒナたんは今や魔女の袂に囚われの身となっているのだ。くすん。(←それでも千影です)

 フフフ……察しの良い者なら気づいたかもしれないね?
 そう、先ほどのすぺしゃるびゅーてぃーぐれいとふる童話(←ネーミングセンス超なし)は、その事実を元にした物語なのさ!!

 それを雛子くんに見せ、「あのおねーさんほんとーはとっても悪い魔女なのよ」とか、
 「ヒナたんと千影は前世からずっと一緒になるって決まってたんだモンとか「前世から再び逢うヤクソクしてたの♥♥とか、
 そーいうことを作品を通じて伝えようと思ったのだが……あいにくと原稿用紙は没収されたまま返ってこない……。
 恐らく、「魔女・カレン」がツインテールの「愛の規制」に引っかかったのだろうね……。
 やれやれ……例え振られはしても、愛は偉大、か……。


 片や失恋による苦痛にその心を切り刻み、片や愛する者を奪われる悲しみに打ち拉ぐ。
 肉体ではなく、ココロの方を傷つけ、踏み躙るあの女はまさに魔性の女……魔女そのもの……。
 フ……そんな理屈など、どうでもいいさ……。
 肝心なのは、私と雛子くんが引き裂かれてしまった、という残酷な現実だけ……。


『俺達が諦めたら……なにもかもが終わってしまう! だが、諦めない限り、希望は開ける!!』


 私がモノローグに入ってからしばらく、レッドたちの熱い熱い物語は既に後半戦へとに突入していた。
 レッドたちはピンチだった。
 今回の怪人はかなり強く、その猛攻にレッドは膝を折って地面に崩れ落ちていた……。
 だが、それでも諦めないレッド! すごいぞレッド! 負けるなレッド! それからその他の色の皆さん!!


「在り来たりね……」

「在り来たりとか言うなーッ!!」


 文句を言いながらも、咲耶くんもそれなりに視聴中。
 本人は他にやる事もないし、ここを動くのも億劫だといっているが……
 フッ……レッドの勇姿に惚れているに違いない……!


「違います。あとアンタ、時たま心の声を口に出すクセ、なんとかした方が良いわよ」


 たったこれだけの時間で、反対派までをも魅了させるその熱い姿!
 そのきぐるみパワードスーツと同じ色で燃え滾る、熱い闘志の炎!
 フフッ……さすがヒナたんが憧れるだけある……!!


「話し聞け」


 雄々しき強さ! 胸に輝く正義の心! ヒナたんの心さえも容易に捕らえてしまうのも無理はない!!
 そう……この私を、差し置いて……。
 運命に導かれた、恋人の……私を……差し、置いて……。


「ねぇ、千影、こんなの見て面白―――」


    どよ〜ん……


「って千影ッ!?!」


 憎い……私からヒナたんを奪ったこいつが憎いっ……!(ぇー)


「ほらほら、ほら、あんたの好きなレッドがピンチで落ち込んでるかもしれないけど、そういう時こそ応援しなくていいの?」

「行けぇぇぇッッ!! そこだ怪人ッッ!! レッドをやっつけろォォォーーー!」

「はい?」


 そうだ、貴様などヒナたんを誘惑する悪魔だ! 私としたことがなぜ今まで気づかなかったのだ!? くっ……!!
 何がなんだかサッパリワカランチンどもトッチメチンな表情(?)をする咲耶くん。
 だが、失恋ツインテールなんぞに構ってる暇などない! 最大にて最強のライバルが判明したのだからな!!
 私は、ひとり取り残される咲耶くんなど放って、怪人へ激励の言葉を送った。
 応援だけで足りないと言うのなら……怪人、貴様に私の魔力を分け与えてやろう!
 ……だからなんとしてでも、レッドを仕留めるんだっ……!


お〜ん、お〜ん、お〜ん、お〜ん…

「ちょっと、いきなり謎な言語発しないでよ。意味わかんない」












 ・

 ・

 ・

 ・

 ・






 ―――その頃、遠く離れた某特撮スタジオでは……。




「ハウッ!?」

「どーしました、沢村さん?」

「い、いや……なにか悪寒が……」

「過労ですか? 気をつけてくださいよ? もう歳なんですから」

「なにを! 私だってまだまだ若いモンに負けませんよ!!」

「はははっ、そのくらい元気なら平気ですね。今日も俺のレッドは、手加減しませんよー」

「望むところですとも! 今週の怪人も手強いですよ〜」

「「はっはっはっはっ……」」




 ・

 ・

 ・

 ・

 ・












『うわぁぁぁああっっ……!!』

「よっしゃぁっ!!」


 私の応援が伝わったか、テレビの中で怪人は主人公たちに対し優勢に立っていた。
 フフ……私のラブが通じたのねっ♥♥(←注:マジに千影です)
 でも勘違いしちゃぁイケナイなぁ、私の愛はヒナたんのモ・ノ。
 君に与えるのは愛は愛でも、「Love」ではなく「Lake」の方さ……。(← 正:Lke=好き、好意  誤:Lke=池)

 そして怪人は、レッドたちへトドメの一撃を喰らわそうと、必殺の技の前フリポーズを構えた。
 ああ、あれこそは怪人さま必勝の構え……えーっと、初めて見るから技名分かんないけど、「必殺技前フリ」のお姿……。
 怪人さま、殺ってくださいまし。憎い、憎い憎いレッドを!


「いっけぇぇぇぇッッ!! 私の心も託したその一撃で!! レッドたちを葬り去るんだーーー!!」

『ミラージュ・オブ・ファイアー!!』

『ぐガぁぁァアあああああッッ?!』


「な、か、かいじーーーんっっ」


 しかし、主人公たちのピンチに、なんと突然の乱入者が……。
 必殺の構えを取る怪人に、全身に青い炎を纏った何者かの突撃攻撃が炸裂。
 怪人は、まるで木の葉のように、軽々と吹き飛ばされてしまった……。


「くぅっ……! 命拾いしやがったかっ…………忌々しいレッドめぇっ……!」

「アンタほんとにどうしたのよ……?」


 やはり……自らレッドを葬り去るしかないのかっ……!?(ぇぇー)


『お、お前はっ……!?』


 画面の中で驚くレッド、それと他の色のみなさん。
 それもそのはずだろう……私も、この技には見覚えがあった。主人公たちのライバルの技だ!
 戦隊モノにはたまに居るような気がする、味方なんだかそうじゃないんだか分からない微妙な位置付けの6人目の戦士。
 今回のシリーズでは、主人公たちとはまた別の組織の一員という設定だ。
 主人公たちとは共通の敵を持つものの、対立した第3の勢力にいる戦士で、
 ひとりで主人公たち5人と匹敵する力を持ち、時には主人公たちの前に立ち塞がることさえあった。
 そんな対立する6人目の戦士が……今、ライバルを救った……。


「うおおぉぉぉぉぉんっっ! 熱いじゃねーかチクショー!! レッドは憎いが、この展開はグッと来るぞ、うおおおぉぉぉぉぉんんっっ!」(←注:千影なんです)

「私はアンタの存在に泣きたくなってきたわ……」


 私は涙し、咲耶くんはなぜだか頭を抱えて、テレビの中でレッドたちがライバルの行動に戸惑っている。
 この意外な超展開に、三者三様の反応を示していた。
 当然、「一体どういうつもりだ?」と口にするレッドたちに背を向けたまま、ライバルは口を開いた。


『フ……勘違いするな。今回はお互いの利害が一致するだけだ。手を貸すのはアイツを倒すまでの間だけだ!』


 クゥーッ!! レッドのヤツがしぶとく生き延びて悔しいが、やっぱ感動するじゃないかー、うるうるー。(←注:信じてもらえないかもしれないけど千影)


「……ふむ」


 そんなレッドとライバルの熱い展開にとろけそうになりながらも、同時に、顎に手を当てながら頭の冷静な部分で思考する。
 一連の流れを見て、なにか重要なヒントの気配を感じた。
 その直感を無視することなく、ちかちゃんブレインをフルに稼動させる。もちろん眼はレッドとライバルたちの超展開を一瞬たりとも見逃さないよう凝視。
 そして、ロマンシングでアイスランド語で「物語」の意味よろしく、頭に電球が飛び出しピコーンッ☆


「咲耶くん…………」

「……なによ」

「これを見て…………思うことはないかい…………?」

「私はアンタみたいに頭のネジがぶっ飛んでいないからね」

「そういうことじゃない………。……似ていると…思わないかい…………? ……私達に」

「私はマスクつけてド派手な格好して青い炎を纏って突撃なんて芸当、アンタはやっても私はしないわよ」

「ちゃうわい」


 画面の向こう側では、主人公たちと相対するライバルが共に、共通の敵と戦いを繰り広げている……。
 利害が一致するからと一時休戦を持ちかけ、対立する2勢力が互いを助けてさえいる。
 そう、似ている……。


「…君と私は敵同士……。…しかし……私達の求める相手もくてきは別々でも、求める結末は同じ……」


 私は雛子くんが魔女・カレンから離れることを望んでいる。
 咲耶くんは、可憐くんを我が物としたがっている。
 もし咲耶くんと、あの憎い憎い魔女がくっつけば、魔女は新たな恋に目が行き、プリンセスを手放す事となるだろう。
 結果、私達は同じ結末を求めている事となる。
 このレッドたちとライバルのようにっ!!


「……違うかい?」

「べ、別に私は……」


 口では否定しようとするも、次の言葉を紡げず顔を歪めてしまう咲耶くん。
 フフフ……一体何に見栄を張っているのか、結局は図星なんだろう? 


「ぶっちゃけ…………私はヒナたんさえ戻ればいい

「ぶっちゃけ過ぎ」

「しかし……目的は違えど、利害は一致…………。なら……ここは一旦協力して…………私とヒナたんの仲を取り持て!!

「もう少しオブラートに包め!」


 何を言う、人間素直が一番だろ!(←素直と傲慢は違います)


「まあ……確かに一利、あるわね……」


 渋々と、いかにも不服そうに口にする咲耶くん。
 いつも反対ばかりしていた相手の意見を認めるのが、どうにも癪なようだ。
 しかし、彼女のその心の天秤がどう傾いているのか、私には既に手に取るように分かっていた。
 フフ……もう一押しかな……。


「いや……いいんだ………。その気がないなら…………無理強いは……―――」

「あーあーあー、分かった! 分かりました! はいはい、分かりましたよっ!」


 カマを掛けてみると……フフフ……思った通り制止の声を投げかけた。やはりね……人は、愛には逆らえないのだから……。
 背に腹は変えられないという態度を言い訳にするように、「ったく……」なんて愚痴を溢していた。


「協力すりゃあいいんでしょっ! さっきのテレビのヒーローみたいに! ……えっと、名前なんだっけ?」

「名前なんでどうでも良いんだよ、戦力よこせ」

「それ本当にファンの発言っ!?」


 ウルセー! レッドは敵だ! ライバルだーーーッ!!(←注:千影って、信じなくてもいい、ただ知っておいてもらいたいんです)


「とにかく、だ……。話は成立………共同戦線と行こうじゃないか……」


 強大な敵であるほど、味方に回った時は心強い。レッドたちも、きっとこんな気分だったのだろう……。
 仏頂面の咲耶くんへ、休戦の証に、右手を差し出し握手を求める。
 かなり不服そうだった咲耶くんも、表情を穏やかなもの変え、同意するように私の手を握り返してくれた。


「ええ、アンタは雛子ちゃんを……!」

「そして…………私がヒナたんを……!」

「私の利得はどこ行った!?」


 図太い男の声で叱りつけて、握った右手を圧壊せんばかりに、力が込められ痛い痛い痛いっっ?!?


「はぁ………分かったよ…………。さくやくんはかれんくんを

「そこまであからさまに棒読みされるとあんたの気持ちが痛いほど分かってブッ飛ばしたくなるわ」(←笑顔)


 笑顔に似つかわしくない台詞と共に、私の手を握り潰さんとしていたその手を頭に移動させ痛い痛い痛い痛いっ!?!? 頭潰れる握り潰されるぅぅっっ!?!?


「いいわ、そこまで言うなら、今回ばかりはアンタに協力してあげる! この際雛子ちゃんは私と可憐ちゃんの愛の礎になって貰うわ!!」

「そうか……」


 さっきまで渋っていた態度が嘘のように、握り拳まで握ってノリノリのご様子の咲耶くん。
 そしてそれを眺める、危うく耳から脳がこぼれ落ちるすんでの所で(比喩抜き)開放された私。
 普段、雛子くんの将来のためと大義名分を掲げ、私と雛子くんの既に絶対的な運命が決定付けられた愛の絆を邪魔するクセに、自分のこととなるとすぐこれだ……。
 まったく……愛に逆らえないのが人のさがとはいえ、少しはそのゲンキンさを恥じたらどうだい?(←間違いなく人のことは言えない立場)


「ま…………これで私と雛子くんの愛を取り戻す算段は整った……!」

「そうね、雛子ちゃんごときの犠牲で私の可憐ちゃんが戻ってくるなら安すぎるくらいよ!」

「ごときとはなんだこのフラれ色魔!! 手前ェだってあの魔女をよーく調教しとけボケ!!」

「魔女とは何よ! ロリ○ンネ○ラ女の分際で私の可憐の事をとやかく言わないで!!」


「アイツは私からヒナたんを奪っていった魔女だ!! これでも言い足りないくらいだ!!」

ンだとコルァ!? 私から見りゃ、幼さを利用して私の可憐を独占しているあンのクソ餓鬼の方が、悪魔に見えるわよ!」

「可憐くんのことはどうとでも言ってくれて構わんがヒナたんのことをバカにすると私が許さないぞ!!」

パーフェクトプリティーな可憐ちゃんのことをどうこう言うわけないでしょ!!
 なによあんな幼児体型のどこが良いのよ!!」

「ヒナたんのしなやかな肢体の素晴らしさを分からんとは、
 貴様も不幸な人種だなツインテール総帥!!
 魔女に誑かされた哀れなピーーーッ!!っ!!」

「黙れ!! このピーーーーーーーッ!!」

「なんだとこの―――」

「なによこの―――」














 ・

 ・

 ・

 ・

 ・





「ハァ……ハァ……」

「ゼー……ゼー……」


 十数分後、つまらない言い争いで無駄に体力を使い果たした私達は、互いの息が切れる頃にやっと、その無益さに気づいた。


「ここで……言い争っても………ハァ………しょうが……ないわね………ハァ……」

「ああ……ゼー…………もっとも、だ……ゼー……」


 これから大切な使命が待ち構えているというのに、前に力を使い果たすなんて馬鹿げている……。
 共に、少し時間をかけて呼吸を整える。
 一足先に息を整え終えた咲耶くんは、ビシリ指を突きつけ言い放ってきた。


「でも私は、私の目的のため……つまり可憐ちゃんと仲直りするために行動するだけ。アンタと雛子ちゃんの仲は取り持ったりしないわよ!」


 ってかもう息乱れてねぇよ!? 回復早ぇッ!?


「フ………それで十分さ……。彼女さえ雛子くんから離れてくれれば…………あとはあるがままに戻るはずさ……。
 だって私の、私の魅力、私のリリカル愛天使ぱぅあーモン♥♥

「……まあ、私は自意識過剰が勝手に自滅しても構わないけどね……」


 咲耶くんが微妙な表情で何か呟いているが別にどーでも良かったんで放っとくことにするー。


「思い立ったが吉日よ! 行くわよ千影!」

「ほいきた!」


 こうして、愛に燃ゆるふたつの心は……決して交わることのなかった二対の炎は今、新たな業火となって燃え上がった。
 この愛力あいぢからで、決戦への狼煙を上げて、いざ愛する人の下へ歩まん!
 そう、己が愛の為に闊歩するその足は、目的を果たすまで止まることを知らないだろう!!


「あ、テレビ、消して来て」


 その足は止まることを学習しました。ぎゃふーん。


「おいおい………もう少し空気を読みたまえよ……ぎゃふーん」

「ぎゃふーん、ってなによ? ……ま、いーから消してきなさい」


 と、姉の指差す先で、見る者の居ない状況で次回予告が流れるテレビが光っていた。


「…………なんで私が……?」


 当然不満をアピール。


「居候の分際で偉そうな口を利くな」


 上下関係をアピール。


「下僕の分際で偉そうな……へブはぁっ!!


 事実をアピール……し切る前に、咲耶くんの左ストレートが人中(鼻と上唇の間の中央にある人体急所のひとつ)に炸裂。
 姉がその声を男のそれに変えて「誰が下僕だ!?」と怒声を響かせる。


「さっきの番組アンタが見てたんでしょ? だからアンタが消すのが筋ってもんでしょ?」

「キミだって見てたクセに………。はぁ………分かったよ……」


 私は、不服さ全開でテレビに向けて手を差し伸ばし……


    ちゅどーん


 かざした手のひらから光弾を発射。
 テレビは見事光の餌食、粉微塵になって―――


    すパパパパァァんッッ


ゲぶはァっっ!!


 咲耶くんの、8箇所の間接の同時加速により可能となる音速拳が、私の背中を貫いた。


「なんて事するのよっ!!」

「君の言った通り……テレビを消しただけだろう…………?」

「私はテレビの電源を消せっつったの!! テレビの存在を消滅してどうすんのよ!!」

のぉおおーっ!! 痛いぃ、いぃたいぃっ! 頭ぁあああ、あぉたま痛いぃ、潰れるのぉおお!?!?

「このまま握り潰してやろうか? このネ○ラハゲ!!」

「わ、私はハゲてなど……ぐぎゃぁぁぁぁぁあああっ!!

「今を言おうとしたのかしら? あぁ〜ん?」

「ぎ、ギブ……ギブっ……!!」

「えー? きーこーえーなー……」


    ―――ぐしゃっ


「…………あ゛」












「あー……。…頭…………まだ痛い……」

「悪かったわよ、やり過ぎたわよ……」


 私の愚痴に、前を歩く咲耶くんは首だけ振り向かせて、申し訳なさそうな顔をこちらに向けていた。
 普段、私とヒナたんの仲を引き裂く悪行に非を認めない彼女には珍しく反省のご様子。
 私の頭蓋をブロークンしたことに多少の罪悪感は感じているようではあった。
 え? 頭蓋骨粉砕骨折はやり過ぎ? そこまでいくと回復できるのはさすがにおかしい?
 HAーHAーHAー! よく日常会話でノリで過剰に表現しちゃうアレだよア・レ。ジョークに決まってるじゃないKAー!(←注:お察しの通り千影です)


頭皮の上から、おみそが握り潰れる感触が……。
 あああああああああ……
むにゅっ、って……。にゅるっ、って……。
 液体が……あか、
あかいえきたいがぁぁぁ、ああああああ……


 クフフぅっ……それがホントの話かどうかは、お星様たちだけのヒ・ミ・ツ(ぇー)


「ごめん、なんかアンタ見てたら突然吐き気が。さっき握り潰したことって言うよりアンタの脳内から発生する汚電波にやられた感じ」

「チミは私が何か考えただけで吐き気を覚えるのか?」


 とまあ、先ほど家を出た時から終始こんな調子である。
 ここまでの道のりで、私たちが決して相容れない関係ということをより明確に実感してしまった。
 まるで、水と油。光と影。塩と砂糖。薔薇と百合。セーラー服と機関銃。ソウ○ゲインと大○鳳。運命デスティニー打撃自由ストライクフリーダム。桜○高校ホスト部とWジュ○エット。

 ……だが、こんなんでも今は相棒。そして同時に強力な切り札ジョーカーなのだ。
 多少性格に問題があっても、利用するだけ利用してゴミ箱ポイポイのポイよっv(←CHI・KA・GEだぜっ!)


「さて……と……」


 朝のヒーロータイムから抜け出して、随分と時が流れたように感じる……。いや、までそれほどでもないのか?
 懐中時計を取り出し、現時刻を確認する。時計の短針は、10の数字を指し示していた。


「しまった……おやつの時間だ」

「アンタ一体いくつよ?」

「この時間帯、いつもはヒナたんと一緒に、プリンとかババロアとかアジのひらきとか食べるのが楽しみだったのにー!

「アジのひらきってメインディッシュじゃないの!?」


 こんな感じにおねえちゃんとのたのしいおはなしを行いながら足を進めて、既に1、2時間が経過したのか。
 絶対そんなに時間掛けずに着けたのに、ここまで時間が掛かったのは咲耶くんのせいー。(←なんでも人のせいにするのはやめましょう)
 しかし……凸凹調子な我々も、ともあれ、互いの想い人が居る目的の場へと到着したのだった。


「……着いたわね」

「……ああ……」


 長い、長い旅路だった……。1、2時間だけど。
 ここまで来るのに、本当に色々あった……。1、2時間だけど。
 目を瞑れば思い出す……。

 途中に通り掛かった公園で、ツインテールでタヌキみたいな印象を受ける女子高生が、ショートカットの大学生らしき私服の女性がセクハラまがいの行為を受けてたり、
 それを、腰ぐらいまでロングヘアでとても整った顔立ちをした、絡まれている娘の上級生らしき人物が、ヒステリカルを起こしてたりしてる珍しい情景に遭遇した。
 上級生が、元ギガンティアだかギガンテスだかよく聞き取れなかったけど、私服の女性をそう言ってヒステリカルに罵って(?)たり。
 大学生は、お返しのようにキネンシスだかサイコキネシスだかよく聞き取れなかったけど、だからもっと精神的に余裕を持てとカラカラ笑いながら説教したり。
 まるで三角関係の痴話喧嘩の様子を、私はヒナたん一直線だったんで放っておいた。

 あと、ごく普通の一軒家から妖しい魔力の気配を感じたので、ちょっと透視能力使って中の様子を覗き見してみたら、
 赤い服を着たツインテールのフランス人形が、さも人間のように動き、更には紅茶を嗜んでは、メガネの少年を召し使いの様に扱ってたり、
 他にも同じような人形たちが複数の家の中で動いて騒いでいたり、
 でも鴉のような羽を生やした黒い人形は屋根の上から中の様子を探って、どのタイミングで中に介入するかタイミングを計ってたりと、
 なんだか呪いの人形共に取り付かれたらしい哀れな少年の姿を見つけた。私には別に無関係だったので呪いを放っておいた。
 気のせいか、呪いの人形たちの中に居た緑色の服を着たオッドアイでロングヘアーの人形からは可憐くんと同じ気配を感じたが……。

 それから、どっかの女子高からエトワール様が抜け出しただのなんだの騒ぎがあって……
 ああ、蘇る記憶のどれもこれもが……全然カンケーネーや。

 まあ、とにもかくにも、私達はやっと辿り着くことができたんだ。
 この―――


「魔女の住家に!!」「プリンセスのお城に!!」
 

 

 

 

ちゅーへんにつづくよ。


更新履歴

H19・8/7:前編完成・掲載


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