「突然だが…………私は魔界の住人なんだ」

「…………」


 またこのばか姉はトンでもないことを口にした。












 

アネキのいろいろな告白














 このアタシ、鈴凛のクールなばか姉、千影ちゃん。
 突然うちにやって来て、重要な話があるとアタシに告げた。
 えらく深刻な顔して来たものだから、玄関で話を終わらせるのも良くないと察して、
 家に上げて、アタシの部屋にお招きして、礼儀程度にお茶菓子出して、ちっちゃいテーブルで向かい合って座って……。
 で、現在に至る、と。


「本当の突然ね……」

「おや………? さほど、驚いていないよう……だね……」

「そりゃ、慣れてますから」


 冷めた態度で軽く返した。
 この人がトンでもないこと言ったりしたりってのは日常茶飯事。だって魔法使えるし。
 魔法にも制限や限界、叶わない事だってあるのさ、って言ってたから、どの程度かまでは知らないけど。
 でも使えるし……。
 科学の申し子鈴凛ちゃんに対して、この非科学的現象は挑戦状としか思えない。
 まあ、それはそれで面白いから良いけど。
 アタシも研究対象として楽しませていただいています。

 ……とまあ、話が逸れちゃったけど、そんな前提が既に既成事実にあるのだから、
 今更「実は魔界の住人でした」なんて言われても、「いつものこと」で収まってしまうのでした。
 むしろ公式設定のひとつにありそう。公式設定ってなによ?


「で、なんでそんなことアタシに言うのよ?」

「……それは…私にとってキミが……特別だからさ…………」


 普段からは信じられない、真剣な顔つきで口にする。
 元々整った顔立ちをしているけど、それを更にきりっと引き締めて、
 深い瞳で見据えられながらそんなこと言われると、同じ女でもドキッとしてしまう……。
 ……おせんべい片手に言われてもちょっとパッとしないけど。
 真剣な話と察しながらおせんべい出すアタシもアタシもだけど……。


「…………」

「う……」

「…………」

「……うぅ〜……」


 返答を待っているのか、無言でジッと真顔で見つめてくる千影ちゃん。
 その重圧に言い淀んで、言葉を待たれる沈黙に耐え切れず……おせんべいを一口噛んだ。
 パリッ、おせんべいの割れる良い音が静寂の中で響く。
 ムードを壊すようで悪い気がしないでもないけど、お陰で多少気は紛れた……。

 特別……という言葉に、覚えがないわけじゃない。
 千影ちゃんが何かとアタシにアプローチしてくるのは、これまでも良くあった。
 隠す気もないのだろう、よくアタシに色目使って、まるで恋人でも口説くように言い寄ってくる。
 どういう意図なのかは定かじゃないけど……。

 まあ、それだけなら、ただの無節操スケコマシで終わるんだけど……。(そう終るのもどうかと思うけど)
 問題は……なんかキャラが崩れているというとこ。
 いつもはこの外見のクール&ビューティーな凛々しい顔を、山崩れが如く崩れ去ってきゃぴきゃぴしてくる。
 今回は真面目な話みたいなので、まだそんな一面は表に出してはいないけれど、
 出てきたら出てきたで、そりゃもうあまりのギャップに初めて見る人はショックでフリーズすること間違いなし。
 それがばか姉たる所以だけど……。
 そんなだから、今回の発言だって冗談にしか思えないし……それに……


「大体、千影ちゃんは……」

「………うん?」

「春歌ちゃんが……好きなんでしょ……?」


 アタシも特別だけど……春歌ちゃんも特別。
 千影ちゃんをいつも見てたから、その想いに気づいちゃってる……。
 他の子たちとも、アタシとも違う……その憧れを含んだ眼差しに……。
 ……って、ちっ、違うのよ! 別にアタシが千影ちゃんのことを気にしてるわけじゃなくて!!
 いっつもばかやってくるから、心配で……気になっちゃって……。イヤでも目に入ってきて……。
 あーっ! もうっ! だからアタシが千影ちゃんのことをどうこうとかはないのっ!


「……ああ……そうだよ」


 人をナンパ(?)しておいて、いつもどおり静かな口調で、それでもきっぱりはっきり肯定。
 そのまま、聞いてもいないのに勝手に独白スタート。


「私は純粋に美しいもの……高貴なものが好きでね………。
 …彼女の、人としての完成度………魂の美しさ………どれをとっても…………最高級……」

「…………」


 ……なんか。
 言ってることは分かる。
 春歌ちゃんは(一部を除いて)完璧だし、そんなところに魅かれるっていうのも、納得いくけど……。


「それは至高の輝きを持った芸術品……………純粋に魅かれるよ……」


 嬉しそうに春歌ちゃんのことを語る千影ちゃんを見てると……なんか、いい気しない。


「そうは思わないか………、…おや……?」


 と、突然、アタシの顔をなめ回すように眺めて、なぜかニヤニヤし出す千影ちゃん。
 (注:実際になめ回されてるわけじゃないけど、現実にやりかねんので「違う」とハッキリ明記しておく!)
 表情の変化は少ないけど、だからこそ、わずかな変化が物凄く浮き彫りに見えた。
 そして、なんか嬉しそうに綻ばせた口から、こんなことを言い出す。


「フフ…………嫉妬したかい……?」

「ばっ……!?」


 し、嫉妬……アタシが……千影ちゃんのことでっ?!


「ばかっ! そんなワケないでしょ、ばかぁっ!!」


 動揺してたせいで、ひとつのセリフ内に同じ単語を2回も言ってしまった。
 なんでアタシが千影ちゃんのことで……この千影ちゃんなんかのことで……。
 あ〜、もうっ! なんで熱くなるのよ、アタシの顔〜っ!!


「安心したまえ…………」


 目に見えてうろたえるアタシの手を、そっと、まるで王子様のように手に取って。


「私は………キミにも…とても好意を抱いているから…………ね…」


 ズガーンッ。対戦車ロケットランチャーでもぶっ放されたみたいな衝撃がアタシの心臓を直撃。
 こんな綺麗な顔で迫ってきて、こんなストレートに気持ちをぶつけてくるなんて、卑怯よ。
 そんな口説き方されたら、千影ちゃんに対する好意の有無に関わらずドキドキしちゃうじゃない……。
 「安心」=「心が安らかに落ち着いていること」。
 「安心」させる気なんてサラサラねぇよこのアネキ……。
 並の女の子なら、間違いなくハートを打ち貫かれてる……。
 ……って、女の子のハート打ち貫いてどうするのよ、おねーさま。


「キミは……私とは真逆の人間さ…………。だから…だろうね……キミに、憧れる……」


 こういう恥ずかしいセリフを臆面もなく言ってのけるところは、千影ちゃんの専売特許なんだと思う……。
 いつも自分に正直で、周りに人が居ようが居まいが無関係に、ただ純粋に求めてくる。
 あまつさえこの綺麗に整った顔。こんなの……ドキドキするなっていう方が無理……。


「あ、アタシはそんな……春歌ちゃんみたいに完璧じゃないよ……。メカ以外のことサッパリだし……。スボラだし……」


 ザッと自分の部屋を見渡して、表情をほんのちょっぴり沈ませた……。
 積もった脱ぎっぱなしの服に、端の寄せただけのガラクタの山、乱雑に散らばったうつ伏せの参考書。
 それらの下にあるスーパーの袋、本屋の紙袋……。
 なにがあるか分かったもんじゃない、ホコリまみれのベッドの下。
 目に入る景色は惨憺たるもの……お茶請けの置いてあるテーブルにだって、ところどころホコリや汚れがこびり付いてる。
 持ち主の性格が分かるくらい散らかった部屋は、彼女が憧れる春歌ちゃんとはかけ離れた、整理整頓知らずの部屋。
 これでまだ綺麗な方って言うんだから、頭が痛くなる……。


「キミの魅力と……彼女の魅力は別物…………異なる範疇でのことさ……。……むしろ同じ土俵で勝負する方が間違っているだろう……?」

「うん、それフォローじゃないよね」

「得意の機械仕掛けで………皆に……笑顔を分け与えられる………力…。
 …壁が立ちはだかろうとも……立ち向かっていく………果敢さ……」


 ―――科学と魔術。決して交わることないふたつの分野。


「折れることないの意志力………周りまでも明るくする、前向きさ…………。
 ……まるで………強く光り輝く太陽のよう……。…私には……眩し過ぎる……」



 ―――けれど、お互いがお互いを持たないからこそ、不足する部分を補いたがる……。


「これを美しいと思わずに………なにが美しいものか…………?」


 ―――求め合う……。


「……そんなキミが…………たまらなく愛おしいよ……」


 アタシに向けて、やっぱり臆面もなく口にする言葉は……まるでプロポーズさながら……。
 さっきまで、別の誰かさんを自分のことのように自慢しておいて、いけしゃあしゃあと……。
 でもまあ……ベタ褒めされるのは……悪い気はしない……かな……?


「ま、まあ……千影ちゃんがアタシのことをどう尊敬しているか良く分かった、わよ……」

「"愛している"と訂正してくれ!!」

「いや」


 2文字で断ったらいじけてしまった。


「はいはい、いじけないいじけない。話のテンポ狂うから」


 そんな風な態度だから、「まるで」から「ハッキリ」なプロポーズを口にしたって、漫才としか受け取れないっていうの……分かってんのかしら……?
 結局……アタシに対して、春歌ちゃんに対して、その気持ちはどこまでが本気なのか……本当はどうなのか……全く見えないまま……。
 心の中までフィルター越しのミステリアス……。


「で……それと千影ちゃん驚きの出生の秘密と、どう関係があるのよ?」


 まあ、長々と話が逸れてしまったけれど、ここで話を本題に戻してみることに。
 このままこの話題を続けられると、アタシの方こそどうにかなってしまいそうだったから、とにかく話題を変えたかった。


「…………うん?」

「"……うん?" じゃなくて、魔界の住人だってこと」

「……………………」

「……………………」

「………………………………」

「……? 千影ちゃん?」

「…………、……ああ。…そういえば……その話だったね…………」

「忘れてたんかいっ!?」


 あっけらかんと口にする千影ちゃんへ、絶妙のタイミングでツッコミを返してしまった。
 真剣な顔してやってきたから、何事かと思ってたってのに……。


「大したことないなら帰ってもらうわよ……」

「いやいやいやいや…………言うから……。……今言うから…………。だからちかを見捨てないで、ね……ね……」


 子犬のような目で、きゅぅ〜んとおねだり。ちなみに花穂ちゃんのモノマネは壮絶なまでに似ていない。
 だからそういう態度が冗談としか取れないというのが……あー、もう良いや、とりあえず話聞こう。進まない。


「はいはい、聞いたげるから、早く話しなさいな」


 アタシが呆れ気味にそういうと、千影ちゃんは「ゴホンっ……」と咳払いをひとつ。
 いつもアタシに向けるおばかな顔は、来た時と同じように真面目なそれに作り直す。
 アタシも、その真剣な態度にあてられてか、思わず姿勢を正して言葉を待った。


「いいかい……」


 千影ちゃんは、鋭く、心の中にまでも見通してしまいそうな眼差しで、アタシの目を見つめる。
 そこにはもう、さっきまでの呆れ果てた空気なんて、もうどこにもなくて、重苦しい重圧が場を支配してて……。
 ごくり、つばを飲み込んだ。
 そして、千影ちゃんの口から、言葉が紡がれた……。


「魔界は…………一夫多妻制なんだ」

「…………は?」

「ということで………春歌くんと3人で、仲良く幸せな家庭を築いていこう

「はいぃぃぃぃぃいいいいいぃぃぃぃぃっっっ!?!!?!?」


 どっかーん。
 アタシの中の何かが、ド派手な音を立てて思いっきり倒壊した。
 素っ頓狂な発言に、同レベルの素っ頓狂な大声で叫んでしまう。
 なにを真剣な顔で言ってくれるかと思ったら……ああ、やっぱりいつもの千影ちゃんだった……。
 期待したアタシがばかだった……。


「『はい』!? 『はい』っつったね!! つまりOKです、私をお嫁さんにしてください、だね?
 やったぁ!! ちかちゃんプロポーズ大・成・功 きゃはっ♥♥

「違う違う! そういう意味じゃない!! 肯定の意じゃなくて、驚きリアクションでついつい口にしちゃう方の!!
 ええいっ、あとそのナリできゃぴきゃぴするな、キモイっ!!」


 ああ……いつものばか姉モードが来てしまった……。
 今まで真面目な話で、威厳を保っていたけど、とうとう「知的でクールな千影ちゃん」の仮面が、全部剥がれ落ちてしまった。
 剥がれたっていうか粉砕した。
 粉砕どころじゃないよ、塵も残されてないや。闇の炎に抱かれて消えちゃったよ。


「いやー………キミも春歌くんもどちらも捨て難くてね…………でも私の場合……国籍(?)上、ふたりとも選んでも良いのサ!」

「いやいやっ! 冷静に考えてよ、前提から間違ってるから! 一夫多妻って、その前に女同士だから"一夫"が居ないって!
 あと一応姉妹だから、その辺の慎みを持ってはいかがですか!?」

「知るかっ!!」

「えー」


 こうして……結局いつも通りになってしまった、アタシと千影ちゃん。


「大体アタシ、春歌ちゃんにあんまいい目で見られてないし、ガミガミうるさく言われるし、絶対そり合わないって!」

「大丈夫さ! 痛いのも度を越すと快感に変わるから!!」

「それは千影ちゃんだけー!!」

「そんなことはない、君にだって素質はある!」

「せめて自分のM説を否定しろー!!」


 いつも通りのおばかな一面を全開にする彼女に、いつも通り振り回されるアタシ。
 結局、本当に魔界の住人なのかどうかも曖昧なまま……。
 ばか姉の運んできてくれたあほな日常が過ぎ去っていく。


「そうだ、ヒナたんもっ! ヒナたんとも一緒に暮らそうっ!! わっほほ〜いっ 幸せカルテットだぁ〜♥♥

「アンタそんなとこまで狙ってたのか!?」

「いよっし とりあえず、これから春歌くんにも同じことを言いにいくんだ!
 君も来てくれ…………未来のパートナーとして……いや、カルテットの一員として!!」

「いい加減止まれこのバカゲちゃんがぁぁぁーーーーっっ!!」


 きっとアタシは、この先もずっと、このばか姉に振り回されていくと思う……。


















あとがき

千影と鈴凛によるおばか話!
なりゅーの書く千影での基本設定みたいな感じに描けたと思います。
これで千影は誰に走っても辻褄が合います!(爆

今回、短くまとめる形で書いたので、どこまでの設定を前提として置くか、その辺で頭を悩ましました……。
書き過ぎるとクドくてテンポ悪くなるし、書かないと読み手を置いていくし……。
普段、複数の妹×妹カプを描くために、パラレル設定でSSを書きまくっていると、その辺で苦労します(苦笑

あと、心なしか鈴凛がツンデレ系になってしまった(笑
しかし、これはこれで鈴凛の鈴凛らしい一面で、メインで扱っている鞠絵相手じゃ書けない面ですので、
そこは「千影が相手だからこそ出来る個性」と考えます。

ああ、それにしても……これ絶対ちかりん派の人に怒られそうな……。
気ヅイタラコンナ作品ニ……気ヅイタラコンナ作品ニ……気ヅイタラコンナ作品ニ……(大汗


更新履歴

H19・2/22:完成


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