がたがた、わいわい。
 朝から色々な喧騒が鳴り響く、アタシの家。
 でもこれは序の口。だって今日は、これからもっと人がやってくるから。
 他でもない、このアタシを祝いに! ……なんちゃって。












 

Hearts of cordless













 今日はアタシの誕生日。
 いつもは、12人姉妹全員分毎月ペースで祝っては予算も予定も大変だけれど、
 今日が休日と重なってくれたこともあり、パーティーの計画がみんなの中で進行したのである。
 誕生日がお休みなんて、祝日がバースデーの白雪ちゃんとは違って滅多に機会がないことで、
 お祭りイベント大好きな12人姉妹としては良い口実だったらしい。
 今は会場となる居間の整理を、先に家にやってきてくれた数名で行っていた。
 一応アタシも参加。
 主役だから休んでくれとは言われたけれど、家の勝手はアタシが一番よく知っているので。
 それに貰いっぱなしは性に合わないし。
 食材、飾りつけの飾り、その他備品、などなど……材料はそろった。
 あとはパーティーの会場を整えるだけ。


「鞠絵ちゃん。今日は来れるんですよね?」

「うん。そういう話になっている」


 準備の最中の何気ない雑談。
 飾り付け担当の可憐ちゃんから、そんな問いかけが投げかけられる。
 鞠絵ちゃんは遠くの療養所に入院している。
 そのため、いつもこうしたみんなで行うイベントへの参加が危ぶまれる彼女ではあるけれど、
 今回はきっとお医者様からは許可がもらえそうとの話だそうだ。
 だから今日、特別にパーティーを行うコトとなったのだ。
 しょっちゅうパーティーを行えない理由のひとつとして、彼女の身を気遣ってのこともあったから……。


「うふふっ……良かったですね。
 鈴凛ちゃんのときに、こんなに条件が揃ってくれるなんて、
 やっぱり鈴凛ちゃんと鞠絵ちゃんは、運命の赤い糸で結ばれているんです、ね


 そんなイキナリ発言にブッ、と吹いて、ぼっ、と真っ赤に染まるアタシ。


「も、もうっ! なに言うのよ、可憐ちゃんは!」


 とりあえず言い返しては見るものの、そんなのは照れ隠しでして……正直、満更でもなかったり……。
 なんだかんだいって、彼女はアタシの……特別な人だから……。


「大丈夫ですよ。昨日鞠絵ちゃんにもそうメールを送っておきましたから」

「いや、なにが大丈夫なの!? ってか送ったの!?」


 ホント、可憐ちゃんみたいな乙女チックな子って、ついづくそういう話題がの好きだなぁ、と思った……。


「そーよ。どーせこの子は『運命の赤い糸なんて非科学的よー』なんて、
 夢もロマンもロマンスのカケラもない機械的な思考回路してるんだから。
 赤い糸なんてどーでも良いって考えてるわよ」

「咲耶ちゃん!?」


 と、横から我が家の長女の乱入。
 否定はしないけど、その言い回しはしゃくに障りました。
 今日の主役はしゃくに障りました。


「だから、鞠絵ちゃんの夢とロマンとロマンスで釣り合いが取れるんじゃないですか?」


 お似合いですよ。
 にっこり言う可憐ちゃんに、咲耶ちゃんはしてやられたように反論の言葉も出せず、
 アタシはただただ……真っ赤に照れた顔をしていました。


「あの……よろしいですか」

「あ、春歌ちゃん」


 雑談もひと区切りつき、丁度良くパーティーの準備を始めようと思い立った時、春歌ちゃんの姿が現れる。
 礼儀正しく、将来立派な大和撫子を目指す、今時希少価値の高い超生真面目少女。
 そのせいか、ガサツなアタシとはそりが合わないデス……。それ以外にも思い当たる節はあるけど……。
 そんな春歌ちゃんの表情は……なにか浮かない様子だった。


「今しがた、鞠絵ちゃんの担当の看護婦さんから連絡が来ました……」

「看護婦さんから? なんて?」

「率直に言って……鞠絵ちゃん、お体に別状はないそうですれど……やはり大事を取って、外出は無理だそうです」


 明るく作業再開するはずだったみんなの手が、凍りついた。
 告げられた、鞠絵ちゃんの不参加。
 鞠絵ちゃんは、療養所に入院している身。直前まで体調が良くても、突然体調を崩してしまうことだってザラだ。
 本人が大丈夫だと思っても、お医者さんが許可を出せない時だってある。
 それが今……この時に起きた……。ただそれだけのこと……。
 その場には、重苦しい空気が漂っていた。



「そっか……。さ、パーティーの準備続けよっか!」


 そんな空気の中、アタシは、みんなの凍りついた手を再び動かせるよう、笑顔で促した。


「何を考えているのですかっ……!?」


 その行為は、火に油だったのか、春歌ちゃんはアタシの胸倉をつかんで睨みつけてくる。
 春歌ちゃんらしくなく、乱暴な行為で、感情をあらわにしていた。
 丁寧な口調の奥底に、確かに浮かび上がる怒り。歯を食いしばって、必死で怒りをこらえているのが分かった。


「元々ワタクシは、貴方が鞠絵ちゃんに相応しいとは思っていませんでしたが……」

「…………」

「今日という今日は、見損ないました! 本気で!!」

「……じゃあ……どうすればいいのよ……?」

「貴方、結局その程度の想いだったな―――え?」


 春歌ちゃんの言い放つ言葉の隙間に、小さく問いかける。
 言葉の止まった春歌ちゃん。
 その手で掴まれた胸倉を、ゆっくり手で押しのけるように解いた。


「鞠絵ちゃんが、自分が参加できなくて悲しむことを知っている……。
 でも……自分のせいで折角のパーティーを中止にしてしまうこと悲しむことも知ってるっ……!」


 睨みつける春歌ちゃんを見て、当たり前か……そう思う気持ちもあった。
 反面、分かってない春歌ちゃんに、苛立つ気持ちがあった……。
 震える声で、その心中を訴え掛けた。


「アタシだって鞠絵ちゃんをのけ者にするのなんか死んでもイヤよっ……!!
 でもどう転んでも鞠絵ちゃんを悲しませちゃうじゃない……。
 なら、みんなに楽しんでもらった方が、彼女の傷が浅いって、アタシは知ってるのよ……。
 それを知っているアタシはどうすればいい?」


 みんな今日のために準備を進めてきてくれた。
 既に買い込んだ食べ物だってそんな取っておけるものじゃないし、みんなの予定だって……こんな機会、滅多に巡ってこない。
 今日だから良かったのに……今日じゃなきゃダメなのに……!

 辛い……。

 悔しい……。

 悲しい……。

 仕方ないと割り切っても、割り切りきれない気持ち。
 その気持ちさえも押し殺して……アタシはこの結論を導いたんだ。
 それがダメだというのなら……


「どうすればいいのよ……? ねぇ……?」


 アタシの剣幕に押されたのか、それとも返す言葉が見つからないのか。
 さっきまでの怒りなどウソのように、春歌ちゃんは固まっていた。
 そんな春歌ちゃんへ、追い討ちをかけるように。


「答えなよ……。答えろ、春歌ぁっ!!」






    パァンッ……






 その場に、破裂するような音が、響いた。
























「今頃みんなは……誕生日パーティーの最中かしら……」


 療養所の自室で、窓から夕暮れを覗いて、わたくしはつぶやいた。

 今日はあの人の誕生日……。
 大好きなあの人の、生まれた日……。
 わたくしは、今日という日を感謝します。
 今日があったから、わたくしはあなたに出会えたから……。


「運命の赤い糸、か……」


 出会い、という言葉で、ふと思い起こされる昨日頂いたメールの内容。
 小指をそっと眺めて……少し、顔が熱くなったのが分かりました。
 もうっ……わたくしったら……はしたない……


「参加……したかったな……」


 でも……わたくしは、その相手を祝うことができない。
 お医者様は、外出の許可をくださらなかったから。
 体調が不安定で……万が一を考え、「今日は諦めなさい」と……。
 今頃はみんな……楽しんでいるんだろうな……。


「でもいいの……。わたくしのせいで、みんなの楽しい時間……奪ってしまうわけには行かないものね……」


 こんなことはいつものこと。
 今までだって、何度もお預けされたことがあったじゃない。
 お医者様だって……わたくしの身を考え、そう決断してくださったんだから……。
 だから、今日も……




    ―――どうしてわたくしだけが……?



「……っ?!」



 不意に、頭の中に過ぎる声。
 それは、紛れもなくわたくしの中から聞こえてきたもの……。



    ―――どうしてわたくしだけ、こんな目に……?



 暗い暗い……どす黒い。
 心の奥底、湧き上がる……闇の声。



    ―――わたくしが、一体なにをしたというの……?



「ダメ……ダメよ……。そんなこと考えちゃ……」



    ―――いつも、いつも……わたくしだけが……こんな……。



    ―――どうしてみんなだけが……ケンコウを与えられるのっ……!?




「いや……。やめて……止まりなさい鞠絵っ……!」



    ―――どうしてみんなには与えられてるのっ……!?



    ―――ズルイ……。




「違うっ……みんなは悪くないっ……! みんなとってもいい子ばかりじゃないっ……!」



   ―――こんなのおかしい……。



「こんなこと……こんなこと……、考えたくない……」



   ―――こんなの全部……理不尽よ……。



「考えたく……ない、のに……」


 耳をふさいでも、声は頭の中から流れてくる。
 口で声を否定しても、イヤな声が止まらない。
 相反する願望と現実。
 どうにもできない、負の感情……。



    ―――なんでわたくしだけがこんなに苦しまなきゃいけないの……?



 巡る思考が……ココロの中のヤミが……止められない……。

 今日はおめでたい日なのに……。
 大好きな人を、祝福してあげたい日……なのに……。
 こんな、嫉妬に駆られて……


 わたくしは……最低です……。












「「「「「「ハッピーバースデー」」」」」」

「……えっ?」


 突然、部屋のドアが開き、重なる複数の声が飛び込んできました。
 目を向けると、そこには……わたくしの姉妹の姿が。
 ドアの大きさから、先頭の3、4人しかその姿を確認できませんでしたが、その後ろにも、人影の存在を確認できました。


「え? え? え?」


 突飛なことに、ぐるぐると巡っていた暗い思考はどこかへ消し飛び、消し飛んだついでに頭が真っ白に。
 そのせいで、思考が全然ついて来れません。


「どうしたの? そんなきょとんとした顔しちゃって?」

「そりゃいきなりみんなで押しかけたら驚きもしますわ……」


 まるで普通のことのように口にする、先頭の咲耶ちゃんに、その隣でちょっと呆れ気味の春歌ちゃん。
 わたくしは状況がつかめず、胸に湧く疑問を投げかけしました。


「あの……みんな、どうして……? パーティーは……? それにハッピーバースデーって台詞……わたくしに言われても……」

「そ。だから……出張誕生パーティーよ」

「出張……?」

「なんてコトはないデス。プログラムに急遽、鞠絵ちゃんのお見舞いを追加しただけデス」


 咲耶ちゃんと春歌ちゃんの後ろから、聞こえてきた声。
 その特徴的な口調と声から、四葉ちゃんのものと分かりました。
 入り口を塞いでいる数人の影から覗く、彼女のツインテールと虫メガネが揺れて、その存在をアピールしていました。


「ごちそうはみんなお弁当に変更して、バスケットに入れて持ってきたんですのよ」


 四葉ちゃんに続くように、次は白雪ちゃんが、今度は咲耶ちゃんと春歌ちゃんの間から出てきて、一歩わたくしの部屋の中へ。
 その手には、言葉通り大きなバスケットを携えていました。


「うふふっ…… まだ下ごしらえの段階でしたのから、お弁当に予定変更も全然大丈夫だったですの


 楽しそうに解説する白雪ちゃん。
 でも、肝心の疑問が解決されていません。


「どうして……?」


 みんなが来てくれたことは嬉しい……けれど、ここに来るくらいなら、
 予定通り鈴凛ちゃんのお家でパーティーをした方が良いに決まっている。
 お料理だって、お弁当にするよりも、オードブルとして出した方が、出来立ての味を味わえる。
 会場も、飾り付けを用意するようなことをしていたから、ここに来てしまえば、それはできなくなってしまう。
 なにより、ここに来るまでの交通費だって……人数が多ければ、それだけ掛かってしまうのに……。


「今日はわたくしの日じゃない……鈴凛ちゃんの日なのに……。
 なのになんで……こんなにしてくれるんですか……?」

「鈴凛ちゃんの日だからよ。ほーら、とっとと出てきなさい主役っ!」

「ぎゃっ!?」


 咲耶ちゃんが、後ろの人だかりの中に手を差し伸べると、ちょっぴりにごった悲鳴が聞こえてきました。
 まるで猫みたいに襟首を捕まえて、姉妹たちの中から鈴凛ちゃんを引っ張り出しました。
 今日の主役の登場……。


「あ、鈴凛ちゃん……その顔……!?」


 だた、その顔はいつもと違っていて……片側のほほが、赤く腫れていました。


「ぶたれた……。千影ちゃんに」

「えっ!?」


 その言葉に驚きを隠せませんでした。
 わたくしは、人だかりの中から千影ちゃんの姿を探すと、千影ちゃんはいつもの無表情でピースを送っていました。
 ……千影ちゃん、なんでそこで自己アピールしてるんですか……?


「鈴凛ちゃん、春歌ちゃんと言い争いになってね……鞠絵ちゃんを巡って。鞠絵ちゃんを、巡ってね」

「「なんで2回言うかな?!」」


 解説する咲耶ちゃんへ、鈴凛ちゃんと春歌ちゃんふたり揃って「ツッコミ」をします。
 うふふっ……ふたりとも、本当に仲がよろしいんですね……


「それで、千影ちゃんが……?」


 わたくしの問い掛けに、「別に………」なんて軽く返しました。


「…横からふたりの言い争いを聞いていたんだが…………どうにも納得がいかなくてね……。つい……」


 千影ちゃんは……そういう行動に出ることはないから、だから、とても意外だった。
 でも同時に、千影ちゃんらしいとも思いました……。


「理論………理屈………効率………正論………。
 ……君らしい答えの導き方だとは思うが…………ただ、もう少し感情論を織り交ぜるべきだよ………愚妹。
 主役自身…祝宴を望んでいないというのに……祝ったって…仕方ないだろう…………?
 まったく……手先は器用なクセに…………そういうところでは不器用だな……」


 普段はそっけないけれど……それでも、確かに秘められている。
 本当にみんなのことを考えている、不器用な優しさ……。
 そして、鈴凛ちゃんの肩に手を置いて語る、今の言葉にも……。


「バカ」

「うっ……」

「ばか」

「ぐっ……」

「馬鹿」

「うぐっ……」

「ばーか」

「莫迦」

「バーロー」

「おばかさぁん」

「ぅぅ……」


 千影ちゃんに続いて、みんなで一様にけなす言葉を連呼され、言い返せない鈴凛ちゃん。
 複数の方向から苛まれて、心なしか小さくなったように見えます。
 あの……今日の主役は鈴凛ちゃんだったはずでは……?


「ま、そういう訳だから、主役が満足する形で、パーティーを開催することになったのよ。
 鈴凛ちゃんには、みんなからのカンパした資金援助がプレゼントだったんだけど、
 急遽会場変更に伴う11人分の交通費に、半分くらいあてちゃったわ」


 得意げに、「でも有効な使い道でしょ?」なんて付け足す咲耶ちゃん。
 鈴凛ちゃんは複雑ながらも、嬉しそうに唇の端を持ち上げていました。


「まあ、なんていうか……咲耶ちゃんの言葉に頷くのって、かなーり不服だけど……」

「どういう意味よっ!?」

「鞠絵ちゃんが笑ってる……それが、アタシにとっての最高の報酬です……」


 今日の主役は、改めてわたくしに向き合います。
その顔は、腫れていない方の頬まで、赤く染まりはじめました。


「だから……今日のは最高のプレゼントっ!」


 嬉しそうな表情と、弾む声で、鈴凛ちゃんは言いました。
 それは、わたくしの心までつられてしまいそうなほど。
 さっきまでの暗い気持ちは……はじめからなかったように、消えてしまっています。


「鞠絵ちゃん……さっ! いっしょに楽しもっ!」


 鈴凛ちゃんは、そっと、わたくしの手を取って言いました……。
 まるで、お城のお姫様を外の世界連れ出す王子様のよう……。
 ……本当は、わたくしが王子様の方が良かったな……なんてね……

 わたくしを、暗い闇から連れ出してくれる暖かなその手。
 ぎゅっと、強く強く握り締める……。
 あなたとの確かな繋がりを感じていたいから……。












    アタシに運命の赤い糸なんかいらない……。
        わたくしは、運命の赤い糸なんていりません……。


    細い糸で遠くに感じることよりも、
        か細い糸で遠くまで繋がっていることよりも、


    ゼロの距離で、
        手の届く距離で、


    鞠絵ちゃんの手を繋いでいるから……。
        あなたと繋がっていたいから……。













あとがき

2006年度鈴凛BDSS。
何気なくとはいえ、ネタが思いついたのでほぼ一日で仕上げたものです。
やっぱセカンドシス(2番目マイシス)&鞠絵の嫁だし、なんとかしてやりたかったのですよっ(爆
なのでやや雑かもしれませんが、それでも込められるだけは込めましたです。

今年は本当に休日と被っているので、その仕様で作り上げてみました。
軽い気持ちでそう適応させたので、年齢、学年などは深く考えてはいけません(笑

「赤い糸」について何気なく考えていたところ、
結べるということはその分「距離ができる」ということに気がつき、そのテーマで仕上げてみたものです。
でも多分それ以外の方が濃度そうです。ぎゃふん。
あと、内容的に片方の視点のままじゃ辛いかなと思いましたので、
視点が切り替わる特別な形式で仕上げさせていただきました。
そのせいで主役以上に相手役が前に出てしまっている気がしますが……そんなのもうパターンです(マテ
正直な話、たまにはバッドエンドな終わり方で作っても良いかなとか考えてたのですが、
どうにも、なんだかんだで幸せの結末の方を採用してしまいました(苦笑
物書きとして良いのか悪いのか、考え物です……。

かなり前提としてまりりんのある作風ですが、こういうネタは一発ネタ、インスタントカプじゃできませんので、
どこか別の場所でふたりの繋がりを描いているマイカプの強みかな、と思いました。


更新履歴

H18・7/9:完成
H18・7/10:変換ミス修正


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