今日、4月4日は、春休みということを除けば、いたって普通の平日。
だけど、アタシにとっては特別な日。
というよりは、アタシにとって特別な人の特別な日。
鞠絵ちゃんの、誕生日だ。
病弱で、小さいころから遠く離れた療養所にいるアタシの姉妹。アタシの……大好きな人。
その誕生日、アタシは手作りした小型のメカをプレゼントに持ち、療養所に向かういつもの電車に揺られていた。
療養所のある所は、バスやら電車やらを何回も乗り換え、長い時間を掛けてやっと到着するような遠い場所。
そんなだから、普段は頻繁に行くようなことはない。
だけど今日は特別な日。しかも春休みという連休の最中。
他の日ならともかく、そんな絶好の機会に行かないで一体いつお見舞いに行くのか!?
ってなワケで、大好きな彼女に「おめでとう」を言いに、アタシは遠い療養所へと足を運ばせてる。
だってさ……アタシだっていつも、鞠絵ちゃんに会いたい気持ちで、いっぱいなんだから……。
アタシ訪ねて来て喜んでくれるよね?
今日のプレゼントは喜んでくれるのかな?
今日はどんな顔で笑ってくれるかな?
電車に揺られる間、着いた時の彼女の反応を思い浮かべる。
色々と想像しては、アタシ自身あったかな気持ちに浸って、到着するのを今か今かと待ち遠しく感じていた。
「鞠絵ちゃん……今日はお体の調子、よろしければ良いのですが」
大和撫子なおねーさまが隣に同席で……。
しあわせサンドイッチ
「っていうか春歌さん、何故にアナタ様がここに?」
「あら、何かおかしいことでも? 妹の誕生日に、お祝い兼お見舞いに行くことは、別に普通のことではございませんか」
清然とした態度で、しれっと答える大和撫子。
まあ確かに、言い分としては間違ってはないけれど……。
「いや、だって遠いし……時間もかかるし……」
「ええ。そうですわね。
街から遠く離れた場所に位置し、バスや電車など交通の乗り継ぎも多く、頻繁に行けば間違いなく交通費が掛かるそんな場所に、
ただでさえ趣味のためにヒトからたんまり借金積み重ねておいて、それを払いもせず、底無しにお見舞いへも費やしているのですから」
「…………」
春歌ちゃんの言葉に、気まずそうな顔で言葉を詰まらせる。
にこりと向けられる微笑の仮面が、これ以上ないほど嫌味に見えて仕方がなかった。
そうなのです。アタシの趣味である機械いじりは、何かとお金の入り用になるもので、
今も春歌ちゃんを含めたみんなから、資金援助という形で、ありがたくその恩恵にあずかっているのだ。
もっとも、「寄付」ではなく「貸す」なので、いつかは返さなくちゃならないものだけど。
その量たるや、どこぞの闇金のごとく雪ダルマ式に膨れ上がっていた……。いつかメカで一発当てたら返します……。
その上で、アタシは鞠絵ちゃんのために時間と交通費を注いでいるのだ。
貸した方からしたら、お金があるのに返さないとはどういう了見か、と思うのは当然だろう。
まあ、アタシ自身の会いたいってワガママではあるんだけど、
それでも、大切な姉妹のために尽くしているという大義名分があるため、控えろとは言えど行くなという要求はみんな言ってはこない。
なのでメカを控えろと言われるのだけど、それもそれで無理な相談……。
という訳で、金銭面でのアタシの立場は、実はかなりは肩身が狭かったりする……。
「……不埒者」
「うぐっ」
ボソッと呟く春歌ちゃんの言葉が、そのアタシの心の急所にブスッと突き立てられる。
春歌ちゃんは、アタシと真逆で、とっても真面目な子。
清楚で、几帳面で、女らしくて、立派な大和撫子を目指しているだけあって、まるで女性の理想像と言わんばかりに素晴らしいお方なのだ。
そのために、お稽古事だっていっぱいこなしている。
そういうことなので、金銭感覚以外も色々なものがズボラでゆるゆるのアタシは、特に春歌ちゃんに白い目で見られていたりする。
「そういう春歌ちゃんこそ、なんでアタシと同じ電車に乗っているんですか?」
「そりゃあもちろん、鞠絵ちゃんのお見舞い兼お誕生日のお祝いに……」
「そういうことを聞いているのではなくて。アタシの記憶が確かなら、確か今日はお稽古事の日でありませんでしたっけ?」
そんな真面目な人が、なぜかお稽古の日に、その場に行かずに電車に乗ってアタシと過ごしている……。
少なくとも、今日のお稽古がお休みになったなんて話は聞いていない。
……ってことはつまり、
「おサボりましたね?」
「…………」
普段からのや今のお説教の仕返しにと、反撃するように問い返してみた。
春歌ちゃんの丁寧さをマネするように問い詰めてみると、今度は春歌ちゃんの方が言葉を詰まらせる。
それはつまり……無言の肯定ということなのだろう。
「わ、ワタクシだって……それがいけないこととは重々承知しています……」
春歌ちゃんは、わなわなと手を震わせて、なにかに苛まれるかのような、そんな口調で言葉を紡いだ。
春歌ちゃんは真面目過ぎなくらい真面目な、人一倍お堅い人だ。
普通の人が気にしないような、例えば消しゴムのカスを机の下に払うという学校で誰もがやっちゃうような何気ない行為ですら罪の意識を感じ、
行なえばそれに押し潰されてしまうほど、真っすぐ過ぎる心の持ち主。
そんな春歌ちゃんが……お稽古事をサボった。
ということは、アタシには想像もつかないくらいの罪の意識に苛まれているはず。
「しかし! ああ、しかしっ! 例え自身を泥に浸からせようとも、愛する者ために、自分自身を省みぬ自己犠牲!
ああ、なんて美しき愛の形!! ポ、ポ、ポポポ♥♥」
……思い違いでした。
「そもそも、今日アナタが行く、と分かっていましたから、だからワタクシも自ら汚名を被ってでもと、監視に参ったわけで……」
「うわ、なにそのアタシの悪党扱い!?」
それどころか大義名分掲げて開き直ってるから、余計タチ悪い。
「そうではないですか!!
あの控え目で清楚で真面目だった子が、最近はアナタに感化されて、ワガママで自分勝手で無茶をする節が増えてきたのですよ!!」
「う……まあ、否定はしないけどさぁ。せめて大胆でワイルドで積極的になったと言って」
「どう言いつくろっても同じです!! ワタクシは、ワタクシはただ……」
春歌ちゃんは、ビシッとアタシに言い付けてから、聞いても居ないのにひとり勝手に自分の思いの丈を独白し始め出した。
「ワタクシはただ……可憐で儚く、か弱い彼女をお守りしたいと……ワタクシの持てる全て懸けてでも、お守りせねばと……思っただけです。
ワタクシは、ドイツに居た頃よりいつか現れると夢見ていた運命の君をお守りするため、この身を鍛えぬいてきました。
そして、日本へやって来たワタクシが出会った、か弱い彼女。
同じ時を過ごしていく内に、病魔という不幸、孤独の悲しみ、
その他にも……自分の意志とは無関係に背負わされた彼女の悲しい宿命などを知りました。
ならば、守るために鍛えてきたこの身は、彼女をお守りするためのもの……それがワタクシの宿命と悟りました……!」
そうなのである。春歌ちゃんにとっても、鞠絵ちゃんは「特別な人」なのであったりする。
もっとも、当の本人はお堅く、誰よりも世間一般から外れることを気にして、
鞠絵ちゃんへの想いは「あくまで家族に向けるもの」と主張してはいるけど、
電車のイスに「の」の字を書いて恥らう姿は、まさに恋する乙女だったりする……。
「ワタクシが守り、そんなワタクシに、鞠絵ちゃんもいけないとは感じつつ芽生える禁忌の愛っ……!
……なんてイケナイ期待、抱いたりなんか決して、ええ決してしているわけではないのですが、
もしそうなったとしたら……そしてああ、いけませんわ鞠絵ちゃん!
ワタクシたちは同じ女、そして仮にも同じ血筋を分かち合った姉妹っ!!
なのに、それなのに〜〜〜……あ〜〜れ〜〜〜♥ ポポッ♥♥」
「血縁は結構あやしいけどねー」
「互いに叶わぬ想い……けれど、ワタクシは一生アナタのお傍に仕え、アナタをお守りします……。
それこそが愛!! 報われぬ愛の、ひとつの形なのですわ〜〜♥ ポポポッ♥♥」
途中ツッコミを入れつつも、唐突に開幕した、春歌ちゃん特有の妄想暴走一人芝居。
こうなってしまった春歌ちゃんは誰にも止められない。このクセさえなければ春歌ちゃんは完璧人間なんだけどなぁ……。
「……なのに、」
と、静かに……けれど重く紡がれたその言葉に、場の雰囲気がガラリと変わる。
かもし出された今までの桃色空気は急に黒を帯びて、黒色を混ぜ過ぎて、ダークレッドな暗黒魔空に変わった。
「……なのに、なのに、なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに、な・の・に!」
壊れたレコードのように、同じ言葉を恨み言のように繰り返し唱えはじめて、そして、物凄い剣幕で鋭い眼光をアタシに向けて光らせ睨む。
「何でそれがア・ナ・タ・な・の・で・す・かッッ!?」
「いや……そんなこと言われたって……」
そんな恐ろしげな春歌ちゃんに、ほんのり赤く染めたほっぺたを人差し指でぽりぽりとかいて、
煮え切らない態度をとってみせるしかできなかったアタシ。
春歌ちゃんにとってもアタシにとっても特別な存在である鞠絵ちゃんは、なぜだかアタシに好意を寄せてくれていた。
そりゃ、好きでいてくれたら良いなってがんばって来た節はあるけど、
アタシが期待した以上にアタシに好意を寄せちゃったので、何でアタシなんだろうって思うことはいっぱいだ。
それこそ春歌ちゃんを選んでもおかしくないような。
でも、鞠絵ちゃんは、アタシを選んでくれているし、アタシもそれに応えても良いって思ってる。
「まったく……なのに何故鞠絵ちゃんは、鈴凛ちゃんのよーな方をお選びに……?
こんなズボラな……不摂生な……浪費家で……ぶつぶつ……」
「うわー、アネキがいぢめてくるー」
で、そのせいで春歌ちゃんの教育的指導をモロに受けることとなったワケである……。
いや、それ抜きにしてもお堅い人間とゆるゆる人間という食べ合わせが悪いだけかもしれないけど……。
「ワタクシだって、こんな小姑のように鈴凛ちゃんのことをグチグチと申したくありませんわ!
けど、アナタがだらしないばかりに、鞠絵ちゃんまでもが感化され、不摂生に陥ってしまうんです。
鞠絵ちゃんは、ただでさえ無理が利かない体なのですから、
だからこそワタクシはアナタにしっかりとした人間になっていただきたいのです!」
そして今度はくどくどお説教モードに突入。
春歌ちゃんってこんなキャラだっけ? と思ったあなた、きっと正解です。
春歌ちゃんは、いつもは優しくてなんでも出来て、きっと将来は教師なんて合ってるんじゃないかなって感じの、人間の鑑のような理想像の塊。
なので、他の人にはとっても優しい人。アタシにだけ厳しいのです。
というのも今の言葉通り、アタシに関わることは、春歌ちゃんの大好きな鞠絵ちゃんにまで関わってしまうからである。
「鞠絵ちゃんには綺麗なまま、清いまま、いつか現れる彼女の背の君の元へと送り出してあげなくてはいけないのです!
それこそが彼女の幸福! 彼女を思えばこそ、その時まで、ワタクシが彼女を守り通してあげなくてはならないのですわ!
なのになのになのにっ! ア・ナ・タ・と・き・た・らッ!!
鞠絵ちゃんをそのような禁忌の道に引きずり込んで……一体どれほど鞠絵ちゃんを穢せば気が済むのですかッ!?」
「い、言い掛かりよ! それに……別にアタシ、鞠絵ちゃんとは"そういう関係"って、はっきり言い合っているワケじゃ、ないし……。
アタシはただ、鞠絵ちゃんの笑った顔を見ていたいだけ……。そのためにがんばってきたし、これからもそうしていたいから、形式なんて何でもいいの。
結局、一緒に居られればそれで良いから、別に"そういう関係"じゃなくたって良いのよ……」
「で、彼女とはどこまでお話なさっているので?」
「将来的に結婚式くらいは挙げたいね、とか話し合ったくらいで……」
「っきゃーーッッ!!」
ゴスッッッ
「ぅぎゃっ!?」
思わず素直に答えてしまったら、春歌ちゃんのドイツ仕込み手刀がアタシの脳天に炸裂。
その赤い雨が降り注ぎそうな威力に、頭を抱えて悶絶した。
「あ、アタシからじゃないもん! 鞠絵ちゃんから……その……したいですね、って……」
「何!? 何この禁断の甘々ラブラブな恋愛模様は!? あー、もうっ! なんちゅーかもう恋人同士のそれじゃん!!
違うとか、形式なんてどうもでいいとか、そういう関係じゃなくても良いとか、そんなこと言っておいてもう十分過ぎる程それじゃん!!」
「春歌ちゃん、言葉遣い乱れまくってる……」
アタシに言われてハッとする春歌お義母さま。
咳払いをひとつして、心を落ち着かせると、今度は落ち着いた感じにお説教を再開した。
「ああ……まったくこの子ときたら……ぶつぶつぶつぶつ……
もしワタクシが男だったのなら、今すぐ彼女の背の君として現れ、この邪なる悪鬼から清純清楚な彼女を救い出してあげられるのにっ……!!」
「すみません、春歌ちゃんが男の人でも兄妹って禁忌が存在するのですが」
この人はお堅いクセに、そこを気にしてるんだか気にしてないんだか良く分からない。
でもそこはどうでも良いというか、そこはかとなくオフィシャルな気がするというのはなんでだろう?
「でも仮に! 禁忌の壁を除いたとしても、鞠絵ちゃんにアナタは相応しくありませんわ!
例えばアナタ、今日の彼女の誕生日に何を用意してきたというのですか?」
「……へ?」
急な質問に頭がついていけず、思わず気の抜けた返事が零れる。
そんな呆気に取られているアタシを余所に、春歌ちゃんは持参していた風呂敷を取り出しては、おもむろに中を開き始めた。
というか、今の時代に風呂敷って……さすが春歌ちゃん、和風マニア。
「ワタクシは……ほぅら、この通り立派なお着物を、自分の手でこしらえて来ましたわ!」
バッと風呂敷を広がると、その中にある、とても丁寧に仕上がっている着物をアタシに突きつけてきた。
「う……」
さすがは春歌ちゃん……数多くの稽古事をこなし、且つ、それら全てに注がれる妥協なき弛まぬ努力と真摯な情熱は、
彼女を若くして何でも達人レベルにまでこなせる怪物にまで変貌させてしまった。
そしてその持てる力全てにプラスして、想いという名のドーピーングを経て完成された着物は、
出来栄え、質、そして何よりも込められた想いの大きさまで、全てが最上級のものだった。
「……でも、凄いけどそれ、着る機会無いよね?」
「…………」
着物なんて、春歌ちゃんでもない限り日常生活で着る機会も珍しい代物。
鞠絵ちゃんは療養所暮らしだから、尚のこと着る機会がない。
どっちかというと、パジャマや半纏を作った方が、鞠絵ちゃんへのプレゼントとしては有益だったんじゃないかなと。
「そ、そういうアナタは、どーせまた手作りのメカか何かなんでしょう?」
「う……」
ご明察の通りで……。
アタシもアタシで手作りではあるけれど、しかし春歌ちゃん力作の着物を目の当たりにした今、
アタシの作った小型のメカなんて、それと比べられてはちゃちなオモチャ同等に霞んでしまった。
「あの鞠絵ちゃんに、合うとお思いでも?」
「うう……」
しかも、鞠絵ちゃんといういかにもな女の子のイメージからして、どちらが相応しいかなんて、一目瞭然。
込めた想いの量だけなら負ける気はしないのだけれど……総合の評価としては、
引けを取ることを認めざるを得ず、そのためまたも言葉に詰まった。
春歌ちゃんは、こういう自慢をすることとは無縁の人なのだけれど、これもやっぱり更正させる必要のあるアタシにこその反応なのだろう……。
「ほらごらんなさい! これだけ見ても、あなたが鞠絵ちゃんに相応しいとは思えません!!」
「でも……やっぱメカがないとアタシじゃないし……ね♥」
「ね♥ じゃありません! 可愛らしく言ってもダメです!!」
「そ、そりゃメカなんて鞠絵ちゃんにとは思うけど……。でもアタシ、どうせ鞠絵ちゃんにプレゼントのおまけ……要求されるし……」
あまりにグチグチ言われるのも悔しかったから、ついそんな言葉が口をついて出た。
けれど、声に出したあとでしまったと気づき、慌てて口を手で押さえる。
「おまけ?」
「いやー……あ、あはははっ、なんでもないの!」
しかし、既に漏れた言葉は口の中には戻らず、誤魔化してみるも時既に遅し。
春歌ちゃんはアタシの言った「おまけ」に興味を持ってしまった。
「おまけってなんですか?」
「え、えっと……言わなきゃ、ダメ……?」
「気になるじゃないですか」
柔らかな口調と清楚な微笑み、そしてボキボキ鳴らす拳のギャップに、言い様のない威圧感を浴びせられる。
春歌ちゃんという怪物の前に、抗う術を持たないアタシはもう観念して白状するしかないと悟ると、自分の迂闊さを呪いながら口を動かした。
「その……おまけっていうのは……。あのね……あ、アタシのね……」
「はい、鈴凛ちゃんの……何です?」
「アタシの……、……る……」
「え? 何ですって?」
「アタシの……く……る……」
「え? 聞こえませんわ。一体なんて?」
「だ、だからぁ……! あ、アタシの……………………くち、びる……」
………………………………。
訪れるしばしの沈黙、そして。
「あ゛あ゛ッッ!? 恋じゃねーんじゃーねーのかぁー!? なにさらしとんねん!!?
ちゅっちゅちゅっちゅかぁッ!? ちゅっちゅちゅっちゅしとんのかぁッッ!? あ゛あ゛ッッ!?」
「ギャー!? 春歌ちゃんが暴走したー!?」
言い様のないほどの殺気が辺りを埋め尽くし、生まれたての修羅が吼えた……。
「ナニ穢しとんじゃぁ!? あの清純清楚な彼女を! みずみずしく薄い桜色の唇を!?
あなたのその不衛生な口で!? 傲慢な欲望でぇッ!! よくも穢しやがったなぁーーーーッッ!!」
「違う違う違うの! 鞠絵ちゃんから、鞠絵ちゃんから! いつも問答無用で奪われてるのアタシの方なんだって!!」
「あなたのせいで!! あなたのせいでぇ!! 鞠絵ちゃんまでもがゆるゆるのダメダメな俗世に反するイケナイ子にぃーーーー!!
チクショウッ! チクショウッ! ウラヤマシイシナ!!」
「さり気に禁忌は何処行ったのー!?」
大和撫子なおねえさまの暴走は最高潮を向かえ、その負の感情は抑えも利かずに暴発。
降り注ぐドイツ仕込みの手刀の豪雨に、アタシは彼女に会えないかもしれない不安を抱えずにはいられなかった。
電車は、同じ人に想いを募らせるそんなふたりを乗せて、お互いの想い人の下へと向かっていった……。
そうこう漫才しているうちに、アタシと春歌ちゃんの凸凹カタゆる(お堅い&ゆるゆる)コンビは鞠絵ちゃんの居る療養所近くの駅まで到着。
ちなみにアタシは、鞠絵ちゃんの笑顔を見るまでは死ねないと生への執着をみせ、普段からは信じられないような集中力を発揮。
大和撫子モンスターの猛攻から命からがら逃げ延びたワケである。
もっとも、後半はスタミナも集中力も切れて、電車が止まるラスト20秒前に集中砲火をモロに浴び、今体中が痛い……。
そしてアタシたちは、途中漫才がくり広げられてる以外、順調に療養所へと到着。
このまま何事もなく、鞠絵ちゃんにおめでとうを伝えられる……と思っていたけれど、
「え?! 面会謝絶!?」
療養所の受付けで、顔なじみの看護婦さんに突きつけられた現実は、残酷なものだった……。
「そうなのよ。鞠絵ちゃん、昨日体調崩しちゃって……それで昨日はちょっとした騒動になったくらいなの。
体調は戻ってきたけど、まだ万全には程遠くて、お医者さまからは絶対安静だ、って」
そうなのである。鞠絵ちゃんを驚かそうと、アタシは予め連絡を取っておかなかったのである。
そして、それはアタシの見張りとして来たと言う大和撫子なアネキも同様。
当然、来訪者の存在を知らない鞠絵ちゃんは、今日は会えないからまた後日に、なんて連絡、できるはずもない。
「まあ、昨日の今日だから、聞いてないのも仕方ないけど……。ごめんなさいね、折角来て貰ったのに」
「いえ、連絡もなしに勝手に訪ねてきたワタクシたちが悪いのですから……」
自分のせいでもないのに謝る看護婦さんと、多少落ち込みを見せつつも丁寧に対応する春歌ちゃん。
看護婦さんも、折角の誕生日なのに、と一緒に残念がってくれていた。
きちんと誕生日を覚えていてくれる、良い人なんだと思った。
それにしても、ここまで来て最後の最後、乗り越えようのない障害を突きつけられてしまうとは……。
この展開は、あまり考えたくないこととはいえ、十分予想の範囲内のことだった。
それでも、思い浮かぶお祝いの瞬間にばかり目が行ってて、考えもしなかったアタシたちのミス。
折角来たんだから無理に会わせろといっても、かえって鞠絵ちゃんに負担を与えてしまうから、こればっかりは諦めるより他にどうしようもない……。
「はぁ……まさか鞠絵ちゃん、お体崩されしまっていたなんて……」
「仕方、ないよね……」
看護婦さんにアタシたちのプレゼントを託して、結局そのまま出口へと足を進める。
身内対応モードに戻った春歌ちゃんも、さすがに落胆の色を濃く見せていた。
折角ふたりして、長い時間と交通費を掛けてやってきたというのに、肝心の彼女に会うことが出来ないとは……。
「でも良いのです! 例え成果が伴わなくとも、自身の胸の内に素直に従った結果なのですから!
これも無駄な徒労ではなく、愛ゆえの試練! 結果が全てではありません!!
報われずとも、この身を捧げられる己が想いを誇ろうではありませんか!」
「春歌ちゃん、仮にも病院だから静かにねー」
「例えお稽古を休んでも……! おサボりましても……! ズル休みしてでも……休み……くぅっ……!」
お陰で、またも自分の世界に入り込んでしまう、独白妄想・オペラ座ハルカが開幕。
その後の第二楽章では、真面目な春歌ちゃんがお稽古事を休んだことを心底悔しそうに、
涙すら流して悔やむ様子を、鮮明に表現されていた。それこそギャグ漫画のように。
「もっともアナタの場合、鞠絵ちゃんよりもメカに掛けるお金と時間の方が大切だから、
ワタクシのように無駄ではないとは考えたりはしないでしょうけれど」
「失礼ね、鞠絵ちゃんの方が上よ。…………大なりイコールで」
ボソリと付け足した「大なりイコール」とは「≧」のこと、つまりはイコールも含まれるである。
アタシにとって、メカという夢も同じくらい大切なものなので、どっちかとれと言われても、どちらも譲れない大切なものだ。
それでも片方選べというのなら……うーん……。
……無理っ、やっぱり選べそうもない!
「あら、ワタクシは鞠絵ちゃんの方が大切ですわよ。それこそ習い事を疎かにするような、道徳に反することを行うことになりましても」
「なにその自分の方が優れてる的な言い草! ちょっと悔しッ!!」
「あらあら、一体何のことでしょうか? おほほほ……」
アタシに比べ、明確に鞠絵ちゃんを優先できる宣言を口にする春歌ちゃん。
表面上は「そんなことありませんわ」な態度を取っておいて、その内心既に勝利を確信していることは、
白々しくとぼけて浮かべる笑みに、押し隠すことなく丸ごと表されていた。
しかし、泣くほどキマジメ春歌ちゃんにとっては習い事を休む休まないは、砂漠の水くらい重要なことだろうけど、
大体の人はそんなに重要視しないので、いまいち伝わりづらい勝利宣言ね……。
「……でも春歌ちゃん、世間一般常識倫理の壁の方が重要でしょ? ちゅちゅちゅっちゅできないでしょ?」
「うぐっ……」
「鞠絵ちゃん、ああ見えてキス魔だからねー。お堅い春歌ちゃんじゃ無理だよねー?」
「ううう……」
ウラヤマシイとかドサクサに言っておきながら、超がつくほどド真面目な春歌ちゃんは、
女の子同士でイチャイチャらぶらぶになることに激しく抵抗を覚えているのである。
だから、羨ましいのは、それだけの鞠絵ちゃんからの想いを受け取れる立場にあることなんだと思う。なんせ一線越えちゃってるし……。
家族以上恋愛未満。それでも恋愛以上の情愛を。
春歌ちゃんが理想とする、鞠絵ちゃんとの関係は、きっとそんな感じのもの。
春歌ちゃんは鞠絵ちゃんを、本当に……きっと、誰よりも「愛している」。そう、家族として。
恋愛とはベクトルは違うけど、春歌ちゃんの愛は本物だ。それこそ、アタシが羨むくらいに。
でも、アタシも春歌ちゃんを羨ましいと思ってる。
だって鞠絵ちゃんも……春歌ちゃんのことは本当に好きだから。
アタシに向ける好きとは別の、「一番大好き」と、鞠絵ちゃん自身が口にしていたのを覚えている。
それを聞かされた時は、さすがに嫉妬が露骨に顔に出ちゃったっけ……。
アタシには、たまたま形で表されるもので向けられているけど、寧ろ、春歌ちゃんたちの間にあるものの方が……
形がなくても繋がっていられるその想いの方が、遥かに強いのかもしれない。
その上で、それを保っていられる器量と確かな実力があるんだから、春歌ちゃんを羨ましいと妬まずにはいられない。
けど、そんなことは、比べる自体間違っているんじゃないかな?
好きって気持ちには、人それぞれの形があって、言うならば全て別次元別方向のもの。
アタシのこの想いも、限りなく恋愛に近いけれど、きっとそれとはまったく異なるもの。
言うなれば、もうただの「好き」だ。それしかない。
ただ、その形にこだわらないことと、その量がハンパじゃないだけ。
恋愛でも家族でも、なんだって良い。とにかく一緒に居て、彼女を喜ばせて、近くでその笑顔を見守って居たい。
そういう意味では春歌ちゃんの想いに近いかもしれないし、まったく別の形なのかもしれない。
そんな風に、人の想いはそれぞれで、ひとつとして同じ形がないから、そこには優劣なんてなくて、比べられるものじゃなくて……
春歌ちゃんもアタシとはまた違う形で……えーっと、なんか自分で言ってて分かんなくなってきた……。
上手く説明できなけど……要するにそれは型で括れないんものなんだと思う。
そんな思いをはべらせていたからか、
「人の想いとは、かくも曖昧なものだねぇ」
などと、哲学者のような発言をしてみるアタシがいた。
「っっきゃーーーッッ!!」
ガンッ
油断したころに水平手刀で答えるのはやめて欲しいものだ……。
あと、にっちもさっちも行かなくなって、暴力に訴える大和撫子は失格だと思います……。
こんな春歌ちゃんを拝める人間はアタシ以外には早々居ない。
けど正直そんないぢめられるための特権ならいらない。
「送信……っと」
療養所を後にする前に、せめてアタシが来たことと「おめでとう」を伝えておこうと、入り口で携帯を使いメールを送信。
「アタシが来たこと」を伝えただけなので、おまけの人は、うっかりサッパリまったく全然気づかないで忘れちゃったのである。ほんとだよ?(←棒読み)
「さすがは鈴凛ちゃん、はいてくましんも難なく使いこなせるのですわね」
「春歌ちゃん、今時携帯でメールなんてそんなに難しいものでもないから」
そういえば……おまけの人には妄想癖の他に、機械オンチという欠点が存在していたっけ。
「はいてくましん」なんて言い方が、時代錯誤をより感じさせてくれて、
いつものパーフェクト超人ぶりとのギャップが、なんだか親しみを覚えさせてくれる。
「では、帰りましょうか……って、鈴凛ちゃん? そっちは道じゃないですよ」
帰路に歩き出そうと促す春歌ちゃん。
しかしその誘いを余所に、アタシは正面に広がっている道から外れ、療養所の建物の壁沿いに歩き出す。
当然、予想外の行動に困惑を隠せない春歌ちゃんに、後ろ手に手を振って平然と答えてみせた。
「ん、いーのいーの。このままおめおめと帰るのももったいないからね」
壁が途切れるところまで歩いてから、春歌ちゃんに向き直り、曲がり角の奥を指差して。
「こっち行けば、鞠絵ちゃんの部屋の窓」
「……!」
「せめて窓から、彼女の姿を拝見しようと思いましてね。そのくらいなら、バチは当たらないでしょ?」
言って、アタシの意図を伝えると、春歌ちゃんも納得した様子で「ああ」なんてもらしていた。
「さすが、法律の穴を存じているだけありますわ」
「もー、いちいちトゲの含まれる言い方ねー。そんなに鞠絵ちゃんとちゅっちゅちゅっちゅしてるのが羨ま」
「っきゃーーーッッ!!!」
ゴスッッ
言い切る前に、恐ろしいほどの跳躍で一瞬で間合いを詰めた春歌ちゃんの手刀の一閃は、高原の広がる静かな景色にはよく響いた……。
ふたり並んで療養所の壁沿いに、彼女の部屋のまで足を運ぶ。
こんなところ、普通歩くところではないので、真面目春歌ちゃんの視界に巡る風景はちょっと新鮮な印象を受けてるだろう。
もっとも、アタシは前にも何度か足を運んでいるので、ちょっと慣れた印象で巡る風景を眺めていた。
着々と足を進めて、とうとう次の角を曲がれば鞠絵ちゃんの部屋に。
今日は会えなかったけど、せめて鞠絵ちゃんの、可愛らしくて、清楚な、静かな寝顔でも覗いて帰ろう。
なんて思いながら、差し掛かった角を曲がる。
そして目に映るのは、窓越しに見える、可愛らしくて安らかな寝顔……
「…………」
「…………」
「…………」
……なんかじゃなくて、窓の縁に足を掛け、今にも乗り越えて外に出ようとしているおてんばメガネっ娘の姿だった……。
思わず場の3人全員が言葉を失い、固まってしまってた。
「あ、えと……その……り、鈴凛ちゃん、来て下さったんですか? それに、春歌ちゃんも……」
「あー……うん、来たよ。来たけど……ナニをなさってるのですか? 鞠絵さん」
念願の彼女に会えたというのに、場面が場面だったから、折角の再会がなんだか生ぬるく済んでしまった……。
とりあえず、窓の前まで歩み寄りって、正面から向き合う形になる。
開け放たれた窓を通し、内と外とで言葉のやりとりをする様子は、さながらロミオとジュリエットのワンシーンを思い起こさせたけど、
でも窓の縁に足を掛けるややはしたないジュリエットはさすがにおかしいでしょ。うん。
「あの……鈴凛ちゃんからのメールで、今来てるって……」
「うん、さっき送った……」
「折角来てくださったなら、せめて一目会いたくて……駅に着く前に間に合えばって……」
「うん、アタシも……。だからせめて窓から覗き込もうと思ってここまで来たの……」
「でも、看護婦さんやお医者様に見つかったら……きっと止められてしまうから……」
「だろうね……。なんせ仮にも面会謝絶状態だし……」
「だから、こっそり抜け出しちゃおうかな、って♥」
「っきゃーーーッッ!?」
ズビシィッッ
「ぃだっ!?」
何故か、春歌ちゃんの手刀が真横にいるアタシに向けて水平に薙ぎ放たれた……。
「なになに!? 何でアタシ、殴られたの!?」
「殴っていません! 叩いたんです!!」
「どっちも同じよ!?」
「っきゃーーーッッ!? アナタのせいで!! アーナーターのせいでぇーーーー!?
鞠絵ちゃんが! おしとやかだったあの子がっ! アナタに感化されたせいでこんなはしたない子にぃーーーッッ!!」
片方の手で胸倉掴んで、ガクガク揺さぶっては、空いたもう片方の手で手刀を乱打してくるお堅い春歌さん。
なるほど、今度のはそういう理由か。と、納得して居る間に、受けた手刀の数はとうに2ケタに達していた。
「は、春歌ちゃん……鈴凛ちゃんを怒らないでください……。わたくし、鈴凛ちゃんには本当に感謝しているんです……。だから……」
「……まあ、鞠絵ちゃんが、そう仰るなら……」
鞠絵ちゃんの制止の声に、春歌ちゃんも渋々手を止めてくれた。
さすが鞠絵ちゃん効果。そんな風に頼まれては、アタシだって手を引っ込めてしまう。
もっとも、アタシの場合このお稽古事モンスターに手を出そうだなんて間違っても思えないけど……。
「でも、それにしたって……鞠絵ちゃんは今、面会謝絶にまでなっているんですから、もう少し自分をいたわってください。
こんな無茶を続けられたなら……ワタクシは気が気でないです……」
「ごめんなさい……でも、」
申し訳なさそうに目を伏せる。
そして、アタシの方にちらりと視線を送ってから。
「どうしても鈴凛ちゃんに会いたかったから……」
鞠絵ちゃんの恥らう仕草は本当に可愛く、その仕草で嫉妬魔人・ナデシコー=ヤマートが、
売っても居ない怒りを買われたアタシに向けて手刀を放った。
しかし、そこは何度も攻撃を受けただけあって、今度は手を前に出し今度は防いでみせる。
力が足りずに防いだ手ごと額を打ち抜かれてしまった。
「イタタ……。……まあね、アタシも鞠絵ちゃんが元気なのは嬉しいよ。
嬉しいけど……でもそれで結局また倒れちゃうようなら、やっぱり今は安静にして欲しいな」
「すみません……」
「ま、それ以外だったら、なんだってワガママ言って良いからね。今日は折角の誕生日なんだし」
出会ってからずっと申し訳なさそうにする今日の主役。
そんな彼女に、忘れてしまった特権を思い出させるよう、ウインクと一緒に言ってみせる。
春歌ちゃんも横で「そうですわ」なんて納得の様子で頷いていた。
「そうですか? ……じゃあ、お言葉に甘えて、」
それを聞き届けた鞠絵ちゃんは……唇の端をわずかに上げて、いたずらっぽく微笑んでから、
「受け止めてくださいっ……♥」
窓の縁に掛けていた足を踏み切って、思いっきりジャンプ……って、えええぇええぇぇえぇっっ!?
「「鞠絵ちゃんっ!?」」
突然のことに慌てふためくアタシたち。
とにかく鞠絵ちゃんの安全を優先するべきと、考えるより先に手を伸ばす。
すると、同じ考えに行き着いたふたりの腕が、彼女を受け止めるための網のように広がった。
普段すれ違ってばっかのクセに、見事としか言い様のないような即席のチームプレイ。
色々なわだかまりなんかよりも先立って彼女のことを優先できるなんて、
きっとアタシたちの鞠絵ちゃんへの想いは、本能のレベルにまでプログラムされているんだろう。
そうこうしている内に、鞠絵ちゃんの華奢な体は、アタシと春歌ちゃんのふたりで作った腕のクッションの中に、ぽすっ、と収まった。
「ナイスキャッチ♥」
「じゃない!!」
「じゃありません!!」
ふたりの腕の中でにっこり笑顔を浮かべ、随分とのんびりとした発言をくり出す、元気な面会謝絶中の病人。
その反省の素振りも見せない態度に、さすがに強く言い付けた。
正直、その不意打ちダイブは心底心臓に悪かった……。
「だって……今、ワガママ言って良いって……」
「いや、言ったけどさ……」
「でもだからと言って……」
確かにそう言った。数秒前のことなので忘れようもないけど。
でもさ、体に負担を掛けないものに限定したじゃないの……。
いくらアタシたちでも、何でも許すほど甘くないんだよ! 可愛いから今回は許しちゃうけど。
「うふふっ……誰よりも大好きな人と、誰よりも大好きな姉上様……。
誕生日を、そのふたりに祝われるなんて……わたくし、なんて幸せ者なんでしょうね……」
そう……会うのだってタダじゃない。お金だって掛かる。時間だって掛かる。
そんな苦労を背負ってでも、それでもわざわざ会いに来てくれた。申し訳ない反面、その気持ちがどうしようもなく嬉しい。
にこにこと、嬉しそうな顔を浮かべながら、のほほんとのん気に振る舞う彼女の態度。
でも、目じりにうっすら覗いた、一滴にも満たないほどほんのわずかに光る水滴は、彼女の、本当に嬉しい気持ちを象徴していた。
「こんなの普通のことじゃないの……。与え足りないよ、このくらいじゃ」
「ええ、これからも、もっともっと、幸せにして差し上げますから」
一旦アタシの顔をイヤそーな顔で覗いた後、不服そうに「鈴凛ちゃんと一緒に」なんて付け足す春歌ちゃんを、
似たような表情で睨み返すと、何故だかくすりとお互い笑いがこみ上げてくる。
そして、予め打ち合わせておいた訳でもないのに、確認するように頷き合ってから、互いの大好きな相手の顔を見据えて……せーのっ!
「「お誕生日、おめでとう!」」
アタシと春歌ちゃん、そしてその間でふたりに支えられる鞠絵ちゃん。
その様子はまるで、ふたりの想いが彼女を包んでる、アタシたちの関係そのままを表しているよう……。
人の想いはそれぞれで、それにはひとつとして同じ形がないから……
だから、色々な形の「好き」を、大好きなあなたに、捧げます。
「ねえ、鈴凛ちゃん……。折角会えたんですから……お誕生日プレゼントのおまけ、先にいただいちゃっても良いですか……?」
「あー……いや、あげても良いけど、あげてあげたいのは山々だけど、」
「おホほほほホほホ……鈴凛ちゃん、ちょっとあちらに来ていただけますか? おホホっ、オほホホホほほほほほほホホほほほ……」
「……お堅い春歌ちゃんいるから。アタシ、まだ死にたくないから……」
こんなおかしな三角関係だけど……。
それでも……ううん、だからこそ……ね♥
あとがき
鞠絵BDSS、うちでその日の主役の出番の方が少ないBDSSなんてのは最早常識です(ぇー
とはいえ、掲載はかなり遅れた代物、マイシスなのに。
というのも、ぶっちゃけ当日まで作る気はなかったのですが、マイシスということや、
一日二日で仕上げる前後編のミニSSのつもりで書きあげられそうなネタがあったため、
その通りのつもりで一言雑記の方に即興ミニSSとして製作しました。
……のはずなのに、気がつけば両方合わせていつものSSの分量と相応の製作時間に……ある意味自分の悪いクセです(苦笑
更には、最初に一言雑記に掲載する形で作成中、「4月4日が春休み」ということに気づかず、
「平日」として執筆するという大ポカかましていたことに完成間際に発覚するというエピソードがあったりするのは、
さすが即興作品というべきでしょうか(苦笑
そのため、その辺を無理矢理直しての掲載。なので、かなり修正を加えて仕上げ直しました。
お陰でただでさえ即席の作品の粗を引き立ててしまった気がしなくもない……。
それでも結果、「作るつもりもなかったもの」が「出来た」ので、そのことに胸を張ろうと思います(笑
この作品、パラレルワールドとして数多くのカプ、世界観を描いてきましたなりゅーが、
長く書き綴ってきた間に構成した、「なりゅー自身の基本設定」として考える世界観で描いたもの。
いつかはやってみたいと考えていただけに良い機会でした。
これを機に、少しずつこの設定で作品をくり広げていきたいと思います。
その時には、鈴凛相手にやや贔屓気味な春歌ではない、いつもの春歌ちゃんも描いてみたいところです……(笑
更新履歴
H18・4/5:前編一言雑記に掲載
H18・4/8:後編一言雑記に掲載
H18・4/12:修正してSSページに掲載
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