ちゃっかり・ホワイトデー
今日はホワイトデー。
一月前のバレンタインデーに、女の子からチョコと一緒に想いを伝えられた男の子が、
そのお返しをするというちょっとしたイベントの日だ。
とはいうものの、アタシや衛ちゃんのように男の子みたいな女の子は、
本物の男の子に混じって1ヵ月前にチョコを貰っちゃうのは、既に世の常なのかなんなのか……。
お陰で、アタシにとってホワイトデーとは「お返しされる」というよりは「お返しする」日なのだ。
もっとも、慢性的金欠病のアタシは、
毎年「お返しなんてできないよ」とホワイトデーへの予防線を張り、お返しなんてしては来なかった。
にもかかわらず、「受け取ってもらえるだけで十分」と、それでもいつも渡されてしまうけど……。
しかし、そんなアタシも、今年にいたってはしっかりとお返しを済ましてきた。
理由は……今年のバレンタインはアタシも本命チョコを贈ったから……。……もちろん、好きな人に……。
やっぱ、自分は返さないクセに、自分だけ貰おうだなんてのは、さすがに虫が良すぎる話だと思ったしね。
お返しを済ませて……そして今、アタシの前には、アタシが一月前にチョコを贈った人の姿がある。
アタシは女の子らしくない、ってコト……いつもは平然と振舞ってたけど、実はひっそりコンプレックスだった……。
でも、アタシだって女の子なんだから、少しは内側に隠れちゃってる女の子らしさを前面に出してもいいはず。
そう思って、思い切ってバレンタインという女の子の一大イベントに参加してみることにしたんだ。
そのお陰か、アタシもやっぱり女の子だったって、実感はできたかな……?
ただ、贈った相手っていうのが……
「はい、鈴凛ちゃん♥ バレンタインのお返しです♥」
アタシなんかよりもグッと女の子らしい子だったりする辺り、やっぱりアタシは女の子らしくないんだろう……。
「あ、ありがと……鞠絵ちゃん……」
「うふふっ……♥ 鈴凛ちゃんって、本当にこういう行事は苦手なんですね……。また顔、赤くなってますよ……♥」
ホワイトデーとは、ご存知の通り「男の子が女の子にお返し」が通例である。
アタシと鞠絵ちゃんを見比べた場合、恐らく10人が10人、鞠絵ちゃんが贈る側で、アタシが貰う側と見るだろう。
だけど、アタシたちの場合は勝手が逆で、アタシが贈る側、鞠絵ちゃんが返す側と……つまり、鞠絵ちゃんが男の子役なのだ。
丁寧な言葉使いで、三つ編みとメガネが特徴で、清楚なイメージとどこか儚げな印象が漂う、
まるで小説の中から飛び出してきたような、いかにもな女の子。
そんな子が、"ホワイトデーの方"に参加しているなんて……。
これというのも、鞠絵ちゃんが「自分はホワイトデーで返す立場」といって、
あえてアタシにチョコを渡してこなかったからだ。
チョコの交換を期待して、アタシだけが鞠絵ちゃんにチョコを渡してしまった……。
お陰で、なんか余計にそれっぽい関係に見えるようになっちゃった……。
……いや、それを嬉しく感じちゃってるアタシもアタシでヘンなのは重々承知してるけど……。
「開けてみていいかな?」
「はい、どうぞ」
本人からの承諾を得てから、受け取ったお返しの包みをわくわくしながら開ける。
よくよく考えてみると、バレンタインのお返しを買う男の子たちの中、アタシみたいな中性的な子じゃなくて、
こんな女の子女の子した子がまぎれている図は、想像してみるとちょっとだけ可愛いとか思った。
「お返し、お返し♪ な〜にかな〜♪」
子供みたいに即興オリジナルソングを口ずさみ、
わくわくする気持ちに突き動かされるまま、おしゃれで可愛い紙袋に手をかけた。
一体、鞠絵ちゃんはアタシになにをお返ししてくれるんだろうな……。
「マシュマロみたいなものです」
「はい?」
ホワイトデーといえば、クッキーを筆頭にキャンディーなどのお返しがポピュラーで、
今鞠絵ちゃんが口にしたマシュマロなんかもそれに含まれるのも知ってるけど……なに、その"みたいな"って?
妙な言い回しをする鞠絵ちゃんに首を傾げながらもアタシの指は紙袋の口を開き、
そして、その中にあったものがその姿を現した。
「……あれ?」
紙袋の中にあったもの、それは、ホワイトデーのお返し用に販売されている市販の……クッキー……?
「……え? あれ? 今マシュマロ…って、言わなかったっけ……?」
鞠絵ちゃんが言ったこととは違うものが出てきて、ちょっとした混乱に陥っちゃったアタシ。
……アタシの聞き違い?
でも、クッキーとマシュマロなんて、普通聞き違えるものかな……?
「あ、これはおまけなんです」
「え?」
「一応、形式的にあげるだけのクッキーで……本命は、こっち……」
本命、と口にして……
「……へ? ―――っっ!!?! わっ!? わわっ?!?」
その口で、そのまま呆気に取られていたアタシに急接近して……
不意打ちのようにアタシの口に…………キス……。
「ホワイトデーのお返し、です♥」
にこっと、すっごい間近でほんのり赤い笑顔をアタシに向けて、なんだか嬉しそうな口調で言う鞠絵ちゃん。
突然のことに、当然のようにドキドキたじたじ真っ赤になっちゃったアタシ。
鞠絵ちゃんの唇は、本当に柔らかくて……まるでマシュマロみたいな……、……って、そういう意味ですか……。
「だ、だけどさっ……おっ、女の子同士でこれはっ……さっ、さすがにマズいよぉ〜」
やかんみたいに沸騰する頭と真っ赤な顔で、困ったように鞠絵ちゃんに訴える。
いや、鞠絵ちゃんのこと好きだけどさ……バレンタインにチョコ(しかも本命)贈ったくらいだし……。
「でも約束したじゃないですか……」
「や、約束……?」
「はい。万倍返しの……愛で、って♥ だったら、このくらいしなくちゃ……ね♥♥」
「あぅ……」
確かに、今の行為には愛情たっぷりだ。
ただ、その価値はマシュマロなんかとは比べ物にならないくらい、女の子の純情が詰まっている……。
バレンタインのお返しにキスなんて考える鞠絵ちゃんは、やっぱり夢見がちで、ロマンチックに憧れる女の子だと思った。
女の子同士でこういう行為にいたることに問題がないかどうかはこの際置いておくけど。
だ、だけど、今のって……
「今の……鞠絵ちゃんがしたかっただけ、じゃないよね……?」
鞠絵ちゃんが捧げた、というよりはアタシが奪われたって……そんな感じだったけど……。
「あ、ばれちゃってました♥」
「…………」
にこにこ笑いながら、悪びれることもなくあっさり認める鞠絵ちゃん。
でもやっぱり恥ずかしいらしく、頬はほんのり桜色のままだった。
まあ……それじゃないと割に合わないよ…………その……アタシのドキドキと、さ……。
「あの……イヤでしたか……?」
お返しとか言いながら、自分の方が満足できるようなお返しを考えるあたり、鞠絵ちゃんはアタシよりもちゃっかり者だと思う。
多分、鞠絵ちゃんのこんな大胆な面と、ちゃっかりした面を知ってるのはアタシだけだろう……。
そんな鞠絵ちゃんを、アタシだけが知っていることにちょっとした優越感を抱いてしまう。
「………………、…………うれしかった……♥」
でも、鞠絵ちゃんの一番ちゃっかりしてるトコは、結局両方満足できる方法を選んでるってことだろう。
万倍返しのお返しは……物じゃなくて想いで、しっかり返してもらっちゃったし……♥
アタシが思ってるより、鞠絵ちゃんはアタシのコトが好きなのかもしれない……。
だから、アタシが鞠絵ちゃんのことを好きだってコトも、アタシ以上に分かってるのかもしれない……。
失敗したら逆に相手を傷つける行為だっていうのに、鞠絵ちゃんなら喜べちゃうアタシのキモチ、良く分かってるんだから……。
誰よりも女心の分かる、誰よりも女の子らしい"彼氏"。
アタシにとっての鞠絵ちゃんは、そんな変わった存在に近い子かもしれない。
アタシは、そんな鞠絵ちゃんの"彼女"でいられるこの瞬間が、どうしようもなく嬉しかったりする……。
あとがき
バレンタインSSが思ってたより綺麗に終わってたと評判だったので、
何故か急遽作るハメになった(激しく語弊あり)まりりんホワイトデーSSです。
まあ、書けて後悔はない……っていうか寧ろご満悦ですが(爆
本当は「大したことないお返しでガッカリ」という風なものにしようとしたんですが、
直前でホワイトデーについて調べたところ、
「ホワイトデーにマシュマロを贈る」という情報を手に入れたので、
その時、"マシュマロみたいなもの"を閃いたので、そのままそれに変えてみました(笑
バレンタインの時、「"ちゅっちゅちゅっちゅ"だけがまりりんじゃない!」と意気込んでたのですが、
やっぱり"ちゅっちゅちゅっちゅ"でしたね(苦笑
バレンタインSSとは対の作品なので、同じくミニSSとしてまとめてみました。
またまた短くまとめて、やっぱりその点が何よりも嬉しかったりします(爆
更新履歴
H17・3/14:完成&一言雑記にて掲載
H17・3/15:SSのページに掲載
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