イレギュラー・バレンタイン







 今日はバレンタイン。
 女の子が、好きな男の子にチョコレートを贈るイベントの日。

 というのは、がさつで女の子らしくないこのアタシ―――鈴凛にとっては無縁なロマンチックイベントである。

 そりゃそうだ、お菓子会社の陰謀だなんて考えている、夢も希望もない理屈屋で、
 機械いじりとかが大好きで、おしゃれとかもさっぱりで、女の子としてイレギュラーなアタシだ。
 ……自分で言っててなんか悲しいけど。
 でも、例えお菓子会社の陰謀でも……好きな人がいるなら……
 どうせ女の子として生まれたんなら、みんなが楽しくはしゃいでる中、便乗して楽しんじゃってもいいじゃない……?

 そんな訳で、今日はアタシもアタシで女の子らしく、想い人へのチョコを贈ってみることに。
 もっとも、


「は、はぃッ、鞠絵ちゃん! ちょ、チョコ……だよ……」

「鈴凛ちゃん……声、裏返っていますよ……」


 あげる相手が女の子なら、やっぱりアタシはイレギュラーなんだろうけど……。


「うふふっ 真っ赤になって照れる鈴凛ちゃん、可愛いです…… ありがとうございます、鈴凛ちゃん」


 にっこり笑って、アタシがデパートで買ったおしゃれなチョコを、鞠絵ちゃんはこころよく受け取ってくれた。

 手作りなんておしゃれなことはアタシには似合わないし、
 何より試作品の1号〜6号まではそれぞれの形で見事に名誉の戦死を遂げてた。
 お陰でまた出費がかさみ、アタシの持病である慢性的財政難は更に悪化してしまった。

 チョコのための資金を援助してもらおうと行った先で、
 「普段は十円チョコや麦茶チョコ一粒で万倍返しを期待する鈴凛ちゃんのクセに」なんて咲耶ちゃん悪態つかれた……。
 失礼だな、事実だけど。

 ……だけどね、本命チョコには……やっぱり、ちゃんとしたものをあげたいじゃない……。
 第一、鞠絵ちゃんから万倍返しなんて要求できないし……。

 市販のチョコでも、アタシなりになるべくおしゃれなの選んだつもりなんだよ……。
 普段使わない、アタシの頭の中の乙女な部分をフルに動かして、ン時間もかけて選んだチョコ。
 気持ちだけなら、きっと手作りにだって負けない……と思う。

 そもそも、この日にチョコをあげるって行為は、結局のところ好きって気持ちを伝えるための儀式だと思う。
 手作りとか市販とか、そんなんじゃないと思うし……好きな子が女の子なら、別に男とか女とかだって関係ないはず。
 この際女の子が好きなことが問題かどうかは別問題なので却下しますけど。
 なにより、今日は小森さんからは気合の入ったチョコ貰ったし、他にも数名 からチョコを貰ってしまったワケで……。
 それにアタシ、女の子らしくないから、別に女の子らしく通例通りにのっとる必要もないだろう、と都合よく解釈してみる。

 大体…鞠絵ちゃん、アタシの気持ち……知ってるし……
 ……鞠絵ちゃんだって……アタシのコト……きっと……―――。


「あ、あのさ……。それで……ま、鞠絵ちゃんの方は……チョコは……?」


 ちょっと期待するように、もじもじと鞠絵ちゃんに訪ねた。
 まあ、女の子同士でそーいうカンケーなら、当然あげあいになっちゃうのが簡単な理屈で……
 だからまあ……アタシもちょっと……期待しちゃったりなんか、ね……


「あの、鈴凛ちゃん……わたくし、用意していないんです、チョコレート……」

「……え?」


 一瞬、耳を疑った。
 鞠絵ちゃんみたいにいかにもな女の子が……
 たま〜に自分をお姫様に投影しちゃったりなんかするくらい乙女ちっくな女の子が、
 "いかにも"な、このバレンタインというイベントにノータッチだなんて、すごく意外だった。


「そ、そうなんだ……あ、あはは……。……い、いや、だからどうってワケじゃ…ないん、だけど……」


 ―――そんな訳ない……。

 鞠絵ちゃんが、このイベントを意識しない訳……そんなの、アタシが誰よりも分かってるじゃない……。
 なら、答えはいたって単純明快……。
 好きな人……あげるほど好きって人が、いないってコトなんだろう……。
 鞠絵ちゃんが、アタシのために用意してくれているって……ちょっと、思い上がっていたかも知れない……。
 鞠絵ちゃん……やっぱりアタシのコト、そんなに……―――


「だって、わたくしはホワイトデーで返す立場ですから」

「…………はい?」

「だから……来月、鈴凛ちゃんの気持ちに応えますので、それまで待っててください……


 …………どうも、鞠絵ちゃんはアタシの"彼氏"でいたがる節がある……。
 いかにも女の子と鞠絵ちゃんと、オトコノコみたいなアタシ。
 普通に考えたら、どう考えても配役は逆だろうけど……


「鈴凛ちゃんの希望通り、万倍返しで込めた愛で……ね


 女の子としてのアタシを好きでいてくれる鞠絵ちゃんのことを、アタシはどうしょうもなく嬉しかったりする……。

 いかにもな女の子相手に"彼氏"をされて、「やっぱりアタシも女の子なんだなぁ」と自覚するアタシは、
 やっぱりイレギュラーなんだと思う……。










あとがき

バレンタインデーまで取り込んでたのをいいことに、一日遅れて掲載させても大丈夫だろうと、
一日遅れで完成させたまりりんバレンタインSSです(笑
ミニSSということで一旦はトップの一言雑記に載せたのですが、
折角作ったのに埋もれさせるのも勿体無いと、いつもの貧乏性が働いたので、
めでたくSSの方に掲載することにしました。

久しぶりに短く書けました。
そのことが何よりも嬉しいです(爆

両方があげるだけが百合バレンタインとしての方法ではないと閃いたのが元のはずです。
実際は鞠絵の「彼氏化願望」について主張したかった作品だったり(笑
それを、バレンタインというイベントで上手く使えそうだったので作ったのがこの短編です。
去年のバレンタインが終わってしばらくしてから閃いたネタでしたのでお蔵入りを覚悟していたのですが、
まさか翌年に、短編とはいえ完成して日の目を見れるとは思いもしませんでしたね。


更新履歴

H17・2/15:完成&一言雑記にて掲載
H17・2/16:多少修正を加えてSSのページに掲載


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