真っ白なチャペルの中、鳴り響くウェディングベル。

 聞こえてくるみんなの祝福の声。

 その中で、姫は純白のドレスを着て、
 大好きなおムコさんと、永遠の愛を誓う……

 女の子にとって最高の瞬間を迎えていましたの……











 

White snow wedding













「……という夢を見たんですの」

「へー、白雪ちゃんもやっぱり女の子なんだね」


 もうすぐ2月に入ろうかという時期の休日のある日、
 ボクと、それから白雪ちゃんは、ボクたちが通う若草学院の運動場まで来ていた。
 ボクは大好きな趣味のランニングのために、
 白雪ちゃんはそんなボクのためにお昼のお弁当を支給してくれるために、
 ふたりでここまで足を運んでいたんだ。

 学校のグラウンド脇で、敷き物の上に白雪ちゃんが持参してくれたお弁当を広げ、
 お昼の休憩のついでに白雪ちゃんと楽しくお話をしながら、美味しいお昼ごはんを一緒に食べていた。
 自分達が通う学校の運動場なんて普段見慣れた場所でも、ただ敷き物の上にお弁当を広げるってだけで、
 ちょっとしたピクニック気分に早変わりするから、なんだかちょっと不思議だ。

 ボクは、白雪ちゃんの話に感心したように相づちを打ちながら、特製の栄養満点ハムサンドをはむはむと口にする。
 ……だ、駄洒落なんかじゃなくて偶然だよっ!


「やっぱり、姫も女の子ですのから、そーいうのには憧れますの……」

「あははっ。白雪ちゃんらしいや」


 白雪ちゃんはすっごく女の子らしい女の子。
 可愛らしくて、お料理だって上手で、しかもみんなのことを思いやれる優しい女の子。
 今日だって、運動するボクのためにって、運動に適した栄養のお料理やスペシャルスポーツドリンクをふるってくれたんだ。
 そんな相手のために思いやれる気持ち、―――献身的っていうのかな?―――それを持っている白雪ちゃんは、
 そういう「女の子らしさ」から疎いボクからみても、すっごくお嫁さんにしたいタイプだって思う……。


「でも……」

「ん?」


 突然、何故か白雪ちゃんは顔を真っ赤にして、もじもじと目を伏せちゃったんだ。


「どうかしたの?」


 気になって、ボクがたずねると……


「その……相手……衛ちゃんだったんですの……」

「え、ええっ!?」


 白雪ちゃんは、驚くようなことを言ってきたんだ。
 ぼ、ボクが……白雪ちゃんの……お婿さん!?


「あ、もちろん夢の中だから、衛ちゃんはちゃんと男の子でしたの」


 いや、それはそれでなんかイヤだな。


「別に姫、衛ちゃんとそうなりたいって考えてるつもりはないんですのけど……。
 でも、1番手軽な位置にいて、1番それらしいのが衛ちゃんだったから、そんな夢を見たんだと思うんですの」

「それらしいって?」

「かっこよくって優しくってスポーツも万能で、理想的な素敵な花婿さん像、ですの」

「んー……言いたいことは分からなくもないけど……それって、ボク、喜んでいいのかなぁ……?」


 なんて、複雑な気持ちになってボクを余所に、白雪ちゃんは空を見上げるような形で、ぼーっと物思いにふけっちゃったんだ。


「今までも、そうなりたいって、花嫁さんには憧れてはいましたけれど……そんなこと普段から特に考えてるわけじゃないですの。
 だから、こんな風に夢で改めて見ると……なんだか今すぐにでもそうなりたいなって、ついつい考えちゃいますの……ムフン♥♥


 ほっぺたに手を当てて、ぼーっと自分の世界に入り込んじゃった白雪ちゃん。
 今そのことに憧れている様子も、ボクには誰よりも女の子らしいって思えた。
 それに、白雪ちゃんはお料理が得意で、特にお菓子を作ることが大好きなところや、
 いつも着ているようなフリフリの服も良く着こなせているところも、勝手なイメージだけど特にそうだって思えるし。
 だからきっと、お嫁さんになった姿も、すっごくすっごく似合うんだろうなぁ……。

 ボクも自分の想像の世界に入って、そんな白雪ちゃんを想像してみようと思った。
 きっと、すっごく素敵なんだろうなぁ……。


「…………」


 ……って思ったけど、あいにくボクにはそれを頭の中で形作れるほど、
 女の子の服装についてあまり知らないらしい……。
 なんかちょっと悔しい。

 そう思ったら、ボクもなんだか無性に白雪ちゃんのお嫁さん姿を実際に見てみたくなって……


「あ、そういえば……もうすぐ白雪ちゃんの誕生日だったよね」

「え? あ、はいですの」

「だったらさ……―――」


 ……つい、面白いことが頭に浮かんだんだ。
























 それから、時は流れて2月11日……。
 その日……とある小さなチャペルから、ウェディングベルが鳴り響いていた。


「綺麗だよ、白雪ちゃん」


 その更衣室には、着ている人間の名前のように、真っ白いドレスに身を包んだ女の子―――白雪ちゃんの姿があった。


「あ、あの……こんなに早く……姫の夢、叶っちゃって、いいんですの……?」


 その、雪のように真っ白なウェディングドレスに身を包んだ花嫁さんは、
 なんだか幸せ過ぎて逆に困ってるって感じにそう言っていた。
 それは白雪ちゃんが夢で見た光景には及ばないかもしれないけど、
 やっぱり思ってた通りとっても綺麗で……そして可愛い花嫁姿だった……。


「違うよ。これは本番前の練習だから……白雪ちゃんは、もう1回花嫁さんになれるんだよ」

「も、もう1回って……そんなに恵まれて、姫は……姫は……幸せ過ぎて、なんだか怖いですの


 なんて口では言っていたけど、それでも嬉しいことには変わりないらしく、
 白雪ちゃんはほっぺたに手を当てながら、いつもみたいに「ムフン♥♥」なんて口にして、
 体全体とおしりをフリフリしながら嬉しそうに照れていた。

 これは、一足先に白雪ちゃんの夢を、ほんのちょっとだけ……つまみぐいみたいな感じで叶えるための、
 ボクらから白雪ちゃんへの誕生日プレゼント。


「うふふっ 衛ちゃんも、なかなか素敵な計らいを思いつきましたね」


 白雪ちゃんのドレスの着つけのために居た鞠絵ちゃんが、ボクに向かってそう言う。
 一緒に着つけを手伝ってた咲耶ちゃんや花穂ちゃんも横からそうだなんて頷く。


「偶然だよ。それに、実現できたのはみんなの協力があったからだしね」


 白雪ちゃんの憧れた夢は、ボクの単純な思考から、なんとあっさり叶っちゃうことになったんだ。

 ボクは、もうすぐ白雪ちゃんの誕生日だっていうのをいいことに、
 ちょっとした「結婚式ごっこ」を白雪ちゃんへのプレゼントとして贈るってことを、たまたま閃いたんだ。
 それをみんなに言ってみたところ、それはいいアイディアだ、面白そうだ、なんて、みんなで賛成してくれたんだ。
 正直、白雪ちゃんの誕生日には何を贈ったらいいかなって、ものすごく頭を悩ませていたから、なんか丁度良かったよ。
 ……ほら、ボクって女の子の欲しそうなものに疎いしさ……。


 突然のことで結構慌しく準備したけど、時間は2週間くらいあったから、準備は十分間に合わせることができたんだ。

 会場は亞里亞ちゃんが用意してくれた。
 本当は亞里亞ちゃんのお屋敷の一室を借りて執り行なおうって考えてたんだけど……
 そのことを亞里亞ちゃんに話したら「普段お菓子を作ってくれる白雪ちゃんへのお礼なの」って、
 まさかチャペル一式をレンタルしてくれるなんて……亞里亞ちゃん家の財力、侮りがたし……。

 お陰で、別にそこまで大きくする気はなかったのに……考えていたよりもずっと本格的な結婚式ごっこになっちゃったんだ。
 やっぱり人には優しくしておくものだね……。


 そして、白雪ちゃんが今着ているドレスは、みんなの手作りでできているんだ。
 会場と一緒で、亞里亞ちゃんが用意することはもちろんできたんだけど、
 咲耶ちゃんが「手作りの方が気持ちが込められるから」なんて提案し出したんだ。
 意外と器用だった鞠絵ちゃんがデザインをして、それを中心に数人が共同作業で製作することに。
 本当は和裁も習っている春歌ちゃんに任せようとしたらしいけど、
 春歌ちゃんに任せると白無垢ができちゃうから残念ながら落選したんだって。
 ちょっと手間が掛かることにはなったけど、
 それでもみんなは気持ちを込めたバースデープレゼントのつもりで作ってたから、
 口を揃えて「楽しい苦労だった」って言っていた。

 それからヴェールについている、鮮やかに彩られた花は花穂ちゃんが用意したもの。
 花穂ちゃんが丹精込めて育てたお花さんたちを、なんとこの晴れ舞台で使って欲しいって言ってくれて、
 白雪ちゃんはとっても感激していた。
 ……そして、それはボクも……。
 それから、綿帽子は春歌ちゃんが用意したもの。
 でも今回は洋式のものが執り行われるので綿帽子は必要ありません。
 誰よりも何でもできると思われた春歌ちゃんは今回役立たずでした。

 だからこの衣装一式は、華やかさは本格的なのには負けちゃうけど、
 それを補えるくらい、みんなの気持ちのこもった素敵な衣装なんだ。
 そんな想いのこもったドレスも、いつもフリフリがついた可愛らしい服を着こなせる白雪ちゃんだけあって、
 思ってた通り白雪ちゃんにすっごく似合っている……。
 思わず「とても可愛いよ」って言っちゃうような……そんな、立派な花嫁姿……。


 そして今日、そんなみんなの頑張りの結晶のお陰で、
 ちょっとしたお遊び程度のことなんだけど、白雪ちゃんのバースデー結婚式が執り行われる。
 こういう時、誕生日が祝日と被っているっていうのは羨ましいことだと思う。


「ここまでできたのは、やっぱりみんなが居てくれたからだよ」

「違いますの。これもみんな、衛ちゃんがいてくれるからできることなんですの」

「そうだよ。だってアイディアを出したのは衛ちゃんだし……それに、衛ちゃんは1番重要な役目を果たしてくれるんだからね」


 結婚式といえば、当然相手―――「新郎」が必要になるわけで……。
 新郎がいなかったら、単純にドレスを着るだけのお披露目会と変わらない。
 でもそうじゃなくて、今日は白雪ちゃんに花嫁さんの気分を味わってもらうってことが重要なんだ。
 だから、新郎がいなかったら結婚式らしさも半分になっちゃって、そんなに意味がなくなっちゃう……。
 ……ということで、


「衛ちゃんも、すっごく似合ってるよ、タキシード」

「そ、そんなこといわれても嬉しくなんかないよ……」


 花穂ちゃんに似合うなんて言われて、照れたような困ったような顔と声で返す。

 ……そう、ボクが白雪ちゃんの相手役を買って出ることにしたんだ。
 って言っても、花嫁さんの気分を味わってもらうための、オプションみたいな役だけどね。
 ボクが言い出しっぺでもあるし、
 それに、この白雪ちゃんへのバースデープレゼントのきっかけになってくれた夢のことだってあるからね……。


「こ〜ら! 花婿さんがそんなこと言っちゃダメじゃないの!」

「え?」


 横から聞こえてきた声に反応して振り向くと、
 いきなりツンと、軽く叱るように咲耶ちゃんにおでこをひと突きされた。


「な、何するのさぁ〜」

「なにって、衛ちゃんの失言を叱ってあげてるのよ。特に、可愛い花嫁さんの前では、ね

「え? ……あ、そっか」


 ボクったら、折角の結婚式なのに、花婿さんが結婚式の衣装を着て嬉しくないだなんて……。
 そりゃあ、お遊び程度のことで、新郎なんて形式的に居るだけのようなものだけど、
 でも新郎さんが服装に文句を言ったら、折角の気分が台無しになっちゃうのに……うっかりしてたなぁ……。


「文句はあとで好きなだけ言っていいから、せめて今だけは、白雪ちゃんの立派なお婿さんでいてあげなさい」

「うん!」


 いつになるかは分からないけど……10年後かそれ以上か、もしかしたら逆にもっと早く、白雪ちゃんは本番を迎えるんだと思う。
 その時、成長した白雪ちゃんは今よりももっともっと魅力的になっているはず……。
 そんな白雪ちゃんを、男の人が放っておくわけないもんね!

 その時は、ボクみたいな"ついで"な花婿さんじゃなくて、
 本物の……ボクなんかが叶わないくらいすっごくカッコいい男の人が、白雪ちゃんの隣に立っているんだろうな……。
























「うっわー おいしそうなごちそうに、おっきなケーキだぁー♥♥


 会場の方から、雛子ちゃんの嬉しそうな声が響いてくる。
 その原因は、今まさにテーブルの上にずらーっと並べられてる最中のごちそうの山。
 そして、それとは別の場所に運ばれてくる、今にもどーんって音が聞こえてきそうな大きなケーキは、もちろんウェディングケーキ。
 それは普通のウェディングケーキと比べるとずっと小さなものだけど、
 儀式用の飾りのケーキと違って、これはちゃんとみんなで食べられるケーキなんだ。
 だから、雛子ちゃんや亞里亞ちゃんみたいに、いつか大きなケーキを食べてみたいって思ってる子が、
 とっても待ち遠しいって思う気持ち、分からなくもないんだよね……。


「でもまだ食べちゃダメですよ、雛子ちゃん。準備、終わってませんからね」

「ぶー、可憐ちゃんのイジワルー」

「そうデスよー! こんなにあるんだから少しくらい良いじゃないデスかー!」

「四葉ちゃんはおっきいんだから尚更我慢してください」


 あまりのおいしそうなお料理を前に、雛子ちゃんだけじゃなくて四葉ちゃんまでも、
 並べている途中だっていうのに食べたいなんて言い出す始末。
 実はその脇にひっそりいる亞里亞ちゃんも、会話にこそ参加してないけれど、
 それこそ獲物を狙うハンターのように大きなケーキをじーっと見ていた。


「うふふっ お料理はいっぱい作りましたから、あとでたーんと召し上がって、ですの♥♥


 そこに、ドレス姿のままの白雪ちゃんが割って入ってきて、雛子ちゃんたちを軽くなだめた。
 そうなんだ、料理もケーキも全部、今日の主役の白雪ちゃんがこしらえたもの。
 作ったのが白雪ちゃんとあれば、雛子ちゃんや亞里亞ちゃんじゃなくても、すっごく楽しみに感じちゃうよね。
 それにボクだって……本当は、ちょっとだけ食べたいなって思ってるもん……あははは……。


「まったく……折角の晴れ舞台だって言うのに、なんで花嫁本人が料理作ってるのよ……」

「まあ、花嫁たっての希望でしたから……」


 そんな様子を、少し離れたところで眺めながら、咲耶ちゃんが春歌ちゃんにぶつぶつと呟いていた。


「だけど、今日のは白雪ちゃんの誕生パーティーだって兼ねてるのよ」

「いや、まあ、それはそうですけれど……」


 咲耶ちゃんの迫力に押され、春歌ちゃんもちょっとフォローの言葉に困っていた。
 そりゃあ、折角の主役なんだから、こういう日くらいみんなに甘えれば良いのにって、ボクだって思ってるさ。
 だけど、結局いつも通りに、白雪ちゃんがお祝いの料理とかを自分で作っちゃったんだ。
 亞里亞ちゃんも、一流のシェフたちに頼んで本格料理を頼んでも良いとは言っていたけど……
 まあ、ちょっとしたお遊び程度なのに、そこまでやるとなんかかえって恥ずかしい……。
 そして、春歌ちゃんはまたも出番を取られて、すごくやきもきしていた。


「こんな日くらい、白雪ちゃんの手を煩わせたりしないで……―――」

「そんなことはないですの


 なぜか白雪ちゃんに代わりぶつぶつと愚痴ってた咲耶ちゃんを、いつの間にか駆け寄っていた白雪ちゃんが横から口を挟んできた。
 咲耶ちゃんが代弁するように愚痴っていたことは、当の本人はそのことをなんとも感じてなく、まるでケロリとした様子。


「姫は、みんなに姫のお料理を食べてもらえて……そしてそのお料理で美味しいって言ってもらえることが、
 喜んだ笑顔を見せてもらえることが、1番のプレゼントになりますの ムフン♥♥


 いつもの口癖を最後に付け加えて、自分の手間を心底楽しそうに語る。
 さすがの咲耶ちゃんも、本人からこう言われちゃ、もうぐうの音も出なくなっちゃったんだ。


「あははっ……! 花嫁本人がそれで満足してるんだからさ、良いんじゃないの?」


 やっぱり、そういうところはホント、白雪ちゃんらしいや……。

 最近の結婚式には、スカイダイビングやバンジージャンプを取り入れたりするものもあるって、なんかのテレビで見たことがある。
 だから、花嫁さんが自慢の料理をふるう式があったっておかしくないよね?
 っていうより、そういうのは普通にあると思う。

 きっと、白雪ちゃんのことだから本番でも花嫁本人が料理をふるって、
 そして間違いなく、みんなから「美味しい」って言ってもらえるに違いないんだろうな……。
























 そして、準備が終わると、すぐに式が始まったんだ。

 神父役を務めてくれる鞠絵ちゃんが、段取りをメモした紙を見ながら、司会進行役も兼ねて着々と式を進めてくれた。
 お陰で、式はいたって順調に進んでくれた。

 雛子ちゃん、花穂ちゃんによるフラワーガールや可憐ちゃんのピアノ演奏。
 四葉ちゃんによる写真撮影は……ちょっと恥ずかしかったかな……?
 それから、亞里亞ちゃんの聖歌に春歌ちゃんの演歌……春歌ちゃん、チャペルでそれは勘弁してください。

 最初は早くごちそう食べたいなんてはしゃいでいた面々も、式が始まるなりそれぞれの役割はちゃんと果たしてくれたんだ。
 式の最中の幸せそうな白雪ちゃんを雰囲気から感じ取って、それに見入っていたから、頑張ろうって思えたのかもしれない。

 その後で、鈴凛ちゃんのお祝いメカによる"破壊活動"――"失敗"ともいう――と、年長3人組の徹底武力行使によるその阻止が行なわれた。
 何とか会場やごちそうとかをほぼ無傷に守られたけど、鈴凛ちゃんの借金はまた増えた。
 ……まあ、ところどころはちゃめちゃだったけど、でもそれなりに楽しい「見せ物」にはなってくれたんだよね……。
 とりあえず、春歌ちゃんはここに来てやっと活躍ができたので良しとしてあげよう。

 そうして、そんな式も、あっという間にクライマックスを迎えようとしていた……。


「それでは、指輪の交換を」


 ボクは、神父役の鞠絵ちゃんに言われるがまま、白雪ちゃんの左手の薬指に指輪をはめた。
 この指輪は、"ごっこ"に相応しいおもちゃみたいな大したことない指輪。
 実は、指輪も亞里亞ちゃんが用意してくれるって言ってたけど、
 今日亞里亞ちゃんから用意してくれたものを考えるに、多分本物が送呈されるだろうからって断ったんだ。
 それじゃあ「本物を傷つけたらどうしよう」とか、そんなんで楽しめるものも楽しめなくなっちゃうからね。
 それに、本物は本番までとっておくために…………なんてね……。

 だけど、指輪自体の価値なんて全然関係ないなって、ボクにはそう思えたんだ……。
 多分、白雪ちゃんも同じ考えだと思う……。


「ありがとう衛ちゃん……」

「ん?」

「本当の結婚式みたいで……。姫、すごくうれしいですの……」


 薬指に指輪がはまって、こみ上げるものがあったのか、白雪ちゃんは今にも泣いちゃいそうな感じに―――
 でも悲しくてじゃなくて、嬉しくてそうなったように……少しだけ声を震えさせて、


「ちょっとしたお遊びとか、ごっこ遊びだっていうのは、心のどこかで分かっているけど……
 でも……それでも、憧れていたことがこんなに素敵な形に叶って……姫は……本当に……――」


 ―――幸せですの……。

 今にも泣きそうな声で、そう続ける。


「衛ちゃんも、本物のおムコさんみたいで本格的ですし……


 うん、それ褒めてないから。


「ありがとう衛ちゃん……」


 泣きそうになるくらい喜んでもらえて、言い出しっぺとしても、すっごくすっごく嬉しくなっちゃう……。


「ほら、まだ終わってないんだから、続きを楽しもうよ!」

「……はい、ですの……♥♥


 白雪ちゃんの背中を押してあげるように、言葉を掛けてあげると、泣きそうだった顔は一瞬でいつもの明るい笑顔に早変わり。
 泣きそうになったのも、それを振り払ったのも、両方同じ「嬉しい」って気持ち。
 でもやっぱり、嬉しい時は笑ってなきゃ、ね……。

 花嫁さんの表情が、いつものように明るい表情に戻ったところで、ボクの指にも指輪がはめられた。
 ボクなんか、"ついで"の花婿なのに……それでも、まるで本物の気分に浸って……白雪ちゃんと同じに、何かがこみ上げてくるや……。

 そんな様子を、ふふふって感じに笑いながら、暖かく見守っていた神父役の鞠絵ちゃん。
 鞠絵ちゃんもボクの考えに賛同してくれているのか、早く式の続きを進めてあげようと、
 メモに目を移して、次の段取りを口にしてくれた。


「それでは、誓いの口づけを…………えっ?!」


 ……………………。


「「ええっ!?」」


 突然の言葉に、同時に驚いた新郎新婦。
 そりゃ結婚式の段取りを、しかもいかにも女の子が憧れるような形式で執り行うと、
 トリが"それ"になるなんて、ちょっと考えれば分かることだったけど……。
 でもまさか、そこまで本格的にやるだなんて……ぼ、ボク、考えてもいなかった……。
 そのまま読んだ鞠絵ちゃんもビックリ……ってことは、鞠絵ちゃんも知らなかったらしい……。

 だ、誰さ、このメモ作ったの!?

 って、恨めしく後ろ向いたら…………咲耶ちゃんかよっ!!
 うわー、なんか咲耶ちゃん、「どう、気が利くでしょ」って、さも大手柄だと言わんばかりに、
 誇らしげな感じでにっこり笑ってこっちに手を振っているー?!


「え、っと……どう、しましょうか……?」


 当然、そこまでやるなんて考えてもいなかったのか、進行役の鞠絵ちゃんもちょっと困ったようにたずねてくる。


「あ、あはは……ど、どうしよっか……? せめて、フリだけでも、やっておいた方が……?」


 さすがにここまで来てテンポが乱れて、なんだか釈然としないまま終わるのもどうかと思うけど……
 でも、「ごっこ」でそこまでやっちゃうのも考え物だし……。
 良くことわざでも「終わり良ければ……」、なんていうくらいだから、やっぱり終わりを適当に飛ばすって言うのは……―――


「こ、ここまできちゃったんですのから……」

「……え?」

「ここまで、姫に結婚式を味わわせておいて……今更、中途半端だなんて……」

「え? えっ!?」

「衛ちゃん! 責任とって、姫に誓ってもらいますの♥♥

「えぇ〜〜〜〜〜っっ!!?」


 なんと白雪ちゃんったら、さっき笑顔に変えた顔を更ににっこりと変えて、驚くようなことを言ってきたんだ。
 でも、その表情はすっごく恥ずかしいのを抑えて、無理して笑顔にした顔で……
 そうだって分かるくらい、顔はすっごく真っ赤になって……声だって、今にも上ずりそうになっていた。


「せ、責任って……」

「姫の心を……ここまでにしちゃった責任、ですの……。
 ……そんな気持ち、ないって思ってたのに……なのに……良いかな、なんて思うなんて……」


 だけど、「無理してる」っていうのは、恥ずかしくて今にも目を伏せたいのを抑えて、って意味で……。
 絶対にイヤだからってことなんかじゃなかった。
 だって、白雪ちゃんの顔は、その……輝いてる、っていうのかな……?
 そんな、笑顔を向けているんだから。イヤだったら、こんな顔できないもの……。


「わ、わかった、よ……」


 ボクは、そんな白雪ちゃんに押されるように……つい、首を……縦に振っちゃっ、た……。

 口にして、急に、ボクの心臓の音は、大きくなってきた。
 しっかりと「する」って、言葉にしちゃったから、だから余計に実感しちゃって……
 心臓が、バクンバクンって……まるで、胸を内側から激しくノックされているように、体中に響いてくる……。
 ボク、普段からいっぱい走ってるけど……でも、こんなにドキドキしたのって……多分、生まれて、初めてだよぉ……。


「う、うぅ〜〜……」


 あまりにも緊張してきたせいで、自分でもどういう意図で出したかも分からない、意味もない唸り声が口から漏れた。

 これはボクが言い出したことなんだから……
 これは、今日の主役の、花嫁さん自身からのリクエストなんだから……。

 言い聞かせるように頭で反復した。
 そして、覚悟を決めて、ヴェールをめくるために手を伸ばす。
 だけど、ただめくるだけの行為も、ドキドキしすぎて、手が思うように動いてくれなくて、なかなか上手くいかない。
 思ったより手間取りながらも、なんとかヴェールをめくると、白雪ちゃんは真っ赤なほっぺたのまま、
 目を瞑って、ボクに向かって顔を……その……顎、っていうか……口を突き出してきたんだ

 ……ってことは、これって、ほっぺとかおでことかで済ませるんじゃなくて……やっぱり…………


「――――っっ!?!?!」


 考えただけで、一気に400m走を走りきったくらい、心臓が跳ね始めた。

 そ、そりゃあ、するって言ったからには……やっぱり、ちゃんとしなきゃ……いけないんだろうけど……
 だけど……こんなこと、遊び気分でやっちゃっていいのかな……?

 ドキドキする気持ちと、不安な気持ちと……他にも色んな気持ちが渦巻いて、
 ボクの頭の中はぐしゃぐしゃになっちゃったんだ……。


(ぼ、ボク……こんな時どうすれば良いのかなんて……わ、分からないよぉ〜〜……)


 白雪ちゃんだって多分、恥ずかしいのを抑えて、期待……しているんだろうし……
 主役の期待には、やっぱり応えなきゃだし……だけど、だけどボクなんかが……そんな……

 ボク……これから、この……白雪ちゃんの……く、くちびるに……


(あぁ〜〜っ!? 考えただけで、もうドキドキで頭が破裂しちゃいそうだよぉ〜〜っっ……!!)


 さっき、こんなにドキドキしたのははじめてだって思ったばっかりなのに……もう、動悸の新記録は更に塗り替えられていた。
 ノックっていうよりは……もう、別の生き物が暴れているような、それくらいボクの心臓は激しく動いていた。

 最初は……軽い気持ちで、白雪ちゃんの夢を叶えてあげようって……ただそれだけだったのに……。
 まさか、ここまで本格的にやることになるなんて……


「―――――――」

(……あれ?)


 ……気がつくと、ボクの周りからは音が消えていたんだ。
 それだけじゃなくて、周りの景色も、みんなも、なにもかもが消えているような錯覚に陥って……
 ただ白雪ちゃんだけが、ボクの世界の中に残っていた。

 頭の中はぐしゃぐしゃなくせに、それでも白雪ちゃんのことだけは、はっきりと分かっていた。


「…………」


 可愛く目を瞑って、恥ずかしい気持ちを抑えながら待っている白雪ちゃん……。
 その、純白のドレスに身を包んだ白雪ちゃんに……ボクは、それくらい気持ちが集中していた……。
 運動してても、こんなに集中できたことなんて、今までなかったのに……。


「白雪ちゃん……」


 確かに……この結婚式は、ごっことか遊びとか、そんな軽いものだけど、


「ボクは、白雪ちゃんを……」


 でも気持ちは……込められた想いは、適当なんかじゃない……。


「永遠に……愛することを……」


 だったら……―――


「誓い…ます……」






 言葉と同時に、ボクは、白雪ちゃんへの愛を誓った……。

 後ろから、みんなが拍手を送ってくれいるような気がするけど……良く聞こえない。
 祝福を贈ってくれるみんなには悪いけど……そのくらい今のボクの中には、白雪ちゃんでいっぱいだったんだ……。

 この結婚式は、ちょっとしたごっこ遊びだったけど……でも、この瞬間だけ……この誓いの儀式の間だけは……
 白雪ちゃんは、正真正銘の立派な花嫁さんに…………ボクのお嫁さんに……なっていたんだ……。
























    キーンコーンカーンコーン……


 教室に、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。


「ふぁ〜〜〜……」


 授業4時間分を終えて気が抜けたからか、それとも退屈だったからか、ついつい大きなあくびがボクの口から漏れる。
 体を動かすのは得意だけど、やっぱり頭を動かすのはどうも苦手だなぁ……。

 数日前……白雪ちゃんの誕生日にあんな一大イベントをこなしたっていうのに、
 ボクはいたって普通の日常を送っていたんだ。
 喉もと過ぎればなんとやら、なんて咲耶ちゃんが言ってたっけ……。

 でも、普通の日常ではあるけど……でも、それでもいつもとはどこか違うものに変わった日常を……。


「ふふふっ……ま・も・る・ちゃ〜ん」

「……な、なに、真理子ちゃん?」


 さっきまで使っていた教科書とノートを、机の中にしまっている途中、
 猫なで声で不気味に近づいてきた、クラスメートの真理子ちゃん。


「なにって……決まってるじゃない。またまた若奥様が来てるって、教えてあげようと思ってね

「え? あっ! そ、そういう言い方しないでよぉ〜……!」


 若奥様……と、冗談混じりに真理子ちゃんは口にする。
 それが誰のことかは、ボクには真理子ちゃんに言われるまでもなく気がついていた。
 今日もボクのためにお弁当を持ってきてくれる、優しい女の子のことを……。


「じゃあ、この間からつけ始めているそのお揃いのものはなんなの?」

「え、えっと……これ、は……その……」


 慌てて左手の、特に薬指の辺りを右手で覆って、真理子ちゃんから隠すように、両手を後ろに回した。

 あの日以来、どうしてか外せなくなっちゃったこの指輪……。
 ボクもオシャレに目覚めちゃったのか……それとも……―――


「……ど、どうでもいいじゃない! ね! ね!」

「ふ〜ん……」

「ま、待たせちゃ悪いから、ボクもう行くよっ!」

「あ! もうっ! 逃げるな、衛ちゃーん!」


 クラスメートの言うように、逃げるように席を立って、教室から出た。
 そこでなんとなく、さっきまで覆っていた右手を離して、左手の薬指につけっぱなしの装飾品に視線を移した。
 ここ数日で、からかわれるってことは分かってるはずなのに……それでもなぜだか外す気にはなれないこの指輪……。

 どうしてなのかは良く分からないけど……でもなんだかそのことを考えて、ひとりくすりと笑ってしまった。


「衛ちゃん、何か面白いことでもあったんですの……?」

「ん? ……いや、なんでもないよ」


 ボクがそう返すと、わざわざボクに会いに来てくれた人物―――ボクのお嫁さんは、お弁当を抱えながらにっこりと笑って、
 そして嬉しそうに、


「さぁ、衛ちゃん 今日もいっぱい、召し上がってくださいですの♥♥









あとがき

高原涼風さんからのポイントリクエスト、白雪SSでした!

リクの内容が「白雪がらみの話ならなんでも」でしたので、
「妹×妹結婚式」なんて、なりゅーの個人的趣味全開のシチュエーションで描かせていただきました(爆
そのせいか、結構閃いたままをあてはめた作品ですので、結構早く書き上げることができました!
また、時期的にも内容的にも丁度良かったので、ついでにBDSS仕様にもさせていただきました。

……まあ、どうもメインに据えるキャラを相手役にする方が書きやすいので、
肝心の白雪が書ききれていないような気がしなくもないですが……(苦笑

内容ですが、実はフツーに書いてみました。
普通に、「スポーツ少年とお料理好きの女の子」のネタで、在り来たりな結婚式ごっこネタ(?)を書いたつもりです。
なのに成立するあたり、まもしらは凄いと思います(笑
まあ、ちゃんと違和感なく書くため、衛の女の子的な部分も多少込めましたけれど。

そのため、今回はとことん衛を「オトコノコ」として描きましたが、これはわざとです。
個人的に希望する作品展開では寧ろ逆で、否が応でも衛を「女の子」と意識して欲しいのが本音だったりします(笑
でも、今回は「普通に描く」ことを目的としましたので、あえてその点には触れずに描いてみました。
機会があれば、「男の子として意識していたはずの衛を、女の子と認識してしまう」という、
その先に待ち構えそうなネタも書いてみたいところです……機会があればですが(苦笑

結構なりゅーの趣味で描いてしまいましたが、それでも楽しんでいただければ幸いです……。
あ、ちなみに、はむはむとハムサンドを食べるのは駄洒落です(笑


更新履歴

H17・2/10:完成


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