アタシはがさつで……まるで男の子みたいな女の子……。

  でもある日、そんなアタシの前に、まるで物語にでも出てくるような……

  可憐で、儚そうで、可愛くて……そんな、女の子にとっての理想みたいな女の子が現れたの。

  自分は女の子らしくないから、女の子らしくなんてなれないからって、ずっと思ってた憧れの存在……。
  そんな彼女が、アタシと同じ時間を過ごしている。

  アタシはそれが嬉しくて……"憧れ"が、すぐ側に在る事が嬉しくて……
  アタシもそんな時間を満喫していた……。


  気がつけば彼女を見るようになっていた。
  いつも彼女を見ていた……。

  それで、ある日突然気がついたの。


  そう……その想いは、ただの好意じゃなくて……






    ……恋、だったの……―――。











 

現世いまで好きになった女性ひと













「――……ってな感じで…………」

「………………で、その格好ですか? 千影さん」


 普段、後ろでまとめている髪を下ろし、うさぎの髪飾りをつけ、ピンクでフリフリのワンピースを着るという、
 いかにも「おとめちっく」な格好に身を包んだ私を見下すように、
 趣味の機械いじりの手を休めたがさつな女の子――鈴凛くんは、何故か敬語混じりでそう言い放った。


「フフ…………可愛いだろ…………?」


 くるりと、まるで舞踏を踊るようにその場で回り、鈴凛くんにその服装を見せびらかす。

 わざわざこんな格好に身を包み、彼女の家まで見せびらかしに来た理由は、
 つまりは文頭のモノローグにあるように、鈴凛くんを誑かそうと……もとい誘惑しようとの計らいから……。

 そんな私の可憐で優美なる姿を、


「千影ちゃん、自分がクール&ビューティーなキャラだってこと覚えてる?」


 いたって冷淡に、冷めた態度で鈴凛くんは質問を返してきた……。


「フ…………そんなもの…………君にハート共々奪われたさ」

「ごめん。アタシ盗った覚えないし、盗ったなら返す」

「フフ…………君が私を変えたのさ…………」

「ごめんなさい千影ちゃん、お願いだから元のクール&ビューティーに戻って」


 私今頭痛してますとアピールするように、指で頭を押さえ吐き捨てるように返された。


「大体、そういう明らかに演技してますって口調はなんなのですか? 千影さん」


 私の努力の結晶で積み上げた「おとめちっくはぁと」な身振り素振りに対し、
 またも何故か敬語混じりになりながら、呆れたように訪ねてくる鈴凛くん。


「なんでぇなんでぇ、そーいう乙女チックキャラが受けると思って、わざわざキャラ作ってやったのによ〜」

「それは作ってるって認めた時点でイメージ倒壊するんじゃないの? というかいくらなんでもいきなり過ぎて明らかだから」

「もうっ、つれないなぁ♥♥


 つんっと鈴凛くんのおでこを指で突いて、いかにもな乙女を更にアピール。
 鈴凛くんの体が仰け反る。
 どうもまだ不慣れだったためか、力加減が上手くできなかったようだ……。
 額を手で押さえる鈴凛くんは、「痛い」と目で訴えかけてきていた。


「どうでもいいけどさ、千影ちゃんにハートマークはこの上なく似合わないね……」

「地味に酷いな…………君は…………」

「人をがさつとか決め付ける人に言われたくない。そりゃがさつなのは認めるけどさ……」


 言葉の後ろの方を、ばつが悪そうに呟いて付け足す。
 どうもがさつというのは本人も気にするところらしく、さっきまで呆れ一色だったその顔も一転、拗ねた表情に変化していた。


「フフ…………そういう微妙に乙女なところも…………可愛いね」

「う、うっさいわね!」


 鈴凛くんの赤く染まった頬に手を添えようと片手を伸ばす。
 しかし、その照れている感情を誤魔化すように私の手を叩き下ろした。

 フフ……そんな意地っ張りなところも、可愛いね……。


「大体さぁ、千影ちゃんは運命の兄くんとやらと永遠の契りを誓ったとか何とか、言ってなかったっけ?」


 鈴凛くんは、仕切り直すように咳払いをひとつすると、そんな質問を私に叩きつけてきた。


「ああ…………そうだよ…………それは…………前にも話した通りさ…………」


 それは、遥か昔のこと……血の繋がりという禁忌を犯してまでも、激しく恋焦がれ、愛を誓い合ったある兄妹がいた。
 その兄妹は、例え生まれ変わろうとも、また巡り会い、そして愛し合おうという永遠の契りを交わし合った。

 その片割れの、妹が……前世での私……。
 そして、その妹……前世での私と、生まれ変わった後の愛をも誓い合った相手こそが……私の、"運命の兄くん"……。


「じゃあなんでその兄くんとやらを差し置いてアタシにアプローチ掛けてくる訳?」


 そういう相手がいるのに自分にアプローチする私を疑問に思ってか、
 それとも私から逃れるための手段としてか、まるで非難するかのようにきっぱりとそんなことを口にする。


「それともなに? アタシがその兄くんとやらの生まれ変わりとか言うの?」

「いやぁ……それだったらどれ程ですてぃに〜だったかと思うけど…………残念ながらそうじゃないんだ」

「あ、そう……」

「ちゅーか兄くん、今回現世に生まれ変わってないみたいなんだよー。
 それどころかなんか今回現世で生きてる内には転生してくれないってお告げで出てるしぃー」

「あー、それはご愁傷様ねー」


 鈴凛くんはどうでもいいような感じに、まるで社交辞令のごとく棒読みでそう告げると、
 私を視界から外し、休めていた機械いじりの手を再び動かし始めていた。
 まあ、彼女は科学の申し子で私はファンシーリリカル魔女っ子
 「生まれ変わり」や「運命」などといった類のものは全く信じていないだろうから、それは仕方ないのだろう……。


「でもさー、なんていうか、鈴凛くん男っぽいから、なんか運命の兄くんの面影あるっていうかー。
 その点はさすが姉妹って感じぃ? もう鈴凛くんが現世での兄くんで良いかなー、とか考えたりぃ〜」

「千影ちゃん、アタシのその喋り方する千影ちゃんキライ」

「ちゅーか、鈴凛くん寧ろ男だろ」

「失礼だなチミは」


 男だろ、から0.1秒も間を空けず切り返された。


「これでもれっきとした妹ですよ! 年下だし、女の子だし、"兄"とは正反対の位置じゃないの!」


 やはり、がさつや男扱いされることで、女らしくない自分に多少のコンプレックスは感じているようだ……。
 ちょっと意地になって反論し、「アタシは衛ちゃんとは違うの」なんて付け足し……おいおい衛くんも女の子だぞ。


「しかし…………血縁関係って共通点はあるっぽいだろう…………?」

「ええ、寧ろ在る方がマズイ共通点がね」

「大丈夫さ…………血縁関係危ういから…………」

「それは大丈夫なの?」

「じゃあどっちが良いってンだよぉッッ!!」

「なんで怒るのさ!?」


 おっと、いけない……あまりにもそっけない態度が続くものだから、ついつい冷静さを失ってしまったな……。


「でもね…………私は本気だよ…………」


 まったく進展を見せない言葉のやり取りがあまりにも続くものだから、
 私はここで一気に彼女の心を鷲掴みにしようと、真面目に彼女と向き合って(今までも十分真面目だったのだが)語ることにした。


「兄くんの身代わりだとか…………そんないい加減な想いじゃあなく…………"君"として…………真剣に愛している。
 そう…………運命の兄くんに感じたものと同等…………いや、それ以上の輝きを…………君の中に感じているんだ」


 しっかりと、愛おしい人の瞳を見据え、
 自分の心の奥底にある純粋な思いの丈を紡ぐ言葉に込めて……瞳に映る運命の女性に囁きかけた。


「そういうの、軽薄っていうんじゃないの?」

ぎゃふん


 軽く切り返された。


「まあいいさ…………これでも引き際はわきまえている方でね…………。今日はこのくらいにしておくよ…………」


 そう、功を焦り過ぎては、手に入れられるものも離れていってしまうからね……。
 最終的に手に入れられればそれで良いのだから……ここは一旦退くことにしよう……。
 寧ろ、このじれったいやりとりこそ、愉悦のひとつでもあるからね…………フフフ。


「次こそは…………あなたのハートをラブゲッチュぅっ♥♥


 右手を銃に見立てるように突き出して、鈴凛くんに向け可愛くウィンクを送って最後のキメッ!

 …………鈴凛くん、何故顔を背けるんだい?


















 結局、特に何の収穫も得られぬまま、おめおめと自宅に戻ってきてしまった私。
 この日のために用意した、これまた可愛らしいリボンの装飾つきの赤い靴を玄関で脱ぐと、
 その足で直接自分の私室へと向かった。

 今日も成果は挙げられなかったか……まあいい、これから徐々に徐々に心を掴んでいけば、いずれは……


「フフフ…………」


 そんな楽しさを含んだ笑いをこぼしながら、部屋に着くなり着替えのため洋服ダンスを開けた。

 扉の内側に取り付けられている鏡と向かい合うと、そこには不可解なものが映し出されていた。
 そこに映っていたのは、ピンクのワンピースとうさぎの髪飾りという可愛らしい着飾りとは噛み合わない、
 氷の彫像のように冷たい美しさを秘めた顔をした、格好と人間とが不相応でなんとも不気味な…………あ、これ私だ。


「…………」


 なにも言わず即座にいつもの黒を基調とした服装へと着替えた。

 か、悲しくないもん! 自分で自分のこと不気味とか思ったことなんて、全然悲しくなんかないもん!!(←ショックのため多少幼児化)

 あー、やっぱりあんな格好は趣味に合わん……なんか気持ち悪くなってきた。
 鈴凛くんのためとはいえ良くあんな格好できたな、私……。


「うげぇ……」


 やばっ……あの格好で「あなたのハートをラブゲッチュぅっ♥♥」とか、思い出しただけでも吐きそうになってきた……。


「…………愛する人のためなら…………どんな苦行にも耐えられると思ったのだけど…………」


 どうもこれは……アレルギー起きる。
 鈴凛くんの前だと集中でき、自分のやっていることを冷静に考えずに振舞えるからなんら問題はない。
 が、その後に思い起こした場合、その時に降りかかる精神的負荷は計り知れない……。
 だから、ひとりの時に自分のやっていることをふと思い返しただけで……この有様さ……。


「…………」


 まあいいか、所詮ファッションだし、無理に耐えることも今後も継続することもないだろう。(←ヘンなところでサッパリしています)


「どうせそれだけが鈴凛くんのハートを射止める方法ってもんでもないしぃ〜、別に意地張って続けるもんでも………………」


 …………。

 ………………どうも、学習の成果は多分にあったようだ……。
 無意識に学んだ内容を、肉体が実行するようにまで刷り込まれている。


「フフ…………フフフ……ハハ………」


 あれ、なんだろ? おかしくもないのに笑いがこみ上げてくる……あははっ。(←ヤバイ)


「しかし…………やはり基本は学んでおかなければな…………」


 なんだか肩にどっと疲れがのしかかってきたかのような幻想にとらわれながらも、机の上に置いてある一冊の本を手に取った。
 それは、私の魔術研究のための魔術書……ではなく、研究のためにと買っておいた「おとめちっくはぁと」の代表格である少女漫画。
 よく分からないながらも、勉強のため適当に数冊手元においておこうと思い、以前一般の書店へと足を運んだ時、買ったものだ。

 ここには5冊程度しか置いていないが、実は別の部屋にはその類の本で埋め尽くされている。

 これは、適当に数冊だけ手に取って研究のためにと取っておいたルビーの宝石を店員に渡したら、
 なんだかよく分からんが鑑定士とかいう人が来てから適当にあーだこーだやった後、
 店中の少女漫画をくれるという店側の良心的な配慮にあずかったお陰さ。

 その後、その良心的な店は拡張工事とか行われていたみたいだから、
 良くしてもらった身としては、今も繁盛しているようで嬉しい限りだね……。

 そして、良心的な店から譲ってくれた少女漫画で埋め尽くされた部屋を見て今も思う……。

 私なにやってんだろ?

 ……と。

 あれ? なんだかまた目の奥が熱くなってきちゃった。


「…………しかし、例えこの身が朽ち果てようとも…………愛する人のためならば…………」


 自分で言って自己陶酔しそうになったが、やってることを冷静に見るとなんだか物悲しくなってきた。

 だから極力冷静に考えないようにしながら、今宵も愛のため、聖典(少女漫画)を手に、学習に精を出すのであった。
 その夜、凛とした声が「うげぇ」とか「おえぇ」といった類の喘ぎ声を響かせていたのは、余談である……。
























 次の日、放課後というに相応しい夕刻時、私はその足を電気街へと運んでいた。
 別に私自身がそこに用がある訳ではない。
 用があったのは……――


「フフ…………見つけたよ…………」


 あそこに見える、"運命の妹くん"である、彼女……鈴凛その人である。

 ちなみに、今日鈴凛くんがここに学校帰りに寄るであろうことは、既に風水、水晶占い、星占い、花占い、ニボシ占い
 化石占い国会中継占い
占い衛くん占いなど、様々な占いの結果を元に予知していたことは愚問である。(ぇ)


「クフフッ……この名魔術師ちかタンからは決して逃れられないのデス」


 …………。

 言ってて、また気持ち悪くなった。
 無意識下でも、こんなことを口にしてしまう自分が呪わしい……。


「ム…………あそこに見えるのは…………」


 と、そこで、鈴凛くんの側に同じような制服に身を包んだ人物が付き添っている光景が視界に入った。
 あれは確か……鈴凛くんのクラスメートの……


「小森、とかいう害虫だな…………」


 誰であるかを確認するなり、私は軽く舌を鳴らした。
 酷い扱い様と人は思うだろうが、私はそうは思わん。
 なぜならば、ヤツは私にとって天敵に位置する立場の人間だからだ!

 水晶玉で鈴凛くんの学生生活エンジョイの図を覗……ではなく、「うぉっちんぐ」している時、
 いつも鈴凛くんに纏わり付くもんだから、自然とヤツが視界に入ってきていた……。

 最初はただ仲の良い友人だと考えていたのだが……ヤツの目を見た刹那、理解した!!

 あの目の輝き……あれこそが……恋する乙女の魔眼!!!


「むっきゃーっっ!!?!?!」


 天敵に位置する以上、考えただけで臓腑が煮えくり返るような憤りを感じるというのに、
 それを肉眼ですぐ側に寄り添っているのを視認するだなんて、尚更その憤りを抑えられるものか!
 占いにもちょっとした凶兆があると出ていたが、これはまさにあの小森とかいう小娘のことを示していたのだろう。


「え!? な、なに!? なんなのっ!?!」
「え?! おサルさん?」


 つい拍子で出た怒りの奇声で、鈴凛くんやメガネ小森のヤツには気づかれてしまった。

 が、今日は別に隠れてうぉっちんぐするつもりではないのだから、別に構うことではない。
 仮にそうだろうとも、今の私はこの憤りを押さえつけておくことなどしなかっただろうし、それ程に私の心にゆとりは存在しなかった。

 つーか私は猿じゃねぇッッ!!

 私は寧ろ気づかれたことを好機と転化し、一気に鈴凛くんと小娘のいる場所へとの距離を詰めた。


「え? え? え?」


 突然駆け寄った私に対し、メガネ小森のヤツは困惑の声を上げながら、オロオロとただ戸惑うのみだった。
 当然だろう貴様のような小娘には持ち備えることすら叶わぬ、
 愛しの鈴凛くんお墨付きのクール&ビューティー(元)な美貌を持った、
 この私が、この私が出てきたのだからな。(←何故か2回)

 一方、鈴凛くんは鈴凛くんで「なんだ千影ちゃんか」と慣れた反応で、呆れと安堵の入り混じったため息をついていた。


「離れろ! そんないやらしい気持ちを持ったまま鈴凛くんに近づくなー!!」


 ビシッと指を突きつけ、メガネ小森に対し思い切り言い放つ。


「それは普段の自分の態度もろとも全否定してるって受け取って宜しいんでしょうか?」


 鈴凛くんの洗練されたツッコミが返ってくる。
 私は私で鈴凛くんのつれない態度にももう慣れたもので、――それが良いことはどうかはこの際置いておくとするが――軽くこう返す。


「あ・れ・は、マイ・ピュア・は・ぁ・と・よ


 …………。


    びゅおぉぉぉぉ……


 そんな、冷たい風が身に降りかかってくるかのような幻聴が聞こえてくるかのようだった。
 何故だか冷たい……視線が、空気が、全ての熱を失わせていくような……
 まるで、猛吹雪の中で下着一丁でねぶた祭りを踊っているかのような幻覚を受ける……。

 や、やめろ、冷静に考えさせないでくれっ……!


「お姉さま……なんですか? この、見た目と行動が完全断裂起こしてる色んな意味でミステリアスな人は……?」


 重苦しい沈黙を打ち破るように、メガネは私の鈴凛くんに対し問いかけ…………お姉さま!? お姉さまだとぉっ!!?


「んー……アタシのアネキに当たる人……一応」

「ああ、お姉さまのお姉さまですね」


 こんにゃろうまた「お姉さま」言いやがったッ!!
 もう聞き違いじゃねーよ、間違いねーよッ!!

 水晶玉で人が多いところを映すと大勢の思念や微弱な魔力が渦巻いてノイズが多くなって、
 鈴凛くん風に言うところの「電波障害」が起きて音を聞くことができないから気づかんかったが、
 こん畜生いつも私の鈴凛くんのことをそう呼んでやがってたのか!?


「っっきゃーーーーッッ!!?!!?!」

「ごめん小森さん、訂正する。これもう猿で良いや」


 興奮のあまり、またも奇声を上げる。

 だから私は猿じゃねぇーッッ!!


「ええい! そんな寧ろ私が鈴凛くんに呼んで欲しいような愛称で、我がマイハニーの名を呼ぶでない!」

「ま、マイハニーですって!?」

「そうだマイハニーだ! 私と鈴凛くんは運命的な運命の絆で結ばれた運命の恋人なのだぞぃ!!」

「運命で結ばれてる兄くんとやらは今は転生してないんじゃなかったの?」


 まーたなんかややこしくなった……、とでも言わんばかりに、
 苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら、相も変わらず鋭いツッコミを入れてくる鈴凛くん。
 他にも4ヶ所ほど突っ込みたかったようだが、手を回しきれないと見切り、
 仕方なしに一番のツッコミ所をピンポイントに突いたようだった。


「いやぁ…………それはそれ…………これはこれ、でね…………」

「"これ"も"それ"なのですが」

「え……いや…その………あ、と…………」


 急所を突くかのごとく冷静で的確なツッコミ。
 その効果は抜群で、私の勢いも一気に衰える。


「ええい! それもこれもあれもナニもどうでもいいッ!!」

「うわっ、究極的に自分勝手に話し切り上げた」


 が、ここで勢いを殺がれては、折角得た好機も失われてしまうとどこかで察していたからだろう。
 鈴凛くんにとっては、逆に勢いを殺し過ぎたことが仇となり、私は半ば自棄に無理矢理勢いを引き戻す結果となった。


「鈴凛くんも鈴凛くんだ! なんでそんな呼び名を許しているッ?!
 そういうのを許されているのは私だけだというのが天の定め摂理だろうっ!」

「いや、だって……」

「だってもクソもない!! ……そうか!? メガネか!! 鈴凛くんはメガネ属性なんだな!!?」

「はい?」

「だから鈴凛くんはメガネっ娘に優しいと、そういうわけだな!! ムキーーッッ!!!」


 ワタシ話ニツイテイケマセン。

 そんな風にぽかんとしてしまった鈴凛くん。
 だが、既に頭に血が上りきった私はそんなことに構う余地もなく、喚くように鈴凛くんを一方的に非難していた。

 だから猿じゃねぇーーーッッ!!(←誰も言ってません)


「ええい、そのメガネをよこせ!」

「きゃあっ!?」


 勢いにかまけて、メガネ小森からメガネというアイデンティティーを奪い取った。
 これで貴様は「メガネ小森」から「ただの小森」に格下げだッ!!(←だからなんなのでしょうか?)

 そうして、奪い取ったメガネをそのまま私のアイデンティティ〜へと変換すべく即座に顔にかけた。


「あぅ〜〜〜……」


 あまりに度がキツかったため、クラ〜ッときた。


「ほらほら、目悪くなっちゃうよ」

「フ…………君のためなら、この目が光を失おうとも…………私は本望さ」

「ンな縁起でもない……」


 言いながら、私から外したメガネで「ただの小森」を「メガネ小森」へと進化させる。


「光だけじゃない…………私は…………命すら投げ出すこともいとわないさ……」


 またも好機が訪れてくれたと察した私は、その好機を逃すことなく、
 さり気な〜く自己犠牲をアピールしてポイントアップ〜を狙った作戦を実行した。
 これは、おとめちっくはぁとの聖典(少女漫画)から得た貴重な情報を基盤に、今即興で組み立てた華麗なる恋の大作戦。
 そう……名付けるならば、『自分のために命を張ってくれる、そういう相手に女の子はクラクラしちゃうの♥♥』大作戦!!

 今まで聖典(少女漫画)からの得た知識の集大成だけあってか、その効果の程は、ほぅら……


「そんな縁起でもないこと言わないでよっ!!」


 感動するどころか、逆に怒鳴られた……。


「命とか、死ぬとか……簡単にそんなこといわないでっ……!」

「…………っ!?」


 ……気の流れが、変わった……?

 それは、今までのような軽い空気とはガラリと音を立てて変わってしまっていた。

 これは……憤怒の感情……?
 本気の……怒りの色……?


「そうだよね! 千影ちゃんは何回でも生まれ変われるし! 今死んだって、そんなの大したことないもんね!!」

「り、鈴凛くん…………?」

「お姉……さま?」


 突然の豹変振りに、メガネ小森共々驚きを隠せない私。
 鈴凛くんはやや俯き気味になっていたため、その表情をうかがうことはできず、
 どんな表情でそれを口にしているのか分からなかったため、ある種未知の物に対する恐怖のような感情を私たちに抱かせていた。


「どっか行って。今、ちょっと千影ちゃんのバカなやりとり付き合う気にならないの」

「ば、バカ?! 私はいつも真面目だぞ!!
 そもそもな、君には私という絶対運命黙示録な魂の次元からのフィアンセが居るにも関わらず、
 無防備に他の人間と付き合い過ぎるからこうなったんだろう!?
 君がいつもつれない態度のは別に構わんが、君のことを付け狙っている人間と一緒に居るのが解せんのだ!
 友人ならばともかく、そういう感情を持ち合わせた人間が、私の鈴凛くんに近づこうなどと不届き千万!
 つーか友人でも許さん! 男だとか女だとかはこの際関係ない!
 寧ろ君は人間的に異性より同性からの方がモテるだろうから尚更―――」




 …………。


「…………いない」


 メガネ小森もいない。

 どっか行けと言っておいて、自分の方が何処かに行くのは筋違いじゃないかえ?

 自分の言ったことも守れんとは……これは戦意喪失、敵前逃亡の不戦敗として、この勝負は私の勝ちだな?
 それで良いんだな?

 つーか勝負してねーじゃん。
 こんなんで勝っても嬉しくねーよ。
 寧ろさみしーよ。

 Oh ろんりー まい はーと。


「…………なにか…………怒らせるようなことを…………言ってしまったのだろうか?」


 普段の鈴凛くんの性格から考えると「アレで真面目なの?」や「はいはいはい、勝手に決めつけない……」とか、
 「運命の兄くんのこと覚えてる?」とか「アタシは衛ちゃんじゃないの!」など、
 そういうツッコミのひとつやふたつは入ると思っていたのだが……。
 それすらも一切なく、私が話していることに夢中になっている内に立ち去ってしまったのだから……相当不機嫌だったと見える。

 しかし、一体何が彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうか……?


 …………。


 ………………。


 ……さっぱりぱぷーん。(←要するに「サッパリ分からない」の意)
























「はぁ…………」


 という訳でまたもおめおめと自宅に戻ってきてしまった私。
 まあおめおめと敗戦を喫するのはいつものことだから良いとして……いや、良くはないのだが……。
 しかし、今日は鈴凛くんを怒らせてしまった……そのことが凄く身に堪えていた……。

 この、まるで喧嘩したままで気まずい心境は、とても居心地の悪いもので……
 明日になれば、自然に元通り……なんて希望を持てるような状況とも考え難かった……。

 あの後、探そうと思えばまた衛くん占いでもして探すことは容易に可能だったのだが、
 やはり理由が分からない以上、時間の経過も必要と感じ、あの場は一旦身を引くことにしたのだった……。
 なにより、謝りたくても何故怒らせたかが分からないのでは、謝りようがない……。


「…………だが…………私にはこれがある!!」


 ぴろりろん☆ 水晶玉〜。(←某未来から来たネコ型ロボット風に)

 といっても、水晶玉自体というよりは、それを媒体に私自身の魔力で鈴凛くんの姿を投影するから、
 ――確かに上質のものを使ってはいるが――水晶玉自体の効果で見るわけではない。
 まあそんな仕組み云々については今はどうでもよい。

 この、今日まで鈴凛くんの学校生活を何度もうぉっちん……じゃなくて覗き見した実績を持つあ、訂正する方間違えた


「らぶりんらぶりんくるくるりん♪ ぷりてぃマイハニー鈴凛くんの姿を曝したまえ〜☆」


 水晶玉に魔力を送り、念じながら呪文を唱える。
 別に呪文とかは特に必要ないんだが、まあなんとなく雰囲気で。

 ………………教訓、趣味に合わないことは無理にするものじゃない。
 定着した時自己嫌悪に陥る。

 今日の目的はいつものような覗き目的ではなく、
 少しでも謝るヒントを得ようとの計らい

 水晶は、ぼんやりと何かの姿を投影し始め、徐々に徐々にその姿を形作ると、
 そのうちはっきりと自室のベッドの上で寝転ぶ鈴凛くんの姿を映し出した。


「映った…………」

『―――……本気じゃないって分かってるくせに……どうして過敏になっちゃうのかなぁ……アタシ』


 今水晶に映し出されているものは鈴凛くんひとりの姿のみで、今回は余計なものが入り混じらないため、
 鈴凛くんの、数多の船乗り達を誘い惑わせたセイレーンのごとき絶世の美声もしっかりと聞こえるというものだ。(←恋は盲目現象)


「なにか…………写真立てを持って…………独り言を呟いているようだな」

『千影ちゃんに、悪いことしちゃったな……』


 わぁお 私の独り言だ♥♥


『アタシのこと想ってくれてるって、それは痛いほど分かるんだ……』

「なんだよぅ〜 分かってくれてんじゃんか〜

『本当……痛いほどにねぇ……』


 強調して口にした「痛い」に、なんだか別のニュアンスが入り混じっているような気がしたが……まあ、それは気のせいということにしてゴミ箱へポイ


『もうちょっと、大人にならなきゃダメ……だよねぇ……』


 まるで写真に語りかけるようにそう言ってから、鈴凛くんはその手に持っていた写真立てをベッドのヘッドボードに置いた。
 投影する角度の関係上、そこでやっと写真立ての中の写真を見ることができるようになった。

 そこには、長く伸びた白い髭をたずさえた作業服の老人と、幼い頃の鈴凛くんの姿……幼い鈴凛くんの姿!?!?


ぐがはぁっ!?!?


 その可愛さは反則だろうッ!?

 鼻血などでは飽き足りない!
 吐血程度ではなく、全身を脈動する血管という血管の先から、鮮血を吹き出すほどの死にも近い興奮と感激ッ!!

 ……もちろん比喩だ、私の体はそんなに脆弱ではない。
 比喩で留まってしまうのが残念だが……。(マテ)


「い、いけない…………今日の目的は悶え狂い…………歓喜に溺れ死ぬことじゃあないだろうっ…………!?」


 言って自分に言い聞かせて、とりあえず出てしまった鼻血を止血しながら気を持ち直し、再び水晶玉と向かい合う。


『ジジ……』


 別にこれはノイズとかじゃなくて、水晶の向こう側で鈴凛くんがそう呟いただけだ。

 そういえばあの写真……確か前に見せてもらったことがあったな……。
 もちろんその時、まだ幼い鈴凛くんの姿にその場に鼻血で結界作り上げてしまったことは今更言うまでもない。

 そう、確かあれは鈴凛くんを育てていた祖父。
 街でもちょっとした発明王で、鈴凛くんに機械の道を歩ませた原因となった人物だと、鈴凛くん本人から聞いたな。

 まったく、何故魔術を教えなかったんだ?
 そうすれば今頃は私と楽しくラブラブランデブーな魔術研究を出来たというのに……。
 そんな彼も、確か今は……


「…………あっ」


 ……私はそこで、怒らせてしまった理由と共に、自らの愚にやっと気がついた。


『でもね……死ぬってことを軽々しく言うのは、どうしても許せなかったの……』


 彼女は……大切な祖父と死に別れていたんだ。


『自己犠牲なんて……そんなの死ぬ側の勝手な自己満足よ……。
 残った方が、どんなに悲しむか……どんなに泣きじゃくるか……そんなことも分かってないんだから……』


 だから、何よりも「死」を恐れていた。
 自分ではなく、自分以外誰かの「死」を……。


「…………私は…………最低だな……」


 だから怒ったのだろう……「死」を、本望などと言った私を。


「死ぬ側の自己満足……か…………」


 口では軽々しく愛しているなんて言って、その実彼女を何も分かっていなかった……。
 死をもいとわない自己犠牲を誇っていた自分が、途端に滑稽な存在に思えて、思わず自分を鼻で嘲笑ってしまった。


「……しばらく…………忘れていた……かもしれないな…………」


 彼女の言った通りだから。

 例え今その命を失おうと、私は再び生まれ変われる。
 記憶を持ったまま生まれ変わるのだから、その「生」に何度でもやり直しが利くようなものだ……。
 まるで、取っ手の取れてしまったティーカップを棄てる心境そのものだった。
 直して使おうとはせず、新しいものを買い換えれば良いさ、と……。
 何度でも生まれ変われる私にとって「命」とは、「死」とはそういうものとなんら変わりはなかった。

 死など何度と体験した。
 だからこそ慣れてしまったのかもしれない……。

 慣れてしまったからこそ、他の者がどんなに悲しむか、どんなに泣きじゃくるか……
 そんなことも分からなくなってしまった……。
























「ほんわかぱっぱ〜☆ ほんわかぱっぱ〜♪」


 翌日私は、鈴凛くんへのちょっとしたお詫びをしようと、ある儀式に取り掛かることにした。

 別に頭がおかしくなったとかではない、そういう呪文なんだ。
 まあ、こっちも別に呪文とかは必要ないのだが、これも雰囲気で。

 ……しかし、以前と比べ、妙な違和感と吐き気を感じるものの、どう違うのか上手く思い出せない……。

 こういう明るい身振り(?)など何度と体現した。
 だからこそ慣れてしまったのかもしれない……。

 慣れてしまったからこそ、他の者がどんなに哀れむのか、どんなに凍えつくのか、
 そんなことも分からなくなってしまった、てへっ


「さて…………準備はこのくらいで良いな…………」


 私にできることと言えば、こんな魔術を使った行為くらい。
 ……まあ、他の一般の人間にはできない芸当だが、私の場合逆に他にできそうなこともない。
 要は、それができるだけで他の人間の持つ「特技」のようなものだ。
 言ってしまえば鈴凛くんにおける機械、白雪くんにおける料理となんら変わりはない。

 もしこの儀式が成功して……そして、鈴凛くんが私のことを見直して……そうして、そうして……――



  『ありがとう千影ちゃん……いままで冷たくしてゴメンね……』


  『あのね……アタシ、本当は千影ちゃんのこと…………』


  『もうただの妹じゃイヤなの! ……リンって……呼んで』




「なんつって なんつって♥♥


 そんな、バラ色の……寧ろ百合色の未来予想図を頭の中に繰り広げ期待を膨らませていた。

 そこ! 獲らぬ狸の皮算用とか言うな!!


「むっ……!」


 途端、部屋の空気が乱れた……

 魔力の流れが、乱れ始める。
 急いで魔力をコントロールして収めようとはするが、それは収まるどころかだんだんと乱れを大きくしていく。

 失敬だな、妄想にふけっていたからじゃないぞ。
 妄想にふけってはいたが、集中は欠かしていなかったぞ。

 元々難しい儀式だったから、私個人だけではなく、部屋に充満した魔力の一部が些細な乱れを起こすだけでこういう事態になるんだ。
 だから妄想のせいじゃなくて普通に失敗したんだぞー。


「……って、失敗してるならどっちにしろあかんやん!!」


 誰に言うでもなく、ひとり物悲しくツッコミを入れる。


「クッ……」


 なんて馬鹿なことをしている場合じゃない。
 その場には、まるでその部屋にだけ嵐が襲来してきたかのように、乱れた魔力が部屋いっぱいに渦巻き始める。

 無規則。

 無秩序。

 無統率。

 その象徴のように、その全てが型を成さずに、頭のいない獣の群れのように荒れ狂う。
 それは、人ひとりの力で押さえ込めるほど、生易しいものではなかった。


「あ、やば……」


 ダメだな……と、瞬間的に理解した時、私は観念してゆっくりと目を閉じた。












  ……


  …………



  ………………






  『運命?』

  『そう…………運命さ』


   それは……夢だったのか……


  『私たちが出会えたことも…………姉妹として巡り会ったことも…………
   今ここにふたり並んでいるのも…………運命の兄くんと巡り会えない今も…………全て、ね』


   それとも走馬灯か……




  『前世からの絆、ねぇ……信じられないけど』

  『まあ…………科学の申し子の代名詞のような君に対して…………
   こんな非科学の代名詞を語るのも…………ナンセンスというものだろうけどね…………。
   これもちょっとした酔狂さ…………』


   それは、何の気まぐれだったのか……彼女に、兄くんの話をした時の記憶だ……。


  『今は叶わないが…………まあ、最終的には運命が私たちを結びつけるだろうね…………』


   私は、「運命」を疑問にすら思いもしなかった。


  『そんな何の保障もない不確定なものに未来を委ねるなんて、アタシにはできないな……。
   アタシ……運命とか信じてないから……』

  『…………そうなのかい? まあ…………君らしいといえば…………君らしいが』

  『だって、もし運命とかあったらさ……なんか今まで自分が頑張ってきたこととか、
   全部その一言で片付けられて、なんかしゃくじゃない』


   この身に降り注ぐ不幸も、幸福も……

   私に前世の記憶が残っていることも……

   前世での辛い別れ、現世にまで及ぶ最愛の人との別離も……――


  『それじゃあ頑張るのも、報われるのも報われないのも、全部決まってて、なんだか面白くないし……。
   それにさ……人の作ったレールの上歩いたってつまらないわよ。やっぱ、道は自分で作らなきゃね』


   ――全て運命と、疑うことすら知らず、受け入れてきた……。


  『強いんだな…………私とは正反対だ』


   何よりも運命に縛られて、そんな不確かなものを拠り所に、絶対的な絆を信じる私。
   何にも囚われず、ただひたすら自分の力で信じ、ただ前を向いて道を切り開いて行く彼女。

   本当に……彼女とは正反対だ……。


  『そんなことないわよ。ただ、千影ちゃんとは違ったものを見ているだけ』

  『いや…………強い…………』


   彼女はいつでも自由に、運命という重力に囚われず、自分だけの空を飛び交う渡り鳥。

   私にとって……光の翼を持つ、黄金の鳥に見えた……。


  『そう思うんだったらさ、アタシに会えた今回だけ……その"運命"ってしがらみから、抜け出てみても良いんじゃない?』

  『そう……だな』


   その時……それは憧れだったのかもしれないと、そう感じたんだ……。
   自分にはできないことをあっさりやってのける彼女に対しての……。

   幾度と生まれ変わろうとも、"私"を保っている以上、決して成り得ない憧れの存在……。

   そんな彼女と、私は同じ時間を過ごしていることが嬉しくて……"憧れ"が、すぐ側に在る事が嬉しかった……




     その気持ちが、兄くんに対するそれと同じのものだったと気がついたのは……

     それからすぐ後のことだった……。




  『君とは…………合わないと思っていたのだけれど…………』




   兄くん……。

   今回だけ……彼女に魅かれた、私の罪を……許して欲しい……




  『ないからこそ…………求めるのかもしれないな…………』




   兄くんへの想いは嘘じゃない……




   でも……彼女への想いも、嘘じゃ…ないから……―――






   ………………


   …………


   ……












「……う、ん…」


 目を覚ますと、私はベッドの中で横になっていたことに気がついた。

 とはいうものの、私が普段使っている寝床はこんな立派なベッドではなく棺桶を加工したもの。
 私の家でそんなベッドがあるのは客間の寝室だけ……ということは、ここはまさにそこなのだろう。
 開いた目に入ってくる天井も、その装飾そのものだったし……まあ、間違いないだろうな……。

 問題は、どうして儀式をしていた部屋に居た私がここに移動しているか、ということなのだが……


「あ、やっと起きた」

「!? 鈴凛、くん……?!」


 そんな疑問も、今ここに居るはずのない彼女が今ここにいるという疑問で、完全に上塗りされてしまった。


「……どうして…………ここに……?」

「昨日のこと謝ろうと思って……でも、何回チャイム押しても全然反応ないから、悪いと思ったけど黙って入ったの。
 そしたら千影ちゃん、儀式とか実験とかする部屋の真ん中で倒れてるから……」


 単なる偶然、か……。

 でも、偶然が重なっただけでも、彼女が私のところに駆けつけてくれたという事実だけで、私の心は喜びで満たされる……。
 ……そうだな、それが決まっていたことなら、ただ知らなかっただけで喜んでいる自分も、少し滑稽な存在に感じるな……。
 だから、誰にも分からない程度に何に向けるでもない含み笑いをこぼした。


「ならどうして…………客間の寝室の方に? 私の部屋が分からなかった訳でもないだろう…………?」


 そして、次に先に気になった疑惑を、彼女に投げかけた。
 彼女も何度かここに訪ねてきているから、完全に把握とはいかなくとも、私の部屋くらいは知っている。

 私の倒れていた部屋からだと、この客間と私の部屋とはほぼ同じ距離―――強いて言ったとしても、
 私の部屋の方が僅かに近くに位置しているため、距離の問題というわけでもないだろう。
 そもそも、彼女がこの家の間取りをそこまで瑣末に熟知しているとも考え難い。


「千影ちゃんのベッドって棺桶でしょ。縁起でもないからこっちに寝かせたの」

「そうか…………」


 それを聞いて、彼女らしいと思った。
 昨日気づいた、なによりも「死」を恐れる彼女らしいと……。


「大丈夫ですか……? お姉さまのお姉さま?」

「ああ…………大丈ヘイ、メガネ! 何故そこに居るのデスカ!?」


 何故かここに居るはずのない彼女がいることがひっじょ〜〜〜に気になって、思わず片言の日本語で問いかけてしまっただわさ。


「いや、来る途中で会って、どうしてもって言うから……」

「ほう…………」

「いや、昨日の……小森さんもいたからさ、心配だったんじゃないかなー、って……」

「はい、そうなんです」


 気のせいか「お姉さまとふたりきりにしてなるものですかオーラ」がビンビンに発せられている気がするのですが?


「あと千影ちゃん、もう少し自分のキャラクターを大切にしなさい。なにが『ヘイ、メガネ!』ですか」

「いや…………大切にしたいのは山々なんだが…………最近自分がどういう人間だったか分からなくなってきてね…………
 戻したくても…………戻せないのさ…………フ…………」


 自嘲気味な笑いを含めながら、鈴凛くんにそう返すと、鈴凛くんは「うわ、悲惨」なんて……悲惨とまで言うのか君は?


「そんなことより……ねぇ、何があったの?」


 私の、悲惨とまで言い切られた現状はどうも"そんなこと"らしく、
 鈴凛くんは早く答えを聞かせて欲しいと言わんばかりに心配そうな表情で本題を切り出した。
 やっぱり地味に酷いな、君は。

 まあ、家を訪ねてきて、それでその相手が倒れていれば、疑問に思うなというほうが無理だろう……。


「儀式に失敗したんだ…………」

「儀式に失敗、って……それって大丈夫なの!?」


 返答を聞くなり、豆鉄砲をくらった鳩のように驚いた顔を私に向ける。

 彼女には、よく私の趣味である魔術について語っている……というか私が一方的に語っているようなものだが……。
 そのため、信じる信じないは別にして、儀式に失敗することがどのくらい危険なことか、知識としては入っているようだ。
 話半分で流しているのかと思っていたが……案外ちゃんと聞いていてくれていたようでなんだか顔が緩みそうになる。


「大丈夫なんかじゃないさ…………だから倒れていた。まあ、下手をすれば命も危なかったかな…………」

「はぁっ!?」


 怒りの感情を多少込めながら、その表情を今度こそ呆れきったと言わんばかりのもの変えて、
 ベッドで眠る私を見下ろす鈴凛くんを横目で確認した。
 こういう反応が来ることはなんとなく予想できていたが、
 実際に目の当たりにすると、さすがに具合の良いものではないな……。

 まあ、こういう表情もアリかと……。


「ただ、このまま死にたくない、と…………そう思ってね…………。必死で…………自分の身を守ったよ」

「え?」


 儀式には失敗したものの、私はとりあえずは生きているようだ。
 体のどこも痛くはないし、手足を僅かに動かして無事に機能することも確認できた。
 あの時、針に糸を通すなんて比にならないくらいの精密さの域まで神経を研ぎ澄まし、
 魔力の大半を消費してまで魔力のコントロールをした甲斐あってか、どこも怪我なく無事五体満足でここにいられているようだ。
 倒れていたのは儀式の失敗による代償ではなく、過度の魔力酷使からくる疲労によるものだろう。


「ふー…………苦労した甲斐があったかな…………」


 優先して気にすることばかりが起きていたせいか、自分の無事を確認するのがすっかり遅れてしまったが、
 確認するなり、そこでやっと安堵のため息で一息つくことができた。


「なんでよ……?」

「なにが、だい…………?」


 ふいに、彼女から投げかけられた質問の主語を聞き返す。


「だって、千影ちゃんから見たら……来世とかに生まれ変われば、"兄くん"に会えたかもしれないんでしょ?
 現世じゃ、もう出会えそうにないって……そう言ってたんだから」

「君がそういう台詞を言うのは…………似合わないな…………。
 自己犠牲なんて…………所詮、死ぬ側の自己満足でしかないんだろう……?」

「え? あ、あー…う、うん……」


 鈴凛くんはなにか引っかかりを感じるような感じで、そんな煮え切らない言葉を紡いで返事を返してくる。

 そういえばその言葉は私が覗……ではなく、「うぉっちんぐ」で一方的に見ていただけであって、
 鈴凛くん本人から直接聞いたわけじゃないからな……。
 あー、バレたらまた怒られそうだな……まあ、怒った顔もなかなか良いものだから構わないが……。


「アタシだって、本気でそう思ってないわよ……。
 ただ、千影ちゃんならそう考えそうって……合理的な見解からの意見だから、絶対絶対本気じゃないんだからね!」


 私が倒れていたことや命の危機にあったことを知ったせいで多少の動揺が生まれたからか、
 「絶対絶対」なんて、子供っぽく繰り返す様子が、なんだか普段の彼女らしくなく、
 そのギャップが妙に可愛らしく感じたため、またも顔を綻ばせてしまう。

 フフ…………なんだかさっきから顔を緩めてばかりだな……。


「な、なによ……なに笑ってるのよ……?!」

「いや…………なんでもない…………。
 まあ…………君の言い分も一理あるな…………確かに、その方が兄くんとは手早く会えるね」


 が、私はそうはしなかった。
 愛のために死をいとわないと口にした私が、愛を切り捨て命の方を選んだ矛盾がそこに存在している。


「簡単な答えだろう…………?」


 そう、簡単。

 何よりも愛を優先させる私のすることだ。
 それも愛に基づいている行動に決まっている。


「もう少し…………現世いまで、君と一緒に過ごして居たかったからさ…………」

「ぅえぇっ?!」


 愛は棄ててはいない……ただ、向ける対象が違うだけだった、という訳さ……。
 彼女にとって、私のその発言はよっぽど胸を打つものだったのか、
 鈴凛くんは思わずそんな言葉にすらなっていない変な声をあげてしまっていた。


 コントロールを失い、既に荒れ狂う野獣と化した膨大な魔力の渦を前に、
 生きていれば儲けもの程度の考えで、私は既にその命を諦めていた。

 既に現世での生は棄てたも同然だったから、観念して目を閉じた後で私が案じたのは、私の愛した人のことだった。
 今度こそ運命の兄くんに巡り会えるようにと、彼のことを……愛した人のことを案じたはずなのに……


 何故かその時に浮かび上がったのは……



 昨夜見た、鈴凛くんの悲しそうな顔……。



   ―――………っ!!





                   ―――私は……





                             もう一度味あわせるのか?



 ―――残った方が、どんなに悲しむか……どんなに泣きじゃくるか……そんなことも分かってないんだから……―――


                            肉親との離別を……


             彼女が悲しむから……

                                彼女に……
               まだ……








                     死ねない……!!










  ………………



  …………


  ……






 既に死を受け入れようと諦めそのものだった心を、彼女のことを思う一心で無理矢理奮い立たせ、
 持てる全身全霊を傾けて、この命に――兄くんには決して会えないはずの現世に――すがりつく様な執着を見せた。
 どんなの惨めでも、現世いまを生きていたいと願いから、必死で生きようと足掻いた……。



「君は…………私にとっての命の恩人だよ…………」

「も、もうっ! なに言ってるのよ」

「今の私…………"千影"という人間の…………紛れもない命の恩人さ…………」

「そんな……アタシはただ、思っただけを言っただけで……千影ちゃんになにも……」

「大丈夫…………もう、おつりが来るほど…………君から貰ったよ…………」

「え?」


 何のことだか分からないと、きょとんとした顔を私に向ける鈴凛くん。
 私は、その顔を見据え、含み笑いを漏らしながら、


「頬を染めて照れる…………君の可愛い姿を魅せてもらっているからね」

「――――ッッ!!!?」


 言うと、ほんのり赤かった顔を、更に真っ赤に染め上げて、鈴凛くんは声にならない声を口にした。


「フフッ…………なに顔を赤くしているんだい? こんなの、いつものアプローチに比べたら…………些細なことだろう?」

「い、いつものじゃ冗談にしか取れないからよっ……! もうっ!!」


 照れながらも、ムキになって反論する鈴凛くん。
 その頬を真っ赤に染めあげた彼女の様子は尚も可愛らしく……寧ろ私を満足させてしまう結果となる。
 私は、その頬にそっと手を添えると……


「うぉっほんっ!!」


 突然大きな咳払いが聞こえてきた。

 そういえばこんなヤツもいたっけ……。
 くそぅ、良い雰囲気だったからすっかり頭から抜けてたじゃねーか。


「よく分かりませんが、なんにせよお姉さまのお姉さまが無事で良かったですね、お姉さま」


 いかにも白々しく棒読み口調で、そう口にするメガネ小森。
 まあ私みたいに命を軽視しているわけでもなく、命に関わってたなんて知らないからだろうから、
 そういう軽い言い回しができるのだろうけど……

 こンのメガネ野郎……折角のラブラブ空間を邪魔しよってからに……。

 この借りはいつか返すから覚悟しとけ……!

 つーか回復したら早速呪っちゃる!
 インフルエンザ程度に苦しめちゃる!


「…………しかし、」


 鈴凛くんも鈴凛くんで普段のアプローチでは動じないクセに、こんなあっさりとした言葉で顔を真っ赤に染め上げるだなんて……。


「…………乙女心はワカラン」
























「あ、そうだ…………リンくん…………」

「うわっ、さりげなく愛称で呼んでるよこの人」

「ちょっと…………来てくれるかい…………?」


 このまま一眠りし、メガネ小森への逆襲の力を蓄えようかと考えていた私だったが、
 ふとあることを思い出したため、閉じた目を再び見開き、まだ休みたい体に軽く鞭打ってベッドから起き上がった。


「え、動いて大丈夫なの?」

「まあ、ね…………。正直…………もう少し横になってはいたいが…………その前に君に見せたいんだ」


 その後で改めてゆっくりと休むことにするさ、と付け足して、
 多少おぼつかない足取りで、鈴凛くんについて来るよう言うと、部屋を出る。

 首を傾げながらも、言われるままについてくる鈴凛くんを確認すると、私はさっきまで儀式を行っていた部屋へと足を運んだ。
 ついでに「お姉さまとふたりきりにしてなるものですかオーラ」ビンビンのメガネ小森もついて来る。


「シッ、シッ、シッ」

「はい千影ちゃん追い払わないの」






 そうして、鈴凛くん(とメガネ小森)をつれてさっきまで儀式をしていた部屋へ着くと、
 そこは、思った通りというか思った以上というか……かなり荒れ放題な惨状と化していた。


「これは…………後の掃除が大変だな…………」


 と、ひとり愚痴をこぼしながら、部屋の中心描かれた魔法陣に目を向ける。
 すると、その更に中心には水晶玉が置かれていて、そこから薄ぼんやりとした光が発せられていた。


「ふむ…………やっぱりな…………」


 予定していたものより光が弱いが……どうやら多少なりには儀式は成功していたようだ。


「昨日のお詫びといってはなんだが…………」


 それを確認するなり、私は鈴凛くんへ向けてそう言うと、指でパチンッという良い音を鳴らした。


「「え?!」」


 すると鈴凛くんは……ついでにメガネ小森もだが、驚きの声を揃えて口からこぼした。
 私が指を鳴らすと、水晶からは長い髭を携えた作業服の老人の姿が、うっすらと浮かび上がって来たからだ。
 そして、その人物と一番親しい人間はその姿を確認するなり、静かにその愛称を口にする。


「ジジ……」


 これこそが、私が彼女に対して送ろうとしたお詫びの印。

 既にこの世から去った死者を、イタコやシャーマンなどを介せず、
 死んだ人間の肉なども利用せずに――そこまでやったら逆に怒られるのは目に見えていたから――霊感もない人間にも見え、
 話せるように具象化させる。

 そしてそれを、彼女が最も会いたいであろう、彼女の祖父で行ったと……そういう訳さ。


「え? え? え? ホログラフィー……とかいうもの、ですか?」


 困惑するメガネ小森。
 ああ、彼女は鈴凛くんのことを見てきてるからね。
 鈴凛くんから始まる連想からだと霊的なものと繋がるなどと思いもしないだろうから、
 そっち方面からは考えず、機械的や科学的に考え、その「ほろなんとか」と思ったのだろう。


「本当は…………もっと長い時間一緒に居れるようにしたかったのだけど…………途中で失敗してしまったからね…………。
 それでも…………30分くらいは持つだろう…………」


 まあ、媒体である水晶玉の光具合から推測すると、大体そのくらいだろう。


「すまないね…………このくらいしかできなくて…………」


 申し訳なさそうな言葉を口にしながらも、その言葉は少しの余裕を含みながら口にした。
 それは、こんなことをできるのは私だけとも自覚しているからこその余裕が含まれていることもあるが、
 それ以上に何より、彼女が本当に喜んでくれるだろうことを確信していたからだ。


「何言ってるのよ……」


 彼女は、祖父へと向けていた視線を一旦私の方に振り向かせると、頬に涙を伝わせながら、本当に嬉しそうな声で……


「おつりがくるほどよ!」


 そう、私に微笑みかけてくれたのだった……。


「彼には既に…………もう私たちが愛し合っていると伝えて―――」

「あー、今のでおつり使い切っちゃったわ」




















 2度と会えないと思っていた祖父との感動の再開ということで、
 私はふたり水入らずでじっくり話をさせてあげようと考え、メガネ小森を連れてその部屋を後にした。

 まあ、この時くらいはさすがに譲ってあげるさ。


「ふー…………少し、無理をしすぎたかな…………」


 最後の一仕事を終えたせいか、急な立ち眩みに襲われて、ひとりで歩くのもかなり辛いものとなっていた。

 発動には別に大きな魔力は必要がないのだが、いかんせん今の状態が状態だったからだろう。
 最後の一滴を搾り出したようなものだったからか、それとも作業を終えたという安堵からか、
 私の身からはどっと疲れが噴き出してきていた。


「これは…………ちょっとまずいかな…………」


 どうやら、ひとりで部屋までたどり着けそうにない……。

 はぁ……本当はものすっごく不服なんだが、他に手を借りられる相手もいないことだ……。
 私は仕方なしに隣にいるメガネ小森に肩を貸してもらうことにした。

 これは、無理をして鈴凛くんに心配を掛けたくないからだ!
 だから決してメガネ小森と馴れ合うつもりなんかないぞ!



「すまないが…………)本当はものすっごく不服なんだが(……肩を貸してくれるかい…………?」

「括弧が反転して本心が丸見えですよお姉さまのお姉さま」


 ああ、しっぱいしちゃった、てへ。(←棒読み)


「まあ、しかたないですよね……」

「…………む?」


 しかし、向こうも向こうで不服そうな顔をしながらも、ちゃんと肩を貸してくれた。
 お姉さまのお姉さまだからですよ、とか、
 そこまで顔色悪くされたら放って置けませんから、なんて言い訳のような言葉を付け足すメガネ小森。

 ……どうやら、天敵に心配されるほど私の顔色は悪いらしい。


「まあ…………一応、ありがとう…………」

「一応、どういたしまして」


 お互い、一応社交辞令のような言葉を交し合う


「それで…………そうだな…………さっきの部屋まで運んでくれるかい…………」


 このまま自分の部屋に運んでもらい、愛用しているベッドの方で休もうかとも考えた。
 そちらの方が慣れ親しんでいることもあり、居心地も良かったのだが……
 でも今日だけは縁起を担いで、「死」から遠ざかってみるのも良いと思ったから。

 私らしからぬ考え方だが……そう思うと、普通のベッドで眠るのも悪くないなと……
 今日何度目かになるかも分からない、軽く緩んだ顔をするのだった……。
























「やほー」

「…………」


 後日、消耗しきった魔力、体力、共に十分に回復させた私は、衛くん占いの末、マイラヴァー鈴凛くんの居場所を探り当て、
 見事その場所に居た鈴凛くんと運命的再会を果たしたのであった。
 しかし、鈴凛くんの方はというと……何故か私に会うなり黙りこくってしまうのだった。


「どうしたー…………元気ないぞー…………。ほら、おねーさんと一緒に…………さん、はい! やほー」

「そういう千影ちゃんは元気過ぎ。もうちょっと不調でいて」


 フフフ…………元気になった途端この扱いか……。
 確かに君の言うように、もう少し不調でいれば良かったな…………くすん。


「まあ、元気になって何よりね……。んじゃ」

「待ってくれ…………一体どこに行くというんだい…………?」

「小森さんの家。なんか風邪で倒れたみたいだから、今からお見舞いに行くの」


 あ、それ私の仕業。


「で、千影ちゃんと小森さんの相性が悪いのはこの間イヤってほど理解したから、だから千影ちゃんは大人しく―――」

「…………ついて行ってお礼参りをすれば良いんだな…………」

「それをするなって言ってんのよ」


 彼女には、この間世話になったからな……そのお礼を、たっぷりと返さなくてはいけないね……。
 ……そう、たっぷりと…………鈴凛くんと喧嘩した原因を作ってくれたお礼をね…………。(←結局そっち)


「フフフ…………フフフフ………………って、おいおい…………待ってくれよ…………」


 私が、あの風邪引きメガネ小森への「お礼」を、あれこれ思案している間に、鈴凛くんは既に目的の場所へと足を進めていた。
 私も慌てて駆け足で近寄った。
 まったく、君は本当つれないんだな……まあ、それがイイトコロなんだけどネ


「ん…………どうかしたのかい…………? 顔が青いようだが…………」

「いや……なんか急に寒気が……」

「君は私の頭の中に闖入してまで蔑みたいのか!?」

「は?」

「いや寧ろ歓迎だがッ!!」

「歓迎なんだ!?」


 私の思っていることを、言葉を介すことなく伝わる……。
 まるで長年連れ添った夫婦のよう……いや、既にそれは二分された不安定な存在などではなく、
 同一の存在として、いつまでも決して分かつことのなく、居続けられる究極の愛の形……。


「鈴凛くんと私は、一心同体少女隊なのデス〜」


 ……って鈴凛くん何故また早足で距離を開けるんだい……?


「ったく……どうしていつも…………。
 元が良いんだから普通に迫ってくれるんだったら……アタシだって……少しは…………」

「…………何か言ったかい?」

「なんでもない!」






  兄くん…………



「そうだ…………今日はお願いがあってきたんだ…………」

「お願い? ……何よ、またしょうもないこと?」



  多分、届きはしないと思うけれど…………私の懺悔を聞いて欲しい…………。



「頼むから…………今度生まれ変わる時は…………どうか魅力のない人間に生まれ変わってくれ」

「何そのお願い!?」



  私は…………彼女の言ったとおりにしてみようと思う…………。



「考えてみた結果…………君と兄くん…………どちらも選べそうにないんだ」

「いや、いいわよ! 兄くん選んでよ!」



  今だけ…………現世いまだけは…………兄くんとの永遠の契りというしがらみから抜け出て…………
  現世いまで愛した女性ひとを…………ただひとり、愛したいと思う…………。



「大丈夫…………現世いまでは…………君だけを精一杯愛してあげるさ」

「いらない」



  兄くんとはまた愛し合えるけど…………彼女とは…………現世いまだけかもしれないから…………。
  
  想いの形は違うけれども…………ふたりとも、最愛の男性ひとで…………最愛の女性ひとだから…………。



「遠慮しなくて良いさ…………」

「いらない!」




  現世いまを精一杯生きると…………彼女に誓ったのだから…………。










あとがき


電寿さんからのポイントリクエスト、千影×照れ鈴凛のギャグ話
……だったのですが、千影×鈴凛ではなく千影→鈴凛的な内容になってしまったり、
ギャグと委託されながらシリアスっぽい話に動いてしまったりと、
なんだかリクエストされたものとちょっとずれてしまった気が……(苦笑

それでもギャグにしようと頑張ったため、
壊れ千影のバランス取るのが非常に難しかった……というかこれってちょっと破綻してますね(汗
結局どっちつかずになってしまった印象がなくはないのですが、
それでも精一杯良いものを目指して作ったので、その分報われていれば嬉しいです……。


実は、最初にやろうとしたネタを基盤に書き始めていたのですが、
書いているうちに主題がものすごくズレにズレて、今や完全に別話になっていたりします(苦笑
それで、最初にやろうとしたネタをここで中途半端に使っちゃうよりは、
別の機会に使った方がより良い感じに仕上がると感じたため、それは思い切ってカットしました。
まあ、比較的どのカップリングでも使えるネタでしたので……。


この話、多分、初「明確に転生後の兄以外の相手とのカップリング」話だと思います。
それでも、その形でもその形なりの想い方というものを、書いてそれなりに見つけられた気がします。

それから、千影は何度でも生まれ変わっているという設定をよく使ったり見たりしますが、
ということは「人生をリセットできる」、「"命"に対して人と違う感性を備えてしまう」と書いている最中に感じましたので、
いっそそういう風に書いてみました。

最も死を恐れなさそうな千影と、反対に死を怖がっている鈴凛。
このふたりはこういう観点から見ても正反対なんだなぁと、書いている本人にも色々な発見があった一作だったかと思います。

他にも、ちょこっと書いた宝石で本を買うということについても同様で、
千影の行う妖しい魔術の実験や儀式に使うものや、千影が普段妖しいお店とかで買い揃えるものって結構高価そうで、
更に普段からそっち方面で買い物しているから、同じ感覚で一般の本屋で買い物したのならあんな感じかなと。

そう考えるとちかりんって玉の輿?(笑


そういえば出番がないのに地味に衛が酷い扱い受けてます。
でも何故でしょう、何故か衛が一番適任と感じてしまいました……(ぇ


更新履歴

H16・12/21:完成
H16・12/22:誤字修正


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