「ありがとうございました」

学校帰り、私は商店街で、必要になった参考書を購入していた。
お陰で私のお小遣いはほとんど無くなってしまった。

「お客様、福引き券もどうぞお受け取りください」

参考書を鞄の中に入れていると、店員がお釣りと共に紙切れを2枚ほど出す。

それを受け取り、財布の中にお釣りをしまいながら、
もう一度「ありがとうございました」と言う店員の声が響く店を後にした。

「福引き・・・ねぇ」

道を歩きながら、今貰った2枚の福引き券を眺めてそう呟いた。

今、この商店街では福引きをやっている。
でも、たかだか商店街の福引き。
どうせ大したものが当たるわけじゃないから私にはあまり興味のないものだった。


「そういえば、この間買い物した時に貰った分、そのまま財布に入れてたっけ・・・」

私は財布から、しまっておいた福引き券を全て取り出し、今貰った分の券をそれらに重ねて、枚数を数えてみた。

「1、2、3・・・・・・」

みーっつ数え・て♪

「・・・・・・何、今の脳内ソングは?」

よく分からんが、その後の『は〜しり出そ・う♪』が可憐ちゃんの可憐な声に聞こえたので良しとしよう。(えー)

「13枚か・・・結構溜まってたわね」

ノートが同時になくなったり、参考書が必要になったりと、最近は結構出費が多かった。
更に、白雪ちゃんに食材を買ってくるよう頼まれた時とかに私が受け取ったりしてたからね・・・。

福引き券には、3枚で1回と書かれている。
つまり、1枚余るけど4回できる計算となる。

「・・・・・・」

商店街の福引きなんて・・・あんまり大した物じゃないんでしょうけど・・・

「ポケットティッシュでも・・・貰えるもんは貰っときましょうか」

そう思って、私は福引き会場へと足を向けた。











 

咲耶ちゃんが福引きをしました













「はい、残念賞のポケットティッシュです」

見た目二十代くらいの若い女の人、その福引き会場の係りの人は、笑顔でそう言っていた。
そして、今福引きを終えただろうメガネでロングヘアーの少女が、
たった今自分のものになったポケットティッシュを受け取り、ガックリと肩を落としていた。

「はぁ・・・やっぱり1等なんて、そう簡単に当たるものじゃ・・・」

そう呟きながら、後ろに並んでる人間に場所を譲るため、列の先頭から抜けて、そのまま帰っていく。

「ごめんなさい、お姉さま・・・」

少女の最後の台詞で、私にとって何かが侵害されたような気分になりつつ、
私のひとつ前に並んでる人間が前に出るのを確認してから、空いたひとり分のスペース前に進んだ。

私のひとつ前の人は係りの女の人に券を出し、そして福引きをはじめる。
当然ながら、この人の後ろに並んでいる私が、その次である。
ちなみに私の後ろには人はいない。

(1等の賞品って・・・一体何かしら?)

私は前の人が終わるのを待っている間、さっきの少女の言葉が少し気になっていた。
こういうのは大抵特賞があるのに、さっきの少女は1等を狙っていたらしいからだ。
特賞は既に誰かに当てられて、今は1等が1番良いのかと思った。

しかし、奥を見てみると特賞と書かれた封筒はまだ存在していた。
あの少女が特賞よりも欲しがったものがなんなのかちょっと気になり、壁に貼られている賞品リストの1位に目をやった。

1等は・・・『ペア旅行チケット』・・・・・・

・・・・・・。

「ペア旅行チケットっ!?」

つい出してしまった大声に、前の人はビクッと体を大きく揺らし驚いていたようだった。
しかし、私の方が驚いた。
いや、そうに決まっている!!(断言)

1位の賞品・・・まさかそれが、

「『ペア旅行チケット』だったなんて・・・」

別に旅行に惹かれたわけではない。
更に言うなら、場所もたかだか商店街の福引きらしくあまり豪華な所とは言い難い。

しかし、『ペア』その言葉が私を釘付けにした!

そう『ペア』・・・。


「ぅふふふ・・・っvv」

たった今ポケットティッシュを受け取った前の人と係りの女の人が、またビクッとした気がしたがそんなことはどうでもいい。

私が、ペア旅行チケットを当てれば・・・


誰も居ない場所で、

可憐とふたりっきりで・・・


ふたりっきりで・・・!



イチャイチャできる!!












私と、私の妹の可憐ちゃん。
私達は姉妹という間柄でありながら、愛し合っている“イケナイ関係”だ。
同性で、しかも近親間同士という、分厚い禁忌の壁が在るにもかかわらず、私達はそれでも尚、愛し合っている。

しかし、当然それは禁じられた関係。
外はおろか、家でも恋人らしい行動など一切取れない。
“姉妹として”で、できる限りの愛情を注いでいるが、あまり度が過ぎるとそこからバレてしまうため、辛いくらい抑えている。
そのため、普通の恋人同士よりもラブラブな雰囲気を味わい難いのだ。
なんせ、外でも家でもその状況を見られるということを避けねばならない関係だから・・・。

はい、説明終わり!(←何の?)



しかし、もしここで『ペア旅行チケット』当てれば、

私達のことを知る人が誰もいない場所へ、
可憐とふたりっきりで出かけ、

そこで、


イチャイチャできる!!(←2回目)






しかも、たかだか商店街の福引き、あまり大した場所ではない。(←失礼)
つまり人は少ないはず!

その上、誰も私達を知らないから、ちょっとくらい同性愛シーンを見られたところでその場ですぐにおさらば!
何より、実は姉妹でなんて更にディープな禁断の関係なんて誰も気づかないでしょうし!

だから(あまり見られたくないけど)屋外でのびのびとラブラブできるッ!!

そう、きっと・・・



・・・・・・


・・・・・・



・・・・・・






   『咲耶ちゃん・・・ふたりきりだね・・・』
   『ええ・・・ここなら、誰もいないわ・・・』
   『夕日が綺麗・・・』
   『可憐(←呼び捨て)の方が・・・綺麗よ・・・』
   『咲耶ちゃん・・・』
   『可憐(←呼び捨て)・・・』
   『・・・・・・大好き・・・』






「ラブよーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

浪費バンザイ!!

前の人は逃げるようにそそくさと私に場所を譲って、係りの女の人は福引き会場の奥に後ずさりしていた。












「ぅふふふ・・・」

ようやく私の番が来たぁッ!

「い、いらっしゃいま・・・」
「はい、福引き券12枚!! 4回分よっ!!」

(何故か怯え気味の)係りの女の人に、福引き券を机に叩きつけるように12枚出す。

自分で言うのもなんだけど、私は結構くじ運が良い。
くじに限らず、どちらかと言うとついている方だと思ってる。
席替えでは嫌な場所に当たったことはないし、ジャンケンも結構強い方・・・だと思う。

根拠はないものの、この自信はそこからくるもの。

「は、はい、どうぞ・・・」

係りの人がきちんと12枚あるかの確認を終えて、(何故か怯えながら)私に福引きをするように促す。


チャンスは4回。

しかし、4回で当てようなんて弱気な考えはしない!
1発目で当ててやるわ!!

例のあの八角形の福引きのガラガラ―――『新井式廻轉抽籤器』なんて正式名称は知らないわよ!(ぇ)―――のハンドルを握り、
気を集中させ、そして一気にハンドルを回す!

その名の通りのガラガラという音を発しながらガラガラはクルクルと回る。

「これで・・・どうよッ!!」

その掛け声と共にカコンっ、と軽い音を出してひとつの玉が転がった。

その玉の色は・・・

「黒!!」
「おめでとうございます」

係りの女の人は、カランカランと持っていた小さな鐘を鳴らす。
鐘が鳴るということは、かなりいい物が当たった証拠だ!

私はすかさず壁の賞品リストを見た。
よく考えてみたら、全部ポケットティッシュと交換のつもりだったから何等が何色か見てなかったわ。

私が1等の玉の色を確認すると同時に、女の人がこう言う。

「3等、大当たりです!」
「ちぃッ!」

私の舌打ちに、係りの女の人は「は?」という疑問の表情と声を上げて私を見ていた。
普通は大喜びする所なんだろうけど、今の私にとってペア旅行チケット以外はポケットティッシュと同レベルよ!

「あのー・・・」
「なによ!」
「3等の賞品のマウンテンバイクを・・・」
「あー、あと3回やるからそこ置いといて」

とっとと残り3回で1等を当てたかったので3等賞を邪険に扱う。

しかし、まさか自転車が当たるなんて・・・
私は使い慣れている今の自転車のままで良いし・・・・・・何より今の自転車は可憐ちゃんとお揃いだしvv
まぁ、家に帰ってから、誰かにあげるとしましょう・・・。

なんて考えている間に、係りの女の人は頭の上にハテナマークを出しながらも、マウンテンバイクを奥から出し終えていた。






「1等は・・・紫色ね・・・」

1等の色を確認して、再びガラガラに目を向ける。
他の色は例え金色(←特賞は大抵そうだから)でも、私にとっては1等以外は外れも同然。

「残り3回・・・」

今、3等を当てれたんだから、集中すれば当てれるわね。
今のはきっと集中が足りなかったのよ。(←↑運を使い果たしたなんて考えは頭っからない)

(紫、むらさき、パープル、ムラサキ、、村崎・・・)

色を鮮明にイメージし、再び集中、

「とおおりゃぁぁぁああっっ!!」

今度は気合を声に出してハンドルを回した。
目の前で大声をあげる私に、係りの女の人は、またもや少し引き気味になっていた。












「はい、7等賞のペットボトルジュースです」
「・・・・・・」

・・・気合は、見事に空回りした。

しかも2連続で。

気合を入れて回したはずなのに、2回とも出てきた玉は紫ではなく7等賞の青。

7等賞は1.5リットルのペットボトルジュース。
いくつか用意されてる数種類の中から、オレンジジュースと『おいしい水』を選んで仏頂面で受け取った。

「今のは運気が悪かっただけよ・・・」

今は悪かったんだから・・・悪いことの後には良いことがある。
つまり、次はきっといい賞がくるはず。

具体的にはペア旅行チケット!!


「残るは1回か・・・」

いくら強気に考えてても、切羽詰れば神頼みもしたくなる。
4回あったうち3回は既に外してしまったのだから・・・。(厳密には“当たり”)


神様・・・どうか、どうか私に力を・・・


・・・・・・。


・・・どうせ頼むならおじいさんより、まだ若くて美しい女神の方がいいかしら?


女神・・・

私の女神、それは愛しい愛しい可憐・・・。

「可憐、私に力を貸してー!!」
「大声で何言ってるんですかっ!?」

私の神頼みの声に反応するように、突然後ろから、焦ったような困ったような声が聞こえた。
この声の主、私は聞き違える訳がない。

「まさか・・・!?」

振り向いた先には、私の妹で・・・そして、恋人の・・・可憐ちゃんの姿だった。

「可憐!?」

まさかこんなところで可憐ちゃんに会えるなんて思っても見なかったからかなり驚いた。
嬉しさのあまりv

「・・・ちゃん」

思わず呼び捨ててたため、後ろにそう付け足す。

「もうっ、咲耶ちゃん大声で・・・可憐、ちょっと恥ずかしかしいよ・・・」

大声で自分の名前を名指しで言われりゃ、さすがに恥ずかしくもなるか・・・。

「可憐ちゃん、どうしてここに?」
「さっき、お買い物をして、それで福引き券を貰ったの。
 それで1回分の枚数が溜まったから、折角だからって来てみたら・・・咲耶ちゃんが恥ずかしいこと叫んで・・・」
「あ、ごめん・・・」
「咲耶ちゃんは?」
「似たようなもんよ。 枚数溜まってたからティッシュと交換しようと思ってね」
「ティッシュと・・・ですか?」

可憐ちゃんは私のことをジッと見回して・・・も、もうっv そんなに見つめないでよ・・・vv

「あの・・・そのペットボトルは・・・?」
「当てたの。 ついでに言うとこの自転車も」

私は、横に置いてある自転車を指さしてサラリと言った。
可憐ちゃんが豆鉄砲をくらった鳩みたいに驚いて、目を見開いていた。

ああ、驚いてる可憐ちゃんもなんだか可愛い・・・v

「どうしたの?」
「咲耶ちゃん、凄い・・・1回もポケットティッシュを引かないで、しかも自転車まで当てちゃって・・・」

まぁ、普通は大喜びなんでしょうけど・・・

「ダメよ、こんなの」
「え? なんで・・・?」

私が狙うのは1等賞のペア旅行チケットのみ。
その賞品があまりに良過ぎるものだから、他のものはポケットティッシュにしか見えない。

「でも大丈夫よ・・・私には、女神がついてるんだから」
「え? えっ?」

そう、これはもう運命ね。

2回外した後の私のバイオリズムは、再び上がり始める。
そして、まるで計ったかのように私の女神の登場。
しかも最後の大舞台で。


「いくわよーーーーッッ!!」

四度気合を入れ、最後の福引きに・・・。












「・・・じゃあ、そこのスポーツドリンクください」
「はい、どうぞ」

そして、3本目のペットボトルジュースを受け取る。

「咲耶ちゃん、すごいよ! 一回も外さなかった上に、自転車まで当てちゃうんだもん」

ふ・・・敗者には、例え愛する人からの言葉でも虚しく響くだけなのよ・・・。
それでも、愛する人の分、普通より励ましにはなるけど・・・。

「はい。 可憐ちゃん、どうぞ・・・」

可憐ちゃんに場所を譲る。

「あ、うん・・・」

ひょっとして可憐ちゃんが当てるんじゃ、とか淡い希望を持つ私。
しかし、結局この後、可憐ちゃんはポケットティッシュを受け取って、福引きはその幕を閉じたのであった。
























「ペア旅行、ですか・・・?」
「そう・・・」

帰り道、私は、当てた自転車を転がしながら、可憐ちゃんと同じ帰り道を歩いていた。
だって折角会えたんだし、住んでる家は一緒だし、それに・・・恋人同士だしv

一緒に道を歩きながら、可憐ちゃんに福引き中私が考えていたことを話していた。

例え大した旅行先でなくても、ふたりっきりで、
私達のことを知る人の居ない場所で、思いっきりデートを楽しみたかったことを。

「そうなったら・・・やっぱり可憐、嬉しいな・・・」
「でしょ?」
「でも、当たったら当たったで・・・なんだかみんなに悪いよ」
「え・・・?」
「だって、みんなだってきっと行きたいはずなのに、可憐たちがふたりで旅行に行くなんて・・・」

ああ、可憐ちゃん・・・貴女はなんて優しいの!?

それでこそ、こんなディープなイケナイ関係を貫き通してでも愛している甲斐があるというものよ!

ああ・・・可憐、ラブよ・・・v

「・・・咲耶ちゃん? どうしたの突然黙ってニヤニヤして・・・(汗)」
「はっ・・・!?」

い、いけない・・・つい顔に出してたみたいだわ・・・。

「確かにそうかもしれないけど、一応、当てた人間には行く権利があると思うわ。
 そして、当てた私が残りのひとりとして可憐ちゃんを選ぶ」

にやけた顔を作り直して、いつも通りの綺麗な私の顔でキリッと言う。

「でも、やっぱり・・・。 それに可憐を選んだこと、疑われたりしちゃうかも・・・」
「そうね・・・みんなに悪いんなら、たまたま同じ日に友達の家に泊まることになったとか言って隠す。
 そうすれば、私達の関係だってバレ難いんじゃないかしら」

なんて、貰えなかった旅行の予定を虚しく話す。
こういうのを、獲らぬタヌキの皮算用っていうのよね・・・。

「はぁ・・・」

なんだか虚しさのあまりため息が思わずこぼれてきたわ・・・。

「あ、咲耶ちゃん、ちょっとここで待っててくれますか?」
「え?」

なんて改めて肩を落としていた私に、可憐ちゃんが不意に話しかけてきた。
突然のことだったので、少し驚いた。

「可憐、あのお店でちょっと買うものがあって・・・」
「あ、ええ、いいわよ」
「うん・・・ごめんなさい」
「寧ろ待たせて! 待たせなさい!!」
「はい?」
「っていうか、ここまでやっておいて一緒に帰れないなんて酷よ!
 ライオンの目の前に霜降り肉を置いておいて、そのまま食べさせないようなもの!」

やや興奮気味に、熱弁してしまった。
なんせ普段からイチャイチャできないんだから、こういう恋人気分を味わえるものに飢えているのよ!


私達は“気分”なんかじゃなくて、ほんとに恋人同士なのに・・・。


「・・・それって、言い過ぎじゃ・・・」
「言い過ぎなんかじゃないわ・・・」
「・・・えっ!?」

さっきみたいな興奮しきった態度と声とは打って変わり、
優しく、静かに、そして真剣に・・・可憐ちゃんに、私の気持ちを告げる。

「私にとって・・・可憐ちゃんは・・・・・・霜降り肉なんだから・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

違う・・・何か違う・・・(汗)

「・・・もうちょっと考えてから、例えれば良かったわ・・・」

自分のかっこ悪さに、額に手を当て更にガックリする私。
その横で、可憐ちゃんは困った顔で苦笑いをしていた。

よりによって、霜降り肉なんて・・・ロマンチックにかけらも無い・・・。
花穂ちゃんあたりに言えば、「あ〜ん、花穂、やっぱり太ったんだ〜」とか言って泣きそう・・・。
そんなイメージのものを、よりによって可憐ちゃんに当てはめるなんて・・・。

「じゃ、じゃあ、可憐、行くから・・・」
「ええ・・・待ってるから・・・」

辺りには、目に見えない微妙な雰囲気が漂ってしまっていた。



「咲耶ちゃん・・・」
「ん?」

可憐ちゃんが、お店の入り口で一旦足を止めた。

「例え方はちょっとアレだったけど・・・でも・・・」

振り返って、ほんのり赤く染めた頬と満面の笑みで、

「そう言ってもらえて・・・可憐、すっごく嬉しい・・・v」

そう言ってから、お店の中に消えていった。


店先で、真っ赤になった私をその場に残して・・・。












店の入り口で待つこと15分程度、お店の中から可憐ちゃんが戻ってきた。

「ごめんなさい」
「ううん、良いのよ別に」

待ち合わせなんて、なんだかデートの始まる前みたいな気分って考えると、ちょっとだけ楽しかったし・・・。

「あの・・・福引き券、1枚だけ貰っちゃったけど・・・」

可憐ちゃんがもじもじしながら、紙切れ1枚をゆっくりと取り出す。

「でも、3枚なきゃできないでしょ?」

3枚で1回。
私の持っている分を含めても2枚。
1枚足りない。

「そうだよね・・・2枚じゃ、できないよね・・・」
「あと1枚あればねぇ・・・」
「あと1枚・・・」

あと1枚、あと1枚と呟きながら、ふたり揃ってため息を吐いた。

そんなこんなで数分間、自転車を転がしながら歩いてるうちに家に着いてしまった。
























家についた後、当てた3等の自転車の所有権について数人で話し合った。

可憐ちゃんは宿題を先に済ませたいとのことで、すぐに部屋に向かってしまったので会話には参加してない。
それに・・・・・・可憐ちゃんも私とお揃いだからって貰うの断ったしvv

その結果、自転車を持ってない鞠絵ちゃんにこの自転車を譲ると言うことになるが、
福引きを外したことで多少むしゃくしゃしていたため、その時のやりとりは意外とどうでも良かった。

ただ、自転車が乗れなかったという新事実発覚の際、鞠絵ちゃんの見せてくれた面白いくらいの動揺と、
衛ちゃんの怪しい発言が心に残った程度。












で、今、私は庭に来ていた。

「ああ・・・花穂ちゃんが・・・花穂ちゃんが・・・」

目の前で、衛ちゃんが草むしりをしながら、なんかそう呟く。

なぜ衛ちゃんが草むしりをしているかというと、
衛ちゃんはこの間、新しいマウンテンバイクを買うために、私からお小遣いを貰っているのだ。
そして、その代わりに家の手伝い―――今回の場合は草むしりね―――を、手伝うという約束をしたから。

私は、特にやることもないのでその監視。

実は当てた自転車の所有権について話し合った後、
鞠絵ちゃんは花穂ちゃん、鈴凛ちゃん、四葉ちゃんの4人で、ミカエルの散歩ついでに公園に自転車に乗る練習へ行ったのだ。

衛ちゃんも行きたがったのだけど、草むしりの約束があるため断念させたのだ。

「うう・・・花穂ちゃん・・・・・・花穂ちゃん・・・」

この調子だと、見張ってないと行ってしまいそうだし・・・。


そう言えば、衛ちゃんって花穂ちゃんと仲良かったっけ・・・。
最近は花穂ちゃんは鞠絵ちゃんたちといるからあんまり一緒にいないけど。
だから花穂ちゃんを取られたみたいで寂しいのかしら?
まぁ、それでも一緒に住んでるから決して少なくはないはずだけど。

それに衛ちゃんは・・・・・・



・・・・・・。






   『だったら花穂はいいお嫁さんになれないのかなぁ』



   『別にお裁縫ができなくても花穂ちゃんは可愛いから大丈夫だよ』

   『そ、それにさ・・・ボ、ボクは・・・別にそんな事、全然気にしたりしないから・・・花穂ちゃんは安心して・・・』



・・・ちょいと待ちなせぇ衛さん・・・っ!(←動揺のあまりヘンな方便になった)


ままま、まさか衛ちゃんって・・・

・・・い、いえ、そんな特殊な事例、私と可憐ちゃんとで十分よ・・・。
いくら12人姉妹なんて、人数が多いからって、そんなことそうそう起こるわけないじゃない・・・。
大体、この間鞠絵ちゃんと鈴凛ちゃんでそんな誤解をしたばっかなんだから・・・もう少し自粛しなさい、私!

・・・・・・。

「ねぇ、衛ちゃんって・・・花穂ちゃんのことどう思ってるの?」
「好きだよ」

・・・・・・。

「なんですと!?」

決定的証拠獲得ッスかっ!?

「だって可愛いし・・・いっつも一生懸命だし・・・放っとけないし・・・」

・・・い、いえ・・・衛ちゃんの好きは、私が可憐ちゃんに対して抱いてる好きとは違うはずよ・・・。

「ちょっとドジだけど・・・・・・そこがまた可愛くてぇ・・・」

じゃないと、こんなにハッキリ言えるわけないじゃない。

「しょ、将来お嫁さんに迎えたいなぁ〜・・・なんて・・・あははっ、ぼ、ボク何言ってるんだろうvv」

うん、そうよ、私達とは違う“好き”よ。(↑聞こえてない)


「ところで咲耶ちゃんはどうしたのさ?」
「え?」

まさか自分が特殊な恋愛をする人間と疑われてたなんて知らない少女は(←だから聞いてなかった)、
実際にそういう特殊な恋愛を経験している私に、別の質問を返してきた。

「どうしたってなにが?」
「なんか・・・さっきからため息ばっかで・・・」
「え? あ、ああ・・・別に・・・なんでもないわ」

福引きを外したから、なんて、とてもじゃないけど言いたくなかった。
理由がペア旅行チケットなんて言ったら、「そんな当たり前の理由で悩んでるのか」と言われそうだったし。
福引きなんて、当たらないのが普通・・・大体、私は自転車を当てているし・・・。


あと1枚・・・あと1枚だけあれば・・・もう一回できるのに・・・。


しかし、今私が使えるお金は既にほとんど残ってない。
いや、ほんとはあるのだが・・・それはあの金食い虫に貸している1万6800円のことだ。

そのお金が今すぐ返ってくることはまず無い。
今までの経験上ハッキリとそう言い切れる。

私のお金はないが・・・私が管理している家のお金をこっそり使えば・・・。

いえ、当たるとは限らないモノのために、必要もないものお金を使うなんて・・・。
そんなこと・・・長女として、我が家の金銭管理をするものとして・・・何より、私自身のプライドが許さない。



    『そうだよね・・・2枚じゃ、できないよね・・・』


ほんと、あと1枚あれば・・・


















・・・あれ?

「そういえば・・・私、可憐ちゃんに・・・福引き券が1枚余ってるって言ってたっけ・・・?」

・・・私の記憶が確かなら・・・

「・・・!!」

まさか・・・

「あれ、咲耶ちゃん? どうしたの?」

突然立ち上がった私を疑問に思った衛ちゃんは、私にそんな質問を投げかけてきた。

「衛ちゃん・・・私、ちょっと用事を思い出したから。 ちゃんと草むしりしてなさいよ」

そう言い残して、私は急いで部屋にいるだろう可憐ちゃんの元へ走って行った。






    ドタドタドタ・・・


「可憐ちゃん!!」

ドタドタと階段を駆け上がり、ノックもせずに可憐ちゃんの部屋に入った。

「え!? な、何!?」

突然のことに驚いた可憐ちゃん。
さっき言っていた通り、机に向かって宿題をやっていた。
これがもし着替え中だったら・・・・・・いえ、今はそんなこと考えてる時じゃないわ・・・。

「福引き券、ひょっとしてもう1枚あるの!?」
「え? え? え?」
























私は、自転車を猛スピードで漕いでダッシュしてた。
そして私の後ろでは、可憐ちゃんが私の体に腕を回し、振り落とされないようしっかりとしがみついている。
その可憐ちゃんの胸のふくらみを背中で感じ・・・・・・い、いえ、なんでもないわ・・・。

「これがほんとのラストチャンスね」
「うんっ」

私達は、さっきの福引き会場へと向かっていたのだ。

そう、可憐ちゃんのこの言葉、


   『そうだよね・・・2枚じゃ、できないよね・・・』


これは、私の持っている余りの1枚と合わせたものではなく、
自分の持っている余りの1枚と合わせた福引き券の数を表していた。

そう、つまり可憐ちゃんは、更にもう1枚福引き券を持っていたのだ。

私の余りが1枚、可憐ちゃんが新しく貰ったのが1枚、そして・・・可憐ちゃんが最初から持っていた余りの1枚。
それらを全て足すと、


 1+1+1=3


つまり、福引き1回分。


「いらっしゃ・・・・・・ひっ!?」

さっきの女の人は、私達を確認して、またやって来た私達を見てちょっと驚いたんだろうけど、そんなことは“お客様の都合”。
この人がどうこう言う謂れはない。

「福引き券、3枚!」

私と可憐ちゃんの分を合わせた3枚、
正真正銘最後の1回分を机の上に叩きつけるように出して、

「1回・・・やらせてもらうわよ・・・!」






「頑張って、咲耶ちゃん!」
「任せなさい!」

今度こそ、本当のラストチャンス・・・。

さっきとは違う・・・後に可憐ちゃんが控えているということもない。
私は3回も連続で7等と、3回連続で外している。(だから厳密には当り)


次こそは・・・



そして、全神経をハンドルを握る手に集中。
さっきよりも感覚が研ぎ澄まされているのが分かる。

一息、すぅーっと息を吸って、

「はぁぁぁぁぁぁあああ・・・ッッ!!」

掛け声と共に、ガラガラをグルグル回す。

「咲耶ちゃんっ!! 頑張ってぇっ!」

女神の応援が、私の耳に届く。

ちなみに係りの人はまた引いている。






    カランッ・・・



出てきた玉・・・その色は、私の・・・私達の運命の色・・・

それは・・・
























夕日に染まりかけている道の上を、自転車で二人乗りする影がひょろ長く伸びていた。

「ねぇ・・・咲耶ちゃん・・・」

後ろの少女が、そっと私に語りかけてきた。

「何?」
「やっぱりこれも・・・運命、なのかな?」

後ろに座っている少女の、その静かな問いに、

「・・・かも、しれないわね」

私も静かにそう答える。

「だったら、その運命に従うしかないんじゃない・・・?」
「そうだね・・・」

ぎゅっと、私の体に回した腕に少しだけ力を加わるのが分かった。

「期限は9月までだから・・・そうね・・・夏休みにでもみんなに嘘ついて、行きましょうか」
「はいっ」

嬉しそうな声で私の言葉に返事をする。
自転車を漕いでいなければ、すぐにでもその笑っているだろう顔を見ているのに・・・。

きっと満面の笑みで笑っている私の女神のポケットには、1等と書かれた紙が貼り付けられている封筒が入っている。
封筒の中身、それは・・・私と彼女、ふたりの福引き券を合わせて当てたペア旅行チケットが入っている。

「向こう着いたら、思いっきりデートしましょうね」
「はいっ」

私の女神は、もう一度嬉しそうな声で返事をしてくれる。

「誰も私達のこと知らないから、少しなら見せ付けちゃいましょうか?」
「ええっ!? そ、それは・・・ちょっと・・・」

今までも待ち遠しかった夏休みが・・・

「でも、咲耶ちゃんが喜んでくれるなら・・・」


今まで生きてきた中で一番早い時期に、
そして一番待ち遠しく感じていた・・・。


そんな、夏が始まりかけた日の出来事だった。
























おまけ


「あれ? 衛ちゃん」
「あ! さ、咲耶ちゃん!?」
「どうしてこんな所に・・・? 草むしりは?」
「いや・・・別に、ボクは・・・その、花穂ちゃんに会いにいくなんてこと・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


    ガシッ



    ずるずるずるずる・・・・・・


「ほらほら、早くしないと晩ご飯までに終わらないわよ」
「あ、は、離して! 花穂ちゃんが! 花穂ちゃんがぁ・・・!」
 


あとがき

“〜ました”シリーズの裏側で、らぶらぶな可憐と咲耶を描いた、裏“〜ました”第5弾。(決まり文句)
なんだか全体的にあまり納得の行かない出来です・・・。

今回、衛がなかなかのヘンなキャラになってきましたね・・・。
どうしましょう・・・この後どんどんヘンになりそうな気がします・・・(汗)
あにぃの方々ゴメンなさい・・・。

福引きなんて良く分からないので、福引についてちょっと調べてから、賞品と玉の色をなんとなくで当てはめてみました。
なのでそこら辺はちょっとおかしいかもしれません・・・(苦笑)

今回、裏“〜ました”お決まりの千影への暴力的強制口止め描写がありませんでしたが、
残念ながら、本編の方で一撃の下に屠られてますので、千影は今回も被害にあっています(笑)
毎回毎回書くのもどうかと思ってたので、たまにはない時もあって良いと、筆者であるなりゅーは考えています。
ただ、それに期待してくださった方には期待を裏切ってしまったかもしれません・・・。

ちなみに、一番最初に自転車を当てさせたのは、
自転車が当たっているのは読んでいる人には分かっていることですので、
途中、他のが当たると言う楽しみがなくなると思ったから。
結局、3つともペットボトルジュースでしたけどね・・・。

それと、今更ですがPritsの『1・2・3』は大好きです(苦笑)


更新履歴

H15・1/11:完成&誤字脱字修正


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