もうすぐ花穂ちゃんのお誕生日。

 四葉は花穂ちゃんにスペシャルなバースデープレゼントをプレゼントしようと思っていました。

 モノでなくても、花穂ちゃんの望むこと……それでも十分過ぎるほどプレゼントになる。
 そう思って……こっそり花穂ちゃんの望みをチェキしていました……。


 でもまさか……



『花穂も……こんな立派な殺人をしてみたいな……』



 花穂ちゃんの望みが……ヒトゴロシだったなんて……。











 

貴女のためにできるコト、でもやっちゃイケナイコト














「四葉は……四葉はどうすれば……」

 ひとり机に突っ伏して、頭を抱える。
 原因は、昨日花穂ちゃんがテレビを見ながら呟いていた言葉。

 ここ最近、四葉は花穂ちゃんに見つからないよう、こっそりと花穂ちゃんを尾行。
 そして、花穂ちゃんが何を望んでいるかをチェキするつもりでした。
 それは、花穂ちゃんの誕生日に花穂ちゃんに素敵なプレゼントをするため……。

「ヒトゴロシなんて……どう考えたって許されることじゃないデス……」


 でもそこで、花穂ちゃんが決して許されないコトを望んでいるコトを知りました……。

 それに四葉は名探偵……。
 犯罪者に対しては非情に徹して、クールにビシィッっと正義を示さなければなりマセン……。

 例え……それがダイスキな人だったとしても……。

「四葉ちゃ〜ん、頼まれてたデジカメの改造終わったよ〜」

 でも……でも……四葉は、花穂ちゃんの望みを叶えてあげたいって……
 誕生日に、わぁーって驚かせて……

「四葉ちゃん?」

 最高のバースデーにしたかったのに……

「四葉ちゃ〜ん」

 このままじゃ血生臭いバースデーになってしまいマス……。

「起きたまま寝てるの〜?」

 どうにかしないと……

「……って、わあぁっ! 」


    がしゃーん












「ウウウ……ビックリしました。突然間近に鈴凛ちゃんのビッグフェイスが」
「アタシはそんなに顔大きくないわよ」

 四葉はビックリした拍子にイスごと後ろに倒れて、
 後頭部をこれ以上無いと言い切れるくらいのインパクトで打ち付けました。

「で、突然出てきて何の用デスか?」
「突然じゃないわよ 。部屋はノックしたし、何度も話し掛けたし」
「そんなことどうでもいいデス。それで、用はなんなんデスか?」
「折角デジカメ改良してあげたのにその言い草は無いでしょ」

 鈴凛ちゃんの手には、預けておいた四葉のデジカメが握られていました。

「そこにでも置いておいてクダサイ。四葉は今忙しいんデスから」
「机に座って頭抱えることのどこが忙しいのよ?」
「行動が忙しいんじゃないんデス! ブレインが忙しいんデス!」
「そんなこと言って、またしょ〜〜もないことでしょ?」
「しょうもなくなんか……ッッ」

 自分のキョウダイの一人が悪に手を染めようとしていることは少なくともしょうもなくはないデスが、
 こんなこと軽々しく言いふらしちゃうのは花穂ちゃんのためにも良くないデスね……。

「……の〜てんきでメカのことしか頭にない鈴凛ちゃんになんか一生分からない問題デス!」
「し、失礼ね! あ、アタシにだってメカ以外の悩みくらいあるわよ!
 恋愛とか……相手がマズイとか…………姉妹婚認められないかなぁ、とか…………Mちゃん可愛いとか……」
「最後のは悩みではないデスね」

 鈴凛ちゃんは女の子なのに女の子が好きなヘンタイさんです。
 しかも、それは四葉と鈴凛ちゃんのキョウダイにデス。
 相手は……まぁ、プライバシーの保護としてMちゃんと……。
 Mちゃんも気があるカラよけいタチ悪いデス。

 え? バレバレ?
 何言ってるんデスか、我が家にはMちゃんがふたりいマス。
 いくら作者が“まりりん支持者”だからってこの話までそうだと考えるな、と……
 ……って、四葉はナニを考えてるんでしょうね……?

「とにかく、四葉は忙しいんデス」
「また、花穂ちゃん?」
「ギクゥッ!!」

 ……ジャストミート、デス。

 鈴凛ちゃん、どうしていつも四葉が花穂ちゃんのコトで悩むのを当てれるんでしょうか?
 いっつも当てられるんデスよね……。

「面白いくらい動揺するし、行動も分かりやすいし……同類としては丸分かりよねぇ……」
「何か言いましたか?」
「別に」

 とにかく、鈴凛ちゃんの推理力は侮れないデス…………チェキ。

「ま、花穂ちゃんのことは図星でしょ?」
「ちちっちちちち違いマスよ! アハハハハ、ななな何を根拠に……」
「だって四葉ちゃん、花穂ちゃんのこと好きでしょ?」
「そそそそっそっそそっそんなことアルはずナイじゃないデスか! よよよっよ四葉と花穂ちゃんはキョーダイですよ!」
「だったら別に問題ないでしょ?」
「でででも……血が繋がってる上に、女の子同士で……」
「別にアタシは恋愛感情とは一言も言ってないけど」
「はぅっ!?」

 と、トラップ!?
 鈴凛ちゃんの巧みな言葉のトラップに、四葉は見事引っ掛かってしまったんデスか!?

「鈴凛ちゃん! 騙しましたね!」
「別にアタシは何も 。四葉ちゃんが勝手にそう思っただけでしょ」
「ぅぅ……」
「やっぱりぃ、四葉ちゃんは花穂ちゃんのことを〜……」
「そ、それは、鈴凛ちゃんみたいな真性のヘンタイさんが言うカラ―――」


    スパぁん


 この時、鈴凛ちゃんの右フックが四葉のアゴを的確に捉え、四葉はそのまま意識を失いました……。
























「アレ? ここは……」

 気がつけば四葉は真っ暗闇の中に立っていました。

 真っ暗闇デス。
 ダークネスデス。

 マッタクゼンゼンサッパリ見えません……。


    ぴちゃ……ぴちゃ……


「? 何の音デスか?」

 水の滴る音?
 誰かが水道をしっかり閉めてなかったんでしょうか?

「うふふ……」
「あ、花穂ちゃん……」

 真っ暗闇の中、花穂ちゃんがひとり立っていることを発見。

「四葉……ちゃん……?」

 花穂ちゃんは四葉に気づいたらしく、ゆっくりとこっちを向いてきました。
 花穂ちゃんは、薄っすらと笑っていて……なんだか、様子がおかしいデス……。

「!!!?!!?」

 四葉はビックリしました。
 それこそ、口から心臓が飛び出るくらい。
 だって花穂ちゃんの手には、ナイフが握られていて……しかも、赤いベトベトした液体が、ベットリと……。

「ねぇ……見て……これ、花穂がやったんだよ……」

 そして……花穂ちゃんの足下には……

「さ……ささ……」












「咲耶ちゃんがバラバラ死体にぃーーーッ!!」
「うるさーーーーーい!!」
「はぅっ!?」

 咲耶ちゃんデス!
 花穂ちゃんにバラバラにされたはずの咲耶ちゃんが、五体満足で生きていマス!

「……今のは……夢、デスか?」

 そうデス、花穂ちゃんがそんなことできるわけ……

 …………。

 ……今までなら、チェキチェキっと笑って(ぇ)、それで終わりだったのに……
 今は、やるかもしれないんデスよね……。

 ……あんまり……考えたくないデス……。



 でも、四葉はいつの間に眠っていたんでしょう?

 ……ああ、そうでした。
 確か鈴凛ちゃんの右フックが炸裂して、四葉はブレインをシェイクされて……それで気絶してしまったんデスね……。

「……で、何で咲耶ちゃんが四葉の部屋に?」
「部屋で宿題やってたのに、アンタが大声で叫ぶもんだから、折角集中して来たのにそれでパーよ!
 だからアンタの所に文句言いに来たのッ!!」
「すみません、ちょっと悪夢……ナイトメアを……」
「夢?」

 ホントに、ホントウに……見たくない悪夢でした……。



「ねぇ……四葉ちゃん」
「なんデスか?」

 突然、咲耶ちゃんの声が優しくなりました。
 咲耶ちゃんを見てみると、先ほどとはまるで違って笑顔で四葉を見てました。

「夢って……その人の持ってる願望らしいわよ」
「…………」

 少なくとも、アレは四葉の願望ではアリマセン。
 きっとそのことについて考え過ぎたから見た夢デス。

 アレが四葉の願望なわけ……―――

「アンタ、私をバラバラ殺人したがってるの?」(←笑顔で)
「…………」
「…………」
「ハッ!?」
「知らなかったわ 。四葉ちゃんがそんなこと考えてたなんて」(←すこぶる笑顔で)
「ちちちちちちち違いマスー!」
「何? 何がどう違うっていうの?」(←やっぱり笑顔で)
「は、話を……拳を鳴らす前に話を聞いて―――」
「問答無用」(←恐ろしいくらい笑顔で)






「ちぇーーーーーーーきーーーーーーー……」
























「ウウウ……ヒドイ目に遭いました……」

 ボロボロの体を引きずりながら、ぽつりとそう呟きマス。
 とにかく今は咲耶ちゃんから離れたかったので、とりあえず四葉は1階へ向かうことにしました。

「確かに、咲耶ちゃんにはいっつもヒドイ目に遭ってマスから一度ギャフンと言わせたいと思ってマスよ」

 思ってマスけど……バラバラにしちゃったらギャフン言う前に終わってしまいマス。
 何より、その後四葉がプリズン(刑務所)送りになってギャフン言うハメに……

「……あ」

 ふと、階段の窓から見える庭の風景が四葉の視界に入りました。
 その風景の中には、花穂ちゃんと春歌ちゃんがふたりで何かをやっていました。

「…………」

 花穂ちゃんは、ヒトゴロシがそういうことだって、分かってるんデショウか?
 ちょっとした憧れで(もちろんそれはイケナイコトデスけど)、これからの人生を棒に振ってしまって……。
 一時の感情で……全てを失うんデスよ……!
 名探偵として、決して見逃せない罪……。

 …………。

 ……そうデス……四葉は、名探偵なんデス……!

 事件が起こってからが腕の見せ所ではアリマセン。
 事件が起こる前に、事件を未然に防ぐ!
 これこそが真の名探偵デス!

「だったらこの名探偵、四葉のするコトはただひとつ、」

 四葉は、階段を思いっきり駆け降りました。


「花穂ちゃんの説得デス!」












「四葉ちゃん……大丈夫?」

 思いっきり階段を転げ落ちて床に突っ伏す四葉を見て、階段の前で心配そうに声を掛ける可憐ちゃん。

「……どちらかと言えば、ダメデス……」

 四葉は今……“階段を走ると危ない”ということを誰よりも体感しました……。

「ええ〜い! こんなことで挫けてる場合じゃアリマセン!!」

 更に意気込んでチェキっと起き上がり、心配そうに色々と声を掛けてくれる可憐ちゃんをその場に残して玄関へ。
 そして、すぐさま靴を履き、花穂ちゃんのいる庭へダッシュ!

「花穂ちゃん!」

 外に出て、家の壁を回り込んで庭へ。
 そこに見えた花穂ちゃんは、


「だめだめ……ここはもっと踏み込んで……」
「こ、こお?」
「うーん……まぁ、先ほどから見れば上達なさってますね」
「ホント! うっわ〜い、花穂褒められた〜」
「いえ、あくまで……あくまで先ほどと比べてであって……決して褒めたわけでは……」


 …………。

「春歌ちゃんから殺人術を学んでらっしゃるーーー!!」

 驚きのあまり、つい慣れない言葉遣いをしてしまいました……。












「ウウウ……花穂ちゃん意志は固そうデス……。そうまでして殺したい相手が……」

 名探偵として、ヒトゴロシは止めなくてはいけないコト……。
 そう、名探偵として……

「…………」

 ……でも、“四葉”としては……?

 止めることは本当に花穂ちゃんのためなんでしょうか?
 ふと、そう思いました……。

 四葉は花穂ちゃんの望むことをプレゼントしたかったんデス……。



 ……例え、それが許されないコトでも……花穂ちゃんが心の底から望むコトなら……
























「やあ…………珍しいじゃないか…………。キミが堂々と入り口から…………しかもノックして私の部屋に入るなんて」

 四葉は今、千影ちゃんのお部屋に来ていマス。

 結局、四葉は考えるのをやめました。
 考えるよりまず動く、そう思ったからデス。

 花穂ちゃんの望むことのヒントは花穂ちゃんが見ていたテレビ番組。
 あの時、花穂ちゃんが何を見てたは、残念ながら分かりませんでしたが、
 四葉の推理力があればそんなものコッパ微塵のミジンコちゃんデス(←使い方間違ってる)

 実はあの時間には推理モノの探偵番組がひとつ入っていたのデス。
 もちろん四葉はキチンとビデオにチェキ(←“録画”の意)していました。
 おそらく、花穂ちゃんが憧れたヒトゴロシはそれだと思いマス。

 あの番組、犯人はちょっとしたミスで捕まっていましたが、それさえなければ完璧だとこの四葉ですら思いました。
 犯人は、ちゃんと殺人術も体得していましたし、それに同時刻の裏番組では漫才や隠し芸などといったお正月用の特別番組ばかり。
 他の番組に目星のつくものはアリマセンでした。

 四葉はこれらの手がかりから、花穂ちゃんはその番組内での見事なトリック、それに憧れたんだと推理しました。

「千影ちゃん、実はオネガイがあります」
「お願い…………かい?」

 そして、そのトリックに必要なものは千影ちゃんのお部屋にきっとあるはずデス!
 だからこそ、四葉は怖い思いをしても千影ちゃんのお部屋に正面突破をかけました。

「まぁ…………私は今…………機嫌が良いからね。なんでも、とはいかないが…………できることなら協力しよう」
「ホントデスか!?」
「ああ…………雪を降らせて欲しいなり…………薬指の骨があるから結婚式を開くのを協力してくれなり…………ケーキの作り方を教えてくれなり…………
 今度のパーティーのために楽器演奏を一緒にやるなり…………もしくはバッティングマシーンを作って欲しいなり……」
「後ろに行くほど千影ちゃん向きじゃなくないデスか?」

 しかも基準が分かりません……。

「……とにかく、できる範囲でなんとかしてあげよう」
「だったら」
「ああ…………なんだい…………?」
「毒薬をクダサイ」
「断る!!」

 即答で返されました……。

「何でデスか〜!? これ以上ないくらい千影ちゃんにピッタリなのに〜!?」
「君は…………私を何だと思ってるんだ?」
「姉チャマ」
「いや、そういうことを聞きたいわけじゃ…………とにかく、常識でモノを見てくれ…………」
「…………」

 千影ちゃんに、常識を問われてしまいました……。

「ああ……四葉はもう、人としてダメデス……」
「何故?」












 結局、千影ちゃんは四葉に協力してはくれませんでした。
 何故でしょう?

 仕方ないので、毒薬は四葉がお小遣いをはたいて買ってきました。

「これで良し……っと」

 毒薬と言っても、四葉が買ってきたのは植物の肥料。
 これならお部屋にあっても、まさかヒトゴロシに使うなんて誰も予想しません。
 しかも、使う必要がなくなったらお庭にある花穂ちゃんの花壇の役にも立てマス。
 更に、例の番組でのトリックに使われたものと同じもの。

 一石三鳥とはまさにこのことデス。


 これをお茶にでもいれると……






『あぅー、四葉ちゃん謀ったわねー』
『ハーッハッハー! いくら咲耶ちゃんと言えどももう終わりデス!』
『うー、くるしー 。あー、もうだめー』


    ばたん






「ハーッハッハー! 咲耶ちゃんの最期デス! 今まで四葉のチェキを邪魔した罪、あの世で詫びるのデス!」
「なら一足早く送ってやろうか、このチェキチェキ野郎……」(←ほとんど男の声)

 …………。

 全身の毛穴が一気に開きました。

「何か言うことは? 最期の言葉くらい、聞いてあげる……」

 そして声のした背後へ、恐る恐る振り向くと、
 そこには、拳をボキボキ鳴らす咲耶ちゃんが、この世のものとは思えない……
 まるでデーモンのようなギョウソウで四葉を睨みつけていました……。

「何……故……?」
「たまたま通りかかったのよ……今の最期の言葉、しっかりと聞いたわ……。これで思い残すことはないわね……」
「ち―――」



 全てが、一瞬で……終わりました……。
























「ウウウ……またヒドイ目に遭いました」

 今、四葉は縄で縛られて庭の大きな木に吊るされていマス。
 もちろん、あのデーモン……いえ、咲耶ちゃんの仕業デス。

「まぁ、今まで動いてばかりでしたし……ここでゆっくりじっくり考えてみるとしましょう……」

 とにかく動いては見たものの……しっくり来ませんでした……。
 やはり、頭に『人を殺してはイケナイ』という考えがあるカラだと……。

 でも、ヒトゴロシがダメなのは当たり前のコト、頭の中から消せるはずアリマセン……。

 花穂ちゃんがそんなコトするトコも、花穂ちゃんが捕まるのも見たくないデス。
 だからといって、四葉が代わりにやったとしても、それは名探偵として致命的な過ちデス。

 何より……



 どんな形であれ、花穂ちゃんにそんなことさせたくない……!



「やっぱり、花穂ちゃんを説得するべきデス!」

 そう思いたって、四葉は縄抜けを始めることにしました。

 咲耶ちゃんにはよく縄で縛られるし(ぇ)、
 四葉も長時間チェキできないのは辛いので、いつの間にかできるようになってしまいました。(えー)

「脱出完了!」

 チェキっと芝生の上に着地。

 クフフフ……キマリました……。

「……なんてカッコつけてる場合じゃないデス!」

 一刻も早く花穂ちゃんのトコへ向かわなくては!

 悪いコトは、どんなに理由をつけても悪いコトなんデス。
 だって悪いコトなんだから!

 それを一刻も早く教えてあげたいデス!

「四葉ちゃ〜ん……」
「あ、グッドタイミングで花穂ちゃん登場デス!」

 花穂ちゃんのところへ向かおうと思っていた矢先、ちょうどその花穂ちゃんがやって来てくれました。
 なんてナイスタイミングなんでしょう。

「あれ? 四葉ちゃん、なんで縄ほどけて……?」
「そんなことはどうでもいいデス! それよりも花穂ちゃん!」


 花穂ちゃんを説得する。


 そうデス、それこそが名探偵として、



「ヒトゴロシは、良くないことデス!」



 いいえ、四葉自身の……



 花穂ちゃんのことがダイスキな四葉としての、選択デス!












「…………」

 四葉にズバリ言われて、どうやら花穂ちゃんは動揺して何も言えなく―――

「……うん、そうだね」

 …………。

 ……オカシイデス。
 何かがオカシイデス。

「そうだね、ではなくて……」
「え、だって殺しちゃうんだよ……。ダメに決まってるじゃない」
「いえ、そうではなくて……いえ、そうなんデスけど……」
「四葉ちゃん……花穂、四葉ちゃんの言いたいこと分かんないよ〜」
「え〜っとデスね……つまり……」

 四葉も分かんなくなってきました……。

「花穂ちゃん!」
「は、はい!?」

 分かんなくなったらとにかく考えるより動く!
 そして今、1番やるべき事は花穂ちゃんの説得デス!

「一体誰かは知りマセンが、どんなに憎くても、どんなに恨んでも、ヒトゴロシをしてはイケマセン!!」
「うん」

 …………。

 何故デス……何故こんなにアッサリ肯定するんデスか……?

「あ〜……四葉、なんだか頭がぐちょぐちょに……」

 たった今分かりました……。
 元々グシャグシャなものを、考えもしないでかき混ぜると、更にグシャグシャになるコトに……。
 ウウウ……四葉もまだまだデス……。

「ねぇ、どうしてそんなこと……?」
「どうしてって……それは昨日、花穂ちゃんがヒトゴロシをしたいって言うカラ……」
「えっ……そ、そんな怖いこと、花穂言ってないよ!」
「そんなはず……!? だってちゃんと昨日、テレビ見ながら『こんな立派な殺人がしたい』って……」

 確かに四葉は聞きました。
 そんなこと、忘れたくても忘れられません……。

「花穂、そんなこと…………あ!」

 突如、花穂ちゃんが何かに気づいたように声を上げました。

「ナンデスか?」
「もしかして……あのことかな……?」
「あのこと……?」
「あのね、花穂、昨日確かにサツジンはしたいって言ったけど、人殺しをしたいって言ったんじゃないの」

 …………。

「マッタクゼンゼンサッパリデス」


  ○ 殺人=人殺し  × 殺人≠人殺し


 花穂ちゃんの言うことは決定的に矛盾してマス……。

「えーっとね、だから……多分、花穂その時、隠し芸を見てたんだと思うけど……」
「『隠し芸』? 推理モノのではなくて?」
「うん、隠し芸 。それは四葉ちゃんがビデオに撮ってると思ったから見なかったの」

 おかしいデス。
 じゃあそれではツジツマが合いません。

「それで……サツジン……じゃなくて、タテって言った方がいいかな?」

 タテ……? サツジン……?

「!!」

 そこで四葉は気がつきました!

「まさか……」
「あ、分かってくれた?」

 今までバラバラだったパズルのピースが全て当てはまるかのように、
 四葉の冴え渡る脳細胞(?)が今回の事件の答えを導き出しました!

 な、なんということでしょう……。

「つ、つまり……」

 今回の事件の真相は、

「花穂ちゃんは殺陣(サツジン)がしたかったってコトデスか!?」












「じゃあ……じゃあ四葉は……」

 勘違いでアレコレ勝手に焦っていたっていうんデスか……。

「はは……はははは……は……」

 真相が分かった途端、四葉はまるで空気が抜けたようにその場にへたり込んでしまいました。
 そして、オカシクもないのに笑いがこぼれてきました……。

「よ、四葉ちゃん!?」


  ○ サツジン=殺陣  × サツジン≠殺人


 ただの聞き違い……。
 これが今回の事件の真相でした……。

 さっき春歌ちゃんから教えて貰ってたのは殺陣、もしくはそれに準ずる演舞。
 殺人術なんかじゃなかったんデスね……。

「こんなドジやって……四葉はもう、花穂ちゃんのことドジって言えなくなってしまいました……」


 でも、

「やっぱり、花穂ちゃんがヒトゴロシなんてできるはず、なかったんデスね……」

 このことについて、ハッキリしたコト、
 これが、イチバン嬉しかったデス。












「でも、どうしてそのこと聞いてたの?」
「チェキ?」

 花穂ちゃんが物凄く「どうして?」というような顔でそう聞いてきました。

「多分四葉ちゃんのことだから、花穂のことチェキしてたんだろうけど……だったら、どうして花穂のことをチェキしてたの?」
「それはデスね、花穂ちゃんのお誕生日プレゼントに…………」

 …………。

「はぅっ!」

 しまったデス!
 四葉は……四葉はさっき、

「なけなしのお小遣いをお花の肥料に使ってしまったカラ、花穂ちゃんにプレゼントを買って上げれないデスー!」

 そうなのデス。
 今の四葉には、お金はないんデス。

 え、お年玉?
 お年玉は……実は新しいデジカメを買った時、お金を借りてて……その返済に結構使っちゃって……

 ……しかも鈴凛ちゃんに改造代までとられて……、

 それに、(いくら真性のヘンタイさんとはいえ)四葉の大親友の鈴凛ちゃんは、研究資金不足で困っていマス。
 だから貸してあげたりして、結局、現在の四葉はスッカラカンなのデス。


 だから、モノではないプレゼントをしようと……もしくは安上がりで済むけど、
 わぁーって驚かせれるモノをプレゼントしようと考えてたのデス……。

 でももう、なけなしのお小遣いも使ってしまいました。


 あ〜ん、やっぱり考えてから動けばよかったデス〜。

「え? どうしてお花の肥料……?」
「あ、えっと……それはデスね……」

 四葉は花穂ちゃんに、今回の事件の発端からお花の肥料を買った理由をチェキっと説明しました。
 すると花穂ちゃんは、

「う〜ん、じゃあ花穂それでも良いよ」
「え!?」
「だってそれ、花穂のために買ってくれたんでしょ? それにお花の肥料なら花穂も使うし……」
「それはダメデス! お花の肥料なんて四葉、たまに買ってあげてマスし……」

 お誕生日という特別な時だからこそ、特別なものをプレゼントしたかった……。

「四葉は、特別なモノを……モノでなくても花穂ちゃんをわぁーって喜ばせるような、
 そんな特別なプレゼントをしたかったんデス……」
「四葉ちゃん……」

 ガックリと肩を落とす四葉を、花穂ちゃんが心配そうに見つめます。
 折角、花穂ちゃんを喜ばせようとしてたのに、逆に心配掛けるなんて…………四葉は自分が情けないデス……。

「だったらさ……アレなんてどう」

 突然、横から四葉でも花穂ちゃんでもない声が四葉に話しかけてきました。
 声のした方向、そこに居たのは四葉のキョウダイで、大親友で、真性のヘンタイさんの鈴凛ちゃんでした。

「鈴凛ちゃん……いつからそこに……?」
「最初から。詳しく言うと花穂ちゃんが来た時から」
「何でデスか!?」
「あ、あのね……鈴凛ちゃん、花穂に四葉ちゃんが吊るされていること教えてくれたんだよ」
「チェキ?」

 つまり花穂ちゃんがやってきたのは、四葉の縄をほどくためだったというわけデスか……。
 わざわざ花穂ちゃんに伝えたというのも……鈴凛ちゃんは、きっと四葉も同じ道に引き込もうとしてるカラでしょう。
 なるほどスジが通りマス。

「でもまさか、縄抜け出きるなんてねぇ……」
「クフフゥ……鈴凛ちゃん、野生の動物は厳しい環境で生き延びるため、それに適応する能力を身につけるものなのデスよ」
「四葉ちゃんの場合、自ら厳しい環境に飛び込んでるよね?」






「それで……アレってなんなんデスか!?」

 四葉は、一旦途絶えてしまった会話を引き戻すことにしました。
 もしかしたら、これが花穂ちゃんへのお誕生日プレゼントへの突破口となるかもしれませんカラね……。

 慢性的金欠病の鈴凛ちゃんの案デスから、これは結構期待できマス。

「主に鈴凛ちゃんのせいでお金がないんデスから、安く済むんでしょうね!?」
「大丈夫大丈夫、四葉ちゃんさえ居れば十分だから」

 さすが慢性金欠病、節約方法は心得ているようデス。

「じゃあ早く言ってクダサイ」
「だからね、花穂ちゃんの誕生日プレゼントには、」
「ふんふん……」
「四葉ちゃんは、」
「ふんふん……」
「キスをプレゼントするの」



「…………(絶句)」(よつ)
「…………(真っ赤)」(かほ)
「…………(自慢げ)」(リン)



「真性のヘンタイさんに聞いたのがまずかったデス……」
「そんな言い草ないでしょ」
「わー、ゴメンナサイデス! ゴメンナサイデス! だから石投げないでクダサイーっ!」

 何故デス?
 どちらかと言えば、普通は四葉が投げるような気がするのに……。
 何故四葉が石を投げられるんデスか……!?

「あのデスね! 四葉と花穂ちゃんはキョウダイ、しかも女の子同士デスよ!」
「大丈夫、愛があれば性別なんて! 血縁なんて!!」
「何言ってるんデスか!? 自分を基準に物事を考えないでクダサイ!」

 鈴凛ちゃんからなら、Mちゃん(仮名)は喜ぶかもしれませんけど、するのは四葉で相手は花穂ちゃん。

「それなのに……よりにもよってキッスなんて……。そんなこと―――」
「い、いいよ……」
「―――できるわけ…………」

 …………。

 ……い、今……花穂ちゃんが、何か言ったような……。

「え、っと……花穂ちゃん……? 今、何て……」
「だから、いいよって……。……その……キスで……」

 …………。

 …………。

 …………。

「ちぇきーーーーーーーーーーっっ!?!?!!?」



「だだだだだだだだだだだって、四葉たちはキョウダイで……! しかも女の子同士で……!」
「でも! それでも…………花穂、四葉ちゃんの……その…………」

 よ、予想外デス……。
 四葉の心臓は一気にハイスピードでドックンドックン言ってマス!

 ど、どうしましょう……このままじゃ……四葉、花穂ちゃんと……

 この状況を何とかして欲しいと、そんな思いを込めて鈴凛ちゃんの方をちらりと見ました。

「なんか、アタシは邪魔みたいね」

 そう言って、そそくさと遠ざかっていきマス。
 ウウウ……真性のヘンタイさんにフォローを望んだコト自体間違いでした……。

「…………」

 再び視線を戻すと、そこには真っ赤になった花穂ちゃん。
 すごく恥ずかしそうに四葉から目を逸らして、はにかんで……

「…………」

 そんな仕草がすごく……すっごく、すっごく可愛くて……

「あ、あの……」

 四葉も……だんだんヘンな気持ちになって来てしまいました……。

「な……なに……? 四葉……ちゃん……」

 だから……



「その…………い、いいんデスか……?」

 キッスしても良いな、なんて……考えちゃって……。

「うん……」

 だんだん、他のコトが考えられなくなってきて……。

「キョウダイデスよ……?」
「うん……」
「女の子同士……デスよ……?」
「うん……」
「花穂ちゃん…………」

 花穂ちゃんの望むコトをプレゼント。
 それこそが四葉がしたかったプレゼントデス。

「……そうデスよね。……これは、花穂ちゃんが望んだコトデスから……」


 キョウダイでも、女の子同士でも……花穂ちゃんが、キッスが良いって言うなら……


 それに、キッスは特別なコトだから……。



 だから……






 気がつけば、四葉は花穂ちゃんの肩に手を乗せて、そのまま引き寄せようとしていました……。



「行きマスよ……」


  ゆっくり、


「やめるなら、今デスよ……」


  ゆっくりと、


「ホントに……ホントにしちゃいマスよ……」


  花穂ちゃんの顔が近づいてきマス……


「ホントのホントに……」


  四葉の言葉に、花穂ちゃんはただ黙って目を瞑って……


「しちゃい……マスよ……」


  柔らかそうなぽっぺたを、ほんのり赤く染めて……


「…………」


  四葉も、何も言えなくなって……


  四葉も目を瞑って……


  なんにも見えなくなって……


  真っ暗になって……


  花穂ちゃんの吐息が、四葉の唇にかかるのが分かって……


  ただでさえドキドキしている心臓が、もっともっとドキドキして……


  それでも、顔を近づけるのは止めないで……



  そして…………






  四葉は……花穂ちゃんに四葉の唇をプレゼントしました……。












「…………」
「…………」

 四葉は何も言えなくなりました。
 花穂ちゃんも何も言えないまま……。

 お互い、目を合わさずに、顔を真っ赤にして……。

 静かに、時が流れていました……。

「えへへっ

 静かになったその場に、最初に出た言葉は花穂ちゃんの笑い声でした。

「ありがとう、四葉ちゃん

 花穂ちゃんは喜んでくれていました。

「今までで、1番のプレゼントだよっ」

 そんな花穂ちゃんを見て、
 そんな花穂ちゃんとキッスしてしまったこと、すごく嬉しくて……


 ホントは花穂ちゃんの方が喜べなきゃダメなのに、
 四葉はそれに負けないくらい、すっごくすっごく嬉しくて……



 悔しいけど……やっぱり四葉、花穂ちゃんのこと……好きなんだって思いました……。


 四葉……もう鈴凛ちゃんのコト、とやかく言えないデス……。
























 …………。

「はぅっ!」

 この時、四葉は致命的なミスを犯していました……。

「……? どうしたの?」
「花穂ちゃん……どうしましょう」

 それは……

「花穂ちゃんのお誕生日…………今日じゃアリマセン……」
「…………あ!!」

 今日は、まだ花穂ちゃんの誕生日じゃなかったんデス。

「あーー、四葉は、四葉はぁーーー、なんてドジをーーー!!」

 最悪デス……。

 肝心のお誕生日の前に、プレゼントをしてしまいました……。

 しかも、それはキッス。
 返せと言われても、返すことは不可能デス。

「だったらしょうがないね……」
「チェキ?」



「花穂の誕生日に……もう一回、キスしてね



 


あとがき

誕生日の当人より相手の方が幸せになるなりゅーのひねくれBDSS花穂編でした。
今回はどうでしょう、どっちの方が幸せだったんでしょう?(←もはや趣旨が変わってる)

昔、実際になりゅーが「殺陣(サツジン)をしてみたい」と言ったところ、
普通に「殺人(サツジン)をしてみたい」って言ってるようで嫌だったことがありました(笑)
そのことをふとよつかほに当てはめてみたら、蛇口を捻ったようにドバドバとネタが出てきて、
それを花穂BDSS仕様に作ってみたものがこの話です。
名探偵を目指している四葉が、その正反対の犯罪者への加担も面白いと思いましたので。

作中で作者を干渉させるようなことはしたくなかったんですが、
「またまりりんかよ」と思われるのが嫌だったので、泣く泣く使いました……。
それでも諦めきれずにMちゃんですけど(苦笑)
読む人はそこら辺を好きに想像してください。

しかし四葉は独特の話し方なのでちょっと辛かったです。
時折英単語を出すなどの気を使ったつもりですが、果たしてそれで良かったのかどうか……。

この作品を持って、なりゅーの作品は(表のみで)50作品目を迎えました!
う〜ん……いつの間にこんなに作ってたんでしょう……?
そんな記念すべき50作品目のタイトルは、思いっきりパクったものだったりします(苦笑)


更新履歴

H16・1/7:完成
H16・1/8:脱字修正
H16・1/9:誤字修正&一部修正
H16・12/4:誤字他大幅修正


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