手作りのケーキを片手に、姫は軽やかに足を進めていましたの。
そして、目的の家に着くなり、躊躇しないで呼び鈴を押しましたの。


    ピンポーン


「はーい」

ドアの向こう側から、今日の主役の声が聞こえてきましたの。

「え、白雪ちゃん?」

ドアが開き、そこから今日の主役、咲耶ちゃんが姿を現しましたの。
咲耶ちゃんは姫の姿を確認すると、予想外の来客に驚いた顔をしていましたの。

そんな咲耶ちゃんに笑顔で一言、

「お誕生日おめでとう、ですのv」











 

貴女が来てくれたことこそが私へのプレゼント













「もう・・・別に祝ってくれなくてもいいって言ったのに・・・」

咲耶ちゃんは、姫の前にあるテーブルに紅茶を2つ並べながらそう言いましたの。

「だめですの! だって、1年に一度の特別な日なんですから!」

そう、今日は12月20日、咲耶ちゃんのお誕生日。

テーブルの上にお茶菓子として置いてあるのは、姫の持ってきたふたりで食べるのが丁度良いくらいの小さなケーキ。
それは、姫が咲耶ちゃんのために心を込めて作った咲耶ちゃんのバースデーケーキなんですの。

だけど、咲耶ちゃんは自分が今日祝われるとは思っていなかったはずですの。

「白雪ちゃん、優しいのね・・・」
「いいえ、寧ろワガママですの。 みんなだってきっと祝いたいはずですのに、勝手にひとりで祝っちゃうんですから」
「かもしれないわね」

笑いながら姫の意見に頷く咲耶ちゃん。
静かにこう付け足すのが聞こえましたの。

「でも、やっぱり優しいわね・・・」






咲耶ちゃんの誕生日はクリスマスと非常に近いんですの。
姫たちはクリスマスパーティーをするつもりですから、咲耶ちゃんは、その時一緒に祝ってくれて構わないって言うんですの。
それは、みんなになるべく負担をかけたくないと言う咲耶ちゃんの考えから・・・。

だけど、今姫が言ったように、誕生日は一年に一度の特別な日。

それを別の特別な日と近いと言うだけの理由で一緒にやっちゃうのは姫には納得がいきませんでしたの。
自分の産まれる日なんて選べないんですから、尚更・・・。

そこで姫は、咲耶ちゃんのお誕生日を、こっそりと当日に祝ってあげようと考えたんですの。
みんなにあまり迷惑をかけたくない、と言う理由でお誕生会とクリスマス会を一緒にしているんですから、
咲耶ちゃんだってお祝いされるのが嫌だと言うわけではないはずなんですの。

黙っていたのは、咲耶ちゃんに前もって言っておくと、きっと断ると思ったから。
始めてしまえば咲耶ちゃんだって断りきれなくなりますのv
大勢で祝っちゃうと却って咲耶ちゃんに悪いですから、みんなには悪いですけどひとりでこっそりと・・・。







「で、これが私への誕生日プレゼント?」

テーブルの真ん中の置いてある、姫が持ってきたケーキの入った小箱を指さして聞いてきました。

「違いますの、これはただのバースデーケーキ。 プレゼントは別に・・・・・・」

・・・・・・。

「・・・どうしたの? 急に黙って・・・」

姫は、人生最大のミスを犯していることに今やっと気づきました・・・。

「・・・別に・・・用意しようと思ってたんですけど・・・」
「けど?」
「ケーキを作るのに夢中になっちゃって忘れちゃいましたのー」

姫は・・・心のこもったケーキを作ることや、咲耶ちゃんをビックリさせることにばかり目がいってて、
肝心のプレゼントをいつの間にか忘れていたんですの・・・。

これはお料理を焦がしてしまったとか、お鍋を噴きこぼしちゃったとか、そんな程度のうっかりでは済まないですの。
ああ・・・姫まで花穂ちゃんのドジが伝染ってしまいましたの・・・。

「別にいいわよ、クリスマスパーティーの時で。 何ならプレゼント無しでも・・・」
「それは嫌ですの!」

咲耶ちゃんが言葉を言い切る前にそう言いました。
だって姫、それだけは絶対に嫌でしたから・・・。

「今日と言う日に、咲耶ちゃんの誕生日と言う日にプレゼントするから意味があるんですの!」

・・・とは言ったものの、その肝心のプレゼントを忘れてしまっては、姫の立場が無いですの・・・。

うぅ・・・姫、一生の不覚・・・ですの・・・。

「ねぇ・・・白雪ちゃん・・・」

姫がそう落胆していると、咲耶ちゃんがそっと話しかけてきましたの。

「なんですの?」
「なら・・・―――」
























「本当にこんなのでいいんですの?」
「いいのよ。 寧ろ何か貰うよりずっとこっちの方がいいわ」

今、姫たちは映画館の前に来ています。
ケーキはもうふたりで食べちゃって、そしてその後で二人で街へ出かけたんですの。

わざわざ映画館に来たのは、この映画が特に見たかった映画だったと言うわけではないのですの。
寧ろ、映画を見ること自体は目的ではありませんの。



数十分前、咲耶ちゃんは言いました。

咲耶ちゃんが何も持っていない姫に希望したプレゼント。
それは・・・


   『・・・なら・・・これから私とデートして』


・・・それは、姫とのデートだったんですの。

(こんなので本当に良いんですの?)

でも姫にはそう思う心がありましたの。

一緒に出かけるくらいならたまにしていますし、
それに、誘われた時に特に理由も無いなら、いつでも一緒にお出かけくらいしてあげるれるのに・・・。

・・・けど、プレゼントを何も用意していない、
そして今日中にプレゼントすることに意味がある、と言ってしまった姫には、他に選択肢はありませんでしたの・・・。

「ほら、何してるのよ。 行くわよ」
「あ・・・はいですの」

でも、咲耶ちゃんが直々に希望したものだから良しとしますの・・・。












2時間ほど経って、映画を見終えた姫たちは、今度はデパートでウィンドウショッピングを楽しんでましたの。
色んなお洋服やアクセサリーを見て回って、二人で楽しみました。

「あ、これ、このエプロン。 白雪ちゃんに似合うんじゃない?」

調理器具の売り場に来たところで、咲耶ちゃんがあるものを軽く指さしてそう言いましたの。

調理器具売り場にウィンドウショッピングしに来ているのは、
『姫と言えばお料理』と言って咲耶ちゃんが見て回りましょうと言ったからですの・・・。
そのことについては否定しませんけど・・・でも、咲耶ちゃんが調理器具を見て楽しいんでしょうか?
姫は楽しかったですけど・・・今日の主役は、咲耶ちゃんですのに・・・。

姫は視線を咲耶ちゃんの指さす先に移しましたの。
そこには、フリフリのフリルがついたとっても可愛い姫好みのエプロンが置いてあったんですの。

「ホントですの。 フリフリがとっても可愛いですのv」

姫に似合うかは分かりませんけど、姫はこのエプロンを一目で気に入りましたの。

「でも、姫、今日はお金持って来てないですの・・・」

咲耶ちゃんにケーキを渡して、咲耶ちゃんのお家でお祝いするだけの予定でしたから・・・
さっきの映画代だって、咲耶ちゃんが代わりに出してくれましたし・・・。

「じゃあ私が買ってあげる」
「別にいいですの。 これ以上お金を借りる訳にもいきませんから・・・」
「違うわよ、私が買ってプレゼントするって言ってるのよ」
「ええっ!?」

姫は驚きました。

「ちょ、ちょっと待ってですの!」

だって、今日は咲耶ちゃんのお誕生日。
だから、あくまでも今日の主役は咲耶ちゃん。

なのにさっきからお金を出すのは咲耶ちゃんばかりで・・・
さっきだって、映画を見るためのチケット代だって払ってもらったって言うんですのに・・・。

・・・まぁ、姫がお金を持ってないから仕方ないんですけど・・・。

だから咲耶ちゃんはプレゼント貰う立場なのに・・・さっきから姫がプレゼントを貰っちゃって立場が逆転してますの!
お金は後で返すつもりでしたけど・・・でも、今日だけは咲耶ちゃんに負担させるのはダメだと思いますの!

・・・でも、それを咲耶ちゃんに言ったら・・・、

「何言ってるの。 私はもうプレゼント貰ってるのよ、白雪ちゃんとのデートって言うプレゼントを」

「デートなんだからこういう風にプレゼントするのは普通のことでしょ?」

「寧ろ、デートをプレゼントしてもらってるんだら、買わせてもらえなきゃプレゼントできてないって事になるのよ!」

「そうそう、さっきの映画代も返さなくていいから。 私のおごり」

「だってこれは、デ・ー・トvなんだからねv」

なんて、もう何を言っても引く気はなさそうでしたの。
こうなった咲耶ちゃんには、姫はとても口で勝てるとは思えませんの。
・・・と言うか現に負けてしまいましたの・・・。

さすがは姫たちのねえさまですの・・・。
























「もうそろそろ、デートも終わりね・・・」

街中を歩き回って、姫が次はどこに行こうかと思っていながら誰もいない細い路地を歩いていると、
咲耶ちゃんの口から、白い息と共にその一言が出てきましたの。

「え、もうそんな時間ですの?」

気がつくと空はもう真っ暗で、空には星が出ていましたの。

冬だからいつもより早くて夜が来たんでしょうか?
それとも、楽しい時間だったから早く過ぎ去ってしまったんでしょうか?
どちらにしろ、もう遅い時間には変わりはなかったんですの。

「ありがとう、楽しかったわ」

楽しかったのは姫も同じですの。

でも、どちらかと言うと姫の方が主役のという感じのデートでしたけど・・・。
結局、映画やエプロンの他にも色々と咲耶ちゃんにお金を出させてしまって・・・しかも全部おごり・・・。
更に、「もしお金を返したら、デートのプレゼントはダメってことになるから」なんて脅しまで言って・・・。
今日は咲耶ちゃんが主役なのに・・・。

はぁ・・・こんな事ならお金持ってくれば良かったですの・・・。

「じゃあ、姫はそろそろ帰りますの・・・」

姫から見れば上手く行っていないデートでしたけど、でもすごく楽しかった事には変わりないですの。
咲耶ちゃんもきっと楽しかったはず。
終わっちゃうのは名残惜しいですけど・・・でもこれは仕方のないことですの。

「あ、ちょっと、どこ行くの!?」

帰ろうと振り返った姫の後ろから、咲耶ちゃんの姫を慌てて引き留めるような声が聞こえてきましたの。
姫は、180度振り返った体を90度だけ戻し、それから更に首だけで90度戻し、顔だけ咲耶ちゃんの方向を向けました。

「どこ・・・って、デートは終わったから帰ろうと・・・」

振り向いた先に映った咲耶ちゃんは、姫の方へ歩み寄って来ていましたの。

「まだ・・・終わってないわよ・・・」
「え・・・―――」

近づいてきた咲耶ちゃんは、姫の片方の腕を掴み、
その腕を引き、そして空いている方の手は姫の腰に回し、
半分だけ振り向いていた姫の体を咲耶ちゃんと向かい合わせにしながら引き寄せて、

そして・・・

寒いはずの12月の空気とは反対の、暖かな空気が姫の中に流れて込んで来ましたの・・・。


目を瞑った咲耶ちゃんの顔が姫の視界のほとんどを遮って、

そしてその時・・・

唯一、咲耶ちゃんの甘い香水の匂いだけを微かに感じて、

姫の頭の中は真っ白になっていましたの・・・。



 姫は・・・今まで一番近くに咲耶ちゃんを感じていました・・・。












「・・・デートの終わりには・・・さよならのキス、でしょ」

今までで一番近づいた咲耶ちゃんの顔がゆっくりと離れから、その唇から白い息と共に紡がれた言葉・・・。

「・・・咲耶・・・・・・ちゃん・・・?」

そして、その唇が触れていた、姫の唇から出た言葉・・・。
何が起きたのか、理解するのに時間がかかりましたの。


 キス。

 さよならのキス。

 でも・・・でもそれは・・・唇へのキス・・・。

 唇へのキスは特別なキス。

 ほっぺやおでこにするのとは違う・・・。

 なのに・・・今、咲耶ちゃんは・・・


「ありがとう・・・。 来てくれたのが白雪ちゃんで良かったわ・・・」

じゃあね、と一言言ってから、まるで今のことが普通のことのように、特に何も無かったかのように、そのまま振り返って歩き始める。
だんだんと小さくなるその背中を、まだ感触の残る唇に軽く指を当てて、姫は呆然と見送るしかできませんでしたの・・・。


 ・・・姫で良かった・・・?

 それは、一体どう言う意味・・・?

 それに、姫たちは姉妹なのに・・・

 キス・・・


思うことはいっぱいあった。
でも・・・
その時の姫には、なんだかどうでも良かったんですの。

「咲耶ちゃんになら・・・」

そっと呟く・・・。

「今日は咲耶ちゃんのお誕生日ですから・・・姫の特別、あげちゃっても別にいいですの・・・」

胸にときめく、不思議なこの想い。
これは、きっとイケナイコトなのかもしれない・・・。

けど、それを考えるのは後で良いと思った。

今はただ、貴女が喜んでくれたことを姫も喜んでいたかったから。






 パッピーバースデー・・・姫の、誰よりも大切なねえさま・・・。


あとがき

誕生日の当人より相手の方が幸せになるなりゅーのひねくれBDSS咲耶編でした。
しかし、今回は誕生日の当人もなかなか幸せに、寧ろ当人の方が・・・しくじりました(ぇ)
“さくしら”はこれを書いている時点では見たことないので、この機会に製作してみました。
しかし、そうすると亞里亞のBDSSと連続で白雪視点の話となってしまいましたね(笑)
実際、白雪じゃなくても良かったかもしれませんけど・・・まぁ、白雪の百合はバリエーションが少n(削除)
ぶっちゃけ、やや手抜き。
「ムフンv」が一度も使えなかったことを筆頭に白雪の特徴があまり使えなかったことが心残りです・・・。
作ってみて思いました、「この話、続けれる・・・」と・・・。
・・・と言うか、“さくしら”に目覚めそうになりました・・・(苦笑)


更新履歴

H15・12/20:完成
H15・12/22:あとがき加筆修正

 

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