雪の降る中……。
真っ白な絨毯がひかれた自然の舞踏会場で……
想いを寄せる人と……素敵なダンスを踊る……。
そんな……ホワイトクリスマス……。
雪の舞踏会
「素敵だと思いマセンか?」
「…………」
ずいっと迫るように私に顔を近づける四葉くん。
「千影ちゃ〜ん」
「聞いているよ…………」
沈黙してしまった私が、ぼーっとしていたか話を聞いていなかったと思ったのか、
私の顔の前に手のひらを差し出し、それを左右に軽く振ってみせる。
「素敵だと思いマセンか?」
私の返事に安心したのかもう一度そう聞く。
「ああ…………確かに…………そうかもしれないね…………」
そう問われれば、私の答えはそうなる。
「デスよネ♥」
「…………だけど…………なんでそれを私に言うんだい?」
しかも、四葉くんはそれを、わざわざ私に家にやって来てまで聞きに来ている。
それなりの理由があるのだろうかと思っていると。
「外を見てクダサイ」
そう言われ視線を窓の外に移す。
「晴れデス」
「そうだね…………」
「晴天デス」
「ああ…………いい天気だね…………」
「日本晴れデス」
「ああ…………まったくその通りだ…………」
「ところで今日は何日デスか?」
「12月22日…………」
「雪は?」
「まったくもって積もっていないね…………」
「何でデスか!?」
「いや、私に言われても…………」
私がこの世界の天候を管理しているわけではないので、私に文句を言われてもまったく意味を成さない。
そう……つまり今、四葉くんが言ったような"素敵なホワイトクリスマス"のための雪が一切降っていない上に、その気配すらないのだ。
「それで…………愚痴を言いに…………わざわざ私のところにやって来た…………と言うわけかい?」
だとすれば私はかなり損な役回りだな……。
でも……これは私からしてみれば―――
「違いマス!」
突然の彼女の言葉が、私の思考を遮った。
「…………違う?」
「四葉は、千影ちゃんにオネガイしにやって来ました」
「…………お願い?」
四葉くんの意図が読めないため、思わずオウムのように四葉くんの言葉を繰り返してしまった。
お願いするのはいいが、一体何をお願いしようと言うんだ?
そう思っていると、四葉くんは真剣な顔を私に向け、
「オネガイデス、千影ちゃん!」
そして、そのまま間髪入れずに、こう一言。
「雪を降らせてクダサイ!」
「君は…………私を何だと思ってるんだ?」
何倍にも長く感じた数秒の沈黙を、私のその言葉が破った。
「姉チャマ」
「いや、そう言うことを聞きたいんじゃなくて…………」
思わず、右手をひたいに当てて、ため息をひとつ吐いてしまった。
いきなり雪を降らせろとお願いされても「はい、そうですか」と応えるような人間は、まずいないだろう。
「大丈夫デス!」
「何を根拠に……」
「だって、千影ちゃんに不可能はありマセン!!」
「だから何を……」
「千影ちゃんは、たくさんの怪しいマジカルなことを実験していマスから!」
言い方は微妙だが、確かに彼女の言う通りだった。
私は趣味でたくさんの、世間ではオカルトなどと言われる魔術的なことを色々とやっている。
つまり、私を知る人間からは(別に"人間以外"でも構わないが)、人よりも特別なことができると思われているだろう。
事実、私自身もそうだろうと思っている。
しかし……
「四葉くん…………」
「なんデスか?」
「私は…………創造神や天を司っている神とは違うんだ」
そう、魔術と言っても万能ではない。
できることにだって条件と限りがあるのだ。
「雪を降らすなんてそんなこと…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「どうしたんデスか?」
「…………」
一旦口を止めてしまった私を、四葉くんが心配そうな視線を私に浴びせていた。
私の脳裏には、ついこの間、私の持っている大量の書物の中のひとつから見かけた、あるページの内容が過ぎっていた。
そして、思わずさっきの言葉の続きを、
「…………できるな……」
こう言ってしまった。
「あ、千影ちゃ〜ん。こっちデスよ! こっち〜っ!!」
人の居ない公園。
その真ん中で私に手を振る影がそう声を張り上げていた。
私はその声に促されるように、人影の方へと足を進める。
そして、人影が、ここで私と待ち合わせを約束していた人物、四葉くんである事を目でも確認する。
「お天気は最悪デス……」
相変わらず青々と晴れている空を見上げ、四葉くんはそう漏らす。
「普通、こう言う天気に対しては…………最高だと言うんじゃないかい?」
「今日は普通じゃアリマセン。特別な日デス」
今日は12月24日。
四葉くんが私に雪を降らせて欲しいと頼んでから2日が経った今日は、クリスマスイブ。
「ウぅ……寒いデス……」
天気は良いが―――いや、この場合は悪いかな?―――そこはやはり冬。
外の気温はかなり寒いものだった。
四葉くんに至っては、コートを羽織っていると言うのに、それでも尚、身を縮こめるなどの、いかにも寒そうな仕草をしていた。
「それで、どうなんデスか!?」
「ああ…………準備はできてるさ」
そう言って私は持ってきた小型ロケットを取り出した。
「千影ちゃんから機械なんて……なんか似合わないデス」
「私も…………そう思うよ…………」
四葉くんの素直な意見にお互い微かに笑い合う。
このロケットは私が作ったものではなく、機械系が得意分野である鈴凛くんが作ったものだ。
頼んでから1日でロケットを作ってしまうとは、さすがは鈴凛くんと言ったところだろうか。
「さて…………じゃあ始めようか」
「ハイデス」
このロケットで何をするのか。
答えは簡単だ。
四葉くんの望み通り雪を降らせようとしているのだ。
しかし、ロケットを空に打ち上げるだけで雪を降らせるなんてこと、普通は無理だ。
ロケットの先端には握り拳より少し小さいくらいの水晶をつけている。
この水晶には、私の魔力を込められている。
雪を降らすために必要な魔力を注ぎ込み、その魔力が雪を降らせるために作用するための準備もすでに終えてある。
後はこの水晶を、遥か上空に持っていくだけで雪を降らすことができるのだ。
そう、雪を降らせるには遥か上空で魔力を発散させる必要がある。
この水晶を遥か上空に持っていくために、鈴凛くんの作ったロケットが必要となったわけだ。
「…………」
「どうしたんデスか?」
ロケットを打ち上げようとして、いきなり壁に当たった。
「これは…………どう設置すれば…………」
……分からない。
「千影ちゃん、こう言うのダメなんですか?」
私は私生活に機械なんてなくなっても特に困りはしない。
そのため機械と言うものにてんで疎いのだ。
鈴凛くんは簡単だからと言っていたが、私には鈴凛くんから念のためもらっておいた説明書を見てもさっぱりだった。
「クフフフゥ……」
「な、なんだい……? 急に…………笑ったなんかして…………」
「スミマセン。でも、千影ちゃんにも苦手なものがあると思ったら……なんだかオカシクて」
「べ、別に…………私だって苦手なことくらい…………! それに…………私にはそう言うものを使う必要はない…………」
「千影ちゃんはメカが苦手……っと。またひとつ千影ちゃんをチェキしました♥」
嬉しそうに、手帳に私が機械が苦手だろうと言うことを書き込む。
そんな彼女の喜ぶ顔を、方法は違えど、彼女と同じように、私はしっかりと胸の中に刻みこんでおいた……。
「これで…………準備完了か」
「ハイデス」
準備を終え、私はロケットの発射のスイッチを押そうとそこへ指を伸ばす。
ところが、四葉くんはその手を静止させこう言い出した。
「待ってクダサイ、四葉が秒読みをしマス!」
…………。
「いや…………別にそんなこと…………必要ないだろう?」
「ダメデス! ロケットと言ったら秒読みデスよ、千影ちゃん!」
などと妙なこだわりを言い放つ四葉くん。
「はぁ……、そんなことも分からないなんて……千影ちゃんもまだまだデスね」
両手を広げ、首を左右に振りながら大きくため息を吐く四葉くん。
……一体、私の何がまだまだなのだろうか……?
「いきマスよ」
「あ、ああ………」
ロケットのスイッチ片手に意気込む四葉くん。
私は四葉くんのタイミングで飛ばせるよう、スイッチを四葉くんに渡しておいた。
まぁ、私のやるべき事はもう終わったのだから、後は結果を待つだけだろう。
「3……2……1……」
四葉くんの秒読みが開始、そして、
「……発射ぁっ!!」
その掛け声と共にロケットは、真っ直ぐな煙を吐き出しながら空へと飛び立った。
四葉くんの望みを叶えるため、
この街に、雪を降らせるため……。
「すまない…………四葉くん……」
「いいんデス」
私達は今、喫茶店でくつろいでいた。
テーブルの真ん中に四葉くんの大好物であるドーナツを置き、そのテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。
だが、私達の心境は"くつろいでいた"とはお世辞にも言えない、落胆した心境だった。
四葉くんは肩を落としながらドーナツをひとつ口に運ぶ。
「おいしいデス……」
言葉とは裏腹に、四葉くんの声は落胆している気持ちをあらわにしていた。
「とりあえず、喜ぶかガッカリするか…………ハッキリしたらどうだい?」
もぐもぐと口の中のドーナツを味わっている四葉くんにそう言う。
すると、四葉くんは口の中のドーナツをごくんと飲み込んでから一言。
「じゃあガッカリしマス……」
「いや…………だったら、さっきのままでいい…………」
別にガッカリして欲しくてそう言ったわけではない。
寧ろそうなっては欲しくない。
なら、さっきのハッキリしないままの方が幾分かましだろう。
四葉くんは、もう一度ドーナツを口に運んで、
「おいしいデス……はぁ……」
再びため息を吐いて、続けてこう漏らした。
「鈴凛ちゃんがもうちょっとちゃんとしたモノを作っていれば……」
四葉くんの掛け声と共にロケットは、真っ直ぐな煙を吐き出しながら空へと飛び立った。
四葉くんの望みを叶えるため、
この街に、雪を降らせるため……。
そして、
「あ゛」
曲がって、
……ドスッ
羽が一枚落ちて、
「あぁ〜〜……」
ピュウウウゥゥゥ……
明後日の方向へ、
ゥゥゥ………………
「…………」
墜落……。
ロケットは私達の望みを乗せたまま、街中にその姿を消していったのだった……。
「衛くんには…………悪い事をしたな…………」
コーヒーカップを皿に置きポツリと呟く。
「でも、衛ちゃん喜んでたじゃないデスか」
「いや…………あれはどう見ても強がりだろう…………」
「チェキ?」
ロケットは偶然にも衛くんの家の前に墜落していた。
ロケットが墜落した位置へ向かった私達は、そこで自分の家の前で呆然と立っている衛くんの姿を見つけた。
衛くんは、その格好から恐らく丁度ランニングから帰ってきたばかりだったのだろう。
そして、その表情は、これ以上ないほど呆気に取られ、固まっていた。
なぜなら…………衛くんの家には空から街全体に降らせるはずだった雪を一括払いでプレゼントされていたからだ。
『あはは……き、気にしなくて良いよ。雪かきはいいトレーニングになるからさ……あはは……』
事情を説明して、謝る私達に、衛くんはそう言ってくれた。
その後に、自分の家にだけ積もった大雪を見て、ため息を吐いていた。
カランカラン、と喫茶店のドアが出て行く私達を見送るように鳴っていた。
暖かい喫茶店の空気に慣れた体に、肌寒い冬の冷気が私と四葉くんの体に刺さるように吹いてくる。
四葉くんは身を再び縮こませ、口癖であるチェキと言う一言を、静かに言って軽く震えていた。
「すまない…………」
彼女の背中を見て、自分が情けなく感じた。
だから思わずその言葉が口をついて出た。
「いいんデス……四葉が無理を言ったのがいけないんデスから……」
「明日までにはなんとかしてみせるさ…………」
「でも、もう時間がアリマセンし……」
「いや、1日あれば…………何とかなるさ…………」
「いいんデス」
「いや、何とかする…………」
何があろうとも、何とかしてやりたかった。
「明日の…………君のデートまでには」
それが彼女の望みだから……。
「チェキ?」
…………。
「『チェキ?』って…………明日、君は誰かとデートするんだろう?」
四葉くんの何の事だと言わんばかりの表情に、私は問いかける。
「どうしてデスか?」
「どうして、って…………昨日言ってただろう…………雪の降る中で―――」
その時だった。
私は言おうとした言葉を思わず止めて、目の端に入った"あるもの"を確認するため、空を見上げた。
そして、そこで"ほんの小さな奇跡"が起きたことを、私は知った。
「ち、千影ちゃん!」
「ああ…………」
そのことに、私とほとんど同時に……いや、私より僅かに速く四葉くんも気づいたみたいだった。
喜びと感激が混ざり合って、まるで慌ててるように見える四葉くん。
私が何かをした訳ではない。
だが、落ち込んでいた四葉くんの望みが叶えられることに、そのほんのささいな奇跡に、私も確かに喜びを感じていた。
どうやら、私達がどうこうする必要はなかったようだ。
「ゆ、雪デス!!」
「千影ちゃーんっ! 速くっ、速くっ」
私の数十メートル前方で、まるで子犬のように雪にはしゃいでいる四葉くん。
空は先ほどの晴天とは打って変わり、薄暗い悪天候に……いや、四葉くんから言わせれば"良い天気"だな。
「うわぁー♥」
四葉くんは再びさっきの公園に着くと、歓喜の声をあげていた。
遅れて私も公園の入り口に着くと、そこにはすでに薄っすらとではあるが雪の白い絨毯がひかれていた。
「良かったね…………四葉くん」
「ハイデス!」
四葉くんの望んだ通りの、真っ白い絨毯がひかれた自然の舞踏会場。
このまま行けば、白い絨毯は明日にはしっかりとこの公園にひかれるだろう。
その時、雪が降っているかどうかは、天に任せるしかないか……。
そうなると、今が一番良いタイミングなのかもしれない。
…………。
「四葉くん…………」
雪に見惚れている四葉くんに、後ろから彼女の名前を呼ぶ。
「なんデスか?」
「もし宜しければ…………一曲、踊りませんか…………? おてんばなお姫様…………」
彼女が振り向いてから、そう言って手を差し伸べた。
一瞬、何が起きたのか分からなかったらしく、「チェキ?」と、四葉くんらしい一言を漏らして呆気にとられていた。
「いい、いいんデスか!?」
「ああ…………君さえ良ければ、だが…………」
「もも、もちろんデス!!」
私は姫の手を取り誰もいない公園の中央へと歩み始めた。
そして、ふたりきりの舞踏会場で、ゆっくりと、静かに踊り始めた。
四葉くんは一生懸命覚えたであろう踊り方をぶつぶつと口に出しながら確認しているようだった。
私の方も踊り方は知識としてはあった。
しかし、やはりお互い慣れないことをしているため、踊りはお世辞にも上手とは言えない、ぎこちない動きとなっていた。
でも……それでも、私にとっては素敵なダンスだと思えた……。
「フフ…………確かに君の言った通りかもしれないな…………」
「チェキ?」
「いや…………なんでもない」
ぎこちない踊りも、 お互いだんだんとコツを掴むなり慣れるなりして、それなりの"ダンス"になっていた。
その頃には、四葉くんもぶつぶつと小声で踊り方を復唱することも止めていた。
「エヘへッ……でもまさか、千影ちゃんがダンスに誘ってくれるなんて……」
雪の降る中……。
「まぁ…………明日の本番の練習だと思ってくれればいい」
真っ白な絨毯がひかれた自然の舞踏会場で……
「だからぁ〜、明日の本番って何のことデスかぁ〜?」
想いを寄せる相手と……
「言っただろう…………聖夜の夜に、想いを寄せる相手とダンスしたいと…………」
「えっ……? ……あ、ハイ、確かに言いマシタ」
例え、それが叶うことのない想いだとしても……
「あんなに…………一生懸命に雪を降らせようとしてたんだ…………。
だから足りないものは雪だけ…………つまり相手はいると言うことだろう…………?
今日は私とその事で会うのだから、明日にでも…………」
「あッ……! そ、そうデスよね」
その相手と……ぎこちなくとも素敵なダンスを踊る……。
「……でも、だったら今日が本番と言うことになりマスね……♥」
「何か言ったかい…………?」
「なな、何でもアリマセン!!」
私の今年のクリスマスは……そんなホワイトクリスマス……。
おまけ
「ねぇ……なんでアタシが衛ちゃんの家にだけ異常に積もった雪かきの手伝いしなくちゃいけないわけ……?」
「鈴凛ちゃんのせいでこうなったんだから当然でしょッ!! ボクだってひとっ走りして疲れてるんだからッ!!」
「いや、そのアタシのせいって言うのがよく分からないんだけど……」
あとがき
ぶっちゃけ勝手に「引き受けます」言って引き受けた影葉さんのリクエスト、
雪の舞い落ちるクリスマスデートを楽しむちかよつでした。
ちかよつ話はリクエスト者である影葉さんのサイトにたくさん、しかもいいものばかりがあるので、
正直この話に自信はありません。
この話は、まず『ちかよつでクリスマスデートなら……』と言う所から考え始めました。
それから、前に見たことあるSS(非シスプリ)で、雪の中で踊るシーンなんかいいかな、って思っていたら、
「じゃあそうするための雪がなかったら?」と逆に考えてみたことから、パッとネタができました。
そう言う話をやる上で千影と四葉は結構適任でした、特に千影(笑)
問題は、「果たしてデートだったのか?」と言うことです(苦笑)
悪あがきに喫茶店シーンを入れましたが……。
久しぶりにまともな千影を書いた気がします(笑)
でも、なんだか千影が失敗している気がします(汗)
更新履歴
H15・12/14:完成
H15・12/24:脱字修正
H16・12/2:脱字他大幅修正
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