「あ〜……やっと3ページ終わったぁ……」

今は夏休み。
ヒナは夏休みの宿題を、同じ高校でひとつ上の学年である亞里亞ちゃんに見てもらっていた。

「じゃあ、今日の分はひとまず終了ね」
「うん」

立ち上がって「う〜ん」と唸りながら、背伸びをする。

「ねぇ、亞里亞ちゃん」
「何よ?」
「どうして、宿題終えてからじゃないと遊びに行かないの?」
「後々、手伝ってぇ〜って泣き付かれるのが嫌だから」
「ひ、ヒナそんなこと……」
「あのねぇ、雛子ちゃんの宿題をあたしがやっても意味が無いの 。分かる?
 宿題は自分でやるから意味があることなの!
 そもそも宿題以外にしろ、勉強ってのはやったこと覚えてなきゃ意味無いの。
 だから、逆に少ない時間でもたくさん覚えれたら、それは物凄く意味があるってことなのよ。
 大切なのは勉強した時間じゃなくて、勉強して分かったことなの。
 だからね、こういう風に手伝うのなら別にいいんだけど、
 あたしがやったらただあたしが1年前にやった事を更に復習するだけなの。
 なぁ〜んで、このあたしがそんなことやんなきゃいけない訳ぇ?
 大体そんなこととっくに覚えてるっての」

亞里亞ちゃんのいつものマシンガントーク。

そう、"亞里亞ちゃん"の……。
そんなこと、昔の亞里亞ちゃんからは想像もできないことだった。

でも、高校生になった亞里亞ちゃんは、今のような昔とは正反対の性格へと変貌していたのだ。

原因はヒナ……。

ヒナが小さい頃、亞里亞ちゃんはとある事情でフランスに戻らなくちゃいけなくなったの。
そしてその時、ヒナは亞里亞ちゃんと約束したの。
「帰って来たらヒナがお嫁さんにしてあげるから強くなって」って。

「強くなって」って言ったのは、当時の亞里亞ちゃんは寂しがり屋で泣き虫だったの。
亞里亞ちゃんの方がお姉ちゃんだったって言うのに、ヒナの方が守ってあげる立場だったんだ。
亞里亞ちゃんがフランスに戻ってまた会えなくなったら、もうヒナが守ってあげる事が出来なくなる。
だから「強くなって」って言ったの。

だけど……それは予想以上の効果を発揮してしまい、なんと亞里亞ちゃんは今では完璧人間と言えるくらい強くなってしまったのだ!
そして……代わりに"可愛さ"と言うものを失ってしまった……。

はぁ……。(←ため息)


あ、それとね、「お嫁さんにしてあげる」って言うのは、
当時のヒナにとって、結婚って言うのは『好きな人といつまでもずっと一緒に暮らす事』だったの。
これから離れ離れになる亞里亞ちゃんに、こっちに帰ってきたら、今度はもう二度と離れないよって意味でそう言った……んだと思う……。
……昔のことだからちょっとあやふやだけど……。

でもね……

「ねぇ、亞里亞ちゃん」
「なによ?」

亞里亞ちゃんと再会した時、ヒナはその気持ちが変わってないって分かったの。
そして……亞里亞ちゃんも、その約束を果たしたいって思っててくれてる……。

だから……

「ヒナ達って……その…………恋人同士……だよね」
「そうよ」
「軽いよ」

そうなの……ヒナは、今は亞里亞ちゃんと…………その……恋人同士……なんだ……。

自分でもヘンだってのは分かってるつもり。
そりゃあ、女の子同士で、しかも姉妹でそんなこと、おかしいって思うけど……

だけど、何回も何回も考えたけど、結局出る答えはいつも一緒。
ヒナの亞里亞ちゃんに対する気持ちは、間違いなく"恋"だって……。

ヒナは亞里亞ちゃんが女の子だとか姉妹だとか言うことは関係なく、
亞里亞ちゃんとずっと一緒に居たい、亞里亞ちゃんと約束を果たしたいって思ってる。
それに……亞里亞ちゃんは守る気満々で…………寧ろ破った方が怒られそう……。
まぁ、ヒナも守る気満々だからいいんだけど……。
それに……

…………。

……この豹変した亞里亞ちゃんを目の当たりにしておいて、それでも好きで居る自分が不思議で不思議でたまらない……。

「で、それがどうしたの?」
「あ! う、うん……」

なんて、別のこと考えてたから、亞里亞ちゃん返事にちょっとビックリしちゃった……。

「あのさ……その…………だったら……さ……」
「なによ、じれったい。ハッキリ言いなさいよ!」

だ、だってヒナが言おうとしてることは……その……言いにくい事なんだもん……。
……でも、ヒナは頑張って、思い切って言ったの。

「キス……してもいい」

って……。

「…………」

そのヒナの言葉に、亞里亞ちゃんが黙ったまま驚いたような顔をしてた。

「もちろん……口に……」

付け足すようにそう言った。
言ってから、ヒナの心臓は破裂しそうなくらいドキドキ言ってたの……。

ヒナたちが恋人同士になったのはつい最近。
もっとも、亞里亞ちゃんの方は小さい頃の約束の時からヒナと婚約したから、ってずっとそう確信してたらしいけど……。
ちゃんとお互いの間で恋人同士って確認しあったのはついこの間なの。
だから……まだキスもしていない……。

「ダメ!」
「えっ!?」

しばらくして、亞里亞ちゃんの口から返事が返ってきた。
でも、それはヒナの予想外の返事だった。

「な、なんで!?」

亞里亞ちゃんはヒナのことを好きだって言ってくれた。
もちろん、そう言う意味で…………だと思うけど……。

「子供にはまだ早い!」
「ひ、ヒナ、子供じゃ……」
「自分の事"ヒナ""ヒナ"言ってる、雛の雛子ちゃんの何処が大人だって言うのよ!?
 "雛"って何の事か分かる? 雛鳥、つまり生まれて間もない鳥の赤ちゃんの事!
 自分で"ヒナ"って言う事は、自分は子供ですって認めてる証拠よ、雛鳥ちゃん!」
「そ、そう言う意味で言ってるんじゃ―――」
「問答無用!」

そう言ってヒナの口に人差し指を当て、ヒナの言葉を止めた。
なんだか台詞と行動が合っていない気がする、ってヒナが思ってたら亞里亞ちゃんがこう続けた。

「もう少し大人になったら相手になってあげるから……ね」

…………。

「さ、行くわよ」
「……あ……うん……」

亞里亞ちゃんは可愛くなくなったけど……その分、素敵になっていました……。











 

ヒナのひみつのハイスクールらぶ

−誕生日の夜に−













「朝ー! 朝だぞー!」

まどろみの中、聞こえてきた声。
それは紛れもなく亞里亞ちゃんの声だった。

「起きろー! この寝坊助!!」

亞里亞ちゃんは、いつも朝にヒナを起こしてくれて、一緒に学校に行く。
いつの間にか起こしてもらうことが日常になっちゃった…………って……、

「今は夏休みじゃないの……」

だから朝寝坊して学校に遅れる事はないはず……。
ついでに言うと、学校のない日は亞里亞ちゃんも起こしに来ない。

「今日は登校日よ!!」

……とうこうび?

「とうこうびって……?」
「はぁ……・」

ため息が聞こえてきた。
そしてその後にやって来た……

「い・い・加・減・起きろ!! この寝坊助雛子ォッ!!」
「うわぁッ!?」

……『奥義・布団引っ繰り返し攻撃―――

「まだまだぁッ!!」
「へ?」


    ギュルンギュルンギュルンッ


「え? えっ、えっ!? えええぇッ!!?」


    ズドォンッッ


―――・改』

ヒナの体はそのまま布団を飛び出し、キリモミ回転しながら床に激突しました。

「……痛い……」

いつの間に奥義に改良が加わったんだ?

「おはよ、雛子ちゃん♪」

床に布団ごと引っ繰り返されたヒナを、亞里亞ちゃんはその素敵な笑顔の奥に怒りを込めながら上から見下ろしていた。

「おはよう……」
「目は覚めたかしら?」
「覚めた……」

主に痛みで……。

「もう少し優しく起こしてよぉ……」
「こう言う事は中途半端に甘やかすと本人の為にならない!
 ほら、さっさと着替えて朝ご飯食べて歯磨いて顔洗って私と学校行くわよ」

亞里亞ちゃんの綺麗な声がいつも通りの早口言葉でヒナの部屋に響いていた。

「ったく……こんな調子で今日のあたしとの約束、大丈夫なのかしら……」
「……約束?」
「はい、寝ぼけてるんじゃないの! あんた、まさか今日が何の日で、あたしとの約束忘れた訳じゃないんでしょう!」
「今日……って、なんか亞里亞ちゃんと約束してたっけ?」
「…………」

亞里亞ちゃんが呆気にとられた顔をしていた。
どうでもいいけど、こんな美人の呆気にとられて口が閉まらなくなる顔なんてなんだかミスマッチだなぁ……。

「ちょ、ちょっと、今日が何の日か言ってみなさい!」
「……今日? 今日は登校日って……今、亞里亞ちゃんが……」
「この国が戦争で負けた日よ! しっかりしなさい!!」
「…………あっ!」

そこでヒナは大切な事を思い出した。
今日は終戦記念日、つまり8月15日。
そしてその日は……、

「ヒナの誕生日……」
「やっと思い出したかこの寝坊助」

そう、ヒナの16年目の誕生日なのだ。
























「呆れた。誕生日に約束していた事は覚えていて、その誕生日が今日だって事を忘れてるなんて、鈴凛ちゃん顔負けの曜日感覚の消失ね」
「あははは……」

学校に向かって歩きながら亞里亞ちゃんが呆れていた。

そうなのです。
ヒナは自分の誕生日の日にちは覚えていたけど、それが今日だなんてことすっかり忘れてたのです。
あ〜、もうそんなに日が経ってたんだなぁ……。
夏休みって毎日お休みだから、今日が何日か分かんなくなんるんだよねぇ……ってこれはただの言い訳か……。

「一応、約束の内容を聞きましょうか?」
「え?」
「今日あたしと雛子ちゃんは何をするんでしたか?」
「バースデーデートでしょ」
「はい、正解」

約束って言うのは、亞里亞ちゃんとのデートのこと。
亞里亞ちゃんはヒナの誕生日にデートをプレゼントしてくれるんだって。


なんでも亞里亞ちゃんは、小さい頃から色々と物に囲まれた生活をしていたの。
要するに恵まれていたんだね。

……同じ姉妹なのに……羨ましい。

でもね、亞里亞ちゃんからしてみたら、それはあんまり嬉しいことじゃなかったんだって。
当時はよく分かってなかったらしいけど……フランスに戻って、ヒナたちと離れ離れになってそのことが分かったんだって。
本人曰く、「物に囲まれて育ったからこそ、物の冷たさを知っている」らしいです。

……なんか贅沢な気もするけど……。

だから亞里亞ちゃんは"物よりも思い出"。
そう思って、亞里亞ちゃんはあえて物のプレゼントはしないで、ヒナに思い出のプレゼントをしてくれるんだって。

デート、って言うか一緒に遊びに行くことなんて結構いつでもやっているけど……でも今日は違うの。

だって今日は夏祭りがあるから。
1年に1回だけの、って言う貴重な日。
いつもと違うことができるから、だから……。

「痛っ……」

突然ヒナの体に激痛がッッ…………は、言い過ぎだね……。

「どうしたの?」
「うん……さっきぶつけた所がね……」
「さっき?」
「亞里亞ちゃんの布団引っ繰り返しのこと」

なんとなく腕を動かしたら、床に激突した時にぶつけた所がちょっとだけ痛いと思った。

「ねぇ、もうちょっと優しく起こせないの?」
「毎日起こしてくれる美人のお嫁さんよ 。何贅沢言ってるのよ」

亞里亞ちゃんは確かに綺麗になったけど、自分で自分のことを美人って言うのはちょっとやめた方が……。

「……ねぇ、ヒナは最近亞里亞ちゃんの方が旦那さまに向いてる気がしてきたんだけど……」

明らかに亞里亞ちゃんの方がヒナを守る側だ……。
なんせ亞里亞ちゃん方が強いし……。

「あんた、自分でした約束忘れたんじゃないでしょうね?
 『フランスから帰るまでに強くなったらあたしをお嫁さんにしてあげる』って言ったのよ。
 だからあんたが旦那にならなきゃあたしはお嫁さんになれないの! 分かる!?」
「でも結婚……って言うか、それっぽいことするなら結局どっちがどっちでも一緒じゃ……」
「違うわよ! じゃあ何!? あたしは何のために地獄のような努力を積み重ねてきたと思って……」
「あー、はいはい、"ヒナのお嫁さん"になるためだよね」

また亞里亞ちゃんのマシンガントークがはじまるのはイヤだったから、ヒナはそれが始まる前に亞里亞ちゃんの言葉を遮って答えた。

「そーよ! 分かってんじゃない! だから雛子ちゃんが旦那さん、はい決定!!」
「…………」

今の亞里亞ちゃんはさっきも言ったように完璧人間だ。
だけど自然にそんな風になれるほど人生は甘くない。
当然、亞里亞ちゃんは英才教育やら習い事やらを死に物狂いで受けていたんだろう。
しかも、小さい頃はなんでも誰かにやってもらっていたような亞里亞ちゃんなら尚更……。
だから余計に「ヒナのお嫁さんになる」と言うことにこだわってるんだと思う。

でもヒナのお嫁さんになるために強くなったのに、強くなった苦労を報うためにお嫁さんにこだわるのは、
理由と目的が入れ替わってるって言うんじゃないの?

……どーしてヒナはこんな人を禁断の愛を貫いてまで好きになってしまったんだろう。

「何考えてるのよ?」
「別に……」
「言っとくけど、あんたが強くなれ言ったんだからね」
「…………」

ヒナが好きだったのは"今の亞里亞ちゃん"じゃなくて"昔の亞里亞ちゃん"じゃないのか?
……なんて、つい考えてしまった。

「ほら、雛子ちゃん……学校、着いたわよ」
「え、もう……?」

考え事をしてたせいか、思ってたより早く学校についた気がした。

「じゃあ、ここで一旦"私"とお別れね……」
「…………」

出た……凶暴な本性を隠すための礼儀正しい良い子ちゃん猫被り状態の亞里亞ちゃんだ………。
一人称が"あたし"から"私"にスイッチしたことが、ヒナにそのことをいち早く理解させた。
























「おはよ、ヒナ公」

教室に入り、自分の席に着いたヒナにヒナ公、とあだ名で呼びかける女生徒。

「おはよう、すずちゃん」

その女生徒の名前を呼んで挨拶を返してあげる。

「だから名前で呼ばないで……」

女生徒ことすずちゃんは、いつも通り自分の古臭い名前にコンプレックスを感じていた。

「何かあったの?」
「……何かあったって言うか……これからある……」
「なにが?」
「デート」
「そう、でー…………ででででぇーーーとぉぉーーーッ!!?」

一旦普通に反応しようとして、急に驚くすずちゃん。
まるでノリツッコミみたいでちょっと面白かった。

「誰と!? 2組の高里!? 5組の浅野!?」

ヒナの制服の襟元を掴んでヒナを左右にガクガク揺り動かしながら聞く。

「亞里亞ちゃんと……」

揺らされて震える声で静かに回答。

「亞里亞…………ってなんだ先輩とか……」

すると答えを聞くなりなぜか安心した様子でヒナの襟を放すすずちゃん。

「まったく、紛らわしい言い方ね 。私はてっきりアンタに彼氏でも出来たのかと思ったわよ」

少なくとも"彼氏"は出来ていない。
でも恋人はいる。
……誰にも言えない恋人だけど……。

「でもなんで? なんか理由でもあるの?」
「今日は何の日だか分かる?」
「夏休み2回目の登校日、そして終戦記念日」
「……それと、ヒナの誕生日」

ヒナはすずちゃんの言葉にそう付け加えた。

「え!? 何、アンタ今日が誕生日だったの!?」
「そ」

すずちゃんの質問に、短く一文字で答えを返す。

「日本が負けた日に誕生日だなんて、アンタもとんでもない日に産まれたもんね」

それはヒナが好きで16年前の今日に生まれたわけじゃないから、と言おうとした時だった。

「おはよう、ふたりとも」

教室に入ってきた女の子が、ヒナ達に挨拶をして、ヒナの後ろの席に持っていた鞄を置いていた。

「あ、ようこ」
「おはよう、ようこちゃん」

彼女は中島ようこちゃん、すずちゃんと同じくヒナのクラスメート兼友達。

ようこちゃんはヒナの後ろの席の子で、真面目な委員長さんタイプの女の子。
控え目な子なんだけど、実は剣道が物凄く上手だったりする。

「どうした? ようこが私たちよりも遅いなんて、なんかあったのか?」

すずちゃんが席に着いたようこちゃんに聞く。

ようこちゃんは剣道部所属。
だけどうちの学校の剣道部は朝練なんて大層なことはやっていない。
だからそれで遅くなるなんて事はない。
それでも、ようこちゃんは真面目だから普段はヒナやすずちゃんよりも早く学校に来る。

「うん、ちょっと"らくしゅん"の様子が心配で……」
「あのハムスターの?」
「うん……」

ようこちゃんはハムスターを飼っている。
"らくしゅん"って言うのはそのハムスターの名前。
前に漢字でどう書くか説明してくれたんだけど、その時よく聞いてなかったし、特にどうでもいいだろうから覚えてない。
……それにしても変な名前だと思うのはヒナだけかな?
どうしてようこちゃんはそんな名前にしたんだろう……?
今度聞いてみよ。


    ガラガラガラ……


「はい、皆さん席に着いて下さい」

教室の扉が開き、このクラスの担任の春歌先生がやって来た。
それと同時にヒナの朝のお喋りタイムも終わりを告げるのでした。












学校はすぐに終わった。
何のために来たんだって思うくらいすぐに。

春歌ちゃんにいたっては「ワタクシの出番はこれだけですか!?」なんて、よく訳の分からないこと言っていた。
とにかく早いって言いたかったんだろう。

さっき春歌ちゃんから貰ったプリントの入った、何も入ってないくらい軽い鞄を持って、校内を玄関に向かって歩く。

「あ、雛子ちゃん」

不意にヒナの名前を呼ぶ綺麗な声が聞こえた。

「亞里亞ちゃん?」

振り向きながら声の主を目で確認する前に名前を呼んだ。
いつもその声の乱暴な言葉遣いで叩き起こされているヒナには声の主が誰なのかが分かっていたから。

そこにはヒナの思った通り亞里亞ちゃんの姿があった。
ニッコリと微笑むその顔は…………うん、作り笑顔だ。

「何考えてるの、雛子ちゃん?」
「別に……」

他の人には分からないだろうけど、そのくらい上手な笑顔だけど……、
本物の……お星さまみたいに輝く亞里亞ちゃんの本当の笑顔を知ってるヒナから見たら、その微妙だけど大きい違いは分かっちゃう。

「それで何?」
「約束、覚えてるのか心配になって……」
「ちゃんと覚えてるよ」
「今朝忘れていたのは誰だったかしら?」
「や、約束は忘れてなかったよ!」

……きょ、今日が何日かを忘れてただけだもん……。

「夕方に待ち合わせでしょ」
「はい、せ〜かい、ズバリ、ビンゴ、その通〜りv」

軽い調子と口調で、つまりは当たっていると言うことを違う言葉で何度も言う。

「それだけ?」
「それだけ。だって今朝、どこぞの雛鳥ちゃんは約束をすっかり忘れていたから亞里亞とっても心配で〜☆」

うぅ……反論できない……。

「ところで雛子ちゃんは夕方まで何をしているつもりなの?」
「ん?」
「私は合唱部で練習があるけれど……雛子ちゃん、確か今日は何もなかったわよね」

そう、亞里亞ちゃんは合唱部所属なのだ。
すずちゃん曰く『我が校始まって以来の究極の歌姫』。
ヒナも一応美術部に入ってるけど今日はなんもない。
……って言うか普段からあんまり活動してない気がする……。

「それで何して時間潰す気?」
「寝る」
「寝坊助」
「亞里亞ちゃん、まだ学校だよ 。誰かに聞かれてもいいの?」

今、あっち状態をやめることはかなり危険で、亞里亞ちゃんの猫被りがバレる可能性があると思うんだけど……。
別に心配しちゃいない、寧ろバレても構わない。
だってヒナのことじゃないし。
バレても亞里亞ちゃんは亞里亞ちゃんでなんとかするだろうし。
などと薄情なことを考えつつ、二度寝の正当性の主張……もとい言い訳を。

「昨日、遅かったから、睡眠時間足りないの」
「あら、昨夜はお布団の上でお寝そべりになりながら、お煎餅でもボリボリお食べになって、教養の欠片もない漫画でも読書していたのかしら?」
「違う 。それと話し方は丁寧だけど聞かれたら本性バレるよ」

その返答の言葉は、丁寧だけど内容はそれとは正反対に野蛮だった。

「まぁいいわ、じゃあ"あたし"遅れちゃうからもう行くわ」

…………。

「……なるほどね」

亞里亞ちゃんの"あたし"に、ふと周りを見てみると思わずそう声を漏らした。
だってそこにはヒナたち以外誰もいなくなっていたんだから。

「どうしたのよ?」
「別に……。いつも猫被ってるとそう言う状況把握が上手になるのかなぁ……って思ってただけ」
























「ただいま〜……」

だるそうな間延びした声で家に入る。
どうやら眠気のピークと、やっと休めると言う気持ちが重なって、かなり寝むたい状態のようだ。

ヒナは手を洗ったり着替えをして、その後自分の部屋に直行。
部屋に着くとそのまま帰ってから二度寝しようと思って敷きっぱなしにしておいたお布団の上にダイブ。


    ゴン


「痛い……」

ちょっと勢いが強かったから痛かった。

横になりながら、亞里亞ちゃんのことについて考えてた。
亞里亞ちゃんは本当に変わっちゃった……。

……原因はヒナだけど……。

昔は可愛くて……ヒナの方がお姉ちゃんっぽかったのに……。

亞里亞ちゃんが何かできるようになったら、「いい子いい子」って、なでなでしていたっけ。
今や亞里亞ちゃんはなんでもできるからそんなことする理由からなくなっちゃったけど……。

ああ……あの頃の亞里亞ちゃんが懐かしいなぁ……。

なんて、もう戻ってこない過去に囚われながら、お布団の上で目を瞑ってると、だんだんとまどろみの中に吸い込まれていくようだった。



……………………


…………
























「遅い!!」
「はぁ………はぁ………ごめ……」

目の前には、しかめっ面の亞里亞ちゃんが、息を切らして「ごめんなさい」を最後まで言葉を言えずにいるヒナの前に、腕を組んで立っていた。

「30分の遅刻よ! 一体何やってたの!?」
「…………」
「答えなさい!!」

ああ、亞里亞ちゃん、ホントたくましくなっちゃって……。
なんて言うか"お姉ちゃん"って言うより"お姉様"って感じだ。

「……でも、正直に言うと亞里亞ちゃん怒るから……」
「言わなくても怒る! だから言いなさい!!」

なるほど、だったら言った方が亞里亞ちゃんの怒りを少し静めれる分だけ特と言うわけか。

「…………寝坊した……」
「あん!?」

亞里亞ちゃん……やっぱりあなたは不良かヤクザですか?

「まったく、こんな美人を待たせるなんて……」
「あのさ、自分で自分を美人言うのはどうかと思うよ……」
「あたしの彼氏役失格ね」
「…………」

亞里亞ちゃんのその台詞にヒナは何も言えなくなっちゃったの。

「何よ、もう言い訳は打ち止め?」
「……えっ! あ、その……」

"彼氏"……。

その言葉に「ヒナは女の子だから彼女じゃないの」とか、「亞里亞ちゃんの方が彼氏役に適してる」とか、
言おうとした言葉は頭の中にたくさん出て来たけど、

「何よ、顔赤くして……」
「な、なんでもない!」

でも、亞里亞ちゃんがヒナのことを恋人として見てくれている。
そう思ったら、なんだかすごく嬉しくて……すごく照れちゃって……もう何にも言えなくなっちゃった……。

「ほら、とっとと行くわよ! 時間勿体ない……」
「う、うん……」

こんなんでも……ヒナのこと、きちんとそう言う風に見ててくれたんだ……。












「お待たせー」

ヒナは一旦亞里亞ちゃんと分かれて、遅れたお詫びをすることにしたの。
と言っても、夜店の食べ物を奢るだけだけど。

「また待たせるなんていい度胸ね」
「はい、亞里亞ちゃん。これ遅れたお詫び」

そう言って、たった今屋台でお詫びとして買ってきたものを亞里亞ちゃんに渡す。

「ありが………………」
「……? どうしたの、突然黙って」

亞里亞ちゃんは、ヒナが屋台で買ってきたすもものアメをじっと見つめながら、黙ってしまった。

「すもも……」
「うん、すもも」

すもも。
それ以外のなにものでもない。

「雛子ちゃん」
「なに?」
「はい、お誕生日プレゼント」
「それ、今ヒナがあげたすもも……」

たった今、ヒナが買ってきたすももを誕生日プレゼントと偽ってヒナに返品する。
そう言えば、今日はヒナの誕生日だったはずなのに何でヒナが亞里亞ちゃんに遠慮してるんだ?

一方、亞里亞ちゃんは、ばつの悪そうな顔をして目を背けてた。

「あたし……すっぱいのダメなの……」
「えっ! まだダメだったの!?」
「う、うるさいわね!」

普段通り強気な口調、だけど依然ヒナから目を逸らして顔は赤くなっていた。

「亞里亞ちゃん……すっかり完璧人間だと思っていたけど……好き嫌いあったんだ……」

亞里亞ちゃんは小さい頃からすっぱいものが嫌いだった。
でも、亞里亞ちゃんはもう完璧人間になってるから、ヒナはてっきり好き嫌いもなくなってるのかと思ってた。

「完璧な人間なんて……存在しないわ……」

言ってることはカッコイイかもしれないけど、所詮は嫌いなものを食べたくないがための言い訳だよね。

「……ひょっとして、辛いのも?」
「…………」

顔を背けたまま黙る。
つまり、

「……ダメなのね」
「うっさいわね! 『三つ子の魂百まで』って言うでしょ!!」
「じゃあなんであの可愛かった時期を百まで維持しようとしなかったの?」
「あんたが―――」
「はいはい、強くなれ言いました!」

ここまでくるともう開き直るしかなかった。

「いいよ、ヒナ食べるから」

そう言って、まず自分の分のすももをかじった。
すもものすっぱい味が口の中に広がる。

「…………雛子ちゃん」
「なに?」
「ごめんね……」

一口目をごくんと飲み込むヒナにそう一言謝る。

「謝るのはヒナの方」
「……え?」
「大好きな亞里亞ちゃんの嫌いなもの買ってきたヒナのせいだよ。……はむ……」

もう一口かじる。
今度は、なんとなくせつない感じのすっぱい味が口一杯に広がった。

「…………」

亞里亞ちゃんは、それっきりすももを食べるヒナを黙ってじっと見るだけだった。












「ふー……ひとつ目終わり」

すももを食べながら次に行くお店を探しながら歩いていると、次のお店を見つける前にひとつ目のすももを先に食べ終えちゃった。

「じゃ、亞里亞ちゃんの"彼氏"として、頼れる所見せましょうか」

少しおどけてそう言った。
実際、亞里亞ちゃんは帰ってきてからは完璧人間になっちゃったから、ヒナが亞里亞ちゃんのために何かすることってあまりない。
だからこういう瞬間がちょっと嬉しかったりする。

「雛子ちゃん……」
「ん?」

真剣な眼差しでヒナの方をじっと見る亞里亞ちゃん。
だからヒナ、ちょっとだけたじたじになっちゃった……。

「な、なに……? ……あっ!」

ヒナが聞くのと同時に、亞里亞ちゃんはヒナから強奪するようにすももを取った。
いや、元々亞里亞ちゃんの分だったから強奪されたわけじゃないのかな?

「あっ!!」

なんて考えてたら、今度はなんとヒナから強奪(?)したすももをかじったの。

「……すっぱ……」

顔をしかめながら静かに一言、本当にすっぱそうな顔をする。

「亞里亞……ちゃん?」
「……食べれなくは……ないのよ……。食べ物……だもん……」

ビックリして、ちょっと固まり気味のヒナに、亞里亞ちゃんは静かにそう言う。

「す…っぱ……」
「無理しなくていいよ……」
「ダメなの! あたし……強くなるって約束したんだから……」

もう一度「すっぱ……」っと呟いてから続けてこう言う。

「あたしが約束やぶったら……雛子ちゃんも約束守ってくれなくなる……」

そんなことない、って言おうと思った。
でも、亞里亞ちゃんが続けて、普段とは正反対にゆっくりとした話し方でもヒナが言う間を与えずに次の言葉を言った。

「何より…………雛子ちゃんがあたしに買ってきてくれたものだもの……」

本当にすっぱそうな顔で、だけど食べ続ける亞里亞ちゃん。
そんな亞里亞ちゃんに、ヒナはなんにも言えなくなっちゃった……。
そして、とうとうすももアメは棒だけになったのだった。

「……っぱぁ……」

最後にもう一言、そう呟く。
顔は……折角の美人が台無しのすっぱそうなしかめっ面。

「あー……すっぱかった……」
「亞里亞ちゃん……」
「何よ!」
「えらいえらい……」
「……!!?!」

ヒナは頑張った亞里亞ちゃんの頭に手を乗せて、なでなでしてあげた。
そう、昔みたいに……。

「ちょッ……ひなっ……ぅ……あ……ぉ……」

真っ赤になって言葉にならない声を上げる。
そんな仕草が、たまらなく可愛かった。












「はい、ごほうびv」

今度はクレープ屋さんの前まで来て、亞里亞ちゃんにチョコクレープを買って渡した。

「あんた……アタシの方が年上ってこと忘れてるんじゃないでしょうね……」

ヒナを睨みながら不服そうにそう言う。
亞里亞ちゃん、ふたりの時はいっつもヒナより強い立場に回るから……。
だから、たまにはヒナも亞里亞ちゃんより上の立ってみたいんだよね。
それに……

「忘れてないよ。でもさ……」
「……?」
「ヒナは亞里亞ちゃんを守る側だから。だから亞里亞ちゃんより強い立場じゃなきゃ、ね」

亞里亞ちゃんは前に言ってくれた。
ヒナは亞里亞ちゃんの"ナイト様"だって……。
だからヒナは亞里亞ちゃんを守って―――

「強いことと偉いことは違うことよ」

…………。

「って言うか寧ろ強いからこそ、あえて自分が従う立場じゃなきゃ。
 雛子ちゃんはナイト様 。で、あたしは綺麗なお姫様☆
 お姫様とナイトじゃ立場から見てお姫様の方が偉いの。分かる?
 だからナイトはお姫様に絶対服従。はい決定」

…………。



    『頑張りなさい…………あたしの素敵なナイト様……』



……あれは、そう言う意味も含んでいたのか?
だから"王子様"じゃなくて"ナイト様"!?

「どうしたの? 頭抱えて変な顔して」

甘〜いチョコクレープを、はむはむと食べながらお姫様が聞く。

「狡猾……」

ナイトは、ずる賢いお姫様に聞こえるか聞こえないかの声で一言そう漏らす。

「それは王女に対する反逆行為とみなしていいのかしらv」

……どうしてこう言うことはしっかり聞いてるかな……。






「すみませーん。クレープ、えっと……ブルーベリーと生クリームの、1つ下さい」

なんて会話をしてたら、大学生くらいでショートヘアの女の人がヒナ達を挟んでクレープ屋さんにそう言っていた。
なんとなく体格の良い人だったから、一瞬男の人かと思った。
あっちゃぁ……いくら並んでる人がいなくたって、クレープ屋の前で話し込んでるのはちょっとまずかったよね……。

「すみません、今どけます……って、あれ?」

よく見ると、その大学生の女の人はなんだか見覚えのある感じがする人だった。

「ん?」

大学生の女の人も、ヒナの「あれ?」に対して不思議に思ったのか、ヒナの方に顔を向ける
そこで大学生の顔がハッキリと見えた。

「ま、衛ちゃん!?」

なんと、その大学生はヒナの11人のお姉ちゃんのひとりの衛ちゃんだった。

「あれ、雛子ちゃんじゃない」

衛ちゃんの方もヒナに気づいたらしく、そんなことを言っていた。

「や、衛ちゃん、おひさー」
「亞里亞ちゃんも!?」

亞里亞ちゃんは亞里亞ちゃんで、普段(あっち状態)からはとても信じられないようなくだけた挨拶を交わしていた。












ヒナ達は、衛ちゃんがクレープ屋さんから注文したクレープを受け取ったあと、人が少なめのところに場所を移したの。
ちょうどクレープ屋さんの前だと失礼だと思ったばかりだしね。

「久しぶりだね」

クレープを買う前に買っていたらしい缶ジュースのふたを開けながら、衛ちゃんがそう言う。

「ホント、久しぶり」
「あたしに至っては帰ってきてから3回目ってところね」
「えっ、もっと会ってるよ」
「……? そうだったかしら?」

衛ちゃんは、ここから少し離れた場所にある体育大学に入学、今はその大学の近くで一人暮らししてる。
だからヒナ達とはあんまり会えない。
でも、代わりに療養所に入院している鞠絵ちゃんとはしょっちゅう会ってるらしい。
衛ちゃんが今住んでいる所は、鞠絵ちゃんの入院してる療養所の近くだからだ。

「どうして戻ってきたの? 夏休みだから里帰り?」
「うん、里帰り」

亞里亞ちゃんが質問して衛ちゃんがそう答えていた。
そして今度は衛ちゃんからのご質問。

「で、ふたりは?」
「デートv」

亞里亞ちゃんは、間髪入れずにそう答えてヒナの手に抱きついてきた。

「えぇ!? ちょ、ちょっとぉ……」
「ははっ……ふたりともホントに仲良いなぁ」

抱きつかれて、たじたじになるヒナを見て、衛ちゃんはのほほんと缶ジュースに口をつける。
ヒナは、恥ずかしかったからすぐに亞里亞ちゃんの手を思いっきり振りほどき……は、しなかったけど、
絡まされた腕をほどきながら、まるで話を逸らすかのように衛ちゃんに聞き返した。

「ま、衛ちゃんは?」
「そうだなぁ…………こっちもデート」

そうかぁ……衛ちゃんもデー……―――

「ええっ!!?」

ででででで、でーとぉ!?
ってことはつまり、衛ちゃんにも……

「何、可愛い彼女?」
「亞里亞ちゃん!!」

亞里亞ちゃんったら、ふざけてそんなこと言う。
……ヒナもそう思っちゃったけど……。
で、でもヒナは口に出して言っていないから……セーフ……だよね?

「亞里亞ちゃん……ホント性格変わったね……(汗)」

衛ちゃんの顔はなんか苦笑いしているようだった。
ああ、そう言えば衛ちゃん、変貌した亞里亞ちゃんとはあんまり会っていないから、きっと昔のイメージの方が強いんだ……。
亞里亞ちゃんが帰ってきたのは、衛ちゃんがひとり暮らしを始めてからだからなぁ……。

「違うよ」

衛ちゃんが一言そう答えた。

「ほら違うって」
「可愛いじゃなくて、優しくて綺麗な大人しいお姉さんタイプの人なんだよ」
「「え゛!?」」

亞里亞ちゃんと一緒にカエルみたいな声を出して驚いてた。
だだ、だって、その特徴だとどう考えても女の人だよね……。

「えっ、ウソ! マジで!! 昔っから"男らしい"とは思ってたけど、ホントに彼女作っちゃったの!?」
「亞里亞ちゃんッ!!」

……でも、ヒナもそう考えちゃった……。
だって衛ちゃん、いつも男の子みたいだったから……。

「亞里亞ちゃん…………亞里亞ちゃんって本当に亞里亞ちゃん?(汗)」
「何訳分かんない事ヌカしてるんですか、衛兄やv」
「兄や、って……(汗)」

衛ちゃん、辛い現実でも、受け入れなきゃいけない時があるんだよ……。
大体"ヌカす"って……やっぱり不良かヤクザ?
それより、そんなトコより"兄や"に反応する衛ちゃんって……きっと向こうでも男の子扱いされてるだろうなぁ……。

「で、どんな人なの!?」

つらい現実にブチ当たった衛ちゃんに対し、亞里亞ちゃんは興味津々だ。

「病弱で、小説を読んだり、絵を書くことが趣味の……ボクのあねぇだよ」
「「……へ?」」

また亞里亞ちゃんと同時に、今度は気の抜けた声を上げた。

「……それって、ひょっとして鞠絵ちゃん?」
「当たり」

なんだぁ……と、ちょっと気が抜けてしまった。
でも心の中では、療養所に入院中の鞠絵ちゃんがこっちに来ているってことに別の意味で驚いた。

「鞠絵ちゃんも来てたんだ」
「うん、結構長期の外泊許可をもらえたからね。だったらついでにみんなに会いに行こうってことで一緒に帰ってきたんだ」
「まったく、紛らわしい言い方ね 。あたしゃてっきり衛兄やに彼女でも出来たのかと思ったわよ」

……気のせいか、ついさっき似たような台詞を聞いた気がする。

「亞里亞ちゃんだって同じこと言ったじゃない 。お互い様だよ」

まぁ、衛ちゃんからみたら、さっきの「デート」と言う言葉はそう言う意味で受け取るんだろうけど……


でも、これは本当のデート……。

恋人同士のデート、なんだよ……v






「じゃあボク行くよ。あんまり待たせるのも悪いからね……っと」

そう言って空っぽになった缶をゴミ箱(当然ビン・缶の)に投げる。


    カンッ


外れる。

「あ……(汗)」
「衛ちゃん、昔っから球技苦手だったからねぇ……」

亞里亞ちゃんが腕を組んで、うんうんと頷きながらしみじみとそう言う。
でも今のって球技と関係あるのかな?
う〜ん…………ありそうな……なさそうな……。

「どうする? よかったら鞠絵ちゃんに会っていく?」

缶の所まで歩いて行って、拾って改めてゴミ箱に入れながら聞く。

衛ちゃんのお誘いに、ヒナは少し考えた。
でも、ヒナが考えてる途中で亞里亞ちゃんが先にこう答えちゃった。

「……遠慮しておく。折角、鞠絵ちゃんとふたりっきりのデートなんだからね」

ヒナも、鞠絵ちゃんとは今の衛ちゃんくらい会っていないので、正直鞠絵ちゃんとは会いたかった。
でも、鞠絵ちゃんには悪いけど、ヒナもお断りしちゃおうと思ってたのでヒナは亞里亞ちゃんの言葉を取り消さなかった。

「そう? 鞠絵ちゃん喜ぶと思うけど……」

衛ちゃんはちょっと残念そうにそう言う。
ゴメンね、衛ちゃん、鞠絵ちゃん……。
鞠絵ちゃんにはヒナも会いたいけど……でも、折角のバースデーデートだから……。

「しばらくはこの街にいるんでしょ? だったらまた今度にしとく」
「そう……」
「衛ちゃんのお家?」
「うん、そうだよ」

鞠絵ちゃんは特に帰る家がないから、誰かのお家にお泊りするしかないのだ。
それって、なんか寂しいなぁ……。
でも、そしたら退院した時どうするんだろう?

「じゃあね、ふたりとも」
「ごめんね、折角のお誘いなのに……」
「ううん、いいよ。ふたりのデート、邪魔するわけにも行かないからね」

お誘いを断ったことに謝るヒナの気を使ってくれたのか、衛ちゃんは笑ってそう言ってくれた。
ホント、ゴメンね……衛ちゃん、鞠絵ちゃん……。

「ふたりとも、ホント昔から仲良かったからね……」
「羨ましいでしょv」

そう言ってまたヒナの腕に抱きつく。

「もうっ! 亞里亞ちゃんったら!」
「いいじゃないのv」

限られた本性を曝け出せる相手だからなのか、結構大胆に行動する亞里亞ちゃん。
恥ずかしがってるヒナの都合なんて構ってもくれないで"らぶらぶっぷり"を披露してくれちゃってた。

そんな様子を見て衛ちゃんがポツリと呟いたのが聞こえた。

「かもね……」

……って。
そしてそのままヒナに背中を向けて歩いていってしまった。

え、衛ちゃん……それってどう言う……

「あ、雛子ちゃん」

遠ざかる衛ちゃんの背中が急に足を止めて、何かを思い出したように、振り返ってそんな声を上げた。
突然の呼び掛けに、驚いてたヒナは、それでヒナの中でのちょっとした疑問を打ち消されてた。

「何?」

代わりにどうして呼ばれたかを聞く。
そこで衛ちゃんは一言。

「お誕生日、おめでとう」












「ねぇ、亞里亞ちゃん」

今度こそ去っていく衛ちゃんの背中を見送りながら、ヒナは隣に居る人物の名前を呼んだ。

「何?」
「さっきのあれ……ちょっとまずかったんじゃない?」
「あれ?」
「『えっ、ウソ! マジで!! 昔っから"男らしい"とは思ってたけど、ホントに彼女作っちゃったの!?』のこと」
「何で?」
「衛ちゃん、ヒナたちのお姉ちゃんだったから良かったけど……」
「何言ってんのよ、あたし達の"兄や"じゃなかったら、あたしだって猫被ってるわよ」

まぁ、もっともな意見だ。

「って言うか、衛ちゃんは女の子だよ……。兄や、って……(汗)」

……でも正直言って、衛ちゃん、大学生になってからますますたくましくなって、より一層男の子っぽくなってるとは思うけど……。

「そんなこと知ってるわよ! 冗談に決まってるでしょ。
 でも正直言って、衛ちゃん、大学生になってからますますたくましくなって、より一層男の子っぽくなってるとは思わない?」
「……ジャストミートでそう思ってた」

……前にヒナのことならなんとなく分かるって言ってたけど……これは当たり過ぎ……。
偶然……だよね。

「あたし、あれ喜んでるつもりだったんだけど 。あたし達の仲間がいる、ってね」
「ヒナにはからかってるようにしか見えなかった」
「そうなの?」
「亞里亞ちゃんの口が悪いからそう思った 。亞里亞ちゃん、ホント口悪くなったよね」
「あたし、雛子ちゃんのそう言う正直な所大好きよv」

そんなことを言う亞里亞ちゃんの顔を、ふと見てみると、表情はいつもと変わっていなかった。

「ヒナは、口の悪い亞里亞ちゃんは嫌いだよ」
「ほんと雛子ちゃんは正直ね。あたし、雛子ちゃんに対する愛情で溢れちゃいそう」

言葉の内容とは裏腹に、表情はいつも通りで、口調は軽く、しれっとしていたものだった。

「……でも……口の悪くない亞里亞ちゃんは……―――……だから……」

顔を逸らしてから、大切な部分をぼかして、聞き取れないような小さな声で言った。
だって……改めてヒナの口から言うのも、亞里亞ちゃんに聞かれるのも、すっごく恥ずかしかったから……。

そしたら亞里亞ちゃん、ヒナの手を握ってきて、

「……あたしは……無条件で雛子ちゃんのことが好きよ……」

……多分、今の返事。

……どうしてこう言うことはきちんと聞いているんだろう……。

真っ赤になる顔を亞里亞ちゃんから背けながら、
握られた手から伝わる亞里亞ちゃんの暖かさと柔らかさを感じながらそう思ってた。
























    ピューーー…………ドーーーンッ


夜空には、大きな音の後に綺麗な色とりどりの大きな花が咲いていた。

「綺麗……」

思わずそんな言葉がヒナの口からこぼれた。
衛ちゃんも、そして鞠絵ちゃんも、この大きな花を見ているんだろうな……。
そして、きっとヒナと同じように綺麗だと思ってる。
そして亞里亞ちゃんの口からも……

「邪魔クサイ……」

…………。

「亞里亞ちゃん……」
「こんなに人がいたんじゃ折角の花火が台無し」
「ワガママ言わないの……」
「いーじゃない! 普段、一切ワガママも言わずに猫被ってるあたしの身にもなってよ!!」
「そこで猫被ってるってハッキリ言うのは、ちょっと……」
「結構ストレス溜まんのよ! だから……」
「あー、分かった分かった……」

……って言うか今日はヒナの誕生日でしょ。
何でヒナが遠慮してるわけ?

「でも仕方ないよ、お祭りだもん」

お祭りとは人が賑うのが当たり前。
人の賑わない祭りは寂しいでしょうし、そんな祭りはまずないだろうと思った。

「あのねぇ、仕方がないって物事をそのままにしておくのはダメな人間のすることよ!!
 その状況に満足してないのなら努力してでも状況を改善しようと思わなきゃ!!
 そこンとこ分かってるの!?」

言ってることは正しいかもしれないけどこの状況ではただのワガママだろうなぁ……。

「もっと人が居ないような穴場とか知らないの!? 花火、始まったばかりだしそこに行きましょう! はい決定!」
「穴場……ねぇ……」












「はい、穴場」
「ってすぐに穴場に連れてくる雛子ちゃんは何者よ!?」

ヒナは、亞里亞ちゃんを連れて人気のない小さな丘のような所にやって来た。

「あたし、正直、無理難題言ったと思ってたんだけど……」
「そう思うならまず聞かないでよ。……まぁ、今回は良かったけど……」

亞里亞ちゃんが穴場に連れてけって言ってくれたお陰で、前々からあらかじめ調べておいた穴場のことを思い出したからね。

「ホント、誰も居ないわね……よく知ってたわね、こんな場所」
「うん、三葉ちゃんに聞いたの」
「え、四葉ちゃん?」
「違う、三葉ちゃん 。ヒナのクラスメート。
 なんでも調べてて、色々知ってるクラスの情報屋さん。凄い情報網なんだよ」

ヒナは今日のデートのために、夏休みが始まる前から三葉ちゃんに花火のよく見える穴場を聞いておいたのだ。
……その代価として、その日のお弁当のおかずのエビフライを支払ったけど……。

「四葉ちゃんみたいな子ね……。名前も名前だし……」
「う〜ん……ヒナもそう思う 。"高校生版四葉ちゃん"って思えば良いと思うよ」

どうでもいいけど"高校生版四葉ちゃん"って言葉に、何か違和感を感じたのは気のせいだろうか?

「いっつもチェキチェキ言ってるとか?」
「それはない」
「でも、情報は覚えていたのに、肝心の誕生日デートの日にちを忘れてる……」
「それを言わないで!」

ああ、ヒナはこれからそのことでねちねち攻められるのか?

いい思い出どころか心に傷をつくりそう……。


    ドーーーーンッ


「あ、花火」

ヒナが落ち込みそうになっていることを余所に、空ではさっきから咲き続けている光の花をまたも映し出していた。

「綺麗……」
「ほんとね……」


    ドーーーーンッ


「……『……亞里亞ちゃんの方が綺麗だよ』は?」
「そう言うことは自分で催促するようなことじゃない……!」

そんな他愛ない(?)会話を、ぽつりぽつりと囁き合いながら、ヒナ達以外は誰もいない小さな丘で、ふたり揃って空を眺めてた。
ヒナ経ちの視線の先に写っている空には、どーん、どーん、って何度も何度も大きな花が咲いていた。
そのうち、お互い花火を見る方に集中して何も話さなくなったけど……そのくらい、空に咲く大輪は綺麗だった……。







    ドーーンッ……ドーーンッ……


「ねぇ……雛子ちゃん……」

何十分か経ってから、亞里亞ちゃんの口から再び言葉が出てきた。

「何?」
「どうだった? 今日は……」

今までのおふざけな亞里亞ちゃんとは打って変わって、真剣な表情でヒナに聞く。

「ん〜……なんかいつも通りだった」
「ほんと正直な雛子ちゃんってダイスキ」

正直に答えると、再びしれっとした口調でそう言う。

「雛子ちゃん……」






「お誕生日……おめでとう」







 夜空に大きな花が、また輝き咲いた。
 そして……重なるふたつの影を照らして……
 ぱらぱらと、そんな音を出しながら消えていくのを目の端で見ていた……。

 ヒナの……その唇に触れる柔らかい何かを感じながら……。












「…………」

言葉が出なかった。
でも時間と共に、"何か"が何なのかを確信していく

「あ………り……」

だんだん顔が熱くなっていく……。
さっき亞里亞ちゃんに好きって言われた時以上に……。

「どうだった?」
「ああああ亞里亞っちゃん!?!?」

……思わず、変なあだ名で呼んでしまった。

「い、今の……」
「あたしの……ファーストキスよ……」

ほんのりと頬を赤く染める亞里亞ちゃん。
じゃ、じゃあ……やっぱり今のって……。

「ででででででででも……まだ早いって…………もも、もう少し大人になったらって……」
「もう、"もう少し"大人になったでしょ? 16才」
「もう少し過ぎない!?」
「16ったら立派なレディよ 。だって結婚できるもん」

そう言われればそんな気がしてきた……かも。

「あたしね、ずっ〜と、雛子ちゃんの誕生日に雛子ちゃんファーストキスを捧げるって決めてたの 。フランスに居たときからね」
「え?」
「その方が……特別な日だから……深く、思い出をプレゼントできると思ったの……。
 あたしの大好きな雛子ちゃんが産まれた……特別な日だから……。
 それにファーストキスったら人生でベスト3に入るくらい思い出になるくらいの出来事じゃない。
 だから……そんな、特になんともない日にしたくはなかったのよね……」
「それで……あの時……」
「言ったでしょ 。思い出をプレゼントするって」

亞里亞ちゃんはそんなことまできちんと考えていたんだ……。

「もう一度聞くわ。どうだった? 今年の……16回目の誕生日は?」
「そんなの……」

こんなことになったんだから……最高の誕生日プレゼントを貰っちゃったんだから……答えは決まっている。

「……最高の思い出になる誕生日だよっ」

ヒナがそう言い終わるのと同時に、最後にもう一度……夜空に今までで一番大きな花が咲いていた……。


その大きな花の光に照らされて、ハッキリと見えるようになった亞里亞ちゃんの顔の方が……
亞里亞ちゃんの今の"本当の笑顔"の方が本当に綺麗に輝いている。
ヒナにはそう思えてならなかった。

そんな亞里亞ちゃんを見て……


ヒナは"今の亞里亞ちゃん"のことが本当に好きなんだって、改めて分かったの……。
 


あとがき

ぶっちゃけ勝手に「引き受けます」言って引き受けた八幡さんのリクエスト。
『ひなあり高校生版』と言われたので、「書くのをやめた『小さな約束』の続編でいいですか?」と聞いたら、
「それで良い」と言われたのでこの機会に続編を製作。
最初の方に今までのおさらい的な文章を入れましたけど、もしかして要らなかったんでしょうか?(汗)
正直、『小さな約束』の続編は、続編案はあったけど普通に書く気はなかったので、
『性格反転高校生番亞里亞』が好きな人にはちょうどいいリクエストだったと言えますね。
でも、かなり間を開けて作ったのでキャラが違ってるかもしれません(滝汗)
本来、この話は雛子のBDSSに書こうとしていたんです。
だから時期外れにも雛子誕生日ネタ。
なんだか3ヶ月以上遅れて、雛子のBDSSの雪辱戦っぽくなりました。
で、やめてた理由は、まず話が長くなると思ったことと、その時ホームページ作りに時間を使いまくってたこと。
なので時間と気力の都合でボツにしたんです。
思ったとおり、話は長くなりました(苦笑)
本来はこれの4分の1くらいを作りたいのに……。
分かる人には分かると思いますけど、シスプリ2の亞里亞攻略時に得た知識を早速使いまくっています(笑)
それと、リクエスト時にサブカプの希望も聞いておいたので、ご希望通りまずはまりまも要素を入れてみました。
最後に…………三葉以外のオリキャラたちの名前については何も言わないでください……。(←目を逸らして)
"あまりオリキャラは出したくない派"なので、オリキャラについて深く考えたくなかったんです……。
そしたらいつの間にか遊び心に摩り替って……本当にごめんなさい……。


更新履歴

H15・11/26:完成
H16・10/20:修正


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