『白雪ちゃん、お願いがあります』
ある日、春歌ちゃんが真剣な声で姫に電話をかけてきました。
姫ができることと言えばお料理くらい。
だから姫にお願いがあるなら、それは"お料理を作って欲しい"か"お料理を教えて"だと思うんですの。
でも、春歌ちゃんは姫に負けないくらいお料理がお上手。
だからわざわざ姫にお願いするようなことはないはずですのに・・・一体何の用で・・・?
『ワタクシに、お料理を教えてください』
・・・・・・。
・・・完全に予想外の答えでしたの・・・。
ケーキ作りの恋愛相談
「さぁ、材料は揃いましたの」
お買い物を済ませ、キッチンにあるテーブルの上に材料を並べ終えると姫が言いました。
「じゃあはじめましょう、春歌ちゃん」
「はい、宜しくお願いします」
春歌ちゃんに姫のエプロンを差し出して、ふたり揃ってお料理の準備をはじめました。
「でも姫、正直驚いたんですのよ」
キッチンの流し台で手を洗いながら、姫は春歌ちゃんに言いました。
「何がでしょうか?」
「春歌ちゃんが姫にお願いをするなんてこと、ですの」
春歌ちゃんは何でもできるんですの。
薙刀、弓、お裁縫、お茶に生け花、そして舞、とたくさんの習い事に通って、それら全てが一流と言っては過言ではない腕だと姫は思いますの。
そしてそれはお料理にも言えること。
「春歌ちゃんもお料理がお上手ですから・・・だから姫にお料理を教えて欲しいなんて言うはずないと思ってましたの」
だから春歌ちゃんが姫にお願いだなんて、するはずないと思っていましたの。
「確かにワタクシも料理はできますけど・・・でもそれは大和撫子を目指すためのもの。 ケーキは関係ありませんから・・・」
そうなのですの、春歌ちゃんのお願いとは、姫にケーキの作り方を教えて欲しいと言うことだったんですの。
「和食はとにかく・・・洋食はほとんど作ったことがありませんから・・・」
春歌ちゃんは確かにお料理がお上手ですけど・・・それは大和撫子を目指すためのもの、つまり"和食"に関してなんですの。
姫も春歌ちゃんが洋食を作ったところは見たことないですの。
・・・でも、お味噌汁にソーセージは果たして和食なんでしょうか?
「分からないことは、専門家に聞くのが一番ですからね」
春歌ちゃんは、姫にニコッと微笑みながらそう言いましたの。
「春歌ちゃんにもできないことがあったんですのね」
「そんな・・・ワタクシを過大評価し過ぎです・・・。 ワタクシもただの人間なのですから」
それでも姫は春歌ちゃんを尊敬しました。
ほとんどの人はそう言う弱みを見せたがらないものですから・・・。
それを認めて、そして他の人の意見を受け入れる。
きっと、それが上達するコツなんでしょうね・・・。
「でも、その大和撫子を目指している春歌ちゃんが、どうしてケーキを作ろうなんて思ったんですの?」
しっかりと手を洗い終えた後、ふたりで材料を並べている時、姫は春歌ちゃんにそう質問しました。
「ワタクシは・・・日々、守るための力を手に入れるため、お稽古に励んでいました・・・」
姫の質問に、春歌ちゃんはゆっくりとその口を開きましたの。
「大切な人を守りたい・・・ワタクシの手で・・・ワタクシが大切に想う方を守り通したい・・・。
いつも、そう想ってお稽古に励んでいました・・・」
それは、春歌ちゃんの頑張っていた理由でした。
「最近・・・その守るべき者が見つかったんです」
ふと春歌ちゃんの顔を見ると、春歌ちゃんの顔は赤く染まっていました。
「心の底から守りたい、ワタクシの手で守り通して行きたい・・・そう思える相手に出会えたんです・・・。
それこそ・・・一生をかけて・・・」
「・・・もしかして・・・春歌ちゃんは・・・その人のことを・・・」
姫がそう言うと、春歌ちゃんは赤い顔のまま俯いて黙ってしまったんですの。
だから姫はそれ以上聞きませんでした。
春歌ちゃんは・・・その人のことを好きになった・・・。
そうに違いないと・・・姫には分かりました。
春歌ちゃんは少しの間黙った後、顔を再び上げて話を再会しました。
「それで、その方がもうすぐ誕生日を迎えるんです。 ・・・でも、その方・・・和食よりも洋食の方が好みのようで・・・」
「ああ、だからケーキを」
「はい」
好きな人の好みに合わせてお料理をする。
それは姫もお料理を作る上でよくしていることですの。
春歌ちゃんと同じ・・・好きになった人に対して・・・。
「さぁ、スポンジが焼き上がるまでにクリームを作っちゃいましょう」
スポンジ生地をふたつオーブンに入れ、スイッチを入れてから姫がそう言いました。
生地がふたつあるのは、片方は姫が見本に作るためのもの、もう片方は春歌ちゃんが姫から作り方を聞きながら作るためのものとして。
ふたり並んで黙ってクリームを混ぜていると、その静かな空間には、かしゃかしゃとクリームを混ぜる音だけが響いてましたの。
「白雪ちゃん・・・例えば・・・・・・例えばですよ・・・」
その静かな空間で、不意に春歌ちゃんがそう姫に話し始めました。
「自分の想いが・・・どんなに頑張っても、決して報われないものだったとしたら・・・」
「え?」
その声は静かだったけど・・・でも、とても真剣で、悲しそうな声でしたの。
「その想いが報われることが、在り得ないこととしたら・・・」
「それは・・・どう言う・・・?」
「自分の立場上・・・その想いを抱いてはいけない相手・・・」
真剣な顔でそう言う春歌ちゃん。
そんな春歌ちゃんに姫はこう聞き返しました。
「つまり・・・・・・身分の差・・・相手に既に好きな人がいる・・・とか・・・、」
そこで一旦言葉を句切り、囁くような声で続けました。
「・・・もしくは・・・同性・・・」
最後の言葉が春歌ちゃんに聞こえたかどうかは分かりませんが、春歌ちゃんは静かにはい、と頷きました。
「もし・・・そう言う相手だとすれば・・・」
悲しそうな顔でそう言葉を紡ぐ春歌ちゃん。
そんな春歌ちゃんを見て、姫は理解しました。
春歌ちゃんは、そう言う相手を好きになってしまった・・・と。
姫と同じ・・・好きになっちゃいけない相手を・・・。
今度は姫が静かに話しはじめました。
「姫は・・・それでもお料理を作り続けます・・・」
好きだから・・・
「自分の手で幸せにしたい・・・そう言う気持ちもありますけど・・・」
その笑顔が見たいから・・・
「でも、その人が一番幸せなのは・・・その人がもっとも好きになった相手と結ばれた時・・・」
自分はその相手に選ばれることはないから・・・
「そう思うから・・・姫は・・・影でいいから、その人を支えて行きたい・・・そう思ってますの」
だから姫は・・・心からそう思う・・・。
「姫は、春歌ちゃんのように何でもできる訳じゃないですから」
春歌ちゃんと違って姫にはお料理しかないですの。
「だから春歌ちゃんとは別の形で尽くしていきたい、そう思ってますの」
でも、それだけでも・・・尽くしていけると姫は信じているから。
「・・・白雪ちゃんにも・・・既に好きな方がいるんですね」
姫は静かにはい、と頷きましたの。
「どのような殿方なんでしょうね?」
姫はその質問をまるで聞こえなかったように何の反応も示しませんでした。
だって・・・相手は"殿方"では・・・ないんですから・・・。
「白雪ちゃん、どうもありがとうございました」
「別にいいんですの」
玄関でケーキの入った箱をもって春歌ちゃんはそう言いました。
姫たちは既にケーキをひとつずつ作り終え、今は春歌ちゃんをお見送りしているところですの。
でも春歌ちゃんの持ってる箱に入ってるケーキは姫の作ったものですの。
春歌ちゃんの作ったケーキはできてから早速ふたりで食べて、その出来をふたりで話し合いましたの。
だって、今日作ったのは練習用のケーキですから。
帰る途中、雛子ちゃんのお家があるので春歌ちゃんに持っていってもらうことにしたんですの。
あんまり食べ過ぎると太っちゃいますから姫の作った分は雛子ちゃんへ、と言うことで・・・。
春歌ちゃんは今日の反省も生かし、本番は本なども参考にしてひとりでもっと大きいものを作るといっていました。
「それではワタクシはこの辺で・・・」
「あ・・・春歌ちゃん」
玄関で頭を下げ、そのまま帰ろうとする春歌ちゃんを姫は引き止めました。
「もし良かったらですけど・・・これからも姫が洋食の作り方を教えてあげますの」
「え?」
春歌ちゃんが一瞬何を言われたのか理解できなかったらしくキョトンとした顔をしていましたの。
数秒かかって春歌ちゃんが驚いたようにこう言いました。
「よ、宜しいんですか?」
「はいですのv」
笑顔で返した返事に、俯きながら呟くように付け足して、
「だって・・・姫も春歌ちゃんの気持ちは・・・痛いほど分かりますから・・・」
「・・・え?」
春歌ちゃんは驚いたような顔をしてそう声を漏らしていました。
「まさか・・・白雪ちゃんも・・・?」
姫も・・・春歌ちゃんと同じ好きになっちゃいけない相手を好きになったんですの・・・。
しかもそれは・・・自分の妹・・・。
亞里亞ちゃんのこと・・・なんですから・・・。
姫は、自分の言葉とそんな考えでつい気が重くなり、肩を落として下を向いてしまったんですの。
「白雪ちゃん・・・」
しばらくして、春歌ちゃんは優しく語りはじめました。
「白雪ちゃんは先程、ワタクシとは別の形で尽くしていきたい・・・そう言いましたよね?」
「・・・え、ええ」
「ワタクシには・・・白雪ちゃんの方がワタクシなんかよりも数段尽くしていけると思います」
「え!?」
姫が・・・春歌ちゃんよりも・・・?
「白雪ちゃんには料理を通して愛情を伝えると言うことができるんです・・・。 そしてそこまでの愛情を料理に注げるのは白雪ちゃんにしかできません・・・」
「そんなことは・・・」
「あるんですよ」
春歌ちゃんは、自分の言葉を否定しようとする姫の言葉を優しく否定しました。
「白雪ちゃんはワタクシは何でもできるとも言いましたね? でも、それはワタクシには到底できないこと・・・それを白雪ちゃんはできるんです」
「・・・・・・」
「だから、自信を持ってください。 白雪ちゃんの想いは・・・きっと届きます・・・」
「ありがとうですの・・・春歌ちゃん」
春歌ちゃんは相手が誰かなんて知らないからそう言えるんですの・・・。
叶うなんて期待は持っていないけど・・・
「ありがとう・・・春歌ちゃん」
でも・・・届けるくらいなら・・・できる・・・。
「いいえ、これでおあいこですから」
春歌ちゃんの言葉でそう思えるようになりましたの・・・。
ありがとうですの・・・春歌ちゃん。
「ところで、春歌ちゃんの守りたい人のお誕生日はいつですの?」
姫は笑顔を作って春歌ちゃんにそう聞きました。
「はい、11月の2日です」
「あら、偶然ですの。 姫の好きになった方も同じ日ですのよ」
「そうなんですか? それは偶然ですね・・・」
でも同じ人のはずはないですの・・・。
だって、亞里亞ちゃんは春歌ちゃんにとっても妹。
だから恋の対象になるはずなんてないですの。
だけど・・・姫には恋の対象になっちゃいましたけどね・・・。
「じゃあ春歌ちゃん、頑張って、ですのv」
「はい。 白雪ちゃんも、頑張ってくださいね」
「はいですの」
姫は応援してます。
春歌ちゃんの相手が誰かは分からないけど・・・
姫とは違い、相手が異性なだけ春歌ちゃんにはまだ望みがあるはずですの。
そして、その人が春歌ちゃんを愛してくれるかもしれないから・・・。
だから・・・応援してますの。
春歌ちゃん・・・好きになったらいけない相手を好きになったもの同士、頑張りましょう・・・。
そして、とうとう姫の大好きな亞里亞ちゃんのお誕生日が来ましたの。
姫は、心を込めたケーキを持って亞里亞ちゃんのお家へ向かいました。
亞里亞ちゃんの住んでいる、大きなお屋敷の入り口に着くと、
「「・・・・・・」」
・・・そこで春歌ちゃんに会いました・・・。
「何で春歌ちゃんがここに・・・?」「なぜ白雪ちゃんがここへ・・・?」
同時に相手に聞きました。
春歌ちゃんの手にはケーキらしき箱がありました。
恐らく姫が作り方を教えたケーキ。
「守りたい人のところへ行ったんじゃ・・・」「料理を通して愛情を伝えたい人のところへ・・・」
また同時に相手に聞きましたの。
何で春歌ちゃんがここへ・・・?
「「まさか・・・」」
春歌ちゃんも亞里亞ちゃん狙いッッ!?!?
「ななな何考えてるんですの春歌ちゃんはッ!?」「ななな何を考えているんですかアナタはッ!?」
またまた同時に相手に聞きましたの。
な、なんてことですの!
春歌ちゃんの"好きになっちゃいけない相手"もまさか亞里亞ちゃんだったなんてっ!
「白雪ちゃん! 事もあろうに、亞里亞ちゃんに・・・自分の妹に欲情するなんてっ!!」
「欲・・・っ!? そそ、そう言うわけではないですのっ!」
「ヘンタイ、この同性愛者!」
「うぅ・・・・・・って言うか自分はどうなんですの!?」
「わわわわわワタクシの場合は亞里亞ちゃんをただ守り通したいだけですわ!」
「結局、姫と同じですの!」
「ちち、違いますッ! ワタクシは亞里亞ちゃんを守りたいだけです!
寝る時も、お風呂の時も・・・と、トイレにも・・・・・・ポポポッvv」
「鼻息荒くして何想像してるんですのっ!?
そっちこそヘンタイですの! しかもちょっと○葉ちゃん入ってるですの!」
「な!? わ、ワタクシをあのストー○ーと一緒にしないでくださいっ!!」
「この妄想ヘンタイ大和撫子!」
「妄想癖のことはアナタにとやかく言われたくありませんわ!!」
姫は応援しません。
春歌ちゃんの相手が亞里亞ちゃんだったなんて・・・
姫と同じ、同性で血の繋がりのある相手を愛してしまっただなんて・・・。
・・・って言うか姫と同じ人を好きになったなんて・・・。
だから・・・応援しません。
春歌ちゃん・・・姫が亞里亞ちゃんを幸せにするから、頑張らないで・・・(怒)
「静かにしてください、お二人とも」
「「じいやさん・・・!?」」
入り口で騒いでいた姫たちをいつの間にかお屋敷の中からやって来たじいやさんがとがめました。
姫たちの手を見回すと、亞里亞ちゃんのお誕生日のお祝いに来たのを理解したのか、こう言いました。
「おふたりとも、残念ですが亞里亞さまは今はお留守ですよ」
「「えっ!?」」
亞里亞ちゃんが留守!?
「ですから、お引取りください」
「そ、そんな・・・」
そ、そうですの・・・亞里亞ちゃんはこぉんなに広い豪邸に住んでるんですの。
だから、きっと今頃は豪華なパーティーを開いてもらってて・・・。
「じゃあワタクシの努力は・・・」
横で地面に手をついて愕然とする春歌ちゃん。
そして姫も同様に地面に手をついて、言葉も出せなくなるのでした。
ふたりで滝のように涙を流し、気持ち良く晴れた日に、ふたりで亞里亞ちゃんのお屋敷の前に溢れ出る哀しみで水溜りを作るのでした・・・。
ただ・・・愕然とする中、姫は・・・そして春歌ちゃんも気づいていませんでした・・・。
なぜ、じいやさんがお屋敷にいたのかと言うことを、
「さぁ、亞里亞さまぁv ふたりっきりのバースデーを楽しみましょ〜っvv」
ライバルが、もうひとり居たと言うことを・・・。
あとがき
誕生日の当人より相手の方が幸せになるなりゅーのひねくれBDSS亞里亞編。
今回とうとう誕生日の当人が出ないという事態をやらかしました!
亞里亞全く無関係っ!!
“亞里亞の誕生日ネタ”って言うだけです!!
ここまでひねくれて・・・でも、そのひねくれ具合とは正反対に内容は単純なものに思えて仕方ありません・・・(汗)
ぶっちゃけ話の展開読めてたでしょう?(鬱)
まぁ、話の展開が読めてても、それでも面白いモノは存在するとなりゅーは考えています。
が、これは違うでしょうね(←既に開き直り)
作者であるなりゅーが断言します、この話は“しらあり”と言うより“はるしら”です(断言)
最後に、兄○ャマの方々ごめんなさい・・・。(←バレてない可能性があるから伏字)(←100%無理)
更新履歴
H15・11/2:完成
H15・11/6:誤字脱字修正
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