地震が来た。



 その時、アタシは眠っていた。

 いや、アタシ以外も眠っていただろう。
 地震は朝早くに襲ってきたから。

 突然の揺れで起こされたアタシは、最初は強風が吹いているのかとも思った。
 風がこの家を揺らしている、と。


 ―――地震だ。


 そう分かった時、アタシはそんなに驚いたりはしなかった。

 そんなに長くは続かないだろう、
 そのうち治まるだろう、
 そう楽観的に考えてた。

 でも、アタシの想いとは裏腹に揺れは長く続き、
 だんだんと大きく揺れるようになって、
 それに比例してアタシの不安もだんだん膨らんでいった。



 もっと強く揺れたら



 部屋のものが倒れてきたら



 長く続く地震に、アタシの心はじわじわと恐怖に染まっていった。



 ―――お願い……早くおさまって……。












 

地震が来た朝














 揺れが小さくなっていった。

「おさまった……?」

 揺れが治まってホッと一息吐く。
 まだ心臓はドキドキいってた。

「……震度……どのくらいだったんだろう……?」

 地震のことが気になった。
 タンスとか本棚とかは倒れなかったけど……揺れはかなり大きかった。

「鞠絵ちゃん……大丈夫だったのかな……?」

 そう口から漏らしてテレビをつけた。


















 アタシは驚愕した。

 テレビは、地震について緊急の番組が放送されていた。
 ごく一部の小さな地震かと思ってた。
 でも、地震は広範囲のもので、アタシの住んでいる所はそんなに揺れの大きくない地域だった。

「鞠絵……ちゃん……」

 そして地震は……鞠絵ちゃんの療養所に、アタシのいる所よりも大きな揺れで襲っていた……。

「鞠絵ちゃんは……大丈夫なの……?」

 不安になって療養所に電話をかけた。
 こんな朝早く電話をすることに多少気が咎めたけど、それよりも鞠絵ちゃんの身の安全を一刻も早く知りたかった。

 だけど……

「……ウソ……」

 連絡が……取れない……?

「療養所は……どうなったの……?」

 療養所にはもっと大きな揺れが来ていたはず……。
 だったら、色々なものが倒れてきたかもしれない……。
 ……ううん、療養所自体が……倒れでもしていたら……。

「…………」


 ―――もしこれが前震だったら……。


 不意にそんな不安が頭を過ぎった。
 この後、もっと大きな本震が来たら……

 鞠絵ちゃんのいる療養所は……


 鞠絵ちゃんは……


















「これでよし……」

 最低限の外出の準備だけ済ませた。
 とにかく鞠絵ちゃんの無事を確かめたかった。

「鞠絵ちゃん……アタシ、今行くから!」

 そう意気込んで玄関のドアを開けた。

「どこに……ですか?」

 開けたドアの向こう側にいた人物にそう問われた。

「…………」

 突然のことにどうすればいいのか分からず言葉を失う。

「……鈴凛ちゃん?」

「なん、で……?」

 ポカンとその場に立っている人物に尋ねる。

「あの……鈴凛ちゃんにどうしても会いたくて…………来ちゃいました」

 ニッコリと笑って、鞠絵ちゃんはそう答えてくれた。






「何考えて……っ!?」

 療養所を抜け出したりなんかして病気が悪化でもしたら、
 折角良くなってきているのにこれが理由で病状がまたひどくなったら、
 そう言う意味を込めて強めの口調で鞠絵ちゃんに言った。

「すみません……」

 そんなアタシに対して伏し目がちになる鞠絵ちゃん。

「でも……どうしても会いたかったんです…………最近、会えなかったから……」

「でも、抜け出すなんて…………っ!」

 そこまで言って突然アタシは鞠絵ちゃんを抱きしめた。

「り、鈴凛ちゃん……?」

「良かった……ホント……無事で良かった……」

 強く、強く……ぎゅっと抱きしめる。
 今この場所にいる鞠絵ちゃんの存在を確認するように……。

「療養所……もっと大きな地震が来たって……テレビで見て…………電話かけても……通じなくて……」

「そう……なんですか……?」

「心配したんだから……ホント……心配したんだからぁ……」

「すみません……」

「何で鞠絵ちゃんが謝るのよ。悪いのは地震……いや、抜け出したから鞠絵ちゃんも……」


 もう自分が何を言いたいのかよく分からなくなってた。


 心配する気持ち、
 地震に対する恐怖、
 鞠絵ちゃんに会えた喜び、
 鞠絵ちゃんの無事をいち早く知ることができた安心感、
 そう言うのが一気に来て頭の中でグシャグシャに混ざったから。

 でも……、

「もうどうでもいいや……」


 アタシには、


「鞠絵ちゃんが無事だったんだから……」


 その事実だけで十分だった……。












 このあと、アタシは療養所に時間を置いてから再び連絡を入れた。
 一応書き置きは残したみたいだけど、地震でその書き置きがどっか行ってたら突然鞠絵ちゃんが行方不明になって、みんなで心配するに決まってるから。

 どうやら電話の不通は一時的なものだったらしく今度は通じた。
 そこできちんと鞠絵ちゃんの無事を報告、その後、お医者さんに言われて鞠絵ちゃんと電話を代わった。
 鞠絵ちゃんはこっぴどく怒られたみたいだったけど……でも、お医者さんがそのまま外出許可を出してくれたって喜んでアタシに教えてくれた。

 アタシはその日、朝の騒動とは正反対に鞠絵ちゃんと夕方までゆっくりと楽しい時間を過ごしたのでした。









あとがき

なりゅーが実際に地震に襲われた時(03年9月26日)、地震についての話を考えてみたらできた話を完成させたものがこの話。
実際、地震が来た日にミニSSとして書こうかとか思ったんですけど、
なんだかそれは、もっと重大な被害を受けた地方の方々に対して失礼な気がしたもので、一旦ボツにしたんです。
しかし、なりゅーがやったドジの所為で、まりりんSSを予定していたものよりも1本多く、
しかも1日で作らなくてはならなくなったため、短めのこの話を完成させてみました。
実際短いので1日で完成させられました。
よかったよかった。
…………ひょっとして出来はよくない?(汗)


更新履歴

H15・10/23:完成
H16・12/21:大幅修正


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